1.はじめに
本研究は,環境負荷の低減という環境価値の増 大と,コストの削減という経済価値の増大の両方 を同時に追求するマテリアルフローコスト会計 (material flow cost accounting: MFCA)を対象
■ 研 究 論 文 ®
Abstract : This study considers the relationship between the environment and the economy, and seeks to balance them. We use a case of material flow cost accounting (MFCA) as an environmental management accounting tool that pursues plural values: the environmental value and the economic value. Focusing on the inscriptions of MFCA and capturing the characteristics of them, this study clears the problem which MFCA is confronted with and proposes the solution of it for pursuing plural values.
Keywords : material flow cost accounting, environmental management accounting, inscription, valuation
岡山大学 天王寺谷 達将
*Okayama University Tatsumasa TENNOJIYA
名城大学 東田 明
**Meijo University Akira HIGASHIDA
桜美林大学 篠原 阿紀
***J. F. Oberlin University Aki SHINOHARA
Coexisting Plural Values:
Inscription of Material Flow Cost Accounting
* 岡山大学大学院 社会文化科学研究科 講師 * * 名城大学 経営学部 教授 * * * 桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 准教授
複数価値の併存:
マテリアルフローコスト会計の銘刻に着目して
とした考察を通じて,複数価値の追求に関わる問 題に取り組む.MFCA は,「企業活動の現場にお いてマテリアルのフローを物量ベースと金額ベー スで追跡し,工程から生じる製品と廃棄物をどち らも一種の製品とみなしてコスト計算する手法」 (中嶌・國部,2008,p. 17)である.MFCA は, マテリアルロス(廃棄物)のコスト(マテリアル ロスコスト)を計算することで,資源生産性の向 上を促す手法であり,廃棄物を削減するだけでな く,投入マテリアルの削減にアプローチするとこ ろに特徴がある.環境問題の多くは,マテリアル の移動と消費により生み出される(シュミット =ブレーク,1997).投入マテリアルの削減は,環 境負荷の低減に繋がり,環境負荷の低減量を環境 価値と定義すれば,その増大に貢献する.また, 投入マテリアルの削減は,マテリアルの購入量の 削減に繋がるため,コストの削減額を経済価値と 定義すれば,その増大にも貢献する.このように, MFCA は,投入マテリアルの削減を通じて,環 境価値の増大と経済価値の増大を同時に追求する 手法として位置付けることができる. 一方で,MFCA には,「環境と経済の離反」(東 田・國部,2014)という問題も指摘される.この 問題は,「環境経営を目指す活動が本業の経済活 動に近づき,コスト削減という形で効果が明確に 示されるほどに,環境の視点を長期的に維持する ことが難しくなる.環境経営は企業活動の本業と 結びつくことで促進されるが,そのことによって 環境の視点が経済の視点に飲み込まれる危険性を 高めている」(東田・國部,2014,p. 98)という もので,彼らは,MFCA を長期的に活用してい る 3 社の事例から,環境部門が主導した MFCA が,時間の経過に伴い,生産管理部門や生産現場 に委ねられるようになり,その結果,環境負荷削 減手法としての重要性が低下し,コスト削減手法 として活用されるようになった様,さらに,マテ リアルロスコストの額が相対的に低いことから, MFCA に基づく活動の優先順位が低下してしま う様を描いている.東田・國部(2014)の問題提 起は,MFCA の実践では,経済価値の増大が環 境価値の増大よりも優先される可能性があること を示唆する. MFCA は,投入マテリアルの削減を促すこと で,環境価値の増大と経済価値の増大を同時に追 求することに貢献する.しかし,実践においては, 経済価値の増大が環境価値の増大よりも優先され る可能性が示唆されていた.経済価値が環境価値 に優先されるとき,環境価値の増大と経済価値の 増大には偏りが生じる.これは,コストの削減額 が最も大きいことが,環境負荷の低減量が最も大 きいことを意味しないためである.多様なマテリ アルが投入されるとき,相対的に環境負荷が高い 投入マテリアルの削減は,環境価値の増大の観点 から重要である.しかし,それがもたらすコスト の削減額が小さい場合,より多くの経済価値の増 大をもたらす代替案が優先されることになる.極 端な例では,最も環境価値の増大をもたらさない が,最も経済価値の増大をもたらす案が採用され るということも考えられる.このように,経済価 値の増大が環境価値の増大に優先されるとき, MFCA が促進する環境価値と経済価値のそれぞ れの増大には偏りが生じる.すなわち,環境と経 済 と い う 複 数 価 値 を 追 求 す る 手 法 と し て の MFCA の問題が顕在化する.なぜ,経済価値の 増大が環境価値の増大よりも優先されるのであろ うか.本研究は,この問いに答えることで,複数 価値の追求についての理解を進めることを目指 す. 経済価値の優先という事象は,MFCA を取り 巻くアクターの連関の結果であり,実践としては 局所的な現象として表れる1).したがって,経済 価値が優先される要因は,様々な観点から考えら れるが,本研究は,MFCA の銘刻(inscription) に求める2).銘刻は,「ある実体が物質化され, 記号,アーカイヴ,文書,紙片,痕跡となる変換 のあらゆる型」(Latour, 1999, p. 306)を意味する. 銘刻は,物質化されているため,安定した状態で 移動が可能であり,さらに結合できるため,蓄積 することで,離れた場所から,銘刻に刻まれてい る対象の支配を可能にさせる(Latour, 1987).例 えば,ある場所の地図という銘刻は,そこに刻ま れた場所への支配を離れた場所から可能にさせて いる.MFCA の銘刻には,マテリアルに関する 情報が刻まれており,それを蓄積することで,マ テリアルが移動・消費される場所とは離れたとこ ろから,マテリアルの支配を可能にさせる. 本研究は,銘刻の変換(transformation)を捉 える.銘刻の変換は,銘刻の蓄積をより促し,銘 刻に刻まれた対象の支配を促進する手段である. しかし,そのプロセスでは,失われる情報もある. MFCA の銘刻には,どのようなマテリアルに関 する情報が刻まれており,どのような情報に変換
されるのか.また,変換プロセスでは,どのよう な情報が失われているのか.本研究は,経済価値 の増大が環境価値の増大よりも優先される要因の 一端が MFCA における銘刻の変換にあることを 主張し,複数価値を追求する手法として MFCA を進展させるための方策を提示する. 構成は,以下の通りである.次節では,分析視 角として銘刻の変換を,研究対象として MFCA を概観する.3 節では,MFCA における銘刻の 変換プロセスを捉え,4 節で,複数価値の追求に ついて MFCA を対象とした考察を行う. 2.分析視角と研究対象 2.1 銘刻の変換 銘刻が,そこに刻まれた対象の支配を可能にす るのは,動かせる(「可動性(mobility)」),歪み, 破壊,腐朽がない(「安定性(stability)」),合計, 並び替えが可能(「結合可能性(combinability)」) といった特性を有しており,離れた場所から銘刻 を蓄積できるためである(Latour, 1987, p. 223). 離れた場所から銘刻を蓄積するにあたって,銘刻 が有する重要な特性が,可動性,安定性,結合可 能性であることから,これらの特性を高めること は,銘刻をより蓄積させやすくし,銘刻に刻まれ た対象の支配を促進させる. Latour(1987)は,可動性,安定性,結合可能 性を高める手段として,銘刻を,要約,集計など によって,新たな銘刻に取り換える方法(銘刻の 変換)を議論している(Latour, 1987, pp. 234-237).例えば,質問用紙は,情報提供者により刻 まれた銘刻であり,それ自体が物質化されている ことから,可動性,安定性,結合可能性を有して いる.しかし,集められた大量の質問用紙を同時 に見ることはできないため,この銘刻の結合可能 性は高いとは言えない.そこで,結合可能性を高 めるために,質問用紙からある要素を抜き出すこ とで,新たな銘刻に取り換えるのである. 銘刻の変換は,可動性,安定性,結合可能性を 高めるだけでなく,そのプロセスでは失われるも のもあり,Latour(1987)は,銘刻の変換プロセ スで獲得されるものは,喪失されるものを常に上 回っているわけではない(p. 236)と指摘してい る.この点について,Latour(1999)は,土壌学 のフィールド調査における「土塊の変換プロセス」 の事例を通じて説明している. まず,採取された土塊が,ある銘刻に刻まれる 段階である.これは,「正方形の形式となるよう 並べられた空の立方体の段ボール紙の集まり」 (p. 47)である土壌比較器という道具を通じてな される.土壌比較器のレイアウトにより展示され た形式が,土壌を抽出し,分類し,コード化した (p. 56)銘刻を作ることにより,土壌学者は,「数 日前までは土壌の中に隠れており,不可視で,差 異化されていない連続体の中に分散されていた現 象の支配者」(p. 53)となるのである.次に,マ ンセルコードという道具によって銘刻の変換が行 われる.マンセルコードは,全ての色の全ての色 合いに対して数字が割り当てられた,色を判断す るための標準(pp. 58-59)である.マンセルコー ドは,土壌のサンプルを「10YR3/2」といったテ キスト(p. 60)の形式で銘刻を変換し,土壌に 関する銘刻の蓄積ならびに支配を促している. 以上の土塊の変換プロセス(途中より,銘刻の 変換プロセス)では,土塊は,銘刻の蓄積のため に有用な「適合性,標準化,テキスト,計算,循 環,相対的普遍性」を獲得する(p. 70)一方で,「段 階を経るにつれ,局所性,特異性,物質性,多様 性,連続性を喪失し,最終的には,数少ない紙片 以外,ほとんど何も残っていない」(p. 70)状態 になる.すなわち,銘刻の蓄積を促すために,失 われているものが存在する.本研究は,経済価値 が環境価値に優先される要因を捉えるために,銘 刻の変換プロセスで失われる情報に着目する. 2.2 マテリアルフローコスト会計 本研究が対象とする MFCA は,会計手法であ り,会計数値(貨幣情報)を生み出す.貨幣情報 は,可動性,安定性,結合可能性を有している銘 刻の典型例であり,貨幣情報が示す対象の支配を 離れた場所から可能にするため(Robson, 1992),
これまで多くの研究者が,会計の銘刻(accounting inscription)に着目した研究を蓄積してきた(北 田,2013; Busco and Quattrone, 2018; Robson and Bottausci, 2018).MFCA は,マテリアルロ スを金額評価したマテリアルロスコストという貨 幣情報で表現される銘刻を生み出し,それを蓄積 することで,マテリアルが移動・消費される場所 とは離れたところから,マテリアルの支配を可能 としている.MFCA は,マテリアルロスコスト という貨幣情報を通じて,投入マテリアルの削減 を促し,環境価値の増大と経済価値の増大の同時 追求に寄与しているのである3). MFCA は,日本で発展・普及した手法である が,起源は,ドイツの環境経営研究所(Institut für Management und Umwelt: IMU)で開発さ れ た フ ロ ー コ ス ト 会 計(flow cost accounting: FCA) に あ る(Wagner, 2015).FCA は,2000 年に初めて日本で MFCA として導入された. MFCA は,経済産業省による継続的な支援も影 響 し, 多 く の 企 業 に 導 入 さ れ(Schmidt and Nakajima, 2013),多様な研究が蓄積されてきた (篠原,2015).2011 年には,日本が主導するか たちで,ISO14051 として環境マネジメントシス テムの国際規格である ISO14000 シリーズに組み 込まれ(ISO,2011),2017 年には,サプライチェー ンへの導入手引である ISO14052 も発行されてい る(ISO,2017). MFCA の導入範囲や測定方法等は,利用者が 自由に決定するが,MFCA における銘刻の変換 プロセスは,ある程度共通性が認められ,その源 泉 は,IMU の FCA や 日 本 で の 初 期 の 展 開 の MFCA にある.したがって,本研究の研究対象は, FCA における銘刻の変換プロセス,日本での初 期の展開の MFCA における銘刻の変換プロセス とする.本研究は,MFCA における銘刻の変換 プロセスに与えた影響も捉える.そこで,事例の 記述にあたっては,報告書や書籍などの基礎的な 文献に加え,MFCA の基礎を作った 2 名の研究 者である國部克彦氏(以下,國部氏)と中嶌道靖 氏(以下,中嶌氏)へのインタビューデータを利 用する4). 3.マテリアルフローコスト会計における銘刻 の変換プロセス 3.1 フローコスト会計への注目 物語は,1997 年,國部氏が,環境庁の環境会 計ガイドラインの作成依頼を受けたところから始 まる.当ガイドラインは,その後,世界でも注目 され,國部氏は,当ガイドラインに関する報告を, 2000 年 5 月 15 日,16 日に開催された国連持続可 能開発部(United Nations Division for Sustain-able Development; UNDSD)主催の環境管理会 計の専門家会合(環境管理会計の手法開発プロ ジェクト)で行った.この会合で,國部氏が, Bernd Wagner 氏の FCA の報告に触れる機会を 得たことが,MFCA の始まりである.また,同 会合で,環境管理会計の研究者 Christine Jasch 氏から,自身の報告に対して受けた,「当ガイド ラインは,環境保全のためのコストだけを扱って おり,コストの範囲が狭すぎるため,もっと幅広 くコストを見るべきである」という指摘も影響し た.國部氏は,環境・社会といった企業活動の周 縁の対象を中心に組み入れることを目指した研究 を重視しており,FCA は,まさにそのための手 法であった5). そこで國部氏は,経済産業省のミレニアムプロ ジェクトの 1 つであり,企業で実施できる環境管 理会計ツールの開発を目的とした「環境ビジネス 発展促進等調査研究(環境会計)」(1999 年度~ 2001 年度)(以下,調査研究事業)で,FCA を 展開しようと試みる.ここで,國部氏は,FCA の調査研究の話を中嶌氏に持ち掛ける.中嶌氏は, 当時の研究対象がドイツの原価計算史であり,ド イツ語に精通していた.中嶌氏は,2000 年秋に, 環境会計の専門家である水口剛氏と共に,IMU があるドイツと,Jasch 氏がいるオーストリアに 経済産業省から派遣されることとなった.中嶌氏 は,IMU で Markus Strobel 氏と Wagner 氏から FCA の説明を受けた一方で,Jasch 氏からは, IMU の FCA は独自に展開されたもので,ドイツ
やオーストリアに類似の手法がいくつかある旨を 聞かされた. 3.2 銘刻の変換:フローコスト会計 IMU の FCA は,「マテリアルと情報のフロー の観点から,製造業の始点から終点までを組織化 すること」を目的とするフローマネジメントの最 も重要な手段であると位置付けられている(Stro-bel and Redmann, 2001, 訳書 p. 226).フローマ ネジメントでは,「マテリアルのフローが企業を 構成する様々な機能の中心」(訳書 p. 228)であり, それを表現しているのが,図 1 のマテリアルフ ローモデルである. マテリアルフローモデルは,システム境界,物 量センター,マテリアルフローから成る.システ ム境界は,マテリアルフローモデルの境界であり, 「製造業の始点から終点までを組織化する」(訳書 p. 226)目的からすれば,それは工場または企業 全体となる.物量センターは,「その場所でマテ リアルが物理的に変形されたり,一定期間保管さ れたりする空間的,機能的な単位」(訳書 p. 243) であり,例として,倉庫,製造現場,濾過システ ムなどが挙げられている.最後に,マテリアルフ ローは,「ある物量センターから別の物量センター への,マテリアルの可能な移動の構造」(訳書 p. 243)を表したもので,例として,サプライヤー から入荷品,マテリアル倉庫から製造工程,排水 処理から下水システムへの流れが挙げられてい る. このような要素から構成されるマテリアルフ ローモデルは,「企業内のすべての物量センター とマテリアルフローをいくつかの適切な形式で統 合することによって,基本的なマテリアルフロー の構造を描き出すこと」(訳書 p. 244)を目的と している.図 1 は,簡略化されたマテリアルフロー モデルであるが,実際には,複雑なマテリアルの フローが描かれる6).マテリアルフローモデルが どのような情報を包含しているかについては,以 下の中嶌・國部(2008)の記述からよく分かる. 「マテリアルフローコスト会計は,材料物質 ごとのマテリアルバランスとコスト情報を統合 するものであるから,材料は加工され形状が変 化していたとしても,その種類ごとにインプッ トからアウトプットまでの過程すべてにおいて 追跡されねばならない.したがって,マテリア ルフローコスト会計がいったん導入されれば, 企業に入ってきた時点から,材料 A は材料 A として物量的にモニターされるので,たとえば 前工程完了品に材料 A がどれだけ存在するか は,前の物量センターのデータとして測定・記 録されていることになる.」(p. 86) マテリアルフローモデルでは,銘刻として,マ テリアルの種類ごとに物量情報が刻まれている が,それが報告される際には,データ付マテリア ルフローモデル,フローコストマトリックスと いった様式が利用される7).図 2 は,データ付マ テリアルフローモデルの例を示しており,銘刻と して,貨幣情報が刻まれている. サプライヤー 原材料の 在庫 生産 品質管理 廃棄物処理 システム 完成品 在庫 中間製品 在庫 顧客 処理 企業 図 1 マテリアルフローモデル
(Strobel and Redmann, 2001,訳書 p. 242 を元に筆者作成)
サプライヤー 原材料倉庫 生産 顧客 処理 企業 SI 5 EI 18.5 SI 0 EI 0 SI 5 EI 15 中間製品倉庫 品質管理 SI 0 EI 0 出庫完製品倉庫 SI 5 EI 20 処理システム SI 0 EI 0 SI: 期首の在庫 EI: 期末の在庫 220 1.5 205 60 50 180 176 160 4 15 1 21.5 図 2 データ付マテリアルフローモデル
境価値において重要なマテリアルの種類を枠組み に入れた支配は出来ない構造になっている. 表 1 は,フローコストマトリックスの例を示し ている.これは,「フローモデルに定義された境 界内で,FCA のデータを簡略化し標準化して, 表形式で表すもの」(訳書 pp. 255-256)で,貨幣 情報で表現された銘刻が記載されている.フロー コストマトリックスの構造は,マテリアルフロー 構造が変更されても,一定であるため,特定サイ トでの経年変化や異なるサイトとの比較が可能に なっており(訳書 p. 256),結合可能性は,より 高まっていると考えられる.しかし,マテリアル がどの段階でロスとなったのかといった情報は 失っており,ここで記載されている銘刻を通じた マテリアルの支配は,より限定されることになる. 3.3 日本での初期の展開 中嶌氏と水口氏の帰国後,FCA は,MFCA と して調査研究事業の中で展開を見せる.國部氏は, 上述の会合後,あるセミナーで,日東電工株式会 社(以下,日東電工)の産廃原価に関する報告を 聞き,FCA と共通点があることに気付いていた. そこで,日東電工の協力を得て,中嶌氏が担当す る形で MFCA の導入実験を行うことになった. 導入実験は,IMU の FCA のように工場や企業 全体を対象とせず,日東電工豊橋事業所のエレク トロニクス用粘着テープという一製品一製造ライン で行われた.これは,FCA は,SAP や ORACLE に 代 表 さ れ る ERP(Enterprise Resource Plan-ning)システムの中でマテリアルのフローを追っ ていくというシステム化を前提としたものである 一方で,当時,ERP を有する日本企業は少なかっ たという状況が反映されている.すなわち,「情 報システムの整備がマテリアルフローコスト会計 データ付マテリアルフローモデルは,前述のマ テリアルフローモデルに,期間を基準としたデー タを組み込んだものであり,最も重要な結果様式 とされている.データ付マテリアルフローモデル では,明瞭性が求められる.この理由は,以下の 通りである. 「多くの場合,元々のマテリアルフローモデ ルは,非常に複雑なマテリアルフロー構造を描 き出すのに使われていた.特に,2 つの物量セ ンターの間でマテリアルの移動が示され,方向 性を示す流れと矢印がマテリアルのタイプ別に 区別されているようなマテリアルフローモデル では,全体的な視野を明瞭にするために,モデ ルを意味のある方法で,すなわち目的に従って 圧 縮 す る こ と が 勧 め ら れ る 」(Strobel and Redmann, 2001,訳書 p. 255) マテリアルフローモデルにおいて物量情報で表 現されていた銘刻は,データ付マテリアルフロー モデルでは,貨幣情報で表現される銘刻に変換さ れている.「各マテリアルの物量データは,各フ ローでコストのように合算することは不可能であ り,また質の違うものを合算することは意味がな く,データ量も多く細かな作業を要することとな る」(中嶌・國部,2008,p. 114)といった指摘 に見られるように,物量情報は,結合可能性が相 対的に低い.したがって,銘刻として,マテリア ルの種類ごとに描かれていた物量情報は,その報 告様式としては複雑にならざるをえない.そこで, 図 2 のように,貨幣情報で表現することで,異な る種類のマテリアル情報の結合を可能とさせてい る.銘刻としての貨幣情報は,より銘刻を蓄積さ せやすくし,離れた場所から,銘刻に刻まれたマ テリアルの支配を促進する.一方で,この変換プ ロセスでは,マテリアルフローモデルでは保持さ れていた,マテリアルの種類ごとに描かれていた 物量情報を失っている.したがって,新しい銘刻 は,マテリアルの支配を促進している一方で,そ の支配は,経済価値の側面に限定されており,環 製品 120 25 0.2 145.2 包装 40 25 2.5 67.5 マテリアルロス 21.5 6.4 1.5 29.4 計 181.5 56.4 4.2 242.1 生産コスト マテリアルコスト システムコスト 配送/廃棄物処理コスト 計 表 1 フローコストマトリックス
の導入範囲に大きく影響」(中嶌・國部,2008, p. 78)したのである.また,中嶌氏は,管理会 計の専門家であり,正確な原価の計算よりも,「異 なる目的には異なる原価を」と考えていたことも, さらに,経済産業省の委託事業として導入された 点も,導入の形態に影響を与えたと考えられる. 委託期間において環境負荷削減やコスト削減と いった MFCA 導入の成果を出す必要があり,限 定した範囲で導入することが合理的であったため である. 日東電工の導入実験は,2000 年度と 2001 年度 の 2 年にわたり,MFCA によって,「企業がいか に改善策を実行することが可能で,その改善策を 意思決定するにはどのような情報(報告様式も含 めて)が必要であるかを明らかにすることをテー マとして」(経済産業省,2002,p. 96)なされた. また,2001 年度には,タキロン株式会社(現在, タキロンシーアイ株式会社),田辺製薬株式会社 (現在,田辺三菱製薬株式会社),キヤノン株式会 社でも導入された.これら,日本における初期の 導入事例は,1999 年度から 2001 年度の事業のま とめとして,経済産業省(2002)に掲載されてい る.ただし,どの事例も銘刻が表現される様式は 基本的に同じである.次項では,代表事例として, 日東電工における MFCA の銘刻の変換を考察す る. 3.4 銘刻の変換:マテリアルフローコスト会計 図 3 は,金額データ付フローチャートを示して いる.データ付フローチャートは,コスト項目ご とに,物量データ付のものと金額データ付のもの があり(中嶌・國部,2008,p. 11),物量データ 付は,IMU のマテリアルフローモデルに,金額 データ付は,IMU のデータ付マテリアルフロー モデルに対応する.一方で,IMU のものとは異 なり,マテリアルの種類ごとの情報が記載されて いる.IMU の FCA が対象とする境界の範囲は, 製造業の始点から終点まで,すなわち工場または 企業全体であるのに対し,日本の MFCA は,一 製造工程であり狭い.それに伴い,金額データ付 フローチャートでは,溶剤,プラスチック芯など, マテリアルの種類ごとの情報が保持されている. したがって,ここで示される貨幣情報で表現され る銘刻は,経済価値の観点から,マテリアルの種 類を枠組みに入れた支配を可能にさせる. 図 4 は,フローコストマトリックスであり, IMU のフローコストマトリックスに対応する. 図 4 下段の表の様式は,IMU のフローコストマ トリックスと基本的に同様であるが,「IMU 版と 違って,製造ラインをその対象としたことから, 図 3 金額データ付マテリアルフローチャート (経済産業省,2002,p. 103)
物量センター別に各コストを貼り付け,各物量セ ンターを比較するために全体が俯瞰できるように なっている」(中嶌・國部,2008,p. 118)上段 に特徴がある.図 4 上段に目を向けると,図 3 の 金額データ付フローチャートでマテリアルの種類 ごとに描かれていた銘刻は,コスト項目ごとに描 かれる銘刻に変換されている.すなわち,フロー コストマトリックスでは,マテリアルの種類ごと の情報は失われており,ここで示される貨幣情報 で表現される銘刻では,マテリアルの種類を枠組 みに入れた支配は不可能な構造となっている. 3.5 その後の展開 MFCA は,調査研究事業の終了後も,様々な 展開を見せる.2004 年度からは,経済産業省に よる,MFCA に特化した事業が公募制の形で始 まり,コンサルタントを擁する日本能率協会が事 務局となることで,MFCA の導入事例が加速的 に蓄積されることとなった.そこで,日本主導の 国際規格化の話が持ち上がり,國部氏は議長,中 嶌氏はエキスパートとして ISO14051 に関わるこ ととなった. 国際規格化のプロセスにおいては,日本の MFCA の成功しているエッセンスを残すべきだ という意識が強く働いており(中嶌氏),日本で 展 開 さ れ た MFCA と ISO14051 で 描 か れ た
MFCA の差異は小さい.ISO の MFCA の境界は, 単一の工程,複数の工程,施設全体,サプライ チェーンなどから組織が選ぶとされており,最初 は,環境と経済の側面から大きな成果が見込まれ る単一もしくは複数の工程に焦点を当てることが 勧 め ら れ て い る(ISO,2011,p. 10). ま た, MFCA の境界を決めた後に物量センターを決め るというプロセスが提示されており,MFCA の 境界内でのマテリアルフローモデル,また,物量 センターごとのマテリアルフローコストマトリッ クスの作成が推奨されている.なお,マテリアル フローコストマトリックスは,IMU のフローコ ストマトリックス(表 1)や,日本版のフローコ ストマトリックス(図 4 下段の表)と基本的には 同じ様式である. 4.環境価値と経済価値の追求 4.1 環境価値と経済価値の関係性 日本における MFCA の初期の展開は,環境会 計の専門家であり,環境を企業活動の中心に組み 入れることを目指した國部氏が,IMU の FCA に 着目したことで始まった.日本で展開された MFCA は,管理会計の専門家の中嶌氏,各事業 年度で成果が求められる経済産業省の事業,ERP の未整備,日東電工などの導入企業といった様々 なアクターの連関の中で,限定した範囲で導入で 図 4 フローコストマトリックス (経済産業省,2002,p. 106)
きるような形で作られてきたと言える. FCA では,マテリアルフローモデルの様式で 記載されていた,マテリアルの種類ごとの物量情 報という銘刻は,データ付マテリアルフローモデ ルやフローコストマトリックスの様式において, 異なる種類のマテリアル情報が結合された貨幣情 報という銘刻に変換されていた.この銘刻の変換 は,銘刻の蓄積に関わる特性である結合可能性を 高めることで,銘刻を蓄積させやすくし,銘刻に 刻まれているマテリアルの支配を促進している. 一方で,マテリアルの種類ごとの物量情報が失わ れているため,ここでの支配は,経済価値の側面 に限定されている.異なる種類のマテリアル情報 が結合された貨幣情報という銘刻の蓄積を通じて は,環境価値において重要なマテリアルの種類を 枠組みに入れたマテリアルの支配は出来ない. 日本で展開された MFCA では,限定した範囲 での導入に関係し,金額データ付フローチャート の段階では,マテリアルの種類ごとの情報も保持 される.したがって,金額データ付フローチャー トで示される貨幣情報で表現される銘刻は,マテ リアルの種類を枠組みに入れたマテリアルの支配 を可能にさせていた.しかしながら,それは経済 価値の観点からの支配であり,この銘刻の蓄積を 通じては,環境負荷に関連した物量という側面か らマテリアルを支配することはできない.また, フローコストマトリックスが作成される段階で は,マテリアルの種類ごとの情報は失われており, この段階の銘刻の蓄積を通じては,環境価値にお いて重要なマテリアルの種類を枠組みに入れたマ テリアルの支配は出来ない. 國部(2017)は,「経済という一元的世界から, 多様な人間の世界を取り戻すため」,「経済以外の 何らかの複数評価の原理」を会計計算に組み込む 複数評価原理の会計を提唱している(p. 93).複 数評価原理の会計は,他の価値を単に組み込むだ けでは,その条件は満たされない.「複数評価原 理を考える場合に重要なことは,複数の指標が最 終的に収束しないこと」(p. 114)であり,「一見 すれば「複数評価」であっても,最終的に経済的 価値に収束するならば,それは一元的評価の枠内 にとどまる」(p. 94)とされる.國部(2017)は, MFCA を複数評価原理の会計として捉えた上で, その微妙な立場も以下のように指摘する. 「MFCA の出自を問えば,マテリアルのフ ローの物量計算にあるから,経済計算からは独 立している.しかし一方では,MFCA ではマ テリアルロスコストの大きさを示すことによっ て,経営者に資源の節約動機を与え,コスト削 減につながることが強調されている」(國部, 2017,pp. 114-115) 本研究の考察は,複数評価原理の会計として抱 える MFCA の問題を示唆する.MFCA は,環境 価値と経済価値の同軸化によって,双方の価値の 同時追求を可能にした手法であった.確かに, MFCA で明らかになるマテリアルロスコストは, 資源生産性の向上を促し,それが達成されれば, 投入マテリアルの削減を通じて,環境価値と経済 価値の双方が高まることとなる. 一方で,MFCA は,マテリアルの種類ごとの 物量情報を,結合可能性が高い貨幣情報に変換す ることで,環境価値は,経済価値に従属した形で 高められるという関係性を作り出してもいる.マ テリアルの種類ごとの物量情報という銘刻は,結 合可能性が相対的に低いことから蓄積されにく い.そこで,貨幣情報に変換することで,マテリ アルに関する銘刻を蓄積させやすくし,マテリア ルの支配を促進させている.しかし,銘刻として の貨幣情報の蓄積を通じて支配できるマテリアル は,経済価値の側面に限定されているため,経済 価値が優先される構造となっているのである. もちろん,投入マテリアルの削減は,環境価値 の増大ももたらす.ただし,貨幣情報で表現され る銘刻のみが記載されている様式では,マテリア ルの種類ごとの物量情報は刻まれていないため, どのような種類のマテリアルのどれだけの投入が 環境負荷をどれだけもたらすかなど,環境影響を 考慮した評価はできず,環境価値の増大は経済価
値の増大に従属した形で実現する8).このように, MFCA は,貨幣情報で表現される銘刻への変換 によって,環境価値は経済価値に従属されて増大 されるという関係性を作り出している.貨幣情報 への変換こそが,経済価値の増大が環境価値の増 大に優先される要因なのである. 4.2 環境価値と経済価値の併存 では,MFCA における経済価値の増大が環境 価値の増大に優先されるという問題は,どのよう に解決すれば良いのであろうか.本研究の考察は, 貨幣情報に変換した銘刻だけでなく,変換前のマ テリアルの種類ごとの物量情報が刻まれた銘刻な ど,環境価値を追求するにあたって肝要となる銘 刻を保持することが重要であることを示唆してい る9).貨幣情報に変換された銘刻の蓄積を通じた マテリアルの支配は,経済価値の増大という側面 か ら の 支 配 に 限 定 さ れ て し ま う か ら で あ る. Latour(1987)によると,銘刻の変換の理想は,「可 能な限り,多数の要素を保持し,その上でそれら の要素を管理可能にすること」(p. 237)であり, 変換前の銘刻の保持は,Latour の主張にも沿っ たものである. しかし,前節で議論したように,物量情報で表 現される銘刻は,貨幣情報で表現される銘刻と比 較すると,結合可能性が低く,蓄積されにくいと いう問題がある.このような問題の中で,変換前 の銘刻はいかに保持されうるのだろうか. 一つは,自発的な保持であり,これは変換前の 銘刻を保持するメリットの理解を通じてなされる と考えられる.環境価値を追求するにあたって肝 要となる銘刻を保持することは,価値観の多様性, 複数のパフォーマンス基準の相互依存的な重なり 合いによって生じる摩擦を生み出し,それにより イノベーションを促進する(Stark, 2009, p. 27) 下地を作ることにも寄与すると考えられる.また, 「物量データでの分析・検討が具体的な問題の発 見と改善策の模索の出発点となる重要なプロセス である」(中嶌・國部,2008,p. 114)といった 指摘もある.これらの議論は,自発的な保持の可 能性を示唆する. 自発的な保持がかなわない場合,制度構築の必 要があろう.國部(2017)は,複数評価原理の会 計の構築のために,「経済と他の価値の関係を対等 に維持するプロセスが制度として必要」(p. 158) と指摘している.この指摘は,環境価値の観点か らマテリアルを支配するための銘刻が,経済価値 の観点からマテリアルを支配するための銘刻と対 等な関係になるためには,法制度などの支援が必 要であることを示唆する. 5.おわりに 本研究は,MFCA が,環境価値と経済価値を 同時に追求する手法である一方で,実践において は,経済価値の増大が環境価値の増大よりも優先 されるという問題に,銘刻の変換プロセスに着目 することで取り組んだ. 銘刻は,可動性,安定性,結合可能性を有する ことから,蓄積することができ,銘刻に刻まれた 対象の支配を可能にする.銘刻は,より蓄積しや すいように,特に結合可能性を高めるように新し い銘刻に変換される.ここで貨幣情報は,結合可 能性が高いため,MFCA の銘刻も,最終的に, 異なる種類のマテリアル情報を結合した貨幣情報 に変換されていた.しかしながら,この変換プロ セスでは,マテリアルの種類ごとの情報が失われ ているため,変換後の貨幣情報という銘刻の蓄積 を通じたマテリアルの支配は,経済価値の増大と いう側面からの支配に限定されてしまう.これが, MFCA における銘刻の変換プロセスから捉えた, 経済価値の増大が環境価値の増大よりも優先され る要因である.貨幣情報で表現された銘刻は,環 境価値は経済価値に従属させて高められるという 関係性を作り出し,環境価値の増大と経済価値の 増大に偏りをもたらすのである. この問題の解決策としては,各マテリアルの物 量情報など,環境価値を追求するにあたって重要 な情報が失われる前の銘刻を保持することが考え られる.環境価値の増大と経済価値の増大という 複数価値を追求する手法として MFCA を進展さ
せるためには,環境価値と経済価値の関係を対等 に維持することが求められ,そのためには,経済 価値の側面からマテリアルを支配するための銘刻 だけではなく,環境価値の側面からマテリアルを 支配するための銘刻を保持,蓄積する必要がある. 経済価値の増大が環境価値の増大よりも優先さ れる問題,またそれに伴い環境価値と経済価値の 増大には偏りが生じる問題は,局所的に,そこで 利用されている MFCA を取り巻くアクターの連 関の結果として表れるものであるが,本研究は, その要因の一端を MFCA の銘刻の変換プロセス で生じる弊害に見出した.本研究が対象とした MFCA は,IMU の FCA,國部氏,中嶌氏,経 済産業省,導入企業など様々なアクターの影響を 受けて作られていた.今後,これらの影響を丁寧 に考察することは,環境価値と経済価値をバラン ス良く増大させる手法として MFCA を再構築す るために,また複数価値を追求する問題への理解 を進めるために有用であろう.複数価値の追求に ついて本研究で得られた知見と示唆が,複数価値 評価研究の進展に貢献できるよう願う. 謝辞 インタビューにご協力いただきました國部克彦先生,中 嶌道靖先生に,厚く御礼申し上げます.また,2 名の匿名 レフェリーの先生からは,大変丁寧かつ建設的なコメント を頂戴しました.ここに記して感謝を申し上げます.本研 究 は,JSPS 科 研 費 19H01547 な ら び に JSPS 科 研 費 18K12911 の助成を受けたものです. 注 1)組織における MFCA の実践が多様なアクターによっ て作られるプロセスは,東田他(2013)が詳述している. 2)銘刻に焦点を当てるアプローチは,多くの社会学者の ように,行為(action)を「意図的で」「意味に満ちた」 人間が行うことに限定すると,モノ(objects)の役割 を捉えることができない(Latour, 2005, p. 71)という 問題を克服するもので,銘刻が持つ並の人間よりもは るかに信頼できる記号論的力(Latour, 1993(1991)に 着目している. 3)MFCA のように,会計数値を活用して,環境価値の増 大を図っている事例は他にもある.例えば,Corvellec et al.(2018)は,廃棄物の請求書が,居住者と廃棄物 の関係性を変えたことをスウェーデンのヨーテボリ市 の廃棄物収集プログラムの事例で描いている.この請 求書には,分別されていない廃棄物の重量と,それに 対する料金情報などが記載されており(pp. 58-59),こ の新たな関係性の可視化が,居住者と廃棄物の距離を 近付け,居住者による廃棄物の分別を促した.例えば, あるインタビュイーは,ネスプレッソのカプセルがと ても重いため,ネスプレッソのウェブサイトで,リサ イクルが可能であることを確認し,リサイクルすべき だという結論に至ったと語っている(p. 60).この事 例では,請求書に記載される「廃棄物の重量×サービ ス単価=廃棄物収集料金」という方程式が,環境と経 済を協調させた(p. 61).それがなければ分離されて いた要素間の関係を構築し,環境価値と経済価値の同 時追求を可能とさせたのである. 4)インタビューの概要は,以下の通りである.國部氏(2 回(2017 年 3 月,2018 年 3 月),それぞれ 1 時間,1 時間半),中嶌氏(2 回(2017 年 3 月,4 月),それぞ れ 1 時間半).なお,國部氏は,現在,神戸大学大学院 経営学研究科教授,中嶌氏は,現在,関西大学商学部 教授である. 5)國部氏は,「世界的な動向を見たら,日本の環境庁の環 境会計は,環境保全コストを開示するというのが主で ある.それだけだと環境会計の中で中心的なものでは ないということが,MFCA の議論を含め,UNDSD の 議論に参加するようになってから分かった」と述懐し ている.
6)例えば,Strobel and Redmann, 2001, 訳書 p. 269 を参 照されたい. 7)IMU は,報告様式として,フローコスト報告書も紹介 しているが,本論文において重要性は低いため,説明 を割愛している. 8)環境価値の増大の観点から重要な情報を刻む必要性は, MFCA の導入範囲の網羅性からも指摘できる.IMU の FCA が,工場または企業全体を境界としているの に対して,MFCA の境界は,限定されていた.導入範 囲の限定は,環境価値を増大させるために重要なマテ リアル情報が銘刻に刻まれないという問題を引き起こ す.これは,銘刻には,MFCA の境界内でのマテリア ルの物量情報のみが刻まれるからであり,環境価値の 増大において重要なマテリアルの情報が境界外にあれ ば,そのマテリアルの支配は困難となる.また,経済 価値の増大という観点からマテリアルが支配されると き,投入マテリアルの削減によらずに経済価値を増大 させる案とも比較されることになる.ここで,投入マ テリアルの削減による経済価値の増大が相対的に低い
場合,投入マテリアルの削減案は採用されず,環境価 値の増大が実現しない可能性もある. 9)環境価値を増大させるために重要な情報を刻むという 観点からは,刻まれるマテリアルの物量情報の網羅性 の確保も求められるであろう.この問題に対処するた めには,歴史的展開を振り返れば,ERP のような情報 システムが整備されていることなどが前提条件として 必要になると思われる.結合可能性が低い各マテリア ルの物量情報に耐えられるだけのシステムの構築がな ければ,このような問題の解決は難しいかもしれない. 参考文献 北田皓嗣(2013)「計算の銘刻としての会計数値」『日本情 報経営学会誌』Vol. 33,No. 4,pp. 31-39. 経済産業省(2002)『環境管理会計手法ワークブック』経 済産業省. 國部克彦(2017)『アカウンタビリティから経営倫理へ: 経済を超えるために』有斐閣. 篠原阿紀(2015)「日本におけるマテリアルフローコスト 会計の研究動向」『桜美林論考ビジネスマネジメントレ ビュー』Vol. 6,pp. 1-22. シュミット = ブレーク,F.(1997)『ファクター 10:エコ 効率革命を実現する』佐々木建訳,シュプリンガー・ フェアラーク東京. 中嶌道靖・國部克彦(2008)『マテリアルフローコスト会 計(第 2 版)』日本経済新聞出版社. 東田明・國部克彦(2014)「企業経営における環境と経済 の統合と離反─MFCA 導入事例を通して─」『国民経 済雑誌』Vol. 210,No. 1,pp. 87-100. 東田明・國部克彦・篠原阿紀(2013)「環境管理会計によ る可視性の創造と変容:A 社におけるマテリアルフ ローコスト会計実践の時系列分析を通じて」『情報経営 学会誌』Vol. 33,No. 4,pp. 65-77.
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