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実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程 ―「省察」し「学び続ける」教師の姿から―

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(1)Title. 実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程 ―「省察」 し「学び続ける」教師の姿から―. Author(s). 前田, 輪音; 箭原, さおり. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 6: 96-108. Issue Date. 2016-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7902. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第6号. 実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程 ―「省察」し「学び続ける」教師の姿から- 前田 輪音*1 箭原さおり*2. 概 要 教職大学院に通った一教師の「研究」過程と指導にあたった一大学教員による実践の報告である。 教師は、文献検討・実習・大学院生との学び合いを経て、自分の「うまくいっている」実践「エプロ ン製作実践」を分析し、その良さを生み出す原因を探った。全21時間の単元の逐語記録とワークシー ト(自己評価等含む)を分析対象にした。さらに、修了後に機会を得た研究会発表や授業協力におい て再度その整理を再読・検討するなかで再考し、同時に修了後に赴任した学校での課題に向き合い、 さらなる実践の課題を認識するにいたった。大学教員は、この作業を支え促す立場として、アドバイ スや考えを引き出し検討の場をつくることにつとめた。さらに修了後もその機会は続いている。この ような教師のいわば研究プロセスを教職大学院が担うことは、教師の実践=教育をより良くする一助 でかつ、教師にとって有益であり、本来目指されるべき教師教育の一部をなすと考える。. 1 課題と方法 教職大学院制度がスタートして早8年が過ぎた。教職教育の「高度化」や「理論と実践の往還・統 合」が要請されるなか、 「往還」は物理的な現象として講義と実習がカリキュラム上用意されている ものの、「統合」の内実が伴っているのか、何をもって「統合」なのか明らかにされているとは言え ないし、そもそもこれらは教育学における古くて新しい問題であり早期解決が見込めるものでもない。 本大学院では、一斉講義で学びながら、担当教員とのゼミ( 「事例研究」 )で教育実践を対象にした 研究のまとめ「マイ・オリジナル・ブック」 (略して“MOB” )を課している。その教育実践はカリキュ ラムで設定されている教育実習(実地研究)で実践する。入学した院生のMOB作成への対応自体が 大学院にとって重要な教師教育の課題といえる。そしてこの「研究」の過程が、大学院教員による教 師教育実践の一分析対象であり、教師教育の「高度化」にどうつながるのかという課題の解決の一助 ともなりうるだろう。 そこで本稿では、担当教員前田と教職大学院に通った教師箭原の二人の検討を交えながら、大学院 生によるMOB作成過程と、それに大学院教員がどうかかわったのかを、あわせて実践報告の形で素 朴に示し、そのあり方を探りたい。 なお、全体の構成と1,2を前田が、3の内容構成は前田が担当し適宜箭原・前田が「振り返り」 を記し、後に続く4~6は箭原が、7と「おわりに」は前田が分担している。 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *2. 札幌市立大通高等学校教諭. 95.

(3) 前田 輪音・箭原さおり. また、お互いの呼び方については、論文では異例なことであるが、あえて大学院時代のそれを継承 し「箭原さん」「前田先生」等とした。. 2 教職大学院での「研究」の場(前田) 2-1 本大学院のカリキュラム 本大学院におけるMOBの位置づけを示すためにカリキュラムの概要を説明する。 教職大学院における「実践的研究」は多様な場面(一斉講義・実習・ゼミなど)で行われるが、本 大学院で特に集中的に行われているのは次の科目である。 (以降、 名称は2010年度当時のものである) まずは「マイ・オリジナル・ブック」 (MOB)作成である。これは修士論文に「代わるものとして」 1 課され、「教職大学院での実践に深く根ざした学びをいかした、いわば『自分の研究物語』 」とされて スタートした。教育実践における何らかの課題に研究的に取り組み、分析・検証し、文章化したもの である。 二つ目は「事例研究」である。本大学院では「コース別選択科目」として2010年度(三期生~)よ り開講され、半年で2単位、1年生の前期から始まりⅠ~Ⅳまで履修できる(当時) 。 「担当教員らと の先行研究・教育実践の検討などが行われ、事実上、この場における様々な議論等がMOBの元になっ ていく」2。 担当者や時期にもよるが、筆者(前田)の場合、先行実践・理論の文献検討や、授業の構想や指導 案作成・検討、授業ビデオの検討、実際に学校に出向いて授業見学・検討、修了生を招いての「拡大 事例研究」(長期休暇中等に実施)など、様々な取り組みをしている。 事例研究等で構想したことを実地的に取り組むのが各種「実習」である。大学卒業後に教職経験の 無い院生(“ストレートマスター”と呼んでいる)用と現職教員院生3(略して“現職”と呼んでいる) 用とあり、現職用は1年次前期・後期に「リーダー力育成基礎実習Ⅰ、Ⅱ」 、2年次前期(必要に応 じて後期に延長あり)に「学校課題解決実習」と設定されている(当時) 。 2-2 既設大学院との違いと限界 既設の修士課程では一般的に、一研究者の専門分野の研究内容・方法に着目して進学し、そこでの 研究はその研究者や研究室の研究内容・方法を継承しつつ発展・深化することが求められる。 しかし教職大学院は、講義内容は制度的にかなりの程度決められていて、選べるのはコース(授業 開発・生徒指導・学級学校経営)のみで、修了研究が課せられていない。また、本大学院の場合、授 業開発コース(当時 現在の最新のカリキュラムでは「分野」としている)でも全教科に対応した人 員配置は議論はあるが(既設大学院との統合等の要請を含め)いまのところなされていない。特に、 途切れずに入学してくる家庭科教育専門の院生のために厳密な意味で家庭科教育の立場で指導可能な 担当教員は一度も着任したことはなく、英語教育も同様である。 そのなかで筆者は常に、教育方法学ないしは教授学研究の立場で対応を続けている。. 3 MOB取り組みのプロセス 箭原さんは2010年春に大学院に入学し勤務しながら2年間を通学した。 開校3年目で設定された「事 例研究」発足初代履修生にあたる。当時、 札幌市立の中学校に勤務し教科は家庭科、 キャリア教育(総 合的な学習の時間で) ・校内研修などを受け持ち、在籍後2年次には1年生担任で学年副代表となっ 96.

(4) 実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程. た。校外では家庭科教育に携わる教師の集まりなどに積極的に参加してきている。 事例研究は1年次入学当初より平日の夜に同学年のストレートマスターAさんとともに実施され、 適宜、長期休業期間に「集中事例研究」が、2年次後期からは筆者(前田)担当の1年生2名もあわ せ「合同事例研究」と称して実施された。 以下、事例研究等の足跡を<概要>として、筆者(前田)によるアンケートへの箭原さんの回答4 (2011年に当時の2年生を対象に実施)や事例研究用レジュメ・ゼミ通信(2年次後期の「合同事例 研究」時にゼミ員により作成されたもの 後述)等を参考にする。続けて適宜、当時を振り返る記述 を“<箭原振り返り>” “<前田振り返り>”と表記し、二年間を5つの時期にわけて記述する。 3-1 大学院1年次前期 <概要> 箭原さんの本大学院への入学動機は「現在抱えている学校課題解決というよりは、様々な 院生とかかわり、自らの視野を広げたいということが大きかった」 (アンケート回答) 。つまり実践上 の切実な課題を抱えてというよりは、学ぶ機会の拡大を期待し大学院の門戸をたたいた。 前田から、まずは家庭科という教科の独自性を考えるため家庭科の歴史(戦前戦後の「女子教育」 等)・教科書・学習指導要領の変遷など調べるように提案し、何度か報告がなされた。また、この時 期の事例研究では「評価」についての報告が多くみられた。 前期の締めくくりとして、8月中旬の夏休み集中事例研究では、テーマは「かかわり合いを深め実 践力をはぐくむ家庭科教育」となった。 <箭原振り返り> 学校課題と自己課題の間を行ったり来たりしながらMOBのテーマ設定に悩んで いた。(アンケート回答より) <前田振り返り> 研究課題の模索をどうフォローするかが当面の課題となった。意見交流などは当 初からスムーズで、真面目で柔軟に報告がすすめられた。何より印象的だったのは、ストレートマス ターAさんとの事例研究およびその前後で熱心な意見交換だった。Aさんは佐藤学の 「学びの共同体」 の取り組みを中学英語に取り入るという研究課題で入学当初より関連文献の検討を積み重ねていた。 そこからうける示唆も大きかったようだ。また、事例研究の帰路、筆者(前田)との意見交換も頻繁 に行われた。この関係は修了までつづいた。 なお、1年次前期の現職院生用実習は申請によりレポート代替が可能だが、その際の面接で箭原さ んが提出した大学院入学前の実践報告を対象に評価方法について質問された。その時に箭原さんが抱 いた課題意識がこの時期の「評価」に着目した事例研究報告の内容につながったのかもしれない。 3-2 大学院1年次後期 <概要> 後期最初の事例研究では、研究テーマは「学習内容の定着を図るための教科指導の実践」 とされ、評価を生かした指導の工夫、授業交流の推進(箭原さんの勤務校で全校研究授業が11月に実 施された)などについての報告がなされた。 筆者(前田)からは、家庭科の特徴を生かした課題にした方がよいのではないかと意見し、前期に 引き続き「評価」の在り方を考えるべく数冊の文献(パフォーマンス評価、逆向き設計、ルーブリッ クなど)を紹介し検討するようすすめた。 1年次後期の実習「リーダー力育成基礎実習Ⅱ」に際して10月上旬に事前指導(複数の教員で担当 する)が行われ、その際提出されたレジュメではテーマは「家庭科教育のあり方を考える~校内研修 における教科指導の企画実践を通して~」となっていた。単元「エプロン製作」 ( 「わたしたちの衣服 製作」 )を取り上げたのは、実習時期に実践されるというカリキュラム上の理由もあるが、この単元 の実践が箭原さんの「一番うまくいく実践」だったからである。 97.

(5) 前田 輪音・箭原さおり. 当時のレジュメには次のように記載されている。 「学習を始める前に生徒の実態を的確に把握し(ワークシートなどから) 、それにあわせた指導・ 評価計画を立てる。学習を進める中で生徒がどの程度理解したかを確認し(授業に関するアンケート などから)、指導内容・評価方法を調整する。また、困難を感じている生徒においては『つまずき』 の理由や原因を考えさせ、 『できるようになる』ことへの見通しを持たせる。これらの実践を通して 考察を積み重ね、授業改善サイクルを確立し、家庭科教育のあり方を考察していく。 」 なお、実習名に含まれる「リーダー力」という文言が研究テーマの確定に負の影響を与えているよ うだったので、自らの授業実践の向上が学校全体の向上につながると考えてはどうか、と提案した。 実習を経て、事後指導(11月下旬)で提出されたレジュメでは、家庭科は実技を伴う教科で、生徒 の実態に合わせて柔軟に指導する必要があること、PDCAサイクルのうち従来はCとAについて明確 に方策を示さぬまま来たこと、特にC(評価)については、 「判定・測定」ではなく「とらえ・促す」 にする必要があること、 生徒の自己評価と教師の授業評価としての振り返りの場をつくる (ワークシー ト)こと、などが書かれている。 実習のまとめで提出されたレポート(12月提出)では、 「校内研修における家庭科教育の実践~評 価を生かした指導の工夫~」というテーマのもと、生徒の感想やアンケート集計結果と、教師による 形成的評価と生徒による自己評価の分析が行われた。作業内容(課題) ・進度状況・感想などが生徒 が記入する「自己評価表」に盛り込まれ、 「製作進度表」など、生徒の「変容」をきめ細かく把握す る準備がはじめられた。 <箭原振り返り> 前田先生の「自らのUPが学校全体のUPにもつながる」という言葉がMOBの方 向性を定めるきっかけとなった。自らのUPのために「自身の授業実践に焦点をあててMOB作成を進 めていこう。」という考えに至った。その後に行った「リーダー力育成基礎実習Ⅱ」では、家庭科教 育に対する自分の考えを明らかにするために「私が授業を通して伝えたいことや学んでほしいことは 何か」「子どもたちにどのような力を身に付けさせたいのか」など、原点に立ち返って考えた。 <前田振り返り> 研究課題の確定が求められ始めた時期ではあったが、紆余曲折がみられた。その 要因の1つは実習名「リーダー力育成基礎実習」の「リーダー」が意味するところの多義性だった。 なんらかの組織力や大がかりな取組を想起させるこの言葉は、当時、多くの現職院生を惑わし、その 後、実習事前指導等で解説が加わるようになった。 その後は、文献検討・実習での実践、と意欲的に取り組まれ始めた。特に、自身の実践における PDCAサイクルのうち「評価」の在り方・役割について、 「判定・測定」より「とらえ・促す」役割 に着目し、生徒の変容の捉え方の模索など、 2年次での授業実践の分析のためのプレ実践・研究となっ た。 3-3 大学院2年次前期 <概要> 初回は1年次後期に作成された実習レポートの再検討から始まった。2年次現職院生の実 習「学校課題解決実習」の事前指導(4月中旬)で、 「評価」にこだわるべきかどうかの意見を他の 複数の教員から受けたこともあり、授業実践の内容とその意味づけに焦点をあて、子どもの評価と授 業自体の評価を分けて考える必要性が確認され、授業の評価に専念することになった。 夏期休業中の8月中旬の昼間に「集中事例研究」を2回開催した。1回目は生徒を対象としたアン ケート内容の見直しと学習意欲に関する文献の紹介、2回目は研究テーマを「充実感・達成感を実感 させ、学習意欲を引き出す家庭科教育~学びのプロセスを重視したエプロン制作の授業を通して~」 (仮)とし、「教える側の論理」 「学ぶ側の論理」 (佐伯胖らの論) 、学習動機(内発的・外発的) 、「教 98.

(6) 実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程. えずに考えさせる授業」 「教えて考えさせる授業」 (市川伸一らの論)などが報告・検討された。 対象とする授業実践は1年次後期の実習の単元と同じ「エプロン製作実習」に確定、 「うまくいっ ている」と思う論理的な理由を明らかにすることが課題となり、生徒の感想の取り方・実践の進め方 が検討された。 <前田振り返り> この時期は、自分自身の授業実践の意義を明らかにするという課題が徐々に明確 になってきた。毎回の検討も軌道に乗り始めた。授業実践では、理解しやすい解説と各自の作業、そ こにおける一人一人の製作過程に的確に関わる姿勢が見られた。生徒個別のニーズに柔軟に対応する 様子は安定感のあるものだった。 1年次から2年次の間の春休み前に「評価」に関連するルーブリックやパフォーマンス評価につい ての文献を紹介したが2年になってこれらの報告はなされなかった。何か理由があったようなので、 詳細な検討を促すことは控え、箭原さん本人にとって有効な先行研究および研究的手法の選定は振り 出しに戻った。教師自身の研究ニーズを大学院担当教員としてどう見出すか・あるいは見出させるよ う仕向けるか、という教師教育における前田の課題が大きくなった。 3-4 大学院2年次後期 1年生2名が加わり「合同事例研究」が開始された。1年生には2年次のMOBの取り組みにふれ る機会を、2年生には実践を検討するための「視点」を増やすためだった。1回につき2名の報告で、 報告・検討内容は「ゼミ通信」として作成された。以下、報告の概要( “概要” )とその検討で出され た意見・質問等( “検討” )を順に示す。前者は箭原さんのレジュメから、後者はゼミ通信も参考にし た。 ○10月前半 <概要> 箭原さんのMOBで検討対象にした授業実践は6月から全21時間にわたり1月まで続け られた(後述の「抄録」で記載) 。同時進行で授業検討がなされていった。 録画した授業の逐語記録(TC記録)の一部分として、小単元「ミシンのジグザク縫い」における 生徒との対話場面のいくつかと、本実践における子どもの「やる気」を喚起させる要因、生徒のワー クシートが複数用意された。 <検討> 「 『出来る子』と『出来ない子』への対応の違い(出来る子にはさらに選択肢を、出来 ない子にはまず自分の考え・意見を述べさせること)は何か?(出来る子は授業者の指示を選び、出 来ない子は独自の道を選択する?)これが箭原さん実践の醍醐味ではないか?」 「作業を効率的に進 めよう(早く進めよう)とする生徒が多いのは何故か?」 (ゼミ通信より)などの意見が出された。 ○10月後半 <概要> 実践のTC記録のうち、前回の「ミシンのジグザグ縫い」の続き・ポケットの工夫・直 線縫いの部分、エプロン製作実習のねらい、取り上げた理由、作成したエプロンは調理実習で使用す ること、1つ以上のポケットを条件にデザインで創意工夫させること、生徒による毎時間の振り返り 記入を課すこと、毎時間課題の完了を促すこと、説明は簡潔に板書のみ、方策をもつことをモットー に、多様なデザインに対応するため個別指導を丁寧に行う、などがまとめられた。 <検討> 抽出児を「伸びた子」のみならず「出来ない子」に対しても広げること、分析材料は録 画した動画以外にも本人の振り返りや製作されたエプロンなど多様であること、 本実践の面白さは「授 業の構成・教材」 「子どもに考えさせる部分を残した教師の働きかけ」であり「子どもの困り感を瞬 時に察知し、支援をしている。その行為に意味づけをしていくことが大切なのでは?」 などが出され、 ひとまずは「子どもがどう学んでいるか?」について、授業実践記録をもとに丁寧にみなで指摘しあ 99.

(7) 前田 輪音・箭原さおり. う(暗黙知の明確化も含め)ことが必要ではないか、 授業記録をどうまとめるか考える必要がある(ゼ ミ通信より)、などの意見が出された。 ○11月中旬 <概要> MOB本体の章節構成とともに各章で記述する概要がだされた。 <検討> 引用部分の書き方の統一、家庭科教育自体の意義を最初に書くこと、授業中の発言を取 り上げるときは文脈を明らかにすること、実践校と対象生徒の実態を入れること、などがだされた。 箭原さん本人が作成したゼミ通信では、ゼミの後に1年生から出された意見「エプロン製作の課題 の中には、子どもの意欲を引き出す要素がたくさんあるのではないか。だから持続できるのではない か。例えば、『調理実習で着るという目標」があったり、 「授業以外にも補習することができるという 安心感」であったり…」への応答が次のように記載されている。 「『なるほど!!』と思いました。意欲にかかわって、私が興味をもっているモデルは、今のとこ ろ以下の2つです。とくに家庭科の授業においては市川(2004)の、 『充実志向』 『訓練志向』 『実用 志向』を重視したいと考えています(内発的要素が大きいもの) 。エプロン製作の課題に含まれてい る要素をもう一度見直してみます。 」 (ゼミ通信より) ○11月下旬 <概要> 「授業アンケート集計結果などについて」と題し、章節構成の詳細と、実践の事前・事 後(意欲、理解、楽しさ、ミシンの技能の上達などの観点)における子どもの「変容」を読み取るデー タ、および振り返りシート記載のいくつかが示された <検討> アンケートから子どもの変容をどうとらえるか、ワークシートの自由記述をどう生かす か、数値データと自由記述を同一の子どもで見られるようにしてはどうか、など意見が出されたが、 「事後」アンケートとはいえ、エプロン自体が未完成段階のもの(完成は1月)であることを考慮す べきかとの意見もでた。 その後は各自での集中的な執筆期間とし、合同事例研究の報告は1年生中心となった。箭原さんか らは12月21日に章節構成が再提出され若干の検討がなされた。 <箭原振り返り> 「合同事例研究は大変充実しています。前田先生やストレートのみなさんから新 たな視点を与えていただき色々なことに気づかされます。自らの実践をどのように意味づけていくか 語り合うこともできます。まだまだ『学び合い』たいことがたくさんあります。大学院生活も残り少 なくなってきましたが名残惜しい気持ちです。 」 (アンケート回答より) 「学校課題解決実習」では、視点を転換させる柔軟性をもつことや判断の根拠を考えること、「子 どもの学ぶ姿から実践を振り返る」ことの重要性に気づかされた。実習が進むにつれて、これまでの 経験で培われた見方や思い込みをなくし、自身の実践を「じっくり振り返ってみよう。 」という思い が強くなっていった。実践を多様な角度から捉えることにより、指導力のさらなる向上を図りたいと 考えた。そこで、数ある自身の実践のなかで、うまくいっていると感じていた「エプロン製作授業」 を振り返りの対象にした。うまくいっていると考えた理由は、エプロン製作と対峙し、 「技能」を身 に付けながら主体的に「創意工夫」する子どもの姿が多く見受けられるからである。 <前田振り返り> この時期は、各種データ等をもとにした実践の検証・意味づけの方法等について 何度も検討が重ねられた。合同事例研究では活発な意見交流がなされ、それが次の報告に生かされる ということの繰り返しだった。同学年のAさんや1年生2名による素朴な質問は有益だったようで、 すぐ回答できないときは無意識に使っていた用語の意味を調べ直したり、何気なく行っていた実践に おける生徒とのかかわりあいや指導の意義を指摘されたことに素直に反応するなど、他者の目を通し 100.

(8) 実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程. て自身の実践を見直し、吟味し、繰り返し再考する場となった。 実践の検討・分析・意味づけは、複数の教師または教師を目指す人たちで行われるほうが良い。筆 者(前田)は、その場を組織し議論が行き詰れば仕切り直す、自分も必要に応じて積極的に意見を述 べる等、いわばファシリテーターの役となり、箭原実践の何が良いのかを皆で議論しながら本人自身 が気づいていく場をいかにつくるかに専心した。 おおかたの教師は自身の実践やそれを表現するに際してなんらかのこだわり (固執) があることは、 約30年にわたり様々な場で教師と交流してきた前田の経験知としてある。しかし、箭原さんの場合、 ストレートマスターからの指摘に耳を傾け新しい実践の見方や自分の検討の不十分さにふれることを 日々楽しんでいるようにみえた。この柔軟さは、何よりの武器だった。勤務校で研究部長や学年副代 表の役目を担い多忙ななか、確実に実践の分析の力がアップしはじめた時期だった。 3-5 仕上げ・発表準備期 この年度は、2月中旬に抄録用原稿作成(A4判2枚 発表会時に配布) 、3月上旬に発表会、と いうスケジュールだった。合同事例研究はひとまず終了し、 個別の事例研究 (電子メール利用を含む) が続けられた。発表会ではパワーポイントを使用し一人20分(質疑応答含む)で内容や意義を伝える ことが求められるので、 「抄録」 (後述 当日配布)のほかに、パワーポイントシート・読み上げ原稿 の検討をAさんとともに数時間かけて検討・改善がすすめられた。 <概要> 1月20日に箭原・前田による事例研究がおこなわれ、章節構成、考察の視点、子どもによ る授業アンケート回答・ワークシート等の大量のデータ整理、などが検討対象となった。24日には電 子メールにてミシンの技能の上達等にかかわって分析のやりなおし、 それにともなう章節構成の修正、 タイトルの相談などが寄せられ、筆者(前田)からの意見を返信した。 1月末に提出されたMOBタイトルは「技能を身につけ創意工夫する力を育む家庭科教育について の一考察―オリジナルエプロン製作授業の省察をもとに―」となった。 (概要は後述) <箭原振り返り> (苦労、苦悩として) 「直感的にやっていることを論理的に意味づけていくこと の難しさ。自らの実践をどのような視点でみていくか、どのような言葉で意味づけていくかに苦労し ています。教育実践は暗黙知も含めてさまざまなことが複雑にからんでいます。それをひもとき、課 題を絞っていくことが大変。課題を明確にしていくこと自体に膨大な時間を要しています。修了研究 についてはテーマや仮説を立ててみるものの、やっぱりこれではだめだという繰り返し。 」 (アンケー ト回答より ただし提出より前に回答されている) <前田振り返り> MOB発表会の準備は、ワークシート等の記述や各種データ、教師と生徒とのや りとりの場面のいくつか、子どもの制作した創作エプロンのポイントなどが、視覚的にわかりやすい プレゼンとなった。. 4 MOBの概要―「技能を身に付け、創意工夫する力を育む家庭科教育についての一考察 -オリジナルエプロン製作授業の省察をもとに-」 (箭原) 提出したMOBの章構成は次の通りである。 1.はじめに 2.本研究にかかわる先行研究 3.研究仮説 4.研究方法 5.実践の概要 6.指導の実際および考察 7.成果と課題 8.おわりに 在籍当時に作成した抄録用原稿を若干の加筆・修正のうえ概要を示す。抄録はA4判2ページとい う条件下で作成したものなので、先行研究等の理論的整理は最低限にとどめ、もっとも力を入れた授 101.

(9) 前田 輪音・箭原さおり. 業実践の「省察」が主たる記載内容となっていることをお断りしておく。 4-1 はじめに 教職大学院の学びを通して「子どもの姿から省察する」ことの重要性に気づかされた。そこで、 「私 が家庭科の授業を通して子どもたちにつけたい力は何か」と原点に立ち返った。 「生活に役立つ知識 や技術を学ぶ」ということが家庭科教育の特質ともいえる。しかし、武藤八恵子は「実習の授業は技 能・技術の模倣・伝達的授業になりやすく、生徒の主体的探究の過程が成立しにくい」 「ものづくり が家族や人間の生活に対する視点がなく、ものを対象とする断片的学習になっている」ということを 指摘している5。 私は、「役立つ」ことを学ぶ中で、学ぶ意味や喜び、自らの成長を実感し、生活をよりよく創造し ていける力を育てたい。そこで、自身の実践の中でうまくいっていると考えた「オリジナルエプロン 製作」授業に着目し、次の3点を実践に必要な鍵である仮説とした。 ・製作したエプロンを活用させる場の設定 ・基礎基本を理解させ、身に付けさせる指導過程の工夫 ・生徒の工夫や表現を尊重した支援 これら3点について、生徒のワークシートや振り返りの感想、アンケート調査、ビデオや音声機器 による授業記録を基に分析を行い、家庭科において「技能」を身に付ける意味を問い直し、これから の家庭科教育の在り方を考えた。 4-2 実践の内容 【題 材】オリジナルエプロン製作 【ねらい】布を用いた物の製作を通して生活を 豊かにするための工夫ができる。 【全体計画】全21時間 第1学年 110名 作業内容(課題)は毎時間提示した(図1) 。. 時期 6月. 7月. 9月. 10 月. 性などの工夫は、材料や製作方法を各自で考え させた。製作過程において各自の課題を解決し. 11 月. に使う場 活用させる場を他の単元(調理実習)に位置. ・糸かけの確認(上糸・下糸). 第 3・4 時. ・縫い方の練習(直線・曲線・直角). 第 7・8 時 第 9・10 時 第 11・12 時. ・ジグザグミシン. 第 13 時. ・直線縫い. 第 14 時. (すそ、ひものつかない脇) ・胸(首)ひもつけ ・ポケット三つ折り. ・ポケットしるしつけ ・ポケット裁断 ・ポケットの工夫. 第 16 時. ・エプロンの工夫. 第 17 時 第 18 時. きるようにした。 【活用させる場の設定】→ともにつくり・とも. デザイン決定・寸法決め. 第2時. 第 15 時. ながら、調理実習で着用するエプロンが完成で 4-3 実践から見えてきたこと. 第1時. 第 5・6 時. エプロン本体の製作方法や手順は共通している ため、一斉指導で教師が説明した。装飾や機能. 作業内容(課題) 基礎基本(ミシン) 応用(創意工夫). 時数. 12 月. 第 19 時. ・ポケットつけ ・脇ひもつけ. 第 20 時 第 21 時. 12 月. エプロン発表会. 図1 全体計画. づけたことにより、生徒の現実に即した製作活 動になり、 「創意工夫したい」という動機づけにもなったと考える。生徒たちは「その工夫、 便利だね」 「実習で役立つね」など、共通の視点で意見を言い合っていた。仲間との関係の中で自分の製作を見 つめ直し、工夫を広げていた。 【基礎基本を理解させ身につけさせる】→学習課題に対するイメージが広がる授業展開 説明方法を工夫し、示範を繰り返し行った。作業内容も、ミシンの簡単な技能から難しい技能へ シフトさせた(図1) 。 102.

(10) 実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程. 事前調査でミシンに対して苦手意識をもっていた生徒も上達 を感じている(図2)ことから、指導の効果があったと判断で きる。 基礎基本(図1参照)を土台とし、工夫に集中していた。失 敗やハプニングなども粘り強く乗り越える様子も見受けられた。 【工夫や表現を尊重した支援】→自分の考えを表現しやすい授 業空間の保障. 図2 実践の成果:ミシンの意識の. ミシン縫いの技能にこだわりすぎると、エプロンの装飾や機能. 違いによる変容. を工夫しようとする意欲を狭めることもある。生徒個々人の製作 方法にまかせてゆるやかに支援した。 最後は私の指導の手をはなれ、 自分なりの製作活動の世界に入っ ていた。試行錯誤しながら苦労して完成させた、という経験が、楽しさや達成感につながっていたの ではないだろうか。 (資料1 MOB発表会のプレゼンシートより). 資料1 S君へのはたらきかけ. 4-4 おわりに 創意工夫する力は、 「技能」を身に付けることによって補強され、より実践的な力になっていくの ではないか。また、エプロン完成後、生徒たちがこのエプロンを用いた調理実習(次年度)へ期待を 膨らませていること(資料2)から、本実践は、家庭科教育のカリキュラムにおいて、他領域にも繋 がるストーリー性のある展開を有しているといえる。 実践の核となるのはいつも「子どもの姿」である。 本研究を自己の実践への広がりの契機とし、今後も 省察的実践を重ねていきたい。. 資料2 Y君の振り返りの感想 . 5 実践の再検討と修了後における「課題」とのつながり(箭原) 修了後、中学校から定時制高校勤務となり、1年後の2013年には日本教職大学院協会シンポジウム のポスターセッション(12月・東京)で大学院での学びが現任校でどう継続的に取り組まれているか を報告する機会を得た6。2014年度からは前田先生から教職大学院での授業協力7の要請をうけた。 これらが再度、実践の意義を見直し、現任校の課題とのつながりを認識する機会となった。. 103.

(11) 前田 輪音・箭原さおり. 5-1 MOBにおける実践の再読 MOBで考えた私の実践のかなめとなっている「創意工夫する力」を引き出すための要素を再整理 した。MOBでは、 ・製作したエプロンを活用させ る場の設定 ・基礎基本を理解させ、身に付 けさせる指導過程の工夫 ・生徒の工夫や表現を尊重した 支援 としていた。これらを、 「指導. 図3:「創意工夫する力」を引き出す要. 計画」と「授業中のはたらきかけ」 に二分したうえで、それぞれの要素を図3のように整理した。 5-2 修了後の勤務校(現任校)での課題との接続・発展 修了後に着任した現在の勤務校は午前部・午後部・夜間部の三部制・単位制のシステムで、様々な 困難や不適応感を抱えている生徒達への支援などが必要とされた。 ここでも、MOBで認識できた 「工夫を引き出す働きかけ」 が活かされている。中学校まで不登校だっ た生徒も多く、学校での学びをほとんど経験してこなかったなど、一人一人が様々な「困り感」を抱 えている。「興味をもたせる指導計画」 を工夫しても、 授業中の生徒の反応は容易には見通せない。「や りたくない。」「できない。 」 「わからない。 」 「工夫はしない。 」 「無理。 」という生徒が多いため、 「授業 中の働きかけ」においてよりいっそうの工夫が必要である。生徒の反応や学び方から実践を振り返り、 今、目の前にいる生徒の内心を推察しながら「工夫を引き出す働きかけ」を試みている。初めは無反 応だった生徒も徐々に意欲的になり、創意工夫しようとする姿が見られるようになってきた。 一方、わからないことやできないことなどがあると授業から逃避する場 合がある。そのため、各自での作業で困難に直面したときは、MOBでの 実践のように「自分で考えて」との指示ではなく、方法をこちらから提示 する(資料3)必要がある。そうしながら作業を継続させ完成させ達成感 を味合わせる、など、新たな課題に直面している。 このように、MOBの再読を通して、 「創意工夫を引き出す要」 (図3) と現任校の実践との関連に気づいた。現任校の取り組みをMOBと関連さ せて振り返ったことにより、MOB作成を通して認識できたことがあらゆ 資料3 S君への はたらきかけ. る自分の実践の土台になり、発展的取り組みに繋がっていると感じた。大 学院での学びが実践の基盤となったことの証である。. 6 大学院を通して得たこと(箭原) 6-1 MOBの取り組みそのものについて 「エプロン製作授業」は全21時間の実践である。これは他の実践と比べて子どもと私(教師)の対 話が多い。各自で取り組む作業時に子ども個々人の課題に応じて即座に行っている働きかけの中に、 実践をうまくいかせている有効な要素があるのかもしれないと思っていた。したがって、膨大な時間 を要しつつも、逐語記録から働きかけの特徴を洗い出すことは、私のMOB作成における重要課題だっ 104.

(12) 実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程. た。「自分はどのように捉え、 働きかけたか」 「その結果どのような変容があったか」を何度も振り返っ た。最も苦労したのは抽出児の逐語記録分析(TC記録分析)だった。 日頃、当たり前に行っていることについても、 「子どもの学ぶ姿」を判断の根拠にして「なぜ、そ のように捉えたのか」 「なぜ、 そのように働きかけたのか」を考えた。実践と分析を並行させながら「今 日は授業中にこんなことがあったけれど、こうなのかな。 」など、具体的な「子どもの姿」と結びつ けて「ああでもない、こうでもない。 」と試行錯誤した。経験の積み重ねによって無意識に行ってい ることも多く、自分で自分の特徴を洗い出し認識することの難しさを実感した。 事例研究は、自分の(実践の)特徴に気付いたり、 見方考え方の思い込みを転換させる場になった。 ストレートマスターの皆さんの感想や意見、素朴な疑問などは私にとって新鮮だった。 振り返った内容をMOBにまとめる際は、「判断の根拠」を明確にして、分かりやすい言葉や単語を 用いて表現することを心がけた。学校現場で当たり前に使っていた教育用語について、その意味を考 え直す機会にもなった。文章にすることにより、漠然としていた実践の特徴やうまくいかせている要 素が少しずつ整理されていった。生徒がワークシートに記入した内容や逐語記録から子どもの変容が 発見できたときは嬉しかった。 6-2 MOBの取り組みがもたらしたもの 「実践の振り返り」により、エプロン製作授業を構成する多様な要素が整理され、これまで見えて いなかった部分や自身の働きかけの有効性を認識することができた。考察を通して「子どもの姿」か ら判断の根拠を考え、意味付ける習慣が付いたと感じている。私にとってMOB作成は、教師として の自分自身を再構築し、指導力向上を図るうえで意義深いものであった。 また、前田先生からの「自己のUPが全体のUPにもつながる」という言葉通り、学校課題に積極的 に向き合う意識が高まった。勤務校(在籍当時の)では在籍2年次に研究部長を任され、校内研修の 活性化に取り組んだ。 「子どもの姿」から学校課題を洗い出し、管理職のビジョンを聴きながら各分 掌部長と連携して教職員が共同しやすいテーマ設定や組織作りを行った。研究主題や仮説はわかりや すい言葉を使用し、その意味や捉え方について共通理解を図った。研究討議は「子どもの姿」を中心 にできるだけ多くの意見が出るように働きかけた。 「子どもの姿から実践を振り返る」ことにより、 素朴な質問や意見を自由に言い合える雰囲気が生まれた。教科を超えてそれぞれの教師の教育観や学 習観、実践をとらえる見方考え方や判断の根拠が共有され、校内研修が徐々に活性化されていった。 MOBの内容と研究部長として取り組んだ内容との繋がりを実感することができた。 6-3 学び続ける教師として 教員生活16年目になり、教師として学び続けることの大切さを実感している。学校現場の教師は、 教科指導以外に生徒指導や部活動、校務分掌や事務処理など、非常に多くの仕事を抱えている。日々 の実践をじっくり振り返る余裕がない中、教育改革や流行の実践に右往左往することもある。実践を 多様な角度から振り返り「今、目の前にいる子どもに何が必要なのか」をぶれずに考え続けることは 容易ではない。 そのような状況において、大学院修了後も、教職大学院の先生や院生の方々とつながりを持てるこ とは心強く、日々の実践の支えになっている。ポスターセッションでは他大学の方との意見交流の機 会を得て、視野を広げ、教育実践を進めていく上でのよい刺激になった。授業協力では自分のMOB の取り組みやその後について語ることで、院生からの指摘・刺激を受けるなど、教師としての学びを 深めることができている。実践を振り返るたびに様々な気づきがあり、それらを言葉にすることで実 践の解釈が深まり、新たな実践の一歩に繋がっている。 105.

(13) 前田 輪音・箭原さおり. ミドルリーダーとしての立場や役割が求められるようになったこれから、 「教育の専門家」として さらに成長する責任を自覚している。教育実践は目に見えないことも含めて様々なことが複雑に絡み 合っている。「こうすれば、必ずこうなる」と言えないところに「人が人を育てる」奥深さがあるの だと思う。それでも、柔軟性をもって変化に対応しながら、その時その時の「子どもの姿」を振り返 り、実践を意味付け、地道に改善を繰り返していくことが教師としての成長につながるのだと思う。 改善を試みてすぐに変わるほど簡単なものではないが、これからも子どもと向き合い「学び続ける教 師」であり続けよう思う。. 7 教師教育の側からみた「事例研究」における「研究」過程(前田) 7-1 ニーズに気づき・引き出すこと 筆者の基本的な研究スタイルは、先行研究・実践に学びながら、科学や学問の成果の検討から教育 内容を設定し、同時に子どもに理解可能な内容・順序構成により授業(授業プラン)をつくり、 実践・ 検証する、…それらを積み重ねることを通して、教授学としての理論をつくりだす、というものだっ た。しかしこれは箭原さんのニーズに直結するものではなかった。 実践の新たな開拓を念頭においた先行実践・研究等の検討を経て、ご自身の「うまくいっている」 実践の意義(理論や原則などにつながると考えられる)をひもとくことが有益と思い始めたのは1年 次の後期も終わりに近づいたあたりだった。箭原さん本人もまた同様だったことを本稿執筆課程で 知った。最新の研究だけが教師のニーズを満たすとは限らず、むしろ教師教育の鍵は、本人のニーズ をどれだけ引き出し・近づけるかにかかっていることを改めて思い知らされた。 箭原さんと同期で同じく筆者が担当をつとめたAさんとともに事例研究を進めることにより、Aさ んによる文献紹介・検討が自分の研究の方向性を考える契機となったことも重要な事実だ。大学院に おける「学びあい」の一端がここにある。 入学時に提出された箭原さんの実践報告8は、授業構成(指導計画)で占められ、子どもの様子は ほとんどわからなかった。その後、 2年を経たMOB作成および発表会では、 子どもの多様な数値的デー タや箭原さんと子どもの対話が複数用いられている。実践において「子どもの姿」に目を向けられる ようになったのは、箭原さんにとって大きな変化である。 7-2 「省察」する過程 教育実践改善のための一方法として「省察」があげられる。しかしその内容・方法は決して一様で 「1)困難な問題に直面すること、2)問題の性質を定義 はない9。デューイの「省察的思考」は、 すること、3)可能な解釈を連想すること、4)解釈の妥当性を検討すること、5)行動によって仮 説を検証すること」とされている10。 箭原さんのMOB作成のプロセスをあてはめてみると以下のようになる。 1)困難な問題に直面すること…MOBの研究課題として、 「何気なく」 「無意識に」行っている自 分の実践を対象に、その実践が「うまくいっている」要因をさぐる、という課題を自らに課した。 2)問題の性質を定義すること…子どもの「創意工夫する力を引き出す」教師(=自分自身)の授 業中の行為を明らかにすることになった。 3)可能な解釈を連想すること、4)解釈の妥当性を検討すること…この両者は「同時進行で行わ れることも多い」11ので、一緒に扱う。 2年次後期で授業実践の小単元ごとに撮影した授業映像(21時間分)の逐語記録(TC記録)と生 106.

(14) 実践報告 教職大学院および修了後の教師の「研究」過程. 徒のアンケート回答等のワークシート分析など、子どもの姿をとらえるべく多様で膨大なデータが地 道に何度も検討されながらポイントが絞られていった。本人の報告それ自体が「可能な解釈を連想」 することにあたるなら、その妥当性を検討するのは、報告を受けての他者との意見交流・検討は、他 者の視点が有効に働いた。特に2年次後期の3名のストレートマスターとの「学び合い」が大いに貢 献した。しかしそれを真に活用できるのは、他者の意見から率直に学ぶ箭原さんの姿勢が不可欠だ。 2年次後期の合同事例研究での箭原さんとストレートマスターとの学びあいは示したとおりだ。 5)行動によって仮説を検証すること…修了直後に「検証」の機会は訪れた。様々な事情を抱えて 入学してくる札幌市立大通高校への着任である。 7-3 実践→「省察」→実践への連鎖 あらたな着任先は、MOB作成過程で見出した自身 の実践のいわば「良さ」の「検証」にとどまらず、同 じくエプロン等の制作実習の授業において、子どもの 実態に応じて働きかけの内容・方法を変える必要性・ 必然性にあらたに直面し、次なる課題として認識され た。それは、次の実践を生み出す契機を有している。 図4(筆者作)に示したように、「実践」→「自己 分析・検討」→「他者を介した分析・検討」→「良さ・ 課題の発見」までが箭原さんがたどった「省察」一巡 目であり、MOB作成過程である。. 図4 実践・省察・実践への連鎖. 修了後に次の職場で実践をすすめながら、ポスター セッションや大学院の授業での自身の実践・研究の発信準備のなかで、箭原さん自身がさらに気づき 整理し、実践における課題につながっている。これが二巡目に突入していることを意味する。箭原実 践は「省察」に「省察」を繰り返しながら、実践として展開し続けているのだ。. おわりに (前田) 本稿は、一教師の大学院生時代から現在にいたるまでのいわば「研究」の経緯の一部を素朴に示し たにすぎない。しかしながら、自身の実践と厳しく対峙し、 「省察」することの必要性に気付き、さ らにその後のさらなる実践との対峙・課題の再認識など、実践を対象にした研究の契機は教職大学院 におけるMOB作成である。MOB作成の意義の一つはこの気付きを促すことであり、その場ないしは 機会を提供することにある。そして修了後も発表や授業協力を通じて意見交流の場を持ち続け、研究 は続いている。今後も、このような事例を振り返り・分析し、教師にとってどのような研究が目指さ れるべきなのか考える一助としていきたい。 教師教育において何が「高度化」なのか、目指すべき教師の専門職像の検討が進められてきてい る12。本来の目的は、教師一人一人による実践の充実・発展にあり、それなくして学校の改善はあり えない。そのために「学び続ける教師」になることが必要とされる。多くの教師は、自らの日々の教 育実践での何らかの課題に直面し、問題の所在や解決の方法を模索し、実践し、改善し…というサイ クルを意識的ないしは無意識に繰り返し、それが新たな教育実践を生み出す一過程となっている。そ れを意識的に行うことの一助に教職大学院が機能するのだとしたら、それもまた教師教育のニーズの 一部を満たすことになろう。 107.

(15) 前田 輪音・箭原さおり. 加えて、教職大学院は制度的には「高度専門職業人の養成に特化しているので、研究指導や修士論 文は課されないこと」13になっているが、実践を対象にした「高度専門職業人」としての研究の在り 方も考えられるべきであろう。 それらがどのようであれば良いのか、教師教育実践の積み重ねを今後も続け、教師自身による教育 ニーズへの対応の在り方を考えていきたい。 なお、筆者の担当した現職教員として大学院に通ってきた院生のなかには、先行研究・実践の検討 により自分の実践を大きく変えて実践・検証するというスタイルもあるが、それについては稿を改め たい。 <註> 1 本大学院案内による。ただし、本来、教職大学院には制度的に修士課程に課されるようないわゆる 「修了研究」 は設定されていない。正確に表現すれば、むしろ「課題研究」と述べたほうが良いかもしれない。 2 前田輪音「教職大学院の実践的研究における『洗練』について―北海道教育大学MOB作成過程の事例を通して―」 北海道教育大学高度教職実践専攻発行「北海道教育大学大学院高度教職実践専攻(教職大学院)研究紀要」2号 2012年3月所収 3 現職教員の院生は2種類の立場がある。すなわち、北海道や札幌市などの都道府県教育委員会から派遣として在 籍する場合と、そうでない場合がある。前者は最初の1年はフルタイムで実習(実地研究)を含めて大学院生とし て大学院での学びに集中する。後者の場合、多くは平日は17時前後まで勤務に従事し、その後、夜間開講の授業や 土曜の開講授業等に出席する。 4 「アンケート調査」の概要は次の通りである。実施時期:2011年10月下旬に電子メールで2年生(当時)16名に 一斉送信 回答状況:6名(回答率42.9%) 、回答内訳:現職3名、ストレート3名 アンケート本文: (1) 現時点で構想しているあなたが作成するMOBのタイトル・内容・方法を教えてください。 書けるところだけでけっこうです。 (*以下例示文等略) ⑵ 1年半のMOB作成に向けた自らの歩み(苦労・苦 悩・課題意識の変化・仲間との支え合い・事例研究における検討の蓄積・変遷などなど いつ頃のことかも覚えて いれば) (3)教育政策における教職大学院の使命の一つは、教師としての「実践的指導力の育成」と言われて いますが、この「実践的指導力」とは何か、必ずしも明確にはされていません。あなたはこの大学院において、自 分自身にどのような力が育成されたと思いますか。あなたの言葉でご回答ください。 なお、このアンケート調査は前田前掲2)でまとめたが、 (3)の回答結果は分析対象からはずした。 5 武藤八恵子・鶴田敦子・伊藤葉子『テキスト家庭科教育』家政教育社、p.121、2000 6 毎年、教員の話し合いのもと修了生から1名が選出される。概ね、東京で開催されている。 7 「授業協力」とは、講義科目のうち数時間を担当するものである。依頼された講義は授業開発分野の2年次選択 科目「授業実践と学級づくり」であり、2コマ分を担当している。 8 1年前期実習のレポート代替申請の際に添付されたものをさし、大学院入学前の勤務校等での実践をまとめたも のである。 9 佐久間亜紀によると、ジョン・デューイは「省察の実際」は「事例によって異なること」を強調しており、ゆえ に「何をどのように省察するか、その方法を一般化することは困難」と述べている。佐久間亜紀「省察とは何をす ることか-デューイに学ぶ教師教育の方法」日本教育学会特別課題研究委員会『研究報告書 現職教師教育カリキュ ラムの教育学的検討』2012年、p.25。 10 佐久間前掲9)p.25。デューイは、一般化することの困難さをふまえたうえで、この五つの段階を提示している ことが佐久間によって指摘されている。 11 佐久間前掲9)p.27。 12 たとえば、 石井英真「教員養成の高度化と教師の専門職像の再検討」日本教師教育学会編「日本教師教育学会年報」 №23、2014 など 13 日本教職大学院協会HPより. 108.

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