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申請到達前における申請権の保護-香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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(1)

鹿

申 請 が 行 政 庁 の 事 務 所 に 到 達 す れ ば 、 そ の 時 点 か ら 行 政 庁 に は 審 査 義 務 が 発 生 し 、 相 当 の 期 間 内 に 申 請 に 対 す る 応 答 処 分 を 行 わ ね ば な ら な い 。 到 達 主 義 を 採 用 し た 行 政 手 続 法 第 七 条 は 、 こ の 原 則 を 明 ら か に し て い る が 、 同 法 制 定 以 降 、 申 請 の 不 受 理 ・ 返 戻 と い っ た 不 明 朗 な 扱 い に 対 し 、 裁 判 所 は 、 手 続 法 に 照 ら し て 厳 し い 態 度 で 臨 ん で い る と い っ て よ い で あ ろ う︵1 ︶ 。 し か し 、 申 請 権 の 行 使 に 否 定 的 に 働 く 行 政 の 対 応 は 、 申 請 到 達 後 に お け る 申 請 書 の 返 戻 や 留 置 と い っ た も の に 限 ら れ な い 。 申 請 用 紙 の 交 付 拒 否 、 あ る い は 、 事 前 審 査 を 通 じ て 申 請 を 断 念 さ せ る 指 導 を 行 う な ど 、 申 請 前 段 階 に お い て も み ら れ る 。 し か し 、 ひ と た び 申 請 の 到 達 が 確 保 さ れ る と 、 行 政 庁 が 審 査 応 答 義 務 を 回 避 す る こ と は 手 続 法 七 条 に 照 ら し て 原 則 不 可 能 と 考 え ら れ 、 そ れ ゆ え 、 そ の 正 当 性 は 別 と し て 、 何 ら か の 理 由 で 申 請 内 容 を 認 め る こ と が 不 適 当 と

29−2−159(香法2009) 三 一

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行 政 側 が 考 え る な ら ば 、 申 請 前 段 階 で の 過 剰 な 関 与 が 増 加 す る こ と も 考 え ら れ る 。 生 活 保 護 申 請 の 実 務 で は 、 俗 に 水 際 作 戦 と 呼 ば れ る 窓 口 で の 申 請 排 除 が 従 前 か ら 指 摘 さ れ て き た が︵2 ︶ 、 近 年 に お い て も 再 び 社 会 的 問 題 と な っ た と こ ろ で あ る︵3 ︶ 。 本 稿 は 、 申 請 到 達 前 に お け る 申 請 権 の 保 護 と い う 観 点 か ら 、 七 条 を 中 心 と し た 行 政 手 続 法 に よ る 規 律 が ど の よ う に 機 能 す る か を 、 裁 判 例 を 素 材 と し な が ら 考 察 す る 。 な お 、 申 請 到 達 前 を 考 察 範 囲 と し た の は 、 到 達 後 と は 異 な る 次 の よ う な 状 況 が あ る こ と に よ る 。 第 一 に 、 申 請 到 達 後 に お い て は 、 申 請 者 側 の 行 為 は 完 了 し て お り 、 法 的 評 価 の 対 象 は 主 に 行 政 側 の 作 為 ・ 不 作 為 で あ る が 、 申 請 到 達 前 に お い て は 、 最 終 的 に 申 請 を 行 う か 否 か は 申 請 希 望 者 の 意 思 決 定 に よ る こ と か ら 、 私 人 側 の 行 為 も 法 的 評 価 の 対 象 と な る 。 た と え ば 、 受 領 を 拒 否 さ れ た 申 請 書 を 持 ち 帰 っ た 場 合 、 申 請 の 到 達 は ど の よ う に 評 価 さ れ る か と い っ た 問 題 で あ る 。 第 二 に 、 申 請 到 達 後 に お い て 生 じ る 返 戻 や 留 置 な ど は 申 請 書 の 取 扱 い を 巡 る も の で 、 こ れ を 行 政 手 続 法 か ら 捕 捉 し 評 価 す る こ と は 比 較 的 容 易 と い え る 。 他 方 、 申 請 到 達 前 に お け る 行 政 側 の 関 与 は 多 様 で 、 し か も 、 申 請 権 の 行 使 に 否 定 的 に 働 く こ と が 必 ず し も 明 ら か で は な い 場 合 も あ る 。 事 前 指 導 な ど は 申 請 希 望 者 が 任 意 に 応 じ る 限 り 、 行 政 指 導 関 連 の 手 続 規 定 を 適 用 す る こ と に も 限 界 が 生 じ る 。 第 三 に 、 行 政 手 続 法 に お け る 申 請 関 連 の 規 定 を み れ ば 、 七 条 及 び 三 三 条 の い ず れ も 文 言 上 は 申 請 到 達 後 の 規 定 と な っ て お り 、 申 請 到 達 前 に み ら れ る 行 政 の 関 与 に 、 ど の 程 度 手 続 法 の 規 範 が 及 び う る か と い う 問 題 も あ る 。 な お 、 本 稿 で は 、 申 請 時 と そ れ 以 前 の 申 請 準 備 段 階 と に 区 分 し 、 前 者 に お い て は 主 に 申 請 の 到 達 を め ぐ る 諸 問 題 を ︵ 第 三 節 ︶ 、 後 者 に お い て は 事 前 指 導 に お い て 生 じ る 申 請 権 侵 害 ︵ 第 四 節 ︶ を 扱 う こ と に す る 。 ︵ 1 ︶ 名 古 屋 高 裁 判 平 成 一 五 年 一 一 月 一 九 日 判 決 ︵ 判 タ 一 一 六 七 号 一 五 三 頁 ︶ 、 富 山 地 裁 平 成 一 九 年 八 月 二 九 日 判 決 ︵ 判 タ 一 二 七 九 号 三 二 29−2−160(香法2009)

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一 四 六 頁 、 判 例 地 方 自 治 三 〇 九 号 二 三 頁 ︶ 等 。 ︵ 2 ︶ 生 活 保 護 実 務 に お け る 窓 口 指 導 等 の 問 題 に つ い て は 、 尾 藤 廣 喜 ・ 中 川 健 太 朗 ・ 木 下 秀 雄 ﹃ 誰 も 書 か な か っ た 生 活 保 護 法 ﹄ ︵ 法 律 文 化 社 、 一 九 九 一 年 ︶ 四 三 頁 以 下 参 照 。 ︵ 3 ︶ 厚 生 労 働 省 は 、 平 成 二 〇 年 四 月 一 日 か ら 生 活 保 護 法 に よ る 保 護 の 実 施 要 領 等 を 改 訂 し 、 自 治 体 窓 口 で の 申 請 権 の 侵 害 や 受 給 辞 退 の 強 要 禁 止 を 定 め 全 国 の 自 治 体 に 通 知 し て い る 。 相 談 ・ 申 請 時 に お け る 窓 口 対 応 と し て は 、 申 請 権 を 侵 害 し な い こ と は 言 う ま で も な く 、 申 請 権 を 侵 害 し て い る と 疑 わ れ る よ う な 行 為 自 体 も 厳 に 慎 む べ き こ と 、 生 活 保 護 制 度 の 仕 組 み に つ い て 十 分 な 説 明 を 行 い 、 保 護 申 請 の 意 思 を 確 認 す る こ と 、 保 護 申 請 の 意 思 が 確 認 さ れ た 者 に 対 し て は 、 速 や か に 保 護 申 請 書 を 交 付 す る こ と 、 生 活 保 護 に 該 当 し な い こ と が 明 ら か な 場 合 で あ っ て も 、 申 請 権 を 有 す る 者 か ら 申 請 の 意 思 が 表 明 さ れ た 場 合 に は 申 請 書 を 交 付 す る こ と 、 ﹁ 扶 養 義 務 者 と 相 談 し て か ら で な い と 申 請 を 受 け 付 け な い ﹂ な ど の 対 応 は 申 請 権 の 侵 害 に 当 た る お そ れ が あ る こ と 、 相 談 者 に 対 し て 扶 養 が 保 護 の 要 件 で あ る か の ご と く 説 明 を 行 い 、 保 護 の 申 請 を 諦 め さ せ る よ う な こ と が あ れ ば 、 申 請 権 の 侵 害 に あ た る お そ れ が あ る こ と 、 等 が 通 知 さ れ て い る 。 参 照 、 ﹃ 生 活 保 護 手 帳 二 〇 〇 八 年 版 ﹄ ︵ 中 央 法 規 、 二 〇 〇 八 年 ︶ 二 七 八 ∼ 二 七 九 頁 。

行 政 手 続 法 の 申 請 関 係 規 定 に お い て は 、 申 請 が 行 政 庁 の 事 務 所 に 到 達 し た 時 点 が 一 つ の 節 目 と な っ て い る 。 行 政 庁 の 審 査 応 答 義 務 の 発 生 に つ き 到 達 主 義 を 定 め た 七 条 は 、 文 言 上 、 申 請 の 到 達 後 の 規 定 と な っ て お り 、 申 請 の 取 下 げ 又 は 内 容 の 変 更 を 求 め る 行 政 指 導 に 関 す る 三 三 条 も 同 様 で あ る 。 本 節 で は 、 申 請 関 連 の 手 続 規 定 が 、 申 請 到 達 前 に お い て ど の よ う に 機 能 す る か を ま ず 確 認 し て お く こ と と す る 。 手 続 法 三 三 条 は 、 申 請 の 取 下 げ 又 は 内 容 の 変 更 を 求 め る 行 政 指 導 に 関 す る 規 定 で あ る が 、 文 言 か ら 明 ら か な よ う に 、 本 条 の 対 象 と な る 行 政 指 導 は 申 請 到 達 後 の も の で あ る︵4 ︶ 。 も っ と も 、 申 請 権 の 行 使 に 否 定 的 に 働 く 行 政 指 導︵5 ︶ は 、 申 請 の 29−2−161(香法2009) 三 三

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断 念 を 求 め る 行 政 指 導 な ど 、 申 請 到 達 前 に お い て も あ り う る も の で 、 こ れ に は 三 三 条 の 類 推 適 用 が 及 ぶ と 考 え ら れ る︵6 ︶ 。 三 二 条 は 、 行 政 指 導 の 総 則 規 定 と し て 任 意 性 原 則 を 定 め る が 、 三 二 条 の 原 則 を 申 請 手 続 の 場 面 に お い て 具 体 化 し た と い う 意 味 で 三 三 条 が 特 則 で あ る と の 理 解︵7 ︶ か ら は 、 申 請 到 達 前 に お け る 行 政 指 導 に つ い て も 、 結 論 と し て は 三 三 条 と 同 様 の 規 律 が 及 ぶ と 解 し て よ い で あ ろ う 。 三 三 条 が 三 二 条 の 各 論 規 定 と し て 置 か れ た 趣 旨 が 、 形 式 上 申 請 者 自 身 が 選 択 し た 行 為 に つ い て 任 意 性 を み ず か ら 否 定 し そ れ を 証 明 す る こ と が 容 易 で な い こ と を 考 慮 し た も の で あ る な ら ば︵8 ︶ 、 そ の 趣 旨 は 申 請 到 達 前 の 行 政 指 導 に も 同 様 に 妥 当 す る 。 な お 、 申 請 前 段 階 で 行 わ れ る 行 政 指 導 に 、 申 請 希 望 者 が 従 わ な か っ た こ と を 理 由 に 、 申 請 書 の 不 交 付 や 受 領 拒 否 等 の 対 応 を と れ ば 、 三 二 条 二 項 が 禁 ず る 不 利 益 な 取 扱 い に 該 当 す る こ と も 考 え ら れ る︵9 ︶ 。 手 続 法 七 条 に つ い て み れ ば 、 同 条 が 到 達 主 義 を 採 用 し 、 申 請 に 基 づ く 処 分 の 手 続 か ら 講 学 上 の ﹁ 受 理 ﹂ 概 念 を 排 除 し た こ と に よ り 、 申 請 が 行 わ れ れ ば そ の 時 点 か ら 行 政 庁 は 審 査 を 開 始 す る 義 務 を 負 い 、 行 政 側 に は 申 請 を 受 け 付 け な い と い う 選 択 肢 は 無 い こ と に な る 。 こ の こ と は 申 請 権 の 概 念 か ら も 説 明 さ れ 、 申 請 の 受 領 を 求 め る 権 利 も 申 請 権 の 内 容 の 一 つ と し て 含 ま れ る と 理 解 さ れ る10︵ ︶ 。 以 上 の よ う に 、 行 政 指 導 に 関 す る 手 続 法 の 規 律 は 、 申 請 到 達 前 に も 及 び 、 ま た 、 七 条 が 申 請 の 受 領 を 行 政 庁 に 義 務 付 け る こ と か ら 、 申 請 到 達 の 前 後 を 通 じ て 、 申 請 権 の 保 護 に は 一 応 の 手 続 的 措 置 が 施 さ れ て い る と み え る 。 し か し 、 た と え ば 、 申 請 の 受 領 が 拒 否 さ れ 、 申 請 希 望 者 が 申 請 書 を 持 ち 帰 っ た 場 合 、 申 請 の 到 達 が 確 保 さ れ な い と す れ ば 七 条 の 適 用 に 問 題 を 生 じ 、 ま た 、 任 意 の 持 ち 帰 り と 判 断 さ れ れ ば 、 行 政 指 導 関 連 の 規 律 に も 限 界 が 生 じ る 。 あ る い は 、 事 前 審 査 の 結 果 、 申 請 書 用 紙 の 交 付 が 受 け ら れ な い 場 合 で も 、 申 請 希 望 者 が 事 前 審 査 に 任 意 に 応 じ て い る と 評 価 さ れ る な ら ば 同 様 の 問 題 が 生 じ る 。 以 上 の よ う な 状 況 は 、 時 系 列 的 に は 、 到 達 の 判 定 問 題 が 生 じ る 申 請 行 為 時 点 と 、 そ れ 以 三 四 29−2−162(香法2009)

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前 の 申 請 準 備 段 階 に 分 け る こ と が で き る 。 以 下 こ の 区 分 に よ り 、 各 段 階 で 生 じ る 諸 問 題 と 行 政 手 続 法 と の 関 係 に つ き 、 関 連 す る 裁 判 例 を 材 料 と し な が ら 考 察 す る こ と と す る 。 ︵ 4 ︶ 室 井 力 ・ 芝 池 義 一 ・ 浜 川 清 編 ﹃ コ ン メ ン タ ー ル 行 政 法 ! 行 政 手 続 法 ・ 行 政 不 服 審 査 法 [ 第 二 版 ] ﹄ ︵ 日 本 評 論 社 、 二 〇 〇 八 年 ︶ 二 四 六 頁 [ 紙 野 健 二 ] ︹ 以 下 ﹃ コ ン メ ン タ ー ル ﹄ と 略 記 ︺ 。 ︵ 5 ︶ 手 続 法 三 三 条 に い う 申 請 の 取 下 げ を 求 め る 行 政 指 導 と は 、 申 請 者 が い っ た ん 行 っ た 申 請 を 自 主 的 に 撤 回 し た と い う 外 観 を と ら せ て 申 請 の 事 実 が な か っ た こ と と す る も の で あ る ︵ 前 掲 ・ 室 井= 芝 池= 浜 川 編 ﹃ コ ン メ ン タ ー ル ﹄ 二 四 五 頁 [ 紙 野 ] 参 照 ︶ 。 こ の よ う な 指 導 は 、 行 政 庁 の 側 が 、 拒 否 処 分 は 違 法 と さ れ る お そ れ が あ る が 、 申 請 ど お り の 処 分 を 通 常 の 期 間 内 に 行 う こ と が 適 切 で な い と 考 え て い る 場 合 、 す な わ ち 法 令 上 裁 量 権 が 認 め ら れ て い な い 場 合 に 行 わ れ る こ と が 想 定 さ れ 、 本 条 が 設 け ら れ た こ と に つ き 、 塩 野 宏= 高 木 光 ﹃ 条 解 行 政 手 続 法 ﹄ ︵ 弘 文 堂 、 二 〇 〇 〇 年 ︶ 三 二 六 頁 ︹ 以 下 ﹃ 条 解 ﹄ と 略 記 ︺ 参 照 。 指 導 に 従 い 申 請 の 取 下 げ が な さ れ れ ば 、 行 政 上 の 不 服 申 立 て 、 抗 告 訴 訟 等 に よ る 救 済 の 機 会 が 失 わ れ る お そ れ が 生 じ る こ と に つ き 、 行 政 管 理 研 究 セ ン タ ー 編 ﹃ 逐 条 解 説 行 政 手 続 法 [ 一 八 年 改 訂 版 ] ﹄ ︵ ぎ ょ う せ い 、 二 〇 〇 六 年 ︶ 二 五 四 頁 ︹ 以 下 ﹃ 逐 条 解 説 ﹄ と 略 記 ︺ 参 照 。 ︵ 6 ︶ 兼 子 仁 ﹃ 行 政 手 続 法 ﹄ ︵ 岩 波 新 書 、 一 九 九 四 年 ︶ 七 二 頁 、 小 早 川 光 郎 編 ﹃ 行 政 手 続 法 逐 条 研 究 ﹄ ︵ 有 斐 閣 ジ ュ リ ス ト 増 刊 、 一 九 九 六 年 ︶ 二 七 二 頁 以 下 ︹ 以 下 ﹃ 逐 条 研 究 ﹄ と 略 記 ︺ 。 ︵ 7 ︶ 前 掲 ・ 塩 野= 高 木 ﹃ 条 解 ﹄ 三 二 六 頁 参 照 。 手 続 法 三 三 条 お よ び 三 四 条 は 、 三 二 条 を 特 に 問 題 が 生 じ や す い 局 面 に お い て 具 体 化 し た と も の で あ る こ と に つ き 、 前 掲 ・ 小 早 川 編 ﹃ 逐 条 研 究 ﹄ 二 七 二 頁 参 照 。 ︵ 8 ︶ 千 葉 勇 夫 ﹁ 行 政 手 続 法 に 見 る 行 政 指 導 ︵ 二 ︶ ﹂ 大 阪 経 大 論 集 四 七 巻 二 号 ︵ 一 九 九 六 年 ︶ 八 一 頁 参 照 。 ︵ 9 ︶ 前 掲 ・ 兼 子 ﹃ 行 政 手 続 法 ﹄ 七 二 頁 参 照 。 ︵ 10 ︶ 薄 井 一 成 ﹁ 申 請 権 の 保 護 ﹂ ﹃ 行 政 法 の 争 点 [ 第 三 版 ] ﹄ ︵ 有 斐 閣 、 二 〇 〇 四 年 ︶ 五 四 頁 参 照 。 外 国 法 制 と し て 参 考 と な る も の と し て 、 ド イ ツ 行 政 手 続 法 二 四 条 三 項 の 定 め る 申 請 受 付 請 求 権 に つ い て 、 人 見 剛 ﹁ 行 政 処 分 申 請 権 に つ い て ﹂ 兼 子 仁 ・ 磯 部 力 編 ﹃ 手 続 法 的 行 政 法 学 の 理 論 ﹄ ︹ 勁 草 書 房 、 一 九 九 五 年 ︺ 一 六 二 頁 以 下 参 照 。 29−2−163(香法2009) 三 五

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手 続 法 七 条 は 、 申 請 の 到 達 に よ り 行 政 庁 に 審 査 応 答 義 務 が 発 生 す る こ と を 定 め る が 、 ﹁ 到 達 ﹂ の 意 味 に つ い て は 、 手 続 法 に 定 義 は 置 か れ て お ら ず 、 民 法 に お け る 意 思 表 示 の 到 達 と 同 様 に 解 す る こ と に な る 。 意 思 表 示 の 到 達 に つ い て は 民 法 九 七 条 が 到 達 主 義 を 定 め て い る が 、 そ こ に い う ﹁ 到 達 ﹂ と は 、 意 思 表 示 が 相 手 方 の 了 知 可 能 な 勢 力 範 囲 に 置 か れ る こ と を い う と 解 さ れ て お り11︵ ︶ 、 申 請 の 到 達 も こ れ と 同 様 に 解 さ れ る 。 こ の 意 味 で の ﹁ 到 達 ﹂ は 、 も っ ぱ ら 事 実 と し て の 到 達 を 意 味 す る も の で 、 受 領 者 で あ る 行 政 側 の 意 思 が 介 在 す る 余 地 は な い12︵ ︶ 。 申 請 の 到 達 が 紛 争 事 例 と な る の は 、 主 に 窓 口 提 出 の 場 合 で あ り 、 申 請 書 の 受 領 を 拒 否 す る 行 政 職 員 と 申 請 を し よ う と す る 者 の 間 で 、 受 け 取 る ・ 受 け 取 ら な い 、 申 請 書 を 置 い て 帰 る ・ 持 ち 帰 ら せ る と い っ た 押 し 問 答 が 生 じ る こ と に な る 。 申 請 書 等 の 郵 送 を 考 え れ ば 不 毛 な や り 取 り に も 思 え る13︵ ︶ 。 ま た 、 オ ン ラ イ ン 申 請 の 場 合 、 窓 口 で 発 生 す る よ う な 問 題 は ほ と ん ど 生 じ え な い で あ ろ う14︵ ︶ 。 事 務 所 窓 口 に お け る 申 請 書 受 領 拒 否 を 考 え て み る と 、 民 事 関 係 で 生 じ る 意 思 表 示 の 受 領 拒 否 は 、 意 思 表 示 の 到 達 を 妨 げ る も の で は な い と す る の が 判 例 で あ る15︵ ︶ 。 こ の 点 は 、 申 請 行 為 に つ い て も 別 に 解 す る 理 由 は な い で あ ろ う 。 た だ し 、 申 請 し よ う と す る 者 が 申 請 書 を 持 ち 帰 っ た 場 合 に は 問 題 が 生 じ る 。 次 の 判 例 は 、 そ の よ う な 持 ち 帰 り 事 例 で あ る 。 神 戸 地 裁 平 成 一 二 年 七 月 一 一 日 判 決 ︵ 訟 務 月 報 四 八 巻 八 号 一 九 四 六 頁 ・ 判 例 地 方 自 治 二 一 四 号 七 六 頁 ︶ は 、 産 業 廃 棄 物 処 理 施 設 設 置 許 可 の 申 請 書 が 、 県 産 業 廃 棄 物 条 例 に 基 づ き 求 め ら れ る 説 明 会 等 実 施 状 況 報 告 書 の 提 出 等 が 未 了 で 三 六 29−2−164(香法2009)

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あ る と の 理 由 で 受 領 拒 否 さ れ た 事 案 で あ る 。 申 請 行 為 時 、 原 告 ら と 行 政 職 員 と が 県 事 務 所 に て テ ー ブ ル を 挟 ん で の 面 談 と な り 、 ﹁ 申 請 書 三 部 と 控 え を 持 っ て 来 た の で 受 け 取 っ て い た だ き た い ﹂ 、 ﹁ 条 例 の 手 続 が 終 了 し て い な い の で 、 こ の 申 請 書 は 受 理 で き な い ﹂ 、 ﹁ 受 け 取 れ な い と い う こ と で あ れ ば 申 請 書 を 置 い て 帰 る ﹂ と い っ た や り 取 り が あ っ た が 、 結 局 、 原 告 側 は 申 請 書 類 を 持 ち 帰 っ て い る 。 面 談 の 間 、 申 請 書 類 は テ ー ブ ル に 積 み 置 か れ て い た が 、 原 告 側 が 差 し 出 し た り 、 行 政 職 員 が 手 に 取 り 目 を 通 す と い う こ と は な か っ た と い う 状 況 で あ っ た 。 裁 判 所 は 、 ﹁ 本 件 申 請 書 は 、 未 だ 被 告 の 了 知 し 得 る 支 配 範 囲 に 入 っ た と は 認 め ら れ ず 、 被 告 に 到 達 し た と は い え な い ⋮ 副 所 長 の 右 発 言 は 、 前 記 認 定 の 状 況 に 照 ら せ ば 、 仮 に 現 段 階 で 申 請 書 が 提 出 さ れ た と し て も 条 例 の 手 続 が 終 了 し て い な い か ら 受 理 で き な い と の 趣 旨 と 考 え ら れ る か ら 、 右 の よ う な 応 答 が な さ れ た か ら と い っ て 、 本 件 申 請 書 が 現 実 に 被 告 に 到 達 し た と は 認 め ら れ な い 。 ⋮ 以 上 の と お り 、 本 件 申 請 書 に よ る 廃 棄 物 処 理 法 一 五 条 一 項 に 基 づ く 原 告 の 申 請 は 被 告 に 到 達 し た と は い え な い か ら 、 こ れ に 対 す る 審 査 、 応 答 義 務 は 未 だ 発 生 し て い な い ﹂ と し て 、 原 告 の 予 備 的 請 求 で あ る 不 作 為 の 違 法 確 認 請 求 を 退 け て い る16︵ ︶ 。 判 決 が 本 件 で 行 政 職 員 が 現 実 に 申 請 書 の 内 容 に 目 を 通 し て い な い 点 を 捉 え て 、 申 請 の 到 達 を 否 定 し た と す れ ば 、 そ れ は 了 知 主 義 に 偏 っ た 判 断 で あ る 。 民 事 関 係 で も 意 思 表 示 の 到 達 に つ い て 現 実 の ﹁ 了 知 ﹂ ま で は 不 要 と さ れ て い る17︵ ︶ 。 同 様 に 、 申 請 に お い て も 申 請 内 容 の 了 知 は 不 要 で 、 た と え ば 、 提 出 さ れ た 申 請 に 行 政 側 が 目 を 通 さ ず 、 そ の ま ま 返 送 し た と し て も 、 到 達 が 否 定 さ れ る わ け で は な い 。 ま た 、 申 請 書 が 持 ち 帰 ら れ た こ と か ら 、 爾 後 の 審 査 が 現 実 的 に 不 可 能 と な る と い う こ と は 確 か で あ る が 、 こ れ も 法 七 条 の 到 達 や 審 査 応 答 義 務 の 存 否 と は 無 縁 で あ る18︵ ︶ 。 少 な く と も 本 件 で は 、 対 応 し た 行 政 職 員 は 原 告 ら に 申 請 意 思 が あ る こ と は 認 識 で き て お り 、 申 請 意 思 の 表 示 行 為 に つ い て も 、 申 請 書 を 受 領 し よ う と す れ ば で き た こ と か ら 考 え る と ﹁ 了 知 し 得 る ﹂ 状 態 に は あ っ た と い え 、 ﹁ 到 達 ﹂ は 確 保 さ れ た と 考 え ら 29−2−165(香法2009) 三 七

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れ る19︵ ︶ 。 こ の 事 案 で 問 題 と な る の は 、 申 請 者 が 申 請 書 を 持 ち 帰 っ た こ と を ど う 評 価 す る か で あ り 、 一 旦 申 請 が 到 達 状 態 に 達 し た と し て も 、 後 に 申 請 が 撤 回 さ れ た と 評 価 さ れ る 可 能 性 が 生 じ る 。 当 初 の 申 請 行 為 は 、 到 達 の 認 定 を 通 じ て 手 続 法 七 条 か ら 捕 捉 さ れ る が 、 取 下 げ 行 為 は 行 政 手 続 法 の 関 知 す る と こ ろ で は な く 、 私 人 の 公 法 行 為 論 に お い て 実 体 問 題 と し て 考 察 さ れ る と こ ろ と な る 。 手 続 法 二 条 三 号 は 、 申 請 の 定 義 と し て ﹁ 法 令 に 基 づ き 、 行 政 庁 の 許 可 、 認 可 、 免 許 そ の 他 の 自 己 に 対 し 何 ら か の 利 益 を 付 与 す る 処 分 ︵ 以 下 ﹁ 許 認 可 等 ﹂ と い う 。 ︶ を 求 め る 行 為 で あ っ て 、 当 該 行 為 に 対 し て 行 政 庁 が 諾 否 の 応 答 を す べ き こ と と さ れ て い る も の を い う ﹂ と す る 。 こ の 定 義 規 定 は 、 申 請 の 根 拠 と 申 請 が 求 め る 対 象 の 二 点 を 定 め 輪 郭 を 描 く が20︵ ︶ 、 手 続 法 で あ る ゆ え に 、 申 請 自 体 の 実 体 部 分 に つ い て は 触 れ て い な い 。 申 請 は 、 こ れ を 意 思 表 示 で あ る と 理 解 す る な ら ば 、 申 請 意 思 と 表 示 行 為 の 二 要 素 に 分 け ら れ る 。 各 要 素 に 問 題 が 生 じ る と 、 申 請 意 思 が 欠 け る 場 合 、 表 示 行 為 が 欠 け る 場 合 、 両 方 が 欠 け る 場 合 の 三 様 と な る 。 最 後 の 類 型 は 申 請 の 不 存 在 で あ り 法 的 に は 問 題 と な ら な い 。 表 示 行 為 が 欠 け る と 、 手 続 法 七 条 に い う 到 達 の 認 定 は 不 能 で あ る か ら 、 行 政 手 続 法 が 関 与 す る の は 、 申 請 意 思 に 欠 け る が 表 示 行 為 は 正 常 な 場 合 の み で あ る 。 典 型 的 に は 、 行 政 庁 の 事 務 所 に 到 達 し た も の が 、 請 願 ・ 情 願 等 の 類 な の か 申 請 な の か が 判 然 と し な い 場 合 が こ れ に あ た る 。 手 続 的 対 応 と し て は 、 手 続 法 七 条 の 到 達 を 認 め な い か 、 申 請 の 成 立 を 認 め て 補 正 等 を 求 め る か で 見 解 は 分 か れ る21︵ ︶ 。 申 請 意 思 は 存 在 す る も の の 表 示 行 為 が 欠 け る 場 合 は 、 す で に 行 政 手 続 法 の 外 の 問 題 で あ る が 、 意 思 表 示 の 一 般 理 論 か ら は 、 そ も そ も 表 示 行 為 に 欠 け る な ら ば 意 思 表 示 は 成 立 し な い 。 し か し 、 後 に み る よ う に 、 申 請 に 関 す る 表 示 行 為 三 八 29−2−166(香法2009)

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の 存 否 認 定 は 微 妙 な 問 題 と な る 事 例 が み ら れ る 。 こ こ で 、 前 掲 神 戸 地 裁 平 成 一 二 年 判 決 の 申 請 書 持 ち 帰 り 事 例 を 再 び 考 え て み る と 、 当 初 の 申 請 は 、 申 請 意 思 、 表 示 行 為 双 方 に 問 題 は な く 、 手 続 法 七 条 の 到 達 は 確 保 さ れ た と 考 え ら れ る 。 問 題 は 、 申 請 書 の 持 ち 帰 り に よ り 、 申 請 取 下 げ ︵ 撤 回 ︶ が 成 立 し た か で あ る 。 申 請 取 下 げ も 申 請 同 様 に 意 思 表 示 で あ る か ら 、 や は り 取 下 げ の 意 思 と 表 示 行 為 の 二 要 素 か ら 成 り 立 つ 。 解 釈 が 分 か れ る の は 、 申 請 取 下 げ の 成 立 判 定 に お い て 、 こ の 二 要 素 の い ず れ を 重 視 す る か で あ り 、 意 思 主 義 と 表 示 主 義 の 対 立 が あ る と こ ろ で あ る 。 私 見 で は 、 私 人 の 公 法 行 為 に つ い て は 、 行 政 法 上 の 法 律 関 係 と い え ど も も 、 行 政 庁 の 意 思 表 示 と 私 人 の 意 思 表 示 と を 同 視 す る こ と は で き ず 、 む し ろ 、 行 政 法 上 の 法 律 関 係 ゆ え に 、 行 政 側 の 信 頼 保 護 や 取 引 の 安 全 確 保 を 考 慮 す る 必 要 の な い こ と か ら 、 申 請 権 の 保 護 と い う 観 点 か ら も 、 私 人 の 意 思 ︵ 真 意 ︶ を 重 視 す べ き で あ る と 考 え る22︵ ︶ 。 こ の 観 点 か ら 、 申 請 書 の 持 ち 帰 り が 問 題 と さ れ た 別 の 裁 判 例 を と り あ げ て み よ う 。 名 古 屋 高 裁 平 成 一 五 年 一 一 月 一 九 日 第 一 部 判 決 ︵ 判 タ 一 一 六 七 号 一 五 三 頁 ︶ は 、 病 院 開 設 許 可 申 請 の 事 案 で あ る 。 申 請 者 は 、 合 計 六 回 に 渡 り 提 出 し た 病 院 開 設 許 可 申 請 書 が い ず れ も 返 戻 さ れ た が 、 第 四 回 目 の 申 請 書 提 出 時 、 面 談 に お い て 県 の 担 当 者 か ら 病 院 開 設 計 画 の 断 念 を 求 め ら れ 、 帰 り 際 に 手 渡 し で 申 請 書 を 返 戻 さ れ た た め 、 や む な く 持 ち 帰 っ て い る 。 県 側 は 、 申 請 者 が 返 戻 を 承 諾 し た 旨 主 張 し た が 、 裁 判 所 は ﹁ 申 請 書 の 持 ち 帰 り が そ の 真 意 に 基 づ く 同 意 か ら の も の と い う こ と は で き な い ﹂ と し て 退 け て い る23︵ ︶ 。 申 請 書 の 持 ち 帰 り が 、 行 政 側 の 頑 な な 受 領 拒 否 に よ る も の で あ れ ば 、 持 ち 帰 り と い う 行 為 の 外 観 に 捉 わ れ る こ と な く 申 請 者 の 真 意 を 探 究 し た 点 で 正 当 で あ る と 思 わ れ る 。 申 請 意 思 が 存 在 す る 場 合 で も 表 示 行 為 が 欠 け れ ば 有 効 な 申 請 と は な ら な い 。 し か し 、 申 請 の 表 示 行 為 の 成 立 は 、 そ 29−2−167(香法2009) 三 九

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の 判 定 が 微 妙 と な る 場 合 が あ る 。 次 の 事 案 は 、 生 活 保 護 申 請 用 紙 の 交 付 請 求 と 口 頭 に よ る 申 請 の 成 立 と の 関 係 が 争 点 と な っ た も の で あ る 。 原 告 が 、 平 成 八 年 四 月 一 日 に 生 野 区 福 祉 事 務 所 に お い て 生 活 保 護 開 始 申 請 書 用 紙 の 交 付 を 要 求 し た と こ ろ 、 同 事 務 所 の 相 談 員 と の 面 談 に お い て 、 親 族 の 扶 養 義 務 の 関 係 を 巡 っ て 論 争 と な り 、 申 請 書 用 紙 は 交 付 さ れ な い ま ま 持 ち 越 し と な る 。 原 告 は 、 そ の 後 も 数 度 に わ た り 申 請 書 の 交 付 を 求 め 、 同 月 一 七 日 に 申 請 書 用 紙 が 交 付 さ れ る 。 し か し 、 実 際 に 原 告 が 申 請 書 を 提 出 し た の は 、 当 初 の 面 談 か ら 一 年 近 く 経 過 し た 翌 年 三 月 二 四 日 で あ っ た 。 大 阪 地 裁 平 成 一 三 年 三 月 二 九 日 判 決 ︵ 訟 務 月 報 四 九 巻 四 号 一 二 九 七 頁 ︶ は 、 原 告 が 当 初 の 面 談 で 生 活 保 護 開 始 申 請 書 の 交 付 を 要 求 し た こ と に よ り 、 保 護 の 開 始 を 申 請 す る 意 思 を 有 し 、 か つ 、 申 請 意 思 を 表 示 し た も の と 判 断 し た 。 な お 、 生 活 保 護 法 に は 、 保 護 の 開 始 の 申 請 に つ い て 書 面 に よ ら な け れ ば な ら な い 旨 の 規 定 は な い が 、 同 法 の 委 任 を 受 け た 施 行 規 則 二 条 一 項 は 、 ﹁ 保 護 の 開 始 又 は 保 護 の 変 更 の 申 請 は 、 ︵ 中 略 ︶ 書 面 を 提 出 し て 行 わ な け れ ば な ら な い ﹂ と し て い る 。 こ の 点 に つ き 、 同 地 裁 は 、 当 該 規 則 の 定 め も 口 頭 に よ る 申 請 を 排 除 す る 趣 旨 で は な く 、 本 件 に お け る 申 請 意 思 の 存 在 、 そ の 表 示 行 為 の 成 立 を 妨 げ る も の で は な い と し た 。 こ れ に 対 し 、 被 告 側 が 控 訴 し た 大 阪 高 裁 平 成 一 三 年 一 〇 月 一 九 日 判 決 ︵ 訟 務 月 報 四 九 巻 四 号 一 二 八 〇 頁 ︶ は 、 原 審 の 判 断 を 覆 し 申 請 行 為 の 成 立 を 否 定 し た24︵ ︶ 。 ま ず ﹁ 保 護 の 開 始 の 申 請 は 、 保 護 実 施 機 関 に 一 定 の 作 為 義 務 を 課 す る も の で あ る か ら 、 保 護 の 開 始 の 申 請 が あ っ た と い う た め に は 、 単 に 申 請 者 に お い て 申 請 意 思 を 有 し て い た と い う の み で は 足 ら ず 、 申 請 者 に お い て 申 請 の 表 示 行 為 を 行 う 必 要 が あ る ﹂ と し 、 本 件 に お け る 表 示 行 為 に つ い て は 、 申 請 書 用 紙 の 交 付 請 求 は 申 請 の 表 示 行 為 そ れ 自 体 で は な い こ と 、 ま た 、 当 事 者 の や り 取 り の 経 過 に お い て 、 一 審 原 告 が 、 申 請 行 為 を 完 了 し た と 認 識 し て い る よ う な 行 為 が み ら れ な い こ と か ら 、 結 論 と し て 、 一 審 原 告 は 、 実 際 に 申 請 書 を 提 出 し た 日 ま で 、 申 請 意 思 を 保 留 し て い た も の と 評 価 し て い る 。 地 裁 及 び 高 裁 の 結 論 は 、 本 件 で 口 頭 に よ る 申 請 の 成 立 が 認 め ら れ る か で 分 か れ る が 、 こ れ は 生 活 保 護 申 請 に 求 め ら 四 〇 29−2−168(香法2009)

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れ る 要 式 性 の 程 度 に つ き 、 生 活 保 護 法 及 び 施 行 規 則 の 解 釈 問 題 と な る 。 地 裁 の よ う に 、 要 式 性 の 程 度 を 緩 や か に 解 釈 す れ ば 、 保 護 申 請 の 表 示 行 為 は 、 申 請 意 思 そ れ 自 体 の 表 示 で 足 り 、 本 件 で は 、 申 請 書 用 紙 の 交 付 請 求 に 表 示 行 為 を 認 め る こ と も 可 能 と な る 。 口 頭 に よ る 申 請 の 場 合 、 本 来 、 到 達 概 念 が 想 定 す る よ う な 隔 地 者 間 の 意 思 表 示 で は な く 、 対 話 者 間 の 意 思 表 示 の 色 彩 が 濃 く な る が 、 申 請 は 到 達 と 同 時 に 相 手 方 に 了 知 さ れ る と 理 解 さ れ よ う 。 も っ と も 、 生 活 保 護 法 及 び 施 行 規 則 の 解 釈 に つ い て は 、 一 般 論 と し て 高 裁 の 解 釈 も 合 理 的 と 思 え る 。 た だ し 、 そ れ は 申 請 書 に よ る 申 請 が 問 題 な く 行 え る こ と が 前 提 と な る 。 本 件 国 家 賠 償 請 求 で は 、 申 請 用 紙 不 交 付 も 争 点 と な っ て い る 。 控 訴 審 は 、 ﹁ 不 交 付 は 行 政 指 導 と し て の 説 得 が 続 い て い た 間 の も の で あ り ⋮ そ の 間 、 被 控 訴 人 が 真 摯 か つ 明 確 に 申 請 の 意 思 を 表 示 し て い た も の で は な い ﹂ と し て 国 家 賠 償 法 上 の 違 法 に 当 た ら な い と す る 。 建 築 確 認 の 留 保 が 国 賠 訴 訟 で 争 わ れ た 最 高 裁 昭 和 六 〇 年 七 月 一 六 日 第 三 小 法 廷 判 決 ︵ 民 集 三 九 巻 五 号 九 八 九 頁 ︶ が 示 し た 判 断 方 法 を 適 用 し た も の で あ る 。 ﹁ 行 政 指 導 を 理 由 と す る 処 分 留 保 ﹂ と パ ラ レ ル に ﹁ 行 政 指 導 を 理 由 と す る 申 請 用 紙 不 交 付 ﹂ を 想 定 す る の で あ ろ う が 、 処 分 留 保 が 処 分 時 期 に つ き 裁 量 判 断 と し て 許 容 さ れ る 余 地 が あ る の に 対 し 、 本 件 相 談 員 に 申 請 書 交 付 ・ 不 交 付 の 決 定 権 が あ る は ず は な い25︵ ︶ 。 手 続 法 に 照 ら せ ば 、 申 請 希 望 者 の 意 に 反 す る 申 請 用 紙 交 付 拒 否 は 、 行 政 指 導 を 理 由 と し よ う と も 許 容 さ れ る 余 地 は な い 。 な る ほ ど 、 申 請 書 に よ る 申 請 の 成 立 は 一 年 後 で あ る が 、 問 題 は 、 当 初 の 面 談 時 に お い て 口 頭 に よ る 申 請 が 成 立 し て い た か 否 か で あ る 。 高 裁 は 原 告 に 申 請 行 為 を 完 了 し た 認 識 が み ら れ な い と す る が 、 そ れ は 申 請 書 に よ る 申 請 に つ い て の こ と で あ る 。 当 初 の 面 談 に お い て 、 原 告 は 、 申 請 書 に よ る 表 示 行 為 を 違 法 に 阻 ま れ た の で あ る か ら 、 当 日 原 告 が と り え た 表 示 行 為 は 口 頭 に よ る 申 請 行 為 し か な い が 、 当 日 の 状 況 に つ き 、 高 裁 も ﹁ 相 談 員 に 対 し て 生 活 保 護 申 請 の た め の 申 請 書 用 紙 の 交 付 を 求 め た の で あ る か ら 、 こ の 時 に は 、 被 控 訴 人 は 生 活 保 護 申 請 を す る 意 思 を 有 し て い た も の と 認 め ら れ る ﹂ と す る 。 29−2−169(香法2009) 四 一

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こ の 認 定 が 可 能 な の で あ れ ば 、 申 請 用 紙 交 付 請 求 に 申 請 意 思 の 表 示 を 認 め た 地 裁 の 解 釈 も 十 分 成 立 す る よ う に 思 え る 。 高 裁 は 、 も っ ぱ ら 申 請 の 実 体 問 題 に 着 目 し た 判 断 で あ る が 、 申 請 と い う 手 続 行 為 の 成 立 を め ぐ っ て は 、 手 続 法 の 観 点 か ら の 評 価 を 加 え た 判 断 が 求 め ら れ る も の と 考 え る 。 申 請 の 到 達 が 問 題 と な る 場 面 と し て は 、 経 由 機 関 が 関 与 す る 場 合 が あ る 。 法 令 上 、 申 請 書 の 提 出 先 と さ れ て い る 経 由 機 関 が 権 限 も な く 申 請 書 の 受 領 を 拒 絶 し 返 戻 す る と い っ た 行 為 に 出 る 場 合 で あ る 。 手 続 法 七 条 は 到 達 先 を 行 政 庁 の 事 務 所 と し て お り 、 経 由 機 関 が こ れ に 含 ま れ な い と す れ ば 、 問 題 は 申 請 到 達 前 に お い て 生 じ て い る と い う こ と に な る 。 特 に 、 経 由 機 関 と 行 政 庁 が 組 織 法 上 独 立 し た 法 人 格 を 有 す る 場 合 に は 問 題 と な る26︵ ︶ 。 経 由 機 関 へ の 申 請 書 の 提 出 に よ り 、 行 政 庁 の 審 査 応 答 義 務 が 発 生 す る か に つ い て は 議 論 が あ り 、 申 請 が 経 由 機 関 か ら 行 政 庁 に 送 達 さ れ 、 行 政 庁 に 到 達 し た 時 点 で 手 続 法 七 条 の 到 達 と な る と す る 説27︵ ︶ 、 経 由 機 関 へ の 申 請 の 到 達 で 行 政 庁 へ の 到 達 も あ っ た と す る 説28︵ ︶ の 二 説 に 分 か れ る 。 両 説 の 相 違 は 、 手 続 法 六 条 及 び 七 条 に い う ﹁ 事 務 所 ﹂ の 解 釈 と し て 、 こ れ に 経 由 機 関 が 含 ま れ る か 否 か に よ る29︵ ︶ 。 経 由 機 関 へ の 申 請 の 到 達 が 、 手 続 法 七 条 に い う 到 達 に 当 た る か と い う 点 で 、 両 説 は 異 な る 判 断 と な る が 、 申 請 書 が 経 由 機 関 に 提 出 さ れ た 時 点 か ら 相 当 な 期 間 が 経 過 す れ ば 、 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 が 提 起 可 能 と な る こ と に 相 違 は な い 。 経 由 機 関 へ の 申 請 の 到 達 で 手 続 法 七 条 の 到 達 が あ る と す る 後 説 で は 、 手 続 法 七 条 の 審 査 応 答 義 務 の 懈 怠 が 直 接 に 行 政 庁 の 不 作 為 を 構 成 し 、 経 由 機 関 へ の 到 達 で は 手 続 法 七 条 の 到 達 は 未 だ な い と す る 前 説 に お い て も 、 手 続 法 七 条 に よ る 行 政 庁 の 審 査 義 務 と は 別 に 、 申 請 に 対 す る 応 答 義 務 が 行 政 庁 に 存 す る と さ れ 、 不 作 為 の 違 法 確 認 に お け る 相 当 な 四 二 29−2−170(香法2009)

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期 間 の 起 算 点 は 、 経 由 機 関 に 申 請 書 が 提 出 さ れ た 時 点 で あ る と 説 明 さ れ る30︵ ︶ 。 経 由 機 関 の 問 題 は 、 立 法 審 議 過 程 で も 十 分 議 論 が な さ れ て お ら ず 、 行 政 運 営 上 支 障 の 出 な い よ う に 解 釈 運 用 の 統 一 を 図 る 必 要 が あ る と さ れ て い る が31︵ ︶ 、 近 年 の 裁 判 例 で 、 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 の 提 起 可 能 性 に つ き 原 審 と 控 訴 審 と で 判 断 が 分 か れ た 事 案 で あ る の で と り あ げ て お こ う 。 事 案 は 農 地 法 に 基 づ く 農 地 転 用 許 可 申 請 に 係 る も の で あ る 。 農 地 法 施 行 令 一 条 の 一 五 に よ れ ば 、 同 法 五 条 一 項 の 許 可 を 求 め る 申 請 書 は 、 農 業 委 員 会 を 経 由 し て 都 道 府 県 知 事 に 提 出 す る こ と と さ れ て い る 。 ま た 、 同 施 行 令 一 条 の 二 一 に よ れ ば 、 農 業 委 員 会 は 、 申 請 書 の 提 出 が あ っ た と き は 、 申 請 書 提 出 の 翌 日 か ら 起 算 し て 四 〇 日 以 内 に 、 当 該 申 請 書 に 意 見 を 付 し て 、 都 道 府 県 知 事 に 送 付 し な け れ ば な ら な い と さ れ ︵ 令 二 項 ︶ 、 農 業 委 員 会 が 前 項 の 期 間 内 に 都 道 府 県 知 事 に 送 付 し な か っ た と き は 、 直 接 、 都 道 府 県 知 事 に 申 請 書 を 提 出 す る こ と が で き る と さ れ て い る ︵ 令 三 項 ︶ 。 本 件 は 、 原 告 が 春 日 部 市 農 業 委 員 会 に 対 し 農 地 転 用 許 可 申 請 を し た と こ ろ 、 許 可 申 請 書 に 必 要 な 農 用 地 除 外 証 明 書 等 が 添 付 さ れ て い な い 等 の 理 由 で 申 請 受 理 を 拒 否 さ れ た た め 、 当 該 受 理 拒 否 行 為 は 知 事 の 行 為 で あ る と し 、 県 に 対 し て 、 主 位 的 に 受 理 拒 否 処 分 の 取 消 を 、 予 備 的 に 不 作 為 の 違 法 確 認 を 求 め た と い う 事 案 で あ る 。 一 審 さ い た ま 地 裁 平 成 一 九 年 九 月 二 六 日 判 決 ︵ 判 例 集 未 搭 載 ︶ は 、 ま ず 、 農 業 委 員 会 を 都 道 府 県 の 一 機 構 と み る こ と は で き な い こ と か ら ﹁ 市 農 業 委 員 会 か ら 同 知 事 に 対 す る 申 請 書 の 送 付 が な い 限 り 、 同 知 事 に 対 す る 申 請 と し て 認 め ら れ な い ⋮ し た が っ て 、 本 件 に お い て は 知 事 に 対 す る 申 請 は な く 、 ま た 本 件 申 請 に 対 す る 知 事 の 処 分 は 存 し な い ﹂ と し て 、 処 分 取 消 請 求 を 退 け る 。 次 に 、 知 事 の 不 作 為 に つ い て は ﹁ 市 農 業 委 員 会 か ら 埼 玉 県 知 事 に 対 し 、 本 件 申 請 に か か る 申 請 書 が 送 付 さ れ た こ と は な い の で あ る か ら 埼 玉 県 知 事 に 本 件 申 請 に 対 す る 作 為 義 務 が 発 生 す る こ と は な い ﹂ と し 、 こ ち ら の 請 求 も 退 け た 。 29−2−171(香法2009) 四 三

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こ れ に 対 し て 、 控 訴 審 で あ る 東 京 高 裁 平 成 二 〇 年 三 月 二 六 日 判 決 ︵ 判 例 集 未 搭 載 ︶ は 、 不 作 為 の 違 法 確 認 に つ き 、 原 審 の 判 断 を 覆 し 次 の よ う に 述 べ る 。 ﹁ 申 請 者 が 、 経 由 機 関 に 申 請 書 を 提 出 し 、 処 分 行 政 庁 の 応 答 を 得 よ う と す る 意 思 を 表 明 し て い る に も か か わ ら ず 、 行 政 機 関 相 互 間 の 事 務 の 処 理 が 滞 っ て い る こ と を 理 由 と し て 、 処 分 行 政 庁 が 、 こ れ に 対 す る 応 答 義 務 を 負 う こ と は な い と 解 す る こ と は で き な い ⋮ 農 業 委 員 会 が 上 記 期 間 内 に 、 当 初 提 出 さ れ た 申 請 書 を 都 道 府 県 知 事 に 進 達 し な か っ た 場 合 に 、 当 初 の 申 請 に 対 す る 都 道 府 県 知 事 の 応 答 義 務 が 消 滅 す る と 解 す べ き 根 拠 は な く 、 こ の 場 合 に 、 申 請 者 が 、 直 接 都 道 府 県 知 事 に 申 請 書 を 提 出 す る こ と が 可 能 で あ る か ら と い っ て 、 こ の こ と は 、 当 初 の 申 請 が な お 残 っ て い る に も か か わ ら ず 、 処 分 行 政 庁 に よ る 応 答 が さ れ て い な い こ と に つ い て の 、 法 的 救 済 が 否 定 さ れ る 理 由 と は な り 得 な い ﹂ 。 地 裁 の 判 断 は 、 前 記 の 二 学 説 の い ず れ と も 異 な り 、 行 政 庁 に は 手 続 法 七 条 の 審 査 義 務 も 、 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 で の 応 答 義 務 も 生 じ な い と す る 。 対 し て 高 裁 の 判 断 は 、 経 由 機 関 へ の 申 請 の 提 出 に よ り 、 行 政 庁 は 、 不 作 為 の 違 法 確 認 と し て の 応 答 義 務 を 負 う が 、 手 続 法 七 条 の 審 査 義 務 は 未 発 生 で あ る と す る 説 に 即 し た も の で あ る 。 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 に つ き 判 断 が 分 か れ た の は 、 一 定 期 間 経 過 後 、 県 知 事 に 直 接 申 請 を 行 う こ と が で き る と の 規 定 が 関 わ っ て い る 。 原 告 の 救 済 に つ き 、 地 裁 は 、 念 の た め と し て 次 の よ う に 述 べ て い る 。 ﹁ 本 件 申 請 が あ っ て か ら 四 〇 日 以 上 が 経 過 し た こ と も 明 ら か で あ る 。 し た が っ て 、 原 告 と し て は 、 農 地 法 施 行 令 一 条 の 二 第 三 項 に 基 づ き 、 知 事 に 直 接 申 請 書 を 提 出 す る こ と が で き 、 こ れ に よ り 本 件 に お け る 原 告 の 救 済 は 達 せ ら れ る し 、 こ の よ う に 解 す る こ と が 原 告 に 特 段 不 合 理 な 結 果 を も た ら す と も い え な い ﹂ 。 地 裁 の 判 断 に は 、 知 事 へ の 直 接 申 請 制 度 を 不 作 為 が 生 じ る こ と を 予 想 し て の 立 法 的 手 当 と 解 し 、 当 該 制 度 が 設 け ら れ て い る 以 上 こ れ に よ る べ き と の 制 度 的 排 他 性 に 類 し た 理 解 が あ る の か も し れ な い 。 し か し 、 た と え ば 、 個 別 法 令 で 申 請 後 一 定 期 間 の 経 過 に よ り 申 請 の 却 下 ・ 棄 却 が あ っ た と ﹁ み な す こ と が で き る ﹂ と 四 四 29−2−172(香法2009)

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い う 規 定 が 置 か れ る 場 合32︵ ︶ 、 期 間 の 経 過 に よ っ て も 不 作 為 状 態 が 当 然 に な く な る わ け で は な く 、 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 の 利 用 は 否 定 さ れ な い と 解 さ れ る33︵ ︶ 。 本 件 で も 行 政 庁 の 不 作 為 状 態 は 継 続 し て お り 、 控 訴 審 の 判 断 が 妥 当 で あ ろ う 。 ︵ 11 ︶ 川 島 武 宜= 平 井 宜 雄 編 ﹃ 新 版 注 釈 民 法 ︵ 3 ︶ 総 則 ︵ 3 ︶ ﹄ ︵ 有 斐 閣 、 二 〇 〇 三 年 ︶ 五 二 〇 頁 以 下 参 照 。 相 手 方 の 勢 力 範 囲 と い う 要 件 は 、 民 法 の 解 釈 と し て は 議 論 が あ る が 、 行 政 手 続 法 で は 七 条 が ﹁ 事 務 所 ﹂ と い う 概 念 を 用 い た こ と に よ り 物 理 的 基 準 の 色 彩 が 強 く 打 ち 出 さ れ て い る と 思 え る 。 こ の 点 に つ き 、 前 掲 ・ 小 早 川 編 ﹃ 逐 条 研 究 ﹄ 九 九 頁 参 照 。 ︵ 12 ︶ 前 掲 ・ 小 早 川 編 ﹃ 逐 条 研 究 ﹄ 九 八 頁 以 下 、 前 掲 ・ 塩 野= 高 木 ﹃ 条 解 ﹄ 一 四 六 頁 等 参 照 。 ︵ 13 ︶ 申 請 の 到 達 を 確 保 し 、 到 達 時 点 を 明 確 に す る 手 段 と し て 申 請 書 の 郵 送 ︵ 書 留 郵 便 ︶ が 有 効 で あ る こ と に つ き 、 前 掲 ・ 兼 子 ﹃ 行 政 手 続 法 ﹄ 七 二 頁 、 宇 賀 克 也 ﹃ 行 政 手 続 の 理 論 ﹄ ︵ 東 京 大 学 出 版 、 一 九 九 五 年 ︶ 二 〇 頁 。 ︵ 14 ︶ 行 政 手 続 オ ン ラ イ ン 化 法 ︵ 行 政 手 続 等 に お け る 情 報 通 信 の 技 術 の 利 用 に 関 す る 法 律 ︶ 等 に よ る 申 請 ・ 届 出 に お い て 生 じ る 到 達 時 期 に 関 す る 固 有 の 問 題 に つ い て は 、 米 丸 恒 治 ﹁ 行 政 手 続 の オ ン ラ イ ン 化 ﹂ ﹃ 行 政 法 の 争 点 [ 第 三 版 ] ﹄ ︹ 有 斐 閣 、 二 〇 〇 四 年 ︺ 六 八 頁 以 下 、 宇 賀 克 也 ﹃ 行 政 手 続 と 行 政 情 報 化 ﹄ ︵ 有 斐 閣 、 二 〇 〇 六 年 ︶ 二 八 六 頁 以 下 参 照 。 オ ン ラ イ ン 申 請 の 場 合 で も 行 政 手 続 法 が 適 用 さ れ る た め 、 汎 用 受 付 シ ス テ ム の 設 計 に お い て ﹁ 受 理 ﹂ 概 念 を 組 み 込 ん だ 仕 様 と し な い こ と に 留 意 す る 必 要 が あ る こ と に つ き 、 宇 賀 ・ 同 書 二 二 頁 参 照 。 ︵ 15 ︶ 古 く は 、 大 審 院 昭 和 一 一 年 二 月 一 四 日 判 決 ︵ 民 集 一 五 巻 一 五 八 頁 ︶ 。 近 年 の 判 例 と し て は 、 催 告 の 内 容 証 明 郵 便 が 受 領 拒 絶 さ れ た 事 案 で 、 拒 絶 し た 日 に 到 達 し た も の と み な さ れ 時 効 中 断 の 効 果 が 認 め ら れ た 事 例 と し て 、 東 京 地 裁 平 成 一 〇 年 一 二 月 二 五 日 判 決 ︵ 判 タ 一 〇 六 七 号 二 〇 六 頁 、 金 融 法 務 事 情 一 五 六 〇 号 四 一 頁 ︶ 。 因 み に 、 処 分 に つ い て も 、 処 分 書 が 正 当 な 理 由 な く 受 領 を 拒 絶 さ れ た 場 合 で も 通 知 効 果 が 生 じ る こ と に つ き 、 大 阪 高 裁 平 成 一 四 年 一 月 三 〇 日 判 決 ︵ 判 例 集 未 搭 載 ︶ 。 ︵ 16 ︶ 本 件 を 論 じ た も の と し て 、 椎 名 慎 太 郎 ﹁ 申 請 ・ 届 出 の 受 付 け と 行 政 手 続 法 の 規 律 ﹂ 山 梨 学 院 ロ ー ジ ャ ー ナ ル ︵ 二 〇 〇 四 年 ︶ 一 六 頁 以 下 。 ︵ 17 ︶ 前 掲 ・ 川 島= 平 井 編 ﹃ 新 版 注 釈 民 法 ︵ 3 ︶ ﹄ 五 三 六 頁 以 下 参 照 。 ︵ 18 ︶ 手 続 法 七 条 は 、 申 請 の 到 達 時 を 基 準 に 行 政 庁 の 審 査 応 答 義 務 の 発 生 を 定 め る も の で 、 到 達 の 後 に 申 請 書 が ど こ に 所 在 す る か は 事 実 上 の 問 題 に す ぎ な い こ と に つ き 、 前 掲 ・ 小 早 川 編 ﹃ 逐 条 研 究 ﹄ 九 八 頁 [ 塩 野 発 言 ] 参 照 。 29−2−173(香法2009) 四 五

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︵ 19 ︶ 前 掲 ・ 注 ︵ 16 ︶ 椎 名 論 文 一 八 頁 以 下 も ﹁ 了 知 可 能 な ﹂ 状 態 で な か っ た と は 必 ず し も い え な い と さ れ る 。 ︵ 20 ︶ 手 続 法 二 条 三 項 の 定 義 に よ り 、 契 約 の 申 込 な ど 一 定 の 行 為 が 手 続 法 上 の ﹁ 申 請 ﹂ か ら 除 外 さ れ る こ と に な る が 、 こ れ が 立 法 政 策 と し て 妥 当 で あ る か に つ き 議 論 が あ る こ と に つ き 、 前 掲 ・ 小 早 川 編 ﹃ 逐 条 研 究 ﹄ 八 五 ∼ 八 六 頁 参 照 。 ︵ 21 ︶ 当 該 申 請 書 が 申 請 と み う る 程 度 の 体 裁 が 求 め ら れ 、 申 請 意 思 が 不 明 確 な 場 合 に は 、 申 請 に 該 当 し な い と す る 理 解 と し て は 、 参 照 、 南 博 方= 高 橋 滋 編 ﹃ 注 釈 行 政 手 続 法 ﹄ ︵ 第 一 法 規 、 二 〇 〇 〇 年 ︶ 一 五 五 頁 以 下 [ 山 口 浩 司 ] 。 不 備 の 著 し い 場 合 で も 一 応 は 申 請 は 成 立 す る と 解 し 、 行 政 側 と し て 行 政 指 導 で 対 応 を 図 る の が 受 理 概 念 を 排 除 し た 手 続 法 七 条 の 趣 旨 か ら 適 切 と す る 理 解 と し て は 、 前 掲 ・ 室 井= 芝 池= 浜 川 編 ﹃ コ ン メ ン タ ー ル ﹄ 一 一 二 頁 [ 梶 哲 教 ] 。 ︵ 22 ︶ 行 政 法 上 の 法 律 関 係 に お い て は 、 行 政 と 私 人 と の 関 係 は 、 民 事 法 律 関 係 に お け る よ う な 対 等 性 を 欠 く 。 意 思 表 示 の 解 釈 に お い て も 、 行 政 側 に お い て は 表 示 主 義 に 、 私 人 側 で は 意 思 主 義 に 重 点 が 置 か れ る と い う 非 対 称 性 が あ る も の と 考 え る 。 ︵ 23 ︶ 本 件 評 釈 と し て は 、 田 村 達 久 ﹁ 行 政 手 続 法 七 条 違 反 行 為 の 国 家 賠 償 法 上 の 違 法 性 有 無 の 判 断 ﹂ 法 学 セ ミ ナ ー 六 〇 八 号 ︵ 二 〇 〇 五 年 ︶ 一 二 四 頁 、 岡 本 博 志 ﹁ 病 院 開 設 許 可 申 請 書 を 受 理 せ ず に 返 戻 す る 行 為 が 行 政 手 続 法 上 違 法 で あ る と と も に 、 国 家 賠 償 法 上 も 違 法 と さ れ た 事 例 ﹂ 北 九 州 市 立 大 学 法 政 論 集 三 三 巻 二 ・ 三 ・ 四 合 併 号 ︵ 二 〇 〇 六 年 ︶ 一 三 九 頁 以 下 。 ︵ 24 ︶ 本 件 一 ・ 二 審 判 決 の 評 釈 と し て は 、 片 桐 由 喜 ﹁ 生 活 保 護 の 開 始 申 請 と 申 請 交 付 拒 否 の 可 否 ﹂ 賃 金 と 社 会 保 障 一 三 二 八 号 ︵ 二 〇 〇 二 年 ︶ 七 八 頁 以 下 、 豊 島 明 子 ﹁ 生 活 保 護 申 請 権 訴 訟 ﹂ 法 学 セ ミ ナ ー 五 八 四 号 ︵ 二 〇 〇 三 年 ︶ 二 四 頁 以 下 。 ︵ 25 ︶ 前 掲 注 ︵ 24 ︶ 豊 島 ・ 評 釈 ︵ 二 七 頁 ︶ は 、 申 請 後 の 処 分 留 保 と 申 請 前 の 本 件 で は 場 面 が 異 な り 、 生 活 保 護 行 政 に お け る 申 請 前 段 階 の 行 政 指 導 は 、 生 存 権 の 実 現 手 段 で あ る 申 請 権 の 阻 害 要 因 と し て の 消 極 面 が 強 い た め 、 よ り 厳 し く 制 限 さ れ る べ き で あ る と す る 。 ︵ 26 ︶ 前 掲 ・ 行 政 管 理 研 究 セ ン タ ー 編 ﹃ 逐 条 解 説 ﹄ 一 四 八 ∼ 一 四 九 頁 参 照 。 ︵ 27 ︶ 前 掲 ・ 塩 野= 高 木 ﹃ 条 解 ﹄ 一 五 三 頁 。 ︵ 28 ︶ 前 掲 ・ 室 井= 芝 池= 浜 川 編 ﹃ コ ン メ ン タ ー ル ﹄ 一 一 〇 頁 [ 梶 ] 。 ︵ 29 ︶ 経 由 機 関 が 介 在 す る 場 合 の 標 準 処 理 期 間 の 計 算 に つ き 定 め を 置 く 手 続 法 六 条 の 文 言 お よ び 七 条 の 文 言 と の 関 係 に つ い て み れ ば 、 経 由 機 関 へ の 申 請 書 提 出 で は 七 条 の 到 達 は 未 だ な い と み る 説 は 整 合 的 で あ る 。 こ の 点 に つ き 、 経 由 機 関 へ の 到 達 で 七 条 の 到 達 が あ る と す る 説 か ら は 、 手 続 法 七 条 を 、 行 政 庁 へ の 申 請 の 到 達 に よ り 実 際 に 審 査 に ﹁ 着 手 す る ﹂ 義 務 が 生 じ る こ と を 規 定 し た も の と 解 す れ ば 足 り る と 説 明 さ れ る ︵ 前 掲 ・ 室 井= 芝 池= 浜 川 ﹃ コ ン メ ン タ ー ル ﹄ 一 一 〇 頁 [ 梶 ] ︶ 。 ︵ 30 ︶ 前 掲 ・ 塩 野= 高 木 ﹃ 条 解 ﹄ 一 五 三 頁 。 四 六 29−2−174(香法2009)

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︵ 31 ︶ 前 掲 ・ 塩 野= 高 木 ﹃ 条 解 ﹄ 一 五 九 頁 。 ︵ 32 ︶ 生 活 保 護 法 二 四 条 四 項 、 同 法 六 五 条 二 項 な ど が そ の 例 で あ る 。 ︵ 33 ︶ ﹁ み な す こ と が で き る ﹂ 規 定 の 場 合 、 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 が 提 起 可 能 か に つ い て 学 説 は 、 消 極 的 に 解 す る 説 と 積 極 的 に 解 す る 説 に 分 か れ る が 、 ﹁ で き る ﹂ と い う 文 言 が 強 制 を 意 味 す る も の で な い か ら 、 行 政 庁 の 応 答 を 求 め る 権 利 及 び そ の 実 現 手 段 の 利 用 は 否 定 さ れ る べ き で な く 、 積 極 説 が 妥 当 と 考 え る 。 積 極 説 と し て は 、 兼 子 仁 ﹃ 行 政 争 訟 法 ﹄ ︵ 筑 摩 書 房 、 一 九 七 三 年 ︶ 三 四 四 ∼ 三 四 五 頁 、 南 博 方 編 ﹃ 条 解 行 政 事 件 訴 訟 法 ﹄ ︵ 有 斐 閣 、 一 九 八 七 年 ︶ 一 一 六 頁 [ 富 田 善 範 ] 、 園 部 逸 夫 編 ﹃ 注 釈 行 政 事 件 訴 訟 法 ﹄ ︵ 有 斐 閣 、 一 九 八 九 年 ︶ 四 六 七 ∼ 四 六 八 頁 [ 乙 部 哲 郎 ] 、 室 井 力= 芝 池 義 一= 浜 川 清 編 ﹃ コ ン メ ン タ ー ル 行 政 法 ! 行 政 事 件 訴 訟 法 ・ 国 家 賠 償 法 ﹄ ︵ 日 本 評 論 社 、 二 〇 〇 六 年 ︶ 八 二 頁 [ 浜 川 清 ] 参 照 。

申 請 準 備 段 階 に お い て 行 政 が 関 与 す る 形 態 と し て は 、 事 前 相 談 と 事 前 指 導 に 大 別 す る こ と が で き る34︵ ︶ 。 事 前 相 談 は 、 申 請 提 出 先 の 受 付 窓 口 に お け る も の で 、 行 政 手 続 法 九 条 二 項 を 根 拠 と す る 情 報 提 供 の 部 類 の 関 与 と い え る 。 た だ し 、 事 前 相 談 に お い て も 、 情 報 提 供 の 域 を 超 え 、 申 請 内 容 に 介 入 す る よ う な 運 用 が な さ れ る 場 合 も あ る こ と か ら 、 事 前 相 談 は 文 字 通 り 国 民 か ら の ﹁ 求 め に 応 じ た 情 報 提 供 ﹂ の 域 に と ど ま る べ き と も い わ れ る35︵ ︶ 。 も っ と も 、 申 請 受 付 窓 口 で の 対 応 は 、 受 動 的 な 収 受 に 限 ら れ る も の で は な く 、 必 要 記 載 事 項 の 漏 れ や 誤 記 が な い か 、 添 付 書 類 が 揃 っ て い る か 等 の 確 認 作 業 が 伴 う の が 通 常 で あ り 、 法 定 の 申 請 審 査 の う ち 、 形 式 審 査 の 基 本 的 な 部 分 が 実 施 さ れ て い る と も い え る36︵ ︶ 。 こ れ は 、 簡 便 な 窓 口 で の 補 正 が 可 能 と な る こ と か ら 申 請 者 に と っ て も 有 益 な も の で あ る 。 申 請 受 付 窓 口 に お け る 申 請 権 29−2−175(香法2009) 四 七

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保 護 の 方 向 に 働 く 行 政 の 関 与 は 、 実 態 と し て は 複 合 的 な も の と い え る 。 一 般 の 情 報 提 供 と は 区 別 さ れ る も の と し て 事 前 指 導 ︵ 事 前 折 衝 、 事 前 審 査 等 と 称 せ ら れ る も の を 含 め て お く ︶ が あ る 。 申 請 の 処 理 に 当 た っ て 、 当 該 行 政 機 関 の 審 査 の 方 針 と し て 事 前 指 導 を 行 う こ と と し て い る 場 合 、 行 政 庁 の 個 別 具 体 の 判 断 を あ ら か じ め 相 手 方 に 示 し 、 そ れ に 沿 っ て 申 請 す る よ う 誘 導 す る も の で あ り 、 行 政 指 導 と し て の 性 格 が 色 濃 く 出 る37︵ ︶ 。 そ の 形 態 は 、 要 綱 等 で あ る 程 度 制 度 化 さ れ る 場 合 も あ れ ば 、 そ う で な い も の も あ る が 、 い ず れ に せ よ イ ン フ ォ ー マ ル な 積 極 的 関 与 で あ る38︵ ︶ 。 事 前 指 導 に は 、 た と え ば 、 許 認 可 等 の 法 定 要 件 を 充 た す か 否 か を 調 査 し 、 要 件 を 充 た す と 判 断 で き る 者 だ け に 申 請 書 用 紙 を 交 付 し 申 請 を 認 め る と い っ た 運 用 実 態 が み ら れ る が 、 そ こ に は 二 つ の 問 題 点 が 指 摘 さ れ る 。 第 一 に 、 申 請 し よ う と す る 者 の 申 請 権 を 侵 害 す る 契 機 を 多 分 に 孕 ん で い る と い う 点 で あ り 、 第 二 に 、 法 定 手 続 が 形 骸 化 す る と い う 点 で あ る 。 後 者 の 問 題 点 に つ い て み れ ば 、 事 前 指 導 と は 、 本 来 行 政 手 続 法 が 申 請 到 達 後 に 予 定 し て い る 法 定 手 続 の 前 倒 し と も い え る 。 事 前 指 導 段 階 で 不 許 可 が 予 想 さ れ る も の に は 申 請 の 取 下 げ 指 導 が な さ れ 、 申 請 が 認 め ら れ た 後 は 、 形 式 的 な 文 書 決 裁 の み と な り 、 拒 否 処 分 と な る こ と は ほ と ん ど な い と い わ れ る39︵ ︶ 。 こ の よ う な 実 態 を 考 え る と 、 相 手 方 の 任 意 と い え ど も 、 こ の 種 の 事 前 指 導 は 行 政 手 続 法 の 趣 旨 を 没 却 す る も の で は な い か と い う 疑 義 も 生 じ る 。 も っ と も 、 行 政 手 続 法 に は 、 審 査 基 準 に 関 す る 規 定 ︵ 五 条 ︶ 、 申 請 に 必 要 な 情 報 提 供 の 規 定 ︵ 九 条 二 項 ︶ が 設 け ら れ て お り 、 審 査 基 準 や 提 出 す べ き 書 類 に つ い て の 説 明 が 、 従 来 の 事 前 指 導 に 相 当 す る も の と し て 行 政 手 続 法 の フ レ ー ム に 取 り 込 ま れ る こ と に よ り 、 事 前 指 導 の 透 明 化 が 進 む こ と が 期 待 さ れ て い る と も い わ れ る40︵ ︶ 。 し か し 、 従 来 行 わ れ て き た 事 前 指 導 が 行 政 手 続 法 の 枠 組 み に 収 ま り き れ な い 要 素 を も つ こ と も 否 定 で き な い よ う に 思 え る 。 事 前 指 導 と い う 方 式 が 形 成 さ れ 利 用 さ れ て き た 理 由 と し て 、 事 前 指 導 に は 申 請 し よ う と す る 者 の 利 益 と な る 四 八 29−2−176(香法2009)

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側 面 が あ る こ と が 指 摘 さ れ る41︵ ︶ 。 資 格 要 件 や 申 請 に 係 る 許 認 可 の 見 通 し に つ き 事 前 に 審 査 を 受 け る こ と に よ り 、 申 請 し よ う と す る 者 は 、 結 果 的 に 無 駄 と な る こ と も あ る 手 続 上 の 負 担 ︵ 手 続 に 要 す る 時 間 や 申 請 料 ・ 印 紙 代 等 ︶ を 回 避 す る こ と が で き る 。 申 請 拒 否 処 分 を 受 け た と い う 前 歴 に よ り 、 後 の 申 請 が 制 限 さ れ る よ う な 場 合 は 深 刻 と な る42︵ ︶ 。 ま た 、 行 政 担 当 者 の 側 に も 、 一 旦 受 け 付 け た 申 請 に 対 し て は 拒 否 処 分 を 避 け た い と い う 意 識 が あ り 、 あ る い は 、 直 ち に は 申 請 認 容 の 判 断 が 困 難 と 思 わ れ る 案 件 に つ き 、 行 政 側 が 助 力 し な が ら 許 認 可 等 へ 導 く と い う 場 面 も あ る と い わ れ る43︵ ︶ 。 右 の よ う な 事 前 指 導 は 、 申 請 権 の 保 護 と し て 働 く と い う 方 向 を 有 す る 点 が 特 徴 と な る 。 な お 、 行 政 側 が 事 前 指 導 の 実 施 に 傾 く 要 因 と し て 、 当 該 申 請 に 係 る 事 業 活 動 の 規 制 の た め に 行 政 の 介 入 を 求 め る 市 民 の 要 望 に 応 え る こ と が で き る と い う 点 も 指 摘 さ れ る44︵ ︶ 。 産 廃 処 理 施 設 設 置 や 病 院 開 設 の 申 請 事 案 に 典 型 的 で あ る が 、 周 辺 住 民 や 関 係 団 体 の 合 意 書 等 の 取 得 を 申 請 条 件 と す る よ う な 事 前 指 導 で あ り 、 当 該 申 請 の 成 否 に 利 害 関 係 を 有 す る 第 三 者 の 利 益 保 護 と い う 三 面 関 係 に お い て の 調 整 を 図 る も の と い え る 。 も っ と も 、 そ こ で い わ れ る 第 三 者 の 利 益 保 護 と は 、 申 請 の 不 受 理 ・ 返 戻 と い っ た 措 置 が と ら れ る 背 景 と も な る も の で あ り 、 こ の 種 の 事 前 指 導 は 、 申 請 者 に 対 す る 関 係 で み れ ば 、 第 一 に 、 申 請 権 の 保 護 に 否 定 的 な 方 向 に 働 き 、 第 二 に 、 問 題 解 決 を も っ ぱ ら 申 請 者 や 関 係 住 民 等 に 委 ね 、 行 政 側 の 関 与 は 消 極 的 で あ る と い う 特 徴 が あ る 。 こ の よ う な 消 極 的 事 前 指 導 は 、 法 の 不 備 の 補 充 を 目 指 し た 自 治 行 政 の 展 開 と い う 別 の 論 点 を 有 す る も の で は あ る が 、 手 続 法 か ら み れ ば 、 そ こ で 生 じ る 問 題 は 、 申 請 関 連 の 手 続 規 定 か ら 比 較 的 容 易 に 捕 捉 す る こ と が で き る こ と か ら 、 本 稿 で 考 え る 行 政 の 積 極 的 関 与 が み ら れ る 事 前 指 導 と は 区 別 し て お く45︵ ︶ 。 以 上 の よ う に 、 事 前 指 導 方 式 の 存 在 自 体 は 、 こ れ を 行 政 手 続 法 の 趣 旨 に 反 す る も の と 俄 か に は 断 じ 難 い 側 面 が あ る 。 で は 、 申 請 希 望 者 と の 関 係 で は ど う で あ ろ う 。 事 前 指 導 に は 申 請 権 を 侵 害 す る 危 険 性 を 内 包 し て い る が 、 こ れ を 法 的 に 捉 え る こ と は 容 易 で は な い 。 申 請 準 備 段 階 に お け る 行 政 の 関 与 は 、 申 請 到 達 以 降 の 規 律 で あ る 手 続 法 七 条 の 守 備 範 29−2−177(香法2009) 四 九

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囲 外 と 一 応 考 え ら れ る 。 し た が っ て 、 事 前 指 導 に つ い て は 、 行 政 指 導 に 関 す る 手 続 法 上 の 規 律 を 及 ぼ す こ と が ま ず 検 討 さ れ る が 、 事 前 指 導 が 前 述 の と お り 一 定 の 合 理 性 を も っ て お り 、 申 請 希 望 者 が 、 事 前 指 導 に 任 意 に 応 じ て い る 限 り 、 手 続 法 上 の 問 題 は 生 じ え な い こ と に な る 。 た だ し 、 事 前 指 導 方 式 そ れ 自 体 が 不 合 理 で な い と し て も 、 そ れ が 真 に ﹁ 任 意 ﹂ の も の と い え る か に つ い て は 、 事 前 指 導 の 運 用 次 第 で 問 題 が 生 じ う る 。 事 前 指 導 が 関 係 す る 紛 争 事 例 で は 、 事 前 指 導 の 法 的 位 置 付 け が 申 請 希 望 者 に 十 分 理 解 さ れ ず 、 一 種 の 法 定 手 続 の よ う な 誤 解 を 与 え 、 申 請 権 の 行 使 が 実 質 的 に 阻 害 さ れ る と い う 事 案 が み ら れ る 。 こ の よ う な 場 面 で は 、 申 請 し よ う と す る 者 が 事 前 指 導 に 従 わ な い 意 思 を 明 確 に 表 明 す る こ と が 困 難 で あ り 、 行 政 指 導 に 関 す る 規 律 の み で は 十 分 な 申 請 権 保 護 が 図 れ な い 。 そ こ で 、 手 続 法 七 条 の 規 範 を 及 ぼ す こ と が 再 び 検 討 さ れ る こ と に な る 。 こ の 点 に 関 す る 近 時 の 裁 判 例 で 注 目 す べ き 判 決 が あ る の で 次 に と り あ げ て み よ う 。 ! 東 京 地 裁 平 成 一 八 年 九 月 二 一 日 判 決 ︵ 判 時 一 九 八 二 号 五 八 頁 ︶ 本 件 は 、 元 夫 が 行 方 不 明 と な り 、 失 踪 宣 告 に よ っ て 死 亡 し た も の と み な さ れ た こ と か ら 、 同 人 と 別 居 し て い た 戸 籍 上 の 妻 で あ る 原 告 が 、 被 告 地 方 公 務 員 共 済 組 合 に 遺 族 共 済 年 金 の 決 定 請 求 を し た と こ ろ 、 遺 族 に 該 当 し な い と の 理 由 で 決 定 請 求 棄 却 の 処 分 を 受 け た た め 、 国 家 賠 償 を 求 め た 事 案 で あ る 。 原 告 が 遺 族 共 済 年 金 の 決 定 請 求 書 を 被 告 か ら 交 付 さ れ る ま で に は 、 お よ そ 次 の よ う な 経 緯 が あ っ た 。 ま ず 、 原 告 は 、 遺 族 年 金 等 の 申 請 準 備 の た め 、 市 の 事 務 所 を 訪 れ 、 遺 族 共 済 年 金 の 決 定 請 求 書 の 交 付 を 求 め た が 、 そ の 際 、 担 当 職 員 か ら 、 長 期 間 の 別 居 な ど 生 計 維 持 関 係 を 調 査 し な け れ ば 遺 族 認 定 が で き な い と き に は 、 事 前 に 生 計 維 持 関 係 に つ い て 調 査 す る こ と と し て お り 、 本 件 も 事 前 調 査 が 必 五 〇 29−2−178(香法2009)

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要 で あ る 旨 、 遺 族 と 認 定 さ れ れ ば 決 定 請 求 書 を 送 付 す る 旨 の 説 明 を 受 け た 。 原 告 も 事 前 調 査 に 従 う こ と に 同 意 し 、 調 査 の た め に 求 め ら れ た 各 種 書 類 を 提 出 し た が 、 事 前 調 査 が 完 了 し て い な い こ と を 理 由 に 決 定 請 求 書 の 交 付 が 拒 ま れ る 状 態 が 続 い た 。 原 告 は 、 市 側 の 遺 族 認 定 手 続 に 不 審 の 念 を 払 拭 で き ず に い た が 、 行 政 手 続 法 の 存 在 を 知 り 、 総 務 省 行 政 管 理 局 行 政 手 続 室 に 電 話 で 相 談 を し た と こ ろ 、 同 室 担 当 官 は 、 市 側 の 対 応 は 手 続 法 に 照 ら し 問 題 が あ る 旨 を 説 明 し 、 市 に 対 し て も 、 事 前 審 査 に よ る 事 務 処 理 方 式 の 問 題 点 を 指 摘 し た 。 そ の 後 、 遺 族 共 済 年 金 決 定 請 求 書 そ の 他 の 書 類 が 被 告 か ら 原 告 に 郵 送 さ れ て い る 。 事 前 審 査 制 度 の 説 明 が 不 十 分 で あ っ た た め 、 原 告 は 、 申 請 の 必 要 性 に つ い て の 認 識 は あ っ た も の の 、 事 前 審 査 に 従 わ ず 直 ち に 申 請 行 為 に 及 び う る と の 判 断 が で き ず 、 申 請 権 を 現 実 に 行 使 す る こ と が 阻 ま れ た と い う 事 案 で あ る 。 事 前 審 査 の 運 用 に 起 因 す る 問 題 で あ る こ と か ら 、 単 に 原 告 の 法 の 不 知 と す る こ と も で き な い 。 本 件 は 、 遺 族 該 当 性 判 断 の 適 否 に 加 え 、 行 政 手 続 法 五 条 な い し 九 条 違 反 が 争 わ れ た 事 案 で あ る が 、 本 稿 と 直 接 関 連 す る 七 条 違 反 に つ い て の 裁 判 所 の 判 断 は 次 の よ う な も の で あ る 。 ま ず 、 申 請 を し よ う と す る 者 が 申 請 の 意 思 を 明 ら か に し 、 申 請 書 の 提 出 を 希 望 し て い る 場 合 に お い て 、 行 政 庁 が 申 請 書 の 提 出 を 拒 否 す る こ と は 、 行 政 手 続 法 七 条 の 趣 旨 に 実 質 的 に 違 反 す る こ と 、 ま た 、 事 前 審 査 方 式 が 、 申 請 希 望 者 の 負 担 軽 減 と い う 点 で 不 合 理 な 制 度 で あ る と ま で い え な い と し た 上 で 、 次 の よ う な 一 般 的 判 断 基 準 を 示 し た 。 ﹁ こ の よ う な 取 扱 い は 、 あ く ま で も 申 請 希 望 者 が 任 意 に 応 じ る 限 り に お い て 許 容 さ れ る も の と い う べ き で あ る か ら 、 被 告 と し て は 、 申 請 希 望 者 に 対 し 、 事 前 審 査 方 式 に 服 す る の か 、 そ れ と も こ れ に 服 さ ず に 決 定 請 求 書 を 直 ち に 提 出 す る の か の 選 択 の 機 会 を 与 え る た め に 、 被 告 が 事 前 審 査 方 式 を 行 う 理 由 及 び こ れ に 服 さ ず に 直 ち に 決 定 請 求 書 を 提 出 す る こ と も で き る 旨 、 さ ら に は 事 前 審 査 方 式 を 行 う 場 合 と そ う で な い 場 合 と で そ れ ぞ れ の 申 請 の 処 理 に 要 す る 期 間 が ど の 程 度 29−2−179(香法2009) 五 一

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