は じ め に
筆者は平成 24 年 11 月に開催された第 22 回日本呼吸
ケア・リハビリテーション学会において,第一回奨励賞
を受賞した.受賞テーマは「特発性肺線維症における呼
吸困難感,運動耐容能,QOL を含む多面的評価の重要
性」であるが,応募に際して提出した当該業績 1 編と関
連業績 2 編について概説し,受賞報告としたい.
modified MRC スコアは IPF 患者の
予後を予測する
1)modified MRC
で評価した日常の呼吸困難感が特発性
肺線維症(IPF)患者の予後を予測するかどうかを検討
するために,2000 年 4 月から 2005 年 7 月の間に公立陶
生病院において診断し評価を受けた特発性肺線維症
(IPF)患者を対象に retrospective にデータを解析した.
IPF
の診断は 2000 年の ATS/ERS の基準
2)に基づき行
い,診断および評価時に慢性閉塞性肺疾患,自己免疫性
疾患,活動性のある心血管疾患などの合併症を有する症
例は除外した.適格症例は 93 例で,18 例(19.4%)が
外科的肺生検によって診断されていたが,残りの 75 例
(80.6%)は HRCT による診断であった.93 例の内訳は,
男性 81 名,女性 12 例,FVC 2.37±0.73 L,%FVC 75.0
±20.1%,D
lCO9.19
±3.92 ml/min/mmHg,%D
lCO56.3
±20.6%,PaO2
81.0±11.9 mmHg であった(表 1).
40.6±25.8 ヵ月の観察期間のうち,49 例(52.7%)の
死亡が確認された.内訳は呼吸不全 18 例(19.4%),
IPF
急性増悪 13 例(14.0%),肺炎 5 例(5.4%),悪性
特発性肺線維症における呼吸困難感,運動
耐容能,QOL を含む多面的評価の重要性
近畿大学医学部呼吸器・アレルギー内科
西山 理
【要旨】 筆者は特発性肺線維症(IPF)が慢性呼吸不全を呈する疾患で,徐々に日常生活労作が
低下し,呼吸困難感が増悪するといった経過に着目してきた.そして肺機能や病理,画像だけで
なく,呼吸困難感,QOL,運動耐容能などの多面的な評価を行ってきた.
IPF 患者を対象に,modified MRC を用いて日常の呼吸困難感を評価し予後との関係を調査し
たところ,modified MRC と 6 分間歩行試験時の最低 SpO2
が有意な予後予測因子であることが
わかり,modified MRC の有用性とともに日常の呼吸困難感を客観的に評価することの重要性が
示された.
また,IPF 患者では大腿四頭筋筋力が低下しており,運動耐容能低下の重要な説明因子である
こと,運動療法を中心とした呼吸リハビリテーションは IPF 患者の 6 分間歩行距離,健康関連
QOL
を有意に改善することも示した.
今後の IPF における新たな治療探索や研究においても,こういった多面的な評価を取り入れ,
より適切なアウトカムを選択し評価していくことが重要と考えられる.
Key words: 運動耐容能─健康関連 QOL ─呼吸困難感─呼吸リハビリテーション─特
発性肺線維症
奨励賞 受賞報告
疾患 5 例(5.4%),その他 4 例(4.3%),死因不明 4 例
(4.3%)であった.
予 後 と の 単 相 関 を 表 2 に 示 す.%FVC,%D
lCO,
PaO
2,modified MRC
に加え,6 分間歩行試験のアウト
カムである歩行距離,最低 SpO2
,Borg
スコアで評価し
た試験終了時の呼吸困難感が有意に予後と相関した.有
意に相関した項目を用い,stepwise 多項目解析を行った
ところ,modified MRC と 6 分間歩行試験時の最低 SpO2
が有意となった(表 3).つまり,肺機能の指標よりも
modified MRC
で示される日常の呼吸困難感と 6 分間歩
行試験時の最低 SpO2
が IPF 患者の予後を有意に予測す
るということになる.図 1 に modified MRC による
Ka-plan-Meier survival curves を示す.
modified MRC
は COPD の領域でも国際的に広く使用
されている簡便な呼吸困難感の評価方法であり,日常の
呼吸困難の程度を 5 段階に分けて評価する簡便なもので
ある.IPF における日常の呼吸困難感の報告に関しては,
University of California ─San Diego Shortness of Breath
Questionnaire
(SOBQ)などを用いた報告があるが,質
問項目が多く一般臨床では使用しにくい.本研究の結
果,簡便な modified MRC の有用性が示されるとともに,
表 1 患者背景 Variables Value Age, yr 66.3±8.1 Sex Male 81 Female 12 Height, cm 160.8±8.0 Body weight, kg 60.4±11.6 BMI 23.3±3.5 Smoking status Current 15 Former 59 Never 19Baseline pulmonary function testing
FVC, L 2.37±0.73 FVC, % pred. 75.0±20.1 FEV1, L 1.93±0.57 FEV1, % pred. 85.4±22.1 DlCO, ml/min/mmHg 9.19±3.92 DlCO, % pred. 56.3±20.6
Baseline arterial blood gas values
PaO2, mmHg 81.0±11.9 PaCO2, mmHg 39.8±5.3 pH 7.42±0.03 MMRC score 0 11 1 41 2 38 3 3 4 0
Six-min walk test at baseline
Walk distance, m 516±96.8
Lowest SpO2, % 82.7±9.5
Borg 4.0±2.1
n=93 except for DlCO, PaO2, PaCO2, pH [n=90,
respec-tively] and 6-min walk test variables [92]. Continuous vari-ables are expressed as mean values±standard deviations. BMI: body mass index; FVC: forced vital capacity; FEV1:
forced expiratory volume in 1 second; DlCO: diffusion ca-pacity of carbon monoxide; PaO2: partial pressure of
oxy-gen; PaCO2: partial pressure of carbon dioxide; MMRC:
modified MRC; SpO2: arterial oxygen saturation measured
by pulse oximetry.(文献 1 より引用)
表 2 Univariate cox proportional-hazard model の結果 Variables Hazard ratio 95% CI p-value
Age 1.027 0.987-1.069 0.1915 Smoking status Current 0.818 0.338-1.984 0.6573 Former 0.959 0.475-1.936 0.9069 BMI 0.977 0.891-1.071 0.6233 FVC, % pred. 0.965 0.948-0.982 <0.0001 DlCO, % pred. 0.978 0.963-0.993 0.0041 PaO2, mmHg 0.963 0.938-0.989 0.0060 MMRC 2.402 1.495-3.858 0.0003 Walk distance, m 0.995 0.992-0.998 0.0020 Lowest SpO2, % 0.944 0.918-0.972 <0.0001 Borg 1.285 1.091-1.514 0.0027
n=93 except for DlCO and PaO2 [n=90, respectively]. Hazard
ratios in smoking status are to never smokers. The walk dis-tance, lowest SpO2, and Borg are variables of 6-min walk test.
BMI: body mass index; FVC: forced vital capacity; DlCO: diffu-sion capacity of carbon monoxide; PaO2: partial pressure of
ox-ygen; MMRC: modified MRC: SpO2: arterial oxygen saturation
measured by pulse oximetry; CI: confidence interval (文献 1 より引用)
表 3 Stepwise multivariate cox proportional-hazard model の結果 Variables Hazard ratio 95% CI p value
MMRC 2.181 1.333–3.568 0.0019
Lowest SpO2, % 0.952 0.924–0.981 0.0014
n=87, because patients for whom all data were available were included in the analysis. Forty-six of these 87 patients (52.9%) died during the observation period. Variables that were signifi-cant in univariate analysis were included in the analysis. Vari-ables eliminated were FVC %predicted, DlCO %predicted, PaO2, and walk distance and the Borg scale at 6-min walk test.
Lowest SpO2 is a 6-min walk test variable.
MMRC: modified MRC; SpO2: arterial oxygen saturation
日常の呼吸困難感を客観的に評価することの重要性が示
された.
IPF 患者では大腿四頭筋筋力が低下しており,
運動耐容能低下の重要な説明因子である
3)41
人の IPF 患者を対象に,肺機能検査などのほか,
運動耐容能,下肢筋力を評価した.運動耐容能はエルゴ
メータを用いた心肺運動負荷テスト(cardiopulmonary
exercise test: CPX
)にて評価し,大腿四頭筋筋力は
Cy-bex II
を用いて測定した.
対象症例の内訳は,男性 35 名,女性 6 例,VC 2.5±
0.7 L,
%VC 76.6±16.8%,DLco 10.6±3.9 ml/min/
mmHg,%DLco 58.9±20.4%であった.CPX で評価し
た運動耐容能は,V
4O
2max 892±314 ml/min,%V
4O
2max
46.0
±13.1%,AT 710±210 ml/min,%AT 58.2±14.7%
と運動耐容能の低下を認めた.大腿四頭筋筋力(quadri-ceps force: QF)に関しても,握力(handgrip force: HF)
が HF 32±19 N,%HF 94±57%であったのに対して,
QF 87±28 Nm,%QF 65±15%と明らかな低下を認め
た.V
4O
2max
は VC,TLC,DLco,PEmax,QF, 安 静
時 PaO2
,VE/V
4CO
2slope
と 有 意 に 相 関 を 示 し た が,
stepwise
多項目解析では VC,QF,VE/V
4CO
2slope
のみ
が有意な関連因子となり,肺機能の指標のみならず QF
は IPF において重要な運動耐容能の規定因子であるこ
とが示された.運動耐容能の指標に AT を用いても,
VC,DLco,QF
が有意な関連因子として示され,QF は
やはり規定因子の一つであった.QF と V
4O
2max
の関連
を図 2 に示す.
大腿四頭筋筋力低下が運動耐容能低下の重要な規定因
子の一つであることは,COPD ではすでに報告されて
いるが,IPF での報告は初めてであった.IPF において
も,下肢筋力に着目することは重要であること,下肢筋
力トレーニングを中心とした呼吸リハビリテーションの
有効性の可能性も示されたといえる.
IPF に対する呼吸リハビリテーションは
有効である
4)IPF
患者 30 例を 10 週間のリハビリテーション群と標
準的なフォローのみを行うコントロール群に分け,呼吸
リハビリテーションの効果を比較した.プログラムを完
遂したのは 28 例(リハビリテーション群 13 例,コント
ロール群 15 例)であった.リハビリテーション群の患
者 は, 男 性 12 名, 女 性 1 例,FVC 2.1±0.4 L,%FVC
66.1±13.2%,%D
lCO59.4±16.7%,PaO2
79.8±11.5
mmHg
であった.一方,コントロール群は,男性 9 名,
女 性 6 例,FVC 2.0±0.8 L,%FVC 68.7±19.5%,%D
lCO48.6±16.7%,PaO2
83.0±12.3 mmHg であり,両群で差
を認めなかった.
呼吸リハビリテーションは運動療法をメインとし,そ
の他リラクゼーション,胸郭可動閾訓練,呼吸筋ストレッ
チ,上下肢の筋力トレーニング,呼吸筋トレーニングを
併用した.両群の変化の差をみると,6 分間歩行距離は
46.3 m,St. George s Respiratory Questionnaire
(SGRQ)
で評価した健康関連 QOL の total スコアは-6.1 と,呼
吸リハビリテーション群で有意な改善を示した.しか
し,BDI で評価した日常の呼吸困難感は改善を示さな
かった(表 4).
図 3 に症例ごとの 6 分間歩行距離に変化を示す.各群
の呼吸リハビリテーション前後での変化をみても,リハ
図 1 IPF 患者の modified MRC ごとの Kaplan-Meier 生存曲線(文献 1 より引用) Months P ro b ab ili ty o f S u rv iv al MMRC 0, 1 MMRC 2 MMRC 3 0 .2 .4 .6 .8 1 0 20 40 60 80 100 120 図 2 IPF 患者の大腿四頭筋筋力と最大酸素摂取量との関係 (文献 3 より引用) 0 500 1000 1500 2000 0 50 100 150 200 (mL/min)
r=0.62, p< 0.0001
大腿四頭筋筋力 (Nm) V O2 m ax.
群では 385±116 m から 427±84 m と有意な改善を認め
たのに対し,コントロール群では有意な改善を示さな
かった.
本研究の結果より,IPF 患者に対する呼吸リハビリ
テーションの有効性が示された.6 分間歩行距離と健康
関連 QOL の改善は有意であったが,日常の呼吸困難感
の改善に関しては今後の課題であると考えられた.
ま と め
一連の臨床研究によって,IPF においても QOL,運
動耐容能,呼吸困難感といった項目が重要なアウトカム
であり,さらに呼吸困難感が予後に寄与する重要な因子
であることから,呼吸困難感の改善に着目することが必
要であると考えられた.
IPF
の診療においては,いまだ画像や肺機能のみでの
評価しかされていない場合も多く,今後 COPD で示さ
れてきたように多面的な評価が重要であると考えられ
る.今後の IPF における新たな治療探索や研究におい
ても,こういった多面的な評価を取り入れ,より適切な
アウトカムを選択し評価していくことが重要であると考
える.
さらに呼吸リハビリテーションについては,最新のガ
イドライン
5)においても weak yes の推奨となっており,
今後ベネフィットが大きい患者群の抽出や長期効果の検
証などが期待される.
受賞にあたっての感想とこれからの抱負 IPF は肺の線維化を 主体とする原因不明の疾患ですが,私はこの疾患が徐々に運動耐 容能や日常生活労作が低下するとともに労作時呼吸困難感が増強 し,進行期には著しく QOL が低下するといった慢性的な経過に 着目し評価を行ってきました.COPD は全身性の炎症疾患である との概念から,多面的アウトカムの評価がすでに一般的ではあり ますが,IPF では未だ一般的とはいえません.今回,奨励賞をい ただいたことは,この分野での臨床研究のはげみにもなり,たい へん光栄に感じています.今後も同様の臨床研究を継続するとと もに,可能であれば慢性呼吸器疾患に対する有効な治療の確立に 表 4 呼吸リハビリテーション前後の各因子の変化(呼吸リハビ リテーション群とコントロール群での差) Difference between groups in change from baseline 95% CI p FVC(L) 0.03 −0.13-0.19 N.S. FEV1(L) 0.04 −0.17-0.08 N.S. DlCO(%) 0.04 −0.17-0.08 N.S. PaO2(mmHg) 0.03 −0.18-0.24 N.S. PaCO2(mmHg) −1.0 −5.0-16.0 N.S. 6MWD(m) 46.3 8.3-84.4 <0.01 BDI score 0.4 −0.6-1.4 N.S. SGRQ score Symptoms −5.7 −18.7-7.2 N.S. Activity −5.8 −14.7-3.1 N.S. Impacts −6.2 −12.8-0.3 N.S. Total −6.1 −11.7-−0.5 <0.05FVC: forced vital capacity; FEV1: forced expiratory volume in 1
second; DlCO: diffusion capacity of carbon monoxide; PaO2:
partial pressure of oxygen; PaCO2: partial pressure of carbon
di-oxide; 6MWD: 6-min walk distance; BDI: baseline dyspnea in-dex; SGRQ: St. George s Respiratory Questionnaire
(文献 4 より引用) 図 3 IPF 患者における呼吸リハビリテーション前後の 6 分間歩行距離(文献 4 より引用)
(m)
baseline
after
the program
100
200
300
400
500
600
700
NS
476
±
128
472
±
130
100
200
300
400
500
600
700
baseline
the program
after
(m)
P<0.05
385
±
116
427
±
84
6 分 間 歩 行 距 離 呼吸リハビリテーション群 コントロール群貢献できるよう努力していきたいと考えます.
今回提出した研究は公立陶生病院で行ったものであり,スタッ フの方々の多大な協力のもと発表できたものです.主体としてご 指導いただいた谷口博之先生はじめ呼吸器・アレルギー内科およ びリハビリテーション部のスタッフの方々に感謝をいたします.
Multidisciplinary evaluation including dyspnea, exercise capacity, and health-related quality of life in idiopathic pulmonary fibrosis
Osamu Nishiyama
Department of Respiratory Medicine and Allergology, Kinki Uni-versity Faculty of Medicine
文 献
1) Nishiyama, O., Taniguchi, H., Kondoh, Y., et al: A simple
assess-ment of dyspnea as a prognostic indicator in idiopathbic pulmo-nary fibrosis. Eur Respir J, 36: 1067∼1072, 2010.
2) American Thoracic Society. Idiopathic pulmonary fibrosis: diag-nosis and treatment. International consensus statement. Am J Respir Crit Care Med, 161: 646∼664, 2000.
3) Nishiyama, O., Taniguchi, H., Kondoh, Y., et al: Quadriceps weakness is related to exercise capacity in idiopathic pulmonary fibrosis. Chest, 127: 2028∼2033, 2005.
4) Nishiyama, O., Kondoh, Y., Kimura, T., et al: The effects of pul-monary rehabilitation in patients with idiopathic pulpul-monary fi-brosis. Respirology, 13: 394∼399, 2008.
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