近代日本の在来産業振興政策と地域社会
著者
山内 太
号
36
発行年
1998
肪
内
絃
山
嵐
太
学 位 の 種 類
博
士(経 済学)
学 位 記 番 号
経 博 第36号
学位授与年 月 日
平成10年11月12日
学位授与 の要件
学位規則第4条 第1項 該 当
研 究 科 ・専 攻
東北大学大学院経済学研究科(博 士課程後期3年 の課程)
経済学専攻
学 位論 文 題 目
近代 日本の在来産業振興政策 と地域社会
論 文 審 査 委 員
本
平
査
授
住
教
厚
教
授
坂
巻
清
助教授
谷
本
雅
之
(東京大学大学院経済学研究科)
論
文
内
容
要
旨
本 論 文 は、 福 島 県 伊 達 郡 の 絹 織 物 業 を 対 象 と して 、 近 代 日本 の 在 来 産 業 の 発 展 ・変 化 、 並 び に そ の振 興 策 の 性 格 を 、 特 に地 域 社 会 との 関 わ りを 中 心 に して 分 析 しよ う と した もの で あ る。 具 体 的 に は、 在 来 産 業 を 担 って い る実 業 家 た ち と地 域 の 人 々、 な か ん ず く地 域 有 力 者 と の 関 係 を 分 析 す る こ と を通 じて 、 在 来 産 業 の 発 展 ・変 化 、 そ の 振 興 に 、 い っ た い地 域 が ど の よ うな 形 で 関 与 し、 ま た両 者 の 関 係 が 、 い っ 頃 、 ど の よ う に変 貌 し始 め て い た の か 、 と い う こ と を 明 らか に した い。 明 治 中 期 ま で の 川 俣 地 方 絹 織 物 業 は、 依 然 そ れ ま で の 農 家 副 業 を 中 心 とす る小 規 模 零 細 経 営 が 主 流 で あ った。 ま た 流 通 に 関 して も、市 場 に お け る現 金 取 引 が 中 心 とな って い る な ど、 未 だ プ リ ミテ ィ ブ な ま ま で あ り、 在 地 の 買 継 商 も、 資 本 蓄 積 を 進 め た 、 資 金 的 に豊 か な 有 力 大 商 人 は存 在 して い な か った 。 こ の よ うな 後 進 絹 織 物 業 地 域 と い え る川 俣 地 方 に お い て も、 粗 製 濫 造 が 問 題 と な り、 そ の 防 止 が 叫 ば れ 、 同 業 組 合 の 設 立 ・検 査 事 業 の 開 始 に ま で 進 む こ と に な る。 1896年 に 創 設 され た川 俣 絹 織 物 同 業 組 合 は 、 絹 織 物 業 を 実 際 に 担 って い る買 継 商 や 主 要 な仲 買 商 、 町 場 の 機 業 家 は言 う に及 ば ず 、 伊 達 郡 内 の 絹 織 物 業 者 、 つ ま り農 村 部 の 農 家 副 業 に 基 づ く生 産 者 ま で も包 括 す る形 で 形 成 され た。 そ れ 故 選 出 され た 組 合 指 導 部 は 、 農 村 富 農 た ち に よ って 多 数 派 が 占 め られ 、 そ の事 業 展 開 は 、 結 果 的 に 農 村 富 農 た ち に よ っ て 担 わ れ る形 とな った 。 彼 ら は農 村 の 名 家で あ り、 地 域 社 会 に お け る影 響 力 は、 新 興 の商 業 者 以 上 に保 持 して い た。 従 って 彼 らの 力 を 結 集 す る こ と に よ っ て 、 地 域 に と って 全 く新 しい 組 織 で あ る 同 業 組 合 を この 地 に 設 立 させ 、 事 業 を 展 開 す る こ とが 可 能 に な っ た と い え る。 た だ し彼 ら は、 あ く まで も家 業 と して の 農 蚕 業 を 中 心 と した経 営 を行 って い た人 々 で あ り、 実 際 に絹 織 物 業 者 と して 活 発 な活 動 を 行 って い た訳 で は な い し、 そ れ に ょ っ て 蓄 積 を 行 お う と して い た わ け で も な か っ た、 と い う こ と に は 注 意 して お く必 要 が あ ろ う。 つ ま り彼 らは 絹 織 物 実 業 家 と して 、 そ の 利 害 に則 っ て 同 業 組 合 の設 立 ・事 業 展 開 を 指 導 して い た の で は な か っ た と、 考 え られ る の で あ る。 地 域 経 済 振 興 の た δ6、地 域 の基 幹 産 業 で あ る 絹 織 物 業 の さ ら な る発 展 の た き6、組 合 を設 立 して検 査 事 業 を 行 う こ との 重 要 性 を 認 識 し、 積 極 的 に こ の 同 業 組 合 に 関 与 して い っ た の で あ る。 そ れ 故 実 際 の 実 業 家 で は な い 彼 らの打 ち 出 す 政 策 は、 あ る意 味 で 理 想 的 で あ り、 そ れ ま で の 絹 織 物 業 界 の現 実 を 無 視 した方 針 に な りや す か っ た と い え る。 そ の た め 実 業 家 た ち と、 しば しば 衝 突 を繰 り返 して も い た の で あ る。 結 局 川 俣 地 方 に お い て は 、 実 際 に 同 業 者 組 織 化 政 策 を 推 し進 め て い た の は、 斯 業 に利 害 関 係 の 薄 い 農 村 富 農 た ち で あ り、 地 域 経 済 発 展 と い う 「高 尚 」 な 動 機 の下 に、 現 実 に在 来 産 業 を担 って い る 実 業 家 た ち の 抵 抗 を押 し切 り、 組 合 事 業 を 遂 行 して い た の で あ っ た。 そ れ が 日露 戦 後 期 に な る と、 伊 達 郡 輪 出 絹 織 物 業 は 、 極 度 の停 滞 ・不 振 に 直面 す る こ と と な った 。 再 び粗 製 濫 造 問題 が 頻 発 す る と共 に、 新 た に設 置 され た 県 立 検 査 所 に よ る検 査 さ え 、 この 品 質 問 題 の 改 善 に何 等 有 用 な 効 果 を 上 げ る こ と は 出 来 な か っ た 。 こ の よ うな 時 期 に、 絹 織 物 同 業 組 合 が どの よ うな手 立 て を 講 じて い た か と い う と、 そ れ は、 組 合 員 の 圧 倒 的 多 数 を 占 め る在 村 小 規 模 絹 織 物 業 者 に と って 、 満 足 の い く もの で は な か った と い え る。 創 立 以 来 農 村 富 農 に指 導 され た 同 業 組 合 の運 営 は、 この 時 期 マ ン ネ リ化 ・官 僚 制 化 し、 受 動 的 な活 動 しか で き な くな っ て い た。 これ は、 農 村 富 農 た ち に は 、 も は や 同 業 組 合 を 主 導 す る こ とが 難 し くな って い た こ と を 表 して い よ う。 この よ うな 同 業 組 合 の 状 況 に対 し、 大 き な不 満 を 募 らせ て い た の は、 輸 出 絹 織 物 業 不 振 の 影 響 を 最 も蒙 って い た 在 村 小 規 模 絹 織 物 業 者 た ち で あ り、 そ れ 故 彼 らが 、 同 業 組 合 に よ る、 よ り一 層 効 果 的 な輸 出絹 織 物 業 振 興 策 を求 め て 、 組 合 執 行 部 を突 き 上 げ る こ とに な っ た。 一 方 川 俣 町 の 絹 織 物 業 者 は 、 この 時期 同業組 合 か らあ る程度 距離 を置 き、 在村 の小 規模 絹織 物業 者 と は異 な った 対 応 を と り、 独 自 の絹 織 物 業 振 興 を 目指 す よ う に な って い た。 さ らに 川 俣 町 の 絹 織 物 業 者 は、 商 人 を 中 心 に 力 織 機 生 産 を 展 開 す る よ うに な り、 そ して そ の 力 織 機 生 産 者 が 伊 達 郡 の輪 出 絹 織 物 業 を担 うよ う に な って い た の で あ る。 この 結 果 、 従 来 以 上 に川 俣 町 の 絹 織 物 業 者 が 、 伊 達 郡 輸 出 絹 織 物 業 の 中 で イ ニ シ ア テ ィ ブ を 発 揮 す る よ う に な り、 そ の 影 響 力 が 大 き くな って い く。 そ の 一 つ の結 露 が 、 同 業 組 合 の 解 体 で あ った と い え よ う。 こ の解 体 を め ぐる騒 動 に お い て は 、 従 来 の 農 村 富 農 対 在 村 小 規 模 絹 織 物 業 者 とい う従 来 の 対 立 の 図 式 は 崩 壊 し、 農 村 富 農+在 村 小 規 模 絹 織 物 業 者 対 川 俣 町 ・飯 野 村 の 絹 織 物 業 者 と い う対 立 構 造 へ と変 貌 を 遂 げ て い た。 そ の 過 程 で 川 俣 町 の絹 織 物 業 者 は、 在 村 業 者 を 切 り捨 て 、 逆 に 県 内 他 産:地の 業 者 との 提 携 を押 し進 め て い く こ と に な る・ と こ ろ で 、 こ の よ うに 輸 出 絹 織 物 業 の イ ニ シア テ ィ ブ を 取 り始 め た川 俣 町 の絹 織 物 業 者 で は あ る が 、 彼 らの 力 の み に よ って 、 力 織 機 導 入 を は じめ とす る斯 業 振 興 策 を展 開 す る こ と は 、 資 金 的 な面
だ け を取 って み て も、 当 時 か な り困難 な もの が あ った 。 従 って ど う して も農 村 富 農 ・資 産 家 か らの 援 助 が 、 客 観 的 に必 要 な 情 勢 に あ っ た。 そ して 実 際 、 川 俣 町 で は こ の 時 期 、 輸 出 絹 織 物 業 を 支 援 す る振 興 策 が 展 開 さ れ て い た の で あ る。 そ の 際 資 産 家 層 は 、 地 域 内 有 力 者 と して 、 絹 織 物 業 振 興 に関 与 ・協 力 す る こ とを 期 待 さ れ 、 ま た 期 待 に反 す る行 動 は許 され な い と い う 「責 任 」 も負 わ され て い た。 そ して 彼 らは そ れ を 、 一 面 で は能 動 的 に果 た して い た の で あ る。 しか し資 産 家 層 の 、 こ の 「責 任 」 行 動 に は 、 一 定 の 限度 が 存 在 して い た。 この よ う な 限 度 を 示 す 資 産 家 層 の 態 度 に対 し、 自分 た ち の 円滑 な 経 営 活 動 の た め、 ど う して も資 産 家 層 の 支 援 を 必 要 と して い た 絹 織 物 業 者 達 は、 資 産 家 層 に 対 して 、 地 域 内 有 力 者 と して の 「責 任 」 を 果 た す こ と、 す な わ ち 基 幹 産 業 で あ る絹 織 物 業 へ の 一 層 の関 与 を 行 う こ とを 要 求 し、 突 き上 げ て い た 。 結 局 、 明 治 期 の主 た る在 来 産 業 振 興 策 で あ る 同 業 者 組 織 化 政 策 に お い て は、 商 業 者 や 精 練 業 者 、 さ らに副 業 的 生 産 か ら 「工 場 」 的 生 産 ま で 、 様 々 な絹 織 物 業 者 が 結 集 し、 農 村 富 農 の 主 導 の 下 、 検 査 業 務 を 中 心 とす る絹 織 物 業 振 興 策 を 展 開 して い た。 この 明 治 期 的 在 来 産 業 振 興 策 の 特 徴 は、 直 接 産 業 に 関 わ ら な い地 域 有 力 者 が 、 そ の 産 業 振 興 策 に積 極 的 に 関 与 し、 主 導 権 を握 って い た こ と に あ る。 っ ま り地 域 一 体 とな って 在 来 産 業 振 興 策 を 展 開 して い た、 とい う性 格 を 持 っ て い た の で あ る。 と こ ろ が こ の 日露 戦 後 期 に は、 同 業 者 組 織 化 政 策 に お い て も、 そ の 主 導 権 が 、 農 村 富 農 ・地 域 有 力 者 か ら、 実 際 に輸 出 絹 織 物 業 を 担 って い る実 業 家 、 特 に 町 場 の 力 織 機 生 産 者 を 中 心 とす る絹 織 物 業 者 に 転 換 し始 め て い た。 彼 らが 絹 織 物 業 に お け る主 導 権 を 取 り始 め た の で あ る。 しか し なが ら彼 ら は、 地 域 有 力 者 か らの支 援 を全 く受 け な い で 、 独 自 に 絹 織 物 業 振 興 策 を 展 開 す る こ と は 、 未 だ 出 来 な か っ た。 従 って彼 らは、 地 域 有 力 者 を 突 き 上 げ、 そ の支 援 を得 よ う と し、 ま た一 方 地 域 有 力 者 は、 あ る程 度 まで の 支 援 を 行 い な が ら も、 絹 織 物 業 者 に、 出 来 る限 りの 自助 努 力 を求 め続 け て い た 。 そ れ 故 日露 戦 後 期 は、 そ れ まで の 農 村 富 農 ・資 産 家 の主 導 に 基 づ く地 域 一 体 的 な在 来 産 業 振 興 策 が 転 換 し始 め た 時 期 で あ った と い え る だ ろ う。 実 業 者 が そ の 独 自性 を 強 め、 業 界 に お け る主 導 権 を 獲 得 す る と共 に、 他 方 で 実 業 者 と 資 産 家 層 の 間 で 、 在 来 産 業 振 興 策 を め ぐ って 激 しい 駆 け 引 きが 展 開 さ れ て い た の で あ る。 従 って 日露 戦 後 期 の 在 来 産 業 振 興 策 は 、 明 治 期 的 な 地 域 一 体 的 性 格 が 変 化 して い く、 過 渡 的 段 階 に あ った と い え る。 そ の後 、 空 前 の繁 栄 期 で あ っ た第 一 次 世 界 大 戦 期 を 経 た1920年 代 、 す で に 農 村 富 農 ・資 産 家 た ち は地 方 企 業 家 的 性 格 を 強 化 し、 資 本 合 理 性 を 追 求 す る よ う に な っ て お り、 従 って 斜 陽 産 業 と な りつ つ あ った 輸 出 絹 織 物 業 振 興 策 へ の支 援 ・関 与 を放 棄 す る よ うに な って い た。 彼 らは、 地 域 普 遍 性 を 強 め 、 在 来 産 業 に 関 与 す るか 否 か を 、 彼 らの 地 域 社 会 に お け る地 位 、 な い しそ れ との 関 係 で は な く、 資 本 合 理 的 な 経 済 的 利 潤 動 機 に よ って 決 定 す る よ うに な って い た の で あ る。 従 って この よ うな 資 産 家 層 の経 済 行 動 意 識 の変 化 に よ って、 明 治 期 に見 られ た よ うな、 在 来 産 業 振 興 策 に お け る資 産 家 と 絹 織 物 業 者 と の結 合 関 係 は崩 壊 して しま う こ と と な っ た。 そ して 地 域 的結 合 関 係 を 強 化 しよ う と し た 絹 織 物 業 者 は、 資 産 家 に代 わ って 、 町 行 政 当 局 を地 域 振 興 策 の 主 体 と して 登 場 さ せ よ う と した。 つ ま り1920年 代 、 そ れ ま で 地 域 経 済 の 擁 護 者 で あ り、 在 来 産 業 振 興 策 遂 行 の重 要 な 一 角 を担 って い た 資 産 家 た ち が 、 経 済 合 理 的 な 行 動 意 識 を支 配 的 と させ 、 そ の 役 割 を 果 た さ な くな る と共 に、 一 部
商 工 業 者 、 さ らに は政 府 ・県 当局 の 期 待 もあ り、 役 場 が 代 わ って そ の役 割 を 担 い っ っ あ っ た と言 え る。 そ して こ の よ う な経 済 行 動 面 に お け る地 域 民 衆 意 識 の 変 化 、 特 に 地 域 内 資 産 家 の意 識 の 変 化 が 、 彼 らの 、 在 来 産 業 振 興 策 に お け る イ ニ シ ア テ ィ ブの 発 揮 、 町 内 一 致 体 制 に よ る展 開 と い う、 明 治 期 的 在 来 産 業 振 興 策 の 性 格 を転 換 させ る こ と に 繋 が って い っ た の で あ る。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
本 論 文 は、 福 島 県 伊 達 郡 の 絹 織 物 業 を 対 象 と して 、 近 代 日本 の 在 来 産 業 に対 す る 振 興 政 策 の 性 格 を 地 域 社 会 との 関 わ りを 中 心 に分 析 した もの で あ る。 全 体 は5章 か らな る。 ま ず 序 章 で は、 分 析 視 角 が 明 らか に さ れ る。 従 来 の 在 来 産 業 論 研 究 は、 経 済 主 体 の経 済 的 合 理 性 を 過 度 に 前 提 と して い る が 、 地 域 経 済 で の 経 済 行 動 に は他 の 動 機 も重 要 だ と して 、 農 村 有 力 者 や 実 業 家 の 行 動 を と お して 在 来 産 業 振 興 政 策 の性 格 を 明 らか に す る こ と が 企 図 さ れ る。 第 一 章 で は 、 明 治 中期 に お け る川 俣 絹 織 物 業 で の 同 業 組 合 活 動 の 展 開 と地 域 社 会 の 関 連 が 分 析 さ れ る。 同 時 期 の 川 俣 絹 織 物 業 で は、 依 然 と して家 族 労 働 力 に よ る零 細 経 営 が 主 流 で あ り、 粗 製 濫 造 が 産 業 発 展 上 の 重 要 な 問 題 と な って い た。 そ の対 策 と して 同 業 組 合 の 設 立 が 目指 され た が 、 そ の 主 導 者 は地 域 社 会 に影 響 力 を もつ 農 村 富 農 で あ っ た。 彼 ら は、 自 らの 直 接 の利 害 と い うよ り地 域 経 済 の 振 興 の た め に同 業 組 合 に 関 与 した の で あ り、 そ の 理 想 主 義 的 な 政 策 の た め に しば しば 実 業 家 と衝 突 した 。 第 二 章 で は、 日露 戦 後 に お け る在 来 産 業 振 興 策 が と りあ げ られ る。 日露 戦 後 に は 町 場 の 小 規 模 業 者 を 中 心 に 力 織 機 導 入 が 行 わ れ 、 彼 らが輸 出 絹 織 物 業 の 主 導 権 を 握 っ た 。 そ の結 果 、 同 業 組 合 は 解 体 す るが 、 依 然 と して 地 域 絹 織 物 業 の 振 興 に は地 域 資 産 家 の 協 力 が 必 要 で あ り、 織 物 業 者 は 資 産 家 の 支 援 を 要 請 し た 。 第 三 章 で は、 1920年 代 の 振 興 政 策 の展 開 が 問 題 と さ れ る。 第 一 次 世 界 大 戦 後 に は川 俣 絹 織 物 業 は 不 振 と な り、 産 業 組 合 や 絹 織 物 業 者 の 負 債 整 理 が 大 き な 問 題 と な っ た。 しか し地 域 資 産 家 は、 地 方 企 業 家 的 性 格 を 強 め、 経 済 合 理 性 を 追 求 す る よ うに な っ た た め 、 絹 織 物 業 へ の 支 援 や 関 与 を放 棄 す る に い た る。 絹 織 物 業 者 は、 代 わ り に 町 当 局 に依 存 して 振 興 策 を実 施 さ せ 、 工 業 組 合 を 設 立 した 。 地 域 資 産 家 の経 済 意 識 の 変 化 が 、 資 産 家 と絹 織 物 業 者 が一 体 とな った在 来 産 業 振 興 政 策 の 構 造 を 変 化 させ た の で あ っ た 。 終 章 で は、 資 産 家 が 在 来 産 業 の 振 興 に 関 与 す る要 因 を 問題 と し、 地 域 社 会 に お け る指 導 的 な 地 位 に そ れ を求 め て い る。 しか し、 在 来 産 業 へ の 関 与 が 次 第 に純 粋 な経 済 活 動 と意 識 され る にっ れ て 、 資 産 家 は在 来 産 業 振 興 か ら は手 を 引 い て い くと さ れ る。 これ ま で 、 在 来 産 業 振 興 政 策 に っ い て の 研 究 は、 主 に 中 小 企 業 政 策 な どの 観 点 か ら行 わ れ て き た。 これ に た い し本 論 文 の特 長 は、 そ の 展 開 を地 域 社 会 の な か に 位 置 づ け、 しか も、 そ の遂 行 主 体 の 意 識 に さか の ぼ って 問 題 とす る とい う新 た な分 析 視 角 を 導 入 した 点 に あ る。 そ の結 果 、 必 ず し も産 業 発 展 の 当 事 者 で は な い地 域 資 産 家 が 、 地 域 社 会 の 指 導 的 地 位 と意 識 を 有 す る た め に 、 当 初 は 地 域 産 業 の振 興 政 策 に 関 与 して い っ た こ と、 しか し後 に は経 済 合 理 性 を 強 め て 、 振 興 政 策 に関 与 しな くな る な どの 新 た な 知 見 が 提 出 され て い る。 こ の 点 は、 本 論 文 の大 き な成 果 で あ る。他 方 、 実 証 的 に は 残 され た 問 題 も多 い 。 例 え ば 、 農 村 富 農 と町 場 の有 力 資 産 家 とを 同 じ存 在 と し て 扱 って い る こ と、 経 済 行 動 の 変 化 か ら経 済 意 識 の変 化 を 直 ち に推 論 して お り、 意 識 変 化 を 実 証 す る方 法 が 確 立 され て い な い こ と、 地 域 社 会 の 中 の 対 立 関 係 の と らえ 方 が 平 板 な こ と、 県 や 町 当 局 の 意 識 変 化 が 扱 わ れ て い な い こ と、 な ど で あ る。 ま た、 こ の 地 域 の 分 析 結 果 が 、 どの 程 度 他 地 域 に も ;適用 で き るの か と い う問 題 もあ る。 しか し、 本 論 文 は、 新 しい視 角 に よ る分 析 と い う基 本 的 メ リ ッ トを 有 して お り、 今 後 の こ の 視 角 に よ る研 究 の 展 開 を大 い に期 待 させ る もの とな って い る。 よ って 、 本 論 文 は、 博 士(経 済 学)論 文 と して合 格 と判 定 す る。