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ハーフィンダル指数による競争環境の分析 -車載電子制御システム市場を対象として

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ハーフィンダル指数による競争環境の分析(徳田) 査読研究ノート

ハーフィンダル指数による競争環境の分析

――車載電子制御システム市場を対象として――

徳 田 昭 雄

要 旨  本研究ノートでは,①センサ,ECU(電子制御ユニット),アクチュエータか ら構成される「車載電子制御システム市場」へ参入しているサプライヤの諸類型 とその概略を再確認した上で,②ハーフィンダル指数を拠りどころに,日本にお ける電子制御システム市場の競争環境の分析に取り組むものである。本論から, システムあるいは構成部品ごとの競争の様態が明らかなる。 キーワード 電子制御システム市場,ハーフィンダル指数,競争

1.本稿の目的

 これまで筆者は,「センサ・ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)・アクチュエー

タ」の 3 つの構成部品からなる「電子制御システム市場」を研究対象として,同市場がどの ように形成され,いかなる産業構造(市場規模,参入企業の類型,生産構造,流通構造)に あるのか分析し,その特徴を明らかにしてきた(徳田・佐伯,2007a; 2007b; 2007c)。  本研究ノートでは, ①これまでの研究成果を拠り所にしながら,「電子制御システム市場」へ参入しているサ プライヤの諸類型とその概略を再確認した上で, ②これまでの研究では掘り下げることのできなかったテーマ,すなわち「電子制御システ ム市場の競争環境の分析」に取り組む。  競争環境の分析にあたっては,市場集中度と並んで産業内の競争(寡占)の様態を把握す る指標として様々な産業分析(例:新宅・生稲 , 1999; 蔵 , 2005; 総務省 , 2007)や競争・イノベー ション政策の立案(例:元橋・船越・藤平 , 2005)に用いられてきたハーフィンダル指数(以 下:H 指数)を分析ツールとして適用する。H 指数を用いれば,上位集中度が同じであって も上位企業間格差の存在する場合に数値が異なってくるため,市場集中度との補完的な活用 によって競争の様態をより多面的に把握することができる。 Vol. 2    『立命館ビジネスジャーナル』    2008 年 1 月

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2.参入企業の類型

 電子制御システム市場の競争環境分析に先立ち,同市場にどのようなプレイヤーが参入して いるのかを確認しておこう。徳田・佐伯は(2007 b)は,アイアールシー編『カーエレクトロ ニクス部品の生産流通調査』の 2nd Edition(1992)から 7th Edition(2007)を精査し,日本の 電子制御システム市場への参入企業を以下のように類型化している。  図 1 は,構成部品の種類(セットの幅)と電子制御カテゴリ(システムカバーの幅)を軸に して,それぞれのカテゴリに参入企業を分類したものである。   (1)フルセット型  まず,センサ,ECU,アクチュエータをフルセットで参入している企業が 3 つに類型化され ている。すなわち, ①すべてのカテゴリに参入している企業群を「オールラウンド型」 ②フルセットで 2 ∼ 4 カテゴリに参入している「フルセット・マルチシステム型」 ③フルセットで特定のカテゴリ,あるいはシステムにのみ参入している「フルセット特定シ ステム型」 である。「オールラウンド型」に類型化されるのがデンソーと三菱電機であり,デンソーの参 入しているシステムの厚みと生産数量のボリュームは圧倒的である。  「フルセット・マルチシステム型」には,日立製作所,アイシン精機,ボッシュ,日立ユニ シアオートモーティブ,トヨタ自動車の内製がある。ここに属する企業群は,一部カテゴリあ るいは構成部品に注力しておらず,系列企業と合わせてもオールラウンドに参入していない ボッシュのような企業がある一方,系列企業と補完的に関係を構築してオールラウンドな参入 図 1 電子制御システム市場参入企業の類型 セットの幅 センサ ECU アクチュエータ システムの幅 オールラウンド型 デンソー・三菱電機 フルセット・マルチシステム型 日立製作所,アイシン精機,ボッシュ,日立ユニシア,トヨタ自動車 フルセット特定システム型 ワブコ,オートリブ,ビステオン,カーナビのサプライヤなど センサ・ECU 型 カルソニックカンセイ,ホンダエレシス,松下電器,富士通テン アクチュエータ・ECU 型 アドヴィックス,ケーヒン センサ専業型 アクチュエータ専業型 村田製作所,日本特殊陶業など 日信工業,日本インジェクタなど 出所)徳田昭雄・佐伯靖雄「自動車のエレクトロニクス化 (2) 車載電子制御システム市場の分析」『立命館経営学』46-3 より

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ハーフィンダル指数による競争環境の分析(徳田) を確保している企業もある。例えば日立製作所は車両とボディ制御カテゴリに注力していない が,日立系列の日立ユニシアオートモーティブやクラリオンが補完している。ただし,トヨタ 自動車の内製に関しては,系列企業と重複しているシステムもあり,補完的関係というよりは, むしろ競合関係にあるといえる。  「フルセット特定システム型」には,シェアは低いものの外資系企業とナビゲーションシス テム専業サプライヤ(パイオニア,アルパイン,ケンウッド,アサヒ)の名前があげられてい る。外資系企業については,ABS や ESC,EPS などの車両制御カテゴリにコンチネンタル・テー ベス(車両制御)やワブコ,ボディ制御のエアバッグシステムに TRW やオートリブ,そして 電子制御燃料噴射システムでビステオンなどがここに類型化されている。   (2)センサ・ECU 型,アクチュエータ ECU 型  次に,センサ,ECU,アクチュエータのうち,2 種類の構成部品に参入している企業が 2 つ に類型化されている。すなわち,  ④センサと ECU を手掛ける企業群の「センサ・ECU 型」  ⑤アクチュエータと ECU を手掛ける「アクチュエータ・ECU 型」 である。「センサ・ECU 型」には,CK,ホンダエレシスといった完成車メーカーの系列企業 とトヨタ自動車関連の合弁会社である富士通テン,そして松下電器が類型化されている。  一方の「アクチュエータ・ECU 型」には,ホンダ系列のケーヒンとトヨタ系列の合弁企業 であるアドヴィックスが類型化されている。ECU を除くセンサとアクチュエータを手掛ける 企業は皆無に等しい。   (3)専業型  次に,特定の構成部品に特化している企業群であり,これらは  ⑥「センサ専業型」  ⑦「アクチュエータ専業型」 に類型化されている。「センサ専業型」には,エアバグシステムのGセンサ及びカーナビのジャ イロセンサに参入している村田製作所や,電子制御燃料噴射装置 (PET) の酸素センサに参入し ている日本特殊陶業,ホンダロックなどが類型化されている。  一方,「アクチュエータ専業型」には,完成車メーカー系列としてホンダ系列の日信工業, 日産系列の愛知機械工業が類型化されている。その他,インジェクタの専業サプライヤである 日本インジェクタや,エアバッグシステムのインフレータでは,オートリブやダイセル,タカ タが名を連ねている。また,日本電産がトーソクを傘下におさめて(日本電産トーソク),AT や CVT のコントロールバルブに参入している。なお,ECU 専業の企業は皆無である。  以上,徳田・佐伯(2007)に従って,電子制御システム市場へ参入しているサプライヤを類 型別に再確認してきた。以下では,1990 年代初頭から今日に至るまで,これら参入サプライ

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1 主要システム別 H 出所)アイアールシー(各年版)をもとに筆者作成。 西暦 1992 1995 1998 2001 2004 2007 シ ス テム SENSOR E CU ACTUATOR S ENSOR E CU ACTUATOR S ENSOR E CU ACTUATOR S ENSOR E C U A CTUATOR S ENSOR E CU ACTUATOR S ENSOR E CU ACTUATOR 電子制御 O2 ( 酸素) センサ E CU インジェクター O 2 ( 酸素) センサ E CU インジェクター O 2( 酸素) センサ E CU インジェクター O 2 ( 酸素) センサ E CU インジェクター O 2 ( 酸 素) センサ E CU インジェクター O 2 ( 酸素) センサ E CU インジェクター 燃料噴射 0.43 0.25 0.23 0.35 0.20 0.20 0.45 0.18 0.19 0.44 0.17 0.19 0.43 0.21 0.20 0.4 90 .2 0 0 .2 4 装置 0.43 0.25 0.35 0.35 0.22 0.30 0.45 0.18 0.28 0.44 0.20 0.32 0.43 0.22 0.36 0.4 90 .2 2 0 .3 6 (PET) エ アフロメーター エ アフロメーター エ アフロメーター エ アフロメーター エ アフロメーター エ アフロメーター 0.28 0.26 0.30 0.32 0.46 0.51 0.28 0.26 0.30 0.32 0.46 0.51 バキュ ー ムセンサ バキュ ー ムセンサ バキュ ー ムセンサ バキュ ー ムセンサ バキュ ー ムセンサ バキュ ー ムセンサ 0.62 0.61 0.75 0.69 0.57 0.62 0.62 0.61 0.75 0.69 0.57 0.62 スロットルセンサ ス ロットルセンサ ス ロットルセンサ スロットルセンサ ス ロットルセンサ スロットルセンサ 0.21 0.17 0.16 0.18 0.21 0.23 0.26 0.27 0.23 0.28 0.35 0.38 水温センサ 水温センサ 水温センサ 水温センサ 0.29 0.27 0.27 0.35 0.29 0.27 0.27 0.35 TCS 車輪速度センサ E CU アクチュ エータ 車 輪速度センサ ECU ア クチュ エ ータ 車輪速度センサ ECU ア クチュ エ ータ 車輪速度センサ EC U ア クチュ エ ータ 車輪速度センサ ECU ア クチュ エ ータ 0.25 0.33 0.42 0.23 0.29 0.34 0.26 0.42 0.42 0.25 0.45 0.29 0.28 0.36 0.35 0.32 0.33 0.71 0.30 0.29 0.51 0.44 0.42 0.66 0.46 0.45 0.46 0.53 0.44 0.46 ABS 車輪速度センサ ECU ブレーキアク チ ュエ ー タ 車輪速度センサ ECU ブレーキアク チ ュエ ー タ 車輪速度センサ ECU ブレーキアク チ ュ エ ー タ 車輪速度センサ E CU ブレーキアク チ ュエ ー タ 車輪速度センサ E CU ブレーキアク チ ュエ ー タ 車輪速度センサ E CU ブレーキアク チ ュ エ ー タ 0.24 0.23 0.23 0.16 0.16 0.16 0.17 0.15 0.19 0.19 0.11 0.13 0.23 0.26 0.26 0.1 9 0 .34 0 .19 0.27 0.25 0.27 0.21 0.18 0.19 0.24 0.23 0.29 0.30 0.17 0.19 0.40 0.35 0.36 0.3 0 0 .40 0 .29 Gセ ン サ Gセ ン サ Gセ ン サ Gセ ン サ 0.24 0.17 0.20 0.24 0.42 0.24 0.23 0.42 EPS ト ルクセンサ E CU アクチュ エーター トルクセンサ ECU ア クチュ エ ータ トルクセンサ ECU ア クチュ エ ータ トルクセンサ ECU ア ク チュ エータ ト ルクセンサ E CU アクチュ エータ ト ルクセンサ E CU アクチュ エータ 0.36 0.50 0.50 0.34 0.51 0.54 0.27 0.36 0.47 0.37 0.46 0.55 0.32 0.43 0.28 0.3 80 .4 0 0 .2 7 0.36 0.50 0.50 0.34 0.51 0.54 0.27 0.36 0.47 0.37 0.46 0.56 0.40 0.45 0.31 0.3 80 .4 0 0 .2 7 ESC ヨーレイトセンサ ECU ア クチュ エ ータ ヨーレイトセンサ ECU ア クチュ エ ータ ヨーレイトセンサ ECU ア クチュ エ ータ ヨーレイトセンサ E CU アクチ ュ エータ 0.41 0.35 0.39 0.40 0.29 0.30 0.29 0.41 0.39 0.49 0.50 0.30 0.41 0.69 0.69 0.40 0.43 0.50 0.29 0.50 0.50 0.49 0.53 0.38 ブレー キ 圧力センサ ブ レー キ 圧 力センサ ブレー キ 圧力センサ ブ レー キ 圧 力センサ 0.42 0.41 0.41 0.49 0.42 0.41 0.41 0.49 ス テ アリングセンサ ス テ ア リングセンサ ス テ アリングセンサ ス テ ア リングセンサ 0.41 0.41 0.42 0.38 0.41 0.41 0.42 0.38 G セ ンサ G セ ンサ G セ ンサ G セ ンサ 0.69 0.52 0.32 0.49 0.69 0.53 0.32 0.49 Airbag Gセンサ ECU イ ンフレータ G センサ E CU インフレータ Gセ ンサ ECU イ ンフレータ G センサ E CU インフレータ Gセンサ E CU インフレータ G センサ E CU インフレータ System 0.18 0.25 0.69 0.10 0.15 0.42 0.14 0.13 0.39 0.12 0.12 0.27 0.16 0.13 0.30 0.2 30 .1 8 0 .4 0 0.24 0.25 0.69 0.14 0.16 0.42 0.23 0.22 0.39 0.20 0.20 0.27 0.24 0.20 0.30 0.2 80 .2 3 0 .4 0 セーフィ ングセンサ セ ーフィ ン グセンサ セーフィ ングセンサ セ ーフィ ン グセンサ 0.13 0.12 0.14 0.22 0.20 0.22 Navigation GPS用ユニ ット ECU デ ィスプレイ G PS用ユニ ッ ト E CU ディスプレイ GPS用ユニ ット ECU デ ィスプレイ G P S用ユニット ECU デ ィスプ レ イ G PS用ユニット E CU ディスプ レイ G P S用ユニット ECU デ ィスプ レ イ System 0.92 0.38 0.38 0.26 0.21 0.24 0.15 0.16 0.13 0.19 0.19 0.19 0.19 0.19 0.27 0.1 50 .1 50 .1 7 0.92 0.38 0.38 0.29 0.24 0.24 0.19 0.20 0.13 0.26 0.26 0.24 0.29 0.29 0.27 0.1 50 .1 80 .1 7 地磁気センサ 地磁気センサ 0.38 0.17 0.38 0.17 ジャイ ロ セ ン サ ジ ャイ ロセ ンサ ジャイ ロ セ ン サ ジ ャイ ロセ ンサ 0.47 0.71 0.75 0.75 0.47 0.71 0.75 0.75

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ハーフィンダル指数による競争環境の分析(徳田) ヤが同市場にていかなる競争を展開してきたのか,その様態を明らかにしていく。

3.電子制御システム市場の競争環境分析

(1)ハーフィンダル指数分析にあたって  一般的に,産業内における競争の様態を定量的に把握するオーソドックスな指標として,① 集中度(上位三社の集中度:マーケットシェアの合計)や,② H 指数(ハーフィンダル指数) が用いられる。それぞれ,産業内におけるおおよその競争の様態を把握するには便利な指標で はあるが,3 社集中度では上位企業間の格差が考慮されることはない。また,H 指数が低い場 合は市場における競争は厳しく,H 指数が高い場合は市場における特定企業の独占的な傾向が 強くなっていると判断することができる。  ここでは H 指数を分析ツールに用いて,アイアールシー編(各年版)をもとに,1992 年か ら 2007 年に至る電子制御システム市場の競争の様態とその推移を把握していこう1)。  まず,セグメント(システムとセットのマトリクス)ごとに H 指数を示した表の説明をし ておく。表 1 は,主要 7 システム(電子制御燃料噴射装置 [PET],TCS:トラクション・コン トロール・システム,ABS,EPS:電動パワーステアリング,ESC:横滑り防止装置,エアバッグ, ナビゲーションシステム)を抽出し,それぞれの構成部品の H 指数を計算したうえで,1992 年から 2007 年までの H 指数を時系列に示したものである。  各セグメントに 2 つの数値が記されているのは,上段に各社ごとのシェアをもとに計算され た「通常」の H 指数が示され,下段に「トヨタ系列をひとつの企業として把握」した場合の H 指数が示されているからである。それぞれの H 指数を求めた理由は,電子制御システム市 場においては,デンソー,アイシン精機,アドヴィックスのみならず,トヨタ自動車による内 製を含めて,トヨタ系列サプライヤのプレゼンスが非常に高く,同じ系列サプライヤとはいえ デンソーとアイシン精機は競合関係にあることから,競争の様態をより内容豊富に明らかにす る狙いがあるためである。  2 つの H 指数を算出することによって,たとえば「通常」の H 指数と「トヨタ系列サプラ イヤをひとつの企業とし把握」した場合の H 指数にかい離が大きい場合,それはトヨタ自動 車が構成部品の調達にあたって,系列内サプライヤ間での競争を実現させている様態を描写す ることができる。  表 1 を使って具体的に見ておくと,両数値の乖離が最も大きいセグメントのひとつである TCS の車輪速度センサ(2004 年)では,  ・「通常」の H 指数(上段)= 0.28 1)H 指数は,「競争業者の多さ」あるいは「規模・パワーの同等程度」を表す指標である。   H 指数=∑(各社の市場シェア)2 。  指数を導くにあたって,売上高ベースのシェアをみる場合と,本稿のように生産実績ベースのシェアでみる 場合がある。

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 ・「トヨタ系列をひとつの企業とし把握」した場合の H 指数(下段)= 0.53 になっている。前述のように,この H 指数の大きな乖離は,トヨタ系列サプライヤ間の競争 の激しさを物語るものである。すなわち,同セグメントはデンソーとアイシン精機がそれぞれ 35.7%のシェア(トヨタ系列として 71.4%)にあり,トヨタ系列内部で拮抗した競争関係に あることを確認することができる(アイアールシー , 2004; 徳田・佐伯 , 2007b)。  センサ,ECU,アクチュエータの各構成部品をみた場合,両数値の乖離が大きくなる傾向に あるのがセンサ(車輪速度センサ)とアクチュエータである。そして,主要 7 システムの中で も,特に TCS において通時的にその乖離が顕著である。これは,前述のごとくトヨタ系列内 部でデンソーとアイシン精機がしのぎを削っているからに他ならない。  ただし,2004 年の両数値を見比べてわかるように,近年になってアクチュエータの H 指数 の乖離が急速に縮小している。これは,競合関係にあったデンソーとアイシン精機の両社が, 住友電工とともに 2001 年にアドヴィックスに統合されたからである。この統合によって,ボッ シュ,コンチネンタル・テーベスに対抗しうるブレーキサプライヤが誕生したことになる。H 指数の変化は,このような業界における大規模な再編を的確に表す。それでは,H 指数を頼り にしながら,その他の主要システムの競争環境分析を順次行っていくことにしよう。 (2)電子制御燃料噴射装置(PET)  電子制御燃料噴射装置(PET)は,複数のセンサによってシステムが構成されている。センサ・ セグメントは,スロットルセンサを除き,他のシステムに比べて概して H 指数が高い値で推 移(=高止まり)している。これは,同セグメントではでは圧倒的にデンソーのプレゼンスが 大きいからである。唯一,スロットルセンサについては,同じくトヨタ系列サプライヤの愛三 工業がデンソーのシェアを抑え,比較的競争的なセグメントになっているといえる。  センサに比べて,ECU とアクチュエータの H 指数は低く,市場が競争的に推移している。 これは,電子制御燃料噴射装置(PET)の ECU は自動車の中核部品であるエンジンの制御に 関わる基幹デバイスであり,アウトソーシングせずに,各自動車メーカーの系列サプライヤが それぞれ力を入れているからである。一方のアクチュエータは,ECU ほど競争的な環境には ない。しかしながら,指数の乖離を見てわかるように,トヨタ系列内で複数の企業がアクチュ エータ市場に参入していることから,個別のサプライヤにとって競争環境は厳しいものになっ ている。これは,先にみたスロットルセンサと同じく,デンソーと愛三工業が競合関係にある ことが背景にある。ただし,エンジン関係ではデンソーと愛三工業が部品の標準化をはじめと する協調関係を深めていることから,トヨタ自動車の出方次第では,一気に寡占的な市場が形 成される可能性も孕んでいる。   (3)ABS  ABS は,構成部品全般を通じて主要システムの中で最も H 指数が低い競争的なシステムで

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ハーフィンダル指数による競争環境の分析(徳田) ある。中でも最も競争環境の厳しいセグメントが 2001 年の ECU であり,「通常」の H 指数(上段) が 0.11,「トヨタ系列をひとつの企業とし把握」した場合の H 指数(下段)でも 0.17 にしかな らない。単純に考えると,H 指数が 0.11 とは 10%のシェアを持つ企業が同じセグメントに 10 社近く参入している,非常に競争が激しい市場を想定することができる。  この点,各サプライヤのシェアを確認しておくと,同セグメントのトップシェアのデンソー ですら,シェアは 17.7%である。その他,10%以上のシェアを有するサプライヤは,ボッシュ ブレーキシステム(同 16.8%)と三菱電機(同 13.0%)だけである(アイアールシー , 2004; 徳田・佐伯 , 2007b)。ただし,ECU 及びアクチュエータ(ブレーキアクチュエータ)の H 指 数が,2004 年のデータから約 2 倍ポイントが高くなっている。これは,先述の TCS と同じく トヨタ系列サプライヤがアドヴィックスに統合された結果である。  センサ(車輪速度センサ)の上段と下段の乖離が大きいのは,先述の TCS の車輪速度セン サと同じく,トヨタ系列内部でデンソーとアイシン精機がしのぎを削っているからである。   (4)EPS・ESC  同じ車両制御カテゴリに属する EPS と ESC は,全構成部品にわたって H 指数が高く推移し ているシステムである。これは,それぞれのセグメントに参入しているサプライヤがそもそも 少ないことや,各セグメントに 2 社ずつメガ・サプライヤが存在していることによる。例えば, EPS のセンサ市場では,光洋電子工業と東京コスモス電機が 80%以上のシェアを占め,ESC のセンサでは,デンソーとボッシュの 2 社で 80%以上のシェアを占めている。同じく,EPS の ECU ではデンソーと三菱電機の 2 社が,そして ESC の ECU ではアドヴィックスとボッシュ の 2 社で 80%以上のシェアを占めている(アイアールシー , 各年版)。  これに対して,H 指数の推移を見てみると,アクチュエータは近年になって次第に競争的な 市場環境に変化してきている。これは,EPS に関しては圧倒的なシェアを誇ってきた三菱電機 の牙城に,デンソーの子会社であるアスモが割って入ってきたことによる。また,ESC につ いては,アドヴィックスの誕生による市場の寡占化以上に,ボッシュやコンチネンタル・テー ベスといった外資系企業との競争が激しくなってきている影響による。  なお,ABS と比べると,EPS・ESC は上段と下段の値が同値の場合が多く,違ったとしても その乖離が一貫して小さいことから,トヨタ系列内における競争がほとんど行われていないセ グメントといえる。 (5)エアバッグシステム  エアバッグシステムは,構成部品によって競争環境が全く異なるシステムとして特徴づける ことができる。センサと ECU に関して言えば,エアバッグシステムは ABS と並んで H 指数 が低い競争的な市場である。とりわけセンサは,主要システムの中で最も競争的な市場であ り,参入サプライヤが最多のセグメントになっている(アイアールシー , 各年版 ; 徳田・佐伯 ,

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2007b 2007c)。ECU に関しても,1995 年以降,H 指数は一貫して 0.2 ポイントを下回っている。  これに対して,アクチュエータ(インフレータ)は,波はあるものの 2007 年まで H 指数が 他のシステムよりも高く推移している。これは,インフレータ市場に参入しているサプライヤ が限定的であることによる。  1992 年から 2001 年にかけて漸次 H 指数は低下していたが,近年になってその値は高くなっ てきている。同市場で競争を展開してきた主要三社であるダイセルセイフティシステムズ,オー トリブ,タカタのうち,ダイセルセイフティシステムズが急速に力をつけ,トップのシェアの 値が大きくなっていることが H 指数アップの背景にある。   (6)ナビゲーションシステム  ナビゲーションシステムは,ジャイロセンサを除くすべての構成部品について H 指数が低く, 競争の激しい市場といえる。最新の 2007 年データをみると,センサ(GPS ユニット),ECU, アクチュエータ(ディスプレイ)とも,H 指数は 0.2 を下回っている。これは,総合電機系サ プライヤ,ナビゲーション専業サプライヤ,トヨタ系列サプライヤ(アイシン・エイ・ダブリュ, デンソー)が入り乱れ,先述のエアバッグシステムに次いで参入サプライヤが多いからである (アイアールシー , 各年版 ; 徳田・佐伯 ,2007b 2007c)。比較的新しく市場に導入されたナビゲー ションシステムではあるが,市場規模の拡大も鈍化傾向にあることから,すでにサプライヤ間 の消耗戦に突入していると捉えることができる。テレマティクスの導入など,ユーザーに訴求 力の高い付加価値の創造を通じた市場拡大が望まれる。  これら競争の激しいナビゲーションシステムの構成部品の中にあって,唯一ジャイロセン サの H 指数は高く(= 0.75),主要システム全セグメントの中でも最高の値である2)。これは, 参入サプライヤがパナソニックエレクトロニックデバイスと村田製作所の 2 社のみであり, 同市場ではパナソニックエレクトロニックデバイスが圧倒的なプレゼンス(2007 年シェア= 85.5%)を誇りっているからである。

4.小   結

 本研究ノートでは,「電子制御システム市場」へ参入しているサプライヤの諸類型とその概 略を再確認した上で,H 指数を用いて主要システムごとに同市場における競争の様態を描写し てきた。  電子制御システム市場と一口にいっても,システムによって,あるいは構成部品によって競 争の様態は千差万別であることが確認できた。最後に,競争環境を時系列で眺めた場合のシス 2)過去を遡るならば,主要システムの中で最も H 指数が高かったのは,1992 年の GPS 用ユニット(= 0.92 ポイント,シェアトップはパイオニアの 95.6%)。しかし,1992 年当時は,ナビゲーションシステム市場自体 が導入期にあり,パイオニアの出荷数も 2,530 台に過ぎないことから,H 指数が最も高いセグメントであるこ とに殊更大きな意味はない。

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ハーフィンダル指数による競争環境の分析(徳田) テムごとの特徴を簡単に以下のようにまとめて,本研究ノートの結びとしておく3)。 ・電子制御燃料噴射装置(PET):時系列にみて,競争環境に大きな変化が見られない。 ・ABS:トヨタ系列サプライヤの統合によって誕生したアドヴィックスの影響により,ECU とアクチュエータでは競争が緩和傾向にある。 ・EPS:かつて圧倒的な競争優位にあった三菱電機に代わってデンソー子会社のアスモが力 をつけてきたことにより,競争的な環境に変化しつつある。 ・エアバッグシステム:センサ・ECU とアクチュエータでは競争の様態が大きく異なるが, 時系列でみた場合,競争環境に大きな変化は見られない。 ・ナビゲーションシステム:波はあるものの,一貫して厳しい競争にある(ジャイロセン サは一貫して寡占的である)。 謝辞 本研究ノートの作成にあたっては,経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット「標準化経済性 研究会」委員から有益なご意見を頂いた。また,本誌への投稿・修正プロセスにあっては,匿名のレフェ リーから「論稿に不可欠な要件」に関って貴重なコメント・ご教示を賜った。この場を借りて諸氏に御 礼申し上げたい。  尚,本稿は平成 17 年度産業技術研究助成事業費助成金 研究課題「自動車車載電子制御システムの 日欧標準化推進コンソーシアムにおける標準策定プロセスおよびコンソーシアム運営手法の国際比較・ 分析」(研究代表者:徳田昭雄)」,平成 18 年科学研究費若手 (B) 課題番号 18730265,平成 19 年電気通 信普及財団研究奨励により助成を受けた研究の一部である。 参考文献 アイアールシー各年版(1992,1995,1998,2001,2004,2007)『カーエレクトロニクス部品の生産流通調査』 アイアールシー

蔵琢也(2005)「各種計量指標から見るゲーム機ハードの歴史」『ITEC Research Paper Series』05-06, June 元橋一之・船越誠・藤平章(2005)「競争,イノベーション,生産性に関する定量的分析」競争政策研 究センター 新宅純二郎・生稲 史彦(1999)「家庭用ゲームソフトにおける開発戦略の比較」『ディスカッション・ペー パー』CIRJE-J-11,東京大学大学院経済学研究科・経済学部 総務省(2007)『平成 19 年度 情報通信白書』東京:ぎょうせい 徳田昭雄・佐伯靖雄(2007 a)「自動車のエレクトロニクス化 (1) 車載電子制御システムの分析」『立 命館経営学』第 46 巻 第 2 号 徳田昭雄・佐伯靖雄 (2007 b)「自動車のエレクトロニクス化 (2) 車載電子制御システムの分析」『立命 館経営学』第 46 巻 第 3 号 徳田昭雄・佐伯靖雄 (2007 c)「自動車のエレクトロニクス化 (3) 車載電子制御システムの分析」『立命 館経営学』第 46 巻 第 4 号 3)これらシステムごとの諸特徴に対して,「主要システム別の分析結果をもとに,システム横断的に何らかの 傾向が見出せたのか?」と問われると回答に窮する。同じ車両制御のカテゴリにあっても,ABS と EPS の競 争環境は対極である。最も知識集約的な ECU が,センサややアクチュエータに比べて恵まれた競争環境にあ るかといえば,必ずしもそうとは言えない。H 指数が 0.2 ポイントを切るほど競争が激しいがゆえにサプライ ヤ間で合従連衡が起こる場合もあるが,競争が激しくとも 10 年以上参入企業の顔触れが変わらない場合もあ る。

(10)

The analysis of the competitive environment in Japanese

automotive electronic-control-system market.

Akio TOKUDA

Abstract

  The objective of this paper is to describe the competitive environment of automotive

electronic control system market in Japan, by invoking the Herfindahl-Index which

is made use nornmally of the analytical framework for grasping the competitive

environment of a specific industry. The characteristics of the market by each segment

could be clalifi ed by means of this analysis.

Keywaors:

参照

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