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Vol.27 , No.2(1979)078佐藤 彰顕「阿闍世コンプレックスとエディプス・コンプレックスとの対比的考察」

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Academic year: 2021

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阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス と エ デ ィ プ ス ・ コ ン プ レ ッ ク ス と の 対 比 的 考 察 ( 佐 藤 ) 二 五 六

一 ま え が き 仏 教 に お け る 理 念 の 行 動 化、 操 作 化 を 考 察 す る。 観 経 の 阿 闇 世 の 物 語 が、 人 に 普 遍 な 心 理 と し て、 操 作 化、 行 動 化 さ れ て ゆ く 過 程 を 明 確 に し い る。 他 の 仏 教 の 諸 理 念 の 行 動 化、 操 作 化 の 参 考 に 資 す る も の で あ る。 二 コ ン プ レ ッ ク ス の 定 義 コ ン プ レ ッ ク ス ( 複 合 体 ) は (イ)﹁い く つ か の 基 本 的 心 理 的 要 素 か ら 構 成 さ れ た 心 理 的 複 合 体 で あ つ て、 そ の も つ れ、 錯 綜、 葛 藤 な ど の 心 の 働 き の 基 本 的 な 文 脈、 構 造 を あ ら わ す 語 ﹂で あ り、 (ロ) 個 々 人 の 場 合 に、 そ の 意 識 体 験 と し て は、 多 種 多 様 の 現 わ れ を 示 す が、 根 底 で は、 人 々 の 共 通 の 普 遍 的 な 深 層 心 理 を 意 味 す る ﹂ ( フ ロ イ ド の 父 性 原 理 ) 語 で あ り、 (ハ) 主 と し て、 ﹁幼 な い 時 の 父 母 と の か か わ り 方 に よ つ て 規 定、 起 因 さ れ る ﹂も の で あ る と 定 義 さ れ る。 こ の 定 義 を 換 言 す れ ば、 我 々 の 苦 悩、 葛 藤 は、 幼 な い 時 の 父 母 と の 関 係 の あ り 方 に 規 定 さ れ、 基 本 的 な 心 理 的 要 素 か ら な り、 そ れ ら の 基 本 的 な 心 理 的 要 素 は、 人 々 に と つ て、 根 底 に お い て、 共 通 普 遍 な 深 層 心 理 で あ る と い う こ と に な る。 我 の 苦 悩 が、 彼 の 苦 悩 に 根 底 に お い て 共 通 し て い る 可 能 性 を 示 し て い る ℃ 三 エ デ ィ プ ス と 阿 闇 世 と の 誕 生 ま で の 対 比 エ デ ィ プ ス と 阿 闇 世 と の 比 較 研 究 で、 二 人 の 誕 生 前 の 比 較 は、 軽 く あ つ か わ れ て い る 面 が 多 い の で 明 確 に し て お く こ と に す る。 ま た 精 神 分 析 の 分 野 で と り あ げ ら れ る エ デ ィ プ ス に ま つ わ る 物 語 は 次 の よ う な も の で あ る。 ﹁エ デ ィ プ ス の 父 は、 ギ リ シ ア の テ ー ベ と い う 国 の 王 で あ つ た。 生 ま れ た 子 ( 男 ) が 父 を 殺 す で あ ろ う と い う 予 言 を お そ れ、 生 ま れ た エ デ ィ プ ス を す て る。 彼 は、 や が て コ リ ン ト ス の 王 に や し な わ れ る が、 い つ か 彼 の 耳 に も、 自 分 が 父 を 殺

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-758-し て 母 と 結 婚 す る と い う 宿 命 を も つ て い る と い う 話 が 伝 わ つ て く る。 コ リ ン ト 王 と 王 妃 を 真 実 の 父 母 と 思 つ て い た エ デ ィ プ ス は、 悲 劇 を さ け よ う と し て 逃 げ 出 す が、 テ ー ベ の 町 に き て、 父 と 知 ら ず、 王 を 殺 し、 そ の 妃 (実 際 の 母 ) と 結 婚 し て し ま う。 後 に な つ て 事 実 が わ か り 母 は 自 殺 し、 彼 は 自 ら 目 を く り ぬ い て ( 去 勢 し て ) 放 浪 す る。 ﹂精 神 分 析 の フ ロ イ ト は、 こ の 物 語 に ち な ん で、 エ デ ィ プ ス ・ コ ン プ レ ッ ク ス は、 ﹁両 親 を め ぐ る 子 ど も ( 男 児 ) の 近 親 相 姦 的 な 葛 藤 が 人 間 の 無 意 識 ( 1) 心 理 に 普 遍 的 に 存 在 す る。 ﹂と 仮 定 し た。 エ デ ィ プ ス ・ コ ン プ レ ッ ク ス が 父 親 と の 関 係 を 追 究 し た の に 対 し て、 母 親 と の 関 係 を 追 究 し て、 阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス を 提 案 し た の が 古 沢 平 作 で あ つ た。 彼 は、 昭 和 七 年 に フ ロ イ ト に 論 文 を 提 出 し て い る。 阿 闊 世 と エ デ ィ プ ス と の 誕 生 前 の 対 比 は、 ︹表 1 ︺の と お り で あ る。 四 誕 生 後 の エ デ ィ プ ス と 阿 闇 世 の 対 比 二 人 の 誕 生 後 経 過 内 容 は ︹表 2 ︺の と お り で あ る。 エ デ ィ プ ス ・ コ ン プ レ ッ ク ス を 提 出 し た フ ロ イ ト に と つ て 人 倫 と は、 次 の よ う な も の で あ つ た。 父 を 殺 し、 母 を 妻 と し た エ デ ィ プ ス は、 罰 と し て、 我 が 目 を え ぐ り、 放 浪 の 旅 に 出 る。 エ デ ィ プ ス に と つ て、 運 命 は 決 定 論 的 で、 誰 れ も が 救 い よ う な が い の で あ る。 敵 は 敵 と し て 存 在 し、 罪 人 は、 永 遠 に 罪 人 な の で あ る。 近 親 相 姦 と 父 親 殺 し の 二 大 衝 動 を 社 会 的 に 禁 示 す る こ と が、 社 会 共 同 体 の 維 持 に 最 重 要 な こ と で あ り、 二 大 衝 動 を 禁 止 す る こ と が 人 倫 の 起 源 で あ る。 罰 と し て 目 を え ぐ り < 去 勢 の 罰 > と そ れ に 対 す る 恐 れ = 罰 悪 感 こ そ が 社 会 を 秩 序 づ け、 社 会 の 行 動 を 支 配 す る 規 制 原 理 で あ る。 阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス を 提 出 し た 古 沢 に と つ て の 人 倫 は 次 の よ う な も の で あ る。 阿 闇 世 は、 罰 に 対 す る 罪 悪 感 と し て ﹁ザ ン ゲ 心 ﹂を お こ す、 さ ら に 自 己 の 行 動 を 母 が ゆ る す こ と に よ つ て、 自 か ら わ る か つ た と い う ﹁真 の ザ ン ゲ 心 ﹂を お こ す。 古 沢 は、 こ の 自 か ら わ る か つ た と い う ザ ン ゲ 心 こ そ が 人 倫 の 起 源 で あ る と す る。 古 沢 は エ デ ィ プ ス と 阿 闇 世 と の ち が い を 次 の よ う に 指 摘 し ( 2) て い る。 ﹁エ デ ィ プ ス の 欲 望 の 中 心 を な す も の は、 母 に 対 す る 性 愛 の た め 父 を 殺 害 す る と こ ろ に あ る。 換 言 す れ ば ( 女 と し て の ) 母 と 結 婚 せ ん た め の ( 男 と し て の ) 父 の 殺 害 が 主 題 で あ る。 阿 闇 世 の 母 に 対 す る 殺 意 は、 決 し て 母 に 対 す る 愛 欲 に そ の 源 を 発 し て い る の で は な い。⋮⋮ む し ろ 自 己 の 生 命 の 本 源 た る 母 が 裏 切 つ た と の 阿 闊 世 の 怒 り 阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス と エ デ ィ プ ス ・ コ ン プ レ ッ ク ス と の 対 比 的 考 察 ( 佐 藤 ) 二 五 七

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阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス と エ デ ィ プ ス ・ コ シ プ レ ツ ク ス と の 対 比 的 考 察 ( 佐 藤 ) 二 五 八 か ら 発 し て い る。 ﹂阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス は、 子 ど も へ の 愛 情 か ら 自 分 を う み、 育 て、 自 分 の 誕 生 を 無 条 件 的 に 祝 福 す る 生 命 の 根 源 で あ る は ず の 母 が、 実 際 に そ う で は な か つ た こ と に 対 す る 怨 み を 主 題 に し て い る。 阿 闇 世 が こ の 世 に 生 ま れ る そ の 生 命 の 成 り 立 ち そ の も の の 由 来 = 因 縁 に 対 す る 怨 み = 未 生 怨 = で あ る。 エ デ ィ プ ス と 阿 闊 世 の 決 定 的 ち が い は、 エ デ イ プ ス ・ コ ン プ レ ッ ク ス が、 性 愛 と 殺 意 と い う 子 ど も の 側 の 衝 動 を 主 題 と し て い る の に 対 し て、 阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス は、 母 親 の 側 の 煩 悩 を ま ず 出 発 点 に し て い る 点 で あ る。 五 五 阿 閣 世 コ ン プ レ ッ ク ス の 諸 モ デ ル ︹表 2 ︺ 2 人 の 誕 肝 球 の 灘 詳

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ね ン プ レ ッ ク ス の 定 義 で 考 察 し た が、 コ ン プ レ ッ ク ス は、 い く つ か め 基 本 的 な 心 理 的 素 要 か ら 構 成 さ れ て い る。 そ れ ら の 基 本 的 な 心 理 的 要 素 が い か に と ら え ら れ て い る か を 諸 モ デ ル に よ つ て 考 察 す る。 阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス に 限 定 し て の 諸 モ デ ル を 取 り あ つ か つ て い る。 (イ) 古 沢 モ デ ル ( 古 無 平 作 -精 神 分 析 医 師 -一 九 三 二 年 フ ロ イ ド に 論 文 提 出 ) 古 沢 モ デ ル で は、 罪 意 識 を 処 罰 型 の 罪 悪 感 と 自 発 的 な 罪 意 識 ( ゆ る さ れ 型 ) の 罪 意 識 と の 二 種 類 に 区 分 し て い る。 処 罰 型 の 罪 悪 感 は、 あ や ま ち を 犯 し た 時、 人 が ま ず は じ め に、 処 罰 へ の 恐 怖 と し て お こ す 罪 悪 感 の こ と で あ る。 さ ら に す す ん で 人 は、 い け な い こ と を し て 罪 を お か し、 そ の あ や ま ち を ゆ る さ れ た 時 に お こ す 心 か ら す ま な い と 気 を お こ す。 こ の 意 識 を 古 沢 は、 ゆ る さ れ た 体 験 を と お し て の 自 発 的 な 罪 意 識 す な わ ち ﹁ザ ン ゲ 心 ﹂ と し た。 こ の ゲ ン ゲ 心 が 真 の 人 倫 の 起 源 で あ る と し て い る。 回 小 此 木 モ デ ル ( 小 此 木 啓 吾 -精 神 医 学 者 ) 彼 は、 基 本 的 な 心 理 的 要 素 を 三 つ に 区 別 し て い る。 (1) 甘 え = 理 想 化 さ れ た 母 へ の 一 体 感 生 ま れ て き た 子 は、 母 を も つ と も 理 想 的 な 存 在 と し、 母 と 同 一 化 し よ う と す る 努 力 を な す。 (2) 怨 み = 母 に よ る う ら ぎ り 理 想 的 な 存 在 で あ る べ き 母 が、 母 の 側 か ら う ら ぎ り を な す こ と に よ つ て 子 に 怨 念 を 生 ぜ さ せ る。 (3) ゆ る し = 怨 み を こ え た ゆ る し の 通 い、 怨 念 を こ え た ゆ る し あ い が 通 じ あ う 時 に そ の 人 間 関 係 に 一 体 感 が 生 ず る。 ( 3) の 池 見 モ デ ル ( 池 見 酉 次 郎-精 神 医 学 者-) 古 沢 モ デ ル の 処 罰 型 の 罪 悪 感 か ら ザ ン ゲ 心 に 到 る 過 程 を さ ら に 細 分 化 し て い る。 こ れ ら 三 つ の モ デ ル を ま と め る と ︹表 3 ︺の と お り で あ る。 ゆ る さ れ た 時 に 生 ず る ザ ン ゲ 心、 そ れ か ら 生 ず る 一 体 感 が 人 間 関 係 の 最 重 点 と と ら え て い る。 六 治 療 と 一 体 感 ( 4) 治 療 と 一 体 感 に つ い て 池 見 の 述 べ る と こ ろ を み て ゆ こ う。 ﹁治 療 の う え で、 と く に 問 題 に な る の は、 生 命 の 直 接 の 源 と な る 母 親 を 通 し て、 真 の 一 体 感 を 経 験 し た こ と の な い 人 で あ る。 彼 の 荒 ん だ 心 の 土 壌 に は、 ア ジ ヤ 世 の よ う な 絶 対 的 な 慈 悲 に よ つ て と う か さ れ な い か ぎ り、 人 生 に た い す る 信 頼 や 真 の 宗 教 的 な も の は 芽 ば え に く い の で あ る。 ﹂し た が つ て、 医 学 的 に も、 宗 教 的 に も 他 者 と の 一 体 感 を あ じ あ わ せ る こ と 阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス と エ デ ィ プ ス ・ コ ン プ レ ッ ク ス と の 対 比 的 考 察 ( 佐 藤 ) 二 五 九

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阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス と エ デ ィ プ ス ・ コ ン プ レ ッ ク ス と の 対 比 的 考 察 ( 佐 藤 ) 二 六 〇 が 必 要 で あ る と 強 調 し て い る。 1 心 理 学 小 辞 典 p. 2 1, 1 9 7 8 年 ・ 有 斐 閣。 2 小 此 木 啓 吉 ﹁阿 闇 世 コ ン プ レ ッ ク ス ﹂ p p. 10 8, 1 9 7 8 年 6 月 号 ・ 中 央 公 論。 3 池 見 酉 次 郎 ﹁セ ル フ コ ン ト ロ ー ル の 心 理 と 生 理 ﹂・ 西 日 本 新 聞 社。 4 池 見 酉 次 郎 ﹁自 己 分 析 ﹂ p p. 1 82, 1 9 6 8 年 ・ 講 談 社 新 書。 〔表3〕諸 モ デ ル の比 較

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