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中国国際私法における弱者利益の保護 利用統計を見る

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(1)

著者

徐 瑞静

雑誌名

アジア文化研究所研究年報

49

ページ

170-153

発行年

2014

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007395/

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徐  瑞 静

1 序論 (1)弱者保護理論の生成および発展 産業革命の成功が,その一方において,多方 面における強者と弱者との不平等をも生じさせ た結果,弱者保護の問題は,今日,諸国の大き な社会問題となっている。弱者とは,民商事関 係において,本来平等であるべき権利主体のう ち,勢力が弱いか,または,不利な地位を強い られた当事者をいう。一方当事者がその経済的 地位の弱さのため,経済力の強い他方当事者に 服従せざるをえないのに対して,他方当事者 は,その豊富な情報や技術的知識をもって,有 利な立場に立つことができる。しかし,このよ うな立場や地位によってもたらされた不平等現 象は,法律上,公平および正義の観念から認め られないものであり,また,国家秩序において も,国際社会の秩序においても許容されるべき ではなく,不平等現象を是正する機能を有する 法規範の確立により,富の不均衡を始めとする 利益の配分を是正しようとすることが今日的趨 勢となっている1 かつて,イギリスの法学者ヘンリー・ジェー ム ス・ サ ム ナ ー・ メ イ ン(Henry James Sumner Maine)は,1861 年に発表したその 著書『古代法』において,進歩的社会において, 人々は身分から解放され,個人間の契約によっ て法秩序が形成されることとなり,このような 社会的展開を「身分から契約へ」というように 表現した2。社会発展の趨勢に乗じて,人々が 実生活における自由および平等の身分の意識が 普及するに従い,法律面においても,法の下の 平等の原則による規制が整備され,その結果, 現代国家の憲法や法律には,人々の自由,権利 平等,意思尊重などのような人権保護が強調さ れている。国民は,人種,民族,性別,年齢, 地位などの個人状況の差異の如何に拘わらず, 法が認める範囲内において,法律関係の主体と なり,本人の意思に従って自由に社会活動を行 うことが許されるようになった。従って,メイ ンによって唱えられた「身分から契約へ」の潮 流は,法律により,明文をもって保護されてき た。しかし,20 世紀に入ってから,「身分から 契約へ」の理論に対して,実質的な変更の要請 が現れるようになったことが,アメリカのロス コ・ボンドにより,その著書『普通法の精神』 において論じられている3。当初,個人の自由 や平等を保護する国家の役割として,個人の自 由,平等が侵害されない限り,政府は不渉の政 策を採ったが,その後,極端的な放任政策は国 家干渉政策へと変更され,とくに,福祉の保障 や援助の強化が人々の身分に基づいて取得され ることが要請され,それに伴う福祉国家の出現 は,メインの「身分から契約へ」が実態から掛 け離れていることを実証した4。社会の変化は, 身分に対する変化として,法分野においても, 特定の者の立場に配慮するようになり,とくに, 女性,高齢者,未成年者,消費者,労働者,権 利被害者のように,不利益を強いられた者に対 する形式的平等から実質的平等への調整が図ら れて,弱者利益の保護が強化される傾向が顕著 なものとなっている5

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「契約から身分へ」という変革は,法律の発 展における近代化から現代化への変容と呼応す るものである。近代法が修正を経て現代法にな るということは,とくに,第二次世界大戦後に おける調整の趨勢が,抽象的人格から具体的人 格,全体保護から弱者保護,自由放任から国家 干渉,形式的正義から実質的正義へ,個人本位 から社会本位への変化として具現化している。 契約の基本は平等であり,自由な契約はその背 後に平等な当事者の存在を前提としている。形 式的平等から実質的平等への変化は,抽象的人 格から具体的人格への進化過程である。近代民 法における民事主体が,一切の人,すなわち, 国籍,年齢,性別,職業を区別していない抽象 的な人であるのに対して,現代民法においては, 近代民法に定められている抽象的人格の規定を 維持すると当時に,具体的な人格の存在をも顧 慮している。そして,形式的平等から実質的平 等への変化の過程は,換言すれば,全体保護か ら弱者保護への変化の過程である6 (2) 弱者保護理論の国際私法への影響 近代私法における三大原則として挙げられる のは,所有権絶対の原則,契約自由の原則,過 失責任の原則である。そして,日本においては, 大戦後,それらのいずれの原則も,それぞれ, 現代法における利益考慮の観点から修正を受け るに至っていることも良く知られているところ である。所有権絶対の原則については,民法第 1条第1項が,公共の福祉のために制限するこ とができると定めており,また,契約自由の制 限については,借地借家法等の特別立法が経済 的弱者に不利を強いる契約を制限しており,さ らに,過失責任の原則についても,特別立法に おける無過失責任の法理の導入により,一般的 潮流としての被害者保護の立場を明らかにして いる。これらの修正はいずれも民事法について 行われているものであるが,実質法の各分野に おけるのみならず,間接法たる国際私法におい ても,渉外民商事関係における弱者たる当事者 の存在が考えられ,国際私法における弱者保護 のための構成が考慮されてきた。例えば,諸国 国際私法に一般的な契約自由の原則は,国際私 法上においては当事者自治,すなわち,契約当 事者による準拠法選択を原則的に許容する立場 として,また,過失責任の原則は,不法行為の 準拠法選定における不法行為地法主義の立場と して発現しているが,それと同時に,弱者保護 の思想からの確かな影響も受けており,大戦後 の早い時期から,フランスのシャルル・クナッ プ(Charles Knapp)によって唱えられて以来, 弱者利益の保護の趨勢は,近代私法の修正の対 象としての契約や不法行為責任に止まらず,未 成年者たる子や要扶養者の保護等,家族法の分 野にまで及んでおり,不動の立場として定着し ている7 かくして,現在,国際私法上においても,弱 い立場に陥られた弱者を保護することは,社会 秩序の根幹にも関わる重要問題として,諸国の 関心を集め,国際条約および国内立法において, その保護の一層の強化が目標とされている8 しかし,国際私法に見られる弱者保護の理念に は共通性は見られても,その実現のために採用 されている方法は多様である。弱者保護の原則 の立場からは,一方当事者が弱い地位に陥れら れた原因を探究したうえで,いかにして,弱者 利益の保護になるよう,法的手段を通じて相手 方当事者との関係を調整すべきかが課題とされ る。中国においても,弱者保護の趨勢に従い, 2011 年 10 月 28 日に公布された新たな国際 私法立法たる「渉外民事関係法律適用法」(以 下,「適用法」とする)において,弱者利益の 保護に関する多くの規定が置かれるに至ってい る。そこで,本稿は,中国国際私法における親 子関係,扶養義務,監護,消費者契約,労働契 約,不法行為責任における弱者保護に関連する 規定を中心として紹介するとともに,とくに日 本法上の弱者保護のための規則と比較検討する ことを試みようするものである。 2 中国国際私法における弱者保護原則の生成   及び発展 (1)概説 中国国際私法における弱者保護の思想の支配

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は,必ずしも,適用法の成立とともに確立され たものではなく,それ以前においても,立法と して,また,とくに学説を中心として,有力に 提唱されていた。そこで,適用法に論及するに 先立ち,それらの抵触法上の弱者保護のための 理論構成について,就中,様々な総則,すなわ ち,公序良俗,法律回避,反致,外国法の調査, 性質決定によって弱者保護のための準拠法の決 定および適用へ導こうとした構成について概観 することとしたい。 (2)公序良俗 中国国際私法は,従来から,公序良俗に基づ く外国法の適用の排除について,肯定的な姿勢 をもって比較的に整備された立法を備えてい た。中華人民共和国民法通則第 150 条,民事 訴訟法第 268 条,海商法第 276 条,民用航空 法第 190 条等,そのいずれも公序良俗による 外国法の適用の排除の制度を定めている。その 中で最も正確かつ全面的な表現は,民法通則第 150 条であり,それは,外国法または国際慣 習を適用する場合,中華人民共和国の社会公共 利益に違反してはならない,と定めている。こ の規定が,国際民商事関係当事者(弱者を含め て)の合法的権益及び国家の根本利益を保護す るために積極的な役割を果たしていた。しかし, 実務上,この制度が不十分であったことは否め ない。すなわち,(ⅰ)第一に,公共秩序の意 義について,立法上の用語が統一されておらず, 例えば,民法通則,海商法,民用航空法上は, 社会公共利益であるのに対して,民事訴訟法上 は,国家主権,安全,社会公共利益である。また, 当該表現は余りにも簡略で,曖昧な恐れがある。 とくに,国際民商事関係における当事者の合法 的権益を保護することが中国公共秩序の範疇に 含まれるか否かについても,論議の余地があっ た。(ⅱ)公序良俗の基準について,法律によっ て異なっていた。民事訴訟法が主観説を採って いたのに対して,民法通則,海商法,民用航空 法等は結果説を採っていた。国際私法研究者 の有力な主張が結果説であるため,外国法規定 が中国の道徳理念や法律原則に合致しない理由 をもってその適用を排除することは,場合によ り,弱者たる当事者の保護につながらないこと もあった。(ⅲ)公序によって排除される立法 の範囲に,国際慣習までも含めるかは,法律に よって異なっていた。そして,(ⅳ)公序によっ て排除された外国法の補充については,全く明 文規定が設けられていなかった9 (3)法律回避 適用法の採択前には,法律回避に関する規定 は設けられておらず,当事者による内国法を回 避する行為の効力問題に関しては,司法解釈の みが定めていた。すなわち,1988 年の「最高 人民法院『民法通則』の適用に関する若干問題 の意見(試行)」第 194 条が,「当事者がわが 国強行または禁止性の法律規範を回避する行為 は,外国法を適用する効力を生じない。」と定 めており,この規定が諸国の立法の趨勢に一致 し,内国当事者の合法的権益及び国家の根本利 益の保護に有利であり,また,具体的な運用に おいて便宜であるが,しかし,場合によっては, それが弱者の合法的権益に被害をもたらす恐れ があると考えられている10 (4)反致 反致制度の機能の一つは,当事者が他国の法 体系に従うことなく,国際民商事当事者ないし 弱者の権利保護に有利な解決をもたらす場合が あることである。中国国際私法上,適用法前に も,また,適用法においても,反致肯定の立場 を明記した立法は存在していない。単に,民法 通則第 142 条,及び,最高人民法院による民 法通則の司法解釈等から,契約分野において, 中国国際私法が反致制度を否定する立場を察知 することができた。しかし,反致が,場合によ り,当事者ないし弱者の権益を保護することが あるものと考えられている11 (5)外国法の調査 外国法の調査との関連においては,二つの問 題が弱者保護との関わりを有している。その一 つは,調査方法または調査手段の問題であり, もう一つは,外国法の調査ができないか,また は,外国法が誤って適用された場合における救 済の問題である。これらの問題のいずれも適用 法前には規定されておらず,実践上,最高人民

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法院の民法通則に関する司法解釈や民事訴訟に おける上訴に従って解決が図られていた。通 常,外国法の調査は,当事者,中国と司法共助 を締結する相手国の中央機関,当該国に駐在す る中国の大使館や領事館,中国に駐在する当該 国の大使館,内外の法律家を通じて,その情報 が提供される。これらのいずれの方法をもって しても調査できない場合には,中華人民共和国 法が適用されていた。その場合には,ある程度 まで弱者の保護を図ることができた。蓋し,外 国法の適用に誤りがあった場合には,民事訴訟 の上訴手続きに則り,外国法の適用違背を訂正 することにより,当事者,とりわけ,弱者たる 当事者を救済することができる余地があるから である。しかし,民事訴訟法が外国法調査の方 法や手段を規定していなかったため,国際民商 事関係に長けた当事者が,外国法調査を利用し て弱者たる当事者に対して優位な立場に立つこ とを可能ならしめたことは否定できない。また, 外国法を調査できない場合に,裁判所所在地法 をもって代替して適用したことも批判されるべ き点である12 (6)性質決定 性質決定は裁判官による認識の過程であり, その自由裁量権の影響を受ける。裁判官が衡平 の立場から,事件の公正かつ合理的な解決を考 慮した結果として,弱者を含めた各当事者の利 益が保護されることになる。性質決定のあり方 については,明文規定はなく,実際には,裁判 所所在地法上の概念に従って解決されている。 弱者に有利な法律の適用へと導く性質決定がな されたとしても,それは,恒常的に弱者保護原 則に基づいているということはできない。弱者 保護がすでに国際私法上の重要な原則として確 立されようとしている今日にあって,立法を もって弱者保護原則を定立することは不可欠で ある。弱者保護を公序の判断として設定し,弱 者保護規定を強行法規と見做すとともに,可及 的に弱者に有利となる性質決定を保障すること もまた,弱者保護原則を貫くための重要な国際 私法上の方法であり,それにより,真に弱者の 合法的権益が保護され,社会の公正が保持され ることになる13 3 現行中国国際私法における弱者利益の保護 (1)概説 適用法の採択により,中国は,積極的に弱者 権益保護と取り組んでいることを示している。 中華人民共和国憲法第 44 条14,第 45 条15 第 48 条16,第 49 条17において,人権の保障, 平等原則を定めているが,とくに,第 48 条お よび第 49 条には,明確に女性および児童の利 益の保護が謳われ,その下位立法においても弱 者を保護する旨が明らかにされている。 国際私法における弱者保護の問題については, 適用法において,弱者利益を保護する規定が多 く置かれている。まず,総則規定として,密接 関連性の原則および直接的適用法に関する規定 を設けることにより,弱者利益を保護する基本 的体制を整え,次に,各個法律関係に関する規 定として,親子関係,扶養,監護等に関する条 項に,明文をもって,「弱者利益の保護の優先」 を図ること定め,さらに,消費者契約,労働契 約,生産製造物等に関する条項においても,弱 者利益の保護を図る規定を付け加えている。 新法の立法主旨は,渉外民商事関係の当事者 の合法的な権益の保護である(適用法第1条参 照)。しかし,従前の中国国際私法には多くの 規定の欠缺があったため,渉外民事関係当事者 の合法的な権益の保護において有利であったと は言えない。適用法の制定に伴って改善された 点としては,渉外民商事関係当事者の合法的な 権益の保護を指摘することができる。適用法の 立法の趣旨である渉外民事関係当事者の権益の 周到な保護としては,意思自治の原則が,適用 法第3条において,基本原則として定められ, 同条が一般的な規定として意思自治原則を確定 し,適用法全体を統括すると同時に,前記のよ うな幾つかの各個法律関係においても意思自治 の原則を採用し,当事者がそれについて最大限 に支配できるように配慮されている18。現代国 際私法において普遍的となっている弱者保護の 理念も,適用法に反映されているが,これは,

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人類社会が平和発展の新たな時代へ向けて邁進 してはいるが,民商事法律関係における当事者 間においていまだ優劣の差が存在していること に鑑み,弱者である一方当事者の権益の保護に 関する問題である。民商事法律関係において勢 力の弱い一方当事者に特別な保護を与えること は,法律及び経済の二重の社会的意義を有し, 社会の発展における必然的な趨勢に沿うもので ある。適用法の趣旨は,それを通じて貫かれる べき共通の指導理念ないし理論原則であるか ら,適用法のもとに渉外民商事活動を行い,ま た,渉外民事紛争を解決する際には,常に遵守 しなければならない原則である。従って,それ ぞれの各論規定の具体的な解釈,適用において も,適用法の趣旨の通りに解釈すべきであり, 各規定の間の調整に際しても,適用法の趣旨に 基づく配慮が求められる19 (2)親子関係における子の保護 弱者たる子の国際私法上における保護は,比 較法上,実質的な嫡出保護,準正保護,認知保 護のための連結規則,および,認知や養子縁組 等における保護条項(セーフ・ガード条項)と して具体的に表明されている20。立法例として, 包括的な子の保護の規定として,1979 年のハ ンガリー国際私法第 46 条が知られている。同 条は,「ハンガリー国民は,または,ハンガリー に居住している子の家族法上の地位,ないしは, その者とその親との間に存在している関係,並 びに,子に対する扶養には,ハンガリー法が子 にとってはより有利であるときは,これが適用 される。」と定めるものである。それ以前にお いても,1964 年のアルバニア国際私法第9条 が,父子関係または母子関係の認知または否認, 並びに,他のあらゆる親子間の関係は,子の本 国法によるとしたうえ,「子の利益」に合致す る場合には,アルバニア法に従って規律するこ とを定めている。このような立法が,現代国際 私法に見られる顕著な傾向となっている。 適用法第 25 条は親子間の権利義務関係の準 拠法に関する規定であり,「親子の人身,財産 関係は,共通の経常的居所地の法律を適用する。 共通の経常的居所地がない場合,一方当事者の 経常的居所地の法律または国籍国の法律のう ち,弱者の権益保護に有利となる法律を適用す る。」と規定して,明文をもって,弱者利益の 保護のために有利な法律の適用を謳っている。 広義的には,親子関係の準拠法の規律範囲は, 親子関係の確定,並びに,親子間の身分的及び 財産的法律関係の二つの部分を包括するが,本 条は後者の準拠法の決定のみについて規定して いる21。現代社会に人権平等の観念が浸透した 結果,西欧諸国を中心として,法律上,嫡出子 と非嫡出子とを区別せず,非嫡出子に関する規 定は民法や家族法の中から消滅している。中華 人民共和国婚姻法修正法第 25 条も,明文をもっ て,「非婚生子は婚生子と同等の権利を享受し, 何人も加害及び差別をしてはならない。」と定 めている22。本条は,親子間の身分関係および 財産関係の双方の準拠法について,同じく,親 子の共通常居所地法を本則とする段階連結の規 則を採用しており,親子が共通常居所地を有し ないときは,一定の条件のもとに,択一的連結 の規則,すなわち,一方当事者の常居所地法と 国籍国法の中,弱者保護のために最も有利な法 律を選択して適用すべきことを定めている23 親子間の身分関係の準拠法について,適用法第 25 条は,親子の共通常居所地法を主たる準拠 法として,親子と共通常居所地との関連性を重 視し,国際私法立法の趨勢に符合しながら,諸 国における属人法主義の立場を止揚して,親子 の何れかの者の属人法の中から準拠法を選択す ることを規定している24。適用法公布以前,中 国には親子関係の準拠法に関する規定はなく, 渉外親子関係に関しては,概ね,中国法が適用 されていたが,適用法中に規定が設けられ,従 来の立法上の隙間が補完されると同時に,弱者 たる子にとって有利な抵触規則が導入されるに 至った25 因みに,日本国際私法の主たる法源である「法 の適用に関する通則法」(以下,「通則法」とす る)は,まず,嫡出保護の立場について,その 第 28 条第1項において,夫婦の本国法中,い ずれかの法が子を嫡出とするときは,その子は 嫡出子とすることが定められている。この規定

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は,夫または妻のいずれか一方の本国法によっ て嫡出性が認められる限り,子が嫡出子とされ ること(嫡出保護)を定めるものである。子が 嫡出子であるか否かは,夫および妻の本国法で ある実質法の内容に従って判断された結果であ り,準拠法の決定に先立ち,実質的判断をなす ことが求められている。適用法第 25 条は,共 通常居所地法がない場合とされるが,補充的に は,より広い選択の範囲を認めながら,弱者た る当事者の利益保護になる法の選択を義務付け ており,その限りにおいて,通則法第 28 条第 1項よりも,子の実質的な保護を図っている。 しかし,通則法第 30 条第1項においては,子 の準正について,父または母または子の本国法 によって準正が成立するときは,子が嫡出子と しての身分を取得すると規定されており,父の 本国法,母の本国法,子の本国法の三つの法の 中,いずれかの法が準正の成立を認める限り, 同法が必須的に適用されなければならず,それ により,同項は可及的に非嫡出子が嫡出の身分 を取得すること(準正保護)を定めるものであ る。いずれの法が準正の成立を認めるかについ ては,三つの法の実質的判断が求められること になる。また,認知についても,通則法第 29 条第2項が,父による認知については子の出生 の当時の父の本国法,また,母による認知につ いてはその当時の母の本国法によるほか,認知 当時の父もしくは母又は子の本国法によること (認知保護)を定めている。これも,多元的な 連結により,認知による親子関係の成立に配慮 したものである。共通常居所地法を本則とする 適用法第 25 条よりも,通則法の諸規定の方が, 子の保護において手厚いと言うべきであろう。 (3)養子縁組における養子の保護 中国は養子縁組の伝統を有する国であり,渉 外的には,日中戦争終了後の中国残留日本人孤 児と中国人養親との間の養子縁組があり,それ が両国の渉外家事事件の一つの代表的な類型と なっている。もっとも,それらの養子縁組は法 律手続きを経ることのない事実上の養子縁組で あり,法律上の養子縁組としては,中華人民共 和国政府成立当初,少数の渉外養子縁組事件が 見られたが,その際には,若干の政策及び内部 指示に基づいて処理された。実定法としては, 1959 年の中華人民共和国婚姻法第 13 条およ び 1980 年の中華人民共和国婚姻法第 20 条が 類推適用され,また,最高人民法院の渉外養子 縁組に関する司法解釈が参考とされた。1978 年の改革開放以後における交流発展に伴い,渉 外養子縁組について見れば,現在も,外国人が 中国人児童を養子とする数は増加の一途を辿っ ている26 中国における渉外養子縁組立法の近代化は, まず,1982 年の司法部による「養子縁組公 証処理試行方法」の制定に始まり,続いて, 1991 年 12 月 29 日に,「中華人民共和国養子 縁組法」が公布されて,中国の養子縁組制度が 整って,渉外養子縁組に確たる法的根拠が与 えられた。そして,1993 年 11 月 10 日には, 司法部および民政部が,「外国人の中華人民共 和国における養子縁組実施方法」を発布したこ とにより,外国人が中国において養子縁組を締 結する場合の具体的な手続が整備された。さら に,1998 年には,全国人民代表大会が 1991 年の「中華人民共和国養子縁組法」を改正し, ま た,1999 年 に は, 民 政 部 も, 上 記「 外 国 人の中華人民共和国における養子縁組実施方 法」を改正して,「外国人の中華人民共和国に おける養子縁組登記方法」と改称することによ り,中国の渉外養子縁組制度はさらに前進した。 2005 年には,養子縁組センターが設立され, 当該センターは,その業務として,中国政府か らの委託を受け,渉外養子縁組の具体的実務を 遂行しており,社会福祉機構の児童養育および 国内養子縁組を担当している27 渉外規定について見れば,適用法の採択前に おける中国の渉外養子縁組立法は極めて乏し く,僅かに,1998 の養子縁組法(改正法)第 21 条が,「外国人は,本法により,中華人民共 和国において養子縁組を行うことができる。外 国人が中華人民共和国において養子縁組を行う ときは,その所在国の主管機関が当該国の法律 によって審査して同意しなければならない。養 親は,その所在国の権限のある機関が発行する

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養親の年齢,婚姻,職業,財産,健康,受刑の 有無等の状況の証明資料を提出しなければなら ず,当該証明資料は,その所在国の外交機関, 又は,外交機関が授権する機構の認証,及び, 中華人民共和国の当該国に駐在する大使館,領 事館の認証を経なければならない。当該養親は 養子を出す者と協議書を作成し,本人が省の人 民政府民政部門へ登記しなければならない。」 と規定している。本条は,外国人が中国におい て養子縁組をする場合,必ず中国の法律および 当該外国人の所在国の法律に合致しなければな らないことを規定するものである28。「外国人 の中華人民共和国における養子縁組登記方法」 第2条は,「外国人が中華人民共和国域内にお いて養子をするときは,本方法によって登記を 行わなければならない。養子縁組をする夫婦の 一方が外国人であり,中国において養子縁組を するときも,本方法によって登記を行わなけれ ばならない。」と規定している。また,その第 3条は,「外国人が中国において養子縁組をす るときは,中国の関連養子縁組法の規定に合致 しなければならない。養子縁組をする者の所在 国の法律規定と中国の法律規定とが合致しない ことによって発生した問題については,両国政 府の関連部門が協議して処理する。」と規定し ている。この規定は,外国人が中国において養 子縁組をするとき,中国の法律と養子縁組をす る者の所在国の法律を累積的に適用しなければ ならないことを表明するものであり29,その立 場は,適用法第 28 条へ引き継がれている。 適用法第 28 条は渉外養子縁組の準拠法に関 する規定であり,「養子縁組の条件および手続 きは,養親および養子の経常的居所地の法律を 適用する。養子縁組の効力は,引取り時の養親 の経常的居所地の法律を適用する。養子縁組関 係の解除は,引取り時の養子の経常的居所地の 法律または裁判所所在地の法律を適用する。」 と規定しており,渉外養子縁組の準拠法選定規 則として比較的に包括的な規定である。本条は, 養子縁組の成立,効力,解消の各局面に分けて, それぞれの法律関係について,縁組当事者の属 人法及び裁判所所在地法を準拠法としている。 まず,縁組の成立について,適用法第 28 条 においてとられている累積的連結という連結の 形態は,現代国際私法を比較立法的に見て,最 も厳格な立場である。それにもかかわらず,そ のような立場がとられた理由として,中国にお ける渉外養子縁組の現状において,外国人が中 国人の子を養子にする場合が殆どであり,中 国人が外国人の子を養子にする場合が極めて 少ないため,養子となる子に密接な利益を保護 することを意図して,その成立を厳しく規律す る立場が採られたということが指摘されてい る30。縁組の実質的成立要件および方式につい て,養親および養子の常居所地法の累積的適用 により,それらが合致することを求めているの に対して,基本的に,養親の本国法のみによる べきことを規定している通則法第 31 条第1項 は,別の方法をもって,養子となる未成年の子 の基本的権利および最良の利益を保護すること が図られている。すなわち,通則法第 31 条第 1項後段における保護条項(セーフ・ガード条 項)がそれである。同項における保護条項とは, 養子縁組の成立の準拠法を養親の本国法としな がら,養子保護の観点から,養子の本国法が, 養子縁組の成立について,養子もしくは第三者 の承諾もしくは同意,または,家庭裁判所のよ うな公の機関の許可やその他の処分があること を要件としている場合には,そのような要件を も満たさなければならないと定めている条項を 言う。このように,通則法第 31 条第1項後段 が養子の本国法の部分的な適用をもって,養子 の利益の保護を図っているのに対して,適用法 第 28 条は,端から,養子縁組の成立を養親の 本国法のみに掛からしめることなく,全面的に 養子の属人法の適用を定めており,従って,養 親の属人法の適用を前提とした保護条項は必要 とされないものである。その意味において,適 用法第 28 条は,通則法第 31 条第1項よりも, 弱者たる養子の利益保護において,より一層, 徹底された立場をとっていると評することがで きるであろう。 縁組の効力については,適用法第 28 条は, 養父母の属人法の適用を優先して,養子縁組当

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時における養親の常居所地法の適用を定めてい る。この立場は,通則法第 31 条第1項と同様 であり,養子の利益保護は考慮されていない。 しかし,養子縁組の効力については,縁組当時 の養親の常居所地法の適用は合理的であり,縁 組の成立後,養子は養親と共に外国において生 活することが多く,それにより,養子の利益も 保護され,準拠法としての公正性が実現できる と評されている31。ただし,中華人民共和国養 子縁組法第 23 条は,養子縁組の効力について, 「養子縁組関係の成立日から,養親と養子との 間の権利義務関係については,親子関係に関す る法律を適用する。養子と養親の血族との間の 権利義務関係については,子と父母の血族関係 に関する法律を適用する。養子と実親及びその 他の血族との間の権利義務関係は,養子縁組関 係の成立によって消滅する。」と規定している。 従って,同条からも,外国人が中国において養 子縁組するときは,養子縁組成立地の法律であ る中国の親子関係に関する規定を適用しなけれ ばならず,必ずしも,適用法第 28 条が規定し ている養親の常居所地法としての中国法とし て,それが適用されるというわけではない32 それに対して,養子縁組関係の解消,すなわ ち,離縁については,適用法第 28 条は,二つ の連結点を採用した選択的連結の規則により, 縁組当時における養子の常居所地法,または, 事件を受理した裁判所所在地法の適用を定めて いる。この規定は,選択的連結の規則を採用し ている点において,養子の利益のために有利で あり,弱者利益の保護の原則に合致すると説か れている33。選択的連結の点においてのみなら ず,養子の属人法が選択の範囲に含められてい る点においても,養子の利益が保護されている ということができる。通則法第 31 条第2項が, 離縁について,養子縁組の成立についてと同様 に,養親の本国法に依らしめている立場とは, 大きく相違するものであり,適用法第 28 条が 弱者たる養子の利益保護において,一歩進んだ 立場をとっていると言うことができる。しかし, その一方,適用法第 28 条第3文が,養子縁組 関係の解消と養子縁組の効力とをそれぞれ異な る準拠法の支配のもとに置いているため,一貫 した立場に依拠しえない場合も想定され,その 場合には,抵触を生じる虞があるということが 指摘されている34 因 み に,2005 年 9 月 17 日 に, 中 国 は, 1993 年の国際養子縁組に関する子の保護及び 協力に関するハーグ条約を批准し,2006 年1 月1日から,正式に,同条約の加盟国となり, 養子の保護はさらに徹底されている35。なお, 同ハーグ条約の基盤となる国連の児童の権利条 約については,2000 年 11 月 30 日に,中華 人民共和国政府代表者が署名し,2005 年4月 27 日の第 10 期全国人民代表大会常務委員会 第 15 回会議において,同条約の批准が決定さ れた36 (4)扶養義務における要扶養者の保護 一般に,扶養に関する法律関係制度は,諸国 の政治,経済,社会制度の違いにより,また, 諸国の倫理観,風俗,慣習,信仰,宗教等の影 響により,その内容に大きな差異が存在してい る。具体的には,扶養義務者の範囲,扶養義務 者及び権利者の順序,扶養の程度及び金額,扶 養費の支払い方法等に関する相違が見られる37 しかし,扶養義務の準拠法については,例えば, チュニジア国際私法第 51 条第1項のように, 扶養権利者の本国法または住所地法,扶養義務 者の本国法または住所地法の中,「裁判官は扶 養権利者にとって最も有利な法律を適用するも のとする。」というように,明らかに要扶養者 を優遇する立場が,今日における趨勢となっ ている。中国の渉外扶養法に関する最初の明文 規定は民法通則第 148 条であり,同条は,「扶 養については,被扶養者と最も密接な関係を有 する国家の法律を適用する。」と規定している。 同条は,被扶養者を中心として,その最密接関 係法の適用を定めている点において,被扶養者 の利益を保護する趣旨を見てとることができる が,もとより,極めて概括的にしか規定してい ないため,「中華人民共和国民法通則」の貫徹 執行に関する若干問題の意見(試行)第 189 条が,補足的に,「親子の相互の扶養,夫婦の 相互間の扶養,および,その他の扶養関係を有

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する者の間の扶養については,被扶養者が最も 密接な関係を有する国家の法律を適用しなけれ ばならない。扶養者および被扶養者の国籍,住 所,および,被扶養者へ扶養を提供する財産が ある地は,全て,被扶養者と最も密接な関係を 有するものとみなすことができる。」と規定し ている。この規定については,次のようなこと が指摘されていた。すなわち,(ⅰ)民法通則 第 148 条中の扶養という語句の概念について は,親子間の扶養,夫婦間の扶養,および,そ の他の扶養関係を有する者の間の扶養が含まれ る。(ⅱ)民法通則においては,扶養の準拠法 の選定基準として,密接関連性の原則が採用さ れている。扶養関係にある当事者と密接関連性 を有する法律は,多くの場合,それらの者の属 人法であるが,そうでない場合もある。従って, それは,厳密に言えば,諸国立法が規定してい る当事者の属人法主義とは異なる規則であり, 別個の規則であると言うべきである。(ⅲ)被 扶養者との密接関連性を有する法律の適用を規 定しているため,被扶養者にとって有利な法律 の適用を期待することができるものであり,被 扶養者の利益の保護が顕著である。そして,(ⅳ) 被扶養者と最も密接な関連性を有する国家は, 扶養者および被扶養者の国籍国,住所地国,並 びに,被扶養者の扶養のための財産の提供地国 という多くの法律が含まれている38。かくして, 適用法第 29 条が採択される以前においても, 要扶養者は,立法上においても,相当に保護さ れていたということができる。 適用法第 29 条が定めている扶養義務とは, 一定の身分関係を有する親族間における経済的 能力者から経済的困窮者に対する生活維持の扶 助を義務づける私的扶助の義務の法制度であ る。一般に,扶養義務は法律が定めた一定の親 族関係の間においてのみ成立するものであり, 一定の親族以外の者からの経済的扶助は,ここ に言う扶養義務の法律関係ではない。この点に ついては,上記「中華人民共和国民法通則」の 貫徹執行に関する若干問題の意見(試行)第 189 条が規定しているように,夫婦間の扶養, 親子間の扶養,および,その他の親族間の扶養 に分類することができる。 適用法第 29 条は,上述のような中国の渉外 扶養立法及び実践を踏まえて,「扶養について は,一方の当事者の平常的居所地の法律,国籍 国の法律,または,主要な財産の所在地の法律 のうち,被扶養者の権益の保護に有利である法 律を適用する。」と規定し,従前よりも,さら に明確かつ具体的な規則を定めている。同条の 特徴として指摘されている点は,(ⅰ)扶養義 務関係の当事者の範囲について限定せず,柔軟 な理解を行うことができる。(ⅱ)扶養の準拠 法について明確な規定を設けて,被扶養者と最 も密接な関連性を有すると考えられる地の国の 法を法定化している。(ⅲ)扶養が人の身分と 密接に関連していることを前提として,準拠法 の範囲について,主として,当事者の属人法を もって構成されている。(ⅳ)当事者自治を採 用して,一定の関連性を有する法の中からの準 拠法の選択(制限的当事者自治)を認めている。 (ⅴ)ただし,準拠法の選択は任意的ではなく, 「被扶養者の権益の保護に有利である」ことを 準拠法選定の基準として,一定の実現すべき結 果を明示している。そして,総括的に言えば, (ⅵ)扶養に関連する諸問題の全体を統一的に 一つの法に依らしめながら,準拠法の決定に幅 を持たせて,弱者たる要扶養者の保護のために 柔軟に対処しうるように配慮されている39 このように,適用法第 29 条は,渉外扶養義 務の準拠法について,扶養者と被扶養者の常居 所地法,国籍国法,または,主な財産の所在地 法の中から,最も被扶養者の権益の保護に有利 な法を選択して適用することを規定している。 通常,扶養関係においては,被扶養者が弱勢な 地位にあり,本条が被扶養者の権利にとって有 利な法を選択するということに,現代国際私法 の発展の趨勢である弱者利益の保護の原則が反 映していることはいうまでもない。また,それ と共に,本条は密接関連性の原則にも立脚して いる。現代国際私法における連結の柔軟化とい う発展の趨勢に伴い,密接関連性の原則が一つ の柔軟化の要素としてその支配範囲を広げてい る。本条は明文をもって密接関連性の原則につ

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いて規定していないが,当事者の常居所地法, 国籍国法又は主要財産所在地法からの択一的適 用を定めており,これらの法の選択は明らかに 当事者と密接な関連性を有する法であると説か れている40 それに対して,日本法において,扶養義務の 規律のための法源は,ハーグ条約を批准して特 別法として制定された扶養義務の準拠法に関す る法律であるが,その第2条第1項は,「扶養 義務は,扶養権利者の常居所地法によって定め る。ただし,扶養権利者の常居所地によればそ の者が扶養義務者から扶養を受けることができ ないときは,当事者の共通本国法によって定め る。」と規定し,さらに,同条第2項は,「前項 の規定により適用すべき法律によれば扶養権利 者が扶養義務者から扶養をうけることができな いときは,扶養義務は,日本の法律によって定 める。」と規定している。これらの規定が,要 扶養者ができるだけ扶養を受けられることを目 した段階的連結の規則であり,要扶養者の利益 保護を図っていることは明らかである。そこに おいては,扶養権利者の常居所地法主義が本則 とされている点において形式的ながら保護が図 られている。また,扶養を受けることができる か否かを考慮すべきとしている点において実 質的保護が図られている。すなわち,形式的保 護と実質的保護の両方が顧慮されていると言う ことができる。しかし,連結の多元化によって 要扶養者の保護を図るとしたならば,適用法第 29 条の方が,より広範な連結の可能性を有し ていると言えるであろう。また,「被扶養者の 権益の保護に有利である法律を適用する」こと が,実質的判断に基づく実質的保護を意味する ことは言うまでもないであろう。 (5)監護における被監護人の保護 ここにいう監護とは,父母がいないか,また は,父母による保護ないし世話を受けることが できない未成年者,および,その他の制限的民 事行為能力者または行為無能力者の身上,財産 およびその他の一切の合法的権益につき,法に 従い,監護および保護を実行するための法律制 度であり,広義には,日本民法上の後見,保 佐,補助を含む概念である。中国法上,民事行 為無能力の成年は常に禁治産者と呼ばれてい る。従って,狭義の監護とは,未成年者及び禁 治産者の監護を意味している41。渉外監護とは, 渉外的要素を含む監護であり,監護関係中の監 護人又は被監護人の一方又は双方が外国自然人 又は無国籍者である場合であり,又,監護監督 機構,監護権限機関が外国の法人機関である場 合である。監護関係の客体が外国に所在するも のもある。例えば,被監護人の財産が国外に所 在するとか,監護関係の内容が外国との関連性 を有し,監護関係の法律事実が国外で発生,変 更,消滅する場合である42。適用法の採択前, 中国には渉外監護の準拠法に関する立法は殆ど 存在せず,僅かに,「中華人民共和国民法通則」 の貫徹執行に関する若干問題の意見(施行)第 190 条が,渉外監護の準拠法について,「監護 の創設,変更および終了は,被監護人の本国法 を適用する。しかし,被監護人がわが国域内 に住所がある場合には,わが国の法律を適用す る。」とする規定が存在していたに過ぎない。そ して,最高人民法院が,渉外監護の準拠法につ いて,被監護人の利益の保護を優先的に考慮し て,被監護人の属人法を適用すべきとしながら, また,被監護人が中国に住所がある場合には, やはり,被監護人の利益の保護のため,属地的 監護の立場から,中国の法律を適用すると規定 していた43 適用法第 30 条は監護の準拠法に関する規定 であり,「監護については,一方の当事者の経 常的居所地の法律または国籍国の法律のうち, 被監護人の権益の保護に有利である法律を適用 する。」と規定している。本条および現行立法 の関係規定から見て,本条が規定している監護 とは,広義の監護であり,本条は,渉外監護問 題の準拠法について,被監護人の権益の保護に とって有利であることを条件として,監護人ま たは被監護人の常居所地法または国籍国法の選 択的適用の規則を定めている。本条の規定は, 扶養に関する規定の内容と同様に,制限的当事 者自治の立場と密接関連性の原則とを組み合わ せ,準拠法の選択を認めながら,その選択範囲

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を監護当事者と密接な関係がある法,すなわち, 常居所地法および国籍国法に制限している。そ して,その選択の基準として弱者利益の保護の 立場を導入している。通常,監護関係において は,被監護人が弱者たる当事者であるから,本 条に規定された準拠法選択は,当然に,被監護 人の権益に有利である法律を選択すべきことを 意味している。この立場が国際社会にある弱者 利益保護の原則の発展趨勢に適応するものであ ることは明らかである44 それに対して,通則法第 35 条第1項は,後 見等は被後見人等の本国法に依るべきことを定 めている。この規定を巡って,本国法によるよ りも,生活に密着した常居所地法によるべきで あるというようなことが指摘されることがあ る。しかし,常居所地法の内容によっては,被 後見人等の保護が重視されていない場合も考え られるから,単なる被後見人等の常居所地法主 義によって,被後見人等の保護が確実に保障さ れるとはいい難い。通則法第 35 条における被 後見人の属人法が準拠法とされている点におい て,弱者たる被後見人等の保護が顧慮されてい ると言うことはできるが,その保護は形式的保 護であり,実質的保護は考慮されていない。そ の点で,適用法第 30 条における被監護人の保 護は,さらに徹底されていると評価することが できるであろう。 因みに,通則法第 35 条に関して,解釈上, 被後見人等の実質的保護が顧慮されていると考 えられるのは,その第2項についてであろう。 すなわち,日本に住所または居所を有する被後 見人等について,後見等の事務を行なう者がい ないときには,日本法に従って後見等が開始さ れることになるが,そのような属地的後見の必 要性の観点から,実効的な後見が確保されえな いような場合には,後見の事務を行う者がいな いと考えるべきとする有力な学説に被後見人保 護の精神を見出すことができる45。もっとも, このような規定は,前記「中華人民共和国民法 通則」の貫徹執行に関する若干問題の意見(施 行)第 190 条とも相通ずるものがある。従っ て,通則法第 35 条は,被監護人の保護において, 適用法第 30 条に比して,十分な立場であると は言えない。単に,属地的後見であることを もって被後見人の保護とせず,より実質的に判 断したうえでその立場によるべきであろう。そ のような立場を表明している立法として,ハン ガリー国際私法第 48 条がある。同条第3項は, 後見人選任官庁が帰属する国の法の適用を原則 としながら,被後見人がハンガリーに居住して いるときは,ハンガリー法が被後見人にとって 有利である限り,同法が適用されるべきことを 定めている。 (6)消費者契約における消費者の保護 消費者契約とは,消費者が個人的又は家庭内 使用を目的として,商品またはサービス提供を 購入し,他方が当該商品またはサービスを提供 することを内容とする契約である。契約におい ては,当事者自治が基本原則であるが,消費者 契約については,他の類型の契約と明瞭な相違 点がある。すなわち,消費者契約の特徴は消費 者の劣勢な地位であり,消費者は契約における 弱者として保護されるべきことが多くの支持を えている。そのため,消費者契約については, 一般契約とは異なる別個の特別規定を置かれ て,消費者利益の保護が図られている。適用法 施行前,中国の渉外消費者契約については,合 同法(契約法)第 126 条第1項が,「渉外契約 当事者は,法律に別段の規定がある場合を除い て,契約紛争を処理する法律を選択することが できる。渉外契約当事者が選択しないときは, 契約と最も密接な関係を有する国家の法律を適 用する」と規定していた。この規定は消費者契 約の特性を考慮しておらず,消費者利益の保護 を到達することは困難であると評されていた46 適用法第 42 条は消費者契約の準拠法に関す る特別規定であり,「消費者契約は,消費者の 経常的居所地の法律を適用する。消費者が商品, 役務提供地の法律を選択し,または,事業者が 消費者の経常的居所地にて係る経営活動を行っ ていない場合,商品,役務提供地の法律を適用 する。」と規定している。本来,契約当事者の 一方が,直接適用すべき強行規定が存在しない か,または,中国の社会公共利益に違反しない

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ことを条件として,消費者契約を巡る紛争につ いては,当事者自治が原則とされるが,本条に おける当事者自治は,消費者利益の保護のため, 当事者双方の共同意思をもって行われるもので はなく,一方的な意思自治であり,消費者が商 品もしくはサービスの提供地法を選択するとき は,それを適用するが,消費者が準拠法を選択 していないときは,消費者の常居所地法を適用 することになる。また,経営者が消費者の常居 所地において関連する営業活動を行っていない ときも,商品若しくはサービスの提供地法を適 用するが,経営者が準拠法を選択していないと きは,消費者の常居所地法を適用することにな る47。適用法第 42 条の規定は,消費者契約の 法律関係について,国際条約および諸国立法例 の趨勢に従い,消費者保護の理念を反映しなが ら,経営者と消費者との間の権利義務をも考慮 している点において,その立法技術が高く評価 されている48。ただし,消費者利益の保護は絶 対的ではなく,選択できる法の範囲も,商品又 はサービスの提供地法に限られており,いわゆ る制限的当事者自治が導入されている49 翻って,通則法第 11 条第1項においても, 契約当事者が選択した法は,最も密接な関係を 有する「第三国の法」,すなわち,消費者の常 居所地法中の強行規定によって消費者に与えら れた保護を剥奪してはならないとして,1980 年6月 19 日の「契約債務関係の準拠法に関す る EC 条約」(ローマ条約)に沿って,強行規 定の特別連結理論50をもって消費者保護の立 場が表明されている。しかし,商品またはサー ビス提供地法が,消費者に対する実質的に保護 において,必ずしも消費者の常居所地法に劣る とは限らないことに鑑みれば,むしろ,両者の 法の中からより有利な法を選択することを端的 に認める適用法第 42 条の方が,消費者契約の 準拠法の決定を新たな段階へ向上させる立場で あると言われている51 因みに,上記 EC 条約(ローマ条約)の規定 の内容について付言すれば,当事者による法選 択は,一定の場合に,消費者の常居所地法上の 強行法規が認める保護をその者から奪ってはな らず(同条約第5条),また,当事者による法 選択がない場合に適用される特定の国の法の強 行法規が認める保護をその者から奪ってはな らない(同条約第6条)。そして,強行法規の 特別連結理論を導入していると見られる同条約 の表現に従えば,「第三国の法」とは,当事者 による法選択がない場合に適用される消費者の 常居所地法であり,また,労働契約における常 時労務提供地法や雇用者の常居所所在地法であ る52 。また,1980 年 10 月 25 日の「ある種 の定める消費者売買の準拠法に関するハーグ条 約」第6条第1項は,条約の定める消費者売買 について,当事者の選択した準拠法は,消費者 の常居所地国の強行法規により消費者に認めら れた保護を奪うものではないと定めている53 (7)労働契約における労働者の保護 労働契約ないし雇用契約は,労働者と雇用主 (雇用企業)との間の労務関係をその内容とす る。雇用主は労働者の指揮および管理について 責任を負い,労働者は雇用主の労働条件を遵守 しなければならない。労働契約は民事契約であ るから,基本的に当事者自治の原則が支配する 領域に属している。従って,雇用される労働者 が明らかに劣勢な立場に置かれていると考えら れる労働契約において,雇用主が有利な地位を 利用して準拠法の選択を操作すると,労働者は 不利な立場に置かれることとなるため,雇用契 約については,消費者契約の場合と同様な観点 から,労働者を然るべく保護する必要がある。 労働者に有利となる法を適用すべきとする原則 は,国際私法上の弱者保護の原則の一端をなす ものである。適用法第 43 条は,労働契約の準 拠法に関し,労働者保護のための特別規定であ り,「労働契約は,労働者の勤務地の法律を適 用する。労働者の勤務地の確定が難しい場合, 雇用主の主な事業地の法律を適用する。労務派 遣は,労務派遣元所在地の法律を適用できる。」 と規定している。本条は,労働者の利益保護に 有利な準拠法として労務提供地法の適用を規定 している。労働者に有利となる法が,労働者が 平常的に労務に従事する地の法であることは, 前記 1980 年のローマ条約に定められた労働地

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法の原則に基づくものであり,適用法第 43 条 はその立場を踏襲するものである54 一般に,労働者の権利および義務は,労務提 供地および雇用主の所在地において発生し,労 働者の労務提供地法が労働契約と密接な関係を 有する法であるから,労働契約紛争における労 働者の保護についても,これら二つの地の法律, とくに労務提供地法を適用するのが妥当であ る。但し,労務提供地を確定することが困難で ある場合には,雇用主の主たる営業地法を適用 しなければならない。かように,適用法第 43 条は,当事者意思による準拠法の選択を完全に 排除しており,契約における当事者自治原則は 働かない55 労務の派遣について言えば,労務の派遣とは, 一般に,臨時的,補助的または代替的な職場に おいて実施し,労務派遣企業(雇用企業)と労 務派遣受入企業とが労務派遣協議を締結し,約 定に従い,労働者を派遣する行為である。雇用 企業は,派遣された労働者と一定期間の労働契 約を締結し,労働報酬を支払い,また,労務派 遣受入企業との間において締結した労務派遣協 議内容を労働者に告知しなければならない56 適用法第 43 条の解釈上,労務派遣についても, 労務提供地法を適用することができるが,労務 提供地の確定が困難である場合には,雇用企業 の主たる営業地法ないし労務派遣地である国の 法を適用することができる57。労務の派遣につ いては,2007 年の中華人民共和国労働契約法 第5条に特別規定が置かれている。因みに,労 働契約法第2条は,「中華人民共和国の領域内 の企業,個体経済組織,民営非企業会社等の組 織が,労働者と労働関係を創設して,労働契約 を締結,履行,変更,解除又は終了するときは, 本法を適用する。」と規定している。この規定 が同条の適用を「中華人民共和国の領域内の企 業」に制限しているため,それが,中国の領 域内に所在する企業であるのか,それとも,中 国法に準拠して設立された企業であるのか,異 なる解釈が見られるところであるが,これら二 つの企業とも含まれるべきと説く見解もある58 そうすると,中国の領域内に所在する企業,個 体経済組織,それらとの労働関係を有する労働 者のいずれに対しても,1994 年の中華人民共 和国労働法が適用されることになり,適用法 第 43 条は適用されない。また,労働契約法第 2条が規定する「労働者」には,外国人,およ び,香港,マカオ,台湾地区の出身者も含まれ る59。因みに,不法就労の外国人と用人会社と の労働紛争については,労働法による保護を受 けられないが,普通の民事紛争として受理し て,民法の関連規定によって保護されるとする のが,実務上の取扱いである60 (8)生産物責任における被害者の保護 一般不法行為については,適用法第 44 条が 定めているが,同条は,その内容において,不 法行為地法主義,より密接な関係を有する法(共 通常居所地法)の優先的適用,不法行為後にお ける準拠法の変更において,それぞれ,通則法 第 17 条,第 20 条,第 21 条に相当するもの である。ここにおいて論及するのは,生産物責 任および人格権侵害の特殊的不法行為における 弱者利益の保護についてである。 まず,生産物責任について言えば,民法通則 第 122 条が,「生産物の品質の不合格によって 他人の財産,人身の損害を惹起した場合には, 生産者,販売者は,法に依り,民事責任を負担 しなければならない。運送者,倉庫保管者がこ れらの責任を負担する場合には,生産者,販売 者は損害賠償を要求する権利を有する。」と規 定している。渉外的な生産物責任については, 適用法第 45 条の施行前,中国においては,渉 外生産物責任に関する特別規定は設けられてお らず,実践上,一般不法行為に関する民法通則 第 146 条第1項により,まず,不法行為地法 主義に基づき,不法行為地法が適用されてい た。当事者双方の国籍が同一か,または,同一 の国家に住所を有する場合には,当事者の本国 法または住所地法を適用することもできた。ま た,同条第2項は,中国の領域外における行為 が中国法によって不法行為と認められない場合 には,不法行為として処理されないとする法廷 地法主義が併用されていた。不法行為地法の認 定については,前記の「中華人民共和国民法通

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則」の貫徹執行に関する若干問題の意見(試行) 第 187 条によって処理された61。適用法の起 草に際しては,1972 年の「生産物責任の準拠 法に関するハーグ条約」に倣って規定すべきこ とが主張されたが,中国の立法慣習や法律伝統 に合致しないという理由から見送られた62。し かし,同条約が全く参考とされなかったわけで はなく,中国の国情に合わせて同条約を本地化 して修正された規定が適用法第 45 条である63 適用法第 45 条は渉外生産物責任の準拠法に 関する規定であり,「製品責任は,被権利侵害 者の経常的居所地の法律を適用する。被権利侵 害者が権利侵害者の主要営業地の法律,損害発 生地の法律の適用を選択した場合,または,権 利侵害者が被権利侵害者の経常的居所地で関連 の経営活動に従事していない場合には,権利侵 害者の主要営業地の法律または損害発生地の法 律を適用する。」と規定している。ここにいう 生産物とは,瑕疵のある生産物,または,正確 に用途もしくは使用方法を説明していない生産 物である。そして,それにより,消費者または 使用者の人身または財産損害を惹起した場合に は,生産物の生産者または販売者は損害賠償責 任を負わなければならない64。準拠法に関して は,被害者の常居所地法を基本としながら,被 害者が生産者の主たる営業地法か損害発生地法 の適用を選択するか,又は,生産者が被害者の 常居所地において関連営業活動に従事していな い場合に,生産者の主たる営業地法または損害 発生地法を適用すると規定して,被害者利益の 保護を優先しながら,生産者の利益との調整を 図っている。生産者の主たる営業地法または損 害発生地法が適用される場合として,(ⅰ)被 害者が直接的に生産者の主たる営業地法または 損害発生地法の適用を求める場合である。これ は,弱者たる被害者利益の保護を表現したいわ ゆる制限的当事者自治の立場である。次に,(ⅱ) 被害者が上述のような要求をしないが,生産者 が被害者の常居所地において関連営業活動に従 事していない場合である。この場合には,生産 者の主たる営業地法または損害発生地法を適用 しなければならない。これは,密接関連性の原 則を表現していると考えられる65。なお,「主 たる営業地」については,適用法第 14 条第2 項が,「法人の常居所地は,その主たる営業所 地とする。」と規定しているところに照らして 決定される66 かように,適用法第 45 条は,被侵害者の常 居所地,生産者の主たる営業地,損害発生地の 三つの連結点を採用しているが,生産物責任の 問題においても,被害者の常居所地法の適用が 基本規定である。生産物責任と一般不法行為責 任とを区別し,一般不法行為が損害発生地とい う属地原則に基づいて不法行為地法を適用する のに対して,生産物責任は特殊不法行為である ことに鑑み,同じく属地原則に基づきながら, 被害者の常居所地法主義に則っている。しかし, 当事者自治原則は排除されることなく,被害者 が,生産者の主たる営業地法か,または,損害 発生地法を選択できることが定められているが, これが,連結を柔軟化することにより,生産物 責任の準拠法を被害者に有利なものとし,被害 者の実質的な利益の保護に対して配慮するもの であることは明らかである。その一方,生産者 が被害者の常居所地において関連する経営活動 に従事していない場合に,被害者の常居所地法 を適用せず,生産者の主たる営業地法または損 害発生地法を適用するという趣旨が,生産者に おける予測性を保証して,生産者の権益をも同 様に保護していることも明らかである67。しか しながら,適用法第 45 条における生産者と被 害者との間の利益保護については,均衡を失し ているという批判的な見解も存在している。蓋 し,同条が,被害者に対して,その常居所地法, 生産の主たる営業地法,損害発生地法の範囲に おいて任意に選択する権利を認めることは,例 えば,被害者はアメリカの懲罰的損害賠償制度 を選んで,加害者に多額の損害賠償を要求する こともできることとなるとしたならば,生産物 経営者にとって,重大で不確定な不利益をもた らす可能性があるからである68。適用法第 45 条を巡っては,生産者の主たる営業地法または 損害発生地法を適用すべき場合,すなわち,生 産者が被害者の常居所地において従事する関連

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経営活動がない場合における「従事する関連営 業活動」をいかに理解するかという問題の存在 も指摘されている。通常,当該国において設立 された子会社もしくは事務所または生産企業の 設立等をもってそれと理解することが考えられ ている69 (9)人格権の侵害における被害者の保護 インターネットまたはその他の方法の使用に よる氏名権,肖像権,名誉権,プライバシー権 等は,一般に,人格権の侵害として,同一の単 位法律関係として,その準拠法が選定される問 題である。人格権とは,民事主体の自然人が享 有する権利であり,自然人の生命,身体,健康, 自由,氏名,肖像,名誉,プライバシー等,人 間として不可欠な部分に関わる権利である。人 格権は民事主体と分離できない権利であるか ら,人の出生によって当然に取得し,その死亡 によって当然に消滅するものである70 中国法上,人格権に含まれる諸権利について は,プライバシー権を除いて,民法通則が規定 している。まず,氏名権については,民法通則 第 99 条に従い,公民はそれを享有し,自己の 氏名を決定,使用または変更することができる。 また,他人からの干渉,氏名の盗用,氏名の偽 称を禁止することができる。氏名権には,氏名 決定権,氏名変更権,氏名使用権が含まれる71 次に,肖像権については,民法通則第 100 条 に従い,公民はそれを享有し,本人の同意を経 ず,営利目的をもって公民の肖像を使用しては ならない。肖像の制作権および使用権,他人に よる違法な肖像権の使用,損害,汚損を禁止す る権利も含まれる72。さらに,名誉権について は,民法通則第 101 条に従い,公民および法 人は名誉権を享有し,公民の人格尊厳は法的保 護を受けており,侮辱,中傷等の方法をもって 公民および法人の名誉を損害してはならない。 ニュース報道,新聞,雑誌が実在の者について 報道,評論,宣伝するときは,事実に符合しな いことで,公民が本来有する社会的評価に影響 を与えてはならず,いかなる者も侮辱,中傷等 の方法で他人の名誉を損害してはならず,いか なる者も他人の事実を捏造し,他人を陥れ,他 人の名誉を傷つけてはならないことが,公民の 名誉権に含まれる。一方,法人の名誉権の内容 には,公民の名誉権と比べて,一般感情は含ま れないが,新聞,雑誌等が法人について報道や 評論を行なうときは,必ず真実と一致しなけれ ばならず,いかなる者も事実を捏造したり,法 人の真実状況と符合しない情報を散布したりし て,その名誉を傷つけてはならないことが含ま れる73。そして,プライバシー権とは,自然人 がその個人の公共利益と無関係な個人情報,個 人活動,私有領域に対する支配を享有するこ とができる人格権の一つである。当該権利は, 2009 年の中華人民共和国権利侵害法において 初めて認められたものであるが,今後,中国に おいては,以下の行為がプライバシーの範囲に 入ると考えられている。(ⅰ)公民の許可を経ず, 公的にその氏名,肖像,住所,電話番号を使用 すること,(ⅱ)他人の住宅の違法な侵入,捜 索またはその他の方法で,他人の居住の安寧を 破壊すること,(ⅲ)違法に他人を尾行し,他 人の住所を監視し,盗聴設備を装置し,私的に 他人の生活を撮影し,他人の住所を覗き見るこ と,(ⅳ)違法に他人の財産状況を捜索するか, または,本人の許可を経ずにその財産状況を公 表すること,(ⅴ)私的に他人の手紙および書 類を開披し,他人の日記を覗き,他人の私的書 類内容を探索するか,または,それらを公開す ること,(ⅵ)他人の社会関係を調査,偵察す るか,または,違法にそれらを公開すること, (ⅶ)他人夫婦の性生活に干渉し,または,そ れを調査,公表すること,(ⅷ)他人の婚姻外 の性生活を社会に公表すること,(ⅸ)公民の 個人資料を漏洩もしくは公表するか,または, 公開範囲を拡大すること,(ⅹ)公民の社会に 公開したくない純粋な個人情報を収集すること などが,それに相当するものである74 適用法第 46 条は,「インターネットまたは その他の方式により,氏名権,肖像権,名誉権, プライバシー権等の人格権を侵害した場合,被 害者の経常的居所地の法律を適用する。」と規 定している。同条は,人格権の侵害の方法とし て,主として,インターネットによる侵害を想

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