ドイツにおける社会法上の回復請求権に関する覚え書き
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(2) ドイツにおける社会法上の阿復請求権に関する覚え書き. 請求権に閲する理論が,この間どのような展開をしているかを考察した。 ところでわが国においては,国民年金に関して社会保険庁の驚くべき失態が 明らかにされており,社会保障給付を受ける権利のある多くの国民が大きな損 害を被っている O この事件には刑事事件の問題も見受けられるが,社会保障行 政ないし行政法自身の手続過程の問題も直接に結びついている O ドイツにおけ る社会法上の回復請求権の理論がどのような展開を辿っているか,わが国の公 法学も大いに関心を持つべきと感じる O. 第 1章 社 会 法 上 の 回 復 請 求 権 の 性 質. 社会法上の回復請求権は,公法上の不利益調整のシステムの延長線上にある O すなわちこの社会法上の回復請求権のほかにもいくつかの補償システム,たと えば職務責任請求権や公法上の結果除去請求権などがある。 公法上の不利益調整システムは,社会法上の回復請求権の発展に至るまでは 社会給付主体の側での行政活動において誤った行為を補償する唯一の手段とし て妥当していた九社会法におけるこれまで存在する権利救済手段の実効性に は , もちろん強い制約がみられる O そのことは職務責任請求権の場合にも,ま た公法上の結果除去請求権の場合にも明らかとなる O すなわち権利救済としての職務責任請求権は,公務員の過失の証明を要求す るのであり九かつもっぱら金銭での必要なる損害賠償を提供するものであ る 50. また公法上の結果除去請求権は,さらなる柱 C B a u s t e i n ) として,行政の. Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .3 . 4 ただし職務責任請求権においても過失が客観化されつつあるので,両者の区別は相対化される。. r. I 給付行政の理論 j ( 2 0 0 2年,有信堂) 3 6 6頁参照。 この点,村上武日J. Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .3. -3 0.
(3) 法 科 大 学 院 論 集 第 5号. 側の義務違反の前に存在していた状態の原状回復をもっぱらねらうものである O しかし公法上の結果除去請求権によれば,遅れてなされた申請は,. もし給付主. 体の誤った指導により引き起こされた場合でも,補償されえない 6。このよう な公法上の結果除去請求権の弱点を避けるために,社会法上の凪復請求権が構 築された 70 この結果として,発生した損害が, もし適法な行政活動により再び除去され ることができるなら,給付を求めることのできる者に対して原状回復をとおし て自己の権利を実現することができるようになる 8。すなわち,公法上の結果 除去請求権の場合と異なり,適法な行政がなされたならば法律上あるであろう 法状態が回復されるのである 9。その限りでは社会法上の回復請求権は,文言. 4 9条 上はドイツ民法典 (BGB) の一般債務法とよく似ている O すなわち同法 2. Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .3 Vg . lS c h a e f e r,a . a . O .,S . 3 社会法上の回復請求権は,. ドイツにおいて一九六 0年代の初めに,. 6 1頁参 給付行政の重要な部分領域において,新しい法制度として提唱され始めた(村上・前掲書3 照)。しかしマウラ. によれば,社会法上の回復請求権はいつも公法上の結果除去請求権との関連. l . Maurer,a . a . O .,S .8 2 0 )。社会法上の同復請求権の根 のなかでとりあげられているという (Vg 拠としては,結果除去請求権のさらなる発展として理解する説,あるいは給付法における結果除去 請求権とパラレルに存在するとする説,あるいは社会法上の給付関係の副次的義務として理解する 説,あるいは信義誠実の原則から導く説,あるいは以前の状態への実体法上の再設定 ( W i e d e r e i n s e t z u n g ) の特別の事例と理解する説,あるいは s u ig e n e r i s (裁判官固有の法形成)の法制度として理解す. l . Maurer,a . a . O .,S . 821 この点,村上・前掲書3 7 2頁以ドでも指摘している 0 る説とがある。 Vg. 8 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .3 . Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .3 . 結果除去請求権とは, もし,行政庁が違法な行為をしなかったな らば,過去において存夜していたであろう事実上の状態を岡復させるものとして理解される。それ に対して,実現請求権とは,. もし行政庁が違法な行為をしなかったならば,現在存在しているであ. ろう法状態を同復ないし実現させるものとして理解される ( a u c hMaurer,a . a . O .,S . 820)。その 場合,結果除去請求権の場合には,憲法 1 ' .の臼由権を念頭に置いて議論される。すなわち,消極的. s t a t u sn e g a t i v u s ) が前提とされている。ところが,実現請求権の場合には,法的権利や地 地紋 ( 位がこれから形成されるところに,両者の聞には微妙な相違が横たわっている。なおドイツにおい て,公法 1 :の結果除去請求権の根拠に関して,包括的復普請求権説がある。この理論は得べかりし 利益まで合むとする説であり,メンガー ( Menger) の説く説である。. ドイツで通説ではないが,. この理論が,社会法上の回復請求権の根拠として採用されているといわれる。この点,太田照美 「ドイツにおける公法上の結果除去請求権の研究~ ( 2 0 0 8年,有信堂) 1 0 7頁以ト参照。. 3 1.
(4) ドイツにおける社会法上の回復請求権に関する覚え書き. によれば損害賠償責任者は,同時に原状回復の責任があり,. I 賠償責任のある. 状況が生じていなかったなら存在していたであろう状態を回復しなければなら な Lリ と 規 定 し で あ る O このように両者の法効果の文言はほとんど同一である けれども,両者は学説・判例上強い内容上の対立がある。回復請求権は決して 社会給付主体の主観的に避難されるべき取庇ある行為に対するものではなく, 適法な法律の適用を保障し,以前のま目庇ある法の適用を是正するよう行政を義 務づけるものである 100 このようにみると,社会法上の回復請求権の発展は,公法における不十分な 責任システムに帰着させられることができるのである 11。この社会法上の回復. )1 4条や 1 5条 請求権のもっともよく適用されるのは,社会法典 l編 (8GB1 Beratung) や情報提供 (Auskunft) がなされなかったり誤つ の指導・助言 ( てなされた場合である 120 さらに社会法上の回復請求権の位置づけにとって重要と思われる点は,権利 救済手段にあってすべて裁判官法に基づいていることである。事実関係につい. K l a u s e l n ) や法律が存在するときには,社 て社会法典の枠内において条文 ( 会法上の回復請求権は適用されな L、。事実関係の変更につき,回復請求権によ る援助は,ただそれが該当する法律の規定と整合する場合だけである 13。その. 0条 3 理由としては,行政の法律適合性があげられるし,まさにそれは基本法 2 項に規律されていることである 1 4 0. 1 0 Vgl . Goertz,a . a . O .,S . l l f . a . O .,S .3 . 1 1 Vgl .S c h a e f e r,a 1 2 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .3 .. 1 3 Vgl .S c h a e f e r ¥ a . a . O .,S .4 1 4 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .4. 3 2.
(5) 法 科 大 学 院 論 集 第 5号. 第 2章社会法上の回復請求権が適用される場合. 社会法上の回復請求権がもっともよく適用される場合は,権限ある給付主体 の指導がなされなかったり,誤った指導がなされたときである 150 このような 給付受領者や申請者に対する給付主体の義務は,社会法典. l編 1 3条 , 1 4条およ. び1 5条に集約されている 160. 1)社会法典 社会法典. 1編 1 3条 (138GBI)の広報 ( A u f k l a e r u n g )責 任. l編 1 3 条 038GB1 ) の中に規定されている広報責任の概念には,. 全国民,すなわちそれ自体は権利義務の主体たりえない者への一般的な広報責 任が存在する。したがってそれは特定の者に対する個別的な広報責任は含まな. L 、。それゆえ,社会法典 l 編1 3条 038GB1 ) における社会法上の回復請求 権の適用は誤解や間違った一般的広報提供の場合にのみ可能となる 170. 2)社会法典 1編 1 4条 (148GB1 ) の指導・助言 ( B e r a t u n g )義 務 社会法典. 1編 1 3条 038GB1 ) と異なり,社会法典 l編 1 4条 048GB1 ). においては,個別的に特定の者への指導・助言. C B e r a t u n g ) 義務が関わる。. ここでは主観的な相談義務が関係しており,請求権は自然人および法人におよ ぶ 180. a) 第 lの重要な点は,具体的な指導の契機ないし正当な利益がなければな. 1 5 マウラーは,助言(Be r a t u n g )・指導 C B e t r e uung) 義務としている。. 1 6 Vg. lS c h a e f e r,a, a, O "S .4 1 7 Vg. lS c h a e f e r,a . a . O .,S .5 1 8 Vg. lS c h a e f e r,a . a . O .,S .5 .. 3 3.
(6) ドイツにおける社会法上の回復請求権に関する覚え書き. らないことである O たとえば,申請人の指導の求めであり,これは事例の状況 に応じて生ずる O このことが意味することは,指導の必要は,給付主体ばかり でなく,申請人自身からも出てくるのであり,行政庁は全体的関連から義務付 けられる 1 9。また具体的な指導の必要性は,給付主体の側からみて,申請人が 自分でなすことができるかどうか問題なしに指導の希望を提出するだろうとい 0 0 うことに,疑問があるときにも存在する 2. b) 指導の内容と範囲 。 、 指導の内容と範囲は,指導がなされる必要に適合していなければならな L 指導は,適切で,完全でかつ理解できるものでなければならず,口頭,文書お よび電話でなされる O もちろんそれは,およそあらゆる考えられる事例を含ま なければならないというものではない。たとえば,給付主体は,給付受領者が 指導された措置を用いないときに,起こりうる不利益をすべて指摘する義務は 生じない 2 1 。指導の範囲としては,職務上の調査義務 ( A m t s e r m i t t l u n g s p f l i c h t ) を果たすこと,および給付受領者をして,引き続く手続のすべての明らかとな る形成手段について情報提供すること,ならびに明らかに良いと思われるが不 分明な法状況や自己の理解の基礎となっている不分明な法状況について情報提 2 0 供することが含まれる 2. c)指導義務の限界 指導義務は法的な限界のなかで、のみ存在する。たとえば,起こりうる濫用に. B e l e h r u n g ) は存在しな L、。また,将来施行される規定の教示も 関する教示 C. 1 9 2 0 2 1 2 2. Vgl .S c h a e f e r, a,a,O " S, 5, Vg. lS c h a e f e r,a . a . O .,S . 5 f .S c h a e f e r,a . a . O .,S .6 Vgl Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .6. 3 4.
(7) 法 科 大 学 院 論 集 第 5弓. 指導義務の範囲に含まれな L、。かつ,新たな手続を給付受領者のために用いる 義務はな L、。さらに給付主体は,法律により課せられた責任をこえて指導を行 う義務はな L、 2 3 0. d) 他の官庁による指導 指導義務は,権限ある給付主体の領域に制限されな L、。すなわち指導義務違 反は,分業的に行政手続のなかに組み込まれた官庁や人による義務違反も,社 会法上の実現請求権の適用にいたる。その例として,機能的統一体,たとえば 連邦労働官庁と年金保険の場合,失業者の給付の消滅や変更が法律上の年金保 4 0 険における請求権に影響をおよぽしうることがあげられる 2. 3 ) 社会法典 1編 1 5 条 ( 158GB1 ) の情報提供 ( A u s k u n f t ) 義務 社会法典. l編 1 5条 058GB1 ) の情報提供は,ラント法上の権限ある保険. 機関による情報提供の義務におよぶ。これらの機関は,適切な給付主体を指示 し,情報提供を質問してくる者にとって重要な事実問題や法律問題ばかりでな 5 0 く,その解答に対して現在適切に情報提供できる官庁を指示する義務がある 2. 第 3章 社 会 法 典 1編における規律の問題. 社会法上の回復請求権は連邦社会裁判所. (B8G) により配慮、システム. r s o r g e s y s t e m ) のなかで発展してきた。このために生じた判例は公法に (Vo おける不十分で欠紋のある責任体系にたいする解答とみることができる O この 6 0 点が民事法と異なる点であるとされる 2 2 3 2 4 2 5 2 6. lS c h a e f e r,a . a . O .,S .6 . Vg. .S c h a e f e r,a . a . O .,S .6 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .6 Vgl Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .7. 3 5.
(8) ドイツにおける社会法上の嗣復請求権に関する覚え書き. 最初,連邦社会裁判所の努力は前述のように配慮、体系の領域に向けられた。 これらは病気,高齢,所得不能および失業等の生存の危機からの保護を含むも のであった。したがって忘れてならないことは,この分野には特別の法状況が 存在していること,すなわち保険関係したがって保険料の掛金支払があるとい うことである O それゆえ第 lのステップでは,社会法上の回復請求権は年金保 険の領域でなされたことはけっして驚くべきことではなかったのである 2 7 0 このような第 1のステップから出発して,今日では社会法上の回復請求権は, 以下のような三つの場合において存在している O. 1)第 1は,構成要件に欠触がある場合の回復請求権 その例としては,指導助言の誤りにより申請が欠けたことがあげられる。回 復請求権はこのような場合,当事者に構成要件を回復させ,. したがって事後的. に申請を形成させ,給付請求権を遡って実現するのである 2 8 0. 2) 第 2は,形成権における場合の回復請求権 被保険者にとっては,社会保険においては場合により形成権となる。たとえ ば,年金保険においてどの疾病組合にするか,掛金の増額. C A u f s t o c k u n g ). をするかどうか自由な選択に委ねられるときがある O その場合,権限ある行政 主体が適切な時期に指導をしなかったり,正しく助言していないときには,給 付行政主体が国民の形成権を段損したとされうる O 回復請求権の適用により, 当事者は遡及的に自己の形成権を後から選ぶ. 2 7 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .7 .S c h a e f e r,a . a . O .,S .8 2 8 Vgl 2 9 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .8. -3 6. C n a c h h o l e n ) ことができる 290.
(9) 法 科 大 学 院 論 集 第 5号. 3) 第 3は,給付の分配における場合の回復請求権 疾病組合は疾病治療に対する現物給付請求権を違法な拒否によりあるいは不 十 分 な 助 言 に よ り 侵 害 す る (v e r e i t e l n ) ことがある O 判例はこの場合費用償 還請求権を回復請求権により許容する O この権利に基づいて当事者は治療処置 にかかった費用を遡って疾病組合に対して要求できる 300. 第 4章 社 会 法 上 の 回 復 請 求 権 の 要 件. 社会法上の回復請求権については法律上の規律が欠けているために,不利益 調整の必要な要件と効果が法解釈的に,すなわち社会裁判所の絶えさる判例が 必要となる。 BSG により作られる要件と法効果はどのようなものか考察され ねばならな LJ10. 1)義務違反. 3条 -15条に確固として規律されている申請人との聞に 給付主体は, SGB 1 存在する社会法関係からの主要あるいは副次的な義務を違法あるいは不当に行っ た,ということが存在しなければならな L、。このことはとりわけ不作為の助言, 不十分な助言,あるいは間違った助言などと関わるが,なかんずく次のような 場合があるとされる 320 すなわち,不適切な事実の通知,既知のあるいは知りうべき展開を組み入れ て現行法を指摘すべきなのにそれが欠けている場合。給付受領者にとり有利な 形成手段を指摘しなかったことなどがある 330. l .S c h a e f e r,a . a . O .,S .8 . 30 Vg .S c h a e f e r,a . a . O .,S .9 . 3 1 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .9 . 3 2 Vgl 33 Vg l .S c h a e f e r,a . a . O .,S .9 .. -3 7.
(10) ドイツにおける社会法上の回復請求権に関する覚え書き. 給付主体の被用者の過失は必要ではなく 3 4,客観的な義務違反で足りる O 例外は SGB1の 1 3条の広報義務である O なぜなら既述のように国民への広 報に対する一般的な広報義務がそこでは重要なので,けっして社会法上の回復 請求権は根拠っーけられることはな L、。このことがよく理解できるのは期限の徒. 3条との 過の場合である。回復請求権による期限徒過の原状回復は SGB1の1 関わりでは,期限徒過の事例に対する該当規定と一致できな L、。従来のところ,. BSG により唯一認められた事例は,期限徒過が給付主体の広報宣伝紙の誤り によってなされた場合である 3 5 0. 2)他の給付主体の誤った行為の帰責 既述のように,特定の行政過程においては二つの異なる給付主体が機能的な 単一体を構成する場合がある O すなわち第 1の給付主体が分業的に第 2の給付 主体の行政過程に組み込まれる場合である O この機能的単一体においては,第. 2の給付主体が,第 lの給付主体の取庇ある行動につき帰責させられなければ ならない。それゆえ,たとえば給付受領者が第 1の給付主体に相談をし,かっ この第 lの給付主体が,第 2の給付主体に対して課せられている権利と義務に 関して給付受領者に情報提供することを怠ったとき,第 2の給付主体は,給付 受領者に対して給付の拒否あるいは減殺へといたることが起こりうる O このよ うな場合,給付受領者は回復請求権を第 2の給付主体に対して主張する手段を 6 0 もつことができる 3. 3 4 Vg . l Maurer,a . a . O .,S .8 2 0 ; BSozGE4 9,7 6,7 7 f .S c h a e f e r,a . a . O .,S .9 3 5 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 0 . 3 6 Vgl. 3 8.
(11) 法 科 大 学 院 論 集 第 5号. 3)社会法上の損害が引き起こされること CBewirkung) 前述の義務違反により,当事者にとり, 8GB により義務違反がなければ成 立していたところの,手続法上または実体上の,給付権,形成権あるいは防御 権が,まったくなくなるか,あるいは限定的に成立するだけのものとなる 370. 4 ) 義務違反と損害との間の保護目的関連 発生する損害は,正しい助言においては引き起こされなかった危険に由来し なければならな L、。すなわち,義務は,当事者に対してまさしくこの損害から 守るように向けられなければならない 380 もし給付権利者が彼自身の行為により損害を引き起こしたり,寄与している 場合には,寄与過失により回復請求権は生じな L、。たとえば給付権利者が,. BGB 2 7 6条の故意または重大な過失により損害を引き起こした場合,および 3 9 0 したがって,本質的原因とみなされるときには,回復請求権は生じな L、. 第 5章. 社会法上の回復請求権の法効果. 公法上の不利益調整手段としての社会法上の回復請求権は,原状回復のやり 方での損害除去手段である。すなわち, もし給付主体の義務違反がなかったな ら存在していた状態を回復・実現させることである O したがって社会法上の回 0 0 多くの場合社会法上の 復請求権は,法律に対応した目的の実現手段である 4. 回復請求権の目標は,存在していない事実関係の擬制にある O まさにそれは, もし給付主体の義務違反がなかったとしたら存在していたであろうものなので. 37 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 0 3 8 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 1 39 Vg. lS c h a e f e r,a . a . O .,S .1 1 . 4 0 Vg. lS c h a e f e r,a . a . O .,S .1 2. 3 9.
(12) ドイツにおける社会法上の阿復請求権に関する覚え書き. ある 410 この点,公法上の結果除去請求権の場合には,事実として実際にあっ た状態を原状回復させるということで,社会法上の回復請求権と異なるのであ る。もちろん,重要なのは,社会法上の回復請求権は,ただ適法な,. したがっ. て法律上許容された職務活動に適用されるということが指摘される O すなわち, 給付主体としては,この原状回復を,ひとえに法律上許容された枠内で処理し l I の1 2 2条による個人的な失業届けが欠 なければならな L、。たとえば, 8GB1 。 けているというようなことは,擬制によっても補填されるものではな L叫 さらに指摘されなければならないことに,時間的な問題がある O 社会法上の 回復請求権の成立にとり,権利侵害が決定的であるが,社会法上の回復請求権 が成立するのは,不適切な助言がなされたときであって,それは当事者が一年 後に気づいたときであっても,助言がなされた時点が問題となる。したがって 給付が遡って与えられるということになる。唯一の難点 CHaken) は遡及す. 4条 ( 4 )によれば給付は四年間に る給付の提供の継続期間であるが, 8GBX の4 限り遡って支払われうる O 最後に指摘されなければならないことは,社会法上の回復請求権の争訟手段. 1条 l項 である O 社会法上の回復請求権においては,社会裁判所法 (8GG) 5 の事項が問題となるので,社会裁判所の管轄となる O もちろん,給付権利者が, 権力分立原則にならい,まず権限ある給付行政主体へ不服申し立てをなし,そ こで社会法上の回復請求権を主張することもありうる 430. 4 1 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 2 たとえば,既に徒過した申請期限を遵守したとの擬制,申請提 起の日付をずらすこと,まだ支払われていない儲け金を事後的に支払いがあったものとする。. 4 2 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 2 . .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 3 . 4 3 Vgl. 4 0.
(13) 法 科 大 学 院 論 集 第 5号. 第 6章 総 括. 社会法典の総論の部分 (SGB1)において社会保障主体には,市民にたい する特定の助言義務が課されている。これらは SGB1の 1 3条 -15条に規定さ れている。なかんずく SGB1は市民への助言義務を三種類定めている o SGB. I の1 3条は国民への一般的な広報責任を,また同 1 4条は個別的な助言義務を,. 5条は情報提供義務を定めている O これらの,給付主体に対して立法 さらに同 1 者により課せられた義務は,市民にとって包括的,実質的でかっ正しい社会保 4 。この根拠は,まさに複雑でか 障法上の助言を保障しようとするものである 4. つ素人には見透しのきかない社会保障システムが,実際には個人の権利の行使 が保障されないことになってしまうという事実に基づいている 4 5 0 けれどももし給付主体が,法律により課せられた義務に従わないときにはど うなるのか? このような義務違反を再度調整し,市民の権利にとり役立つよ う助けること,まさにこのことが社会法上の回復請求権の課題なのである O 職 務責任請求権の場合と違い,社会法上の回復請求権においては,金銭による損 害補填は問題にならな L、。社会法上の回復請求権はむしろ法律に相応する目的 を実現することが課題である 46。この課題を満たすために,社会法上の回復請 求権は,当事者の手続的,実体的な給付要求権,形成権ないし防御権にとって 盟損となるような不作為の助言,不十分な助言あるいは間違った助言にさいし て,原状回復によって役立とうとする O その際,給付主体の過失は必要ではな いのである O この場合の原状回復は,以前の状態,すなわちもし行政の義務違反がなけれ. 4 4 Vg. lS c h a e f e r,a . a . O .,S .1 3 . 4 5 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 3 まさにこのことを「法関係論」が問題としたところである。 4 6 Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 4. 4 1.
(14) ドイツにおける社会法上の回復請求権に関する覚え書き. ば存在していたであろう法状態の回復である O たとえば,社会法上の回復請求 権は,適時に申請届けが提出されたものと犠牲する 470 時間的にみれば,間違った助言がなされたときというのが肝心なのであり, よしんば当事者がようやく l年後に気がついたといってもである。したがって 社会法上の回復請求権は,遡及的に給付を提供するものである。もちろん 8GB. X の4 4条 ( 4 )によれば給付はせいぜい四年間遡って支払われうるだけであり, かっ法律の規定の枠内で保障されるものである 480 このようにみると,社会法上の回復請求権は公法上の不利益調整においてさ. w e i t e r e rB a u s t e i n ) を構築しようとするものであり,既述のように らに柱 ( 8GB1の 1 4条および同 1 5条の助言義務においてもっともよく適用されるもの である O 社会法上の回復請求権は,連邦社会裁判所によって発展させられてき た,公法における不十分でかっ欠倣のある責任システムへの解答である 490 と. rudiment a e r ) いうのは,民事法と異なり,公法の責任システムは非完結的に ( 作られているからである O したがって,社会法上の回復請求権は,すべて社会 裁判所の裁判官法に根ざしており,絶えざる判例に基づいている。前述の欠献 は,最初は,保険関係にもとづいて掛金支払いを伴った特別な法関係を持つ社 会的な配慮システム (V o r s o r g e s y s t e m ) で問題となった 500 この配慮、システ ムの理念は,市民に対し社会国家原理に基づいて生存にかかわるリスクから保 護しかっリスクを除去しようとするものである。そのことでもって,社会法上 の回復請求権の発展に関する問題は,できるかぎり良い方向で解答されなけれ. 3条 -15条により存在する給付主体の義務の ばならないのである。 8GB1の 1 段損の場合に欠蝕する諸規律のゆえに,連邦社会裁判所が,社会法上の回復請. 4 7 4 8 4 9 5 0. Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 4 . .S c h a e f e r ¥ a . a . O .,S .1 4 . Vgl Vgl .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 4 .S c h a e f e r,a . a . O .,S .1 4 . Vgl. 4 2.
(15) 法 科 大 学 院 論 集 第 5号. 求権を発展させ,従来は強く制約されていた公法上の不利益調整を拡張し,か っ市民に対して. SGB上存在する権利を社会給付主体に対して主張する手段. を与え,かっその都度の給付主体の被用者の意識的あるいは無意識的な違反行 為の場合にも社会国家を保障しようとするものである 510 なお,マウラーの言葉を借りて結びに代えた L、。すなわち,彼によれば,. ド. イツの一般行政法学は,長らく社会法上の回復請求権を考慮してこなかった。 近年になってようやくこの権利が「発見され」かっ急に好んで議論されるよう になってきた。その際,社会法上の凶復請求権の根拠やその形成のみならず, (社会裁判所によって把握できな L、)領域への拡大可能性,あるいは一般化能 力が議論されている。はたして発展の道が聞かれ貫徹されて行くのかどうか, 行くとしたらどのような発展かが待たれる 520 おそらくそれは法治主義をどの ように発展させるかにかかっていると思われる O. 展 望. 以上,最近の社会法上の回復請求権に関する考察であるシェーファーの論文 によりかかりつつ,諸問題を紹介してみた。わが国の実定法の地盤にはドイツ の社会法典のような指導・助言義務がないから,. ドイツの社会法上の回復請求. 権に類する権利は育たないのかもしれな L、。しかしそれに甘んじていると,ど うだろうか,最近のわが国の社会保険庁の国民年金等に関する不祥事事件をみ ても,国民の社会法上の給付を受ける権利がないがしろにされ,まさに詐取さ れていることは,恥ずかしい限りである。行政権による究極の権利侵害である。 たとえドイツのような社会法典における指導・助言義務がないにしても,同じ. 5 1 Vgl .S c h a e f e r, a,a,O "S . 1 4 L 5 2 Vg . l Maurer,a . a . O .,S .8 2 2. 4 3.
(16) ドイツにおける社会法上の l 叫復請求権に関する覚え書き. ような指導・助言義務を日本国憲法から導き出すことができないものか。憲法. 1 3条の個人の尊重規定ばかりでなく,憲法 2 5条の生存権の規定こそ,. ドイツよ. りも強く社会権を保障しているのであるから,すくなくともドイツに匹敵する 指導・助言義務を構想できるのではなかろうか 5 30 その上で,. ドイツにおける. ような原状回復請求権としての社会法上の回復請求権を根拠づけることができ ないものか。 わが国の場合,現在の公法上の不利益調整システムで十分なのだろうか。す くなくとも原状回復の点では,. ドイツにおけるような公法上の結果除去請求権. および社会法上の回復請求権は存在していな L、。ドイツでは,公法上の不利益 調整システムのなかで,パズル箱のなかの一つ一つの四角のパズルのように, 公法上の結果除去請求権や社会法上の回復請求権が拡張的に作られてきた 540 これらはいずれも原状回復の点で共通している。ところがわが国では,真に社 会保障を受ける権利者の利益が,公法上の不利益調整システムのなかであまり にも軽視されているように思える O わが国では,公法上の不利益調整システム を支える柱が少ない,あるとしても弱 L、ように思われる。日本国憲法には裁判 を受ける権利が保障されているのである。それをさらに包括的で実効的なもの 。 、 にしなければならな L. 【なお本稿は,. 日本学術振興会の科学研究費による研究補助の成果である O 研. 5 3 周知のように,わが国で児童手当法をめぐり争われた永井訴訟事件において,広報,周知徹底義 務が問題とされた。 l審京都地裁は広報,周知徹底義務を法的義務と解し,損害賠償責任を認めた (京都地判平成 3年 2月 5日判タ 7 5 1号 2 3 8頁)。しかし,大阪高裁はこれを否定した(大阪高判平成 頁)。京都地裁判決は,憲法 2 条に某つi~ 、て広報は法的義務としたのであっ 5年 1 2 4 号5 0月 5日判自 1 0 5 た。この問題に関する学説の状況につき,浅川・前掲書3 9頁以下参照。ただしわが国の永井訴訟で は損害賠償請求がなされているが,. ドイツの社会法上の同復請求権は原状回復請求権が問題とされ. る点で大きな違いがある O 54 別の比喰で表現すれば,公法上の不利益調整システムのなかで,それを支える柱が増えてきたと. いえよう。. - 44 一.
(17) 法 科 大 学 院 論 集 第 5号. 究代表者は太田照美(大阪国際大学, 2 0 0 9年 4月より京都産業大学),研究分. AndreasS c h e l l e r,広島国際大学)および 担者はアンドレアス・シエラー C 私である。三年間の計 l 珂でドイツと日本の原状回復請求権の問題を比較法的に 研究する予定であるが,本稿はまずドイツにおける社会法上の回復請求権に関 する三人共同の考察である。】. 4 5.
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