• 検索結果がありません。

歩容変化を考慮した歩行運動における運動強度推定式の作成

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "歩容変化を考慮した歩行運動における運動強度推定式の作成"

Copied!
73
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

歩容変化を考慮した歩行運動における運動強度推定

式の作成

著者

藤原 誠助

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第17248号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00120414

(2)

東北大学大学院医工学研究科

博 士 論 文

博士(医工学)

歩容変化を考慮した

歩行運動における運動強度推定式の作成

藤 原 誠 助

2016 年 9 月

(3)

修了年度 2016 年度 課程 博士課程後期 3 年の課程 英文 Abstract

Title: Step length consideration improves the evaluation of exercise intensity during treadmill walking

Author: Seisuke FUJIWARA Supervisor: Ryoichi NAGATOMI

The metabolic equivalents (METs) estimation with the change of various gait parameters (walking velocity, step rate, step length) is not established. The purposes of this study were to investigate how METs fluctuates with gait parameters and make the METs estimate expression in the gait in consideration gait parameters. Before estimating the METs, we confirmed the gait parameters change in the walking with imposed step rate and step length, and considered whether the length of the step length changed under the influence of precedent movement at the time of the walking with imposed step length. As a result, gait parameters varied according to how to give instructions at the time of the gait and length of the step length doesn’t come under an influence by the precedent movement at the time of the walking with imposed step length.

Subsequently, we measured the oxygen intake in the gait that changed gait parameters variously and calculated METs. As a result, on the condition to change a step rate and step length at a constant walking speed, the equation of regression that the precision was higher in an estimate by step rate and step length than the estimate only by a walking velocity was provided. The most suitable METs estimated type was as follows in gait in daily life provided than this study.

METs = 1.16 × 10−4SR2− 7.33SL + 9.41SL2+ 2.66 (R2= 0.70) (SR: Step Rate, SL: Step Length)

和文アブストラクト 論文題目: 歩容変化を考慮した歩行運動における運動強度推定式の作成 提出者氏名: 藤原 誠助 指導教員: 永富 良一 様々な歩容(歩行速度,歩行率,歩幅)変化に伴う運動強度(METs)の推定式は確立されていない. 本研究では歩容変化に伴い運動強度がどのように変動するのかを調べ,歩容変化を考慮した歩行運 動における運動強度推定式を作成することを目的とした. 運動強度の推定を行う前に,歩行率・歩幅統制条件における歩容変化の確認と,歩幅統制条件時に 先行動作の影響で歩幅の大きさが変動するのか検討を行った.その結果,歩容は歩行時の指示の与 え方によって異なることと,歩幅統制時の歩幅の大きさは先行動作による影響を受けないことを確 認した. 続いて,様々に歩容を変化させた時の歩行運動における酸素摂取量を測定し運動強度を算出した. その結果,一定の歩行速度で歩行率・歩幅を変化させる条件では,歩行率と歩幅による推定が歩行 速度のみによる推定よりも精度の高い回帰式が得られた.本研究より得られた日常生活での歩行運 動において最適な運動強度推定式は,以下の通りとなった. METs = 1.16 × 10−4SR2− 7.33SL + 9.41SL2+ 2.66 (R2= 0.70) (SR:歩行率,SL:歩幅)

(4)

目次

第1章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1-1 研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1-2 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 第2章 意図的な歩行率・歩幅変化による歩容の変動・・・・・・・・・・・・・11 2-1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2-2 データ算出手法の妥当性検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2-2-1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2-2-2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2-2-3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 2-2-4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 2-2-5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2-3 歩行率統制条件における歩容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2-3-1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2-3-2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 2-3-3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2-3-4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2-3-5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2-4 歩幅統制条件における歩容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2-4-1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2-4-2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2-4-3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2-4-4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 2-4-5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 2-5 歩幅統制時の歩行順序による先行動作の影響・・・・・・・・・・・・23 2-5-1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 2-5-2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 2-5-3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 2-5-4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

(5)

2-5-5 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 2-6 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 第3章 歩容変化に伴う運動強度推定式の作成・・・・・・・・・・・・・・・・28 3-1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 3-2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 3-3 被験者特性および測定データ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 3-3-1 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 3-3-2 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 3-4 自由歩行における歩容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 3-4-1 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 3-4-2 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 3-5 歩行条件毎の METs・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 3-5-1 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 3-5-2 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 3-6 自由歩行と ASL 条件における運動強度推定式の比較・・・・・・・・・41 3-6-1 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 3-6-2 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 3-7 運動強度推定式の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 3-7-1 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 3-7-2 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 3-8 本研究の限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 3-9 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 第4章 結言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 研究業績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67

(6)

- 1 -

第1章 序論

1-1 研究背景

運動不足による NCD WHO(世界保健機関)は,不健康な食事や運動不足,喫煙,過度の飲酒など,生活 習慣の改善により予防可能な疾患である心血管疾患,がん,糖尿病,慢性呼吸器疾患な どをまとめて,非感染性疾患(Non-communicable disease : NCD)としている.運動不足 に起因する NCD による死亡数は年々増加しており,2008 年は世界で 530 万人を超えて いる1).運動不足の割合を世界で 10-25%減らすことができれば年間の死者数は 53 万-130 万人減少し,世界の平均余命は 0.68 年延びると試算されている1).我が国では,身体活 動・運動の不足は喫煙,高血圧に次いで NCD による死亡の 3 番目の危険因子であるこ とが,日本人を対象に実施された前向きコホート研究のメタ解析で示唆されている 2) 日本人の運動不足が影響し死亡率が高まっている疾患について人口に対する割合は,冠 動脈性心疾患は 10.0%,2 型糖尿病は 12.3%,乳がんは 16.1%,結腸がんは 17.8%と報告 されている1).また,運動は高齢者における認知機能や運動器機能などの生活機能低下 を抑制することも明らかとなってきている3) NCD と身体活動量の関係 NCD の危険性は,身体活動量(METs・時)の増加に従って低下する4).身体活動量 とは,「運動強度」×「運動を行った時間」の合計であり,身体活動量に含まれる運動強 度を表す単位には,METs(Metabolic equivalents)を用いる5).運動強度は,身体活動の 強さを座位安静時の何倍の代謝に相当するかを表す指標であり,座位安静時の運動強度 は 1 METs で表される.座位安静時の身体のエネルギー代謝は,単位時間当たりの酸素 摂取量で約 3.5 ml/kg/min に相当するとされており6),運動強度は運動時の酸素摂取量を 座位安静時の酸素摂取量で割った値で求められる. 運動強度 (METs) = 運動時のV̇O2⁄3.5 … (1-1) ここで,V.O2は単位時間当たりの酸素摂取量(ml/kg/min)である.また,単位時間当た りのエネルギー消費量(EE)(kcal/kg/min)は酸素摂取量と比例関係にある7) EE = 3.9 × V̇O2+ 1.1 × V̇CO2 … (1-2) ここで,V.CO2は単位時間当たりの二酸化炭素排出量(ml//kg/min)である.つまり運動 強度の大きさは,単位時間当たりに換算したエネルギー消費量や酸素摂取量に比例して 変動する.

(7)

- 2 - 歩行やランニングなどの日常生活活動における運動強度の強さは,Ainsworth et al. 6, 8, 9) によりまとめられている.先行研究においては,生活習慣における運動強度の違いが NCD や死亡率とどのように関係するのかについて調べられている.Paffenbarger et al. 10) は,4.5 METs 以上の中等度のスポーツ活動を実施することは,他のリスクファクター (喫煙,血圧,肥満)の影響を調整してもなお,全死亡および虚血性心疾患による死亡 の低下と関係していることを明らかにしている.Lee et al. 11)は,13,485 人の中年男性(平 均 57.5±8.9 歳)を対象に 25 年間に渡る追跡調査を行い,日常生活およびレクリエーシ ョン活動における運動頻度(時間/週,週/時間)から 1 週間当たりの総エネルギー消 費量(活動量)を調べている.その結果,中強度運動(4 < 6 METs)あるいは高強度運 動(> 6 METs)による運動習慣は死亡率と有意な負の相関関係が認められたが,低強度 の運動(< 4 METs)では認められなかったと報告している.また,中強度運動よりも高 強度運動でより強い負の相関関係が認められた.これらの結果をもとに,運動強度の強 さは低強度(<3 METs),中強度(3≦6 METs),高強度(≦6 METs)に大別されている

12) . 身体活動量を決めるもう一つの要因である活動時間についての検討も行われている. Iversen et al. 13)は生活習慣における身体活動時間と死亡との関連について検討した結果, 身体活動が少ない者(週 15 時間未満)は死亡リスクが高かったことを報告している. また,喫煙,飲酒,BMI,身体活動に関する 4 つ全ての生活習慣リスクを保有する者の 人口寄与危険度は 59%(31-78)であったとしている. 身体活動量の増加は,疾病を患ってからでも循環器疾患の発症,死亡率の低下に効果 が認められたという報告もある.Wannamethee et al. 14)は,冠動脈疾患を持つ男性は毎日 の通勤や家事で 40 分程度歩く,休日に活動的なレクリエーション活動を 4 時間ほど行 う,ややきついガーデニングを行うことで,循環器病,全死亡によるリスクを約半分に 減らせることを報告している.Tanasescu et al. 15)は,糖尿病男性患者において余暇にお ける,1 週間当たり 12 METS・時間以上の身体活動は循環器病による死亡率ならびに総 死亡率を低下させると報告している. このように身体活動量は疾病の発症,およびそれに伴う死亡率と密接な関係があり, 身体活動量の増加によって NCD を抑えられることが明らかとなっている. NCD 予防のための身体活動基準

WHO(世界保健機関:World Health Organization)が 2010 年に刊行した Global

(8)

- 3 - あたり 150 分の中強度身体活動(7.5-15 METs・時/週),または,週あたり 75 分の高 強度身体活動,または,同等の中-高強度身体活動を組み合わせた身体活動を行うこと としている.一方で,国民レベルで最も一般的な身体活動の領域を認識し適応させる必 要性を考慮に入れながら,国レベルで文化的に適切な形に適応させ解釈していく必要が あるとしており,一部の国・地域における基準についても記載されている. 日本における基準である厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準 2013」17) では,日本人の身体活動量の平均値は概ね 15-20 METs・時/週で,これは WHO の基準 値を超えている.また,より多くの身体活動を行うことで NCD 予防の効果が増すとい う量反応関係 18)も明確であることから, 18-64 歳の身体活動の基準として「運動強度 が 3 METs 以上の身体活動を 23 METs・時/週行う」と定めている.これは 2006 年に作 成された「健康づくりのための運動基準 2006」5)の改定のため,日本人を対象とした研 究を中心にシステマティックレビューとメタ解析を用いた検討を行った結果から採用 されている. 一方,アメリカ人を対象としている Haskell et al. 19) (対象者:18-65 歳未満)と,Nelson et al.20)(対象者:65 歳以上)の報告では,中強度の運動を 1 日最低 30 分週 5 日,もし くは高強度の運動を 1 日最低 20 分週 3 日行うことを推奨している.さらに,一回当た りの運動継続時間が 10 分間の場合と 30 分間の場合とで効果に差がないことから,10 分以上の運動を 1 日合計 30 分以上行うことが明記されている. このように NCD の予防・改善するための身体活動・運動に関するガイドラインが多 くの国や機関から出されており,これらは主に各国の身体活動と NCD に関する先行研 究を基に設けられているが,いずれにおいても中強度(3 METs)以上の運動を実施す ることが NCD の予防・改善に効果的であるとしている.その中で歩行運動は,普段運 動を行っていない人でも手軽に始められる運動として推奨されている. 歩行運動と NCD リスクの関係 歩行運動は日常生活活動の大半を占め,中強度の運動でありながらランニングや他の スポーツに比べて怪我のリスクが低く21),既存のライフスタイルを乱さず楽しみやすい 運動として最適であることが示唆されている22) また,日常的に歩行運動を行うことは,NCD の予防・改善に効果的であるという報 告もある.LaCroix et al. 23) は,65 歳以上の男女 1,645 人を対象に 4-5 年(平均 4.2 年) の追跡調査の結果,週 4 時間以上の歩行を行っている人は 1 時間未満の人に比べて心血 管疾患による入院リスクが有意に少なかったとしている.また,4 時間以上の歩行は死

(9)

- 4 -

亡リスクの減少とも関連がみられたと報告している.Lee and Paffenbarger 24)

は,11,130 人の男性を対象に 23 年間の追跡調査を行った結果から,一週間当り 20 km 以上の歩行 はその他の身体活動と独立して脳卒中発症リスクを低くしたことを報告している. Batty et al. 25)は,40 から 64 歳の 11,633 人の男性を対象に 25 年間の追跡調査を行った結 果,移動量(Travel activity)が多い人は全死亡,虚血性心疾患,呼吸器疾患,肺癌によ る死亡リスクが低下したが,一方で脳卒中による死亡リスクは増加したと報告している. Tanasescu et al. 15)は,30 歳以上で糖尿病と診断された 2,803 人の男性を対象に 14 年間の 追跡調査を行い,16 METS・時以上に相当する歩行量のある人は総死亡率が低下してい たとしている.Noda et al. 26)は,40 歳から 79 歳の男性 31,023 人,女性 42,242 人を対象 に歩行や運動と心血管疾患による死亡率について調べた結果,歩行を 1 日 1 時間以上あ るいは週 5 時間以上の運動を行っている人は,歩行を 1 日 0.5 時間あるいは週 1-2 時間 の運動を行っている人に比べて循環器病死亡率が 20-60%低かったことを報告している. Fretts et al. 27)は,1,826 人の男女を対象とした 5 年間の追跡調査の結果から,1 日の歩数 が 5,400 以上 7,800 歩未満の人では 3,500 歩未満の人と比較して 2 型糖尿病を発症する リスクは 26-29%低下していたとしている.Hamer and Chida 28)は,健常な男女における

歩行と心血管疾患リスクおよび総死亡率との関係についてメタ解析を行っており,歩行 量が多いほど心血管リスクおよび総死亡率が低くなることを示している.Whelton et al. 29)は,歩行やランニング,自転車といった有酸素運動と血圧との関連についてメタ解析 を行い,正常な血圧値の人も高血圧の人も有酸素運動によって血圧値が減少すると報告 している. また,歩行速度は加齢とともに低下するといわれているが30–35),高齢者の中で日常生 活における歩行速度が速い人ほど癌や循環器病などの死亡リスクが減少36–40),歩行量の 多さと共に歩行速度が速い方が効果的15),歩行量よりも歩行速度が速いことによる影響 が強い28)といった報告もある.これに関連し,高齢者における歩行能力の水準は,総死 亡率,心血管疾患,活動制限,移動障害を計る重要な予測因子と成り得るともいわれて いる41) このように一定以上の歩行量によって,NCD の予防・改善および死亡率の低下など の効果が得られるということや,高齢者においては歩行能力がどの程度維持されている かによって NCD などの疾病リスクの予測が可能であることが示唆されている. 日常生活の身体活動量評価方法 ここまで,日常生活の身体活動量と NCD の関連について述べてきたが,身体活動量

(10)

- 5 - を評価する手法には様々な方法がある42).この中で,歩行など日常生活における身体活 動量を評価するものとして代表的なのは,主に二重標識水法,アンケート調査,歩数計, 活動量計と考えられる. 二重標識水法は,Hydrogen(2 H)や Oxygen(18O)のアイソトープを利用して,排泄 動態から身体活動量を求める方法である43).日常生活を妨げずに測定できるうえ,直接 的に身体活動量の評価を行う手法であるため信頼性も高い.しかし,コストがかかるこ とやアイソトープを入手および投与する必要があることから,集団を対象にした調査な どでは用いることができない欠点がある.

ア ン ケ ー ト 調 査 は 疫 学 調 査 な ど に 広 く 用 い ら れ , International Physical Activity Questionnaire(IPAQ)44, 45),Physical Activity Questionnaire for Older Children (PAQ-C)

46),Multiple Leisure Time Physical Activity Questionnaire(MLTPA)47), Baecke questionnaire

48, 49)など様々なものがある.大規模な疫学調査などではコスト,時間的には合理的な手 法であるが,個人が自分の生活習慣や運動習慣について自分自身で評価するため,客観 性や正確性が乏しい. こういった中で,日常生活の妨げにならず,さらにコストがかからないという点で, 日常生活の身体活動量を評価するために近年よく使用されているのが歩数計や活動量 計など,身体に装着して用いられる小型デバイスによる評価方法である. 歩数計の種類 歩数計は,日常生活の歩数を計測する装置である.歩数計は,振り子式と加速度セン サ式の 2 種類に大別される50).振り子式の歩数計は,歩いた時に起こる振動を振り子に 伝達して歩数を計測する方式で,傾斜での歩行や正しい向きでの装着が出来ていない場 合には歩数としてカウントできないことがあり,立ったり座ったりするような歩行以外 の大きな振動が起こる動作も歩数としてカウントしてしまうことがある.一方,加速度 センサ式の歩数計は,加速度センサにより歩行時の振動を計測するもので,3 軸加速度 センサでは機器の向きに関係なく振動を感知することができるため,ポケットやカバン の中に入れていても計測を行うことができる.また,歩行以外の振動を歩行計測しない ために,歩き始めからしばらくは歩数としてカウントせず継続歩行が行われたことが確 認できた時に歩数としてカウントを行うといった工夫もされている.そのため,振り子 式と比べると加速度センサ式のほうが精度面では優れている.

(11)

- 6 - 歩数を用いた身体活動量評価 歩行運動は歩数を基に身体活動量を評価することが可能であり,運動強度などを用い た身体活動量の基準値よりも一般的に理解がしやすいことから,身体活動ガイドライン を歩数で示すことの重要性が提唱されている51–53).そのため,1 日の身体活動の推奨量 を歩数で示す試みが行われてきた. 歩行運動は性別にかかわらず歩行率 100 steps/min のペースでの歩行がおおよそ 3 METs に相当する強度の通常歩行であることが知られており54),中強度以上の身体活動 30 分は 3,000-4,000 歩に直接的に変換可能なことが示唆されている54–57).しかし,日常 生活の場では通常の歩行だけではなく家事や短時間移動による歩行などが行われ,それ らの歩行率は 100 steps/min に満たないため58),NCD を予防するための身体活動推奨量 (3METs 以上の身体活動を 30 分以上)を満たすためには,より多くの歩数が必要であ るといわれている. 身体活動推奨量に相当する歩数 Macfarlane et al. 59)は 15-55 歳の中国人(香港在住)男女 49 名を対象とし,7 日間の日 常生活における心拍数,1 軸加速度,3 軸加速度,歩数をそれぞれ計測し,それらの値 より推定した身体活動量および歩数,活動時間から,中強度以上の身体活動 1 日 30 分 は 1 日 8,000 歩に相当することを報告している.Tudor-Locke et al. 51–53)は,子供,成人, 高齢者に 1 日に必要な歩数に関してレビューをまとめており,成人に関しては 1 日に最 低でも 7,000-8,000 歩歩くことを推奨している.一方,1 日の中で最低限必要な歩数は 5,000 歩ということも報告している60). 日本人を対象とした研究では,Murakami et al. 61)が 23-69 歳までの日本人男女 1,837 名を対象とし,3 軸加速度計を用いて推定した身体活動量,歩数,活動時間を基に受信 者動作特異性曲線(Receiver Operating Characteristic curve:ROC 曲線)を用いて,中強 度以上の身体活動 1 日 30 分は 1 日 7,709 歩であったことを報告している.なお,日本 の基準である 23 METs・時/週を満たすには 1 日 9,341 歩,地域別や集団の特性別に検 討した結果,8,641-9,980 歩に相当し,おおよそ 8,500-10,000 歩に相当する範囲を持って 表現するのが妥当であるとしている.Oshima et al. 62) は,日本人男女 455 人を対象とし て歩行以外の生活活動も評価可能な 3 次元加速度計を用いて,生活活動を含めた場合と 含めない場合での所要歩数について報告をしている.それによると,23 METs・時/分 に相当する歩数は,全ての生活活動を含めた場合の歩数では男性で 6,534 歩/日,女性 で 6,119 歩/日,運動強度が 3 METs 以上の歩行活動のみに限定した場合には,男性で

(12)

- 7 - 7,888 歩/日,女性で 8,584 歩/日であった. このように,NCD の予防のために推奨される身体活動量を満たす歩数に関する報告 が行われており,「健康づくりのための身体活動基準 2013」17)では,これらの研究を基 に 1 日の推奨歩数を 8,000-10,000 歩に設定している. 歩数による身体活動量評価の問題点 歩数はこのように 1 日に何歩歩くという目標値を設定することで,NCD 予防に必要 な運動量の目安となる指標である.しかしながら,実際の日常生活における歩行運動の 運動強度は一定ではなく,歩行速度が遅い時には運動強度は小さくなり,歩行速度を速 くもしくは傾斜の登り,階段の上り時には大きくなる63–79).そのため,通勤時の歩行で あれば歩数と活動量は関連があるが,家(屋内)での歩行では関連が認められないとい う報告がある80) .このことから,NCD を予防するために 1 日に必要な歩数の達成具合 を確認するための目安として歩数計を用いることは有用であるが,研究など正確な活動 量の評価を必要とする場面においては単純に歩数を計測するだけでは精度の面で問題 がある. 活動量計を用いた身体活動量評価 歩数による身体活動量評価における問題点を解消するものとして,近年では活動量計 によって身体活動量を評価する方法がある.活動量計は歩数のみならず,日常生活動作 を含めた 1 日の身体活動量を推定することが可能である. 活動量計の多くは加速度センサが用いられており,日常生活活動中の加速度強度,も しくは加速度の変動からどのような行動を行っているのかを判別し,その行動に対応し た運動強度および活動時間から身体活動量を評価することができる81–83).活動量計を使 用して得られる日常生活における身体活動量は,二重標識水法と比較しても有意な差が 認められず84),心拍数法や行動記録法などと比較しても身体活動量を評価する方法とし て有用であると考えられている85).また,腰に取り付けるものや手首に巻くものなどが 主流で日常生活の妨げにならない,測定が容易であるなどの理由から,近年の研究にお いて活動量計がよく使用されている42) 活動量計による運動強度評価 歩行時における運動強度は歩行速度が遅い時には小さくなり,歩行速度を速くもしく は傾斜の登り,階段の上り時には大きくなる63–79).このことから活動量計では,歩行速

(13)

- 8 - 度の違い,および傾斜,階段の昇降など上下移動における行動を判別している. 歩行速度は加速度の大きさの違いから速度の差を判別することができる86, 87).また, 路面の傾斜・段差に関しては加速度計と共に気圧計を内蔵させ,気圧変化から階段や傾 斜のある路面の昇降を判別することが可能となっている86).このようにして判別された 行動に METs 値を対応させることで,運動強度が決定される. 歩行運動の運動強度基準値 歩行運動の運動強度基準値は,以下のように定められている.

アメリカスポーツ医学会(American College of Sports Medicine;ACSM)では,歩行運 動時の代謝を以下の式で示している12)

V̇O2= (0.1 × S) + (1.8 × S × G) + V̇O2rest … (1-3)

ここで,V.O2は酸素摂取量(ml/kg/min),S は歩行速度(m/min),G は傾斜角度(%), V . O2restは安静時酸素摂取量で 3.5 ml/kg/min である.この代謝式を運動強度に置き換える 場合,以下の式で算出することができる. METs= {(0.1×S)+(1.8×S×G)} 3.5⁄ +1.0 … (1-4) この代謝式は,歩行中,体重 1 kg の人が水平距離 1 m 移動するために必要な酸素摂取 量がおよそ 0.1 ml 88),重力に対し身体を持ち上げるために必要な酸素摂取量が垂直距離 1 m あたり 1.8 ml 89–91)であることを基に作成されている.このように,歩行時の歩行速 度,路面の傾斜角度に比例して運動強度が増大することが示されている.ただし,この 式を用いる場合の注意点として,被験者間における V.O2の推定値標準誤差は 7%と高く 92–94)被験者間での比較には注意が必要であることや,定常状態でのみ適用可能,歩行障 害や風,路面による影響が考慮されていないなどということを踏まえ使用することとさ れている.

日本の運動強度の基準として採用されている Ainsworth et al. 8)の METs 表では,平地

での歩行における快適歩行(walking for pleasure,4.5-5.1 km/h)は 3.5 METs とされてい るが,歩行速度の差で 2.0-8.3 METs(3.2-8.0 km/h)まで変動するとされている.階段で は,下りる時は快適歩行と同じ 3.5METs だが,上りでは 8.3 METs とされている.坂道 は 4.0 km/h の歩行速度で下る時に 3.3 METs,登りでは 4.7-5.6 km/h の歩行速度で勾配 1-5%のとき 5.3 METs,6-15%のとき 8.0 METs とされている.ACSM の代謝式と同様に 歩行速度の増加,急な勾配で運動強度が増加する.

これらの運動強度は,それぞれ特定の運動における酸素摂取量やエネルギー消費量に 関する先行研究を基に作成されたものである.ただし,ここで示されている運動強度は

(14)

- 9 - 体重や体脂肪率,年齢,基礎体力,遺伝,性別,体脂肪率,環境条件などによって,個 人差が生じる可能性があるとしている9) このように,歩行運動の運動強度は一定の基準値が設けられているが,そもそも運動 強度は様々な要因により個人差が生じることが示唆されており,それを踏まえた上で使 用するという制限が設けられている.活動量計による身体活動量の推定は,これらの基 準値を当てはめて行っている場合や,メーカーが独自に算出した代謝式を用いて身体活 動量の推定を行っている場合もある. 歩行率や歩幅の影響に関して 歩行運動における運動強度が変動する要因は,歩行速度の増減や傾斜,階段の昇降に よる影響についてはすでに述べた通りであるが,それ以外の要因として歩行率や歩幅の 違いによる影響が挙げられる.歩行速度は歩行率と歩幅の組み合わせで決定される(歩 行速度=歩行率×歩幅).そして,歩行速度が一定の条件においても歩行率と歩幅を変 化させることによって酸素摂取量やエネルギー消費量が変動することが明らかとなっ ている65, 67, 95–98).また,日常生活における歩行速度,歩行率,歩幅は個人差が大きく, かつ,1 日の生活の中で変動することが報告されていることから99),日常生活の中でも 歩行率や歩幅の大きさの変化により歩行時の運動強度は変動していると考えられる. 歩行率・歩幅変化を考慮した歩行時の運動強度推定 歩行率・歩幅変化によっても運動強度の変動が起こることが示唆されていることから, 日常の歩行時における歩容を意図的に変えるだけでも,運動強度が増大し NCD リスク の減少に貢献できるかもしれない.しかし,歩行率・歩幅変化に伴う運動強度の変動が, NCD リスクの予防などに及ぼす影響については明らかとされていない.これは,現在 の活動量計では加速度情報から歩行率や歩幅の推定を行うことはできるが,歩行率や歩 幅を考慮した運動強度を推定するための運動強度推定式は確立されていないためであ る. 歩行運動における歩行率・歩幅変化を考慮した運動強度推定式を作成すれば,その推 定式を実装した活動量計を用いることで歩行率・歩幅変化に伴う運動強度が NCD リス クに及ぼす影響を疫学的に調べることが可能となり,これまで明らかとされていない歩 行時の歩行率や歩幅の重要性について検証することができるようになると考えられる. また,歩行率と歩幅を考慮した推定式が既存の運動強度推定式よりも高精度なものとな れば,日常生活の運動強度と NCD の関連性について新たな知見が得られるかもしれな

(15)

- 10 - い.さらに,近年は計測した情報をリアルタイムに計測対象者が確認できるようなサー ビスが展開されており,様々な歩容における歩行運動時の運動強度をリアルタイムで確 認するようなサービスの提供にも発展する可能性がある.

1-2 目的

本研究では歩行時の歩行速度,歩行率,歩幅を意図的に変化させた時の酸素摂取量を 測定し,歩行運動に最適な運動強度推定式を求め,その結果から歩行率・歩幅の変化に よる運動強度の変動を推定することを目的とした. 本論文では,第 2 章において酸素摂取量の計測を行う前に,意図的な歩行率・歩幅変 化に伴う歩容はどのように変動するのか確認を行った.第 3 章では,第 2 章の結果を踏 まえた上で実験プロトコルを作成し,様々に歩容を変化させた時の酸素摂取量の測定を 行い,歩行運動に最適な運動強度推定式を求め,その結果から歩行率・歩幅の変化によ る運動強度の変動を推定した.

(16)

- 11 -

第2章 意図的な歩行率・歩幅変化における

歩容の変動

2-1 緒言

歩行動作は,歩行速度=歩行率×歩幅の関係性によって歩行様式が決定される.これ ら 3 つのパラメータは歩容と呼ばれており,歩容の変化に関して様々な報告がなされて いる. 歩行速度は,日常生活での平地における自由歩行では,平均で 80 m/min 前後という 報告があり 100),トレッドミルを用いた研究では概ねこの歩行速度が自由歩行,快適歩 行の基準として使われている.自由歩行および快適歩行とは,特に指示を与えずに行う 自然な歩行運動のことを指す.しかし,個人差が大きいという報告もあり,日本人を対 象にした歩容について,歩行速度は 49-119 m/min,歩幅は 51-91 cm,歩行率は 95-160 steps/min の幅があったことが報告されている 99).これに関しては,様々な要因が考え られる.歩行速度は加齢に伴い減少することが確認されており31),その主な要因は歩行 率よりも歩幅にあるということが報告されている32–34, 99, 101).また,体型に関しては, 肥満者は快適歩行速度が非肥満者よりも遅い 102),体重の減量により歩行速度が速くな った 103),身長や脚長の違いによって歩行率や歩幅は個人差が生じるといったことが報 告されている99, 104–107).性別に関する報告では,トレッドミル歩行時の歩幅が同じ歩行 速度では男性のほうが女性よりも大きい歩幅となり,特に歩行速度が 90 m/min を超え ると統計的な有意差が認められるといわれている 107).歩容と人種の違いに関しては,

日本人を対象にした Sato and Ishizu 99)

と米国人を対象にした Finley and Cody 108)を比較す

ると,日本人は米国人に比べて歩行率が高く速く歩くが,歩幅は同じくらいであると報 告されている 109).性別や人種に関しては,身長による影響が含まれている可能性が考

えられるが,このように様々な要因による個人差を考慮する必要がある.

同一対象者の歩容変化に関しては,歩行速度変化の歩幅,歩行率の貢献度を示す指標 である Walk Ratio(歩幅/歩行率)を用いて調べられている110).快適歩行時の男性の平

均歩行速度は 83.4 m/min で,Walk Ratio は 0.0072,女性は 76.1 m/min で 0.0061 であっ たという報告がある100).Walk Ratio は平地歩行での歩行速度を意識的に変化させたと

きには,よほど極端に歩行速度を増大,減少させない限り,歩行速度の大きさに関わら ず概ね一定の値となり,その範囲は 0.006-0.008 程度とされている67, 111–113).しかし,歩

(17)

- 12 - 歩幅/歩行率=一定の関係は得られないことが報告されている 111).歩行率の変化は歩 行速度だけではなく歩幅を増大させる傾向を示したが,個人差が大きく逆に低下を示す ケースもみられた.また,歩幅を増加させたときは,歩幅の増加に伴い歩行速度も直線 的に増加する傾向が示されたが,歩行率には同様の変化が認められず,Walk Ratio の値 は歩幅とともに大きく変化していた.このような歩行様式の違いによって,歩行速度が 一定でも歩行率や歩幅を変化させることで運動強度が変動する可能性が考えられる. しかしながら,歩行率や歩幅を意図的に変化させたときの歩容変化に関しては,歩行 速度と比べると十分な検討がなされておらず不明な点が多い.そのため,意図的に歩行 率や歩幅を変化させた時の歩容がどのように決定されるのかを事前に確認しておく必 要がある.そこで,様々な歩行条件において歩容がどのように変動するのかを確認する ための検討を行った. 検討の手順としては,まず本測定におけるデータ算出方法の妥当性の検証を行い,歩 行率,歩幅を変化させたときの歩容の確認,歩幅を変化させたときに先行動作が歩容に 与える影響について確認した.

2-2 データ算出手法の妥当性検証

2-2-1 目的

各歩行条件における歩容の確認を行うにあたって,ビデオカメラの映像から歩行率, および歩幅の大きさを算出することが可能な動作解析ソフト,ダートフィッシュ・ソフ トウェア(ダートフィッシュ,スイス)を使用することとした.この動作解析ソフトを 用いて算出する歩幅,歩行率の値が,シート式下肢加重計(MW-1000,アニマ,東京, 日本)と比較してどのくらいの差が生じるか確認を行い妥当性の検証を行った.

2-2-2 方法

被験者は男性 2 名,女性 1 名とし,それぞれ 2 回ずつ屋内の体育館で 20 m の直線の 歩行路を歩行させた(図 2-1).歩行路には,シート式下肢加重計を設置した.このシー ト式下肢加重計は歩行中の足圧の大きさを測ることができ,歩行における時間因子,距 離因子をリアルタイムに自動計測できる装置であり,これを用いて 1 歩行周期における 歩行時の歩行率,およびストライド長(最初の足の接地から次の同じ足の接地までの距 離)を算出することが可能である(図 2-2).シートの寸法は 800×2,400 mm で,長辺を

(18)

- 13 - 図 2-1 測定概要図 歩行路に沿わせるように,スタート位置から 15 m の位置にシートの中心を合わせるよ うに設置した.また,シート式下肢加重計による測定を行うのと同時に歩行路から垂直 の位置から,ビデオカメラ(GZ-MG70,Victor,神奈川県,日本)を用いて毎秒 30 フ レーム(60 フィールド)で歩行の様子を撮影した.ビデオカメラは,被験者の全身が 映るよう右側方から歩行開始 12.5-17.5 m の歩行状態が撮影できる位置に設置した. 撮影した映像より動作解析ソフト,ダートフィッシュソフトウェアを用いて,歩行率, 歩幅をそれぞれ算出した.この方法による解析は,3 名の解析者が行った.歩行率,お よび歩幅の大きさは,撮影した映像の中でシート式下肢加重計への最初の右足接地から 次の右足接地(1 歩行周期)が記録されていた歩行動作について,それぞれ以下の式に より算出した.

Step Rate (steps min⁄ ) = 1 (C⁄ time⁄ )2 … (2-1) Step Length (m) = Cdis⁄ … (2-2) 2

Ctime(min)は 1 歩行周期に要した時間,Cdis(m)はビデオカメラにあらかじめ長さが

分かる基準となる目印を設置し,その基準長さに対する 1 歩行周期における最初の右足 踵位置から次の右足踵位置までの距離(ストライド長)である.ストライド長は概ね歩 幅の 2 倍の長さとなることから,今回は歩幅をストライド長の半分の長さと定義した. 右足が接地したかどうかについての判定は,分析者それぞれが目視により確認を行った. 歩行試技全 6 試技中,データが正しく得られた 5 試技について,動作解析ソフトを用 いて 3 名の解析者(A’,B’,C’)によりそれぞれ算出した歩行率および歩幅と,動作解

(19)

- 14 - 図 2-2 1 歩行周期 析ソフトによる解析範囲と同じ歩行状態について記録されているシート式下肢加重計 から得られた歩行率,歩幅の比較を行うために,解析方法を独立変数,歩行率および歩 幅を従属変数とする反復測定による一元配置分散分析を行った.

2-2-3 結果

本測定の結果をまとめたのが表 2-1 である.シート式下肢加重計と 3 名の解析者によ る動作解析ソフトから算出した歩行率,歩幅には有意差が認められなかった.また,そ れぞれの試技について動作解析ソフトによる分析から得られた歩行率,歩幅は,シート 式下肢加重計と比較しても 5%以内であった.

(20)

- 15 -

表 2-1 解析手法毎の各試技における歩行率および歩幅と シート式下肢加重計に対する割合

Analytical method WW : Seat-style lower limbs weighting meter A’, B’, C’ : Analysts of motion analysis software

2-2-4 考察

シート式下肢加重計により得られた歩行率,歩幅を真の値と仮定して,動作解析ソフ トによる算出結果と比較を行った.その結果,シート式下肢加重計と動作解析ソフトよ り算出した歩行率,歩幅の間には有意差が認められなかった. シート式下肢加重計は歩行時の接地足の足圧を測定し,最初の足圧のかかった点(踵 位置)から次の同じ足の接地時の足圧がかかった点までの距離から歩幅を算出するため, 足の接地から次の接地までの時間計測や歩行時の歩幅計測を行う上では,映像から歩幅 の大きさを直接的に測る手法と比較すれば正確性が高い手法であると考えられる.ただ し歩幅については,踵から次の接地足の踵までの直線距離ではなく,シートの水平方向 における踵位置から算出しているため,シートに対して斜めに歩いてしまった場合には 過小評価される可能性がある.しかし,歩行路の幅は 800 mm と狭く,また装置を歩行

Walking trial Analytical method Step Rate

(steps/min) vs WW (%) Step Length (m) vs WW (%) WW 121.2 - 0.630 -A' 121.8 0.5 0.630 0.0 B' 124.0 2.3 0.620 -1.6 C' 126.2 4.1 0.620 -1.6 WW 115.4 - 0.628 -A' 115.9 0.5 0.625 -0.4 B' 114.2 -1.0 0.625 -0.4 C' 116.1 0.6 0.620 -1.2 WW 115.4 - 0.818 -A' 116.1 0.6 0.810 -0.9 B' 114.2 -1.0 0.835 2.1 C' 114.2 -1.0 0.815 -0.3 WW 112.1 - 0.668 -A' 112.4 0.2 0.665 -0.4 B' 112.5 0.3 0.670 0.4 C' 112.5 0.3 0.665 -0.4 WW 107.1 - 0.473 -A' 107.4 0.3 0.470 -0.5 B' 110.6 3.2 0.465 -1.6 C' 107.4 0.3 0.465 -1.6 5 1 2 3 4

(21)

- 16 - 路に対して直線になるよう気を配りながら接地したため,大幅な誤差は起こっていない と考えられる. また,動作解析ソフトでは解析者個人の主観によりデータのずれが起こることが考え られたが,解析を行った 3 名の解析者の間にも有意差は認められなかった.そのため, 解析者が異なる場合においても,解析手法の認識が統一されている場合においては歩行 率,歩幅の大きさが大きく変動することがないことが確認された.

2-2-5 結言

シート式下肢加重計と動作解析ソフトより得られた歩行率,歩幅について,測定方法 による算出結果の違いについて検討を行った.その結果,両者間における有意差は認め られず,また複数の分析者間においても有意差が認められなかったことから,動作解析 ソフトによる歩行率,歩幅の算出における妥当性が示された.

2-3 歩行率統制条件における歩容

2-3-1 目的

自由歩行と歩行率の大きさを,メトロノームによって 5 段階に歩行率を設定した歩行 における歩容の変化について検討し,歩行率の変化に伴い歩行速度,歩幅がどのように 変動するのかを確認した.

2-3-2 方法

被験者は 20 代の男性 1 名(被験者 A),女性 2 名(被験者 B,C)とした.屋内の体 育館で 20 m の直線の歩行路上を,①自由歩行(Free Walking:FW)と②110 steps/min, ③115 steps/min,④120 steps/min,⑤125 steps/min,⑥130 steps/min の 5 段階のテンポに 合せた歩行を,①→②→③→④→⑤→⑥の順にそれぞれ 1 回ずつ行わせた.歩行率は, 試技条件に対応するテンポに設定したメトロノームの音を聞かせることで調整した.歩 行の様子を,歩行路から垂直の位置に設置したビデオカメラ(GZ-MG70,Victor,神奈 川県,日本)を用いて毎秒 30 フレーム(60 フィールド)で歩行の様子を撮影した.ビ デオカメラは,被験者の全身が映るよう右側方から歩行開始 12.5-17.5 m の歩行状態が 撮影できる位置に設置した.撮影した映像の中で最初の右足接地から次の右足接地(1

(22)

- 17 - 歩行周期)が記録されていた歩行動作について,動作解析ソフトダートフィッシュ・ソ フトウェア(ダートフィッシュ,スイス)を用いて歩行率,歩幅を算出し,その結果か ら歩行速度,Walk Ratio をそれぞれ算出した. 得られた歩行率,歩幅,歩行速度,Walk Ratio について,それぞれの歩行率条件間の 歩容の比較を行った.

2-3-3 結果

本測定の結果を図 2-3 にまとめた.各歩行率条件の歩容の平均値では,歩行速度は歩 行率の値が大きくなるのに伴って増大していたが,歩幅の変化は 120 steps/min で最小と なり歩行率変化に伴った変化とはならなかった.その影響により,Walk Ratio の値も 125 steps/min で最も低い値となっていた.個人ごとに確認していくと,歩幅および Walk Ratio の値は全ての被験者で,125 steps/min と比較して 130 steps/min で大きくなっていた.

2-3-4 考察

Sekiya et al. 111)は,60-140 steps/min の歩行率の範囲について Walk Ratio の関係を調べ ている.それによると,歩行率の変化は歩行速度だけではなく歩幅を増大させる傾向を 示したが,個人差が大きく逆に低下を示すケースもみられたと報告している.本測定で は対象範囲は狭いものの,この報告と一致した傾向がみられており,歩行速度は歩行率 変化に伴い増減しているが,歩幅や Walk Ratio の値には個人差が大きいようにみえる. このことから,歩行率変化に伴う歩行様式は個人によってばらつきが生じることが示唆 された.

2-3-5 結言

自由歩行とメトロノームによって 5 段階に歩行率を設定した歩行における歩容がど のように変化するのかについて検討し,歩行率を変化させた時の歩行速度,歩幅がどの ように変動するのかを確認した.その結果,メトロノームの影響によって歩容が大きく 変化することは確認できなかった.また,歩行率変化に伴う歩行様式は個人によってば らつきが生じることが示唆された.

(23)

- 18 - 図 2-3 被験者毎の歩行率統制条件における歩行率,歩幅,歩行速度,Walk Ratio 105 110 115 120 125 130 135 110 115 120 125 130 S te p Rat e ( st ep s/min )

Condition Step Rate (steps/min)

0.60 0.65 0.70 0.75 0.80 0.85 0.90 110 115 120 125 130 S te p L en gt h ( m)

Condition Step Rate (steps/min)

70 75 80 85 90 95 100 105 110 110 115 120 125 130 W al ki n g Ve lo cit y ( m/m in)

Condition Step Rate (steps/min)

0.0045 0.0050 0.0055 0.0060 0.0065 0.0070 110 115 120 125 130 W al k Rat io ( m/s te ps /min )

(24)

- 19 -

2-4 歩幅統制条件における歩容

2-4-1 目的

歩幅の大きさを主観的に 5 段階に分けて設定した時に歩容がどのように変化するの か検討し,歩幅の大きさがどの程度まで変動するのかを確認した.また,歩幅が身長と 相関するという報告 107, 111)

があることから,歩幅を身長で除した Adjusted Step Length (ASL)の範囲についての確認を行った.

2-4-2 方法

被験者は 20 代の男性 2 名(被験者 A,D),女性 1 名(被験者 B)とした.屋内の体 育館で 20 m の直線の歩行路上を,①自由歩行(FW),②大股(Walk with Long steps : WL), ③やや大股(Slightly Long steps: SL),④小股(Walk with Short steps : WS),⑤やや小股 (Slightly Short steps : SS)での歩行という 5 段階に分けて歩行させた.試技は①→②→ ③→④→⑤の順にそれぞれ 3 回ずつ行わせた.歩行の様子を,歩行路から垂直の位置に 設置したビデオカメラ(GZ-MG70,Victor,神奈川県,日本)を用いて毎秒 30 コマで 歩行の様子を撮影した.ビデオカメラは,被験者の全身が映るよう右側方から歩行開始 12.5-17.5 m の歩行状態が撮影できる位置に設置した.撮影した映像の中で 1 歩行周期が 記録されていた歩行動作について,動作解析ソフトダートフィッシュ・ソフトウェア(ダ ートフィッシュ,スイス)を用いて 3 回の試技の歩幅,歩行率を算出し,その結果から 歩行速度,Walk Ratio の平均値をそれぞれ算出した.得られた歩幅,歩行率,歩行速度, Walk Ratio の値について,それぞれの歩幅条件間での比較を行った.

2-4-3 結果

本測定の結果を図 2-4 にまとめた.歩行率については平均値でいずれの条件において も値の変動割合は小さく,個別にみても被験者による違いは起こっていないと考えられ る.歩幅,歩行速度,Walk Ratio に関しては,平均値ではいずれも歩幅を広くした時の 条件で値が大きくなる傾向を示していた.個別にみてみると,自由歩行において被験者 B が他の被験者よりも高い値となっていたが,歩幅を大きく意識した歩行ではその差は 縮まっていた.Walk Ratio の値の変化に注目すると,一部例外はあるものの歩幅を広げ るよう指示した時に値が大きくなり,逆に歩幅を小さくするよう指示した時には小さく

(25)

- 20 -

Condition step length FW:Free Walking, WL:Walk with Long steps, SL:Slightly Long steps, WS:Walk with Short steps, SS:Slightly Short steps

図 2-4 被験者毎の歩幅統制条件における歩行率,歩幅,歩行速度, Walk Ratio,Adjusted Step Length (ASL)の値

90 95 100 105 110 115 120 125 130 WS SS FW SL WL S te p Ra te ( st eps /mi n)

Condition Step Length

0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 WS SS FW SL WL S te p L en gt h ( m)

Condition Step Length

50 60 70 80 90 100 110 120 130 WS SS FW SL WL Walkin g V elo city ( m /m in )

Condition Step Length

0.005 0.006 0.007 0.008 0.009 0.010 WS SS FW SL WL W al k Rat io ( m/s te ps /min )

Condition Step Length

0.30 0.35 0.40 0.45 0.50 0.55 0.60 0.65 WS SS FW SL WL AS L

(26)

- 21 - なる傾向を示した.各パラメータの最小値-最大値は,歩幅は 0.58-1.01 m,ASL は 0.36-0.58,歩行率は 99.5-121.9 steps/min,歩行速度は 57.9-122.3 m/min であった.

2-4-4 考察

歩幅を広げて歩いた時には歩行速度は増大するが歩行率は変化せず,Walk Ratio の値 は増加するという報告がある111).今回得られた結果では,Walk Ratio は先行研究と同様 に,歩幅の大きさの指示内容に相応する変動をみせていた.ただし,今回は歩容に関し ては特に制限を設けず被験者の主観によって試技を行わせたため,個人差による影響が かなり多く含まれていたことが予想される.歩幅の大きさは被験者によって変化の割合 が異なり,また指示通りに歩幅を変化させられないケースもみられた(被験者 A の SS). また,被験者 B は自由歩行の歩行速度が速めで歩幅が広かったため,歩幅を広げるよ う指示した場合にも他の被験者と比較して歩幅を広げられず,歩行速度や Walk Ratio の 変動が小さくなった. そこで,歩幅の大きさに対する歩行率,歩行速度,Walk Ratio の変動について確認を 行った(図 2-5).歩行率は歩幅変化に伴った変動をしている傾向はみられなかったが, 歩行速度と Walk Ratio は歩幅が大きくなるのに伴って値が大きくなる傾向がみられた. これらの傾向は先行研究の結果と一致するものであり,歩幅を意図的に変えた時には歩 行率の変化は起こらずに歩幅の変化によって歩行速度を獲得するような歩行様式とな ることが確認できた. 歩幅の変動範囲については概ね 0.6-1.0 m,ASL においては 0.35-0.60 であると考えら れる.今回のような歩幅を意図的に変えた歩行では,Walk Ratio の値から歩行速度や歩 行率を変化させて歩行させた時よりも歩幅変化の割合が大きくなると考えられるため 111),この範囲が歩行可能な歩幅および ASL であると予想される.ただし,歩行速度が 速かったり遅かったりする場合には,その歩行速度での最も歩きやすい歩幅が変化する ため,さらに範囲が広がる可能性が考えられる.

2-4-5 結言

歩幅の大きさを主観的に 5 段階に変えた時の歩容変化について確認を行った.その結 果,歩幅,歩行速度,Walk Ratio の値は歩幅を広げることを意識するほど増大し,狭め

(27)

- 22 - 図 2-5 歩幅と歩行率,歩行速度,Walk Ratio の関係 ることを意識するほど減少する傾向を示した.このことから,歩幅を変化させた時の歩 行速度変化に対する歩行率の貢献度は低く,主に歩幅の要因によって歩行速度が変化す ることが分かった.これは歩行率,歩幅がともに変化する歩行速度を変化させた時とは 異なる結果であり,歩行条件の与え方で歩行様式は異なることが示唆された.また,歩 行可能な歩幅および ASL の範囲は概ね 0.6-1.0 m,0.35-0.60 であることが分かった. 90 95 100 105 110 115 120 125 130 0.50 0.70 0.90 1.10 S te p Rat e (s te ps /min ) Step Length (m) 45 55 65 75 85 95 105 115 125 0.50 0.70 0.90 1.10 W al ki n g Ve lo cit y (m/m in) Step Length (m) 0.005 0.006 0.007 0.008 0.009 0.010 0.50 0.70 0.90 1.10 W al k Rat io ( m/s te ps /min ) Step Length (m)

(28)

- 23 -

2-5 歩幅統制時の歩行順序による先行動作の影響

2-5-1 目的

前項においては,試技の順序を特に意識することなく測定を行った.しかし歩行速度 に関しては,基準となる自由歩行後に高速歩行を行わせた後,再び自由歩行を行わせた 場合にはやや歩行速度が速くなり,低速歩行の場合では遅くなることが報告されている 114).これが,歩幅変化によっても起こり得るものなのか検討を行った.

2-5-2 方法

被験者は 20 代の男性 3 名(被験者 A,E,F),女性 2 名(被験者 B,C)の計 5 名と した.屋内の体育館で 20 m の直線の歩行路上を,試技条件を与えて歩行させた.試技 条件は,①大股(WL),②やや大股(SL),③自由歩行(FW),④やや小股(SS),⑤ 小股(WS)について,③→②→①→①→②→③→④→⑤→⑤→④→③のように,自由 歩行から歩幅をだんだん広くした後,だんだん狭めていき,最終的に自由歩行を行うよ うな順序とした.なお今回,歩行率ではなく歩幅の影響を確認したのは,歩幅では Walk Ratio は一定の変動傾向がみられるが歩行率では個人差が生じるため,一定の傾向が得 られないことが考えられたためである.歩行の様子を,歩行路から垂直の位置に設置し たビデオカメラ(GZ-MG70,Victor,神奈川県,日本)を用いて毎秒 30 コマで歩行の 様子を撮影した.ビデオカメラは,被験者の全身が映るよう右側方から歩行開始 12.5-17.5 m の歩行状態が撮影できる位置に設置した.撮影した映像の中で 1 歩行周期が 記録されていた歩行動作について,動作解析ソフトダートフィッシュ・ソフトウェア(ダ ートフィッシュ,スイス)を用いて歩行率,歩幅を算出し,その結果から歩行速度, Walk Ratio をそれぞれ算出した. 得られた歩幅,歩行率,歩行速度,Walk Ratio の値について,全ての試技条件におけ る 2 回目以降の歩幅の大きさが 1 回目と比較してどの程度増減したのかを確認するため, 自由歩行については試行回数を独立変数,歩幅を従属変数とする反復測定による一元配 置分散分析を行った.自由歩行以外の試技については,試行回数を独立変数,歩幅を従 属変数とする対応のある t 検定をそれぞれ行った.また,被験者毎の傾向を確認するた めに,2 回目以降の試行については 1 回目の歩幅の大きさに対する割合を求めた.

(29)

- 24 -

2-5-3 結果

本測定の結果をまとめたのが,表 2-2 である.分散分析の結果,全ての試行回数間に 有意差は認められなかった.個人の結果について細かく確認を行ったところ,2 回目の FW は歩幅を広げた後の歩行であったが,特に歩幅が大きくなったのは D,E のみで, C に関してはむしろ小さくなっていた.また,3 回目の FW では,歩幅を小さくした後 だったにも関わらず 5 人中 4 人の歩幅が大きくなっていた.SL については,被験者に よって歩幅は大きくも小さくもなっており,SS は全体的に歩幅が小さくなる傾向はみ られた.二度続けて行う WL や SL でも,1 回目と比較した歩幅の大きさは 5%程度変動 し,最大で 11.7%異なっていた.

2-5-4 考察

歩行速度に関する先行研究では,基準となる自由歩行後に高速歩行を行わせた後,再 び自由歩行を行わせた場合にはやや歩行速度が速くなり,低速歩行の場合では遅くなる ことが報告されている 114).単純にその結果に当てはめると,歩幅については広くした 後には増大し狭くした後には減少することが予想される.しかし,平均値での比較では 全ての試行回数間に有意差は認められなかった.個人毎にみてみると,歩幅を広げた後 の自由歩行で歩幅が大きくなったのは 5 人中 2 人で,むしろ小さくなっているケースも みられた.また,歩幅を狭めた後の自由歩行では歩幅が大きくなった人が多数を占める 結果となった.SL についても全体的に歩幅が大きくなると予想していたが,被験者に よって歩幅は大きくも小さくもなっていた.唯一,予想に近い結果が得られたのは SS であるが,二度続けて行った WL や WS で歩幅が 5%程,最大で 11.7%変動しているこ とから,SS の歩幅変化も誤差範囲である可能性が考えられる. Andou et al. 114)は歩行速度の先行動作の影響に関して検討を行っているが,その中で 歩行速度を変えた歩行の後に再生歩行についての確認も行っており,高速歩行後の再生 歩行においては 30 秒後から歩幅,歩行率は基準歩行と有意差がみられていない(低速 歩行では 60 秒後まで有意差あり).今回の測定では試技終了後は通常歩行でもとのスタ ート位置まで戻して測定を行っており,そのことが要因となり結果に影響を与えた可能 性も否定できない.しかしながら,試技終了後,再び次の試技を始めるまでに十分な時 間を与えれば先行動作の影響は排除できるものと考えられる.また,今回の測定では具

(30)

- 25 -

表 2-2 被験者毎の意識的な歩幅変化による歩幅と 1 回目との差

Condition step length FW:Free Walking, WL:Walk with Long steps, SL:Slightly Long steps,

WS:Walk with Short steps, SS:Slightly Short steps

A D E C F A D E C F FW 1 0.75 0.65 0.67 0.67 0.77 - - - - -SL 1 0.87 0.85 0.88 0.72 0.88 - - - - -WL 1 1.00 0.93 1.01 0.83 0.97 - - - - -WL 2 1.01 0.92 0.96 0.80 0.94 0.5 -1.1 -5.0 -3.6 -2.6 SL 2 0.92 0.87 0.84 0.72 0.86 5.8 2.4 -5.1 0.7 -2.3 FW 2 0.73 0.72 0.78 0.63 0.78 -2.7 10.0 17.3 -5.3 2.0 SS 1 0.70 0.66 0.71 0.59 0.71 - - - - -WS 1 0.66 0.55 0.60 0.53 0.58 - - - - -WS 2 0.62 0.55 0.67 0.50 0.55 -6.8 0.0 11.7 -4.8 -5.2 SS 2 0.68 0.65 0.68 0.55 0.71 -2.9 -1.5 -4.9 -6.8 0.7 FW 3 0.76 0.71 0.72 0.61 0.83 2.0 9.2 8.3 -8.3 8.5 vs First (%) Condition step length Number of trials Step Length (m) ≦-5% 5%≦ 10%≦

(31)

- 26 - 体的な指示は与えずに,歩幅の大きさに関しては被験者の主観に任せて行った.そのた め,歩幅を広げた後はより狭くという意識が強かった人や,より正確にやろうという意 識が強かった人など,個人の意識の違いが影響した可能性が考えられる.

2-5-5 結言

直前の試技における歩幅の大きさによって,次の歩行時の歩幅の大きさが影響を受け るのか確認を行った.その結果,今回の測定からは先行動作の影響により歩幅の変化が 起こる可能性は低いと考えられる結果が得られた.ただし,試技終了後から次の試技開 始までの間で自由歩行を挟んだことや時間が経過していたこと,個人の意識の違いなど が影響した可能性がある.しかしながら,先行動作の影響を確実に排除するためには, 試技間に十分な休憩を挟むこと,試技の順序をランダムに設定することなどの対策を行 えばよいことが示唆された.

2-6 結論

本章では,歩行率統制条件,歩幅統制条件,歩幅の先行動作についての検討を行い, その結果をまとめた. まず,様々な歩行条件における歩容を調べるに当たり,動作解析ソフトを用いた歩行 率および歩幅の算出手法がシート式下肢加重計の結果と一致するのか確認を行い,測定 方法の妥当性について検討を行った.その結果,両手法間によるデータの相違は認めら れなかった.そのため,動作解析ソフトを用いて算出する歩行率および歩幅の値の妥当 性が示された. それを踏まえ,歩行率および歩幅統制条件における歩容の確認を行った.歩行率統制 条件においては先行研究と同様の結果が得られ,Walk Ratio には個人差があり一定の歩 行様式とはならないことが示唆された.一方,歩幅統制条件においては,Walk Ratio は 歩幅の大きさに伴い変化することから,歩幅を変化させた時の歩行速度変化に対する歩 行率の貢献度は低く,主に歩幅の要因によって歩行速度が変化することが分かった.以 上のことから,歩行実験の際には指示の与え方によって,歩行様式がそれぞれ異なるこ とが示唆された. 今回の測定から,自由歩行とメトロノームにより自由歩行に近いテンポで歩いた時の

(32)

- 27 - 歩容には大きな差がみられず,テンポを意識的に合せることによる歩容の違いはみられ ないと考えられる.また,歩行可能な歩幅および ASL の範囲は概ね 0.60-1.00 m,0.35-0.60 であることが確認できた. 歩幅変化の先行動作による影響に関しては,先行動作の影響による歩幅変化が起こる 可能性は低いと考えられる結果が得られた.先行動作の影響を確実に排除するためには, 試技間に十分な休憩を挟むこと,試技の順序をランダムに設定することなどの対策が必 要であると考えられる. いずれの測定も対象者が少なく統計解析を行っていない結果も含まれているため十 分な検討とはいえないかもしれないが,これらの測定結果より歩容に関する先行研究の 結果の確認,および意図的に歩行率や歩幅を変化させたときの歩容の特徴などを確認す ることができた.

表 2-1    解析手法毎の各試技における歩行率および歩幅と
図 2-4  被験者毎の歩幅統制条件における歩行率,歩幅,歩行速度,
表 2-2    被験者毎の意識的な歩幅変化による歩幅と 1 回目との差
表 3-6    重回帰分析より得られた回帰式,R 2 と交差検証より算出した RMS および平均値に対する割合
+2

参照

関連したドキュメント

The motion ranges of knee angle became small in the order of normal healthy persons, L4 patients and HipOA patients while that of upper body angle became large in the order of

Information gathering from the mothers by the students was a basic learning tool for their future partaking in community health promotion activity. To be able to conduct

約 4 ~約 60km/h 走行時 作動条件 対車両 ※1.

私たちの行動には 5W1H

自動運転ユニット リーダー:菅沼 直樹  准教授 市 街 地での自動 運 転が可 能な,高度な運転知能を持 つ自動 運 転自動 車を開 発

The activity of the gluteus maximus is said to change with exercise, the hip joint position, and muscle fiber. Therefore, it is important for physical therapy to deepen the

Total energy expenditure and physical activity as assessed by the doubly labeled water method in Swedish adolescents in whom energy intake was underestimated by 7-d diet

が作成したものである。ICDが病気や外傷を詳しく分類するものであるのに対し、ICFはそうした病 気等 の 状 態 に あ る人 の精 神機 能や 運動 機能 、歩 行や 家事 等の