愛
ひとを想う気持ち、
それは
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Incent
iv
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I
A
行動インセンティブ
慶應義塾大学 玉田康成研究会
行動 eco パート
黒川 恵利 佐久間 薫
目次
Ⅰ導入 Ⅱ消費者サイド 1 概要 1-1 消費者の設定~行動経済学~ 2 環境経済学 2-1 現在の施策 2-2 環境税 2-2-1 杉並区の例 2-2-2 金銭的インセンティブの弊害 2-3 海外の先例 2-3-1 ドイツ人の環境意識 2-3-2 ドイツの環境政策の契機 2-3-3 環境教育の結果 2-3-4 ドイツ人と日本人の環境意識と行動 3 環境問題のジレンマ 3-1 協力・非協力ゲーム 3-2 政府と消費者 3-3 政府の役割 3-3-1 チーム問題 4 利他心 4-1 政府による解決~サンクション~ 4-1-1 直接効果と直接間接効果 4-1-2 最後通牒ゲーム 5 啓発活動~チームマイナス6%~ 6 消費者サイドまとめⅢ企業サイド 1 概要 2 企業の利潤最大化行動と環境 R&D 2-1 現在の企業行動 2-2 企業の R&D インセンティブ 2-2-1 初期投資インセンティブ 2-2-2 長期的投資インセンティブ 3 プリウスについて 4 問題点 5 京都議定書の制度設計と現状 5-1 京都メカニズム 5-2-1 排出量取引について 5-2-2 共同実施について 5-2-3 クリーン開発メカニズムについて 5-3 京都議定書後の世界の現状 6 日本の環境政策について 6-1 現在の日本 6-2 ドイツの環境政策 6-2-1 比較対象国の設定 6-2-2 ドイツの環境税制度 7 政策提言 Ⅳ終章 参考文献
Ⅰ 導入
2005 年ついに京都議定書が発効された。1997 年地球温暖化防止会議で採択されてから約 8年、アメリカの脱退やロシアの批准など紆余曲折を経てようやくたどりついた発効であ る。しかし、これはやっとスタート地点に立っただけにすぎない。京都議定書第3 条では、 2008 年から 2012 年までの期間中に、先進国全体の温室効果ガス 6 種の合計排出量を 1990 年に比べて少なくとも5%削減することを目標としている。つまり、実際に温室効果ガス削 減の行動を起こすのはこれからなのである。しかしながら、スタートが来年と迫っている 現段階でも日本はまだマイナス6%という目標値を達成できるまでの計画を立てられてい ない。 日本は高度経済成長期、毎年 10%という驚異的な経済成長を遂げた。しかし、その弊害 として公害問題が発生した。それに対応するために設立されたのが後の環境省である。当 時に比べ日本の環境意識は格段に高くなり、環境に配慮するような政策もとられてきた。 また、二度のオイルショックを経て、各産業の企業も資源・エネルギー効率も向上させつ つ経済発展をしてきた。多くの企業が環境問題に配慮し、経済活動を行うようになりつつ ある。しかしながら、今の段階で提出している削減計画では、京都議定書で目標とする公 約量にはまだ不十分である。 社会が環境問題を意識するようになったのは、消費者の意識に変化が起きたためであり、 それが企業行動にも影響を与える。企業は消費者の意向に多かれ少なかれ影響を受けてい るのだ。そこで私たちは、京都議定書の目標値達成のための消費者の行動に働きかける施 策と、よりよい企業の努力を導き出す施策を探っていく。まず消費者の意識・行動につい て分析を行い社会的ジレンマによる非効率的な状態を、効率的な状態にもたらすことを目 的に消費者サイドの制度を「行動経済学」を用いて考える。また、企業と消費者(家計)は経 済活動において切っても切り離せない関係にあり、「行動経済学」によって証明されている 消費者の利他性を踏まえた上で企業の環境技術開発(環境R&D)へのインセンティブを強 化する制度を考える。 初めに、Ⅱ消費者サイドからは、まずⅡ-2 で現在実際に行われている施策を分析し、そ のメリット・デメリット分析し、さらに海外の事例からどのような制度を構築すればより 効果的かを考える。さらに、Ⅱ-3 で協力・非協力ゲーム、チーム問題などの観点から環境 問題のジレンマを解き、Ⅱ-4 でそれらの解決策として人々の利他心を活用した施策を提案 し、Ⅱ-5 啓発活動はどのような効果があるのかを分析する。そしてそれらの結果をふまえ てⅡ-6 で京都議定書の目標値を達成するための消費者サイドの制度を提案する。続いてⅢ企業サイドからは、二つの側面から企業のインセンティブを与える要因を分 析する。Ⅲ-2~4 では、現在の企業の環境に対する戦略の例を挙げ、モデル分析によって企 業が利潤最大化行動と環境 R&D に投資を行うインセンティブが矛盾しないことを確認す る。またその中でプリウスをさらにフォーカス成功に隠れた問題点を指摘する。 次に、Ⅲ-5,6 では、マクロの視点から、国単位での環境保護への取り組みについて分析す る。Ⅲ-5 では、京都メカニズムについて触れ、Ⅲ-6 で行うドイツの政策と比較から日本に 必要な政策を模索する。最後に、Ⅲ-7 でそれに対する解決案を提案する。 そしてそれらを総合して最終的に京都議定書で定められた温室効果ガス6%削減とい う目標値を達成するための政策を提言する。 以下まず達成すべき目標である京都議定書の概要について説明する。
<京都議定書>
京都議定書とは、国連気候変動枠組条約(United Nations framework convention on climate change: UNFCCC)に基づき、1997 年 12 月 11 日、京都で行われた第 3 回気候変 動枠組条約締約国会議(COP3: COP は Conference of the Parties の略)によって採択され た議決書である。正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」という。
UNFCCC は 1992 年に採択された条約で、同年 6 月にブラジル・リオデジャネイロで開 かれた地球サミットにおいて、150 カ国以上が署名した。ここでは、各国が温室効果ガスの 排出抑制に向けて必要な政策をとることがうたわれている。
京都議定書はこのUNFCCC の趣旨を具体化するものであり、その成果は次の 2 点に集 約される。ひとつは、先進国の温室効果ガス排出量について、法的拘束力を持つ数値約束 を各国ごとに設定したことであり、もうひとつは、国際的に協調して約束を達成するため の仕組み、いわゆる京都メカニズムを導入したことである。
ひとつめに挙げた数値約束では、先進国のそれぞれに対 1990 年比での温室効果ガス (Green House Gas: GHG=CO2 をはじめ 6 種類ある)の削減率が割り当てられ、第 1 約 束期間(2008 年から 2012 年まで)の間、排出量を、その割り当て排出量以下に抑えるこ とが定められた。具体的な数値目標は、日本6%、アメリカ 7%、そして EU が 8%となって おり、先進国全体で少なくとも5%の温室効果ガス削減を目標としている。 また、京都メカニズムとは、国家間であらかじめ割り当てられた排出量をやり取りする 制度のことをいい、このメカニズムによって各国が国際的に協力し、削減目標を達成する ことが比較的容易となった。この京都メカニズムについてはⅣ企業サイドで詳しく述べる。 次の章から、この京都議定書で日本に課せられたマイナス6%を達成するために、私た ちは消費者と企業それぞれにおいて政策を提案していく。
Ⅱ 消費者サイド
§
1 概要
環境問題は市場メカニズムによる解決が難しい分野である。というのも、自然環境とい うものは公共財のように誰もが利用でき、環境保全行動をしない人は空気を吸えないよう にするといったことが不可能であるような非排除的性質を有しているため、経済理論では 存在し得ない財であるからだ。環境を規制する制度がなければ人々は自分自身の利潤が最 大になることだけを考えて経済活動を行ってしまう。そしてその結果として本来自然が持 つ再生能力を越えた過剰な消費が行われ、自然環境は再生不可能なところまで破壊されて しまうのだ。 また、もう一つ環境問題の解決を困難にしているのが、目先の消費に価値を大きく見出 して消費を決定するという人間個人の性質だ。こうした目先の消費を重視する個人は「双 曲型」割引関数にしたがって消費を決定している。これは後に詳しく述べるが、短期的に 利潤最大化を行おうとするということである。このように、環境資源というものは公共財 的性質、また短期的消費を重視する双曲型消費者の経済活動によって、長期的で持続可能 な成長が阻害されかねないところまで消費が行われてしまう。この非排除的な性質と、消 費者が双曲型割引関数をもつ点にこそ環境問題の解決を困難にする根本的な問題があると 私たちは考えた。 石油資源の枯渇や温室効果ガスによる温暖化問題は、ごみ問題などと比べ、消費者にと って身近で差し迫った問題ではない。そのため消費者は自分だけが行動を変えても明確な 効果が現れまいと思い、温暖化により北極の氷が解け、世界的に平均温度が上昇し、それ が深刻な環境難民を生み出すという温暖化報道を見て将来を憂いつつも、今現在の快適さ を求めて、暑い日にはクーラーをかけ、冬には薄着で暖房をつけ、そしてスーパーではつ い必要以上にレジ袋をもらってしてしまうことがある。 『いま経済学にもとめられていること』の著者小林氏によると、地球環境に悪影響を与 える要因には、発生者が特定できないか、大多数の人が発生原因者であるというものが多 い。それが市場メカニズムによる解決をいっそう困難にする。市場経済を前提にする以上 市場メカニズムに基本的にはゆだねておくべきだ、という立場の議論は一方的過ぎるし、 市場経済そのものを変えなければ問題は解決しない、といってしまうのも単純すぎる。長 期的に見れば、市場機構で解決することになるかもしれないが、それまでの摩擦が大きすぎるのである。 そこで、消費者サイドでは、具体例としてレジ袋削減問題を取り上げながら、京都議定 書の目標値達成のための解決策として、市場メカニズムを用いた施策と従来市場メカニズ ムに組み込まれていなかった「消費者の意識」を用いた施策の両方について見ていく。レ ジ袋を取り上げた理由は2-2-1 杉並区の例で言及する。 現在の状況を打開するために、まず現在行われている施策から問題点を抽出し、海外の 先例を分析することで削減に有効な政策を探る。そして、それらを踏まえて環境問題のジ レンマを解き、利他心や啓発活動による解決を提案することで、レジ袋から議論を広げ、 環境問題そのものの解決策へと枠組みを広げていく。
§
1-1 消費者の設定~行動経済学~
現在主流である新古典派の経済学の想定する人間は、指数型割引関数という、効用が一 定率で逓減してゆく関数に従って、将来の長年にわたる緻密な計算と完璧な予測に基づい て現時点の消費を決定すると想定している。しかし実際に生きて生活をしている私たちの ような普通の人間にモデルを近づけようとすると、近い将来を大きく割り引いて考える双 曲型割引関数を持つ消費者を想定するとより。 ここで消費者は双曲割引を持っていると仮定する。双曲割引とは「選好の逆転」という 現象が起きた場合、それを説明するモデルである。では、双曲割引を説明するために「選 好の逆転」の例を挙げて述べる。 Q1.a と b ではどちらが望ましいか?? a.100 日後にとる 15 分間の休憩 b.101 日後にとる 20 分間の休憩 この問いに対して多くの人はb を選択するだろう。では次の問いに対してはどうか。 Q2.cとdではどちらが望ましいか?? c.今日の 15 分間の休憩 d.明日の 20 分間の休憩 実験の結果において、この問に対してはc を選択する人が多かった。 どちらの問でも1日違いで5分間の差であるが、このような結果が出るのは人々の選 好が時間の経過とともに転換、あるいは逆転していることを意味する。 以下の図は選好の逆転を示している。このような選好の逆転が起きるのは多くの人が「短期的には高く、長期的には低い割 引率を持つ」からである。これは近い利益にはより大きな価値をおき、遠くの利益には小 さな価値をおいてしまうという人間の心理によるものである。このような行動パターンを 双曲的割引関数という。この双曲的割引関数と指数的割引関数を、時間軸を横軸にとった グラフに表したものが下の図である。 指数型の割引関数では価値が一定の割合で減少しているのに対し、双曲型では最初に大 幅に減少し、その後ゆるやかになっている。 こうした双曲タイプの消費者は目先の利益を重視して消費を決定するために、将来的に は資源不足により資源価格が高騰するとわかっていても、今の過剰な消費をやめないでよ り環境破壊を加速させるといったことが起こりうる。将来気温が40℃になるとわかってい 時間 価値 価値 100日後 101日後 今日 明日 101日後の方 が高く見える 今日の方が高く 見える 時間
時間の経過
指数型
準双曲型
双曲型
得られる効用
1.0
0.5
0
ながら、今日の暑さにクーラーの温度を必要以上に低く設定してしまいがちである。 また、以前の伝統的経済学が想定する個人とは、再現のない合理性や完璧な自制心に加 えて、極端に利己主義的であるものだった。しかしこうした完璧に利己的な経済人という モデルでは説明しえない現象が、現実には多くある。例えば、街頭で赤い羽根募金を行っ ていたとしても、純粋に利己的な人しか存在しない世の中ならば誰も寄付はしないだろう。 このような「利己的でない」行動は、人間の効用関数に利己的ではない動機付けが根付い ており、それが市場に影響を及ぼしているというのが近年の経済学の考えの主流になって いる。 では、なぜ人々は寄付や募金を行うのか。その要因として、まず自分だけでなく他者の ことを考える利他的動機が挙げられる。「利他」というのは「利己」の反対語で、他人の幸 福を願うことである。 利他的動機には、 ①効用関数の中に自らの効用に加えて他者の効用も含むという純粋な利他的動機(pure altruism) ②他者の効用が明示的に効用関数に含まれるわけではないが、例えば他者への寄付・贈与 といった行動を表す変数を効用関数に含めることにより、「正しいことをすることに満足 を覚える」という間接的な利他的動機(impure altruism)ないし「与えることの喜び」 (ウォーム・グロー:warm glow) の2種類がある。 この2つを効用関数で表すと、 純粋利他的動機
U
=
U
(
c
1,
c
2)
=
u
1(
c
1)
+
λ
u
2(
c
2)
ウォーム・グロー動機U
=
U
(
c
1,
g
)
ここでc
1とc
2は本人および他者の消費水準を、u
1とu
2は本人及び他者の効用関数を、g
は 他者への寄付や贈与を表している。 ま た 、 も う ひ と つ の 要 因 と し て 相 互 応 報 的 動 機 が 考 え ら れ る 。 相 互 応 報 的 動 機 (reciprocity)とは、「相手(ないし他者)が自分に対して好意的な行動をとれば、こちら も相手に友好的にあたり、逆に相手が敵対的な行動に出れば、自分も相手に対して攻撃的 な行動をとる」という行動原理を指す。 以下このような双曲型割引関数と、利他的動機を持つ消費者を想定して議論を進めてい く。§
2 現在の施策
現在実行されている環境対策に関する施策の多くは環境経済学に基づいた、金銭的イン センティブ設計によるものである。まず、その環境経済学がどのようなものか、また環境 対策の代表的な政策として、まだ一部店舗での実験段階(2007 年 11 月 10 日現在)である が東京都杉並区の「すぎなみ環境目的税」について取り上げていこうと思う。§
2-1 環境経済学
環境汚染は、経済活動に伴い直接関係を有していない第三者が受ける不利益のことで、 代表的な外部不経済である。市場経済では汚染防止費用がコストとして算入されない限り 環境汚染を企業等が自ら除去するインセンティブは働きにくい。これが、通常「市場の欠 陥」といわれる問題である。このような環境問題を議論するのが環境経済学である。 環境経済学は、環境は経済と別個の存在ではなく、一方の変化は他方に影響を与えると いう基礎的前提に基づいている。『環境経済学入門』(R.K.ターナー著)によると環境経済 学の本質は、以下の一連の論理的ステップを踏むことにある。①まず、環境悪化が経済的 に重要な問題であることを評価する②次に、環境悪化の経済的原因を探る③そして、その 悪化を遅くし、停止し、そして逆に改善する経済的インセンティブを設計する。 このように経済的インセンティブである金銭的なインセンティブを利用して制度設計を 行うのが環境経済学である。§
2-2 環境税
日本では京都議定書の目標値達成のために、主に二酸化炭素排出主体に対して、二酸化 炭素の排出量に応じた負担を求めると環境税という手法が注目をあつめている。これは、 通常の租税の基本的な議論では扱いきれない効果を求めるものである。所得税や消費税、 法人税などの一般的な租税は、行政によるサービスの恩恵を受ける者に対してその恩恵の 量に応じて課す「応益原則」と、負担する能力のある者に対してその能力に応じて課す「応 能原則」によって設計され、国庫の収入として公共サービスを提供するための財源として 定められている。しかしながら環境税では、温室効果ガス排出削減の観点から「価格効果」「財源効果」「アナウンスメント効果」の3つの効果を目標としている。この場合の「価格 効果」は、化石燃料の価格上昇により省エネ製品への買い替え、化石燃料の節約を促すと いう効果、「財源効果」は税収を幅広い地球温暖化対策に活用することができるという効果、 「アナウンスメント効果」は国民・事業者が税の導入を認識することにより、ライフスタ イル・ワークスタイルの変革が促されるという効果である。 このように、環境税には一般の税とは違う効果が期待されている。では、これらの効果 について具体例を挙げて詳しく議論していこう。
§
2-2-1 杉並区の例
レジ袋の有料化は現在いくつかの自治体や企業によって行われている。各自治体によっ てその形態には違いがあるが、ここでは代表的な例として杉並区の事例を扱う。 現在使用されているレジ袋は主にポリオフィレンから作られるポリ袋と呼ばれるもので、 以前使用されていた塩化ビニルから作られたビニル袋とは厳密には違うものであるが、原 材料は石油である。メーカー団体である日本ポリオレフィンフィルム工業会(POF)は薄 肉化を進め、原料の改質や成形技術の向上により、2000 年以前は平均 23μm の厚みがあっ たのが、現在では18~20μm ほどにまでなり、同時に1枚あたりのレジ袋製造時の石油使 用量は以前に比べ多少軽減されている。しかしながら、強度の問題などから、これ以上の 薄肉化は難しくなってきている。依然輸入品も含めた全部のレジ袋の原油消費量は,わが 国の年間原油輸入量の0.23%に相当し(POF の試算より)、POF も「限られたひとつの製 品としては大きなウェイトを占めている」とみている。2002 年時点で、日本では乳幼児を 除いた国民1 人あたり年間約 300 枚、305 億枚使われていて、レジ袋 1 枚作るのに石油が 18.3 ミリリットル必要であり、305 億枚では約 55.8 万キロリットル、これを 200 リットル のドラム缶に換算すると 279 万本分に相当する。つまり、レジ袋の使用量を削減すること ができれば間接的に石油使用量の削減に繋がるのだ。 レジ袋は過剰に消費され、廃棄されることにより短期的にはゴミ問題を、作るのにも捨 てられたものを燃やすのにも石油燃料が使われ、また燃やすことで二酸化炭素が排出され るということから長期的には石油資源の問題や温暖化の問題をもたらしている。大量消 費・大量廃棄のライフスタイルが深刻な環境問題を引き起こすのである。 この様に、レジ袋の過剰使用はいくつかの環境問題を引き起こす要因の一つであり、ま た消費者の生活に非常に密着しているため、だれもがちょっと意識を変えるだけで今日か らすぐに取り組みが始められるものであるため、消費者意識の問題を扱うにおいて有効な 例である。 東京都杉並区の「すぎなみ環境目的税」 使途は廃棄物の減量、リサイクルの推進などの環境保全対策。 納税義務者は商品の受け渡しに伴いレジ袋を譲渡刷る場合にその受ける者であり、区内に事業所等を有する事業者による特別徴収の方法をもって徴収する。課税標準と税率は、レ ジ袋1 枚につき 5 円。 この「すぎなみ環境目的税」(以下レジ袋税)は、レジ袋の使用を抑制するために、取引 量に比例して課税される従量税として課税されている。杉並区で買い物をするときに、レ ジ袋をもらえばもらうほど、多くのレジ袋税を払わなくてはいけなくなるので、レジ袋を もらう量を削減しようという経済的インセンティブが消費者に働く。このインセンティブ によって消費者がエコバックを持参し、小売店が渡すレジ袋の量を減らそうというのが、 このレジ袋税の目的である。 実際、EU 諸国ではレジ袋の有料化はすでに行われており、エコバックの持参率とレジ袋 の辞退率は日本よりも高い水準である。有料化はレジ袋の使用量削減への有効なインセン ティブであることは間違いない。しかし、レジ袋税はメリットだけではない。次はデメリ ットについてみていく。 <日本のレジ袋辞退率> 市場経済では、経済主体のインセンティブが尊重され、取引によって、需要側と供給側 の双方に余剰が生じることが必要である。レジ袋税は取引量に比例して課税される従量税 なので、 s
p
:供給価格p
D:需要価格p
:市場価格t
:税X
s:供給量X
D:需要量 「市場価格p
は供給価格と等しい」とすると、価格が決定するのは供給曲線と需要曲線の 交点である。ここで税を払うのは消費者なので、t
p
p
D=
+
p
s=
p
の式を解くことで市場価格が決定する。 このとき、課税の下で決定された市場価格と供給量は、課税がない状態での市場価格・供 給価格よりも低くなる。 これを表したのが次の図である。ここで、
CS
(消費者余剰 Consumer Surplus):消費者が取引から得る便益PS
(生産者余剰 Producer Surplus):生産者が取引から得る便益TS
(総余剰 Total Surplus):社会全体で発生した余剰 である。 課税のない状態においてTS
=
CS
+
PS
であり、課税の下ではT
S
′
=
C
S
′
+
P
S
′
+
Tax
なので、TS
>
T
S
′
となり課税によって総余剰が減ってしまう。この減ってしまった余剰の ことを「厚生のロス」という。 このように、一般に課税による政府の市場への介入は厚生のロスを生じさせ、消費者・ 生産者共に余剰を減少させ社会全体の総余剰を減らしてしまう。ここで重要なのは厚生の ロスの大きさは需要曲線や供給曲線の傾きに依存し、価格弾力性が小さければ厚生のロス は小さくなることだ。では、レジ袋税の1枚5円というのは適切な値なのだろうか? 調査結果によると、3分の1は5円が適切であると考えているが、それ以下と考える人 も、それ以上と考える人もいる。この5円という値が適切かどうかは議論の余地がある。 また、レジ袋税は独占禁止法に違反するという批判もある。レジ袋の値段を定めるとい うことは、各企業の販売努力をなくし、競争なしに利益を手にしてしまうという議論だ。 さらに、この「すぎなみ環境目的税」の大きな欠点は、これが杉並区でしか効力のない ) ( ), ( D s s D P X P X sp
p
=
* *p
* * X * XTax
t
) ( ), ( D s s D P X P X s p p= *p
* XPS
CS
S
C ′
S
P ′
施策だということだ。スーパーやコンビニなどの小売業者がレジ袋税に反対する最も大き な理由は、レジ袋に対価を払わなくてはいけなくなったことで、購買意欲に障害が生じる のではないかという懸念である。その心配は、この施策が地域限定であるということに端 を発する。区中央部の店舗ならば周辺の店舗も一律レジ袋有料化という同一の条件である が、区境の店舗では近くの競合店でレジ袋が無料で配布されている場合、競争において自 動的に不利になってしまう。このため、区の小売業者はこの政策に対して非常に反発し、 この「すぎなみ環境目的税」はまだ実験段階でしかない。地域ごとではなく、全国一律で 実施することがこのレジ袋税には必要なのだ。 この税を条例化するに当たって、区側があえて問題を提起し、区民からの反発も受けな がら、区民に対する説明や説得に粘り強く努めたことは意義深い。しかし、現在行われて いる施策ではまだ環境対策として不十分であると言える。
§
2-2-2 金銭的インセンティブの弊害
また、他のデメリットとして削減のため有料化するといった金銭的インセンティブだけ に頼るという政策は危険をはらんでいる。というのも、金銭的インセンティブのみに由来 するような罰則というものは、社会的に望ましい行動が、社会的評価を気にして行われた ものであるという場合に、当初の予想に反した効果や望ましくない結果を招いてしまう可 能性があるからである。 まず、人が利他的な行動を行う際に、それは三つの動機があると考えられる。一つ目は 純粋な利他的動機から、二つ目は金銭的に与えられたインセンティブによって、三つ目は 人や世間という他者から自分がどう見られているのかという評判の効果による動機である。 評判の効果による動機は、世間から自分がどういう評価を受けるか、社会的評価を重視 して、評価されたいという動機から社会的に望ましい行動を選択することである。人は他 人の目を気にするのである。 この評判の効果によって行動しようとすることを、「評価動機」と表す。そして、社会的 規範に沿うような望ましい行動をするのが、人に認められたいというこうした評価動機に よるものである場合に、そこに金銭的インセンティブを付与することでどのような弊害が あるのかを例をあげてみてゆく。 世間の通念として、遅刻というものは築き上げた信頼関係を壊しかねないものであるた め、多くの人は社会的評価を気にして約束の時刻を守ろうとし、遅刻をすると非難の目の 中で非常に気まずい思いをすることが往々にしてある。 イスラエルのある幼稚園で、親が子どもを迎えに来るのが遅いことに大変困った幼稚園 側が、親の「遅刻一時間につき、いくらを支払わなくてはならない」というように、遅刻に罰金という金銭的なインセンティブを付与することで遅刻を減少させようとした。しか し、この取組みは、結果としてモラルの低下と遅刻の増加を招いてしまった。これは、罰 金を嫌がって遅刻がなくなるであろうという幼稚園側の予想に反し、以前よりもさらなる 状態の悪化を招いてしまったのである。 なぜこのようなことが起こってしまったのだろうか。 それは、人が評価動機によって利他的な行動を選択する場合に、そこに金銭的インセン ティブが付与されたことで、評価を受けるということの価値(便益)が下がり、あえて便 益以上の費用をかけてまで、その行動を選択することで自分が利他的な人間だと世間にシ グナルするインセンティブが消えてしまったからである。 例に即していうと、金銭的インセンティブの付与により、元々親たちが感じていた、幼 稚園に遅くまで子どもを残しておくことが世間的に体裁の良いことではなく、幼稚園に迷 惑をかけないようになるべくはやく迎えに行かなくては申し訳ない、という罪悪感や心の 痛みのといった、個人がもともと内的にもっている社会的規範に沿いたいという意識を低 下させてしまったのだ。その結果、世間のモラル意識や規範に沿うような規範的な人間で あると示すことで社会から評価されたい、非難されたくないというインセンティブが低下 してしまった。 遅刻に対して金銭支払いをすることで、社会的規範に沿えないという罪悪感が相殺され てしまい、社会的に望ましい行動がとられなくなってしまうという弊害が起こったのであ る。 これをレジ袋の場合にあてはめて考える。 今、環境に対する消費者の意識が高揚し、レジ袋をもらうことが環境問題の要因となると いうことが通念となり、レジ袋をもらわない(環境に優しいことをする)人は社会的に評 価されるとする。むしろ、温暖化の要因となることから、レジ袋をもらう人は世間から非 難さえ受けるとする。 その場合において、金銭的なインセンティブの弊害として何が起こるだろうか。 まず、もとからレジ袋をもらわずエコバックを持参するなど意識の高い消費者であり、 純粋な利他的動機からこうした環境保全行動という利他的行動を選択している場合には、 金銭的インセンティブが付与されてもこの行動は変わらない。 次に、金銭的インセンティブのみにしたがって行動する消費者の場合には、こうした消 費者は非難などには全く関心がないので、まさに理論どおりの結果をもたらす。よって弊 害は起こらないので、この二つの場合はここでは議論から外す。 問題は評価動機により行動する場合である。 もとから環境意識がそこまで高くない人は、レジ袋をもらうことが社会的に評価される ため、その評価を受けたいがためエコバックを持ち歩くなどの利他的行動を選択し、もら
うことが非難されるのであれば、非難を受けたくないという気持ちからエコバックを持つ。 人がやろうがやるまいが、環境保全のために自分は環境保全をするという純粋な利他心か らでなく、他者の評価によって自分の行動は動機付けられているのである。 仮にエコバックを持ち歩く面倒くささなどのコストが6円(5円よりも高い)とする。ここ でレジ袋一枚5円という金額が提示される、つまり金銭的なインセンティブが付与される とどうなるであろうか。 すると、かつて金銭的に目にみえる価格の設定がなく、個人個人の価値判断に由来して いたレジ袋への対価は、有料化によって価値が定まってしまう。すると、本来ならば、レ ジ袋をもらわずにエコバックを持つことは6円(5円よりも高い)の価値(便益)があったのに、 それが5円に低下してしまう。すると、エコバックを持ち歩いてまで自分が環境に優しい ことをしているのだという態度を表示する価値が低下してしまって、あえてそうした行動 をとるインセンティブが消えてしまうのである。彼らがもともと持っていた環境を悪化さ せているという罪悪感や環境に優しいことをしなくてはという気持ちが金銭的に相殺され モラルの低下が招かれる。そして、金銭的インセンティブは、エコバックをもつことで袋 を断り、周囲の人間に「環境に配慮をしています。私は環境に優しい人間です。環境問題 という社会の要請に応えることが出来る人間ですよ」とアピール(シグナリング)をする インセンティブを低下させてしまい、レジ袋を購入する人が増えることで、当初の予想と は逆に、レジ袋が削減されるどころか、増加するといった事態の悪化が招かれるという危 険をはらんでいるのである。こうした事態の悪化というのは、評価動機の効果が大きけれ ば大きいほど起こる。 また、他の弊害も生む。それは、評価動機によって環境問題に取り組む主体にとって重 要となる動機である「評価」自体が向上してゆくことを金銭的なインセンティブが阻害し てしまうというものである。 例えば、レジ袋を断り、エコバックを持参することで、評価動機により環境問題に取り 組む主体は、環境問題という社会の要請に対して応えることで評価されようとして環境に 配慮する行動をとっているのであるが、ここに一枚5円と金銭的インセンティブが与えら れたとする。すると、この評価動機にしたがう人の、エコバックを持参するという配慮行 動の意味が変わってしまう。本来ならば社会の要請ためにやっているその行動が、5円だ って支払いたくないがために、やっているのだと思われてしまう可能性があるのである。 人によっては、ケチだからエコバックを持参していると評価するかもしれない。 このように、金銭的インセンティブの付与によって、本来ならば社会の要請のためにし ている配慮行動が、お金のためにしているという評価を受けてしまうかもしれないことに よって、その評価の向上を阻害してしまうのである。つまり、環境に優しいことが今後の 環境意識の高揚の中でますます評価されてゆくであろうに、環境保全という社会的に望ま しい行動を選択することによる評価が、今後向上してゆく余地を金銭的インセンティブは 狭めてしまうのである。評価動機の重要なもととなる「評価」というものが上がらず、保 全行動があまり評価されないものとなるのならば、評価動機によって環境保全行動をとろ
うとする人がほとんど存在しなくなり、結果としてさらなる悪化が招かれてしまうのであ る。評価動機への金銭的インセンティブの付与は、保全行動への評価の価値を下げ、また 評価の向上を阻害してしまうという弊害があるのだ。
§
2-3 海外の先例
海外、特にドイツでは環境対策が日本よりも早い時期からとられている。その理由も含 め、ここではドイツの環境対策を見ていく。§
2-3-1 ドイツ人の環境意識
ドイツ人の環境意識は高く、国も「環境先進国」として各国の模範とされている。高い 環境意識を持つ国民は有権者として政党にプレッシャーをかけ、政権政党は厳しい環境関 連立法で主として産業界に規制をかけている。そうしたドイツ社会における環境意識は国 内の環境汚染の歴史に起因する。 最初の大きな環境汚染は戦後の経済復興の拠点となったルール工業地帯から排出される ばい煙だった。それは晴れた日でも青空が見えないほどの状況であったと言われている。 当時、野党党首だったブラントは1961 年の選挙戦で初めて「ルールに青空を」のスローガ ンを掲げ、1968 年に政権に就き環境保護政策に着手した。 ドイツ国内の環境汚染はその後もセベソ事故によるダイオキシン汚染、酸性雨被害、チ ェルノヴィリ原発事故と後を絶たず、国民の環境問題への関心や環境意識に大きな影響を 及ぼし、結果的にそれがドイツにおいて政府と企業に対して環境保全への対策を迫る原動 力となった。 1970 年のアンケート調査によると 41%のドイツ国民が「環境法の言葉が何を示すかわか らない」、また60%が「環境保護について聞いたことがない」と回答するなど、環境保護は まだ社会に広く浸透していない状態だった。§
2-3-2 ドイツの環境政策の契機
ドイツの環境保護政策は1971 年に始まったと言える。1971 年、ドイツ連邦政府は 2 つ の画期的な通達を出した。 一つは、動植物の生態を守ることを決めた「環境保護計画」である。それは第一に、健 康で人間らしく生きるための環境を守る。第二に、大気、土壌、水質、動植物の世界を乱 獲から守る。第三に、乱獲による破壊や損失を除去するという内容だ。同計画は危険予防の原則、汚染原因者責任の原則、協力の原則を決めており、その後の環境関連法令の基礎 となった。 もう一つの通達は「環境教育計画」だ。これはドイツ連邦政府が各州に対して、小学校 から環境教育の実施を求めたものだ。その環境教育を受けた小学生の延べ人数は増え続け、 1980 年代以降、世論を形成する重要な核に成長し、その世論に後押しされたドイツ連邦政 府による法規制を通して、ドイツ社会では環境保護が定着していった。 つまり、ドイツでは環境教育によって人々は以前は知らなかった環境問題に関する情報 を知る機会を得たのだ。環境問題に関する情報を知ることによって、人々は環境問題に対 して関心を持つようになった。ドイツ国民に環境保護の意識が定着したのは、このように 情報が伝えられた結果、人々の効用関数に「環境に対する行動」という変数が生まれたた めだと考えられる。情報を知る以前は存在しなかった、「環境に対して良い行動」をすれば 自身の効用も上昇するという効果があったために、世論を通じて政府を動かすまでの行動 に発展したのだろう。
§
2-3-3 環境教育の結果
1980 年代には廃棄物問題の発生、環境汚染や地球温暖化の進行に伴い、環境意識も高揚 した。1986 年に制定されたリサイクルを主な目的とした近代的な「廃棄物法」と「包装廃 棄物政令」が施行されたことで国内の環境問題は国民にとって非常に身近な存在になった。 1996 年のアンケートでは、「環境保護に対する自己責任」という設問に対して75%が「他 人はどうであれ、自分は可能な限り環境適正行動をする」と答えている。「場合による」が 21%、「環境行動はしない」は 4%であった。このことからドイツ国民は政治、行政、産業 だけの責任ではなく個人の責任であることを強く認識していると言うことができる。ドイ ツでは1980 年代から 1990 年代にかけて個人主義が一層浸透し、人生を享受する傾向が強 まったとされているが、環境保護の重要性と行動の必要性は依然として存在し、環境保護 は生活の一部となっている。 ドイツ連邦環境庁が2002 年に実施した環境意識調査の中で、環境保護は高い失業率と低 迷する経済状況の中にあっても「重要」、「極めて重要」と回答した人は 90%にも達し、テ ーマ別ランキングでは第4 位に位置している。環境行動やクオリティについて、「極めてよ い」と「よい」が1991 年の 55%から 82%に拡大した。環境全般に対する市民の考え方に 大きな変化はないが、「積極的に環境適正生活を営み、率先して実行」37%(2000 年:49%)、 「極端はよくないが、環境保護は国民の義務」と見ているのが42%(同 37%)と、合わせて 80%以上が肯定的でドイツ国民の環境意識は高い水準を維持している。§
2-3-4 ドイツ人と日本人の環境意識と行動
数々の調査結果から、実は日本人の環境意識は極めて高く、時にはドイツ人を越えるこ とが明らかになっている。しかしながら、環境意識と実際の行動の間には大きなギャップ が生じていることも同時に指摘されている。特に日本人は意識先行型でドイツ人は行動先 行型という見方がある。 ではなぜ、こうした格差が顕著になるのか、ドイツ国立環境研究所が1999 年にまとめた 「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響」と題した日本とド イツの消費者の比較データがその原因を示唆している。 「消費者が深刻と考える環境問題」では日本とドイツの消費者は大気汚染とオゾン層破 壊で共通しているが、化学物質の影響と地球温暖化は日本の消費者が深刻に受け止め、ド イツの消費者は熱帯林の減少や酸性雨、野生生物種の減少を憂いてる。日本は COP3 の開 催や環境ホルモン、ダイオキシンの問題が大きく影響している。これに対してドイツの場 合は、危険性に対して“グローバルに考え、地域的に行動”することを教える環境教育の 効果が現れている。 「環境問題が10 年のうちに深刻化する」ことでは日本人もドイツ人も肯定しているが、よ り明確な危機意識は日本が70%、ドイツは 40%と差がでた。これは前項目同様、環境ホル モンやダイオキシンについての報道が原因である。特に若年層にこの傾向が強く現れてい る。 「環境問題を引き起こしている責任」は「企業」が日本では 55%、ドイツでは 70%、「私 たち一人一人」は日本が77%、ドイツが 82%と回答、消費者も汚染者であるという意識が 生まれている。 「生活が不便になってもかまわない」、「エコ製品は高くても購入」、「課税してもよい」の 項目で日本とドイツの消費者はほぼ同じで、価格よりも環境保護重視の傾向が見られてい る。「環境団体を支援する」ではドイツの方が高く、これは確立された環境団体があるため だと思われる。日本の若年層ではすべての負担に消極的なのに対して、ドイツでは若年層 が受け入れている。 環境問題の解決者として日本とドイツは共通して「行政」、「企業」、「個人」の順に選択、 行政への期待は特に日本で顕著である。§
3 環境問題のジレンマ
環境省の意識調査より、日本人は環境先進国のドイツを時には上回るくらい環境に対し て非常に高い関心を持っていることがわかる。しかし、環境庁のレジ袋辞退率の結果から、 消費者は高い関心を持つ一方で、その実行率は低いということもわかった。私たちはなぜ 日本人がこのように高い意識を持ちながらも実行率が低いのかについて、消費者が社会的 ジレンマの構造に陥っているのではと考えた。 社会的ジレンマとは、協力よりも非協力のほうが個人的に有利であるため、みなが非協 力という利己的な行動をとると、利他的な行動をとって協力をとった場合よりも各個人に とっての利益が小さくなってしまうというものである。 こうした問題は多くの社会問題でおこるものであり、私たちはこのジレンマ問題が環境問 題においても起こっていると考えた。そして、こうした問題にはどのような制度的解決が 可能かということを見てゆこうと思う。 先にも述べたように自然環境というのは非排除的な財であり、費用をかけずに便益を享 受できるため、消費者はフリーライドの誘因をもち、協力よりも非協力のほうが、つまり 費用をかけて環境保全行動をするより私的利益の追求のために活動をすることが合理的で あるし、個人にとって有利となることから、こうした状況では、最終的には誰一人として 協力しないという結果となる。またこうした短期的な消費にウェイトを置くことは、双曲 型の消費者の性質からも説明できる。しかし、このように当たり前に各消費者が自己の利 益を追求するという短期におけるに合理的意思決定が、長期的には逆に利益を小さくする という非合理的な結果をもたらしてしまう。 こうしたジレンマが、現実に消費者が環境保全行動実行に向かう足を鈍らせている要因 のひとつであると考え、こうした状況を理論モデルで理解するために、ゲーム理論におけ る囚人のジレンマというゲームを用いてあらわし、解決法を探ってゆこうと思う。§
3-1 協力・非協力ゲーム
ゲームの説明をする。 二人のプレーヤーを想定する。環境問題の性質から、環境保全行動というものは一方の 取り組みのみでは十分な成果が上がらず、両者が配慮行動に協力してのみ、環境問題は解 決され、利得合計は6となり、最も大きい。 また、一方が協力をもう一方が非協力を選択した場合には、一方が環境保全のためにコ ストを支払うが、一方はコストを支払わずに便益を享受できる。一方でも協力を取っていれば両方が非協力の場合よりは環境がよいと考え、合計利得は両者非協力より大きく、-1 とする。両者が非協力の場合、合計利得は-6となり、最も小さい。 このゲームを解く。 すると、両者協力を選択することで一番利得が大きく望ましいはずのこのゲームにおけ るナッシュ均衡は、両者が非協力という点になる。なぜならば、両者ともに、フリーライ ドの誘因をもち、人が環境保全行動をとってくれれば自分は費用を払わなくても便益を享 受できる。こうしたことを予想するもう一方のプレーヤーは、自分が費用を支払って協力 する意味が何もないので非協力をとる。さらにそれを予想するプレーヤーも非協力をとる。 この結果、一番望ましい状態の「両プレーヤーが協力をする」でなく、「両プレーヤーが非 協力をとる」ところで均衡してしまうのである。結果、個人は両者ともに本来得られたで あろう利益よりも少ない利益しか得られないというジレンマに陥る。こうして、一方だけ 協力している状態に最初いたとしても、自分だけやっても環境はそこまでよくならないし、 何もしない方の利得が大きいのならばそっちの方が得だし、あの人がやらないならば私も やらないとなり、短期的に環境保全のための行動は選択されず、みなが合理的に経済活動 をすることが長期的に深刻な問題となって環境被害をもたらし、短期的な利益より長期の 損失が大きくなってしまうという非効率的な状態をもたらすのである。 自然環境というものは長期にわたって小さくもたらされる環境負荷に対しては本来再生 能力を機能させるが、その能力を上回るような短期に大きな負荷を与えられた自然はもう 決して元には戻らないのである。
協力
協力
非協力
非協力
3 , 3
6 ,-5
-5 , 6
-3 ,-3
§
3-2 政府と消費者
これを現実に政府と消費者で考えると、意識調査からもわかるように消費者は政府がや ってくれるだろうと、できれば努力せずに便益を享受したいとフリーライド志向であり、 過小な努力を選択する。それに対して政府はどうかというと、現実に政府というものは憲 法25 条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と示され ているように、国民の最低限度の生活環境に義務をおっており、このまま環境が破壊され、 人々が環境被害に遭う事態に対して何も策を講じないでいることはできない。よって政府 は、消費者の非協力や政府頼りの過小な努力といった選択に対して、非協力や消費者より も小さい貢献をとるというはずはなく、環境省を中心にさまざまな機関と連携し環境問題 への取り組みを実施している。企業も政府の呼びかけに応じ省エネへの環境 R&D 投資を はじめさまざまな環境対策を講じている。§
3-3 政府の役割
このように、政府は政府としての役割として現実には協力(環境保全行動)をとってお り、それに対して国民は、政府が何とかしてくれるという期待感が顕著である。しかし、 環境問題というものは個人というミクロな集合がマクロな被害を生み出すものである。よ って、消費者の一人ひとりのミクロな配慮なくしてはマクロな効果は得られず、政府の努 力のみでは解決ができない問題なのである。 そこで消費者の協力が重要となってくるのである。が、実際はどうであろうか。 先にみた「一方が非協力なら自分も非協力をとる」という予想の結果として「両者が非 協力を選択」するという社会的ジレンマの構造においては、またさらにチーム問題が発生 じている可能性があると私たちは考えた。 改正容器リサイクル法の条文の第二章基本方針における「第四条 事業者及び消費者の 責務」では、「 事業者及び消費者は、繰り返して使用することが可能な容器包装の使用、 容器包装の過剰な使用の抑制等の容器包装の使用の合理化により容器包装廃棄物の排出を 抑制するよう努めるとともに、分別基準適合物の再商品化をして得られた物又はこれを使 用した物の使用等により容器包装廃棄物の分別収集、分別基準適合物の再商品化等を促進 するよう努めなければならない。」と、消費者はレジ袋のような使い捨てのものでなく、エ コバックのような、繰り返して使用することが可能な容器包装を使う責任があるとされて いる。しかし、エコバックの所持率は6 割と十分ながら、レジ袋の辞退率はたった 1 割で あるという環境省の行った調査結果からもわかるように、消費者にはレジ袋でなくエコバックを使用するという責務が実際にはあるにもかかわらず、それは実行されていない状況 であるといってよい。
§
3-3-1 チーム問題
私たちは、ここに、日本では政府と消費者の間にチーム問題が発生していると考えた。 この問題を考えるために、今、「レジ袋辞退率を全体で○○%にせよ」という削減目標が消 費者に示され、政府と消費者がチームとなり、その明確な共通の目標に向かって協力して 取り組むという状況下でどういった問題が起こるかをみる。 簡単のため、通常用いられる2人のエージェントの
チーム問題を用いて、環境問題に
おけるチーム問題を考える。
ここで、2人のエージェントとは政府と消費者である。政府と消費者をチームと
して組織し、2者の
パートナーシップによって「レジ袋辞退率を全体で○○%にせよ」と いう削減目標を、両者の協力によって達成させようとする場合に発生する問題を「チーム 問題」といい、環境問題の枠組みにおいて、政府と消費者をチームとして組織し、パ
ートナーシップによって取り組む際に起こるチーム問題について
みてゆく。パート
ナーシップとは、2 名以上の自然人・法人が対等な立場のもとで協力して、明確な
目的のもとに、両者が共同して事業を営む事業体をいう。
<チーム問題>
エージェントj
のとる貢献をe
jとする。エージェントにとって、貢献e
jには努力
が必要であり、貢献e
jを達成するための努力費用はd
(
ej
) =
e
2j/
2
によって与えられ
る。
ここでは、
レジ袋の削減がチームの目標とする成果であり、チームの成果はQ
で表され、Q
=
e
1+
e
2によって与えられている。
まずは各エージェントの最適な貢献 * je
を求める。 最適な貢献とは、Q
=
e
1+
e
2(から努力費用を引いたもの)を最大化するときに得られる 貢献である。max
2 1e e2
2
2 2 2 1 2 1e
e
e
e
+
−
−
(
j
=
1
,
2
)
e
j についての一階の条件は1
−
e
j=
0
となる。 よって各エージェントの最適な貢献は、e
1*= e
*2=
1
となる。 このときチームとしての成果はQ
=
e
1*+
e
2*=
2
となる。 次にパートナーシップのもとでのエージェントの貢献を求める。 エージェントは自発的な協力のもと、成果Qにむけて努力水準を決定する。 しかし、パートナーシップのもとではフリーライドの誘因が生じる。一つの目標に個人で はなく、チームで取り組むために、パートナーシップであることを利用して、他のエージ ェントに任せてしまい、その業績にただ乗りしようとするのである。 こうしたフリーライド問題があることから、各エージェントは目標達成という成果をあげ るためには一人頭がどれくらいの貢献をするかと考え、成果の半分の貢献を最適戦略とし て、各自それを最大化する。よって2
Q
(から努力費用を引いたもの)を最大化しようとす る。max
j e( )
2
2
2 je
Q −
パートナーシップのもとでe
j についての一階の条件は、0
2
1
=
−
e
j となる。 したがって、パートナーシップのもとでの各エージェントの貢献は、2
1
* * 2 * * 1= e
=
e
となる。 このときチームの成果はQ
=
e
1**+
e
*2*=
1
となる。以上より、パートナーシップのもとでは各エージェントの貢献が、最適な貢献と比
べて過少となっており、また成果も小さい。
このように、チームで共通の目標に取り組む場合において個人から最適な貢献が得られ ないというチーム問題が、日本では政府と消費者の間で発生していると考えた。 これは2-3-4 の環境意識調査からも明らかである。環境問題の解決者として「行政」、「企業」、 「個人」の順に選択、政府など行政への期待が日本では特に顕著である。 これについて、早稲田大学の寄本勝美教授は「日本の自治体と市民は独立したパートナ ーとして一定の距離を保たず、役割分担という意識よりも、自治体がすべてをおこなうべ きという考え方をしています。その理由は、日本では市民は税金を払えば、社会貢献の義 務はないと考えられているからです。」と述べている。消費者の意識は高いのにも関わらず、実行率が低い原因はチーム問題にあり、消費者は、 政府による成果の達成に期待し、フリーライドの誘因から貢献が過少なものに留まってし まっているのである。 では、こうしたチーム問題を解決するにはどうしたらよいであろうかということを次に みていく。
§
4 利他心
パートナーシップのもとでのチーム問題の解決には、大まかに2 つの策があげられる。 一方は政府が解決をする方法であり、もう一つは消費者が利他的効用を個人の効用関数に もつようになることである。 以下にみていく 2 つの解決策というものは両者共通して、消費者の利他心への働きかけ による解決を目指すものである。利他的効用とは読んで字の通り、「自分より他の人のこと を思いやって、他の人のために行動することに満足をおぼえる」という意味である。私た ちのような現実に生活する人間にはこれは当たり前のことであるかもしれない。しかし、 現在主流である経済学の想定するモデルというものは、経済活動において個人というもの は、自分のことしか考えない「利己的」で「エゴ」な人間であるとされている。この人間 像の設定自体に異論を唱えたのが行動経済学である。 以下1-1 で述べた「行動経済学」を利用して議論を進める。§
4-1 政府による解決~サンクション~
政府による解決を考える。 先に議論したように、有料化のような金銭的なアプローチはレジ袋削減に限らず、何か 規制を加えたいと考えたときに一番に持ち上がる。というのも、有料化は理論上有効だか らである。しかし、レジ袋税は厚生のロスをもたらすものであるし、また削減の予想に反 して金銭的インセンティブは社会的規範に沿いたいという個人の内的インセンティブを低 下させてしまうという弊害があるということもわかった。 そこで政府はさらにそれ以外の策を練ることが必要となり、それは消費者を協力(環境 保全行動に)に導くために有効な制度設計である私たちは考えた。そして、消費者に協力を選択させるような策とは、政府が消費者に対して「サンクショ ンを設定する」ことである。「サンクション」とは、法や道徳といったある行動規則に効力 を与える要因のことで、「罰」は、ある規則などに従う動機の要因となるため、環境問題を 引き起こすようなこうした社会的ジレンマ問題の解決において、罰則を与えるようなサン クションシステムの導入が効果的であり、このことは実際多くの実験結果により示されて きた。このサンクションというものは直接効果と間接効果の二つの効果をもたらす。直接 効果とは、その個人のみに罰を課し、個人は自分が罰を受けることをおそれて規則に従う ようになるという効果のことである。直接効果をもたらすサンクションの例では、レジ袋 を使用する主体のみが直接罰を受けるというレジ袋の有料化がそうである。有料化など罰 則のある場合には、レジ袋をもらう(非協力)ことによって、例えば 5 円を支払わなくて はならなくなり自分の利益が減ってしまうので、レジ袋をもらわなくなることが予想され る(協力)。 こうした直接効果をもたらすサンクション制度の導入により、罰を避けるべく個人から 協力行動を引き出せるのは当たり前であるとされ、今まであまり議論がされてこなかった。 しかし、さらにサンクションのもたらす効果についてより深く追求した興味深い試みとし て、北海道大学の行った「社会的ジレンマ状況におけるサンクションの効果」を調べた実 験データがある。この研究では、間接効果のサンクションに着目している。 環境問題において社会的ジレンマが起こっていると考えた私たちは、こうしたサンクシ ョンを環境問題の枠組みに用いることで、具体的に解決方法を提案できないかと考えた。
§
4-1-1 直接効果と直接間接効果
①サンクション実験 北海道大学の品田と山岸は、サンクションには、非協力行動の魅力を減らすことによっ て直接効果に協力を引き出す効果に加え、他者が罰を避けるために協力するだろうという 期待を高める効果があり、その期待が間接的に協力行動を引き出していると考える。(以降 では、便宜的に、前者の効果を直接効果、後者を間接効果と呼ぶ)。この考えは、人々が社 会的ジレンマ状況で協力しない主な理由が、自分が協力しても他者が協力しないのではな いかという不安(fear)にあるという実証的知見に基づいている(Pruitt & Kimmel, 1977)。 もし他者の非協力行動に対する不安が、社会的ジレンマの解決を妨げる主な原因であるな らば、サンクションは、実際に行使されなくとも存在するだけで、その不安を取り除くこ とで協力行動を引き出している可能性がある。これまでのサンクションを導入した社会的 ジレンマの実証研究では、直接効果と間接効果の 2 つは弁別されていないため、そこで得 られている高い協力率は、両方の効果を含むと考えられる。よって、この研究で実験条件 は、罰がない通常の社会的ジレンマ条件、罰が参加者自身にだけ向けられる直接効果条件、 そして全員が罰される可能性がある直接間接効果条件の3条件である。直接条件では、サ ンクションには、自分が罰されることを恐れて協力率を上げる効果はあるが、他者には罰される可能性がないので、他者に対する協力の期待は高まらない。つまり、直接効果のみ しかない条件である。 この研究の目的は、直接効果と間接効果は分離可能か否かであった。その結果、直接効 果と間接効果は両方あって効果を発揮し、分離できないものであるということがわかった。 しかし、私たちが注目したのは、直接効果に加え、間接的効果の加わった直接間接効果を もたらすサンクション条件が協力率の増加に効果をもたらすということである。 「社会的ジレンマにおける協力率は、罰なし条件よりも、参加者自身のもが罰される可 能性のある直接条件で高くなり、全員が罰される可能性のある直接間接条件でもっとも高 くなる。」という仮説に対して、「仮説通り、サンクションによる協力率の上昇は、自分が 罰されるだけでなく、他者も罰されることから生じる間接効果によって説明されることが 明らかになった。そして、直接効果条件から直接間接効果条件への協力率の上昇度は、他 者の協力行動に対する期待の上昇によって説明されるといえる。自分のみが罰を受ける直 接効果条件よりも、自分に加え他者が罰される直接間接条件の方が他者が協力するという 期待が大きくなることで協力率が上がった。」という結果が得られた。 ②サンクション制度の提案 この北海道大学の実験結果を受けて、私たちが協力率上昇の要因として注目をしたのは、 利他的動機と相互応報的動機である。直接効果条件に加え間接効果条件が加わることで協 力率が上昇した一つの要因は、自分だけでなく他者もが罰されてしまうということを嫌が る利他的動機によるものと考えられる。そしてすべての人が協力という好意的な行動を行 うことに対して、その「好意的な行動に対して自分も好意的な態度で返す」という相互応 報的動機が作用したことによって、協力率が増加したのだ。そこで、これらをもとに、私 たちは直接間接効果条件のサンクション制度を考えてみた。 日本人は自分の属するコミュニティーの中で人と違うことをしたくないという同質願望 がある。そこで、サンクションの中の、道徳サンクションを用いた直接間接効果条件の設 定により、人間がもつ利他心に働きかけるサンクションの設定が環境問題の解決に有効に 機能すると考えた。レジ袋であれば、利用者は一枚5円という課金の上、自治体で年間使 用量上限を設定することで、上限に達した時点でその自治体はそれ以降レジ袋の配布を禁 止する可能性があるとアナウンスすることで、そのコミュニティー内では守らなければい けないという暗黙のプレッシャーにより辞退率が上がることが期待される。これがごみ問 題であれば、ごみを回収日以外に出したり、分別が必要な自治体で分別を怠ったりした人 などには、罰金のようなものや、一定期間自分のごみを回収してもらえないという直接的 なサンクションに加え、そのごみ捨て場を利用する近所の人も連帯責任を負い、一定期間 ごみを回収してもらえない、または全員のごみの中身をチェックする可能性があるという ことをアナウンスすることで、ごみ問題に効果がある。