筑波技術短期大学テクノレボートNo6Marchl999
英語聴解問題における聴覚障害者に対する措置
その1:公立高等学校入学試験の場合
松藤みどり(聴覚部一般教育等)
要旨音声が聞き取れないことは、語学の学習に不利な要因となる。聴覚障害者がそのハンディを克服し て学力をつけたとしても、試験問題に聴解問題が含まれている場合は、そのハンディは決定的なものになる。現在、都道府県が行う公立の高等学校入試では、北海道を除くすべてで、英語において聴解問題(リ
スニングテスト、ヒアリングテストなど)が実施されている。聴覚に障害を持つ受験生が正当に実力が発 揮できるような措置がとられているかどうか、各都道府県に質問紙を送付して調査した。その結果、都府 県で行われている措置には独自性があって、地域差があることがわかった。良い措置が行われている都県 の例を示した。 キーワード:特別措置、入学試験、英語、聴解問題 ような対応がなされているかを全国調査し、望ましい措 置のありかたを検討することは、意味のあることだと考 える。 1.はじめに 筑波技術短期大学聴覚部には、聾学校と一般の高等学 校からおよそ半数ずつの学生が入学する。音声を聞き取 ることができないことは、語学の学習にかなり不利な要 因となるはずである。それにもかかわらず、本学には本 人の努力および周囲の協力・援助により、高等教育を受 ける水準に達した英語力を持った学生が入学する。しか しながら、聴覚障害者がそのハンディを克服して学力を つけたとしても、資格試験や入学試験、あるいは入社試 験や昇進試験に音声による聴解問題が含まれている場合 は、そのハンディは決定的なものになる。 資格試験の中で、英検(実用英語技能検定試験)を実 施している日本英語検定協会は、平成7年より聴覚障害 者対象の特別措置を講じるようになり、聴覚や言語に障 害を持つ受験者が増加した。このことは聾学校の中学部 や高等部の生徒の学習意欲を引き出すことになり、良い 教育効果があると報告されている11。日本英語検定協会 では、リスニングテストの内容を動画文字で提示する等 の、更に前進した措置を検討中である21. 大学入試センターによるセンター試験では、英語の聴 解問題の導入が検討されているが、聴覚障害者に対する 措置についての見解は発表されていない。公教育におけ る入学者選抜試験において、障害がどのように扱われる かということは、人権に係わる重要な問題である。 英語の試験を課す目的が、受験者の英語力を測定する ことであるならば、受験者の英語力が正当に反映される やりかたで試験を実施すべきであろう。 すでに入学試験に英語の聴解問題を導入している都道 府県の高等学校の入学試験で、聴覚障害者に対してどの 2.調査方法 平成10年1月末に、各都道府県教育委員会の公立高 等学校入学試験担当者に質問紙を送付し、2月末までに 回答を郵送するよう依頼した。宛て先は文部省の特殊教 育課の協力を得て調査し、当該の部署宛に送付した。締 切りまでに回答がなかった都道府県には電話で連絡し、 最終的に47のうち41都道府県から回答を得た。 3.調査内容 (紙面の都合で簡略化した) (1)重度の聴覚障害者がこれまでに当該都道府県の公 立高等学校に入学したことの有無 (不:不明、秘:非公開、-:記載なし) (2)平成9年度()人入学 (3)入学試験科目の英語の聴解問題が含まれるように なった年度(年度入学試験から) (4)聴覚障害者が、聴解問題を含んだ英語の入学試験 を受験するさいの配慮の種類 ア.別室で受験させている イ.受験者が読話できるよう、試験官が問題を読み上 げている ウ.聴解問題と同一の内容の問題を、筆記形式で出題 している エ.聴解問題の代わりになる別の筆記形式の問題を出 題している 125TsukubaCollegeofTechnologyTechnoReport,1999No.6 学校長宛のもの、②試験実施者に対する注意、③受験者 が手にする募集要項の一部と思われるものの3種類に分 類できるが、②と③は、判別しにくかった。一般の受験 者が手にする「募集要項」に措置について明記してある ことが望ましい。 結果の一部を全日本聾教育研究大会で発表したところ、 具体的な措置例についてもっと詳しく報告して欲しいと いう意見があったので、青森県、東京都、徳島県、福岡 県の4つを例として示す。 4.3.1青森県 措置についての明記された文書として、「昭和54年 度公立高校受検者中難聴者等の取扱いについて(通知)」 が回答に添付されてきた。宛て先は「各公立高等学校長」 差出人は「青森県教育委員会教育長」である。「公立高 等学校入学者選抜学力試験において、難聴者等身体の不 自由な受検者がそのために不利になることのないよう、 あらかじめ実態を把握し、下記によりその取扱に配慮願 います。」とある。「記」の部分をそのまま引用する。 オ.聴解問題の部分は得点の対象とせず、見込み点を 与えている 九その他 (5)平成9年度の入学試験問題の英語のうち、聴解問 題の占める配点の割合()% (6)入学試験問題の英語の聴解問題に対する聴覚障害 者に対する措置に関する文書
(無:存在しない、秘:非公開、-:記載なし)
4.結果と考察 公立の高等学校に絞って調査対象とし、宛て先を教育 委員会の高等学校入学試験担当者にしたことが、回収率の高さ(87%)につながった。結果は最後のページに表
で示した。調査結果は全日本聾教育研究会等の全国規模 の研究会で発表すると共に、インターネットを通じて情 報を公開する予定であるとの予め了承を得てある。尚、 この表は、全日本聾教育研究会の研究収録に記載した集 計結果3)に若干修正を加えたものである。 回答のあった41都道府県について以下にまとめる。 4.1受験者数 過去の受験者について、「無し」とはっきり回答した のは、6。 「不明」の理由は、統計をとっていない、個々の障害 についての調査はしていない、障害の軽重はわからない などであった。平成9年度の入学者数ついては、Oとい う回答が10あった。 入学者数については1,2名という回答が多かったが、 徳島の13は、県の人口から見ても驚異的である。 4.2.英語の聴解問題 平成10年度の入試では、北海道を除いたすべての都 府県で聴解問題が実施されている。開始した年度は、昭 和30年代からが6,40年代からが13,50年代と60年代 からが10、平成に入ってからが9である。 配点を公表していないところが16あったが、回答し た都道府県では、英語の入学試験における聴解問題の配 点の占める割合は12%から30%で、平均すると21.3% になった。 配慮については、延べ数で、ア28,イ17、ウ5,エ 5,オ2,力17であった。力と回答したうち、「補聴器 の使用」と「座席の配慮」を挙げたところが多かった。 その他に「個々に対応」「状況に応じて」も多く見られ た。「口話ビデオ」は東京都だけの措置である。 4.3.措置文書 21の都府県が措置文書があると回答し、そのうちの 20が実物を送ってくれた。そのような文書は無いと答え たところが11あった。文書は、①教育委員会から高等 記 1実態の把握 (1)調査書によりチェックし、必要に応じて中学校に 問合わせる。 (2)検査当日の朝、さらに受検者全員にたずね、たし かめる。 2難聴者の取扱い (1)放送による検査の場合 難聴の程度に応じて ア補聴器を使用させる。(他の受検者と同室あるい は別室) イイヤホーンを使用させる。(別室) ウ教師の肉声による。(別室) (2)説明をしたり、注意を与える場合 アよく聞こえる位置に席を設けてやる。 イ難聴のひどい受検者には書いたものを配布する。 3弱視者の取扱い ア検査の際、虫メガネ等の使用を許す。 イ板書事項のよく見える位置に席を設けてやる。 場合によっては書いたものを配布する。 4その他の身体障害者の扱いについても十分配慮する こと。 青森県は昭和39年に英語の聴解問題を取り入れてい る。30年代に導入した都道府県は、青森県を含めて6し かなく、早い時期の導入である。措置文書は昭和54年 2月19日に出され、現在も生きている。昭和50年代に 12s身体障害者、とりわけ難聴者の受験に配慮した文書をす でに作成していることは、高く評価できる。 しかしながら、表題に「難聴者」とあることからもわ かるように、この文書は重度の聴覚障害者を念頭に置い て作成されたものではない。措置の内容も受験者が「音 声」を受容することができることが前提となっている。 また、検査当日の朝、申し出があった場合に、本当に適 切な対応ができるかどうか疑問である。 4.3.2東京都 措置について明記された文書として、「都立高等学校 長」宛に「教育庁学務部高等学校教育課長」からの「英 語学力検査リスニング実施上の留意点について」と題す る文書の一部、および「別紙参考2リスニングテスト 実施上の特別措置について」の2点が回答に添付されて きた。 先の文書の日付は平成10年1月19日となっており、 10年度に「口話ビデオ」が加えられた点で9年度とは異 なっている。該当の部分を引用する。 デオテープの再生は1回のみとし、途中でビデオテープ を一時停止したり、再生モードを遅くしたりはしないこ と。ビデオ視聴後は、リスニングテスト問題を除いた他 の問題を解答させる。 (6)代替問題や口話ビデオによるリスニングテスト の解答時間については、問題配送時に都教育委員会が、 当該受検者のいる高等学校の校長に通知する。 東京都は平成9年度に聴解問題を導入した。まだ実施 していない北海道を除けば、全都道府県の中で、最も遅 い導入である。重度の聴覚障害者に対して、代替問題を 出題することを9年度に決め、10年度には代替問題に加 えて口話ビデオも導入したことは画期的であると言え る。 引用は省略するが、別紙参考2「リスニングテスト実 施上の特別措置」には、受検者(保護者)からの申請の 流れ図が示され、申請項目をそれに応じた対応、措置の 有無についてきめ細かく決められている。リスニングテ ストの導入にあたり聴覚障害者にも十分な配慮がなされ ており、周到な準備が行われたことが伺える。入学者数 は明らかにされていないが、おそらく全都道府県の中で、 最も多くの受験者があるものと思われる。「マニュアル」 とも言える文書は、他の都道府県の参考になるであろ う。 4.3.3徳島県 聴解問題の導入の時期は平成3年度からで、遅いほう である。徳島県を特に取り上げる理由は、平成9年度に 13人もの多数の受験生が特別措置を受け、そのうち7名 が筆記試験を受け、13人全員が合格したと報告されてい るからである。 「徳島県公立高等学校入学者選抜に係る英語ヒアリン グテスト実施要領」という題の文書が添付されてきた。 「徳島県公立高等学校入学者選抜のための学力検査実施 の基本方針に基づき、英語ヒアリングテスト(以下「ヒ アリングテスト」という。)の実施に関して必要な事項 を次のとおり定める。各学校においては具体的な実施計 画をたて、全教職員に周知し、実施に対して万全を期す る。」とあるので、高等学校長宛に教育委員会から出さ れた文書であると思われる。「I実施準備」の中の 「4聴覚障害者への対応」の部分を引用する。 8聴覚に障害のある受検者についての配慮 (1)聴覚障害によりリスニングテストの受検が困難 な志願者に対しては、「学力検査実施上の措置申請書」 (様式19)に基づき、校長が措置決定をする。 (2)校長が措置決定をする際には、別紙参考2「リ スニングテスト実施上の特別措置」に基づくものとする。 なお、校長は措置決定前に、教育庁学務高等教育課入学 選抜係と協議を行うこと。 (3)特に、重度障害によりリスニングテストの受検 が困難で、代替問題又は口話ビデオによる受検措置が必 要であると認められた者については、都教育委員会が代 替問題や口話ビデオを必要数、各高等学校に配布する。 (4)代替問題による措置を講じた場合は、当該受検 者は別室受検とする。当該検査会場の監督者は、初めに、 当該受検者に代替問題のみを配布して、英語学力検査時 間の最初に解答させることとする。また、代替問題の解 答時間は、リスニングテストの実施に要する時間とする。 当該検査会場の監督者は、当該時間を越えた時点で、代 替問題の用紙を回収するとともに、英語学力検査問題を 配布し、リスニングテストを除いた他の問題を解答させ る。代替問題の用紙は、英語学力検査終了後、当該受検 者に返却する。 (5)口話ビデオによる措置を講じた場合は、当該受 検紋は別室受検とする。当該検査会場の監督者は、初め に、英語学力検査問題を配布して、ビデオテープレコー ダーに別途、配布された口話ビデオをセットし、受検者 の視聴位置及び音量を確認し再生を開始する。なお、ビ 4聴覚障害者への対応 (1)高等学校長は、中学校長から『英語ヒアリングテ スト特別措置申請書』(様式第18号)(選抜要項31ページ) の提出があった場合、中学校長と十分に連絡をとり、そ の特別措置について『英語ヒアリングテストにおける特 127
害の程度を十分に把握できないと判断する場合は、別に 医師の診断書等を求めることができる。 別措置通知書』(様式第18号の1-A)により、中学校を通 じて志願者に通知する。 また、日程にしたがって、高校教育課まで『英語ヒア リングテストにおける特別措置について(報告)』(様式 第18号のl-B)により報告する。 (2)特別措置は、次のア、イ、ウによる。 ア通常の検査場で受検する。 a席をスピーカーの近くに変更する。 b補聴器を使用する。 イ別室で音量をあげて受検する。 a補聴器を使用しない。 b補聴器を使用する。 ウヒアリングテストに相当する筆記検査を受検す る。 (3)特別措置を講ずるにあたっては、不利な扱いや精 神的な負担等が生じないように配慮する。 座席を変更する場合は全教科同一の席となるよう に配慮する。 申請書が添付された回答は少なかったが、この文書は 募集要項の中の1ページであると思われ、受験者全員が 目にする文書である点で、評価できる。また、自由記載 欄が大きく、受験者の状況を詳しく記述することができ るようになっているのも好ましい。 5.おわりに 英語の入学試験における措置について、都道府県の現 状を文書によって調査した。その結果、措置を受ける手 順や措置そのものがはっきり決まっていないところや、 東京都のように、手続き方法が明確にされ、措置そのも のも聴覚障害者の立場を尊重した内容であるところなど の地域差が見られた。 入学試験の聴解問題について、これまでほとんど省み られなかった理由は、聴覚障害者は高等学校ではなく、 聾学校に進学することが前提とされ、公立の高等学校に 進学することは例外的と見られていたからであろうか。 高等学校に進学する重度の聴覚障害者の数が多いという ことは、聾学校の在籍者が減少していることから容易に 推測できる。一般の大学に在籍する聴覚障害の学生たち は、「全日本ろう学生懇談会」などを組織して自分たち の環境を調査し、発信している。4) しかしながら、高等学校を受験する年齢の生徒たちに は、自分たちの置かれている環境を問題として調査した り、世に訴えたりする力はまだない。各都道府県の措置 の改善には、親の会や、聾学校・難聴学級の教師たちの 働きかけが必要であろう。 筑波技術短期大学聴覚部英語担当教官の立場として は、センター試験に聴解問題が導入される際に、十分な 配慮がなされるよう提言したり、英語検定協会にも受験 生の英語力がより正当に反映される試験方法の開発を依 頼したりしようと考えている。調査に協力して下さった 教育委員会の担当者の方々に感謝申し上げる。 「精神的な負担」への配慮に言及した文書は、他に類 を見ない。受験に当たってきめ細かい配慮がなされおり、 入学者も多いことから、進学後も適切なケアが行われて いることが推測される。 4.34福岡県 福岡県は平成元年度に聴解問題を導入した。比較的遅 いほうである。「平成10年度福岡県立高等学校入学者選
抜要項」が回答に添付されてきた。「(四)英語リスニン
グテスト」の「3その他」に「聴覚障害者が受検す る場合には、中学校長は英語リスニングテスト特別申請書(様式7)を平成10年1月20日(火)までに、志願予
定の高等学校長に提出すること。 「(様式7)英語リスニングテスト特別申請書」には 「障害の種類・程度」「中学校における生活状況及び指導 上の配慮事項」「備考」として、記述する欄がある。欄外の「(注)」を下に引用する。
lこの特別措置の対象となる者は、原則として両耳 の聴力レベルが30デシベル以上の者とする。ただし補 聴器の使用により、通常の話声の聞き取りが可能となる 者を除く。 2障害の種類・程度欄には、聴力レベル等を具体的 に記入すること。 3備考欄には、補聴器を使用し、かつ、別室におい て音量増大等の措置を講じた場合に、聞き取りが可能か どうかについての所見を記入すること。 4高等学校長は、この申請書の記載内容のみでは障 参考文献1)水流清二:「聴覚障害者の英検対策について」,聴
覚障害,第52巻,p9(1997) 2)(財)日本英語検定協会:「障害者特別措置に関し て」,意見交換会資料,P2(1998) 3)第32回全日本聾教育研究大会(福岡大会)研究集録 4)httpWsuper・winnejp/~zenkon/ 128調査結果一覧表 129 都 県 道府 入学者 過去 平9 聴解問題 年度 配慮 記述された内容 %