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1.はじめに
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読者の皆様へ,最初にお断りをしておかなけれ ばならない。今回のシリーズ解説:米の話は,「米 の加工利用(9)酒」というテーマである。一般 的に,「酒」 は,広義には焼酎ちゅう,ビール,ワインな ど他の酒類も含めたアルコール飲料全般を,狭義 には清酒(日本酒)を示す言葉である。だが,今 回は,米の加工利用という観点から,清酒に限定 して話を進めたいと思う。 清酒は「国酒」である。実際のところ,一般的に は,「国酒」よりも「日本酒」のほうが通りはいい のかもしれない。ともあれ,わが国の伝統的な醸造 酒である清酒は,現在に至るまでおよそ2,000年に わたり,日本人の生活や文化に根ざして伝承され てきた。その間,清酒醸造に必要な知識やスキル は日本全国各地に広まり,平成22酒造年度(2010 年7月1日~2011年6月30日)においては,1,272 の酒造場が酒造りに従事している1)。現在,沖縄 県を除く46都道府県に酒造場があるが,兵庫県の 灘,京都府の伏見,広島県の西条などが著名な酒 どころとして知られている。良い清酒ができると ころには良い水や良い米があり,酒造りにおいて, 米は極めて重要な意味を持っている。●
2.清酒と米
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1)清酒にとっての米とは 清酒は,米,麹こうじ(蒸米に麹菌を繁殖させたもの), 水を原料とし,酵母の持つ発酵能力を利用して造 られる醸造酒である。清酒の香味を形成するアミ ノ酸やエステル,アルコールなどの成分は,主に 原料米の各種成分を出発物質とする酵母の代謝産 物である。それゆえ,原料である米や水の良し悪 しが,そのまま製成酒の品質に反映される。勿論, 他の要因,たとえば蔵人(酒造りの作業に直接か かわる人)の持つ高度な酒造技術や,利用する酵 母などによって補える部分もあるが,直接的な原 料である米の品種の選択や扱いによっても,製成 酒の香味,個性が左右される。 2)清酒醸造工程 清酒は,ビールやワインと同様に醸造酒である が,その醸造工程は複雑である(第1図)。清酒の 原料である米には,あらかじめ酵母が利用できる 状態の糖分が含まれていない。そこで,麹の酵素 の働きで米デンプンを分解しグルコースを生成す る「糖化」と,酵母の働きで遊離したグルコース からアルコールを生成する「発酵」が同時に進行 する。この発酵方式は清酒醸造の最大の特徴であ り,並行複発酵という。これに対して,ビールは米の加工利用( 9)酒
●解 説●古 川 幸 子
ふ る か わ ・さ ち こ 京都府立大学農学部 農芸化学科卒業。黄桜 株式会社入社。現在, 研究所課長心得。 農学博士ΰ㒿䟺୩⾔々Ⓠ㓕䟻 ⢶ 䜦䝯䜷䞀䝯Ⓠ㓕 㯔 ⡷ 䟺䝋䝷䝛䝷䟻 䟺⢶ฦ䠌䜴䝯䜷䞀䜽䟻 ΰ㒿 䟺䜬䝃䝒䞀䝯,㓗⅛⣪䟻 㓕ẍ 䜦䝯䜷䞀䝯Ⓠ㓕 䝗䞀䝯䟺༟⾔々Ⓠ㓕䟻 Ⓠⰾ ᾦ 㯇ⰾ 㯇Ị 䟺⢶ฦ䠌䜴䝯䜷䞀䜽䟻 䝗䞀䝯 䟺䜬䝃䝒䞀䝯,㓗⅛⣪䟻 ኬ㯇 䜦䝯䜷䞀䝯Ⓠ㓕 䝳䜨䝷䟺༟Ⓠ㓕䟻 㓕ẍ 䟺䝋䝷䝛䝷䟻 䝚䝍䜪 䟺⢶ฦ䠌䜴䝯䜷䞀䜽䟻 䝳䜨䝷 䝃 㓗 ⅛⣪䟻 㓕 䟺䜬 䝒䞀䝯, 㓕ẍ 原料である大麦を発芽させて(麦芽に変えて)デ ンプンを糖化する方法で,単行複発酵という。ワ インは原料であるブドウにあらかじめ糖分が含ま れており,これをそのまま発酵させるので,単発 酵という。 清酒醸造工程の詳細を第2図に示した。まず, 第1図 清酒とワイン・ビールの醸造工程比較(カラー図表をHPに掲載 C031)
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第2図 清酒醸造工程玄米を精米して白米にし,洗米,浸漬した後,こ れを蒸きょうして蒸米を得る。麹は,蒸米に黄麹 菌 Aspergillus oryzae を繁殖させたものであるが, 蒸米の溶解と糖化を行うアミラーゼやプロテアー ゼなどの酵素類を生成し,酵母の増殖や発酵に必 要な栄養源を提供する。清酒醸造は,酒し ゅ ぼ母(水 と米麹と蒸米のなかで清酒酵母 Saccharomyces cerevisiae を増殖させたもの,酛もとともいう)に,水 と米麹と蒸米を3段階に分けて仕込む。この方法 (三段仕込み)は,清酒醸造にしか見られない伝統 的な仕込み方法であり,それぞれ,添仕込み,仲仕 込み,留仕込みと呼ぶ。三段仕込みの目的は,原 料を順次加えることによって,雑菌汚染と酵母菌 体数の急激な低下を抑え,発酵を健全に保つこと である。留仕込みの後,10~15℃の低温で約20~ 40日間発酵させるが,この状態を醪もろみという。十分 に発酵した醪は,圧搾して上清である清酒と残渣さ である酒粕かすに分離する。清酒醸造では,原料米の 約80%は掛米として蒸米の状態で仕込まれ,残り の20%は麹に用いられる。 余談ではあるが,南北朝末期から室町時代に書 かれたとされる「御酒乃日記(現存する日本最初 の酒造技術書)」には,麹と蒸米,水を2回に分け て加える二段仕込みの記述が見られ,現在の酒造 りの基礎は,すでに室町時代には,ほぼ完成され ていたようである2)。清酒の奥深さを物語る史実 である。 3)清酒の種類 さて,清酒といってもその種類は多様であり,ひ とくくりにできるものではない。現在の分類方法 では,清酒は一般酒(普通酒ともいう)と特定名 称酒に分類される。特定名称酒は,吟醸酒,純米 酒,本醸造酒をいい,それぞれ所定の要件に該当 するものにその名称を表示することができる。一 般酒は,特定名称酒以外の清酒をいう。 特定名称酒は,原料や製造方法等の違いからな る『清酒の製法品質表示基準』によって,さらに 8種類に分類される(第1表)3)。吟醸酒は,高 度精白した白米を,吟醸造り専用の優良酵母(吟 醸酵母という)を用いて低温でゆっくり発酵させ, 酒粕の割合を高くして,固有の芳香を呈するよう に醸造した清酒である。この吟醸酒に固有の香り は吟醸香と呼ばれ,果実や花のような華やかな香 りと淡麗な味を特徴とする。清酒の香りは,清酒 の原料である米自体が持っている香りではなく, 原料米のタンパク質が清酒醪中で麹の持つプロテ アーゼによる分解を受けて生じたアミノ酸を,酵 母が代謝することによって形成されるアルコール やエステルが主体となっている。吟醸香は,カル ボン酸とアルコールの縮合反応から得られるカル 第1表 清酒の種類(特定名称酒の分類)3) 特定名称 使用原料 精米歩合 麹米使用割合 香味等の要件 吟醸酒 米,米麹,醸造アルコール 60%以下 15%以上 吟醸造り,固有の香味,色沢が良好 大吟醸酒 米,米麹,醸造アルコール 50%以下 15%以上 吟醸造り,固有の香味,色沢が特に良好 純米酒 米,米麹 − 15%以上 香味,色沢が良好 純米吟醸酒 米,米麹 60%以下 15%以上 吟醸造り,固有の香味,色沢が良好 純米大吟醸酒 米,米麹 50%以下 15%以上 吟醸造り,固有の香味,色沢が特に良好 特別純米酒 米,米麹 60%以下または特別な製造方法(要説明表示) 15%以上 香味,色沢が特に良好 本醸造酒 米,米麹,醸造アルコール 70%以下 15%以上 香味,色沢が良好 特別本醸造酒 米,米麹,醸造アルコール 60%以下または特別な製造方法(要説明表示) 15%以上 香味,色沢が特に良好
ボン酸エステルである酢酸イソアミル(バナナの 香り)とカプロン酸エチル(リンゴの香り)が主 要な成分である。純米酒は,米,米麹と水だけを 原料として醸造した清酒である。純米酒の香味は, 吟醸酒のような華やかな香りとは異なり,米の持 つふくよかな香りと旨味が特徴で,蔵ごとの個性 を楽しめる酒ともいえる。本醸造酒は,原料とし て米,米麹,水の他に醸造アルコール(デンプン 質物や含糖質物から醸造されたアルコール)3)を 使用する。清酒醪に適量の醸造アルコールを添加 することで,香りが高く,すっきりした味になり, さらに,清酒の香味を劣化させる乳酸菌(火落菌) の増殖を防止するという効果もある3)。醸造アル コールの使用量には制限があり,白米重量の10% を超えない範囲とされている。 ちなみに,平成22酒造年度における清酒の製造 数量(アルコール分20度換算数量)は,439,651kL の内,特定名称清酒の製造数量(アルコール分20 度換算数量)は,137,833kL であり1),その割合 はおよそ3割となる。つまり,現在,製造される 清酒のうち,およそ7割が一般酒クラスというこ とになる。
●3.清酒の米
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1)酒造原料米 清酒の主原料である米は,その成分特性から, 第2表 主な酒造好適米品種(原産地で表示) 地域 都道県名 品種名 地域 都道県名 品種名 北海道 北海道 初雫,吟風,彗星 近畿 滋賀県 玉栄,吟吹雪 東北 青森県 古城錦,豊盃,おくほまれ,華吹雪, 京都府 祝 華想い 大阪府 岩手県 ぎんおとめ,吟ぎんが 兵庫県 山田錦,愛山,なだひかり,六甲錦, 宮城県 蔵の華,ひより,星あかり 灘錦,兵庫夢錦,兵庫北錦, 秋田県 改良信交,秋の精,秋田酒こまち, いにしえの舞,杜氏の夢,白鶴錦 美郷錦,吟の精 奈良県 山形県 豊国,出羽燦々,出羽の里 和歌山県 福島県 夢の香 中国 鳥取県 強力 北陸 新潟県 五百万石,越淡麗,一本〆,越神楽 島根県 神の舞,佐香錦 富山県 雄山錦 岡山県 雄町 石川県 石川酒 30 号,北陸 12 号 広島県 こいおまち,千本錦,八反錦 1 号, 福井県 越の雫 八反錦2号 関東 茨城県 ひたち錦 山口県 西都の雫 甲信 栃木県 とちぎ酒 14 四国 徳島県 群馬県 舞風 香川県 埼玉県 さけ武蔵 愛媛県 千葉県 総の舞 高知県 吟の夢,風鳴子 東京都 九州 福岡県 夢一献 神奈川県 佐賀県 さがの華 山梨県 長崎県 長野県 たかね錦,金紋錦,美山錦, 熊本県 しらかば錦,ひとごこち 大分県 東海 岐阜県 ひだほまれ 長崎県 静岡県 誉富士 宮崎県 はなかぐら 愛知県 夢山水,若水 鹿児島県 三重県 伊勢錦,神の穂 沖縄 沖縄県酒造好適米(酒米)と一般米の2種類に大別され る。醸造用に用いられる酒造好適米は,農林水産 省による「玄米の検査規格」4)では,醸造用玄米 に区分される。酒造好適米は,長ちょうかん棹で倒伏しやす いので,非常に高度で繊細な栽培技術を要する上 に,一般米と同様に,気候や土壌などの環境条件 によっても,その性質は左右される。最も著名な 品種である山田錦が日本における酒造好適米の最 高位にランクされ,中でも兵庫県産は特に評価が 高いが,近年は,各都道府県において個性豊かな 優れた品種が開発されている(第2表)。これらの 品種の中には,各都道府県の奨励品種に推奨され るものもあり,農林水産省による「地産地消」の 推進と連動して,地域経済の活性化や清酒の多様 化に貢献している。 それぞれの特徴の詳細は後述するが,酒造好適 米は,以下に示すような醸造に適した条件を備え ている。 ① 千粒重(玄米千粒の重さ)が26g以上である こと ② 心白構造(米胚はい乳中心部にある白色不透明部 分)があること ③タンパク質含量が低いこと ④吸水性が良いこと ⑤ 麹菌の生育と破は精ぜ込み(麹菌の蒸米内部への 菌糸伸張状態)が良好であること ⑥酒母や醪中で溶解が良好であること また,一般米は,農林水産省による「玄米の検 査規格」4)では,水稲うるち玄米に区分され,主 に食用として用いられる。一般米の代表的な品種 には,日本晴や良食味米として知られるコシヒカ リ,ひとめぼれなどがある。 2)精米 精米は,清酒醸造工程の原料処理で最初に行う 非常に重要な工程である。飯米用の精米とは目的 が異なるので,目標とする精米歩合や使用する精 米機の様式も異なったものになる。 一般的な飯米用白米としての精米を行う場合は, 玄米の表層部から7~10%程度を削るので,精米 歩合は90~93%となる。これは,玄米から糠を取 り除くことによって,米の消化吸収と食味を向上 させることが目的であり,通常は,摩擦式精米機 や横型研削式精米機を用い る。 一方で,酒造用原料米の 精米では,『清酒の製法品 質表示基準』によって清酒 のグレードごとに精米歩合 が定められており(第1 表)3),本醸造酒で精米歩 合70%,吟醸酒で60%,大 吟醸酒では50%まで米を磨 く(第3図)。このような高 度精白を行う目的は,玄米 の表層部に多く含まれるタ ンパク質や脂肪,ミネラル, ビタミンを取り除くためで ある。 米のタンパク質は,米粒 内で表層部に多く,中心部 第3図 酒造原料米の精米 品種:山田錦(兵庫県産) (カラー図表を HP に掲載 C032)
に近づくほど少なくなる分布をしている5)。清酒 醸造において,原料米のタンパク質は,清酒醪中 で麹の酵素による溶解を受けて清酒の香味を形成 するアミノ酸やペプチドを供給する必要不可欠な 成分であるが,過多のタンパク質は,清酒の雑ざ つ み味 (清酒の中で不快さや雑っぽさ,あるいは洗練され ていないと感じる味の総称)の原因となり,酒質 を劣化させる6)。上述した酒造好適米の特徴③に タンパク質含量が低いことを挙げているのは,こ の理由によるものであり,良好な酒質の清酒を安 定して醸造するためには,原料米の選抜と,清酒 醪中での原料米タンパク質の溶解の適切な制御が 重要である7)。 米に含まれる脂肪も清酒の雑味となるが,胚乳 中心部には存在しないので,精米工程で削除され る。ミネラルやビタミンは清酒醪の発酵を促進さ せる作用があるが,過剰に存在すると発酵が進み すぎるため,醪の健全な発酵のためには,適切な 量を保つ必要がある。 酒造用原料米の精米には,縦型研削式精米機を 用いる。精米機内部にある砥と石(金剛ロール)の 回転数や抵抗を調整しながら,ゆっくり時間を掛 けて,原形精米(玄米の原形を残す精米)をして いく。上述した酒造好適米の特徴①は,長時間の 精米に耐えて砕けないような大粒の米が酒造用の 精米に適していることが,その理由となっている。 玄米の米粒は球形ではなく,ラグビーボールの ような楕だ円形に近い形をしているが,飯米用の精 米機の場合は,米粒の長径側から削れていくので, 精白米は,どんどん球形に近くなる。醸造用精米 機は,長径と短径をできる限り同じ割合で磨いて いくので,精白米は,玄米のラグビーボール形を そのまま縮小した楕円形になる。もちろん,大吟 醸酒では,精米歩合は50%以下となるので,精白 米は球形に近くなる(第3図)。 酒造会社では,自社で精米を行うか,精米業者 などへ委託して精米を行うか,希望の品種を目的 とする精米歩合まで磨いた精白米を購入するか, いずれかの選択をする。自社精米の場合,精米機 の要となる金剛ロールの調整法は,各社で自前の 精米機や使用する米品種,目的とする精米歩合に 合わせて工夫しており,そのノウハウは機密事項 といえるほど重要なものである。 3)麹米と掛米 清酒醸造では,米は用途によっても2種類に分 類され,それぞれ麹米(麹菌を増殖させるための培 地としての米)と掛米(発酵基質としての米)と 呼ばれる。1仕込みに用いるすべての原料米(総 米という)の中で,麹米と掛米の割合は,一般的 には麹米20%,掛米80%程度である。 麹(米麹)は,蒸した米を培地として,麹菌 Aspergillus oryzae を増殖させたものである。「一 麹(いちこうじ)二酛(にもと)三造り(さんつ くり)」という酒造用語があるほど,麹は清酒醸造 工程において重要な役割を担っている。麹に含ま れるグルコアミラーゼやα−アミラーゼがデンプ ンをグルコースに分解し,酵母のアルコール発酵 を助けるだけではなく,麹にはタンパク質分解酵 素も含まれる。麹が持つ酸性プロテアーゼや酸性 カルボキシペプチダーゼなどが米タンパク質を分 解することによって生じたアミノ酸やペプチドは, 酵母の生育や酒の香味に大きな影響を与える。良 い麹は,蒸米の表面だけでなく,米粒内部にも菌 糸が伸びている状態であることが望ましく,これ を破精込みが良いという。酒造好適米の心白部は, 心白部以外の部分と比較すると米粒内部のデンプ ンの詰まりが疎になっているため8),麹菌にとっ て生育しやすい状態となっている。上述した酒造 好適米の特徴②,⑤は,この理由によるものであ る。 掛米は,酒母および醪に添加する米のことをい う。使用する品種や精米歩合によっても製成酒の 香味が左右されるので,上述した酒造好適米の特 徴④,⑥が挙げられる。
●4.最近の市場トレンド
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最近の酒造技術の向上は目覚しいものがあり, 酒造好適米を用いることが必ずしも良い酒造りの条件ではなくなってきている。消費者の多様な ニーズに応えるために,従来,酒造用には不向き とされてきた米品種や新品種などの特性を活かし た新しい清酒の開発が進められている9−11)。たと えば,従来の伝統的な酒の醸造では使われていな かったコシヒカリなどの良食味米品種が積極的に 採用され始めている(第4図)。このコシヒカリ を原料米に用いる清酒醸造の動きは,業界全体に 広がっているが,消費者にとってみれば,コシヒ カリはおいしいお米の代表的品種で,日本でもっ とも認知度の高い米品種である。消費者にとって 「おいしさ」が最もイメージしやすい米であること から,酒造原料米として使用することの意味合い は大きく,清酒の需要拡大と清酒業界の活性化に 貢献することが期待できる。 また,独立行政法人酒類総合研究所と日本酒造 組合中央会が共催している全国新酒鑑評会(新酒 を全国的に調査研究することにより,製造技術と 酒質の現状および動向を明らかにし,もって清酒 の品質向上に資することを目的とする)12)におい ても,最近は山田錦を用いたものの出品が年々減 少傾向にあり,越淡麗(こしたんれい),千本錦 (せんぼんにしき),美山錦(みやまにしき)など 山田錦以外の品種を原料米に用いたものの出品が 増えている13)。金賞(予審・決審と行われる審査 を通過した入賞酒のうち,決審で特に成績が優秀 と認められたものに授与)受賞率も,平成19酒造 年度からは,山田錦を主原料に使用したものより も,山田錦以外の品種を主原料に使用したものが 上回っている13)。こうした傾向は,酒造業界が一 丸となったたゆまぬ努力によるものであり,従来 の常識にとらわれない多様な品種選択の可能性は, 今後,ますます拡大するものと思われる。
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5.おわりに
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近年は,清酒をもっと楽しんでいただくための 飲み方の提案として,酒と料理の 相性(マリアージュ)が注目され ている。清酒は,幅広くどんな料 理にも合わせやすい酒であり,酒 造メーカーの中には,直営レスト ランを経営し,自社製品とそれに 合う料理を提供したり,あるいは ウェブサイト上でマリアージュの 例を紹介したりするところもある。 少し古い話になるが,2010年8 月付の Web ニュースサイト「フー ドスタジアム」には,非常に興味 深いコラムが掲載されている14)。 「『日本酒新時代』は来るか・・・?」 というテーマで,東京にあるいく つかの飲食店を紹介しているのだ が,各店それぞれに清酒(日本酒) の提供の仕方がユニークで面白い。 お酒を飲める人はもちろん,飲め ない人も行ってみたくなること請 け合いである。このような情報に 第4図 良食味米品種コシヒカリを用いた商品 (カラー図表を HP に掲載 C033) 純米 辛口一献 1.8Lパック 純米 辛口一献900mL パック 純米 辛口一献180mL カップ敏感であり,かつ自らも発信していくことが清酒 業界にとって,活性化への起爆剤になるのではと 思っている。 米の消費量が年々減少していると言われて久し い。清酒醸造に携わる者の一人としては,ぜひ, 米の加工品であり,「国酒」である清酒の消費量を 増加させることによって,米の需要拡大に貢献し たいところである。 1) 国税庁鑑定企画官(2012),平成22酒造年度におけ る清酒の製造状況等について,http://www.nta.go. jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/ seizojokyo/2010/pdf/01.pdf[Accessed 2012/2/29]. 2) 増田昌文(2003),うまい日本酒はどこにある,株式 会社草思社,98. 3) 国税庁(1989),国税庁告示第8号 , 清酒の製法品質表 示基準を定める件,senmonjoho/sake/hyoji/seishu/ kokuji891122/03.htm[Accessed 2012/2/29]. 4) 農林水産省(2007),玄米の検査規格,http://www. maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/k_kikaku/ [Accessed 2012/2/29].
5) Champagne E T, Wood D F, Juliano B O et al. (2003),Chapter 4 The Rice Grain and Its Gross Composition, Rice : Chemistry and Technology third edition. Champagne E T. Minnesota, USA, AACC. 93−94. 6) 田島修 , 富金原孝(1969),清酒中のペプチドの意義 について,醸協64,739−743. 7) 古川幸子(2008), 米タンパク質がもたらす食味と酒 造掛米適性の美味しい関係,醸協103,145−149. 8) 上島脩志(2003),酒米における心白発現の遺伝,第 39回独立行政法人酒類総合研究所講演会報告,http:// www.nrib.go.jp/kou/pdf/39kou08.pdf [Accessed 2012/2/29]. 9) 古 川 幸 子(2010), 米 の 特 性 を 活 か し た 新 し い 清 酒の開発~産学官連携の成果を商品化へ~.New FoodIndustry 52 : 25−33. 10) 古川幸子 (2012),清酒の香味とその評価,New Food Industry 54 : 37−48.
11) Furukawa S (2011),Chapter 8 Sake: quality characteristics, flavour chemistry and sensory analysis,Alcoholic beverages:Sensory evaluation and consumer research, Piggott J. R. Cambridge,
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