• 検索結果がありません。

わかろうとするためのデザイン

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "わかろうとするためのデザイン"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)50. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 柏原 寛 Kashihara Hiroshi 中国学園大学. わかろうとするためのデザイン The design which makes kids want to understand. Chugoku Gakuen University. 1.「子どもの参加」との出会い 最近、公共の建築物が使いやすく、魅力的になってきていると感じる人は 多いのではないだろうか。筆者が利用する図書館(図1)には、書架の間や 動線の節目に大小様々な形のイスが置かれ、気分や目的や書籍の内容によっ て読む場所を変えたりして楽しむことができるようになっている。また、子 どもの書籍スペースに関しても、蔵書の充実だけでなく、小さな腰掛けや低 図1 もみわ図書館(岡山県瀬戸内市). く広がったソファ、小部屋のようになっているスペースなど実に多様でおも しろい。 そのように多様な屋内空間に比べ、屋外の公共的な空間はそのような自由 な使い方ができる場所は少ない。まず、子どもにとって道路は遊び場ではな い。ボール遊びや鬼ごっこ、探検などをはじめたくなるものだが、あそびへ の衝動を我慢しなければいけない場所となっている。大人にとっても同様で、 緩やかな坂道、眺めの良い場所、草花の香りが季節を感じさせてくれる曲が り角など、屋外空間には散歩に出かけたくなる魅力がたくさんあるが、居座 ることは許されない。敷物を敷いてのどかに座っていたら注意されるか、通. 図2 屋外空間活用のフィールドワーク (東京都千代田区). 報されかねない(図2)のだ。そうでなくても車にクラクションを鳴らされ るであろう。道路は車のための空間なのだ。公園があるのではという見方も あるが、公園でも自由というわけにはいかない。自由に使ってきた結果、現 在は遊具よりも禁止のルールにあふれている。もちろん、先に述べた図書館 の例は本当の自由ではなく、ルールを守った上での自由だ。それを加味して もなお、快適性では屋外の公共的な空間には大きな改善の余地がある。 そのような屋外の公共的な空間であるが、変化もある。総合設計制度の活 用や、エリアマネジメントの考え方の広まりにより、駅前や工場・大型倉庫 跡地の大規模再開発では、公開空地を効果的に配置するようになり、緑豊か な道路(歩道)やポケットパーク、広場などが連続するような空間が計画さ れるようになってきた。また、そのような空間を舞台に多彩なマルシェやお 祭り、イベントが行われるようになってきたことで、それまで通過するだけ だった公共的な空間に滞留・滞在することができるようになってきている。. 図3 再開発街区設計での歩道計画    (神奈川県川崎市). その背景の一つには、新しくできた「建物」という価値から、過ごしやすい 「街」としての価値にシフトしつつあり、地域の価値の持続可能性が重視さ れるようになってきたことが挙げられる。 筆者はこのような状況の変化の中で、公共的な空間のデザインに携わって きた。具体的には再開発マスタープランや歩道(図3)・サイン計画などの.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 公共的な空間のハードデザインから、市民マルシェ(図4)などのソフトデ ザインに携わってきた。 その中で筆者の意識の中心となっていたのが「参加のフレーム」をどうデ ザインするかということであった。ハードデザインでも市民参加形式でワー クショップを重ねながらデザインを行っていくプロセスを踏んでいたからで ある。参加のフレームを消極的に捉えると、協議会を形成して、参加者から 意見を募って参考にする程度のものだが、積極的に捉えると、想定していな かったニーズが浮かび上がったり、そもそもの方向が変わったりと、手応え ある与条件が生まれるデザインリサーチとなる側面もあった。 フレームをつくる上で主に大切にしたことが、 「具体的であること」 「イメージ を共有できること」であった。公共的な空間には実に多様な人々が関わるため、 様々な視点やニーズを受けとめる必要がある。そのため、判断がしやすくなるよ うになるべく具体的にする必要があった。こちらの伝えたいことを絞り込み、優 先順位をつけ、 「伝えること」 ・ 「伝え方を整理すること」に苦心した。そのため、 実物大モデルをつくったり、社会実験を行ったりなど様々な方法をとった。その 図4 市民マルシェ(千葉県柏市)(上・下 とも). ように体験的にすることでイメージをより共有しやすいものとしていった。その結 果出会ったのが「子どもの参加」である。本稿では、2つの実践を紹介したい。. 2.「まちをリビングルームにしよう」 デザイン事務所としての独立を機にもっと小さなアクションでも街に関わ ることのできるプラットフォームをデザインできないかと考えていた。そこ 図5 lime-chair(ライムチェア). で千葉県柏市主催のまちづくりアイディアコンテストをきっかけにプロジェ クトを開始した。「まちをリビングルームにしよう」をコンセプトにした 「lime-chair(ライムチェア)」 (図5)という活動である。2007年より開始し、 これまでに7都市、計207脚の緑色のイスの設置を行ってきた。. 個人で行う活動ではなく、公共的な空間をマネジメントする商店街やまち づくり団体と共同して行う活動である。 通常、屋外に設置されているイスはストリートファニチャーと呼ばれ、設 置する主体は地方公共団体や開発事業者等であり、個人ではない。その場所 に固定されているものや、一人では動かせないくらい重量のあるものがほと んどである。実際、屋外のイスはそのようなものだと考える人がほとんどな のではないだろうか。筆者自身も歩道デザインを行っていた時には「動かせ る」という機能の必要性は考えなかったし、発想も全く無かった。そのくら い屋外のイスは不自由な状況にある。. lime-chair では、そのような屋外空間のイスのあり方を変えるため、大き. く5つのステップを設定し実施することとした。. 2.1. 不要になったイスを使用する. 公共的な空間にイスを設置する際、新規の購入はせず、その地域にある不. 要なイス(図6)を再活用することとした。イスは人間の数よりも多い。成 長により高さが合わなくなったり、趣味が変わったために部屋に合わなく なったり、家族の構成が変わり使わなくなったりなど、一人の人間が関わる イスの数は一つではない。加えて、不要なイスを利用する方が「イスを提供 図6 不要イスの回収. する」といった、プロジェクトに関わる機会を増やすことができると考えた ためだ。呼びかけに応じてくださる方も多く、不要となったイスを得ること ができた。. 51.

(3) 52. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 図7 ペイント後の展示の様子(千葉県柏市). 2.2. イスを街の目立つ場所でペイントする. このプロジェクトは「街の中の目につくところでイスのペンキ塗りをす. る」(図7)という単純な行為に絞っている。そのため、道路や広場の使用 申請を行い、人目につきやすい場所を確保した。通常、ワークショップは事 前申込制をとることが多いが、飛び入り参加形式をとることとした。当日、 偶然の通りがかりでも参加できるようにしたのである。 最も参加の意思を示してくれたのは子どもたち(図8)であった。作業服 や手袋などを用意していたので、子どもの意思表示に保護者の方も理解を示 してくれた。子どもたちの熱心なペイント姿は、タクシーの運転手から女子 高生まで多様な人々を巻き込んだ。色を1色としたことで、形の多様さが浮 かび上がった。同時に、その時そのイスでしかない存在感を生み出すことに 図8 子どもたちのペイントの様子. もつながった。. 2.3. ペイントしたイスに番号をふる. ペイントをしたイスは個別の ID を振り、ペイントを行ったことを証明す. る書類を発行した。イスのペイントが終わるごとに証明書(図9)を手渡し た。子どもたちも達成感を感じた様子で、嬉しそうに受け取ってくれた。そ れぞれのイスが作家のいる作品となったが、その後の運用では作家の名前は 匿名のままとした。そのイスをペイントした証は証明書を持っている自分し 図9 ペイント証明書. かわからない秘密なのである。. 2.4. WEB サイトとペイントしたイスをリンクさせる. イスには ID と関連した QR コード(図10)を付けた。イスから WEB サイ. トにアクセスすることで、タグ付けした記事と個別の ID を対応させたイス. のストーリーがわかるようにした。サイトからは、Google map のアイコン から追跡することができるようにした。それによりイスを移動させても追跡 することが可能となることをねらった。 図10 イスに付けられた QR コード.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 2.5. 街の中に設置する. ペイントは1日のイベントであるが、プロジェクトは設置されたイスが使. われ続けることで進行形で持続的となる。イスは屋外に置きっぱなしではな く、メンテナンスをしてくれる方にお預けしている。お店であれば、開店と 同時に外に出し、雨が降ったときや閉店の時には店の中にしまうといった具 合だ(図11)。また、イスは街のイベント時には、会場での客席になったり もする。晴れていれば、街の中のあちらこちらに緑色のイスが出されている 風景が見られる。イスを預かっていただいている方からは「あー!僕のつ くったイスだ!」と子どもが駆け寄ってきたというエピソードを聞くことが できた。 子どもの中には、たまたま通りがかった街で、たまたまイスをペイントし た記憶、自分がペイントしたイスが誰かに使われている記憶が残り、訪れる たびに記憶が更新されていくはずだ。一方、街の利用者には、屋外の空間に イスが増えることでお年寄りのまち歩きの休憩に使われていたり、買い物の 荷物を整え直したりしている姿が見られる。街への新しい来訪者には「宝探 図11 イスが置かれた様子    (神奈川県小田原市). し」のような視点も生まれている。. 2.6.「なに?」が生まれる発見. プロジェクトを継続していく上での発見の一つに「これは何ですか?」と. いう質問が多く出てきたことが挙げられる。街のあちこちにペンキで塗られ たイスがある不自然さにより、当然と言えば当然なのだが、街への来訪者に とってコンセプトはわからないため、「なに?」が生まれ、イスの預かり主 とのコミュニケーションとなっていた。当初はプロジェクトの説明チラシを イスのそばに置いていたのだが、コミュニケーションが生まれる価値に気づ き、止めることにした。. 3.「楽しいはどうつくる?」 2つめの実践として、地域で子どもとの関わりが定期的に生まれるように 図12 CLUB KIBI の Facebook ページ. できないかと考えたものが、岡山県吉備中央町という中山間地域でのものづ くり活動「CLUB KIBI(クラブキビ)」(図12)である。過疎化し、人口が. 減少する地域では、観光に訪れる人、特産品を買いに来る人以外に人を来訪 させることは非常に困難である。過疎地といえども、見渡す限り広がるのど かな風景には人の手が入っている。きれいに刈り込まれた畦道や法面、落ち 葉もゴミもない道路、そして作物が育つ畑や田んぼ。人は見えなくても、風 景のほとんどのものは人によって「つくられて」いる。. CLUB KIBI はそういった中山間地域において「つくる」ことをテーマに、. 地域の人の魅力と出会うことと、ものづくりの活動を併せた参加者どうしの 交流を生み出すことを目的とした活動である。子どもを中心として、親子で 関わるプログラムを実施している。講師がもっているノウハウを伝達する教 室形式というよりは、どうやったらつくることができるかを一緒に考えるこ とをテーマとしており、主催者と参加者がフラットな関係のクラブ活動をめ ざしている。. 3.1. 生活をつくるための11のテーマ 図13 ワークブック(2017年 非売). CLUB KIBI の活動を行う上で拠り所にしているものがワークブック(図13). である。里山の森、山菜、蜂、酵母、米、みそ、バター、バードハウス、ツ. 53.

(5) 54. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. リースイング、木皿、ろうそくという、生活と結びつけた11のテーマで「つ くる」ことをテーマにまとめた「読み聞かせ絵本」である。親子での関わり とイメージの共有が生まれることを意図した。この11のテーマは実際に地域 で生産している方がいらっしゃることと、生活を営む上での根源にふれるこ とができるのではないかということから、研究室の学生とともにフィールド リサーチを行い選定した。また、それぞれのテーマの相互的な関連をつくる ことを意図した。例えば、5月にはちみつを採取した後の蜂の巣から採取し たみつろうで、12月にろうそくをつくることや、11月に里山歩きをして拾っ たどんぐりを持ち帰り、育ててから翌々年の1月に間伐と併せて里山に植林 するといったことである。将来的には、植林した木から木皿にするサイクル が生まれることを期待している。そのようにすることで、つくることがつく ることへの入口になるようにした。ワークブックとしてまとめたことで、新 たな参加者や、地域の新たな協力者に内容を理解してもらうことにも役立っ ている。 図14 募集チラシ. 併せて、定期的に SNS での発信とアーカイブを行い、募集チラシを県内都. 市部の小学校に配布(図14)している。「楽しいはどうつくる?」「おいしい. はどうつくる?」など、抽象度の高いコピーでテーマごとの活動募集を行っ ている。. 3.2. クラブ活動のデザイン. クラブ活動は、ほぼ毎月実施している(図15)。11のテーマをもとに、. ワークブックの内容を実際にやってみるのだ。地域の生産者の方、参加者 (県内都市部)、CLUB KIBI のメンバーで行っている。CLUB KIBI のメン バーには地域おこし協力隊スタッフが入っており、地域の人脈や場所の活用 に大きな役割を果たしている。参加者は未就学児から小学生、中学生の子ど もたちと保護者である。活動の場所は毎回変わるが、市内都市部から車でお よそ1時間程度かけて参加している。1度のみの参加者もいれば、連続して 参加する参加者もいる。また、子ども同士が仲良くなることにより、参加者 同士で交流も生まれている。中山間地域の方と市内居住の方との CLUB. KIBI の活動場面以外での交流が生まれてもいる。. 図15 CLUB KIBI の活動(はちみつをつくる、おこめをつくる、ブランコをつくる、みそをつくる).

(6) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 4.子どもが「わかろうとする」ためのコンテクストデザイン 筆者は子どもにとってのデザインを、子どもが世界をわかろうとするため の「翻訳」なのではないかと考えている。 例えば、「なぜお花にお水をあげるの?」「水はお花のご飯だからだよ」 「じゃあ、たくさんあげなきゃ」といった子どもとのやりとりは科学的では ないが、納得はできる。この「納得ができる」ことをやってのける魔法がデ ザインの力なのではないだろうか。当然、知識による納得だけでなく、身体 的、感覚的な納得も含まれる。 冒頭で述べたように、公共的な屋外空間に子どもが自由に遊ぶことのでき るスペースは少ない。大人にとっても自由は制限されている。しかし、図書 館の例のように、自らをその空間のもつ「コンテクスト」に合わせること で、快適性や豊かさが得られて自由を感じることもある。そのコンテクスト が自発性を促す快適性や豊かさを持っていないとき、それは「制限」とな り、不自由さが生じてくるのではないだろうか。 自らをコンテクストに合わせていくことは、子どもの「ごっこ遊び」に似 ている。友達や仲間と共通のイメージをもち、その世界の中でコミュニケー ションすることである。イメージの世界を支えていく素材を互いに提供し続 け、共有し続けることにより、ごっこ遊びを継続することができる。 今後ますます好奇心をもって自発的に関わり、理解を深めようとする態度 が求められる社会になると思われる。そのために、子どもが世界を理解・ 体験しようとするための多様なコンテクストのあり方について探求していき たい。 画像引用元 1)岡山県瀬戸内市もみわ図書館 HP,https://lib.city.setouchi.lg.jp/(参照日 2020年1月30日). 2)10+1 No.32,PICNIC FIELDWORK | 東京ピクニッククラブ,INAX 出版,187-202,2003 3)筆者所有資料. 4)千葉県柏市 HP,http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/140500/p011287.html(参照日 2020年1 月30日). 5)6)6)8)9)10)11)ライムチェア HP より,http://lime-chair.com/. 12)CLUB KIBI Facebook ページより,https://www.facebook.com/CLUB.KIBI.CLUB 13)14)15)筆者所有資料. 55.

(7)

参照

関連したドキュメント

人は何者なので︑これをみ心にとめられるのですか︒

「文字詞」の定義というわけにはゆかないとこ ろがあるわけである。いま,仮りに上記の如く

どにより異なる値をとると思われる.ところで,かっ

ここから、われわれは、かなり重要な教訓を得ることができる。いろいろと細かな議論を

世界的流行である以上、何をもって感染終息と判断するのか、現時点では予測がつかないと思われます。時限的、特例的措置とされても、かなりの長期間にわたり

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

本事業を進める中で、

者は買受人の所有権取得を争えるのではなかろうか︒執行停止の手続をとらなければ︑競売手続が進行して完結し︑