1 .企画趣旨 角山剛 東京未来大学の角山です。今回のテーマは,『組 織行動研究の展開―新たな視点を模索する』という ことで企画しました。組織行動部門というのは,産 業・組織心理学会の中でも四つ部門がありますが, 登録していただいている会員の数が一番多い部門で す。ただ,この組織行動,Organizational Behavior ですけれども,この言葉が実際の研究の中で認知さ れるようになったのは1960年代ということで,決し て古いわけではありません。その歴史の中で,多く の研究の広がりがあり,一くくりに組織行動といい ましても,非常にたくさんの研究が現在展開されて いるわけです。本日は,そうした中で,わが国では どんな研究の方向性が,今,展開されているのだろ う,どんなヒントが隠されているのだろうかという ことで,3名の先生がたに話題提供をお願いいたし ました。最初の話題提供が,追手門学院大学の心理 学部教授でいらっしゃいます,浦光博先生です。 本日のご登壇なさる先生がたですけれども,本当 に皆さんよくご存じの先生がたばかりだと思います ので,細かなご紹介はいたしませんけれども,浦先 生には,「憎まれっ子は組織にはばかるか:ダーク パーソナリティの組織適応的機能」ということで, 話題をご提供いただきます。2人目は,株式会社リ クルートマネジメントソリューションズの組織行動 研究所主幹研究員でいらっしゃる今城志保先生で す。今城先生には,「経験を積むことで人は柔軟性 を失うのか:経験からの学びとその活用を考える」 というテーマで話題をご提供いただきます。3人目 が,九州大学大学院人間環境学研究院の教授でい らっしゃいます山口裕幸先生です。山口先生には, 「アカデミアは組織開発に真の意味で貢献しうるか: 現実と理論のはざまを行き交いながら」というテー マで話題をご提供いただきます。そして,コメンテー ターには,東京大学人文社会系研究科の教授で,現 在日本社会心理学会会長でもいらっしゃる,唐沢か おり先生にお願いをいたします。お三方の話題提供 が終わりましたら唐沢先生にそれぞれコメントを頂 きまして,そのコメントに答える形で,3人の先生 がたからそれぞれの見解を頂く。その後でフロアの 皆さんとの,質疑応答の時間に充てたいというふう に考えております。非常に興味深いお話が聞けるの ではないかと、私も大変楽しみにしております。 第132回 部門別研究会(組織行動部門)
組織行動研究の展開 ~新たな視点を模索する~
企画・司会:角 山 剛(東京未来大学モチベーション行動科学部) 話 題 提 供:浦 光 博(追手門学院大学心理学部) 今 城 志 保(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所) 山 口 裕 幸(九州大学大学院人間環境学研究院) 指 定 討 論:唐 沢 かおり(東京大学人文社会系研究科) 日 時:2019年3月16日(土) 14時〜16時30分 会 場:筑波大学東京キャンパス文京校舎Development of Organizational Behavior Research : Exploration of New Perspectives. KAKUYAMA Takashi (Tokyo Future University)
URA Mistuhiro (Otemon Gakuin University) IMASHIRO Shiho (Recruit Management Solutions Co., Ltd.)
YAMAGUCHI Hiroyuki (Kyushu University) KARASAWA Kaori (The University of Tokyo)
2 .発表概要 浦光博氏 「憎まれっ子は組織にはばかるか:ダークパーソナ リティの組織適応的機能」 追手門学院大学の浦と申します。今日お話しさせ ていただく研究は,ダークトライアド(DT)と組織 行動ならびに個人への帰結との関係に関するもので す。DTとは,マキャベリアニズム,サイコパシー, ナルシシズムという3種類の反社会的なパーソナリ ティ特性を総称したものです。欧米の研究ではマ キャベリアニズムやナルシシズムの高い者ほど生産 性を低めるような行動をとりやすい一方で,職業上 の成功を得やすいことが示されています。逆に,ビッ グファイブ特性の中の誠実性や協調性が高い者ほど 組織市民行動(OCB)を積極的に行う一方で,職 業上の成功を得にくいことが示されています。しか し,日本の研究では,協調性の高い人ほど成功しや すいことが示されています。なお,サイコパシーに ついては,欧米での研究で,職業上の失敗につなが りやすいことが示されています。 欧米と日本の差は,成果主義か年功序列終身雇用 かという人事制度の違いによるものである可能性が あります。そこで,今回は,日本の会社組織に勤め ている人びとを対象として,DT特性と仕事への満 足度や主観的な評価との関係,そしてこれらの関係 を媒介する組織行動とはどのようなものかを検討し ました。さらに,これらの関係が会社の人事制度に よって異なるかも調べました。年功序列終身雇用制 度の下で働く人びとと,成果主義制度の下で働く人 びととでDTと仕事満足や主観的評価との関連のあ り方が異なる可能性を検討しました。 主要な結果は次のとおりです。まず成果主義制度 の下では,マキャベリアニズム傾向の高い者は巧み な交渉を行い,それが仕事への満足と主観的な評価 を高めている可能性が示されました。年功序列終身 雇用制度の下では,ナルシシズム傾向の高い者が巧 みな交渉を通じて仕事への満足と主観的な評価を高 めていました。なお,サイコパシーについては,ど ちらの人事制度の下でも仕事への満足,主観的評価 とも低下させていました。 本日の私のプレゼンのタイトルは「憎まれっ子は 組織にはばかるか」というものですが,分析の結果 からは,どのような憎まれっ子的パーソナリティが 組織適応につながるかは人事制度によって異なる可 能性があると言えそうです。成果主義制度の下では 他者操作的で権謀術数に長けたマキャベリアンが, 年功序列終身雇用制度の下では,自己愛が強く他者 からの賞賛を強く求めるナルシシストが,うまく組 織適応を果たす可能性が示されました。 今城志保氏 「経験を積むことで人は柔軟性を失うのか:経験か らの学びとその活用を考える」 リクルートマネジメントソリューションズ組織行 動研究所の今城と申します。人はさまざまなことを 経験することで,できることが増えます。子供を対 象とする発達研究では,経験から学ぶことは当然の こととされています。ところが,働く大人が経験か ら学ぶことについてはどうでしょうか。特に高齢に なってくると,頑固になって変わらない,学ばない イメージがあるかもしれません。プロフェッショナ ルといわれる人のように,年齢を重ねても新しいこ とを経験から学び続けること,経験から学んだこと を新しい場面に適応することに興味があって,「持 論」についての研究を行っています。 社会心理学の「素朴理論」という概念と近しいの ですが,働く大人が持つ自分なりに仕事をうまく進 めるための理論のことを,「持論」として研究対象 にしました。これまでの研究の結果,多くの働く人 には持論があることや,状況認識,行動,戦略,自 己制御に関する持論など,人によって内容に違いが あることがわかりました(表1)。また,理由を意 識されることなく直観的に獲得された持論よりも (いつもそうだから),自分なりに考えて理論になっ ている熟慮型のもの(○○という理由があってAの 場合はB)のほうが,役立つ感覚が強いことがわか りました。 熟慮型の持論獲得の先行要因として,個人特性や 経験の特徴についても研究を進めてきました。神戸 大学の金井先生によれば,「一皮むけた経験」とよ ばれるチャレンジングな経験が,成長を促進します。 そこで,仕事の大変さの度合いや変化対応の必要な 転職経験などを使って,持論形成への影響を見たと ころ,難しい仕事に取り組んでいると思うほど,持 論の重要性やそれが転職後の適応感に及ぼす影響 は,強まる傾向がありました。一方で仕事が簡単で も,熟達目標を持つ人は,持論を重要だと思う傾向 がありました。
同じ経験をしても皆が同様に学ぶわけではありま せん。そこで経験から学ぶ心理プロセスを検討する ために,インタビューを行い,Fig. 1の仮説を得ま した。 インタビュー対象者の中には,経験からの学びが あると考えられるにもかかわらず,大変な経験をし た認識がない人もいました。彼らは,特別な経験で はなく,日常的な仕事の中で行為内リフレクション (reflection in action)を行っていました。今後は仮 説モデルの検証を進めつつ,役立つ持論の形成を促 持論の生成・活用プロセス(仮説) <個人要因> ・達成意欲 ・主体性 ・熟達/遂行目標 ・認知欲求 行為リフレクション (Reflection in Action) 持論生成 持論活用・更新 持論活用・更新 今城・藤村・佐藤(2019) 行為に関するリフレクション (Reflection on Action) <環境要因> ・過去の経験が通用しない 困難な仕事 ・今までの価値観が覆される 仕事 Fig. 1. Table 1.持論の例 思考・行動のタイプ コーディング例 場面 持論 状況認識 1 その仕事について情報を収集する。図にする/何が成果かをはじめに確認する 2 前もって見積もってから作業を進める/仕事の優先順位を常に考える 3 関係者を見極める/周りの人の能力を把握し,自分に無いものを補足する 行動 1 前例を徹底分析,早い段階の着手。業務経験者に流れを確認 2 15分単位でタイムマネジメントする/できないと感じたら,早いうちに応援を頼む 3 それなりの立場の人にマメに相談し,巻き込む 戦略 1 失敗した時も含め条件分岐も考慮して,必ずはゴールを想定しながら仕事を進める 2 相手がいることも考えて,どのような順番で作業をすればいいのかという効率的な方法を考えて, インプットになる部分から作業する 3 周りの意向をあらかじめ調査し,色々な部署や関係機関を巻き込んで自分なりのロジックを組み立てる 自己制御 1 分からないことを分かっているふりをしないこと/考えるよりも行動すること 2 短時間のリフレッシュをすること,リラックスすることを考える/あせったほうが遅くなる。かえっ て落ち着いたほうが失敗も少なく早い 3 完璧を目指さない/成功した自分を想像する/日頃から知見を深める 今城・藤村・佐藤(2016)
進する介入方法についても考えていきたいと思いま す。 山口裕幸氏 「アカデミアは組織開発に真の意味で貢献しうる かー現実と理論の狭間を行き交いながら」 九州大学の山口と申します。私は,学部を卒業す る時点では,実務の方が面白そうだなと思って,企 業に就職しました。しかし,業績がはかばかしくな く,沈んだ雰囲気の職場を,なんとか活気あるもの にしたいと思いつつ,気持ちばかりが上滑りする5 年間を過ごしました。結果的に,もっとちゃんと勉 強しておくべきだったという後悔の念とともに,大 学院に戻ることにしましたが,いつも心のどこかに, 組織で働いている人たち,あるいは組織そのものが 元気よくなっていくことに役立つような研究をした いという目標というか願望を持ってやってまいりま した。 これまで現場の方々と一緒になって課題解決を志 向した研究に取り組んできましたが,研究畑で教育 され,研究者として現場に携わる私のような人間と, 実際にその現場で働いて生きておられる方々との間 で,視点を共有することの難しさを痛感しています。 今,ある企業の製品開発・技術開発の部署と私ども の研究室とで一緒になって,チーム活動を活性化し, メンバーのプロアクティブ行動を高めることに取り 組んでいます。6ヶ月にわたる活性化の施策実施の 前後で,測定結果を分析したところ,チームワーク に関する測定値に上昇が見られました。われわれ研 究者は,活動に取り組んだ6チームを対象として, その平均でいかなる変化が見られたのか,つまり, 活動の効果はあったのかに注目しました。しかし, 現場の皆さんは,個々のチームの変化に注目し,こ のチームは,これからはもう自分たちの力で十分に やっていけるんだとか,取り組みの効果がほとんど 見られないチームには,これからどのように対処し ていくことがいいだろうか,ということが気になっ ておられるわけです。なるほど,こんな違いがある のだということに私は気づきました。 アカデミアの人間というのは,方法論的妥当性に こだわります。また,独創的,創造的な研究と言え るのかも気にします。他方,実務の皆さんは,大事 なのは組織業績であって,目標達成に促進的な効果 をもたらす取り組みは何なのかを明らかにしたいと 考えます。経営コンサルタントの方々は,現場の思 いに寄り添いながら,一緒になって問題解決にお役 立ちをしておられるわけです。アカデミアの人間が 一緒に取り組むとき,論文を書くことが念頭にあっ て,現場の問題解決への意識とは距離があることを 痛感しています。 アメリカでお世話になった大学の先生たちは,研 究とコンサルティングをリンクさせながらやってお られました。我々も,研究者としての目標にばかり 拘泥せず,現場の方々との目標共有のために,もっ と意見交換して相互理解を深めることが大事だと感 じています。 指定討論 唐沢かおり氏 東京大学の唐沢と申します。本日は,三名の先生 方のご発表に対するコメンテーターという役割を仰 せつかりました。よろしくお願いいたします。 今回の組織行動というテーマは,多様な可能性を 持つテーマです。パーソナリティ,学習,認知,行 動適応など,さまざまな心理学的に重要なトピック とも関わりますし,実務サイドの要請に心理学者の 研究知見がどのように貢献できるのかという課題も 出てきます。これは,単純に心理学の基礎的知見を 現場に応用するという話ではなく,基礎的な心的過 程に関するモデルと,望ましい組織のあり方の追求 との関係を明らかにすることで,基礎と実践を含む 理論の再構築が求められています。組織行動研究な らではの研究課題設定の独創性や創発性もそこに見 いだせるのではないでしょうか。 本日ご発表いただきました三つの研究は,いずれ もそのような試みであると考えております。以下, 各ご発表に対してコメントや質問事項を述べさせて いただきます。 浦先生は,協調性や誠実さなど私たちが尊ぶもの とは対局の特性が,組織内でどう機能するのかとい う興味深いテーマでお話しいただきました。組織内 での望ましい人物像に関するステレオタイプ的信念 を裏切るお話しでした。一方,ダークパーソナリティ 自体は,自己を冷静に見つめて他者との関係を持つ という望ましい側面を含むようにも思いました。そ の中で,この知見をマネジメントの現場でどう生か すのか,お考えをお伺いしたく存じます。 今城先生は,持論という新たな着眼点を提出され ましたが,学習という心理学の基本的テーマと関わ
ると共に,実務的な有用性も高いご研究だと感じま した。組織行動では,経験をよりよい形で実務に生 かすことが求められますが,その中で,役立つ持論 の特性,それに資する戦略的な環境認知などが明ら かになれば,組織の中で何をどう学んで,どう生か すのかという問いにも示唆が得られると期待してお ります。ただその場合,持論と組織内での適応的行 動との関係が問題になりますし,場面に適切な持論 選択など適応に要求される柔軟性も考える必要があ るかと思います。これらについてお伺いしたく思い ます。 最後に山口先生のご研究ですが,研究成果の実務 貢献という,学術全体における大きな問題を扱って おられるものでした。研究者と現場の動機の差があ る中で,科学的知見の提供を担う立場の責務につい て,考えさせられました。また,現場の知との齟齬 も,その知の成立過程まで踏まえたうえでの対応が, 重要な学術知見につながることも感じました。一方, アカデミアの真の貢献とは一体何なのか,また,現 場における研究者の存在意義,いわゆる「社会的要 請」との関係の取り方が論点として浮かびます。研 究者が「誰に対していかなる責任を負うのか」とい う重い問いも含め,お考えをお伺いできればと思い ます。 後記 唐沢氏のコメントに対して話題提供者がそれぞれ 見解を述べた後,フロアとの質疑応答に移り,研究 者,実務に携わっている会員諸氏から多くの質問を いただいた。それぞれに対して登壇者からの回答が あり,そこからさらに熱心な討論が展開され,予定 時間を超えての充実した研究会となった。 ご登壇いただいた4人の先生方,また活発な議論 の展開に協力いただいた会場の皆さんに感謝申し上 げます。 (角山 剛)