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中学校技術科における学習内容に関する一考察〔3〕
J(技術史の教育構造について〔その1〕 )
木 佐 貫 哲
A Study on the Content of Learning in the Technolozy Subject of the Lower Secondary School. (3)
The Educational Construction of the History of Technique. (Part 1)
Satoshi Kisanuki Ⅰ 序 論 4吋Jt I チ I Ti 本稿は,.先に報告した, ・〔1) 。及び〔2〕に継続するものである。特に本稿では最近この教科 の学習内容として問題視される, 「技術史」に関する学校教育としての教育構造について考察を試 Bsm 現在の学校教育としての中学校技術・家庭科では,教科設定(昭.22)以来の30年間の反省に基 づき,いろいろの改善研究-の努力が講じられている。そ'の主体は教科の本質に関するもの,或い は指導内容,方法に関する_ものなどであるが,その-事項として, 「技術史」に関する学習内容の 教育的必要性が強調される。 従って,本稿では,現在のこれら教科に関する教育研究のなかより, 「技術史」に関する学習の .ありかたについて,その学校教育としての教育構造について論じてみたい。尚,本稿における考察 の過程としては,中学校技術・家庭科教育の本質的立場を中心、に内容構成を試みることにした。 ※ 以下,全文を通じて,中学校技術・家庭科(男子向き)を中学校技術科と略称して記述していくことにす る。
Ⅲ 現代の技術教育と技術史の関連
現代に至るわが国の技術教育の教育構造は,学問体系として自然科学をその専門領域とする学習 の構造化がなされている。即ち, 「物を作る(造る)」 「物(道具・機械)を使う」という観点に おいて学問の主体性を把え,その教育的価値を追究してきた。このことは物的生産に直結する技術 のみを対象とするもので,その内容は現代技術のなかに存在する自然科学として理工学的メカニズ154 中学校技術科における学習内容に関する一考察〔3〕 ム(Mechanism)の学問的追軍としての教育構造となるO.王l I . このよう'な現代の技術教育のありがたに関して,最近∴社会科学的学問の立場として, 「技術 史」的内容の教育構造化が強調されてきた。即ち,現代の技術教育を現代社会における学問的,或 いは教育的要請に対応させる広義なものとして価値づけていこうとするものである。このことは, 1950年後半より今日に至る急激な技術革新的進歩'に当面して・発生する社会的諸現象に対応し,未来 を創造していく技術教育の立場として必然的なものであろう。 現代の技御ま科学・技補という共同体としての立場で思考されていくO従って,現代の技術教育 を愚考するとき,もっとも重要なことは人間(生活)′ と科学・技術との関係を,その変遷,発達の It 一l なかで歴史的に認識させることも含めて教育構造化されるべきであるとするものである。即ち, 技術と科学とは,と'もに人間のつ(I b出した所産であり,-社会的存在としての人尚が如何にして 誕生し,その成長にあたって科学や技術を産み出し,これを合理的ものとして人間生活のなかに有 用化し,そして今日の科学・技術を形成してきたか。このことは,人類発生以来のながい歴史の過 程で,それぞれの社会現象のなかで形成された人類の物的生産-の愚考や創造に対する英知を,現 代技術のなかに生きる現代人として,如何に評価じていくべきか。そして,その先人たちがもたら した努力の成果が,過去-現代-未来という時代的変遷の過程で如何に人間社会に対して貢献し, 考の価値を高めていこうとするのか。このような技術のもつ歴史的背景こそ,現代の技術教育め基 本的滝のとして思考され,内容構成されていかねばならない.このような技術教育こそ,現代人に 対する真の技術教育であり,また将来の技術発展にその教育効果が期待できる技術教育であるとす lるも、のであ・る!。'-' ''蝣'"蝣蝣蝣" - :蝣'一 ''-'蝣' '蝣蝣蝣 ' ' 一 "蝣 .蝣--.蝣蝣 ;蝣 蝣'蝣ォ. このような技術教育に関する教育的思潮はわが国にお、ける技術教育の立場として全然存在しなか ったおわではない。事実,工科系の大学でも, 1940年頃より科目として設定され, 「科学史」或い は「技術史」として専門的学問領域としての体系的研究が求められている.,また一部の職業落(莱 業系)の高等学校でも専門領域に関しての学習の構造化がなされている。然しながら,,実際的教育 、の場面においでは専門的技術内容の、拡大化にともない。その教育内容も増大する関係上,学習時間 などの制約を基因として,単なる形式的存在に過ぎない感がある<y 以上,わが国の技術教育におけ′る技術史との関連は,専門教育以上の教育構造のなかで若干の位 置づけはあるが,学問領域としての体系的立場においては,未だ不十分なものであり,今日の如き 技術革新の急激な時代に当面して,攻めてその重要性が再認識され,教育思潮としての本格的発生 をみるに至ったのである。 り 本来, 「技術史」に関する学問領域を分析するとき,その基本的体系としては自然科学と社会科 学の共同体と心で存在する-(.然して自然科学としての価系は,さらに科学と技術の関係を基点にお ーいで思考されねばならない。即ち,前にも若干述べた如く,科学は生産技術を介して客観的腎黙と 交渉Vi他方,技術はその折有形態を通じて階級的,経済的土台と連ら′なり, Jそこからが反映とし ての思想, 、哲学と関連された璃然科学としての理論体系と実験〔埜産)が位置づけちれるのであ
",1 木 佐 貫 暫 ' 〔研究紀要 第30巻〕 155 るO このような関連を図示すると(図1)のように示される.I (図1) 社会・歴史における自然科学の位置づけ ・i∴ _ 二 ,二 ′ ∴ , ∴ ー∴ I --「 「 「 ・部 追 I 毒… 産I lォj ! l
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自然科学 活動め一形態 理論体系 (法則・カテゴリー) 実験的方法 (目的・手段∴対象) 従って; ・技術の構造は社会的存在である人間のもつ社会的因子と自然科学との関係を基本として 形成されることになる。然して,その発展の過程には常に歴史的変遷があり,生活技術にかゝわる .r技術の歴史としての学問的追究の場が存在するのである。このことは, 「技術史」の教育構造が社 会学と理学との関係で構成されるということにも意味づけられる。然るにtt,現代匿おけるわが国の 学校教育制度においては,専門的学問性にもとづき教科制が確立され,すべて歴史的事項に関する 内容は社会科に挙げる学習領域とされ, 「理学的事項に朗す季内層は理柳.乙お.LJる学習領域と.1/て規 定づけられる。このため「技術史」の学習構造を学校教育のなかに位置づける場合,・その学問的性 魔の確立上,その位置づけをどの教科に置くかで問題が発生するOまた了応いづれかの教科に位置 づけたと仮定心てもq,異質的内容中共同体としての学問埠体系化のため.,教師の指導能力という点 においで,その可酔性には大き.な疑問が中る。r 一方,諸外国における実状については大体次のよ・うな「技術史」に関す旦位置づげを伺い卿るこ とができる。 一世界における「技術史」に関する思潮の発生は, 18世紀における啓蒙愚頓の時期といわれti・学問 灘体系としての確立はドイ'ソのゲッチンゲン大学教野の.ペックアンの「発明史」 (1780^1805)が 最初であるとされる。彼の, 「技術学を教えるには,技術の歴史が必要である」という愚卿札.そ の節子のポッペの「技術史」へと継承されていくのである。然レて, 「技術史」に関する周潮は, ドイツにおいて伝統的に継承され,学問体系化されて今日に至る。f従って,今日のドイツにおけ る, 「技術史」に関する教育の構造は,一応充実した形の.ものとして学校教育の中略構成されてい る。156 中学校技術科における学習内容に関する一考察〔3〕 ソ連においては, 1929年の第1次5ケ年計画のなかで, 「将来,技術者になるものに対し, 「技 術史」を必須科目として規定する」とし,殆んど全ての国民に学習の義務を課している。その教育 構造は,ヘッセン論文「ニュートンのプリンキビアの社会的,および経済的根拠」 (1931)を基点 として,学校教育の中で構成されるに至っている。 米国においては,スプートニク,ショックC1957年)以来,従来の技術教育に関する教育構造を 改善し,新たに, 「科学史」 「技術史」-の教育内容を導入した教育構造にある. その他,英国においても, 「産業考古学」運動の一環としての「技術史」学習の構造化を追究し ている。 ● また以上の国々における,もっとも問題視される, 「技術史」の学校教育における学習形態を求 めてみる場合,次のような実状にある。 米国においては,国民教育としての10-12年間において,技術教育としてのインダストリアル・ アーツ(Industrial Arts)の過程で,その教育目標第1項に, 「テクノロジーの起源・発達・進歩と,その技術的・社会経済的・職業的・文化的な本質と影響 を理解させる」 として,技術教育の教育構造についての構成をなしている。 す※ 一部の州では,インダストリアル・ア-ツに代るものとして,プラクチカル・ア「ツ(Practjcal Arts) として設定している。 ドイツにおいては,第2次大戦後,東西両ドイツとして分割独立しているため,それぞれの内容 について述べることにする。 (東ドイツ) 東ドイツの教育の展開は, 1965年の「統一的社会主義教育制度に関する法律」の制定に基づ き,数学の自然科学の教授および総合技術教育,公民教育の改善,全教科の水準を高めること。 マルクス・レーニン主義の原則の全教育制度申-の実現を教育の目標とし,強力に科学と社会生 活に適応するための教育構造-の努力が何れる。そのような視点において, 「技術史」に関す る学校教育での教育内容は,重要な学問領域として,国民教育である,オーベルッシューレ (Arbeitschle)のなかにその教育構造を構成している。 (西ドイツ) 、西ドイツの教育の構造は,連邦制政治に基づくため,連邦,或いは州毎による自治的教育制度 が存在する。それぞれの地域で若干の違いはあるが,西ベルリン,ハンブルグ,ブレーメンの都 市州についてみると次のようである。即ち, 基礎学校4年終了後に3系列の教育制度を設け,その中で, 6年制としての,レアルシュー レ(Realschule)と, 5年制としての,ハウプトシューレ(Hauptschule)の2系列につい て技術教育に関する教育構造化を構成している。特に,ハウプトシューレは,実務コース (Rraktischer Zweig)としての内容構成を構成し,その中での, 「技術教育の基本領域」第4
木 佐 貫 暫 〔研究紀要 第30巻〕 157 項に「技術史」に関する教育構造を構成している。 ソ連においては,その教育史に基づく時,現代のありかたは,社会主義革命後の教育の3つの発 展段階(第1期, 1917-29年。第2期, 1930-58年。第3期, 1959年以降)の最後の第3期に相 当する。従って,その教育構造は, 「共産主義社会の建設ならびに科学,技術革新に対応した新た な学校建設」を目標として構成されている。その主体は総合技術教育として,その中でも技術教育 は重要な位置づけをなす。特に問題視すべき「技術史」に関する学習上の明確な教育構造の具体性 はないが, 「労働教育」を学校教育の基盤とする立場において,国民教育としての「総合技術教 育」 (10年制)全般の中で教育構造が構成されていることが伺える。 イギリスに率いては,伝統性を尊重する国のありかたにおいて,技術教育の教育構造は伝統的工 芸技術の伝承という教育思潮に基いて,諸外国とは若干の違いがある。従って,その内容も美術・ 工芸的思考に基づくような技術教育としての教育構造を構成している。そのため, 「技術史」とし ての教育構造は現時点では明確でない。 以上の如く,諸外国における「技術史」に関する学問的体系づけ,ならびに学校教育としての具 体的教育構造について述べたが,これらの内容が示すように各国における技術教育は, 「技術史」 をその教育内容として,すでに教育構造化していることにより,わが国の技術教育より広い学問領 域古手立つものといわぬばなら,ない.従って,今日のわが国における「技術史」導入への思潮の発生 も当然というべきだろう。 Ⅲ わが国の学校教育における技術史学習の教育構造 Ⅰの項で述べた如く,最近わが国でも, 「技術史」学習に関する教育構造化-の思潮が高まって いるが,この根源は諸外国における,これら教育に関する実状の影響もさることながら,もう一つ の側面として, 1960年以降の急激な技術革新に対応する現代の技術教育としての教育構造に対す る,わが国自体の教育的要請がある。そして,その教育的対象としては,現代人としての技術的活 用能力養成の基本的内容として,すべての国民に必要な教育的事項であるとしている。 (註1)技術的活用能力の発展的方向 (技術的活用能力) o有用な問題を兄い出す o具体的に処理できる形とする o計画を立て着実に処理する (問題発見) (問題形成) (問題解決) (発展する) 合理的実践カー - o変化に広く適応する技術的能カ ーo新技術創造への基礎的能力 - 。総合的利用-の技術的能力
158 中学校技術科における学習内容に関する一考察〔3〕 従って,そのためには当然義務教育課程での教育構造化としての位置づけがなされることにな る,即ち, l 義務教育とは,すべての国民が現在および将来の国民生活を最高度に発展せしむる意味におい て,その基本的態度を育成するために必要とされる学問領域の基礎的内容を国民全般の教養として 平等に求めさせようとするものである。従って,要求されるべき学問領域の基礎的内容とは,常に 人間と社会との関係において,その中に存在するあらゆる事項を科学的に,、かう発展的に価値づけ ていくものでなくてはならない。 -以上の如き義務教育としての教育的性格と目標に基いて,技術教育との関連を愚考するとき,覗 代技術に対応する国民全員の技術的活用能力の確立という 目的において,この学習段階における 「技術史」の教育構造化は,もっとも効果性の期待できるものであろう。 ` 従って,このような観点に基づきその教育構造を義務教育課程の中に求めようとずる場合, Ⅰ項 でも若干述べた如き問題点が指摘される。このことは「技術史」のもつ専門的学問領域からして当 然である。 ′ I l 現代わが国の学校教育制度では,すべて歴史に関する内容は社会科学としての歴史学の領域とさ れる.従って,義務教育では社会科における学習領域として教育構造化されることはなる。¥これら、 の点は関連して,現行の社会科教育におけ-る「技術史」に関する学習内容の教育構造化を具体的に 求めてみると,次の如く示される。 / (小学校課程) 小学校の場合は,専門領域に基づく分野別の教育構造が構成されていないため,地理学,あるい は歴史学の学習領域の庫で,.ノ生徒の身近な生活事象の中で教材を選定し教育構造を構成している0 即ち,現代の社会生活において,生徒が当面する生活環境.,生活経験の中で感受し,体験する現実 的事象について,人間と技術の変遷などの歴史的考察を基点として教育碍準を構成している,従っヽ I て,その内容は政治・経済・文化などとの関連を学習の基本としている。・特匿その中で注目す、べき ことは,第6学年の教育目標(1)において, 「国家・社会の発展に貢献した先人の業績や優れた文化遺産についての関心、と理解を深め,わが 国の歴史や伝統を大切にしょうとする態度を養う」 という目標項目の明記は,その学習の過程において, 「技術史」に関する内容-ゐ学問的体系化 が求められていることが何れる。 ( (中学校課程) 中学校の場合は,社会科の学問領域として学習内容を明確化することにより,地理,歴史,公民 の各分野について内容の構成をなしている。従って「技術史」に関する教育構造は,歴史学習領域 の中で構成される。内容的には,小学硬課程における内容より発展した歴史学としての専門的学問 体系により教育の構造化がなさ47,る。特に,歴史の分野における教育目標(2)として 「歴史における各時代の特色と時代の移り変りを,地理的条件にも関心を持たせながら理解させ
木 佐 貫 暫 〔研究紀要 第30巻〕 159 るとともに∴各時代が今日の社会生活に及している影響を考えさせる」 としている。また同じく(3)として 丁国家、・社会,および文化の発展や人々の生活の向上に尽した先人の業績を学ばせるとともーに, 現在に伝わる文化遺産を,その時代や地域との関連において理解させ,それを愛護し,尊重する態 度を養う」工 などの教育構造-の基本的方向を示しているが,これらの学習内容として「技術史」時関する㍉教 育の構成も含めているものと愚れる.然しながら,義務教育としてのこれらの学習のありかたに ち;歴史教育としての教育的制約がある。即ち,人間における活動力の結果としての技術の発展 を∴社会科の教育構造としての政治,′経済,文化を主体とする学閥的思考として学習展開していく とき,単にそれらの事象と関連づけた人間生活-の主要な出来事としてのみ,生徒たちに理解づけ てよいものかという疑問の発生である。確かに普通の意味での_歴史学の立場で,人間の持っ歴史的 事象として,それらの関連づけて思考させることは必要なことではあるが,その背景をなす技術の 持っ自然科学的学問領域との関連を思考していく場合,社会科学としての専門的学問領域として は,その性格上全く異質的内容のもめであり,その教育構造上の困難は大きいことが予想される。 以上の如き学校教育としての社会科の立場も含め,社会科教育における日本社会科学教育学会で は「改訂,初等社会科の基礎研究」としての論文の中で,小学校社会科の教育構造に関しての研究 報告を示しているが,その中で「技術史」の教育構造について, 「技術とは,人間が社会や自然に接するところに積み重ねられる経験を,他人とも,次代のもの にも伝えられるように整えたものである・。社会科が外界としての社会をとらえている技能や態度を 身につけることを目的とするならば,当然,この技術の習得もその重要な内容をなしている。社会 料では,こうした性格を持っ技術を,まず生活経験の中でみつける。そして生活の知恵としてとり あげ/I.さらにいろいろな社会事象にぶつかるごとに,そこで先祖の人々がとらえていった技術を, 子ども自らに追体験させることによって,身につけさせようとする。これにはもちろん,その技術 が今日までつみ上げてきた,今日的体系と理論と,それが獲得されていった歴史的状況についての 歴史学,民族学的な知識が必要になってくる。技術史研究は,こういう観点から組みなおされはじ めたばかりである。 --・ (以下消略)」 として小学校社会科学習のありかたを、明示している。特に「技術史」に関する教育構造への-忠 考と.して, 「追体験させることによって」或いは, 「その技術が今日までつみ上げてきた今日的 体系と理論と・-・-」という点を述へている。このことは, ・現代における学校教育としての「技術 史」に関する教育構造が,その学問的,或いは教育的目的からしても単に.,社会科学としての歴史 学のもつ学問領域だけで構成されるべきでなく,実際に体験する中で思考させる自然科学としての 技術的理論も含め,実感としての人間の技術の歴史を体得していくべきであることを示している。 従って,このような思潮は,中学校教育の立場においても同様であり, Ⅰ項で述べた自然科学的立 場とも相共通するものである。
160 中学校技術科における学習内容に関する一考察⊂3〕 従って,このような「技術史」に関する教育構造は,実践的技術を学問領域とする技術教育と人 間社会における歴史的事象を学問領域とする社会科教育との関連によって,その可能性を兄い出す ことになり,義務教育課程では,その可能性-もっとも容易とされる中学校技術・家庭科の教育構 造へそれを求めま一うとするものである。 たしかに, 「技術史」としての学問領域において,現代の社会科学としての歴史の内容をとらえ る場合,歴史学としては全く意味づけちれない人間集団や時代に関する事象でち,技術の歴史とし ては大きな意味を持つ場合がある。従って,技術の発展には独自の年代表があり,独自の興表の繁 栄や衰退の時代がある。これらの事象や時代に当面した人々の思考や創造の過程を,社会科におけ る歴史学習の発展の過程として補ないながら,実践学習の中に教育構造化することが,技術・家庭 科における「技術史」学習-の位置づけとなろう。 (註2) 「技術史」における自然科学と社会科学の関連。 天文12年 年)種子島へ鉄砲伝来
Ⅳ 中学校技術・家庭科における「技術史」学習の具体性
義務教育としての「技術史」の教育構造を中学校技術・家庭科の学習内容として構成することを 妥当とする思潮に対し,その可能性と教育的値価を確立するための該当教科としての具体的ありか たについて考察を加えると次の如くなる。. 先づ,教科自体における「技術史」教育構造の基本的ものとしての必要性については,′この教科 に関する白.主研究団体としての産業教育連盟が数年来,その必要性を強調している。また,鹿児島 県でも,あらゆる研究会や研究団体の中で,その必要性についての意見が頻繁に発生している。そ-の一例についてみると∴技術教育を担当する教師の学問的教養としての立場と生徒に対する技術学 習上の内容としての立場からその必要性を強調している。その要旨の主なるものは,先づ,この教 科を担当する教師の立場として,その教科の専門知識の中に「技術史」に関する内容を,教師の専 門的教養として持つことは絶対に必要であるとし,現代の技術教育の学習のありかたとして,自然 科学の知識だけではその技術のもつ全貌を明かにすることはできない.科学・技術は生きており, 常に変遷・発展している。従って,現代の技術は過去の技術も加えての技術教育-の理解がなされ るべきであり,そのような教育構造に対応する教師として不可欠の要素であるとしている。また生 徒に対する学習内容としての立場として,現行の指導要領に基づく学習内容としての題材は,現代木 佐 層 哲 〔研究紀要 第30巻〕 161 技術に関する基礎的・基本的ものであり,その理解づけの学習の過程としては,すべての点で「技 術史」に関する指導事項の必要性が生ずるとし,教科の本質的にも当然その必要性が存在するとし ている。また生徒の知的発達段階の過程よりしても,興味・関心の面よりしても,その教育構造は 十分に構成できる可能性を有するとしている。従って,結論的には現代の技術教育を学習する′'もの にとって, 「技術史」を知るとと自体,何も教師だけのものではなく,生徒にとっても教育的に有 意義なことであるとしている1.そして,むしろ,中学校技術・家庭科の教育構造としては, 、∵各領 域,各題材の中に「技術史」の内容を導入し学習せしむることであり,このことは決して時間の無 駄ではないと述べている。 以上の点に関して,その可能性を更に明確にするための関連資料として;著者が実施した「技術 史」学習に対する生徒の意識調査の結果を参考的に示めすと次の如くなる。尚調査に際しては,学 校教育としての特種性を考慮して,当学部附属中学校のほかに公立学校(鹿児島市清水中学校)、一 校について実施したものである。調査の結果としては,両学校を通じて,学年に関係なく, 「妓術 史」希望への高い数値を示し「どうでもよい」という立場の数値も加えると,その殆んどを占める ことになる。従って,このことより,義務教育としての中学校技術・家庭科における, 「技術史」 ヽ の教育構造は,教科としての教師の立場,生徒の立場,両面において可能性を有することになる。 またこのことはⅡ項で示した諸外国の事情とも,ほゞ同様卑教育構造として通づることになる。 (表Ⅰ) 中学校技術科の学習内容に対する「技術史」の必要性について。 2 年! 3 年 附属中学校 ◎ 46 0 42 × 12 公一立 学 校 ◎ 48
;杏
35 18 ◎-・必要 0-どうでもよい × -不必要 (註) o数値は%を示す。 o調査日 昭和53年2月 0第1学年については,教科内容に対する理解不十分のた め調査対象より,除外した。 t次に学校教育としての実際的教育構造の具体性について考察を試みることにする.▲ -このことに関して,産業教育連盟の小池氏は,その基本的立場を次の如く述べている。 即ち,教育構造のための3つの側面として ① 現在,とりあげている学習をもっと子どもたちに学習しやすいものにするための方法として, それに関する技術の発達の歴史を確かめ,その教材の内容や展開の方法を工夫・改善する側面. ⑨ 「技術」とはどのようなものかを子どもたちに理解させるための側面。 「技術」,を理解する出発点は,人と労働のはじまりにある.人間.の歴史における初期の時代の 人間生活と労働。それをなしとげるための手段(労働手段)に関する理解は,・そのまゝ今日の技 術を理解する基本的ものを認識させるのに効果的である。中学校技術科における学習内容に関する一考察〔3〕 ⑨ 「技術」と「社会」とが相互にどのような作用関係をもつものかについての認識を育てる側面。 子どもたちは「技術」が発達すると世の中が,ますます便利になるくらいしか理解されていな いことが普通であrる。 「技術」が社会を変えたり,.社会的要求か.ら「技術」が発達したりするな どする相互のかゝわりは, ■教師が意図的に取り上げなければ現行の技術・家庭科教育の範囲だけ では,とても子どもたちに自然に育つものではない。 「技術」に関する学習を労働手段や自然科 .学的側面から間噂にするだけでなく, 「技術」がもつ社会的,経済的側面から認識できる指導も 欠かせないものである。 としている。 以上,述べられた如き, 「技術」の歴史的観点に基づく側面を考慮して構成される教育構造への ありかたは,義務教育という国民全般を対象とする技術教育として,当然重視されねばならない。 然し,学校教育として具体的に教育構造化していく過程においては,さらに,次の如き点を考慮し て計画,実施していくことが必要であり,また担当教育者としてのそれらに関する内容的研究が必 要とされる。 ① 「技術」の歴史,一特にその発達,変遷の歴史的内容を現代の子どもたちが当面する身近な生活 技術への実践の過程の中で,正しい歴史的思考として把握できるための,教師の専門性としての 態度の確立が必要である。従来,科学・技術という観念に基づき理科教師との内容交換の場は多 く見られるが,歴史学としての学問の立場で愚考するとき,科学史は文献を主とする傾向にある が,技術史の場合は人間と技術との関連における具体的労働手段というものの保存という点が必 要であり,この意味において, 「技術史」の教育構造のためには,今後,今迄の理科との学問的 関連の外に,更に加えて社会科教師との内容交換を含めての関連を密にし, 「技術史」としての 教育内容に対する学問的理解を十分深めていく態度の確立が要求される。 ④ ①に関連する事項として,学校教育としての実践学習の中でさらに必要なことは,技術・家庭 科の教材と「技術史」学習の効果的結び付きである。技術・家庭科の教育的性格としての体験学 習に対しての「技術史」学習の効果的結び付きである。技術・家庭科の教育的性格としての体験 学習に対しての「技術史」学習の効果性を期待するための適切な教材の選定,理解度を確実にす るための諸資、料に関する事前の調査,準備などに対する教師活動の拡大などに十分対応で.きる態 度の確立が要求される。このてとは①で述べた如く,理科・社会科との共同研究は勿論である が, 「技術」という立場においても独自の愚考と創造で内容的研究の場を追究していくことも大 いに必要である。 以上の如き,中学校技術・家庭科での「技術史」導入の教育構造に対応する基本的態度を基点と して,現行の教科の教育構造-の位置づげについて具体的に考察してみることにする。 現行の中学校技術科の教育構造は,次の, (図2)で示すように,生徒たちの生活経験の中で体 験する技術的活動を基点として,現代における生産技術との関連を追究しょうとするものである。 従って,その学習の過程は(図2)に示す如き現代の生産技術の代表的ものについてのその基礎
木 佐 貫 暫 (図2) 現行の中学校技術科の教育構造 〔研究紀要 第30巻〕 163 したら、うまくできるか What?(fPj7&サ) Why?(fsjfeか)卜Hよvtodo-?ぅした乞 使えるか 的,あるいは基本的内容を理論と実践の学問的体系づけのもとにその構造化を求め,それらの内容 への理解を深めることにより,教科の目標-到達せしめようとするものである。従って,その教育 構造は学問的には自然科学的立場にあり,教科としては理学的内容を基点とする理科との関連が大 きい。たゞ,その中で各領域の最終的学習の段階で, 「人間生活との関係」として若干の社会科学 的学問の場が設定されているが,その教育内容は,それぞれの領域で学び得た技術の内容を実生活 に対応させる中で如何に効果的に利用させるかについてのものである。従って, 「技術史」に関す る内容は現行の教育構造としては,殆んど構成されておらない状態にある。 以上の如き,現行の技術科の教育構造の中に「技術史」に関する内容を構成する場令,その位置 づけを,技術科教育における加工学習領域を事例として示めすと次の表(図3)の如くなる。従っ て, 「生活との関係」における内容と関連づけられ,社会科学的学習の場が,内容的に拡大される ことになる。 また,この(図3)に示す事例の内容を, 「技術史」的思考に基いて教育的に構造化すると,・次 の(図4)のように示すことができる.即ち,現行の教育構造, ④は現代技術,若しくは1.それに 近い内容をもって教育の構造化が構成され,その教育目標, ⑥は, ④と同じ内容を執心として,l将 来の技術を思考し,創造しながら達成されていくことになる。このようなありかたに対して,過去
●中学校技術科における学習内容に関する一考察⊂3〕 (図3) 中学校技術科における加工学習領域の 教育構造 工技術 (自然科学の領域) (図4 ) 中学校技術科における「技術史」的思考を申し、と する教育構造 ー ( 技 術 の 発 達 ) (紘) ◎二一碧空禁教育構造 ∴-教育目標 // ⑧-叔術史 的内容 の技術から現代技術に至る,下技術史」 ⑧の内容を加えた丁④+⑪」の教育構造が今後の技術教育と して,教育目標を達成していくこと把なる. 次に, (図3) (図4.)の内容を中学校技術科の教育構造として体系的に思考し,その位置づけ を求めてみると,次の(図5)のように位置づけられるこ.とにな.り,、教育構造としての一応の明確 な根拠に基づく「技術史」の位置づけが確立される。 次に,以上のよう,な教育構造を学校教育として.の実際的指導計画とL/て構成していく場合に孝封す る具体的問題点に関して考察を試みる之と笹する. ・基本的には, (図.5)で示すように認識系に位置置づけられる。またそのための知識構成として は下層(深層)部での教育構造化が,義務教育における技術教育内容としては適切であり,敏師の
木 佐 貫 暫 〔研究紀要 第30巻〕 165 (図5 ) 中学校技術科の教育構造における「技術史」の 学習過程として構成 学 習 系 へ の 位置づけ 知 識 ( 認 識 ) 構 成 への位置づけ 令 指導能力的な面からも可能性が高いと思れる。然しながら下層部的内容に関する指導事項は学習の 過程には数多く存在する。従って,それらの事項との関連において, 「技術史」の内容を「如何な る位置づけのもとに,如何なる範囲で,如何なる方法や指導するか」の学習に当面する教師として の事前研究が重要祝される。それらに関する考えかたとして,原・佐々木の両氏の説を資料として 検討してみると, 第1の方法として,特定,あるいは領域の冒頭に,その単元の導入として1時間ないし数時間, 「技術史」に関する学習をとり入れる方法である。このことは,これから学習しょうとする内容に 対して生徒の・興味を喚起し,あわせて単元全体についてのおゝまかな展望を与えることができない という利点カチある。然し,それぞれの指導事項毎に関しての具体的内容との関係ができない点で問 題になりそうである。 ' 第2の方法として,特定の単元または領域の学習の最後の,いわゆる「まとめ」の段階に「技術 史」の形態を取り入れる方法である。現行の教育構造では,前にも述べたように「技術と生活」と の関係を,各学習領域における学習のまとめとして構成していることから,学習方法としては有力 な形態と思われる。導入の場合と違い,既知の事項を駆使して歴史的な位置づけを明確にできるこ とでは利点があるが,悪くすると,技術科としての実践的場面との遊離的現象を生じ,単なる講義
166 L中学校技術科における学習内容に関する一考察〔3〕 形式の学習となり易い。 第3の方法として, 「技術史」の重要性を強調する立場として, 10-20時間のかなりのまとまっ た時間をかけて,或る題材を中心課題として,長時間継続的に学習していく方法である。この形態 は,まとめて長時間の学習形態をとるため,生徒としては一貫した歴史的発展というイメージを形 成することでは,一つの容易な方法である。然し,第2の場合と同じように,技術科教育の特色で ある実践学習内容と遊離しがちな傾向にあることから,一応問題視される。 第4の方法として,各学習領域の学習過程で取り扱う個々の指導事項について,その都度「技術 史」的内容を関連づけていく方法である。即ち,単元の途中設定ということになる。この形態は歴 史像としての一貫性という視点においては,やゝ不満足の感があるが,然しながら,適切な個所で 学習形態が構成できるということで,生徒のイメ-ジは第2第3の方法に比して,技術科の実践学 (図6) 「技術史」を導入した中学校技術科の教育構造 認 識 系
C >' 木 佐 貫 暫 〔研究紀要 第30巻〕 167 習に結結できることで,内容的には鮮明になることが予想される。 以上の,学校教育における中学校技術科としての「技術史」に関する教育構造の学習過程におけ る具体性について,産業教育連盟の小池氏は年特定時間だけにポッンと「技術史」的内容を取り上 げるのでなく, 1 学年の3ヶ年において,これだけは子どもたちに認識させたいとするものを 明確化し,それを個史の具体的学習活動の中に小だLにしみ込ませながら,目的を達成することが 効果的である勺 としている,従って,この思考は,前述の方法としては,第4の方法に類するもの と思れる。 また,その他の諸研究団体の結論としても,その可能性と効果性において,第4の方法が一番妥 当であるという愚考がその殆んどを占めている.確かに,中学校技術科の性格,目標はおいて,そ の教科性を確立する教育構造のありかたとしては, (図2)に示すような学問体系にあることよ り,また教師の専門性という指導能力の限界おいて,第4の方法が,もっともその可能性を決定づ ける方法ではなかろうか。従って,現代教育の技術教育における「技術史」導入の思潮は,義務教 育では中学校技術科の立場として(図6)のように教育の構造化が求められていくことになる。 V 結 論 最近,自然科学を主体とするわが国の技術教育の教育構造に,社会科学的領域としての「技術 史」導入への教育的思潮の発生が見られる。これら思潮の発生は,現代技術を理解するための基本 的立場において,また世界の先進諸国の技術教育に関する教育構造の実状からしても当然といわね ばならない。 「技術史」の教育構造は専門教育としては当然であるが,現代技術に対応する人間生活の基本的 内容として,特に全国民を対象とする義務教育において要求される。その構成は, 「技術史」のも つ学問的体系に基づき,わが国の学校教育では,教科性において,中学校技術・家庭科が妥当であ ると考えられる。 中学校技術・家庭科としての実際的指導計画としては,学習過程に対応する一般的方法として4 項目が考えられるが,教科学習としての主体性,ならびに教師の「技術史」に関する指導能力など を基点として,学習過程における個々の指導事項に関連づけ,その内客の要求する教育価値に対応 して教育構造を構成していくことが,もっとも効果的であると思れる。即ち,具体的には,実践的 内容の前提としての理論学習として,題材に関する技術史的認識を形成し,実践の中で更に体験的 に感受せしめることになる。 従って,以上の如き,中学校技術・家庭科の教育構造の可能性を高めるためには,従来おこなわ れてきている理科教育との関連と同様に社会科教育との関連を深めていく必要がある。然して,礼 会科教育における歴史的内容を技術教育としての技術的学習事項に応して如何に構成していくか, このためには社会科教育としての専門的援助を借りる必要が多分にあると思れる。
中学校技術科における学習内容に関する一考察〔3〕 以上,本稿では「技術史」の学校教育としての教育構造について,その思潮発生の根拠i ならび にその具体性についての基本的内客について考察を試みたものである。従ってこれらの内容の学校 教育における実際的場面では,未だ多くの問題点が指摘されることが予想′される。これらの具体的 事項に関しては,実証的結果をふまえて,次の機会に述べることにしたい。 〔参考文献〕 1)原正敏・佐々木掌編 も技術科教育法≒ 1972年 学文社 2)清原道寿・北沢競著 も中学校技術教育法も・ 1971年 国土社 3)山崎俊雄・大沼正則他共著 も科学技術史概論勺 1978年 オーム社 4)岩淵悦太郎・河野重男他監修 th新学習指導要衝の解説と展開(小学校)勺 1978年 教育出版社 5) も新学習指導要韻の解説と展開(中学校)勺 1978年 教育出版社 6)産業教育研究連盟編 も技術教育モ 1970年3月号 国土社 7 ). 1975年5月号 ′'/ 8)平塚益徳監修 も世界教育事典勺 1972年 矧詞地方行政学会 9)平塚益徳・沢田慶輔他編集 も教育事典も 1973年 小学館 10)日本社会科教育学会編 も改訂,初等社会科の基礎研究勺 1977年 鳳文堂