日本におけるデザインの保護
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(2) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. 2.知的財産及び知的財産権 2.1. 知的財産. 知的財産といった用語は近年市民権を得て巷間で広く用いられている。し. かし、知識や知性といったものに通じる「知的」の語が用いられておりこれ が人の高度な頭脳の働きとの関係を想起させることから、ややその内容が不 明瞭となっているようにも思われる。 この点、あまり一般的には用いられない用語ではあるが、われわれ知的財 産関係の法律専門家は知的財産を「無体財産」と呼ぶことがある。無体財産 とは、無体物についての財産という意味である。無体物は、大雑把に言えば 人が触れることができないものといった意味合いであり、無体財産は、要は 「(人が触れることができない)情報についての財産」である。無体財産と知 的財産は同じ内容の概念なので、知的財産とは、つまりは「情報についての 財産」のことである。 とはいえ、あらゆる情報がすべて知的財産となるわけではない。. 2.2. 有用な情報と知的財産権. 知的財産権は、特許権、意匠権、商標権、著作権等々、知的財産の独占を. 認める権利である。その情報の独占を認めるのであるから、少なくとも知的 財産権によって保護される情報は、保護に値するなんらかの価値を有してい なければならない。ここでいう価値とは、例えばその情報について売り買い が成立すること、つまりなにがしかの金銭的価値を有しているものと考える のが分かり易い。 この点、売り買いが成立するような価値を有する情報とは、少なくともそ の買い手にとってなにかの役に立つ情報であろう。つまり、知的財産権に よって保護される情報は、あらゆる情報すべてではなく、例えば取引の対象 となるといったような「有用な情報」に限られる。そのため知的財産は、情 報一般ではなく、一般的に、有用な情報に係るものをいうと考えられている。. 2.3. 情報の有用性. 「有用な情報」といった際に、その情報のなにが有用であるのかは、情報. の種類によって異なる。 発明を考えてみる。ある企業が秘匿している発明を他企業が知りたいと考え る場合、当該他企業にとってその発明が魅力的に映るのは、それが他に知ら れていないためであろう。ウェブで検索すれば簡単に入手できるような技術的 なアイデアの入手にわざわざ対価を支払う者はいない。また、たとえその発明 それ自体は公開されていなかったとしても、既に一般に知られている技術的な 知識から簡単に誰もが思い付くといった程度ものであれば、やはりわざわざこ れを購入したいとは思わない。自社で考えれば足りるからである。このように、 発明の有用性は、その発明が新規であること(誰にも知られてないこと)及び 進歩的であること(簡単には思い付かないこと)によって支えられている。 一方例えば商標について、その有用性は、発明の場合と異なる。商標は、 需要者に自らの商品を選択購入して貰うために用いる目印である。需要者に 誤りなく自らの商品に辿り着いて貰うためには、その目印が、自らの商品と 他人の商品とを十分に識別できるものでなければならない。商標の有用性 は、新規であるとか進歩的であるといったことではなく、需要者を自らの商 品に正しく導くことができる能力によって支えられている。. 55.
(3) 56. 特集:各国におけるデザイン保護法制. このように、情報の種類により、その有用性を量る基準は異なる。あらゆ る情報の有用性を、十把一絡げに評価することはできない。そこで、知的財 産を保護するシステムにおいては、情報の種類ごとにその有用性を量る基準 を用意する必要がある。発明については特許法、商標については商標法といっ たように、情報の種類ごとに個別の保護法が存在するのはそのためである。. 2.4. 個別の法律. 知的財産法制の下には、保護しようとする情報の種類ごとに複数の法律が. 存在しており、法律ごとにそれぞれ、有用性を評価する基準を設定してい る。また、これらの法律は、保護の期間や、権利取得のためのルールも、そ れぞれ別々に定めている。 例えば特許法の保護対象である発明は、多くの場合時が経てば陳腐化す る。同じような技術的効果を他の技術でも実現することが可能となり有用性 の低くなった情報をいつまで保護していても意味はないしむしろ弊害が生じ る等の理由で、特許法は、特許権による独占期間を一般に20年に区切ってい る3)。一方商標の場合、需要者を自らの商品に正しく導くといったその有用 性は、商品が市場に存在して取り引きに用いられている限り発揮され続け る。したがって、商標法は商標の保護期間に限界を設けていない4)。このよ うに、各法律は、保護しようとする情報の性質によって、これを独占させる 期間を異ならせている。 同様に権利取得の手続も、情報の種類ごとに、その性質に応じて、大きく 異なるものとなっている。 このように、知的財産法システムの下には複数の法律があり、保護の対象 となる情報の性質に応じ、保護の基準、保護の期間及び権利取得の手続等を それぞれが定めている。以下では、これら種々の法律のうち特に製品デザイ ンの保護に関与する各法律に関し、不正競争防止法2条1項3号及び意匠法 を中心にその概要を説明するとともに、商標法や著作権法による保護につい ては多くの議論のあるところなので、併せてその議論の内容を概観する。. 3.デザインを保護する法律 3.1. 不正競争防止法2条1項3号. 製品のデザインは主として意匠法によって保護されるが、意匠法の特徴. は、先に不正競争防止法を説明した方が分かり易いと思われるので、本稿で は先ず、同法の2条1項3号による規制を紹介する。 ⑴ 不正競争防止法について 不正競争防止法(以下、適宜「不競法」と略す。)は、事業者間の競争に おいてアンフェアな行為(不正競争行為)は行ってはいけないことを定めた 法律である。アンフェアな競争行為は様々あるので、不競法は、これらを16 の態様に分類しており、その中に、他人の商品の形態を摸倣した商品を販売 等する行為が含まれている。不競法2条1項3号(以下、適宜「不競法3 3)正確には、その発明についての特許出願から20年(特 許法67条1項) 4)商標権は登録日から10年で存続期間が満了するが(商 標法19条1項)、更新登録の申請によって更新するこ とができる(同2項)。更新登録を繰り返せば、商標 権は半永久的に存続する。 5)通商産業省知的財産政策室監修『逐条解説不正競争防 止法』(有斐閣,1994)p. 38等参照. 号」と略す。)に定められた不正競争行為である。 ⑵ 不正競争防止法2条1項3号による規制の基本的な内容 不競法3号は、他人の商品形態を摸倣した商品の販売等を規制している。 ここでいう「摸倣」とは、実質的に同一の商品形態を作り出すことをいう5)。 したがって、「ほぼ同じ」ものを製造して販売すれば不正競争行為になる一 方で、「似ている」といった程度のものになるとこれを販売しても不正競争.
(4) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. 行為には該当しない。そのような範囲においてであれば、他人の商品形態を 真似することが許容される。 同号による規制に関して重要なのは、特許庁その他国などの機関になんら 手続をすることなく、商品化された商品を市場に置く等によって、その保護 が開始される点である。 保護の期間は「日本国内において最初に販売された日」から数えて3年と 極く短期間であり(同19条5号イ)、また、実質的に同一という狭い範囲内 での模倣に限定されるものの、一切の手続を経ることなく、商品の形態は同 法によって保護される。市場において発見した他人の商品について、その形 態を安易に摸倣して自らの商品に採用して販売等すれば、裁判によって、当 該行為の停止又は予防(同3条1項)及びそれによって他人に生じさせた損 害の賠償(同4条)を命じられ得る。 ⑶ 保護されない商品形態 とはいえ、あらゆる商品形態がすべて同号によって保護されるわけではない。 ① 商品の機能を確保するために不可欠な形態 商品の機能を確保するために不可欠な形態は、たとえ摸倣があっても、同 号の規制対象とはならない(同2条1項3号括弧書)。不競法は、あくまで 不正な競争を禁止する法律である。裏を返せば、積極的に競争を促進するこ とを目的としている(同1条)。機能確保に不可欠な形態について保護を及 ぼしてしまうと、当該商品の市場に対する第三者の参入を不可能としてしま う。それでは競争そのものが成立しなくなってしまうので、同号はそのよう な形態の摸倣を許容している。 ② 同種の商品においてありふれた形態 同種の商品においてありふれた形態も、一般に、同号の規制対象にはなら ないと理解されている。最近の知的財産高等裁判所の裁判例においても「同 種の商品にしばしば見られるありふれた形態は、(中略)同号の保護対象と なる『商品の形態』には当たらない」6)と述べるものがある。摸倣元の商品 形態もそのありふれた形態を真似したことによって成立しているのであろう から、そもそも保護に値しないと考えられるためである。 ③ 部分的な形態 他人の商品形態を部分的に模倣する行為が同号の規制対象となるかという 問題がある。例えば特徴的な形態の取っ手を備えるマグカップについて、マグ カップ全体について模倣するのではなく、当該取っ手部分のみを模倣してマグ カップ全体としては実質的に同一ではない形態とするような場合である。この 点については議論が分かれ得るが、保護を否定する考え方が一般的である7)。 ⑷ 保護の開始 ところで、同号による保護がいつから開始されるのかついては、難しい議 論がある。法律の条文に、どの時点から保護が開始されると明確に記載され ていないからである。 他人の商品の模倣は、一般に、その商品が市場に置かれて可能となる。そ のことからすると、国内でその商品が最初に販売された日から保護が開始さ れると考えるのが素直ではある。すなわち、典型的には、小売店の店頭にそ 6)知財高判平成28年7月19日最高裁 HP[フェイスマスク] 7)例えば田村善之「非登録型デザイン保護制度として. みた場合の不正競争防止法のデッド ・ コピー規制の評 価」渋谷達紀=高林龍=竹中俊子編集『知財年報 I.P.. Annual Report 2010』(商事法務,2010)p.256等参照. の商品が並んだ日からである。しかし、そのように考えると、販売がされて いない商品の形態については保護がされないのかといった疑問が生じる。例 えば、①デザイナーが企業コンペ等で企業に開示した商品形態は摸倣しても 良いのかといった点や、②商品見本市で発見した他人の商品の試作品の形態. 57.
(5) 58. 特集:各国におけるデザイン保護法制. を摸倣することは許されるのかといった疑問である。デザイナー側の視点で 言えば、コンペに参加をして開示したデザインが没となった後に当該企業が デザイナーに無断でそれを商品化したとしても泣き寝入いりしなければなら ないのか、また、商品見本市等においてプロトタイプを展示してメーカーの 引き合いを待っていたデザインについて他人に摸倣されてもなんら法的に対 応することができないのかといった問題である。 この点、小型の加湿器の形態摸倣について争われた裁判例がある8)。この 裁判において知財高裁は「取引の対象となり得る物品が現に販売されている こと」は保護の要件とはならないとし、「商品としての本来の機能が発揮で きるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らか になってい」れば、具体的な販売行為がされていなくともその形態は同号に よって保護されるとした。この基準に拠れば、商品見本市において展示した ものが、商品としての本来の機能が発揮できる程度に完成したものであれ ば、たとえ量産化される前の段階のものであっても、その形態は保護され る。一方、コンペにおいてスケッチを示したという程度では「商品としての 本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至って」いるとは言い 難いであろうから、仮にその後企業によって摸倣されたとしても、同号の保 護を期待するのは難しそうである。. 3.2. 意匠法. ⑴ 意匠法の特徴(不正競争防止法2条1項3号との対比から) 意匠法によるデザイン保護の特徴としては、先に説明した不競法3号との 対比上、次のような点を挙げることができる。 ⅰ.特許庁に対する手続が必要となる点 ⅱ.保護期間が比較的長期である点 ⅲ.商品化されていないデザインであっても保護がされる点 ⅳ.部分的な形態であっても保護がされる点 ⅴ.模倣でなくても保護がされる点 すなわち、意匠法による保護を求めるためには、特許庁に対して、保護を 受けたいデザインを表した図面等を添付した願書を提出しなければならない (意匠法6条)。したがって、デザインが開発されたことや商品が市場に置 かれたこと等のみでは意匠権は発生しない。この願書の提出行為を「出願」 といい、出願がされた意匠は特許庁での審査に付され(同16条)、後述する 種々の条件が満たされていると判断されて始めて(同18条)、意匠登録が認 8)知財高判平成28年11月30日最高裁 HP[スティック型 加湿器控訴審]. められて意匠権が発生する(同20条)。出願時には手数料を特許庁に納めな ければならず(同67条2項)、登録にあたっても登録料を納めなければなら.
(6) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. ない(同42条)。また、出願手続自体が複雑で専門的であることから、多く の場合、弁理士等の代理人によって手続がされる。そのため、不競法3号に よる簡便な保護に較べると、手続的及び費用的負担がかなり大きい。 その代わり、意匠権による保護にはメリットも多い。 不競法3号による保護期間は最初の販売日から3年に留まるが、意匠権 による保護は意匠登録から最長20年である(同21条)9)。意匠法においては、 そのデザインの商品化の有無は保護の可否になんら影響しないし、製品の部 分的な形態も保護される。また、他人の製品形態が模倣の結果であるかも問 われない。不競法の模倣とは、他人の商品形態を見てこれと実質的に同一の ものを作り出すことであるが、意匠法においては、保護されている他人の製 品形態をまったく見たことがなく偶然に似通ってしまったといったような場 合に対しても権利行使ができ、また、「実質的に同一」の範囲に留まらず形 態が「類似」している範囲において製造流通を停止等させることができる (同23条、同37条等)。 このように、意匠法は、その利用にあたっての手続的費用的負担が大きい 点がネックとなるものの、デザイナーが自らのデザインを確実に保護するた めには、有効な手段である。企業コンペに参加をして没になったデザインが 後に無断で商品化されてしまったというようなケースにおいても、そのデザ インが意匠登録されていれば、当該企業による製品の製造販売を停止等させ ることができる。また、不競法では実質的同一の範囲の形態しか保護され ず、商品化されていなければ保護されないが、意匠法はその点を問わないの で、自己のデザインについてこれと似通ったデザインを複数意匠登録するこ とができ、これと併せて部分的な保護を求める出願を組み合わせれば、模倣 行為に対する障壁をかなり高く築くことが可能である。このような複数の権 利による権利群を形成することは、不競法のみならず、後述する商標法や著 作権法によっても実現できないので、意匠法は、デザイナー等にとって極め て有利な武器となり得る。 ⑵ 保護の対象となる意匠 ① 物品の形態 意匠法は、保護の対象となる意匠を「物品(中略)の形状、模様若しくは 色彩又はこれらの結合であって視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義 する(同2条1項)。したがって、意匠法で保護される対象は、「物品」の形 態でなければならない。 物品とは、有体物である動産をいうと解釈されている10)。無体物や不動産 の形態は、意匠法の保護対象にならない。したがって、打ち上げ花火のよう な光の形態や、スカイツリーのような建築物や庭園の形態は、意匠法では保 9)ただし、権利を維持するためには各年毎に登録料を支 払わなければならない(意匠法42条1項)。 10)寒河江孝允=峯唯夫=金井重彦編著『意匠法コンメ ンタール(第2版)』(レクシスネクシス・ジャパン,. 護されないことになる。 この点、GUI のような表示画面上の光の発光現象である画像のデザイン. は法の保護対象にならないのかといった点が従来から議論されてきたが、現. 2012)p. 23[五味飛鳥]等参照. 在では、物品(例えばスマホ)の表示画面に表示されたり、或いは、それに. 表示される模様の類として意匠登録されることになる. 接続した表示装置(例えば HD プレイヤーに接続したテレビ)に表示される. 11)ただし、あくまで物品(例えばスマホ)の表示画面に ので、同様の GUI を表示させるアプリがインストー. ルされた状態で物品(スマホ)が流通していれば権利 行使が可能であるものの(意匠法2条3項、同24条)、 当該 GUI を表示させるアプリがそれ単体でネット上. を流通している場合に権利行使が可能であるのかは不 透明である(同38条1項)。 12)意匠審査基準74.1. 画像であって当該物品(HD プレイヤー)の操作に用いるものであれば、保. 11) 護の対象となることが明らかになっている(同2条2項等) 。ただし、あ. くまで当該物品(例えばスマホや HD プレイヤー)に記録されている必要が あると解釈されているため12)、ウェブ上のホームページのデザインは意匠法. の保護対象とならない。同様の理由により、クラウド上のアプリで用いられ. 59.
(7) 60. 特集:各国におけるデザイン保護法制. る GUI についても、一般に保護対象にならないと考えられている。. 意匠は「物品」の形態でなければならないといった要件については、例え. ば書体のデザインが保護されない結果になるなど、従来から解釈の見直しや 法改正の必要性がしばしば指摘されてきたところではあるが、今後ソフト ウェアについて、物品にインストール(物品に記録)しての利用ではなく、 クラウド上にあるものをオンラインで利用するといった利用態様が一般化し てくると、その必要性がますます高まると予想される。 ② 視覚を通じて美感を起こさせるもの 意匠は、視覚的に認識されるものでなければならない。そのため、ⅰ.視 覚以外の感覚で捉えられる形態、ⅱ.肉眼で捉えられない形態、ⅲ.外部か ら認識できない形態は、意匠ではないと考えられている13)。 視覚以外の感覚で捉えられる形態 条文において明確に「視覚」と規定されているためこれを拡張して解釈す ることは難しいが、意匠の成立を視覚で捉えられる要素に限定してしまう と、例えば「質感」といった、触覚によっては知覚され得る一方で視覚では 捉え難い要素が、意匠を構成要素から除外されることとなる14)。 肉眼で捉えられない形態 目視ができない微細な部品の形態は保護されないのかといった議論があ る。この点については「物品の取引に際して、現物又はサンプル品を拡大鏡 等により観察する、拡大写真や拡大図をカタログ、仕様書等に掲載するなど の方法によって、当該物品の形状等を拡大して観察することが通常である場 合には、当該物品の形状等は、肉眼によって認識することができないとして も『視覚を通じて美感を起こさせるもの』に当たると解する」とした知財高 裁の裁判例があり15)、現状の法運用は概ねこの判決に沿うものとなっている。 外部から認識できない形態 製品を分解したり破壊したりしなければ見えない形態は意匠ではない。分 解したり破壊しなくても視認できる内部構造に関しては、その扱いについて 議論がある。ただし、少なくともピアノの鍵盤のように、通常の使用や販売 の態様において容易に視認されるものであれば、意匠を構成するとすること について異論をみない。 ③ 工業上利用することができる意匠 意匠法によって保護される意匠は、「工業上利用することができる」もの に限られる(同3条1項柱書)。これは工業的方法により量産されるといっ た意味で解釈されている16)。したがって、河原で拾った石ころの形態のよう 13)前掲注10 p. 51[五味飛鳥]等. 14)ちなみに、不正競争防止法は、「商品の形態」を「需 要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって 認識することができる商品の外部及び内部の形状並び にその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をい う」と定義している(不正競争防止法2条4項)。 15)知財高判平成18年3月31日判時1929・84[コネクター 接続端子] 16)前掲注10 p. 113[五味飛鳥]等. 17)自然物の形態が意匠法で保護されないことについて は、「工業上利用できないから」と説明する場合の他、 そもそも「物品の形態ではないから」と説明する場合 とがある(前掲注10 p. 114[五味飛鳥]等)。. 18)一品製作の著作物が意匠法によって保護されないこと については、 「工業上利用することができない」からで はなく、そもそも「物品の形態にあたらないから」と する考え方もある(前掲注10 p. 114[五味飛鳥]等) 。. な自然物の形態は、意匠登録されない17)。 また、この要件は、後述する著作権法との関係でも注目される。工業的方 法により量産されるものでなければ登録されないので、絵画や彫刻のような 一品制作の美術品は意匠登録の対象とはならず、専ら著作権法によって保護 されることになる18)。 ⑶ 保護の条件 出願された意匠について意匠登録が認められるためには、いくつかの条件 (登録要件)を満たさなければならない。細かいものまでを含めると多数あ るが、とりわけ重要なのは、①出願された意匠が新規なものでなければなら ず、また、②創作容易なものではないことである。 ① 新規性 意匠は、新規なものでなければ意匠登録されない(同3条1項各号)。こ.
(8) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. こでいう新規とは、一般に、秘密状態を脱していないこと19)、すなわち守秘 義務を負っていない者に知られていないことを意味する。意匠法は、世の中 に新しい情報(新しい価値)を提供することになる場合に限って、その意匠 について権利を与えることとしているものである。 時間的な基準 出願された意匠が新規なものか否かは、出願の時を基準に判断される(同 上) 。願書を特許庁に提出する前に公開されている意匠は、意匠登録を受け ることができない。ただし、例外があり、所定の手続を踏めば6月の猶予期 間が与えられる(同4条)。すなわち、新規性を失った意匠であっても、新 規性を失った日(例えば展示会に出展してデザインを公開した日)から6月 以内であれば、意匠登録が認められる。6月を経過した以降は、どのように しても意匠登録は認められない。 デザイナーが意匠権を取得しようとする場合において、この時間的な制限 が意識されていないことが非常に多い。世の中に公開して6月を経過した後 に権利化を図ろうとしてもそれは不可能事となるので、十分に注意すべきで ある。 公知資料 意匠が新規なものか否かは、その意匠の出願時までに公開されていた意匠(公 知意匠)との対比によって判断される。公知意匠には、店頭に展示されて販売 がされている製品やその見本のように物理的に存在しているものの意匠(同3 条1項1号)の他、雑誌やカタログ等の刊行物やインターネット上にホームペー ジに掲載されている画像等として公開されている意匠(同2号)も含まれる。 意匠は、その出願時までに公開されていた古今東西のありとあらゆる公知 意匠と類似するものであってはならない。事実上ありとあらゆる公知意匠を サーチすることは不可能なので具体的に特許庁の審査等に用いられる公知資 料は限定的とならざるを得ないが、少なくとも理論上は、例えばフライパン についての出願意匠が1930年代のモスクワで少量販売されていたフライパン に類似しているといったような場合であっても、その意匠について意匠登録 を受けることはできない。 類否判断 公知意匠と類似する場合、その意匠は新規なものではないとされる(同3 号)。 問題は、対比する2つの意匠が類似するか否かの判断(類否判断)をどの ようにして行うかである。この判断は決して容易ではない。容易でないのは、 類否判断の基準がそもそも必ずしも明確ではなく、また、どうしても人の主 観が入り込み判断がまちまちとなり易いためである。とはいえ、意匠の類否 判断は、出願意匠が保護されるか否かを決する際の、また、登録されている 意匠の保護範囲を画する際(法23条)の判断であり、法運用の要となる。 類否判断の基準については様々な見解があるが、紙幅の関係上それらを網 羅的に紹介することはできないので、以下では、特許庁の審査官が審査に用 19)前掲注10 p. 120[峯唯夫]等. 20)以下は、飽くまで意匠審査基準の紹介と解説であり、 意匠審査基準の内容自体は必ずしも筆者の見解と同じ ではない。また、出願意匠の登録性を判断する際の類 否判断(法3条1項3号)と、登録意匠の保護範囲を 画する際の類否判断(法23条)は、その判断手法が若 干異なるが、ここでは前者の類否判断を紹介する。 21)意匠審査基準22. 1. 3. 1. 1. いる基準(意匠審査基準)の記載に基づいて、その概要を説明する20)。 ア.需要者 意匠の類否判断は「もとより人間の感覚的な部分によるところが大きいが、 その判断を行う際には、意匠創作に係る創作者の主観的な視点を排し、需要 者(取引者を含む)が観察した場合の客観的な印象をもって判断する」21)。 すなわち、対比する意匠が類似するためには、需要者にとって、それらが. 61.
(9) 62. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 似通っていなければならない。プロのデザイナーからみて似通っているか否 かは問題とならず、デザイナーにとって似通っていない意匠であっても類似 するとされることはあり、逆も同様である。 需要者とは、その出願に係る物品の需要者であるが、必ずしもデザインに 関する知識の乏しいエンドユーザーを指すとは限らない。その物品の取引者 も含むので、むしろ当該物品分野のデザインに精通している者を含む。 イ.物品の類否 意匠が類似するとするためには、単にその形態が似通っているだけではな く、物品が類似していなければならない22)。 これは、出願意匠の類否判断について、「意匠は物品と一体をなす」もの であるとした上で、意匠が類似するとするためには「まずその意匠にかかる 物品が同一又は類似であることを必要と」するとした最高裁判所の判例があ り23)、これに基づく運用である。製品のデザインは造形の対象となる物品の 使用目的や使用方法を前提として行われるものであり、対比する意匠におい てこれらの要素が掛け離れていれば、たとえ形態が似通っていても意匠の価 値としては共通しないとすべきものであろう。そのような視点において、意 匠が類似するためには先ず物品が類似しなければならないとする上記の判例 及び意匠審査基準は正当であろうと思われる24)。 意匠審査基準上は、 「物品の用途(使用目的、使用状態等)及び機能に共 通性がない場合には、意匠は類似しない」とされている。 ウ.形態の類否 物品が類似する意匠については、つづいて形態が類似するか否かの判断が される。 先ず対比する形態について共通点と差異点を認定する25)。その上で、共通 点と差異点を構成する諸々の形態について、需要者が注意を惹かれる程度を 評価する26)。共通する形態に需要者の注意が強く惹かれ、差異点に係る形態 に対しては注意を惹かれる程度が小さいと評価されれば、共通点がより重要 となるので、形態は類似するとの結論になる。 注意を惹かれる形態か否かの評価基準は様々ある。典型的なものは次の通 りである。ア.意匠全体に占める割合の大きい形態は、需要者の注意を惹き 易いとされる27)。イ.物品の特性に基づき観察され易い部分の形態も、需要 者の注意を惹き易い28)。例えばテレビ受像機の場合、通常の設置状態で背面 及び底面を見ることは少ないので、そのような部分の形態は需要者の注意を 惹き難いとされる。また、ウ.先行して公開されている公知意匠群との対比 において、公知意匠には見られない新規な形態であって創作的価値が高いと 認められる形態は、過去のものとは異なっているという強い印象を与えるた 22)意匠審査基準22. 1. 3. 1. 2(2). 23) 最 判 昭 和49年 3 月19日 民 集28巻 2 号308頁[ 可 撓 性 ホース上告審]。. 24)この点についても様々な議論があるが、筆者の私見に ついては拙稿「類否判断における意匠の物品性が果た す役割」日本工業所有権法学会編『日本工業所有権法 学会年報 第40号(有斐閣,2017)p. 185∼)を参照さ れたい。. め、需要者の注意を強く惹く29)。 このように形態の類否判断においては、共通点及び差異点に係る形態につ いて、以上のような様々な視点から需要者の注意を惹かれる程度を評価した 上で、これを総合して30)、最終的な結論を導き出すことになる。 ② 創作非容易性 出願された意匠について保護が認められるには、その意匠が容易に創作で. 25)意匠審査基準22. 1. 3. 1. 2(3). きたものであってはならない(同3条2項)。簡単に創作できる程度の意匠. 27)意匠審査基準22. 1. 3. 1. 2(4)(i)(a). では、世の中に新たな価値を提供することにならないからである。. 26)意匠審査基準22. 1. 3. 1. 2(4). 28)意匠審査基準22. 1. 3. 1. 2(4)(i)(b). 時間的な基準. 30)意匠審査基準22. 1. 3. 1. 2(5). 新規性と同様に、出願の時を基準として判断する。創作非容易性について. 29)意匠審査基準22. 1. 3. 1. 2(4)(ii)(a)及び(b).
(10) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. も、所定の手続を踏めば6月の猶予期間が与えられる(同4条)。 当業者 創作非容易性判断の基準となる者は、需要者ではなく「その意匠の属する 分野における通常の知識を有する者」である。この者を一般に当業者と呼ぶ が、要は、通常の能力を有するプロのデザイナーといった意味合いである。 意匠の創作が容易であったかを問題にしているのであるから、判断基準は自 ずとデザイナーとなる。 公知資料 出願時までに公開的に存在していた資料がすべて創作容易性判断の基礎資 料となる。新規性の判断と異なるのは、出願前に公開的に存在していたもの が、必ずしも意匠である必要がない点である。例えば、建造物や自然の景観 も、判断の基礎資料となり得る。 容易であったか否かの判断 類否判断と同様に、「容易に意匠の創作をすることができた」か否かの判 断は容易ではなく、また、その判断手法も確立されていない。類否判断に較 べても、その基準はかなり曖昧な状態である。 しかし、一般的には、公知の意匠の一部を、当業者にとってありふれた手 法により、ア.他の公知の形態に置き換えたり31)、或いは、イ.公知の形態 を組み合わせた(寄せ集めた)32)に過ぎないといった程度の意匠は、その創 作が容易であったと判断されている。例えば、公知の冷蔵庫の意匠をベース として、その扉に取り付けられた取っ手部分の形態を他の公知の取っ手に置 き換えたに過ぎない程度の創作や、無模様のマグカップをベースとしてこれ に良く知られたストライプ模様を組み合わせたに過ぎないといった創作が、 これらに該当する。ただし、その手法が当業者にとってありふれたものであ ることが必要であり、仮にそのような置き換え等が当業者(冷蔵庫の当業者 やマグカップの当業者)にとってありふれた手法といえないのであれば、そ の創作が容易なものであったとはいえない。 また、ウ.複数の要素で成る意匠についてそれら要素の配置を変更した り33)、エ.構成比率を変更したに過ぎない34) といった意匠も、そのような 変更が当業者にとってありふれた手法であれば、やはり創作容易とされる。 オ.ピーマンの形をしたペーパーウェイトといったようなものについても、 ペーパーウェイトの形状を野菜や果物の形状とすることが当業者にとってあ りふれた手法である場合には、その創作は容易であったとされる35)。 更に、カ.商慣行上、他分野の意匠を転用することが一般的に行われてい 31)意匠審査基準23. 5. 1. る物品分野においては、そのような転用による意匠も、創作容易と考えられ. 33)意匠審査基準23. 5. 3. ている36)。乗用自動車の意匠を小型化してミニカーの意匠とするといった例. 32)意匠審査基準23. 5. 2 34)意匠審査基準23. 5. 4. が、その典型である。. 36)意匠審査基準23. 5. 6. ⑷ 手続など. 35)意匠審査基準23. 5. 5 37)特許法においては、職務上の発明について「契約、勤 務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特 許を受ける権利を取得させることを定めたときは、そ の特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用 者等に帰属する」としている(特許法35条3項)。意 匠法はその条文を準用しているので(意匠法15条3 項)、従業者がした意匠の創作についても同様の扱い になる。したがって、この場合に限り、創作者は自ら 意匠登録を受けることはできない。 38)これら類似する意匠についての願書が同日に特許庁に 到達した場合には、出願人同士で協議をして一の出願 人を定めなければならない(法9条2項)。. ① 意匠登録を受けることができる者 意匠登録を受けることができるのは、その意匠の創作者のみである(同3 条1項柱書)。創作に関与していない第三者は、その創作者から意匠登録を 受ける権利を譲り受けている場合に限って、その意匠について意匠登録を受 けることができる(同17条4号)37)。 類似する意匠が相次いで創作された場合において、その意匠について意匠 登録を受けることができるのは、最先に願書を特許庁に提出した者のみであ る(同9条1項)38)。. 63.
(11) 64. 特集:各国におけるデザイン保護法制. ② 関連意匠 類似する意匠が複数出願された場合には、最先に出願された意匠のみ登録 されるのが原則であるが(同上)、その意匠が同一人の意匠である場合につ いては、その例外がある。つまり、同一人の意匠であれば、一定の手続及び 所定の条件に従って、相互に類似する意匠を複数意匠登録することが可能で ある(同10条1項)。 意匠登録にあたって、出願意匠が現に商品化されているか否かは問われな い。したがって、例えば販売しようとしている製品の意匠aに関して、(そ の開発段階で検討されたり、第三者において採用されそうな)バリエーショ ンの意匠bや意匠cを重ねて登録しておくことができる。実施化されている 意匠aに多少の改変を加えた程度では、意匠bや意匠cに類似してしまうこ とになるので、第三者からすると意匠aに接近した意匠を採用し難くなる。 これによって自らの意匠aをより幅広く保護することができることになる。 この場合の意匠bや意匠cを「関連意匠」と呼ぶが、このように商品化な いし具体化されていないバリエーションの意匠を複数登録することによって 保護範囲を拡げるといった手法は意匠法でしか採り得ない。意匠法を利用す る大きなメリットの一つである。 ③ 部分意匠 製品の部分的な形態についての意匠登録が可能な点も意匠法利用の大きな メリットである(同2条1項括弧書)。なお、製品全体の意匠を「全体意匠」 と呼ぶのに対して、このような製品の部分的形態を「部分意匠」と呼ぶ。 例えば取っ手部分に特徴のあるマグカップに関し、この取っ手部分の形態 を部分意匠として意匠登録しておけば、当該取っ手部分と同様の取っ手が採 用されている限り、原則的にマグカップ本体部分がどのような形態のもので あっても、保護範囲に入る。第三者は当該マグカップの特徴部分を模倣する ことができなくなるので、これによって自らの意匠をより幅広く保護するこ とができることになる。 ④ 秘密意匠 意匠登録の存在は、一定期間、秘密にすることができる(同14条1項)。 秘密にする期間は出願人が自ら指定して請求するが、登録から最長3年の期 間であれば、自由に延長又は短縮できる(同2項)。出願人が、商品化のタ イミングに合わせて意匠登録がある事実を公にすることができるようにした ものであるが、関連意匠や部分意匠によって多重的に保護された意匠につい てその登録意匠群の全体を秘密にしておくと、第三者において、実施化され ている意匠に関してどのような権利がありどのような改変を加えれば権利侵 害を免れるのかが不明となり、そのため容易に他人の意匠に接近することが できなくなる。模倣に対する抑止力が高いともいえ、そのような視点から も、秘密意匠の利用は有効である。. 3.3. 不正競争防止法2条1項1号及び2号並びに商標法. 著名な商品形態は、商標として機能することがある。需要者が、その形. 態によって商品等の出所(商品の製造者や販売者、或いは、サービスの提 供者)を識別できる場合であり、例えば、コカ ・ コーラの瓶を見れば、そこ にたとえコカ ・ コーラの文字やロゴタイプが表されていなくとも、それがコ カ・コーラ社の商品であることが分かるといったような場合である。 このような商品形態は、不競法2条1項1号及び2号並びに商標法によっ.
(12) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. て保護され得る。 ⑴ 不正競争防止法2条1項1号 ① 周知の商品等表示 不競法に定められた不正競争行為の中に、他人の商品等表示として周知の ものと同一又は類似の商品等表示を使用して、他人の商品等と混同を生じさ せる行為が含まれている(不競法2条1項1号。以下、適宜「不競法1号」 と略す。)。このような行為をした者には、不競法によってペナルティーが与 えられる。 「商品等表示」は同法が用いる特殊な用語であるが、自らの商品又は営業 と他人の商品又は営業とを識別するために用いる表示のことであり、この概 念には、一般的な意味での商標の他、商品の容器や包装、更には商品形態や 店舗形態も含まれる。つまり、周知となっている他人の商品形態・店舗形態 と同一又は類似の商品形態・店舗形態を使用して、自らの商品等について、 当該周知の商品形態・店舗形態と出所が同一又は何等かの関連があると需要 者に誤認誤信させる行為は、不正競争行為となる。 同法3号の規制と同様に、当該商品形態の保護について特許庁等に対する 手続の必要はない。 ② 商品形態に対する同号の適用 しかしながら、具体的に同号の適用によって保護された商品形態は極く限 られている。米国アップル社のパーソナルコンピュータ「iMac」について 保護を認めた例がある程度である39)。その理由は、安易に商品形態について. 同号の保護を与えると、自由競争を妨げかねないといった懸念があるためで ある。 すなわち、商品形態は、商品の用途や機能によってそのバリエーション展 開に限界があり、例えば「自動車」の形態は一見して「自動車」と分かると いったように、そもそも多かれ少なかれ似通っている。しかも、不競法1号 による保護は期間に限界がないので、あまり簡単に同号の保護を与えると、 新たに採用できる自動車の形態が限定的となって自由競争にネガティブな影 響を与えかねない。そのため、同号の適用が自由競争に対して競争制限的な 影響を生じないよう、商品形態に対する保護は抑制的となっている。実際、 商品形態に関して同号の保護を求めた訴訟は数多くあるが、その多くの訴え が「周知の商品等表示にあたらない」として棄却されている。 ③ 店舗形態に対する同号の適用 同号の商品等表示には、店舗の形態も含まれる。理論上店舗形態に対して 同号の適用があり得ることは従来から異論のないところであったものの、上 記した商品形態についての問題と同様の問題があり、保護のハードルは高い と考えられている。その状況において、近時「コメダ珈琲」の店舗について 同号の保護を認めた仮処分決定がされ注目されている40)。 ⑵ 不正競争防止法2条1項2号 不競法1号は、周知な商品等表示に対して保護を与えるものであるが、同 2号は、需要者の間で知られている程度がより高度な「著名な商品等表示」 に対して保護を与える規定である。同号の下においては、自己の商品等表示 として他人の著名な商品等表示と同一又は類似のものを使用する行為が規制 される。同1号の場合と異なり、需要者において出所の混同が生じることは 39)東京地決平成11年9月20日判時1696・76[iMac]. 40)東京地決平成28年12月19日最高裁 HP[コメダ珈琲店 舗]. 求められないので、より強力な保護がされる。商品形態等について具体的に 同号の適用がされた事件は存在していないが、著名の域に達している商品形. 65.
(13) 66. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 態等に関しては、同号の適用の余地がある。 ⑶ 商標法 周知ないし著名な商品形態等は不競法1号及び同2号によって保護される 可能性がある。また、これらの規定によって保護される程度に有名な商品形 態等であれば、立体商標として、商標登録によっても保護され得る。 伝統的な商標は文字、図形、記号など平面的なものであるが、平成8年の 法改正によって立体的形状も商標の構成要素の一つに加えられ(商標法2条 1項)、商品形態や店舗形態についても商標登録がされる途が拓かれた。し かしながら、これらについて商標登録が認められるためには、非常に厳格な 基準を満たさなければならない。すなわち、相当程度著名な立体的形状でな ければ登録が認められないということである41)。 その理由は、不競法1号の適用が制限的である理由と概ね同様である。商 標権は存続期間の更新を繰り返すことによって半永久的に存続する。そのた め安易に商品等の立体的形状について商標登録を認めると多くの権利が堆積 して新たに採用できる形状が乏しくなる。そうとなれば自由競争が阻碍され る。商標法も市場において自由な競争が行われることを前提とした立法であ るから、その運用においては、商品の流通やサービスの提供行為それ自体を 規制することとなる事態をできる限り回避しなければならない。 また、製品の外観の保護については意匠法が存在しているという問題もあ る。意匠法は、保護期間を登録から最長20年とし、権利が消滅した後は当該 意匠をパブリックドメイン化して公衆に解放するといった機能を有している が、商標法によって半永久的に保護されてしまうと、その意味において意匠 法の規律が侵されかねない。 そこで、具体的には様々な議論があるところではあるが、現行の法運用で は、出願に係る立体的形状が商品の「形状そのものの範囲を出ないと認識さ れるにすぎない」42)場合、その出願は拒絶される(法3条1項3号) 。つま り、商品「自動車」について「自動車」と認識できる範囲の立体的形状につ いては、たとえ特徴的な形状であっても、商標登録は認められない。その上 で、出願人が、その立体的形状について、実際に使用していて、しかも商標 として著名になっていることを立証できた場合には、法3条1項3号の適用 が覆って商標登録が認められることになる(同2項)。店舗形態についても 同様の扱いである。 ちなみに、平成8年の法改正以降、法運用が硬直的となって商品等の立体 的形状が商標登録された例はほとんど存在しなかったが、知財高裁が平成 19年及び翌20年に、マグライト43)及びコカ ・ コーラのボトルの立体的形状 44) について立て続けに登録性を認めて風穴を開けた結果、昨今では若干運用が. 41) 「厳格な基準」について詳しくは、拙稿「立体商標 の登録と競争制限的影響 ─ 立体的形状に係る保護要 件の統一的解釈の可能性─」企業と法創造6巻5号. p. 135(2010)等を参照されたい。. 42)商標審査基準第3条第1項第3号. 43)知財高判平成19年6月27日判時1984・3[マグライト 立体商標] 44)知的高判平成20年6月30日判時2056. 133[コカ・コー ラ容器立体商標].
(14) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. 緩められ、ヤクルトの容器やスーパーカブの立体的形状などについても、商 標登録が認められるに至っている。 ただし、いずれにしても、よほど著名な立体的形状でなければ商標登録が 難しいことに変わりはない。 なお、著名性を獲得している立体的形状であればどのようなものでも商標 登録されるというわけではない。著名の域に達していても、商品等の「当然 に備える特徴」のみからなるものについては、商標登録が認められない(法 4条1項18号)。商品「苺」についての苺の立体的形状などがこれにあたる。 このような立体的形状について商標登録を認めてしまうと、権利者以外に誰 もその商品(例えば苺)を販売できなくなってしまい、自由競争が成立しな くなるからである。仮に審査において誤って商標登録されてしまった場合で も、そのような権利については権利行使が制限される(同26条1項5号)。. 3.4. 著作権法. 著作権法によって製品の形態が保護できるのかという問題がある。 著作権法の議論上、製品の形態を含むデザイン一般を「応用美術」と呼ぶ. が、応用美術に対する著作権保護の可否は、著作権法学における極めて大き な論点である。昭和45年の現行著作権法制定以降長く複雑な議論が交わされ てきたが、とりわけ昨今、椅子の形態を著作権法によって保護した知財高裁 の裁判例 45)が登場したことを嚆矢として、改めて百家争鳴といった状況が 生じており、なお混迷の度合いが増している。 ⑴ 問題の所在 なぜこのような議論が生じるのかについては、問題の所在が幾つかある。 理解のし易いポイントとしては、製品の外観を保護するための法律として別 途意匠法が存在している点が挙げられる。 立体商標に関連して述べたように、意匠法は、製品形態の保護期間を登録 から最長20年とし、権利消滅後はこれをパブリックドメイン化する。一方著 作権法の保護は極めて長い。現行法においては著作者の死後50年まで権利が 存続するので(著作権法50条1項)、例えば80歳まで生きたデザイナーが30 歳で開発したデザインについては、30歳から80歳までの50年に加えて更に死 後50年までの間、つまり一世紀にわたる保護が与えられることになる。この ような両権利の保護期間の乖離によって、著作権の保護を安易に認めると意 匠法の規律が潜脱されるといった問題が強く意識されることになるため、著 作権の成立を幅広く認めることに対する拒否感が生じる46)。 また、著作権法は著作物を保護することによって文化の発展に寄与しよう とする法律である(同1条)。製品形態のように、用途や機能に厳しく制約 されて成立する形態については、そもそもバリエーションの幅が狭く、それ 故にこれらバリエーションの多くに著作権が発生してしまうと後のデザイン 開発の余地が狭まって、却って文化の発展、ひいては産業の発達をも阻害し かねないといった問題も指摘される47)。 そのような事情から、少なくとも裁判所は、応用美術に対する著作権保護 には消極的であり、一般の著作物(絵画や彫刻といった著作物)とは異な 45)前掲注2 46)例えば、拙稿「応用美術の法的保護について」渋谷 達紀=高林龍=竹中俊子編集『知財年報 I.P. Annual. Report 2009』(商事法務,2009)p. 267等参照. 47)前掲注46. り、応用美術が著作権によって保護されるには純粋美術と同視し得る高度な 美的鑑賞性を要する等の高いハードルを設けて、著作権成立を事実上制限し てきた。 しかし、その一方で、応用美術にのみ他の著作物には適用されない差別的. 67.
(15) 68. 特集:各国におけるデザイン保護法制. な要件を課すことについては、多くの疑問が提出されてきた。とりわけ純粋 美術と同視し得る高度な美的鑑賞性等を求めるといった要件に関しては、当 の純粋美術の保護に対しては一切美的鑑賞性の高度性を求めない(つまりた とえ下手くそな絵画でも著作権によって保護される)こととの矛盾が強く指 摘されるとともに、美的鑑賞性が高いとか美的創作性が高いといったおよそ 裁判に馴染み難い要件を裁判所が判断する48)ことに対して厳しい批判が相 次いだ。 このような議論を受け、近年では、例えばフランス法における「美の一体 性理論」を参照するなどして、応用美術についても一般の著作物と同様の基 準によって、法2条1項1号の著作物の定義に該当するか否かを判断し、著 作権による保護の可否を判断すべきとの見解も有力に展開されてきたところ である49)。 ⑵ 近時の傾向 以上のように、従来裁判所が採用してきた「純粋美術と同視し得る」か否 かといった基準は、厳しい批判の的となったため、平成26年頃を境にして、 これを採用する裁判例がみられなくなった。 その後裁判所が採用している判断基準は、現状において、大別して2つある。 一つは、「分離可能性」理論に基づく基準である50)。すなわち、応用美術 は造形対象の実用目的に拘束されて成立するものであるところ、そのような 目的から分離できる形態についてのみ著作権による保護の可否を検討する基 準である。下位の基準として、物理的な分離可能性と観念的な分離可能性の 2つの判断基準がある。例えば、人形の付いたキーホルダーについて、実用 目的を実現する金具を物理的に取り外して人形のみにしてしまい、その上 で、当該人形部分に対する著作権保護の可否を通常の基準に従って検討する というのが、物理的な分離可能性の基準である。また、例えば製品表面に模 様が配されている場合において、当該模様が製品の実用目的と無関係のもの であれば、(物理的には剥がせないので)これを観念的に分離して(剥がし て) 、当該模様部分について著作権保護の可否を検討するのが観念的な分離 可能性の基準である。しかし、物理的分離可能性については比較的判断が容 易であるものの、観念的分離可能性については具体的な判断のし難しい面が あり(例えばタコの形状をした灰皿といったものがある場合において、灰皿 の実用目的からタコの形状のみを分離できるのかといった点については悩み が多く)、分離可能性理論については未だ解明されていない点もある。とは いえ、製品形態が製品の実用目的に基づいて成立しているものである以上、 分離可能性説を採る場合には、一般に、製品形態に対して著作権保護が認め られる可能性は低い。 もう一つの立場が、「非区別説」に基づく基準である。この基準は、応用 美術と一般の著作物とを区別せず同様の基準により保護の可否を判断するも のであり、作者の「何らかの個性が発揮されたもの」であれば保護を認める とするものである。学説としては、同様の説が近年有力に主張されている 48)裁判官は法律の専門家であって美術の専門家ではない。. が、しかし裁判所がこれを採用した例は僅かである。そのうちの一つが前掲. 49)例えば上野達弘「応用美術の著作権保護 ─『段階理. の椅子の形態についての裁判例であり51)、非区別説を適用して著作権の成立. 論』を超えて ─」パテント67巻別冊11号(2014)p.105. を認めたわが国で唯一の例である。しかし、この裁判例に対しては反対説も. 等. 50) 例 え ば、 知 財 高 判 平 成26年 8 月28日 判 時2238・91 [ファッションショー控訴審]等 51)前掲注2 52)前掲注8. 根強く、必ずしも裁判実務として一般化したとは言い難い。 先に不競法3号に関して例に挙げた小型の加湿器の事件では、同号該当性 の以外にも著作権の成立の如何がもう一つの争点となった52)。この裁判にお.
(16) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. いては前掲の椅子の事件とまったく同じ非区別説に基づく判断基準が用いら れたが、当該基準に基づいて、逆に著作権の成立が否定されている。この加 湿器の形態は、「アイデアを具現化したものにすぎない」、「(ありふれた形態 を)適宜の選択にすぎない」、「平凡な表現手法又は形状」にすぎないので作 者の個性が発揮されたものとはいえないとの判断がされたものである。しか し、製品の形態は、もとより一般にアイデアを具現化して成るものであり、 また、通常ありふれた形態を適宜選択して成るものともいえるから、この点 についてはより精緻な下位基準を定立しないと結論の予測可能性が害され る。また、なにをもって「平凡」な表現手法とするのかについても、その判 断手法を明確化しないと、結論が判断主体の恣意に流れることにもなりかね ない。そのような意味において、非区別説も、具体的な事件への適用につい ては未だ発展途上といえる。 ⑶ 小括 応用美術の著作権保護については多くの学説があり、また、裁判所の判断 も一定していない。しかし、実際に製品形態について非区別説を適用して著 作権保護を認めた例が未だ1件しかないことからすると、少なくとも現状は、 製品の形態について著作権による保護を求めるのは難しい状況といえる。. 4.むすび 以上のとおり、製品の形態は、主に意匠法と不競法3号によってその保護 が図られており、また、厳しい要件を満たすことによって商標法や不競法1 号及び同2号によって、更には著作権法によっても保護される可能性がある。 製品形態の法的保護に関しては、とりわけ商標法や著作権法による保護な どとの関係で複雑な議論がされていることもあり、これを網羅的に理解する ことが難しいものの、本稿がその一助となれば幸いである。. 69.
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ヨーロッパにおいても、似たような生者と死者との関係ぱみられる。中世農村社会における祭り
「カキが一番おいしいのは 2 月。 『海のミルク』と言われるくらい、ミネラルが豊富だか らおいしい。今年は気候の影響で 40~50kg
海なし県なので海の仕事についてよく知らなかったけど、この体験を通して海で楽しむ人のかげで、海を
巣造りから雛が生まれるころの大事な時 期は、深い雪に被われて人が入っていけ
賠償請求が認められている︒ 強姦罪の改正をめぐる状況について顕著な変化はない︒