日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-45 210
-感情が無謀な賭けに及ぼす影響
○糸川 航平1）、金澤 潤一郎2）、高橋 史3） 1 ）北海道医療大学心理科学研究科臨床心理学専攻、 2 ）北海道医療大学心理科学部、 3 ）信州大学教育学系 問題と目的 ギャンブルに影響を与える要因のひとつとして， ギャンブル前後の感情状態，特にポジティブ感情に注 目が集まっている。ギャンブル中のポジティブ感情は 賭けを促進することが示されている。一方で, Posner et al.（2005）は感情というのは快－不快などの一次 元的なものではなく，二次元的なものであるという The circumplex model（円環モデル）を提唱している。 これは感情を快－不快という一次元的なものでとらえ るのではなく，活性－不活性という次元も加味し，二 次元的なものとしてとらえる。快感情がギャンブル行 動に与える影響を検討するにはこの活性－不活性とい う次元も考慮し，検討する必要がある。 しかしながら，高田・湯川（2014）の無謀なかけ（期 待値の低い賭け）に関する研究では，いずれも快次元 または活性次元が単独でギャンブル行動に与える影響 性を報告するにとどまっている。円環モデルにしたが うと，個人の感情状態を把握するためには，快－不快 と活性－不活性の 2 つの次元で感情状態を測定するこ とが必要である。そこで，本研究では，快－不快と活 性－不活性の 2 つの次元の組み合わせで把握された感 情状態とギャンブル行動との関連性の一部を明らかに することを目的として，「低度の快を感じつつ低度に 活性化しているときよりも，高度の快を感じつつ高度 に活性化しているときの方が，無謀な賭けが増加す る」という仮説を検証する。 方法 1 ．実験協力者 国立大学に通う大学生15人（男性 3 名，女性12名， 平均年齢21.33歳，SD =0.79）を対象とし，縁故法を用 いて実験協力者を募った。 2 ．実験課題本研究ではBrand et al.（2005）のGame of Dice Task（以下GDT）を一部改変したものをギャンブル課題 として用いた。GDTは，さいころの出目を予想して元 手1000ポイントを最大化する課題である。さいころの 出目が予想と一致していた場合は対応したポイントが 得られ，一致していなかった場合は対応するポイント が失われる。予想する数字の組み合わせは決まってお り，当たった際に得られるポイントと失うポイントは 選択した出目セットによって予め決められている。 4 つの出目セットを選んだ場合の期待値は33.3である。 3 つの出目セットの期待値は 0 ， 2 つの出目セットの 期待値は-166.7， 1 つの出目セットの期待値は-666.7 となる。サイコロの出目はさいころを振る 6 つの動画 を用いて，コンピューター上でランダムに提示した。 また，ポイント数は電卓を用いて実験者が表示した。 この課題は全部で18試行実施した。 3 ．感情評定
感情の評定にはThe Affect Grid（Russel et al.， 1989）を用いた。The Affect Gridでは， 9 × 9 マス の81マスの正方形の格子上のいずれか 1 つのマスに× を記入することで，実験協力者が自分自身の現在の感 情を評定する。横軸は感情の快次元を表し,縦軸は感 情の活性次元を表す。快次元では,最左列のマスが 1 点,最右列のマスが 9 点に換算され，得点が低いほど 不快状態，高いほど快状態であることを表す。また, 活性次元では，最下段のマスが 1 点,最上段のマスが 9 点に換算され，得点が低いほど不活性状態，高いほ ど活性状態であることを表す。本研究では，GDT開始 前とGDTの各試行後にThe Affect Gridを実施した。
4 ．手続き 実験協力者は最初に実験内容について説明された。 その際,本研究のギャンブル課題を現実場面に近づけ るため，本実験の謝礼はギャンブル課題で獲得したポ イントとの交換によって提供されること，および課題 成績によって謝礼の内容と量が異なることが伝えられ た。しかし,実験終了時にはデブリーフィングがおこ なわれ，課題の成績に関係なく謝礼がすべての参加者 に提供された。その後,感情評定の方法とGDTの実施方 法について説明した。練習を実施し,本試行に移っ た。 各 試 行 で は,感 情 の 評 定,さ い こ ろ の 出 目 の 予 想・選択,出目の表示,感情の再評定の順に実施した。 これらの一連の流れを18回繰り返した。 5 ．倫理的配慮 本研究は信州大学教育学部研究委員会倫理審査部会 の承認を得て実施された（管理番号: 29-16）。 結果 賭けの無謀さ・手堅さと感情との関連を検討するた めにバブルチャートを作成した（Figure1,2）。全試行 数に対する各感情状態が選択された割合を用いて,縦 軸を活性得点,横軸を快得点としてGDTの期待値の正負 別に作成した。期待値が正の賭け方をする場合,快得 点,活性得点ともに 6 , 7 点付近が多いことが示され た。期待値が負の賭け方をする場合,快得点は 4 ， 5 点付近に，活性得点は 5 点から 8 点の間に多く分布し
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-45 211 -た。つまり，期待値が正の賭け方に比べ,快得点が低 下し,また,活性得点の上昇も見られた。 考察 期待値が負の賭け方をする場合，期待値が正の賭け 方をする場合に比べ快感情は低下し，活性状態はより 活性化することが示された。快感情に関してこのよう な傾向が見られた要因の 1 つとして勝率の程度があげ られる。勝率が高いとき，快感情はギャンブル行動を 促進し，反対に，勝率が低いとき，快感情はギャンブ ル行動を抑制する（Isen et al.，1983）。これは負け ることで自分が不快にならないようにしていると考え られる。 また，結果から活性化するほど無謀な賭けをするこ と が 多 く な っ た こ と が 分 か っ た。 こ れ は ヤ ー キ ー ス・ドットソンの法則（Yerkes & Dodson, 1908）か ら説明できる。これはパフォーマンスの成績が活性状 態によって変わることを示しているものである。低度 の活性状態が一番パフォーマンスの成績が良く，反対 に，高活性，不活性の状態は成績が悪いと説明してい る。このことから活性化するにつれて無謀な賭けをし たことが考えられる。 また低度の快，または不快と強い活性が無謀な賭け 引き起こすことが示された。この状態は警戒，緊張， 神経質といった状態を表す（Russel,1999）。このよう な状態が無謀な賭けをしやすいことに関してネガ ティブ感情が関係している可能性がある。ネガティブ 感情が高いとギャンブルの重症度が高いことが示され ている（Atkinson et al.,2012）。このことからネガ ティブ感情が無謀な賭けを促進している可能性が考え られる。今回の結果から，特に活性を伴ったネガティ ブ感情がギャンブルに対して影響していることが推測 できる。しかし，ギャンブルの重症度と実際の賭ける という行動は違い，さらなる検討が必要である。 主な引用文献
Brand, M., Fujiwara, E., Borsutzky, S., Kalbe, E., Kessler, J., & Markowitsch, M. J. （2005）. Decision-making deficits of korsakoff patients in a n e w g a m b l i n g T a s k w i t h e x p l i c i t r u l e s : A s s o c i a t i o n w i t h e x e c u t i v e f u n c t i o n s . Neuropsychology , 3, 267-277.Posner, J., Rusell, J, A., & Peterson, B, S. （2005）. The circumplex model of affect: An integrative approach to affective neuroscience, cognitive development, and psychology. Development and Psychopathology, 17, 715-734.
