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2 2. 森林整備による長期的対策 Ⅹ. おわりに Ⅰ. はじめに 集中豪雨の際, 林地崩壊あるいは渓床堆積物の移動が生じて土石流が発生すれば, 無機物の土砂礫とともに有機流下物としての流木が流出してくることはよく見かけられる現象である この場合, 流出流木量の多寡は降雨量, 流出水量の他に, 山地

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土石流に伴う流木による災害と

その防止軽減対策に関する考察

水 原 邦 夫 目 次 Ⅰ. はじめに Ⅱ. 流木による災害助長の視点から観た水災害と 森林・林業の変遷 Ⅲ. 流木による災害助長の事例 1. 昭和50年以前の主な流木災害 2. 昭和50年以降の主な流木災害 Ⅳ. 流木による被害形態 Ⅴ. 山地河川における流出流木の実態 1. 流木の発生源 2. 流木の流下形態 3. 流木の形状および寸法 4. 流木の流出率 Ⅵ. 土石流に伴う流木の挙動特性に関する実験 1. 実験方法および材料 2. 実験結果および考察 Ⅶ. 土石流に伴う流木の捕捉工に関する実験 1. 実験方法および材料 2. 実験結果および考察 Ⅷ. 流木対策施設計画に関する基本的考え方 1. 流木対策施設計画全体フロー 2. 計画生産流木量および計画流出流木量 3. 流木対策施設に関する基本事項の検討 Ⅸ. 総合的な流木対策計画 1. 土木的手法による短期的対策 (京都府立大学名誉教授)

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2. 森林整備による長期的対策 Ⅹ. おわりに Ⅰ. はじめに 集中豪雨の際,林地崩壊あるいは渓床堆積物の移動が生じて土石流が発生す れば,無機物の土砂礫とともに有機流下物としての流木が流出してくることは よく見かけられる現象である。この場合,流出流木量の多寡は降雨量,流出水 量の他に,山地流域の河道近辺の地形,地質,地被状態および森林の管理の仕 方によって異なるものと思われるが,谷沿いまで人工林化の進んだ地域におい ては,土石流に伴う流木の流出量も多く,土石流災害の規模を増大する恐れが あることは,近年の災害において数多く,その例をみることができる。 流木が洪水災害や土石流災害の規模を増大することについては,以前から治 水専門家によって多少とも指摘されていた。しかしながら,災害時における出 水・流出土砂の量の多さに目を奪われ,流木による害を看過してきたために, また流木の発生源である森林の経済的価値や公益的機能が高く評価されてきた ために,流木による災害激化に対する認識は一般的に浅く,したがって流木そ のものが研究対象として積極的に取り上げられることが少なかった。このよう な研究面での状況を反映してか,流木問題については未解明な点が数多く残っ ているのが実状である。これは,現今の災害の実態から見て問題視されるべき であり,流木問題について研究面および技術での積極的な発展が強く望まれ る。 本稿では,まず昭和初期から最近までの主な河川災害や土砂災害の関係資料 等に基づいて,いわゆる流木による被害の実態を分析・整理する。次に,筆者 による土石流災害発生渓流における流木調査をもとに,流木の発生源,流出形 態,形状・寸法および流出率等を解析し,併せて土石流に伴う流木の挙動およ び捕捉に関して実験的に検討するとともに流木対策計画に関する基本的考え方 等について考察する。

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Ⅱ. 流木による災害助長の視点から観た水災害と 森林・林業の変遷 わが国では,梅雨前線および台風に伴う集中豪雨によって過去幾多の水害が 発生しているが,それらの水害は,ときには出水による害または流出土砂によ る害といわれてきた。しかし,これらの災害を見方をかえて調べてみると,流 木によって災害が激化したものも数多く見受けられる。本章では,流木による 災害助長の視点から,水災害と森林・林業の変遷を昭和初期以降について概観 してみよう。 まず,昭和初期から昭和30年代中頃までは,大規模な広域洪水氾濫災害が 度々発生していた。特に,第 2 次大戦後15年間(昭和20年〜昭和34年)は大水 害頻発時代または災害特異時代とも言われ,主として下流域の沖積平野に立地 する都市部に甚大な被害をもたらしていた。その主因は長期にわたる戦争継続 による森林濫伐等の国土荒廃と治山治水事業の停滞であるが,その後の河川改 修,多目的ダムの建設,情報連絡網の整備等の総合的防災対策が進捗するにつ れ,洪水災害は局所的に発生するものの被害規模は急速に減少していった。 一方,土砂災害は減少することなく,洪水災害に比べて規模が小さいが連年 の如く発生していた。特に,防災体制の整備が遅れた中山間地域の中小河川の 扇状地上に形成された既存集落,そして昭和30年代の高度経済成長に伴い開発 が進んだ都市周辺の山麓部まで展開した新興住宅地域では,土石流や崖崩れ等 による土砂災害が多発するようになり,世論的関心事となった。このような都 市化の進展に伴って急増した土砂災害対策として,都市対策砂防事業が昭和50 年に制度化された。土砂災害の中で土石流は古くは山津波や山潮と呼ばれてい たが,その発生機構が不明でj幻の災害l,j幻の土石流lと言われていた。幻 のベールを剝がし土石流の実態を明らかにするため,昭和41年山梨県西湖の足 和田土石流災害から精力的に調査が行われたが,土石流の抜け殻の災害調査の 域を出なかった。その後も多発する土石流災害に対して科学的根拠に基づく対 策を立てるために,昭和50年から大学・国の研究機関が土石流の発生・流動・ 堆積メカニズムに関する調査研究を本格的に開始した。近年では,地球規模の 気候変動の影響もあってか,集中豪雨による土砂災害の発生回数,被害規模の 増大が懸念されており,上記の調査研究成果等に基づくハードおよびソフト面 の土砂災害対策が鋭意進められているところである。

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次に,流木の発生源の一つでもある山地森林に目を向けてみる。上記の大規 模洪水災害が頻発した時期は戦後の復興期に重なり,主要復興資材の一つであ る建築用木材を大量に確保するために大規模な森林伐採が行われ,その伐採跡 地にスギ・ヒノキ等を植林するいわゆる拡大造林政策が実施された。特に,昭 和30年代以降には燃料革命の影響により薪炭林等の里山林までもスギ,ヒノキ 等の人工林に転換する拡大造林が進められた。しかし,木材輸入の自由化とそ れに伴う外国産木材の需要増大の影響で,国産材の自給率(用材)は昭和30年 には94. 5%であったが,昭和40年には71. 4%に低下し,昭和50年にはその約半 分の35. 9%に急減し,平成12年には18. 2%まで落ち込み,最近の数年間では少 し回復して30%弱で推移している。その結果,上述のスギ・ヒノキ人工林を主 体とする林業経営は徐々に衰退し,それに伴い森林整備が行き届かない放置森 林が増え,森林の荒廃が目立つようになっていった。このような森林荒廃は, 近年の気候変動に伴う集中豪雨の増加にもろに影響を受け,樹木の根付きの悪 い林地の土砂崩壊をもたらし,それに連動して流木を伴う土石流の発生を引き 起こし,流木災害が多発するようになったものと思われる。 Ⅲ. 流木による災害助長の事例 前述のような洪水災害や土石流災害の変容,林業衰退に伴う森林荒廃の顕在 化,そして筆者による幾つかの災害現地調査等を勘案して,以下では流木に関 する災害資料を昭和50年を分岐点として整理することにした。 まず,昭和初期から昭和50年までの水害において,それを流木による災害激 化という観点から述べた既存資料を整理する。次に,それ以降の代表的な土石 流災害を同様な観点から分析し,いわゆる流木災害の実態,とりわけ被害の形 態を明らかにする。 1. 昭和50年以前の主な流木災害 昭和初期から昭和50年までの災害において,流木が災害を助長させた事例と して,表 1 に示す災害があげられる。

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2. 昭和50年以降の主な流木災害 次に,昭和50年以降の水災害では土石流災害の占める割合が多くなり,流木 による災害助長の問題がジャーナリズムにも取り上げられ世論的関心事となる こともあった。筆者の災害現地調査資料および関係行政機関の発表資料等に基 づくそれらの災害の概要は以下のようである。 昭和28年 上流の製材工場の貯木場から流失した大量の材木が主な 流木構成材料となり,下流の夜明ダムを破壊し,久留米 市内の橋梁に引っかかって,æ流,氾濫した。 筑後川 九州水害 昭和28年 阪神大水害 京都大水害 岡山水害 災害名 河川名 災害の概要 発生年 諫早水害 昭和32年 大量の流出土砂と180, 000m3の流木が災害規模を激甚な ものにし,流木処理のため災害復旧が遅延した。 日高川 紀州水害 昭和28年 大量の流出土砂と121, 000m3の流木が災害規模を激甚な ものにし,流木処理に非常に多くの日数を要した。 有田川 紀州水害 昭和28年 子飼橋に大量の流木が引っかかり,白川をせき止めたた め堤防が決壊し,火山灰を含んだ洪水が熊本市街に氾濫 した。 白川 九州水害 与川等 南木曾災害 昭和41年 千曲川支流鹿曲川の橋梁に大量の流木が集積し,堤防の 破壊によって市街地,田畑は大きな被害を受けた。 千曲川 千曲川水害 昭和34年 37, 000m3の流木量が記録され,伊豆地方に流出土砂より 流木による大きな災害をもたらした。 狩野川 狩野川水害 昭和33年 本明 川 上流の 橋 梁,家 屋等 の破 損 材で構 成 さ れた 約 1, 500m3の流木が諫早市街地で氾濫し,水禍が生じた。 本明川 仁淀川支流勝賀瀬川の架橋が多量の流木・土砂で閉塞し, 大量の土砂が堆積し,家屋・発電施設・田畑が破壊,流 失,埋没した。 仁淀川 仁淀川災害 昭和50年 伊勢湾台風時の未処理風倒木が土石流により多数流出し, 護岸の破壊や鉄道橋の流失が生じた。 旭川上流の家屋,橋梁等が多数流失して流木となり,橋 梁にせき止められ,堤防のæ流,決壊が生じ岡山市内に 泥流が氾濫した。 旭川 昭和 9 年 両川の流域上流部で発生した多量の流木が34橋の橋梁を 流失,破壊し,京都市内は大水害を被った。特に,四条 大橋の流木閉塞による洪水氾濫被害は甚大であった(写 真 1 )。 賀茂川 高野川 昭和10年 表六甲の諸河川では,土石流により大量の土砂礫と共に 立木,家屋破損材が神戸市内に流下,氾濫し,災害を余 計惨憺たるものにした。 表六甲 諸河川 昭和13年 表 1 過去の主な流木災害事例(昭和 9 年〜昭和50年)

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・昭和51年 9 月小豆島災害 昭和51年 9 月の台風17号に伴う豪雨によって,香川県小豆島では土石流によ り全島壊滅的な被害を受けた。その中で,橘川上流で発生した流木を大量に含 む土石流は,その石礫の大部分を砂防えん堤で抑止されたものの,流木はえん 堤下流へ流下し流路工を閉塞した。そのため,土石流の後続流が氾濫し,護岸 内側が洗堀され,大きな災害を惹起することとなった。また,この災害におい て瀬戸内海に大量の流木が浮遊し,船舶の航行に支障をきたした。 ・昭和56年 8 月宇原川災害 昭和56年 8 月,中部地方を襲った台風15号は長野県北部に多大な被害をもた らした。中でも須坂市の宇原川最上流部で発生した土石流は,宇原川と仙せん仁に川 の合流点付近まで流下し,後続流によって土砂とともに押し流された多数の流 木が下流の橋梁でせき止められ,土砂・洪水が氾濫し大きな被害を出した。 ・昭和57年 7 月長崎大水害 昭和57年 7 月23日夕刻から翌24日未明にかけての猛烈な集中豪雨(時間雨量 187mm)により,長崎市の市街地では河川の氾濫,周辺近郊部では至る所で 土砂災害が同時多発的に発生し,未曾有の災害となった。特に,土砂災害に関 ᄢ ᄢ㊂䈱䈞䈐ᱛ䉄ᵹᧁ ྾᧦ᄢᯅ 写真 1 京都市四条大橋東詰めより見た流木のせき止め状況 (昭和10年6月京都大水害) 京都府提供

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しては,林木を多く含む流動性の強い崩壊土が土石流化したと思われるところ が各所でみられ,多量の流木が扇状地内の狭い流路工や屈曲部,橋梁,暗渠等 で閉塞・滞留したことにより,土石流が扇状地上流部で早期に氾濫を始め,災 害を激甚なものとした。 ・昭和58年 7 月島根豪雨災害(三み隅すみ川洪水・流木災害) 昭和58年 7 月23日,奇しくも前年の長崎大水害が発生した同じ日に,梅雨前 線活発化による記録的な集中豪雨により,島根県西部を中心に激甚災害が発生 した。特に,三隅川流域では山地崩壊が激しかったため,おびただしい量の土 砂や流木が流下し,その結果,三隅大橋が流木により閉塞され堰上げ背水が生 じ,市街地の住家の屋根に流木が乗り上げるほどの水深で激流が堤防を越流 し,家屋内に流木が突入・集積するなど惨憺たる被害様相を呈した(写真 2 )。 ・昭和61年 7 月京都府南部地域災害 昭和61年 7 月21日から22日にかけて,梅雨前線による局地的な集中豪雨が京 都府南山城地方を襲い,各地で山腹崩壊や土砂流出等による土砂災害や浸水被 ᵹ ᵹᧁ䈱㓸Ⓧ䈮䉋䉍䇮 ฝጯ஥䈏⪭ᯅ䈚䈢 ਃ㓈ᄢᯅ ᯅ⣉ㇱ䈮ᵹᧁ䉻䊦 䊙䈱ᒻᚑ䇮ᯅᩴⵣ䊶 ᰣᐓㇱ䈮ᵹᧁ䈱⹣ 䉁䉍䈏䉂䉌䉏䉎 ਃ㓈ᄢᯅ䈱ᵹᧁ㓸Ⓧ䈮 ၮ䈨䈒᳓૏ႍ਄䈕䈮䉋䉍 ደᩮ䉁䈪ਸ਼䉍਄䈕䈢ᵹᧁ ਃ㓈ᄢᯅ ᵹᧁ䈱ጊ 㶎㩷਄ᵹ䈱䋲䈧䈱ዊᯅ䈲 ోუᵹᄬ 写真 2 三隅大橋とその上流側家屋の被災状況 (昭和58年7月島根豪雨災害)

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害が発生した。特に,和束町木屋地区では全渓流で土石流が発生するなどし たため,流出流木が暗渠やボックスカルバートを閉塞したことに基づき,土石 流の氾濫により道路や橋梁等が損壊・流失し多大な損害をもたらした。 ・昭和63年 7 月広島県北西部豪雨災害(広島県加か計けちよう町土石流災害) 昭和63年 7 月20日から21日にかけて,広島県北西部は梅雨前線による局地的 な集中豪雨に見舞われ,山県郡加計町(現安芸太田町加計)を中心とした地域 に土石流災害が発生した。加計町一帯の30渓流の内,12渓流で土石流が発生し たが,流木が災害規模を拡大したと思われる渓流が幾つか見られた。被害拡大 の原因はほとんどの場合,谷の出口付近のボックスカルバートが流木により閉 塞されたため,土石流の氾濫範囲を拡大したことに基づくと推察された(後掲 の図 2 参照)。 ・平成 2 年 7 月熊本県一の宮町泥流・流木災害 平成 2 年 7 月 1 日から 2 日にかけて,梅雨前線による集中豪雨に見舞われた 熊本県阿蘇郡一の宮町を貫流する古ふる恵え川の最上流域では,多数の斜面崩壊が発 生し,その崩壊土砂による土石流が渓岸斜面の樹木を巻き込みながら流下して きた。土石流の構成材料の巨礫の大部分は中流部の砂防えん堤によって捕捉さ れたが,更に流下した流木を伴う泥流が下流の市街地を襲い,国道の橋梁を閉 塞したことにより,周辺に多量の流木と土砂が氾濫堆積し壊滅的な被害を与え た(後掲の図 3 参照)。この災害を契機に当時の建設省では,流木対策の本格 的な取り組みを始めた。 ・平成 3 年台風19号九州北部風倒木被害後の二次災害(大分県筑後川流域) 平成 3 年 9 月30日九州地方を襲った台風19号は降雨量は少なかったが強風で あったため,九州北部地方の山腹斜面において大量の風倒木が発生した。風倒 木の発生は表層地盤の緩み・攪乱を招き,平成 5 年,7 年の梅雨期の豪雨によ り斜面崩壊が多数生じて風倒木を含んだ土石流等が筑後川・山やま国ぐに川上流域等で 発生し,流木による河道閉塞,ダム貯水池への大量の流木滞留など,いわゆる 二次災害が生じた(写真 3 )。 ・平成11年 6 月広島豪雨災害 平成11年 6 月29日未明から降り始めた雨は,午後になって前線の刺激を受け て活発化し,時間的・場所的に集中性が強い豪雨となり,近年にない大規模な 土砂災害を発生させた。特に,広島市佐伯区の屋代川,古野川,荒谷川では大 量の流木を伴った土石流が発生し,流木が小橋梁等に詰まり,流下方向を変え

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氾濫し,被害を大きくした。なお,被害は都市近郊の新興住宅地に集中し,都 市型の土砂災害と位置づけられ,この災害が契機となって平成12年に土砂災害 防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律) が公布された。 ・平成16年 7 月福井豪雨災害 平成16年 7 月17日夜から18日にかけて活発な梅雨前線が北陸地方を南下した のに伴い,7 月18日朝から昼前にかけて福井県嶺北北部の足あす羽わ川流域を中心に 猛烈な大雨となり,多くの土砂災害や洪水が発生し,甚大な被害をもたらし た。特に,山地河川沿いの山間集落では,土石流現象により流出してきた大量 の土砂および流木等が小橋梁に詰まり,激流が河道をæれ氾濫,土砂が堆積し たことにより大きな被害を受けた。 ・平成16年10月台風23号近畿災害(兵庫県但たじ馬ま・淡路地域) 平成16年10月20日,兵庫県では但馬地域や淡路地域を中心に大型台風23号に よる記録的な降水量と大風に見舞われ,8 月末以降の連続した台風の影響も加 わって,各地に水および土砂による災害が発生した。このなかで,円山川では 山地からの流出流木が橋梁部でせき止められ洪水被害を増大させ,淡路市黒谷 では溜め池の洪水吐けが流木により閉塞し破壊した。また,洲本川では大量の 写真 3 流路工の架橋にせき止められた多量の流木 (平成 5 年 6 月大分豪雨災害,山国川水系矢形川支川)

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土砂・流木の流入による溜め池の決壊が,河川の急激な増水に繫がり水害を引 き起こす一因となった。 ・平成23年 9 月台風12号那智川水害 平成23年台風12号に伴う記録的な集中豪雨により,紀伊半島の和歌山県,奈 良県の各地で大規模斜面崩壊,土石流,洪水氾濫が発生し,近年では最大級の 災害となった。このなかで,和歌山県那智勝浦町を貫流する那智川の中流部で は,複数の支川渓流から林木を含む土石流が続発し合流部付近に氾濫堆積した ことにより,本川洪水流の水位上昇および流向変化等をもたらし,水・土砂に よる甚大な複合型災害が発生した。この災害でも井関地区において,氾濫激流 が土石流とともに流出した流木を伴って家屋を直撃し,倒壊または破損させ, 流木が洪水被害を少なからず助長させた考えられる。 ・平成24年 7 月九州北部豪雨災害 平成24年 7 月に 2 度にわたって九州北部地方を襲った既往最大規模の集中豪 雨は,福岡県・大分県・熊本県において洪水氾濫や土石流等が発生するなど広 域的に大規模な災害をもたらした。この災害の特徴の一つとして,山腹崩壊や 河岸侵食により発生した多量の流木が橋梁にせき止められたことにより,越 水・氾濫,橋梁の破壊・破損など災害を激化させた箇所が筑後川・矢部川・山 国川・玉たま来らい川(大野川支川)ほか多数の河川でみられた。また,熊本県阿蘇地 方では流木を含む土石流により家屋が破壊されるなど,多大な人的・物的被害 が生じた。 ・平成26年 8 月丹波市豪雨災害 平成26年 8 月16日から17日にかけて兵庫県北ほく播ばん丹波を中心に降った大雨は, 丹波市市島町では時間雨量91mm,24時間雨量414mm の局地性の猛烈な雷雨 性集中豪雨となり,同時多発的に250個所以上の林地崩壊が谷筋沿いに発生し, 大量の土砂・流木により山裾の人家等に大きな被害を与えた。また.流出した 流木・土砂が架橋付近の河道を埋塞したため,土砂を含む濁流の氾濫により下 流の集落や農地等に被害が拡大した。 Ⅳ. 流木による被害形態 流木による被害形態については既往文献でも述べられているが,上記の流木 災害に関する事例等から,改めて整理分類すると次のようになる。

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( 1 )主な被害形態 ①山地河川では,多量の流木が小橋梁・ボックスカルバートや狭い流路等で 詰まり河道閉塞が生じることにより,土石流・洪水流の氾濫範囲が拡大 し,橋梁の破壊・流失,道路・人家の破壊・破損,農耕地の浸水等の被害 発生。 ②下流河川では,多量の流木の橋梁集積または閉塞により,洪水氾濫,堤防 決壊,橋梁破壊・破損,農耕地の浸水等の被害発生。 ( 2 )その他の被害形態 ①洪水余水吐け,取水堰,頭首工の閉塞による機能障害および施設破壊 ②ダム貯水池における流木沈積によるダム機能障害 ③港湾・沿岸への漂着流木による漁業や船舶航行への悪影響 ④流木撤去処理に伴う自治体の財政負担,木材資源の滅失による経済的損失 Ⅴ. 山地河川における流出流木の実態 流木の主要構成材料は森林地域の谷沿いに生育する樹木である。したがっ て,山地河川における流木の発生形態,流木の形状・寸法等を明らかにするこ とは,流木防止対策に関する研究・技術面での基礎と考えられる。ここでは, 上記の事例のなかで,流木を伴った代表的な土石流災害である昭和63年広島県 加計町災害の土石流発生渓流および平成 2 年熊本県一の宮町災害の古恵川にお いて実施した流木調査等をもとにして,流出流木の実態について整理する。 1. 流木の発生源 流木問題を解決するに当たって,その発生源の追究は必要不可欠なものであ る。一般に,流木は,上流から下流に至る河道に接近したあらゆる場所におい て,発生する機会を有している。すなわち,上流の山間部では,主として山腹 崩壊による立木の滑落(写真 4 ),土石流の渓岸侵食による立木の流出(写真 5 ),中流部では洪水流の河岸侵食に基づく河畔林からの立木の流出が主な発 生源となる。また,過去の流出流木が渓流狭窄部に土砂と一緒にダム状に堆積 したいわゆる流木ダムや河道屈曲部に停止堆積し土砂に埋没していたものが, 次期豪雨時に再移動し流木化する場合もみられる。図 1 に,上述の流木発生パ ターンを模式図として示す。

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写真 4 流木発生源の事例 1

(平成 8 年 6 月末梅雨前線豪雨,奈良県五條土木事務所管内)

写真 5 流木発生源の事例 2

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なお,下流部では本来の意味での林木起源の流木は発生しないが,特殊な場 合として洪水氾濫によって破壊された家屋等木造構造物の破損材や木材置き場 からの流出が加わることもある。このような流木の発生形態を整理したものを 表 2 に掲げる。 図 1 主な流木発生パターン(風倒木研究委員会資料を一部加筆修正) ・家屋破壊材,木材置き場からの流出 (本来の意味での流木は非発生) ◎洪水流の水衝部河岸侵食による立木の流出 ○河岸崩壊による立木の滑落 △河道内の残留流木の再流木化 ◎山崩れに伴う立木の滑落 ◎土石流の渓岸侵食による立木の流出 ・谷間に放置された間伐材の流出 発生形態 発生地域 上流水源地域 (土石流区域) 中流地域 (掃流区域) 下流氾濫区域 (扇状地) 表 2 流木の発生形態 (◎:第 1 発生源,○:第 2 発生源,△:第 3 発生源,他は稀である)

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2. 流木の流下形態 流木の流下形態は河道の土石流区間と掃流区間では異なり,一般的に次のよ うに分類できる。 ( 1 )土石流による流送(土石流区間) 谷頭崩壊が流動化して土石流に発達する場合,および土石流が流下途中の渓 岸を侵食しながら流下する場合には,崩壊斜面および渓岸斜面に存在した立木 は土石流と一体となって流送される。なお,渓床に既に存在していた残留流木 もこの形態に含まれる。 ( 2 )洪水流による流送(掃流区間) 高次谷の河道では,流量が大きくなるので,流木は一般的に浮流に転じて流 送される。根付き流木は,ときには浮子形式に近い形(流木の根系部を水面下 に上部を水面上にして,長軸が立った状態)で流送される場合もみられる。 3. 流木の形状および寸法 流木対策を考えるに当たって,流出流木の形状・寸法,発生流木と流出流木 の長さの比較などの資料が必要となる。これらの資料は災害発生後,流木発生 地点付近の林地斜面の立木,扇状地に氾濫堆積した流木および河道内に残留し た流木を丹念に調査することによって得られるが,実際上,極めて困難な仕事 であり,またたとえ得られたとしても,それは普遍的なものではなく,渓流・ 河川別に区々となろう。ここでは,その一端を示すものとして,実地調査の結 果を示す。 前記した広島県加計町の土石流発生渓流では 5 渓流(図 2 ),熊本県一の宮 町の古恵川(図 3 )では黒川本流と黒川第 1 支流を選び,各渓流において土石 流流下経路上および谷出口付近に残留堆積していた流木の本数,寸法(長さお よび直径),形状を知るために現地調査を行った。広島県加計町の土石流発生 渓流は流路長が比較的短かったので,流木の発生源から谷出口の氾濫堆積地点 までを詳細に調査を行うことができた。その結果,各渓流において停止堆積し ていた流木の形状については,以下のようなことが総合的にいえる。 ( 1 )残留流木のうち約39%が根株付きのものであった。これらは,土石流 の発生地点,もしくは流下途中の渓岸侵食によって,根こそぎ土石流中に取り 込まれ流下してきたものと推測される。

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図 2 流木調査対象渓流位置図(昭和63年7月広島県加計町土石流災害) ਛ ਛ࿖⥄േゞ㆏ ᳯᴡౝ ᄥ↰Ꮉ ᒰᤨ䌊䌒✢ 㡻ᷰἑ

ᐢፉ⋵ጊ⋵㇭ ቟⧓ᄥ↰↸ട⸘ 䌁䌾䌅䈱ోᷧᵹ䈪࿯⍹ᵹ ⊒↢ 䌁䈲↟ᄢ䈭࿯⍹ᵹἴኂ䈏 ⊒↢䈚䈢ᳯᴡౝ⼱Ꮉ 図 3 古恵川(黒川)流域における崩壊・土石流の分布および流木の氾濫堆積状況図 (平成2年7月熊本県一の宮町災害) 注:図面右側には,古恵川以外の流域も一部描かれている。

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( 2 )各渓流とも下流に行くほど,葉・枝・樹皮等の付いていない損傷のひ どい流木が数多く存在していた。これは,土石流とともに流下することによっ て,渓岸との接触・衝突や土石流中の石礫にせん断摩耗され,折損しながらそ の原形を失っていくためと思われる(写真 6 )。 ( 3 )渓流内に停止堆積していた流木の長さは,いずれの渓流においても下 流に行くほど,短くなっていく傾向が認められた。氾濫区域まで流出した流木 は,図 4 に示すように,立木状態での樹高の 1 / 2 〜 1 / 3 程度になっていた。 熊本県一の宮町古恵川(黒川)における調査結果を合わせて示しているが, この場合には,坂さか梨なし地区における流木氾濫区域の詳細な実地調査が不可能であ ったので,中流部の県施工の砂防えん堤堆砂地付近に残留していた流木を測定 対象としている。なお,下流の坂梨地区の流木氾濫状況は航空写真の判読によ り把握した。この判読結果および現地踏査によると,松原橋を中心とする坂梨 地区に氾濫した流木は長材流木類(一部に根付き竹も含む)が多くみられた (図 3 )。このことから,下流氾濫域の堆積流木の大部分は,上流域で発生した 流木よりも,むしろ中流部の河岸林の横侵食等に起因したものではないかと推 察している。 写真 6 土石流発生渓流内における流木の停止滞留状況 (昭和63年 7 月広島県加計町の土石流発生渓流調査)

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4. 流木の流出率 斜面崩壊や土石流により発生した流木が全て谷の出口(扇状地)まで流出す るのではなく,一部がその渓流内に残留する。したがって,流木流下阻止(捕 捉)対策を立てようとした場合には,流木の流出率を前もって把握することが 必要である。前述した広島県加計町の土石流発生渓流のうち,3 渓流について 流木流出率を表 3 に示す。なお,表中の発生流木量は立木密度,崩壊面積およ び土石流による渓岸侵食面積の現地調査結果をもとに推定した値である。この 結果から,土石流に伴う流木の流出率は,ほぼ90%であると推測されるが,流 域面積,地質,森林状態の違いなどを含めた更なる資料の集積が必要である。 図 4 立木長と流木長の比較 12.30 15.00 11.30 4.82 4.36 3.31 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 䌃 䌃ᷧᵹ 䌄ᷧᵹ 䌅ᷧᵹ ┙ ᧁ 䊶ᵹ ᧁ 䈱 㐳 䈘 䋨m) ᐢፉ⋵ട⸘↸ἴኂ ┙ᧁ ᵹᧁ 11.91 14.97 7.27 5.83 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 㤥Ꮉᧄᵹ 㤥Ꮉ╙䋱ᡰᵹ ┙ ᧁ 䊶ᵹ ᧁ 䈱 㐳 䈘 䋨m) ᾢᧄ⋵৻䈱ች↸ἴኂ ┙ᧁ ᵹᧁ 93. 9 流出率 (%) 50 550 50 300 600 350 200 3, 100 3, 300 発生流木量 (本) 堆積流木量 (本) 流出流木量 (本) 渓流名 92. 9 3, 950 300 4, 250 計 91. 7 85. 7 B渓流 D渓流 E渓流 表 3 昭和63年 7 月広島県加計町災害における流木流出率

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Ⅵ. 土石流に伴う流木の挙動特性に関する実験 前述したとおり,土石流とともに多量の流木が流下してくる場合には,流木 が含まれていない土石流の場合に比べて,被害の規模を大きくし,かつ災害復 旧作業を遅延させる。ここでは,このような土石流災害に占める流木問題の重 要性に鑑み,その解決策に科学的基準を与える一助とするため,実験水路にお いて模型化した流木を含む土石流を発生させ,流下状況を高速ビデオカメラで 撮影し,その映像記録を解析することによって,土石流中に含まれる流木の挙 動(存在位置,移動速度および速度変動など)について検討を行うことにし た。なお,この種の既往研究はほとんど見当たらないので,実験方法について は筆者の経験に基づいて行っている。 1. 実験方法および材料 実験に用いた水路は,長さ600cm,幅20cm,側壁高25cm の長方形断面水路 で,水路壁面は透明アクリル板張りになっている。水路床には,粗度として後 述の模擬土石流構成粒子と同じものが貼り付けてある。水路勾配は30゚,20゚, 10゜の 3 段階に変化させた。 模擬土石流(以下,土石流と略す)を構成する粒子材料としては,直径 5 mm,密度2. 5g/ cm3の透明ガラスビーズを用いた。模型流木(以下,流木と 略す)は,長さ 5 cm,直径 5 mm の竹材を24時間以上浸水し,生材状態に近 づけたもの(密度約1. 1g/ cm3)を実験条件に応じてそれぞれ 8 ,30,60,90, 200本ずつ使用した。なお,透明ガラスビーズの中に青色に着色したガラスビ ーズを約 3 %混ぜ,土石流中の粒子の運動をも識別・観測できるようにした。 実験では,流木および土石流構成粒子の流下中の運動状態を把握するため, 水路上流端より420cm〜450cm の区間に 5 cm 四方のメッシュを水路壁面に設 け,高速ビデオカメラ(200画面/秒)を用い,水路側面より撮影した。 実験で流下させる土石流は,水路上流端より92cm 下流に設置した全幅堰 (高さ 5 cm)より上流に,前記のガラスビーズをほぼ安息角に敷きつめ,十分 に散水した後に,高架水槽の水をボールバルブにより極小時間給水し,発生さ せた。なお,給水に先立ち,所定本数の流木を上述の堰上流に堆積させたガラ スビーズの表面からほぼ鉛直に深さ約 1 cm まで埋め込み,配列した。

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2. 実験結果および考察 映像記録の解析によると,本実験における土石流は,粒子濃度が高く流動深 が急激に増大する段波前半部,粒子濃度が高く流動深の変化が比較的少ない段 波後半部,そして粒子濃度,流動深ともに次第に減少していく後続流から構成 されており,実際の土石流と類似した流れとなっていた。 1 )土石流に伴う流木の存在位置 図 5 は,水路勾配20゚において観測された全ての流木について,横軸は土石 流全体の流れ方向の長さを 1 としたときの流木の土石流先端からの相対位置 (距離)を,縦軸は流木が観測されたときの土石流の流動深を 1 としたときの 流木の水路床からの相対位置(高さ)をとり,図示したものである。この図か ら明らかなように,流木の流れ方向における相対位置は 0 〜0. 15の間,特に相 対位置約0. 08付近に集中して存在していることがわかる。すなわち,土石流の 段波前半〜中間部と思われる位置に流木は存在している。また,流木の流動深 図 5 土石流中における流木の存在位置(水路勾配20°) ᵹᧁ䈱ᵹ䉏ᣇะ䈱⋧ኻ૏⟎ ᵹᧁ䈲࿯⍹ᵹ䈱వ㗡ㇱ䈮㓸ਛ Flow

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方向における相対位置は,約0. 35から約0. 80の間に多く存在している。なお, 水路勾配30゚と10゚の場合については,図 6 に示すとおりであり,水路勾配20゚ に準じて整理すれば表 4 のようである。 以上の実験結果からわかるように,水路勾配30゚において,土石流先端付近 の流動層の下層〜中層付近に存在していた流木は,水路勾配20゚,10゚と緩やか になるにつれ,土石流先端付近の上層(表面)付近に存在するようになってい る。実際の流木を伴う土石流の目撃記録によると,土石流の先頭付近でおびた だしい数の流木が折り重なって流れていたとか,また,土石流堆積地における 調査によると,多数の流木が土石流堆積地先端部に近い位置に見い出される。 これらの事実から考えると,実際の土石流に伴う流木は本実験と同様な位置に 存在し,流下しているといえるであろう。 図 6 水路勾配別の土石流中における流木の存在位置 ᵹ ᵹᧁ䈱ᵹ䉏ᣇะ䈱⋧ኻ૏⟎ 䋨᳓〝൨㈩10㫦䋩 䋨᳓〝൨㈩20㫦䋩 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0.2 0.2 0.4 0.4 0.6 0.6 0.8 0.8 1.0 1.0 0 0 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 䋨᳓〝൨㈩30㫦䋩 ᷓ䈘ᣇะ䋺 0.10䌾0.60 ᷓ䈘䈘ᣇะ䋺 0.35䌾0.80 ᷓ䈘ᣇะ䋺 0.50䌾0.95 0. 50〜0. 95 0. 35〜0. 80 0 〜0. 14 0 〜0. 15 0. 10〜0. 60 0 〜0. 18 流れ方向の存在位置 流動深方向の存在位置 水路勾配 30° 20° 10° 表 4 各水路勾配における流木の集中存在位置

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2 )流木の瞬間速度の時間的変化 流木の瞬間速度は時間的に変動しており,この変動傾向は土石流中における 流木の流れ方向の存在位置によって差異が生じている。この差異は,主として 土石流の移動速度に関係し,流木と土石流構成粒子および流水の相互作用と水 路床との摩擦抵抗によって支配されていると考えられる。ここでは,土石流中 における単一流木に着目し,流れを段波部と後続流部に分け,流木および土石 流構成粒子の瞬間速度と経過時間の関係図をもとに,撮影記録を参考にしなが ら考察する。 ( 1 )水路勾配30゚の場合 観察によると,水路勾配30゚における土石流は他の 2 つの水路勾配での場合 に比べて,段波の流動深がかなり厚く,速度も一段と速い。このため,土石流 の先端では粒子が飛散し,全体的にも粒子運動は相当激しいものであった。一 方,流木の存在位置はほとんどが段波部に属し,後続流部に属していたものを 撮影映像に記録されていることが少なかった。 図 7 の(1)〜(3)は,代表的な実験における流木とその近傍粒子の瞬間速度の 時間的変化を,流れの段波部と後続流部について描いたものである。なお,図 中の実線は流木速度を表し,破線は粒子速度を示している。土石流の移動速度 が高速であるため,映像解析装置の画面内での流木と粒子の追跡時間が短く, したがって,図では両者の速度変化が十分に表現されていないが,目視観察に よると段波部では,流木が激しい粒子の動きにより上下方向への移動がますま す容易になっていることが認められた。この場合,流木が流動層の上部に存在 するときは,粒子の移動速度が速いために引きずられるように移動し,その結 果として速度変動が少なく安定しているように見える。しかし,流動層の下部 に存在するときには,水路床との接触などに起因して速度変動は大となること が観察された。また,この図からわかるように,段波部における粒子と流木の 速度は約 2 倍の速度差が生じているが,稀に後続流部に存在する場合には両者 の速度差は少なくなっている。 ( 2 )水路勾配20゚の場合 図 8 の(1)は,流木が流れの段波部に含まれている場合を示したものである。 この部分では,粒子の運動が活発なため,流木は流れ方向だけでなく流れと直 角な上下方向にもかなりの粒子圧力を受け,その結果として図のような速度変 動を示したものと考えられる。また,ほとんどの流木が粒子により持ち上げら

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図 7 流木と土石流構成粒子の瞬間速度の時間的変化 (水路勾配30°)

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図 8 流木と土石流構成粒子の瞬間速度の時間的変化 (水路勾配20°)

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図 9 流木と土石流構成粒子の瞬間速度の時間的変化 (水路勾配10°)

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れ,そのほとんどが流動層の上部および表面に浮いているかのように流下して いる。したがって,流木の速度変動つまり加速と減速は,粒子密度の低い流動 層上部での流木と粒子の接触,衝突に起因しているものと考えられる。 図 8 の(2)は,後続流前半部に存在する流木の速度変動を描いたものである。 この流れの部分では,粒子の運動は段波部のときよりは劣るが,まだまだ激し い動きを有している。したがって,流木は粒子の運動に影響を受けて,図のよ うな速度変動の傾向を示したものと思われる。なお,段波部と比べて幾分流れ に潜って流下している流木を観測対象しており,このことも影響しているかも しれない。 図 8 の(3)は,流木が後続流後半部に属している場合を示したものである。 このときの土石流は移動速度がかなり小さく,粒子の運動には活発さがなくな り,それに伴い流木の運動速度の変化がほとんど認められない。なお,流木の 流下形態は流れ方向を向いているものが大部分を占め,流れと直角な上下方向 の回転運動は見られなかった。 ( 3 )水路勾配10゚の場合 この水路勾配における土石流は,勾配20゚,30゚の場合に比べて,段波の形成 は少なく,移動速度は一段と遅い流れとなっている。したがって,粒子運動の 活発さも減衰しているため,図 9 の(1)〜(3)に示すように,段波部および後続 流部とも流木の速度変動は小さい。 3 )群団で流下する流木の平均速度 ここでは,流木が群団を形成して流下する場合について,流木の混入本数と 流木群全体の平均速度との関係を比較検討する。なお,流木群の平均速度は, 群団中に存在する計測可能な流木数本の移動速度を測定し,これらを算術平均 することによって求めた。 図10は,水路勾配20゚における流木群の平均速度と,そのときの土石流の先 頭からの経過時間との関係を,流木の混入本数別に図示したものである。な お,混入本数が 8 本の場合には,流木群を形成することはほとんどなく,プロ ットは単一流木の平均速度を意味する。この図から明らかなように,流木が群 団化していても全体的にみて,流れの後半ほど移動速度が減少している。この ような速度の減少化傾向は水路勾配30゚の場合が最も顕著であり,勾配20゚,10゚ になるにしたがい少なくなっている。

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次に,土石流において構成粒子の飛散度合が減衰し,流木群の個々の流木が 一番影響し合って顕著な変化を示す段波後半部のある一定時間内のデ−タだけ を取り出し,流木群の平均速度と混入本数との関係を検討する。 図11は,水路勾配20゚の場合における流木群の平均速度と混入本数の関係を 描いたものである。図から明らかなように,流木の混入本数の増加に伴い流木 群の平均速度は減少している。このような傾向は,群団の構成本数が増加する にしたがい,水路床からの抵抗および流木相互の干渉度合が大きくなり,その 結果として流木群の移動速度は減少するものと考えられる。 以上,土石流中に含まれる流木の挙動(存在位置,移動速度および速度変動 など)を実験的に検討し明らかにしてきた。ここで得られた結果は,実際の土 図11 流木混入本数と流木群の平均速度の関係(水路勾配20°) 0 40 80 120 160 200 ᵹᧁᷙ౉ᢙ䋨ᧄ) 2.0 1.8 1.6 ᵹᧁ⟲䈱ᐔဋㅦᐲ䋨 m/s 䋩 1.4 1.2 図10 流木群の平均速度と経過時間の関係(水路勾配20°) ᵹᧁ⟲䈱ᐔဋㅦᐲ 䋨m/s 䋩 1000 0 2000 3000 ⚻ㆊᤨ㑆䋨㫄㫊㪀 1.2 0.8 0 1.6 0.4 2.0 䋸 䋸ᧄ 䋳䋰ᧄ 䋶䋰ᧄ 䋹䋰ᧄ 䋲䋰䋰ᧄ

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石流において,土砂ともに流出する流木の運動特性などを考える際に,一つの 参考になるものと思われる。 Ⅶ. 土石流に伴う流木の捕捉工に関する実験 一般に土石流は,その流下経路上にある樹木を巻き込み流木を発生させ,石 礫と流木の混相流となって流下する。土石流中の流木は橋脚間など横断構造物 によって狭められた流路断面を塞ぎ,土砂の堆積を促進し,その結果として, 土石流氾濫範囲を拡大する。また,渓流狭窄部に滞留し流木ダム(ヤガラ)を 形成し,これが決壊することにより新たな土石流を誘発することもある。ま た,前述した熊本県一の宮町災害にみられたように,砂防えん堤によって土石 流形態での石礫の移動を阻止できたとしても,多量の流木の移動を阻止できず 災害が発生する。このように土石流に伴う流木は災害を助長することは明らか であり,したがって流木の流下阻止対策を講じる必要があることは言うまでも ない。 流木の流下阻止対策として基本的には,抵抗物により流木に対する抵抗を大 きくし流木の運動エネルギーを減少させて流下を阻止し,捕捉・堆積させる方 法が考えられる。このような根本原則に準じた方法として,現在のところ幾つ かの流木捕捉工が開発され実際に施工されている。 さて,土石流に伴い流出してくる流木の対策施設を考案する際に問題となる 流木の捕捉方法については,以下のような方法が考えられる。 (a)土石流区間において,土石流ごと流木を捕捉する方法 (b)掃流区間において,洪水流で流されてくる土砂礫と分離した浮遊流木 を捕捉する方法 これらの何れに依るかは,対象河川の平面的・縦断的な地形条件,保全対 象,森林状況等を勘案し決定すべきものである。ここでは,科学的に未解明な 点が多い(a)の方法に焦点を絞り,対策施設として各種の柵型式の流木捕捉 工を考え,捕捉工直近における流木・土砂の挙動および柵構造の違いと流木捕 捉率の関係等について水路実験により検討する。 1. 実験方法および材料 実験水路は長さ600cm,幅20cm,側壁高25cm の長方形断面水路で,両側壁

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は透明アクリル板張り,水路床には粗度として土石流構成粒子と同じものを貼 り付けた。水路勾配は,水路上流端より 2 m までの区間を20゚,それより水路 下流端までを15゚の 2 段階の変勾配に設定した。なお,勾配20゚は実際の土石流 の流下区間に相当し,勾配15゚は土石流堆積区間の勾配が 2 ゚〜15゚であるとい われているので,その上限値を用いることにした。土石流を構成する粒子材料 および流木を伴う土石流の発生方法は,前記の実験と同じである。 流木は,寸法一様なものと数種類の寸法の混合したものを用いた。一様流木 は,長さ 5 cm・直径 5 mm,実験時の密度は約1. 1g/ cm3であり,実験におい ては土石流中に100本混入した。混合流木に関しては,長さ 2 cm・直径 5 mm,長 さ 4 cm・直 径 5 mm,長 さ 5 cm・直 径 5 mm,長 さ 8 cm・直 径 5 mm,長さ 5 cm・直径 2 mm,長さ 5 cm・直径 9 mm の 6 種類で,実験時の 密度が約1. 1g/ cm3の流木をそれぞれ20本ずつ合計120本を土石流中に与えた。 なお,流木の混入本数は予備実験の結果を参考にして決めている。 さて,土石流に伴う流木の捕捉工として柵型構造物を考える際,構造物の部 材間隔と流木捕捉率の関係,および複数基設置する際の有効な配置間隔が重要 な検討項目となる。そこで本実験では,水路下流端より1. 60m の位置に表 5 に示す実験条件のもと,各種の柵型式の流木捕捉工模型を設置し,柵近傍にお ける流木の挙動を高速ビデオカメラによる映像解析で把握するとともに流木捕 捉率を調べることにした。なお,比較対象として通常の治山・砂防ダムを想定 水路床に直接設置 ダム天端に接続設置 ダム 横柵型 縦柵型 格子型 横柵型 縦柵型 格子型 構造 7. 5 2 5. 0 1. 0 1. 0 3. 0 1. 0 1. 0 2. 0 ダム高 横部材 間 隔 縦部材間 隔 縦部材間 隔 横部材間 隔 縦部材間 隔 縦部材間 隔 − 4 4. 0 3. 0 2. 5 5. 0 3. 0 2. 5 10. 0 3 3. 0 2. 0 2. 0 4. 0 2. 0 2. 0 備考 6. 0 − − − − − − 5 5. 0 4. 0 − 6. 0 − − 設置方法 ダム高 5. 0 cm 横部材 間 隔 2. 5 cm ダム高 5. 0 cm 構造諸元 (cm) ダム高 5. 0 cm 柵高 5. 0 cm 横部材 間 隔 2. 5 cm 柵高 5. 0 cm 1 柵高 5. 0 cm 表 5 流木捕捉率に関する実験条件

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した不透過ダム模型に関しても調べた。 2. 実験結果および考察 2-1 流木捕捉構造物の近傍における流木の挙動 本実験では,全幅越流タイプの不透過型ダム模型(以下,ダム(不透過)と 呼ぶ)と 3 種類の柵型構造物模型(以下,柵型構造物と略す)をそれぞれ水路 床に直接設置した場合,および柵型構造物を流木の長さと同じ高さ( 5 cm) のダム天端に接続設置した場合について実験を行った。まず,映像記録を観察 することによって得られた,これら構造物近辺における流木の挙動について, 構造物別に説明する。 1 )ダム(不透過)の場合 図12は,高さ7. 5cm のダム(不透過)において観測された流木の挙動の模 式図である。この図に示すとおり,土石流先端の段波部は,ダムに衝突するこ とによって跳ね上がり,それとともに段波部の流木群も跳ね上がる。その後, それらの流木は,ダム下流へと流下するものと,ダム上流へと戻されるものと に分かれるが,ダム上流に戻されたものの多くが,後続流によって再び下流へ と移動し始め,ダム下流へと流下していくことが観察された。 また,土石流の先端付近の流木群の下層部に存在していた流木は,土石流構 成粒子がダムに堆積する際に捕捉され,堆積粒子下層に停止堆積した。なお, 図12 ダム(不透過)近傍における流木の挙動の模式図 ᵹ ᵹ ᧁ ࿯⍹ᵹ᭴ᚑ☸ሶ ᵹਅᣇะ

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ダム上流へと戻る流木や堆積粒子下層に捕捉堆積した流木の数は,ダム高が高 くなるほど多くなる傾向がみられた。 ダムに土石流の構成粒子が堆積した後に流下してきた流木は,ダムに堆積し た粒子による勾配緩和の影響で一時的に捕捉されるか,もしくはその流下速度 は低下するが,後続流によって徐々に下流へと押し流され,ダム下流へと流下 していった。 これらの観察結果を踏まえると,新設間もない無堆砂の治山・砂防ダムで は,ダムに堆積する土石流の土砂・石礫に流木が取り込まれることによっての み,流木を停止堆積させることができると考えられる。また,治山・砂防ダム の堆砂面上に流木が堆積残留している場合には,その後の規模の大きい洪水流 によって流木が流出する危険性があるので,早急に除去することが肝要であ る。 2 )柵型構造物を水路床に直接設置した場合 図13には,縦部材間隔 2 cm の縦柵型構造物を水路床に直接設置した場合に 観察された流木の挙動を描画した。この図に示すとおり,土石流先端の段波部 が柵型構造物に衝突した際,土石流構成粒子は部材間を通過するものと構造物 を越流するものとに分かれるが,流木は構造物を越流するものは存在しても部 材間を通過し下流へと流下するものは少なく,縦部材間に一時的に捕捉される ᵹ ᵹ ᧁ ࿯⍹ᵹ᭴ᚑ☸ሶ ᵹਅᣇะ 図13 流木捕捉構造物近傍における流木の挙動の模式図 (柵型構造物を水路床に直接設置した場合)

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ことが観察された。 しかし,土石流の後続部の勢力が弱い流れとなると,捕捉されていた流木の うち数本が部材間から抜け出し下流へと流下するものもみられた。この流出形 態をよく観察すると,捕捉流木の数本が流出することをきっかけに多数の流木 が流出している。その流出開始時間は,部材間隔が大きくなるほど早くなり, また,部材間隔が同じでも,部材が格子状に設置されたものより縦部材のみの 方が,そして,縦部材のみ設置されたものより横部材のみの方が早期に流出し た。その上,これらの流出流木数についても同様な傾向で多くなることが確認 された。 このように,柵型構造物によって捕捉された流木が,土石流の後続流によっ てその部材間より流出することから推測すると,実河川において,土石流とと もに流出してきた流木が柵型構造物によって捕捉されたとしても,構造物の型 式によっては捕捉流木の一部が流出することも考慮に入れておく必要がある。 3 )柵型構造物をダム天端に接続設置した場合 図14は,縦部材間隔 2 cm の柵型構造物を,流木の長さと同じ高さ( 5 cm) のダム天端に接続設置した場合において,観測された流木の挙動を模式的に描 いたものである。この図に示すとおり,土石流の段波部はダム(不透過)部に 衝突することにより跳ね上がり,それとともに段波部に存在していた流木も跳 ᵹ ᵹ ᧁ ࿯⍹ᵹ᭴ᚑ☸ሶ ᵹਅᣇะ 図14 流木捕捉構造物近傍における流木の挙動の模式図 (柵型構造物をダム天端に接続設置した場合)

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ね上がる。その後,土石流段波部は構造物を越流しダム下流へと流下するも の,柵型構造部の部材間を通過しダム下流へと流下するもの,ダム上流へと戻 るものと 3 つに分かれる。この際,流木に関しては,構造物を越流し下流に流 下するものは存在しても,柵型構造部の部材間を通過しダム下流へと流下する ものは少なく,ほとんどの流木が柵型構造部で捕捉されるか,もしくはダム上 流へと戻ることが観測された。 このダム上流へと戻された流木の多くは,後続流によって再び下流へと移動 するが,柵型構造部で捕捉され,ダム下流へと流下するものは極少数であっ た。これは,ダム(不透過)部に堆積した土石流構成粒子による堆砂勾配の影 響で,流木の移動速度が減少し,柵型構造部でより捕捉され易くなるためであ ると思われる。しかし,部材間隔が大きくなると,また,柵型構造部の部材が 格子状に設置されているものよりも縦部材のみの方が,そして,縦部材のみ設 置されたものより横部材のみの方が流出流木の数は多くなった。その上,これ らが流出する開始時間についても同様な傾向で早くなっていた。 2-2 流木捕捉構造物による流木の捕捉率 1 )流木捕捉構造物 1 基における構造および設置方法別の一様流木の捕捉率 実河川において,土石流とともに流出してくる流木を捕捉構造物によって捕 捉する際,構造物の連続配置が許されるならば良いが,構造物 1 基のみによっ て対処しなければならないことがある。ここでは,構造物 1 基の場合におけ る,柵型構造部の設置方法別,およびその際の各種部材間隔における流木捕捉 率について整理した結果を記述する。なお,参考のため不透過ダムについても 書き表す。 ( 1 )ダム(不透過)の場合 実験結果より,初期条件としてダムの堆砂空間が空の場合には,ダム高が高 くなるほど,流木捕捉率は大きくなる傾向が認められた。両者の関係は次式で 表せる。 Y=57X −53. 04 (決定係数 R2=0. 81) ( 1 ) ここに,Y:流木捕捉率(%),X:流木長に対するダム高の比。 ダムポケットに堆積土砂が皆無の場合には,一部の流木は土砂ともども捕捉

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され堆砂空間のダム直近下層部に堆積するが,捕捉率の水準は低く,また満砂 状態になれば捕捉率はほとんど 0 に近い。 ( 2 )横柵型構造物を水路床およびダム天端に設置した場合 横柵型構造物を水路床に直接設置した場合およびダム天端に接続設置した場 合の,横部材間隔と流木捕捉率の関係を,図15に示した。この図から,横部材 間隔が大きくなると流木捕捉率は減少する傾向があり,また,ダム天端に設置 した方が水路床に設置するより流木捕捉率が高いことがわかる。両者の関係は それぞれ次式で表せる。 水路床に設置 :Y=105. 49−200. 59X (R2=0. 86) ( 2 ) ダム天端に設置:Y=123. 64−231. 42X (R2=0. 90) ( 3 ) ここに,Y:流木捕捉率(%),X:流木長に対する横部材間隔の比。 図から明らかなように,部材間隔比が0. 3程度で捕捉率が約50%となるが, 部材間隔が狭すぎると部材間が閉塞されやすく,有効に柵としての効果が期待 できないと思われる。実験によると,横柵型構造物による流木捕捉率は他型式 に比べ低く,実河川において,横部材のみの構造を有する流木捕捉構造物を設 置するのは,効果的ではないように思われる。 0 20 40 60 80 100 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 ᵹᧁ᝝ᝒ₸䋨䋦䋩 ᮮㇱ᧚㑆㓒/ᵹᧁ㐳 ᳓〝ᐥ⸳⟎ 䉻䊛ᄤ┵⸳⟎ ✢ᒻ(᳓〝ᐥ⸳⟎) ✢ᒻ(䉻䊛ᄤ┵⸳⟎) 図15 (横部材間隔/ 流木長)と流木捕捉率の関係

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( 3 )縦柵型構造物を水路床およびダム天端に設置した場合 この実験ケースにおける結果は,図16に示した。図からわかるように,縦部 材間隔が狭くなると,流木捕捉率は増大する傾向がみられ,また,ダム天端に 設置した方が水路床に設置するより流木捕捉率が高いことがわかる。両者の関 係はそれぞれ次式で表せる。 水路床に設置 :Y=114. 58−176. 25X (R2=0. 90) ( 4 ) ダム天端に設置:Y=108. 86−104. 77X (R2=0. 79) ( 5 ) ここに,Y:流木捕捉率(%),X:流木長に対する縦部材間隔の比。 ところで,水路床直接設置の場合は X=0. 36,ダム天端接続設置の場合は X=0. 56で,捕捉率が約50%となるが,土石流に対する構造上の強度を高める には格子柵型にした方がより安全性を高めることができると考えられる。 ( 4 )格子柵型構造物を水路床およびダム天端に設置した場合 横部材間隔を一定(2. 5cm,流木長に対する比:0. 5)にして各種の間隔で 縦部材を組合せた格子柵型構造物を,水路床に直接設置した場合,およびダム 天端に接続設置した場合の,縦部材間隔と流木捕捉率の関係は図17に示されて いる。この図から,縦部材間隔が広くなると流木捕捉率は減少する傾向が認め れ,また,ダム天端に設置した方が水路床に設置するより流木捕捉率が高いこ 0 20 40 60 80 100 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 ᵹᧁ᝝ᝒ₸䋨䋦䋩 ❑ㇱ᧚㑆㓒/ᵹᧁ㐳 ᳓〝ᐥ⸳⟎ 䉻䊛ᄤ┵⸳⟎ ✢ᒻ(᳓〝ᐥ⸳⟎) ✢ᒻ(䉻䊛ᄤ┵⸳⟎) 図16 (縦部材間隔/ 流木長)と流木捕捉率の関係

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とがわかる。両者の関係はそれぞれ次式で表せる。 水路床に設置 :Y=81. 91−46. 85X (R2=0. 31) ( 6 ) ダム天端に設置:Y=88. 37−51. 07X (R2=0. 58) ( 7 ) ここに,Y:流木捕捉率(%),X:流木長に対する縦部材間隔の比。 上式から,流木捕捉率50%程度を得るためには,水路床直接設置の場合は X=0. 6〜0. 7,ダム天端接続設置の場合は X=0. 7〜0. 8となることがわかる。 さて,これら柵型構造物の部材組み合わせの差異による流木捕捉率を比較す ると,図18に示すように,(a)横柵型構造物,(b)縦柵型構造物,(c)格子柵 型構造物,の順に流木捕捉率は増大している。これは,次のように説明でき る。流木の初期捕捉量は,(a),(b),(c)の順に増大し,それによって後続の 流木の捕捉量も増加するためであると思われる。しかも,後続流によって柵か ら抜け出る流木の量は,この順で減少するため,最終的な流木捕捉率は,上記 の順で高くなるのである。したがって,実河川において,流木捕捉構造物を設 置する場合,格子柵型構造物を用いるのが有効であると思われる。 次に,これら柵型構造物の同じ部材間隔についての流木捕捉率を設置方法別 に比較すると,図18から明らかなように,柵型構造物をダム天端に接続設置し たものの方が,水路床に直接設置したものに比べ,流木捕捉率が高い。これ は,次のように説明できるであろう。まず,明らかにダム天端に接続設置した 0 20 40 60 80 100 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 ᵹᧁ᝝ᝒ₸䋨䋦䋩 ❑ㇱ᧚㑆㓒/ᵹᧁ㐳 ᳓〝ᐥ⸳⟎ 䉻䊛ᄤ┵⸳⟎ ✢ᒻ(᳓〝ᐥ⸳⟎) ✢ᒻ(䉻䊛ᄤ┵⸳⟎) 図17 (格子柵型縦部材間隔/ 流木長)と流木捕捉率の関係

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ものの方が,未満砂のダムの堆砂空間に土石流構成粒子が堆積する際に,流木 も合わせて捕捉・堆積することができる。そして,ダム上流側に堆積した土石 流構成粒子による堆砂勾配の影響で,柵型構造物に接近してくる流木の接近速 度が減衰するため,柵型構造部において流木は捕捉され易くなる。また,土石 流の後続流についても同様に,ダム構造部における堆砂の影響で流動エネルギ ーが減衰するため,柵型構造部で捕捉されていた流木の部材間を抜け出す割合 は,減少すると考えられる。 以上の実験結果からすれば,実河川において,流木捕捉構造物を設置する場 合,その設置方法は治山・砂防ダムや床固工の天端上に設置するのが有効であ ると思われる。 2 )柵型構造物の連続配置による流木捕捉率 ここでは,柵型構造物の連続配置が可能な場合を想定し,先ず,捕捉構造物 2 基の設置間隔による流木捕捉率の差異について考察する。次に,構造物の基 数の違いによる流木捕捉率の変化を検討し,また,混合流木を与えた場合の結 果についても述べる。なお,この実験では,格子柵型構造物の横部材間隔を同 一(2. 5cm,流木長に対する比:0. 5)とし,高さ( 5 cm)のダム天端に接続 設置している。 0 20 40 60 80 100 ᮮᩋ ❑ᩋ ᩰሶᩋ ᵹᧁ᝝ᝒ₸䋨䋦䋩 ᳓〝ᐥ⸳⟎ 䉻䊛ᄤ┵⸳⟎ 図18 柵型構造物の種類別および設置方法別の流木捕捉率の比較 (部材間隔/ 流木長=0. 5の場合)

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( 1 )格子柵型構造物 2 基の設置間隔による流木捕捉率の比較 格子柵型構造物 2 基の設置間隔と流木捕捉率の関係を,表 6 に示す実験条件 のもとで調べた。なお,設置間隔は捕捉構造物の土石流による堆砂長の平均値 が0. 75m であるので,これを基準として 3 通りとしている。 図19は,格子柵型構造部の横部材間隔を同一(2. 5cm,流木長に対する比: 0. 5)とし,縦部材間隔が異なる 2 種類について,横軸を設置間隔の堆砂長に 対する比,縦軸を流木捕捉率にとり,両者の関係を図示している。この図から 明らかなように,2 基の構造物の設置間隔を拡げると,流木捕捉率は増大する 傾向がそれぞれにおいてみられる。 この理由は,上流側の構造物を通過し流下した流木の移動速度が,下流側の 構造物に至る距離が長くなるほど水路床との摩擦抵抗等に基づき減速し,それ により下流側の構造物で捕捉されやすくなるためであると考えられる。したが って,流木捕捉のみの目的の場合には,その設置間隔は大きくとる方がよいと 4. 40 4. 40 0. 375 0. 75 1. 50 0. 375 0. 75 1. 50 1 2 3 4 5 6 RUN No. 上流側:横2. 5 cm,縦4. 0 cm 下流側:横2. 5 cm,縦3. 0 cm 上流側:横2. 5 cm,縦4. 0 cm 下流側:横2. 5 cm,縦4. 0 cm 格子柵型構造物 の部材間隔 4. 775 5. 15 5. 90 4. 775 5. 15 5. 90 4. 40 4. 40 4. 40 4. 40 設置間隔(m) 上流側設置位置(m) 下流側設置位置(m) 表 6 格子柵型構造物 2 基の設置間隔に関する実験条件 0 20 40 60 80 100 0 0.5 1 1.5 2 ᵹᧁ᝝ᝒ₸䋨䋦䋩 䋨ᩰሶᩋဳ䉻䊛䋲ၮ䈱⸳⟎㑆㓒䋯ၸ⍾㐳䋩 ❑ㇱ᧚㑆㓒䋺਄ᵹ4cm,ਅᵹ4cm ❑ㇱ᧚㑆㓒䋺਄ᵹ4cm,ਅᵹ3cm ✢ᒻ(❑ㇱ᧚㑆㓒䋺਄ᵹ4cm,ਅᵹ4cm) ✢ᒻ(❑ㇱ᧚㑆㓒䋺਄ᵹ4cm,ਅᵹ3cm) 図19 (格子柵型ダム 2 基の設置間隔/堆砂長)と流木捕捉率の関係

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思われるが,捕捉工前庭部の洗掘問題が生じてくると推測される。 一般に,実河川においては,通常の治山・砂防ダムを土石流対策ダムとして 連続配置する際,下流側ダムの堆砂上流端地点,つまり,図19における横軸値 が1. 0の地点に設置することが多い。そこで,この既存知識に準拠して,上・ 下流構造物の設置間隔を決めるのが適切な考えであると思われる。 さて,上流側の格子柵型構造物の縦部材間隔と下流側の縦部材間隔とを同じ にした場合と,上流側の縦部材間隔より下流側の縦部材間隔を狭くした場合を 比較すると,後者の方が,その設置間隔に関わらず,流木捕捉率は大きい。こ の実験結果から考えて,流木捕捉構造物を複数基設置する場合は,上流側の柵 状構造物の縦部材間隔より下流側の縦部材間隔を狭くする方が,流木捕捉率を 大きくすることができる。これは当然のことであるが,複数基設置する場合の 4 6 5-2 5-2 3 3 2 1 2 7 8 9 RUN No. 2 2 3 2 3 3 4 5-1 5-2 下流側構造物 縦部材間隔(cm) 5-2 3 5-2 4 4 5 上流側構造物 縦部材間隔(cm) 表 7 格子柵型構造物 2 基の縦部材間隔を変えた場合の実験条件 (注) 縦部材間隔 4 cm は,1 cm,4 cm,4 cm,4 cm,4 cm,1 cm の構造 縦部材間隔5-1cm は,4 cm,5 cm,5 cm,4 cm の構造 縦部材間隔5-2cm は,5 cm,4 cm,4 cm,5 cm の構造 横部材間隔は同一(2. 5cm) 0 20 40 60 80 100 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 ᵹᧁ᝝ᝒ₸䋨䋦䋩 ਄䊶ਅᵹㇱ᧚㑆㓒Ყ⋧ਸ਼୯ 䋲ၮㅪ⛯⸳⟎ ✢ᒻ(䋲ၮㅪ⛯⸳⟎) 図20 2 基連続設置における上・下流部材間隔比相乗値と流木捕捉率の関係

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捕捉率をどのように考えるかによって,下流側の縦部材間隔が決まってくるの ではないかと考えられる。そこで,次の検討を行うことにした。 ( 2 )格子柵型構造物 2 基の縦支材間隔の関連による流木捕捉率の検討 格子柵型構造物の上流側縦支材間隔と下流側縦支材間隔の関連による流木捕 捉率の変化を検討するため,表 7 に示す条件のもとで実験を行った。 図20に,上流側構造物の縦部材間隔の流木長に対する比と,下流側構造物の 縦部材間隔の流木長に対する比とを乗じたもの(以下,上・下流構造物の部材 間隔比相乗値と呼ぶ)と,上・下流構造物による流木捕捉率の関係を示した。 この図から明らかなように,上・下流構造物の部材間隔比相乗値が大きくなる と,流木捕捉率は減少する傾向がみられる。なお,上・下流構造物の部材間隔 比相乗値は,下流側構造物の縦部材間隔が上流側構造物の縦部材間隔に比べ, 同じかもしくは小さいものであるとする。 Y=111. 34−65. 10X (R2=0. 79) ( 8 ) ここに,Y:流木捕捉率(%),X:上・下流構造物の部材間隔比相乗値。 この関係式により,計画上の流木捕捉率に対して,上流側構造物の縦部材間隔 の値が与えられたとき,下流側構造物の縦部材間隔の値を求めることができる。 ( 3 )流木捕捉工の効果的な構造と配置における混合流木の捕捉率 実河川において,土石流とともに流出してくる流木は,その長さや太さにお いて様々なものである。そこで表 8 に示す実験条件のもと混合流木を流した実 験を行い,その捕捉率を確認することとした。 ここでは,上記の検討で得られた,最も効果的な構造(格子柵型)および設 置方法(ダム天端に接続設置)をもつ捕捉構造物 3 基を,最も効果的と思われ る設置間隔(ダム満砂時の堆砂長)に連続配置し,上流より混合流木を流下さ せ,その捕捉率を調べる実験を計 3 回行った。 縦:4. 0,横:2. 5 4. 40 55. 3 55. 3 部材間隔(cm) 設置位置(m) 捕捉率(%) 累加捕捉率(%) 流木捕捉工 縦:2. 0,横:2. 5 5. 90 17. 2 99. 2 縦:3. 0,横:2. 5 5. 15 26. 7 82. 0 No. 1(上流) No. 2(中流) No. 3(下流) 表 8 格子柵型構造物 3 基による混合流木の捕捉率を調べる実験の条件と結果

図 2 流木調査対象渓流位置図(昭和63年7月広島県加計町土石流災害)ਛਛ࿖⥄േゞ㆏ᳯᴡౝᄥ↰Ꮉᒰᤨ䌊䌒✢㡻ᷰἑ 䌅䌄䌃䌂䌁ᐢፉ⋵ጊ⋵㇭቟⧓ᄥ↰↸ട⸘䌁䌾䌅䈱ోᷧᵹ䈪࿯⍹ᵹ⊒↢䌁䈲↟ᄢ䈭࿯⍹ᵹἴኂ䈏⊒↢䈚䈢ᳯᴡౝ⼱Ꮉ 図 3 古恵川(黒川)流域における崩壊・土石流の分布および流木の氾濫堆積状況図 (平成2年7月熊本県一の宮町災害) 注:図面右側には,古恵川以外の流域も一部描かれている。
図 7 流木と土石流構成粒子の瞬間速度の時間的変化
図 8 流木と土石流構成粒子の瞬間速度の時間的変化
図 9 流木と土石流構成粒子の瞬間速度の時間的変化

参照

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