帝王切開瘢痕症候群による続発性不妊に対し、子宮鏡下瘢痕部焼灼術を行い妊娠に至った1例
5
0
0
全文
(2) 【緒 言】 近年、帝王切開率の増加により帝王切開瘢痕症 候 群(Cesarean Scar Syndrome;CSS) に よ る 続発性不妊が注目されている。帝王切開瘢痕部に 起因する過長月経などの月経異常、月経困難症、 慢性骨盤痛などの症状を呈する症候群として Morrisらにより報告された1,2)。さらに続発性不妊 の原因となり得るとされ、瘢痕部からの分泌物が 着床障害を引き起こし不妊となると考えられてい る3,4)。治療には保存的治療と手術療法があるが、 瘢痕部からの分泌物のドレナージなどの保存的治 療に比べ、腹腔鏡あるいは子宮鏡下での手術療法 において妊娠率が上がるとの報告がある5,6)。今回、 CSSに起因すると思われる続発性不妊に対して子 宮鏡下瘢痕部焼灼術を行い、凍結胚移植にて妊娠 に至った症例を経験したので報告する。 本論文の投稿に関して、患者の同意を得た。. 図1 T2強調像(矢状断) 後屈子宮、子宮体部前壁にΦ7㎝ の筋腫を認める. 瘢痕部の子宮筋層厚:6mm. 3妊1産。38歳時に他院で帝王切開にて分娩し たが、児は13 trisomyによる合併症のため死亡し た。挙児希望あり、前医でタイミング指導を行っ たが妊娠せず、多発子宮筋腫も認めたため、不妊 治療目的に40歳9か月に当院紹介となった。その 他の既往歴、家族歴、生活歴に特記事項なし。 初診時の診察所見は、内診にて手拳大の子宮を 認め、可動性は良好で圧痛は認めなかった。経腟 超音波検査では前壁に直径7㎝の筋層内筋腫を認 め、月経16日目で子宮内膜厚8mm、両側付属器. っていなかった。手術に先立ち、ロングプロトコ ー ル に て 2 個 採 卵、 体 外 受 精(IVF: In Vitro Fertilization)にて1個受精し、初期胚1個を凍 結した。40歳11ヶ月で腹腔鏡下子宮筋腫核出術 (LM: Laproscopic Myomectomy)及び子宮内膜 症病巣焼灼術を施行した。小さな漿膜下筋腫を含 め計2個の子宮筋腫(136g)を核出し、子宮は 体部後壁まで子宮内膜症による癒着でダグラス窩 は閉鎖し、r-ASRM分類64点のstageIVの子宮内 膜症と診断した。卵管の通過性は右側のみ確認で きた。術後3か月目にロングプロトコールで1個 採卵し、新鮮胚移植を施行したが妊娠に至らなか った。poor responderと判断し、その後酢酸クロ. に黄体を認めず、卵胞期であった。子宮下節部の 帝王切開瘢痕部の子宮筋層の欠損と同部位の液体 貯留も認めていた。また月経周期と関連しない慢 性骨盤痛を訴えていた。. ミフェンを使用して8周期採卵し、計8個の初期 胚を凍結した。 改めて問診にて以前の帝王切開分娩以降、過長 月経・不正性器出血があるとの訴えがあり、続発. Magnetic Resonance Imaging(MRI)検査では、 子宮は後屈し子宮前壁に子宮筋腫を認めたが、子. 性不妊と月経異常からCSSを疑い、再度MRIを撮 影した。子宮は後屈、瘢痕部の子宮筋層の厚さは. 宮内腔に変形は認めなかった。子宮下節部の帝王 切開瘢痕部筋層の欠損を認めるが、同部位の筋層 の厚さは6mmであった。(図1)。 前医での卵胞期初期の内分泌検査に異常は認め. 6mmであり、同部位に筋層の欠損を認め、その 範囲は長さ15mm、深さ4mm、幅24mmであっ た(図2)。以上の臨床経過、画像所見からCSS と診断し、治療方針は子宮鏡下瘢痕部焼灼術を選. ず、 当 院 で 検 査 し た。Anti-Mullerian-Hormone (AMH)値は0.16ng/mlと低値であった。子宮筋. 択、施行した。術中の瘢痕部の所見は、子宮頸部 前壁の陥凹部に内膜の発赤を認め、瘢痕部は憩室. 腫が着床障害や妊娠中の障害を起こす可能性があ り、年齢、不妊期間を考慮して、生殖補助医療 (ART: Assisted Reproductive Technology) の 予定とし、採卵、全胚凍結後に腹腔鏡下子宮筋腫. 状になっておらず、辺縁はなだらかであったので 切除を行わず、同部位をバイポーラループ電極 (30W)にて焼灼した(図3)。手術時間は38分、 出血は少量であった。術後1か月は避妊期間とし、. 核出術を行う方針とした。当初はCSSの疑いは持. 過長月経・不正性器出血は消失した。術後2ヶ月、. 【症 例】. ― 85 ―.
(3) T2強調像(矢状断). T2強調像(水平断). 図2 瘢痕部の子宮筋層厚:6mm 欠損部:長さ15mm、深さ4mm、幅24mm. 同部位に液体貯留を認める. 図3 左上:子宮下節部に一致して帝王切開瘢痕部の陥凹を認め、陥凹部に内膜 の発赤が認められた. 右下:帝王切開瘢痕部全面を焼灼した. 42歳時に再度ホルモン補充周期にて凍結初期胚移 植を施行したところ1回で妊娠が成立した。妊娠. 【考 察】. 経過中に切迫子宮破裂を疑う所見は認めなかっ た。後壁付着の前置胎盤のため、妊娠37週1日に. 今回の症例から、以下の二点が示唆された。 一点は、帝王切開術後の続発性不妊の症例では画. 選択的帝王切開術にて3144gの男児を出生した。 胎盤を避けて、子宮下節より2cmほど頭側で子 宮筋層を切開して児を娩出し、胎盤剥離後に瘢痕 部を含む内子宮口付近から強出血を認め止血し. 像検査とともに問診がCSSを疑うきっかけになる ことである。 もう一点は、CSSが胚移植の反復 不成功の原因と疑われた症例に対して、子宮鏡下 瘢痕部焼灼術が有効であったことである。. た。術中出血量は3934mlに達し、自己血および 同種血を輸血し、その後の経過は良好で術後7日. 一点目の診断に関して、帝王切開後の瘢痕部の 筋層菲薄化や過長月経、不正性器出血はCSSに特 徴的な所見であり5,8,9)、後屈子宮が発症リスクに. 目に退院した。. ― 86 ―.
(4) 関与する報告もある10,11)。当科初診時、過長月経 と不正性器出血を本人は認めていたものの、問診. 痕部修復術を選択することを提唱している6)。す なわち、瘢痕部の子宮筋層の厚さが2.5mm以下の. として聴取はされていなかった。また初診時の MRIにおいても後屈の子宮であり前壁の子宮筋腫 と同時に、瘢痕部筋層の欠損と筋層の菲薄化を認. 場合は子宮鏡下での手術は子宮筋層の穿孔のリス クがあると考えられるため腹腔鏡瘢痕部切除術を 施行し、2.5mm以上の場合は子宮鏡下瘢痕部修復. めていたがCSSとは疑っていなかった。LM後の 2回の胚移植で妊娠が成立しなかったことで、不 妊原因について改めて考え、過長月経と不正性器. 術を施行するという選択である。子宮鏡下瘢痕部 修復術は、瘢痕部の頭側と尾側の辺縁を切除する 手技とされている。術後妊娠率は、腹腔鏡瘢痕部. 出血の症状、瘢痕部の画像所見、子宮後屈に注目 することとなりCSSを疑う契機となった。過長月 経は、患者本人から訴えることが少なく、医師側 から積極的に聴取して明らかになることが多いの. 切除術施行群では55.6%、子宮鏡下瘢痕部修復術 施行群では100%であったと報告している。本症 例においては、同部位の厚さは6mmと比較的保 たれていたこと、瘢痕辺縁の筋層辺縁がなだらか. で、帝王切開後の不妊における問診の取り方が重 要であると思われる。. で切除は不要と判断し、子宮鏡下瘢痕部焼灼術を 選択、施行し、術後に妊娠が成立した。CSSによ. 二点目の治療方法に関して、帝王切開瘢痕部の 形態の評価を行い治療法の選択をすることが重要 であると考えられた。 Tsujiらの報告5)にあるよ うに、瘢痕部を焼灼したことが、瘢痕部の血性分 泌物を減少させ、着床の障害が改善し、その結果 妊娠が成立したと推察している。手術療法に関し て、Tanimuraらは瘢痕部の子宮筋層の厚さに基 づいて腹腔鏡瘢痕部切除術、あるいは子宮鏡下瘢. る続発性不妊に対する保存療法には、上述の腹腔 鏡による瘢痕部切除や子宮鏡による瘢痕部焼灼の 他に、瘢痕部の貯留液をドレナージし、同部位に 酸化セルロースを留置する方法などがあるとされ る。しかし、どのような患者に対して、いずれの 治療法を選択するべきであるか明確な治療プロト コールは確立されていないため、本邦における CSSによる続発性不妊に対する治療法とその後の. 表1-a 帝王切開後の続発性不妊のクラス分類. 表1-b 帝王切開後の続発性不妊の治療戦略. ― 87 ―.
(5) 妊娠率を検討した報告が参考になる5)。それによ ると、不妊治療のみの群と、ドレナージと酸化セ ルロース留置をした保存治療群、上記の手術療法 群の3群の比較において、手術療法群にて妊娠率 が有意に高かったという結果であった。また症状、 臨床所見からクラス分類を行い、不正性器出血や 慢性骨盤痛を認める症例に対しては手術療法を選 択すべきとも考察されている(表1)。本症例は 過長月経及び、慢性骨盤痛を認めており、上記報 告のクラス分類でも手術療法が適切であったと考 える。 本症例において、不妊治療開始時が40歳と高齢 であり、 治療が必要な子宮筋腫も認めたことから、 採卵胚凍結を先行してからLMを施行した。さら にpoor responderであり、2回の胚移植で妊娠に 至らなかったことから、反復着床障害の疑いもあ ったので、年齢による卵のクオリティの低下を最 小限にするため、凍結胚を貯蓄する方法を選択し た。8回の採卵で8個の胚が凍結できたのでCSS の手術を行って妊娠が成立した。Dattaらはpoor responder症例に対する3周期以上の採卵-全胚凍 結により良好な成績を収めている12) が、本症例 も有効な治療方法であったと考えられる。LMと 瘢痕部焼灼と2回に分けて手術を行ったが、LM 時には反復着床障害か否か不明であったのでやむ を得ないと思われる。とはいえ、初診時からCSS の疑いを持って、LM時に瘢痕部の焼灼を行う選 択はあったかもしれない。帝王切開既往の不妊患 者においては、最初からCSSを念頭において治療 計画を立てるのが望ましいであろう。 帝王切開後に過長月経が出現したART反復不 成功例に対して、子宮鏡下帝王切開瘢痕部焼灼を 施行し妊娠が成立したCSSの1例を経験した。画 像所見の他に詳細な問診よりCSSを疑い、難治性 の不妊症例の場合、適切な手術方法を選択するこ とが妊娠につながると思われた。. Curr Opin Obstet Gynecol 2012; 24: 180-186. 4) Gubbini G.et al.: Surgical hysteroscopic treatment of cesarean-induced isthmocele in restoring fertility: Prospective study. J. Minim Invasive Gynecol 2011; 18: 234-237. 5) Tsuji S. et al.: Management of secondary infertility following cesarean section: Report from the Subcommittee of the Reproductive Endocrinology Committee of the Japan Society of Obstetrics and Gynecology. J. Obstet. Gynaecol. Res 2015; 41: 13051312. 6) Tanimura S. et al.: New diagnostic criteria and operative strategy for cesarean scar syndrome: Endoscopic repair for secondary infertility caused by cesarean scar defect. J. Obstet. Gynaecol. Res 2015; 41: 1363-1369. 7) Ferraretti AP.et al. on behalf of the ESHRE working group on Poor Ovarian Response Definition: ESHRE consensus on the definition of ‘poor response’ to ovarian stimulation for in vitro fertilization: the Bologna criteria. Hum. Reprod 2011; 26-7 : 1616-1624. Fabres C. et al.: The cesarean delivery scar pouch: 8) Clinical implications and diagnostic correlation between transvaginal sonography and hysteroscopy. J. Ultrasound Med 2003; 22: 695-700. 9) Gubbini G. et al.: Resectoscopic correction of the "isthmocele" in women with postmenstrual abnormal uterine bleeding and secondary infertility. J. Minim Invasive Gynecol 2008; 15: 172-175. 10) Bij de Vaate AJ.et al.: Prevalence, potential risk factors for development and symptoms related to the presence of uterine niches following Cesarean section: Systematic review. Ultrasound Obstet Gynecol 2014; 43: 372-382. 11) Wang CJ. et al.: Challenges in the transvaginal m a n a g e m e n t o f a b n o rm a l U t e r i n e b l e e din g secondary to cesarean section scar defect. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2011; 154: 218-222. 12) AK Datta. Et al.: Accumulation of embryos over 3 natural modified IVF (ICSI) cycles followed by transfer to improve the outcome of poor responders. Facts Views Vis Obgyn 2019; 11: 77-84.. すべての著者は開示すべき利益相反はない。. 【参考文献】 1 ) Morris H, et al.: Surgical pathology of the lower uterine segment caesarean section scar: Is the scar a source of clinical symptoms?. Int J Gynecol Pathol 1995; 14: 16-20. 2 ) Morris H, et al.: Caesarean scar syndrome. S Afr Med J 1996; 86: 1558. 3 ) Florio P, et al.: Hysteroscopic treatment of the cesarean-induced isthmocele in restoring infertility.. ― 88 ―.
(6)
関連したドキュメント
焼灼によって長期生存を認めている報告もある 23)
にて優れることが報告された 5, 6) .しかし,同症例の中 でも巨脾症例になると PLS は HALS と比較して有意に
therapy後のような抵抗力が減弱したいわゆる lmuno‑compromisedhostに対しても胸部外科手術を
10例中2例(症例7,8)に内胸動脈のstringsignを 認めた.症例7は47歳男性,LMTの75%狭窄に対し
現在、当院では妊娠 38 週 0 日以降に COVID-19 に感染した妊婦は、計画的に帝王切開術を 行っている。 2021 年 8 月から 2022 年 8 月までに当院での
「橋中心髄鞘崩壊症」は、学術的に汎用されている用語である「浸透圧性脱髄症候群」に変更し、11.1.4 を参照先 に追記しました。また、 8.22 及び 9.1.3 も同様に変更しました。その他、
普通体重 18.5 以上 25.0 未満 10~13 ㎏ 肥満(1度) 25.0 以上 30.0 未満 7~10 ㎏ 肥満(2度以上) 30.0 以上 個別対応. (上限
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しない こと。動物実験(ウサギ)で催奇形性及び胚・胎児死亡 が報告されている 1) 。また、動物実験(ウサギ