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心臓財団虚血性心疾患セミナー ハイリスク患者の術前評価 原和弘 ( 三井記念病院内科 ) はじめに非心臓手術の周術期には, 心筋梗塞, 不整脈, 心不全などの心血管イベントが生じて, 本来の手術以上に危険が生じる可能性があります. このような危険を回避するために, 日本循環器学会, 米国心臓協会,

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はじめに

非心臓手術の周術期には,心筋梗塞,不整脈,心不全 などの心血管イベントが生じて,本来の手術以上に危険 が生じる可能性があります.このような危険を回避する ために,日本循環器学会,米国心臓協会,欧州心臓会議 は循環器内科医のみでなく手術を担当する外科医や麻酔 科医も参考にできるガイドラインを公表しています1〜4). 中でも手術担当者による術前評価で危険があると判断さ れた場合には,患者自身と循環器内科医が術前評価と周 術期管理のチームに加わって最善の診療について相談す ることが求められています. 欧米のガイドラインは step-by-step approach で術前 評価の流れが示されており,専門家でなくとも用いやす い形になっています.そこで本日は欧州心臓会議 2009 のガイドラインに沿って「ハイリスク患者の術前評価」に ついて解説します4).

Step-by-step approach

ステップ 1 は緊急手術が必要な場合です.術前検査や 心疾患に関しての特別の治療をする時間的な余裕がない ので,周術期の内科的治療や心事故の監視,以前からの 心血管病の治療の継続などに関して循環器内科医が情報 提供やアドバイスをします.例えば,冠動脈インターベ ンション後で抗血栓薬を内服中の患者さんが転倒して頭 蓋内出血のために脳外科の緊急手術を受けることがあり ます.可能な術前検査は安静時心電図と血液検査であり, 心疾患の評価よりも救命が優先項目です.このような場 合には以前から服用しているb 遮断薬,アスピリン,ス タチンなどの継続が推奨されています. ステップ 2 は心疾患が活動性または不安定な状態に あって,そのまま手術を遂行すると危険な場合です.こ のような状態には,急性心筋梗塞や不安定狭心症,非代 償性うっ血性心不全,心室頻拍や心室細動,重症の大動 脈弁狭窄症などがあります.この場合には,手術を延期 して心疾患の処置や治療を優先します.例えば,大腿骨

原 和弘

(三井記念病院 内科)

ハイリスク患者の術前評価

バルーン形成 BMS DES 外科の出血リスク 低い 低くない 予定されている 手術の時期 14-29 日 30-365 日 >365 日 ステント可, 抗血 小板薬2剤継続 急性心筋梗塞, 高リスク急性 冠症候群, 高リスク病変 図 1 のちに非心臓手術を必要としている患者に推奨される PCI (米国心臓協会ガイドライン 2009)

心臓財団虚血性心疾患セミナー

(2)

頸部骨折を併発した ST 上昇型急性心筋梗塞の事例で は,primary PCI を先行し,30 日後に整形外科で骨折に 対する手術を施行しました.このように非心臓手術を後 に必要としている患者さんの PCI ではベアメタルステ ントを用いて 30 日以降に手術へ進むように推奨されて きました(図 1)2).ステップ 2 では,安静時心電図,心エ コー図を施行し必要な症例に対しては冠血行再建を施行 します. ステップ 3 では手術のリスク評価を行います(表)1) . 高リスクの手術には大動脈を含む大血管や末梢血管の手 術,体液の移動を伴う長時間手術などがあります.中リ スクの手術には胸部や腹部の手術が含まれます.ステッ プ 4 では患者さんの運動耐容能を評価します.特別な検 査ではなく日常の生活活動を問診して 4 METS 以下か どうかを推定します.例えば階段で 2 階まで上がれるか どうかを尋ねます.低リスクの手術ないし中リスク以上 の手術でも 4 METS 以上の運動耐容能があれば,手術を 遂行してよいとされます.欧州心臓会議 2009 のガイド ラインではb 遮断薬とスタチンの内服が推奨されてい ました. ステップ 5 は中リスクの手術,ステップ 6 は高リスク の手術を受ける運動耐容能の低下した患者さんの術前評 価です.通常この段階で循環器内科へ術前にコンサル テーションがあります.安静時心電図,心エコー図,負 荷試験などを施行して,虚血性心疾患の有無を診断しま す.負荷試験では負荷心筋シンチグラフィが最もエビデ ンスも多く,確実な評価法であります.大動脈疾患の手 術では運動負荷が禁忌となることが多く,薬物負荷心筋 シンチグラフィがよく用いられてきました.安定した虚 血性心疾患と診断されればb 遮断薬,アスピリン,スタ チンの内服が推奨されています. 負荷試験で広範な心筋虚血があり,三枝疾患や左主幹 部疾患が疑われる場合にはカテーテル検査ないし冠動脈 CT 検査を行って冠動脈の器質的病変の評価をします. このような重篤な虚血性心疾患の場合には,薬物治療の もとで手術を遂行するかあるいは冠血行再建術を行って から非心臓手術へ進むかを関係者で十分に協議します. 以前から行われていることですが,最近はハートチーム ・高リスクの手術(危険度>5%) ―緊急の大手術(特に高齢者),大動脈および他の大血 管手術,末梢血管手術,大量の体液移動あるいは失 血を伴う長時間手術 ・中等リスクの手術(危険度 1-5%) ―頸動脈内膜切除術,頭頸部手術,腹腔内手術および 胸腔内手術,整形外科手術,前立腺手術 ・低リスクの手術(危険度<1%) ―内視鏡手術,体表手術,白内障手術,乳房手術 手術因子による層別化 (日本循環器学会ガイドライン 2008) 死亡 β blocker Control Relative risk(99% CI) Total mortality

Pre-POISE POISE Total

Non-fatal myocardial infarction Pre-POISE POISE Total Non-fatal stroke Pre-POISE POISE Total 0.89(0.49-1.64) 1.33(0.95-1.87) 1.21(0.90-1.63) p=0.10, I2=37% 0.58(0.32-1.06) 0.71(0.54-0.92) 0.69(0.54-0.87) p<0.0001, I2=31% 2.98(0.74-12.0) 1.93(0.83-4.50) 2.19(1.06-4.50) p=0.005, I2=0% 0-10

Relative risk(99% CI) 1 33/1080 129/4174 162/5254 36/1070 97/4177 133/5247 42/919 215/4177 257/5096 25/958 152/4174 177/5132 12/972 27/4174 39/5146 3/967 14/4177 17/5144 心筋梗塞 脳梗塞 2 4 8 16 図 2 非心臓手術を受けた患者における b 遮断薬のメタ解析

(3)

と称してカテーテル専門医,バイパス手術の外科医,内 科受け持ち医などが一堂に会して議論することが推奨さ れています.

b 遮断薬

周術期の薬物治療としてb 遮断薬,スタチン,アスピ リンが推奨されてきましたが,最近b 遮断薬とアスピリ ンに関してそれらの位置づけを見直す動きがあります. 多数例での前向き研究である POISE 研究を含むメタ 解析のよると,画一的なb 遮断薬の術前投与は周術期の 心筋梗塞の頻度を減少させるものの,低血圧,脳梗塞, 死亡の頻度を増加させることが示されました(図 2)5). また多数例での後ろ向き研究では,糖尿病,虚血性心疾 患,腎機能低下,脳血管障害,高リスク手術をリスク因 子として検討すると,3 因子以上であれば周術期のb 遮 断薬が院内死亡を低下させる一方でリスク因子なしでは 却って死亡を増加させるという結果が得られました( 3)6) .これらを受けて米国のガイドラインではb 遮断薬 の一様な使用を推奨せず,心筋梗塞,心不全,高血圧に 対してすでに内服していれば継続し,高リスクで新規に 内服を開始する場合には心拍数と血圧に配慮して薬の用 量を調整することを推奨していました.その後,非心臓 手術の周術期にb 遮断薬の服用を推奨してきた欧州の グループの研究に不正がみつかりエビデンスから取り消 される事態が生じたことから,2014 年にb 遮断薬の推 奨を見直した欧州のガイドラインが公表されました7). Propensity-Matched Cohort RCRI score 0 RCRI score 1 RCRI score 2 RCRI score 3 RCRI score ≧4 1.43(1.29-1.58) 1.13(0.99-1.30) 0.90(0.75-1.08) 0.71(0.56-0.91) 0.57(0.42-0.76) 1.36(1.27-1.45) 0.96(0.82-1.13) 1.09(1.01-1.19) 1.28(1.10-1.50) 1.12(0.95-1.31) 1.03(0.82-1.23) 1.01(0.76-1.35) 0.94(0.84-1.05) 0.88(0.80-0.98) 0.71(0.63-0.80) 0.58(0.50-0.67) RCRI score 2 RCRI score 3 RCRI score ≧4 RCRI score 1  Diabetes

 Ischernic heart disease  Renal insufficiency  Cerebrovascular disease  High-risk surgery Entire Study Cohort RCRI score 0  Hypertension

0.4

Odds Ratio for Death in the Hospital (95% confidence interval)

0.6 0.8 1.0 2.0

図 3 周術期の b 遮断薬療法と非心臓手術後の死亡

非心臓手術を受けた患者で周術期のb 遮断薬療法に関連した院内死亡の調整オッ ズ比を臨床リスク因子の数ごとに示す.

(4)

薬物溶出ステント植込み後とアスピリン

薬物溶出ステント植込み後の症例が慢性期にアスピリ ンを中止して非心臓手術を受けた際にステント血栓症に よる急性心筋梗塞を発症した事例が報告されてきまし た.日本で行われた J-CYPHER 登録研究によれば,シ ロリムス溶出ステント植込み後の虚血性イベントの発症 は術後 6 週間以内に多いことが報告されました(図 4)8). しかしながらエビデンスが十分ではないため現在までの ところ,薬物溶出ステント植込み後症例の手術は,1 年 間待機することやアスピリンを継続することが推奨され ています. 最近報告された POISE2 研究では,血管合併症リスク の高い症例の非心臓手術に際して,周術期にアスピリン を投与することの有効性が検討されました9).従来のガ イドラインでは以前から内服しているアスピリンを継続 することが推奨されていましたし,高リスク手術やハイ リスク患者ではアスピリンの内服が推奨されていまし た.この研究はアスピリン,クロニジン,プラセボのファ クトリアルデザインで行われ,10,010 例で検討されまし た.アスピリンの使用は,周術期の出血の頻度を増すも のの,死亡ないし非致死的心筋梗塞の頻度は減少させな いという結果でした.PCI 後のアスピリン内服の推奨を 除けば,この研究の結果からは周術期にアスピリンの内 服を推奨するエビデンスは十分ではないことになりま す.

おわりに

以上のように,ハイリスク患者の術前評価では,冠血 行再建の既往とその方法,臨床リスク因子,手術のリス ク,運動耐容能,心筋虚血の程度,内服薬などを検討す る必要があります.その上で患者さんが実際に薬を内服 していたかどうか,アスピリンを継続する際には外科担 当医が出血を心配しているかどうかなど,関係者が忌憚 なく相談することが最も重要であると考えられます. (ラジオ NIKKEI 心臓財団虚血性心疾患セミナー 2014 年 7 月 15 日放送分より) 文 献 1) 許 俊鋭,今中和人,上田裕一,ほか:循環器病の診断と 治療に関するガイドライン(2007 年度合同研究班報告). 非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガ イドライン(2008 年改訂版).http://www.j-ciru.or.jp/ guideline/pdf/JCS2008_kyo_h.pdf(cited 2014 Jul 15) 2) Fleisher LA, Beckman JA, Brown KA, et al:American

College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines:ACC/AHA 2007 Guide-lines on Perioperative Cardiovascular Evaluation and Care for Noncardiac Surgery. J Am Coll Cardiol 2007; (A) Death / MI / ST (B) ST 30 20 10 0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0 0 7 14 21 28 0 7 14 21 28 Days after surgery Days after surgery

P=0.02

Surgery beyond 60 days Surgery within 60 days

Surgery beyond 60 days Surgery within 60 days

P=0.002 Cumulative Incidence ( % ) Cumulative Incidence ( % )

Surgery within 60 days 7 Days 30 Days Surgery within 60 days 7 Days 30 Days

Surgery beyond 60 days Surgery beyond 60 days Incidence

Number of events Number of patients at risk Incidence

Number of events Number of patients at risk

Incidence Number of events Number of patients at risk Incidence

Number of events Number of patients at risk 94 1336 94 1336 6.4% 6 89 6.4% 6 87 0.8% 10 1306 2.5% 32 1239 2.2% 2 89 0.23% 3 1306 0.23% 3 1238 2.2% 2 87 図 4 外科的手技後の死亡/心筋梗塞/ステント血栓症に関する SES 植え込みの 60 日前後での比較

(5)

50:1707-1732

3) Fleischmann KE, Beckman JA, Buller CE, et al:2009 ACCF/AHA focused update on perioperative beta blockade. J Am Coll Cardiol 2009;54(22):2102-2128 4) Polderman D, Bax JJ, Boersma E, et al:Guidelines for

pre-operative cardiac risk assessment and perioperative cardiac management in non-cardiac surgery. Eur Heart J 2009;30:2769-2812

5) POISE study group:Effects of extended-release meto-prolol succinate in patients undergoing non-cardiac surgery (POISE trial):a randomised controlled trial. Lancet 2008;371:1839-1847

6) Lindenauer PK, Pekow P, Wang K, et al:Perioperative

beta-blocker therapy and mortality after major noncar-diac surgery. N Engl J Med 2005;353:349-361 7) Kristensen SD, Knuti J, Saraste A, et al:2014 ESC/ESA

Guidelines on non-cardiac surgery:cardiovascular as-sessment and management. Eur Heart J 2014;35:2383-2431

8) Kimura T, Isshiki T, Hayashi Y, et al:Incidence and outcome of surgical procedures after sirolimus-eluting stent implantation:a report from the j-Cypher registry. Cardiovasc Interv Ther 2010;25:29-39

9) Devereaux PJ, Mrkobrada M, Sessler DI, et al:Aspirin in patients undergoing noncardiac surgery. N Engl J Med 2014;370:1494-1503

図 3 周術期の b 遮断薬療法と非心臓手術後の死亡

参照

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