第14章 知的財産権
1. メキシコにおける知的財産権制度
メキシコにおける知的財産権制度は、1832 年の「特定産業分野における発明者または完 成者の所有権に関する法律」に始まった。その後、いくつかの法律の制定や廃止を経て現 行法に至るが、メキシコの知的財産権に係る転換点の一つはNAFTA での交渉であった。 NAFTA では知的財産権に関する独自のルールが規定されているため、メキシコは NAFTA への加盟交渉を契機として知的財産権保護を重視する政策をとっている。 図表 14-1 は、メキシコにおける特許申請件数と申請者の属性を示したものである。過去 15 年間では、特許の出願は毎年 1 万件を超えている。また、非居住者による申請件数が居 住者による申請件数を遥かに超えることが特徴で、申請の大部分が特許協力条約(PCT: Patent Cooperation Treaty)36を利用したものである。また、メキシコにおいて申請され る特許の分野別の内訳では、社会基盤、医療技術、医薬品分野における特許出願が特に多 い(図表 14-2 参照)。 図表 14-1 メキシコにおける特許申請件数と申請者の属性 (出所)世界知的所有権機関データより作成 1,294 14,020 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 (件数) (年) 居住者 非居住者図表 14-2 メキシコにおける特許申請の分野別の内訳(1998-2012 年) (出所)世界知的所有権機関データより作成
2. 関連法規
メキシコの知的財産権制度は、産業財産権法、連邦著作権法、連邦植物品種法の3 つの 法律から規定されている。 (1) 産業財産権法 産業財産権とは、工業及び商業に使用される新たな技術やデザイン、ネーミング等に対 し、国が一定期間付与する独占権のことである。メキシコにおいて産業財産権を規定する 主要法規は、1991 年に公布され、1994 年に大幅に改正された産業財産権法である。その後 も1997 年、1999 年、2003 年、2005 年、2006 年、及び 2012 年の法改正を経ている。 産業財産権は大きく2 つに分類される。一つ目は、創作物に関するもので、特許、実用 新案、意匠、営業秘密、集積回路配置図などが該当する。二つ目は標識に関わるもので、 商標、商号、原産地呼称、商業標語などが該当する。 8% 7% 7% 5% 5% 5% 5% 5% 4% 4% 45% 社会基盤 医療技術 医薬品 食品化学 マテリアル・冶金 その他特殊機械 基礎資材化学 家具・ゲーム 電気機械・装置・エネルギー ハンドリング その他図表 14-3 産業財産権 分類 名称 内容 創作物に 関するもの 特許 【有効期限】20 年間(更新・延長は不可) 【登録要件】 1.当該発明に新規性があること 2.当該発明が発明行為の結果であること 3.当該発明が産業上利用可能であること 【留意点】 所定のルールに基づきメキシコ産業財産庁(IMPI: Instituto
Mexicano de la Propiedad Industrial)に願書と発明の明細書を提出 し、審査された上で、特許証が公布される。 複数の者が個々に同一の発明について特許申請をした場合には、最も 早く申請した者が特許を取得することになる。 実用新案 【保護対象】 物品の形状、構造又は組合せの変更により、各構成部分とは異なる機 能を持つようになる、又は使用に関して顕著な利点をもたらす場合、そ れに係る考案が保護の対象となる。 【有効期限】10 年間(更新・延長は不可) 【登録要件】 1.新規性があること 2.産業上の利用が可能であること 意匠 【保護対象】 物品の模様若しくは色彩又はこれらの結合により工業製品に特徴的な 外観を与える創作を意匠とし、図案意匠と型式意匠の二種類を保護対 象とする。 【有効期限】15 年間(更新・延長は不可) 【登録要件】 1.新規性があること 2.産業上の利用が可能であること 営業秘密 【留意点】 登録制度はないが、産業財産権によって保護されている。同法により、 当該営業秘密を不正取得、領得、不正使用、不正開示する場合に、そ の主体に対して賠償責任が生じる。 集積回路 配置図 【有効期限】10 年間(更新・延長は不可) 【登録要件】
標識に 関わるもの 商標 【保護対象】 ある製品やサービスを同類同種の他の製品やサービスと区別する標章 を商標として定義した上で、名称商標、非名称商標、立体商標、複合商 標の四つを保護対象とする。 【有効期限】10 年間(更新可) 【留意点】 有効期限満了後6 カ月以内であれば更新の申請が可能であるが、それ を過ぎると登録は失効する。 原産地呼 称 【有効期限】10 年間(更新可) 【登録要件】国による保護宣言によって成立する。 【留意点】 メキシコ産業財産庁による使用許可を受ける必要がある。 商業標語 【保護対象】 事業、製品、サービスを公に宣伝することを目的とする文句又は文書 【有効期限】10 年間(更新可) (出所)メキシコ産業財産庁、JETRO「メキシコの経済基礎知識第 2 版」より作成 (2) 連邦著作権法 連邦著作権法とは、知的財産権の一つである著作権の範囲や内容を規定する法律で、 1996 年に制定され、1997 年、2005 年、2013 年の改正を経て現在に至っている。 (3) 連邦植物品種法 連邦植物品種法とは、バイオテクノロジーに係る植物新品種に関する事項を規定する法 律で、1996 年 10 月に公布された。
3. メキシコ産業財産庁
産業財産制度の所管庁は、メキシコ産業財産庁である。メキシコ産業財産庁は、1993 年 に政府外郭団体として創設されて以来、産業財産権の保護、創作活動の促進、権利侵害や 不正競争の防止、国際協力の促進などといった役割を担っている。 特許や商標を得るためには、日本と同様、所定のルールに基づき出願し、審査を受けて 認可される必要がある。メキシコ産業財産庁はこうした手続きを管轄している。 また、メキシコの連邦著作権法を所管しているのは連邦著作権庁であるが、経済的権利 に関わる商業的な権利侵害については、著作権に関してもメキシコ産業財産庁が査察等を 行っている。第15章 環境規制
1. 生態均衡及び環境保護に関する一般法
メキシコにおける環境政策は、1982 年の憲法改正に伴う都市開発・環境省(SEDUE: Secretaría de Desarrollo Urbano y Ecología)の設置と環境保護連邦法の制定から始まった。 1987 年には、環境改革に伴う憲法第 27 条の改正により、国家が領土領海内の環境保護の ための主導権を有することが定められた。また同改革により環境保護連邦法が撤廃され、 代わりに、生態均衡及び環境保護に関する一般法(LGEEPA: Ley General del Equilibrio Ecológico y la Protección al Ambiente)が制定された。同法は現在まで環境関連の基本法 とされている。
環境政策の所管は、1992 年の社会開発省(SEDESOL: Secretaría de Desarrollo Social) への組織移行ののち、1994 年の環境・資源・漁業省設置、2000 年の組織改変を経て現在は 環境資源省(SEMARNAT: Secretaría de Medio Ambiente y Recursos Naturales)へと移 行している。同省は、持続可能な利用と開発のため、生態系や自然のみならず、環境財や 環境サービスに至るまで、保護、回復、保全を推進している。 生態均衡及び環境保護に関する一般法は、国土及び国が統治し管轄する地区における生 態系均衡の保護や再生、環境保護について規定するもので、環境問題全般に取り組む包括 的な環境法令である。具体的には環境汚染、天然資源の保全、環境影響及びリスクの評価、 エコロジカル・ゾーニング、制裁措置などを規定している。
2. 国家計画における環境に関する施策の位置づけ
2006 年 12 月に就任したカルデロン大統領は、国家目標とそのロードマップ、及び戦略 を描く「国家開発計画2007-2012」を定めた。同計画の中で、持続可能な環境の実現を重 点課題として掲げており、気候変動への適応策の推進や温室効果ガスの削減など、環境問 題に対して前向きな検討がなされている。 同計画の発表後、2007 年には政府によって「国家気候変動戦略」が発表され、中長期的 な環境政策が示された。2009 年には、「気候変動特別計画2009-2012」が策定されており、 地球温暖化の原因である温室効果ガスの具体的な削減目標が定められた。 2013 年には、新たに「国家開発計画 2003-2018」が策定されており、メキシコ政府の施 策の方向性として気候変動政策及び環境配慮型政策の強化が示されている。ひとくちメモ(15): グローバル企業として環境対応するマツダ 現地ヒアリング調査によれば、日本を含め、世界を代表する完成車メーカー各社は、グローバル企 業である自覚から率先して環境に配慮した工場を設立している。メキシコシティから北西に約250kmに 位置するグアナファト州サラマンカ市に2014年1月に工場を新設したマツダもその1社である。 当工場は敷地面積約256ヘクタール(東京ドーム約54個分)の広さを持つ。エンジンの機械加工工程を 取り扱う工場は2014年秋から稼働予定であり、敷地内にはサプライヤーパークも整備されている。環 境への配慮として当工場は、作業場の天井を半透明にすることで自然光でも作業ができる工夫が施さ れているため、電力使用を通常より抑えることができる。また、工場敷地内には太陽光パネルがいたる ところに設置されており、それらで得た電力で夜間照明を行う工夫もされている。 これら環境への配慮は州政府から依頼されたものではないが、そのような取り組みは州政府との 良好な関係を築く礎となっているようだ。 【写真説明】グアナファト州サラマンカ市にあるマツダの工場 (出所)マツダ提供資料