ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート
著者名(日)
笠原 俊宏
雑誌名
東洋法学
巻
47
号
1
ページ
141-158
発行年
2003-09-30
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000177/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.jaベトナム国際家族法立法に関する研究ノート
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目 次 一 緒言 二 新立法中の国際私法総論規定 三 新立法中の国際私法各論規定 ︵一︶ 婚姻の成立要件 ︵二︶ 離婚 ︵三︶ 養子縁組 ︵四︶後見 四 新立法中の国際手続法規定 五 結語 ︵参考資料︶ ベトナム婚姻及び家族法中の国際私法規定 141ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート 緒言 ベトナムの近時の国際私法立法としては、一九九五年一二月二八日に採択され、翌年七月一日から施行された ﹁ベトナム社会主義共和国民法典﹂中の﹁第七編・渉外的要素を有する民事関係﹂に置かれた諸規定︵第八二六条 ないし第八三八条︶があるが、それらは国際私法総論及び国際財産法に関する規定であり、そこには、国際家族 法に関する規定は一切含まれていない︵拙稿﹁外国国際私法立法に関する研究ノート︵8︶iベトナム民法典︵一九 九五年︶中の国際私法規定ー﹂国際研究論叢︵大阪国際大学紀要︶一二巻四号六三頁以下、さらに、鈴木康二﹃ベトナム 民法−条文と解説﹄︵ジェトロ、一九九六年と六〇頁以下参照︶。従来、ベトナム法において国際家族法関連事項に ついて定めていたのは、その家族法典、すなわち、﹁ベトナム社会主義共和国婚姻及び家族法﹂︵一九八六年一二 月二九日採択、翌年一月三日公布︶中の﹁第九章・ベトナム公民と外国人との婚姻及び家族関係﹂に置かれた諸 規定︵第五二条ないし第五四条︶である。同法は一九八○年一二月に制定された﹁ベトナム社会主義共和国憲法﹂ の下における立法計画の一環として、旧法︵一九五九年一二月二九日採択、翌年一月二二日公布︶を全面的に改 正したものである︵鮎京正訓口安藤友久﹁ベトナムの婚姻・家族法﹂法律時報五九巻九号七八頁以下参照。また、その他、 邦訳については、民事月報四四巻五号二二四頁参照︶。内容的には、他の社会主義国の家族法が参照されたといわれて いるが︵鮎京11安藤・前掲七九頁︶、さらに、民法典と家族法典とをそれぞれ独立させていることも、当時から、多 くの社会主義諸国において採用されていた立法形式であり、今日に至っているところである。それらの家族法立 142
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法として、最近の立法に限ってみても、例えば、ロシア、ベラルーシ、リトアニア、カザフスタン、ウズベキス タン、キューバ等の諸立法が挙げられる。 今般、二〇〇一年一月一一日の﹁ベトナム社会主義共和国婚姻及び家族法﹂ ︵以下、新立法とする︶により、 前記の一九八六年の家族法︵以下、旧立法とする︶は改正され、同日から施行されている。その﹁第一一章・渉 外的要素を有する婚姻及び家族関係﹂に置かれた諸規定︵第一〇〇条ないし第一〇六条︶が国際私法規定である ︵く一①9四ヨ①ω凶ω魯Φω男凶BまΦ目Φ魯倉、N藝蹄魯ω﹄ミ笥ミ&蝋§ミ§、§ミ妹−黛§駄さ§ミ§ωミらミ︵以下、竃§として引用︶ 8βψ留駅︶。新立法のそれらの諸規定は、形式的にも、また、内容的にも、旧立法に比してかなり充実したもの に改正され、また、新しい規定が追加されている。以下、それらの諸規定の内容及び特徴について、旧立法と対 照させながら言及することとしたい。 二 新立法中の国際私法総論規定 新立法中の国際私法規定に見られる特徴のひとつは、次のように、旧立法に比して、その総論規定が充実され たことである。 まず、旧立法における唯一の総論規定は、国際条約の適用の優先を定めた第五四条、すなわち、﹁ベトナムと外 国との間に婚姻・家族に関する司法的、法的な相互協定がある場合においては、当該協定の諸規定に従うものと する。﹂とする規定︵以下、旧立法の法文は、鮎京“安藤・前掲から引用︶であった。それに対して、新立法における 143ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート 国際条約の位置付けは、決してベトナム国内法に優先するものではなく、形式上、それらは同等である。新立法 第一〇〇条は、まず、第一項において、﹁ベトナム社会主義共和国においては、渉外的要素を有する婚姻及び家族 関係は、ベトナム法、及び、ベトナム社会主義共和国が署名または同意した国際的合意上の諸規定に従い、尊重 され、かつ、保護される。﹂とし、また、第三項において、﹁ベトナム社会主義共和国は、ベトナム法、受入れ国 法、並びに、国際法及び国際慣習に従い、外国におけるベトナム公民の婚姻及び家族関係において、その者の合 法的な権利及び利益を保護する。﹂と規定している。 その一方において、家族法関係についてのベトナム法の適用の優先が強調されている。第一〇〇条においては、 まず、第二項が、﹁ベトナムにおける外国人とベトナム公民との婚姻及び家族関係においては、ベトナム法によっ て別段に定められた場合を除き、その者はベトナム公民と同一の権利及び義務を享受する。﹂とし、また、第四項 が、﹁本章における諸規定は、一方または双方当事者が外国に居住する場合のベトナム公民間の婚姻及び家族関係 にも適用されるものとする。﹂と規定している。 次に、同様な観点から注目されるのが、新たに置かれた反致に関する第一〇一条第二文の規定である。同規定 が採用しているのは、わが法例第三二条と同様な狭義の反致の立場である。すなわち、﹁外国法がベトナム法へ送 致し返す場合には、ベトナムの婚姻及び家族立法が適用されるものとする。﹂とするのがそれである。近時の諸国 の立法においては、弱者保護等の一定の理念の下に、それに反することとなる反致を制限する立場が表明されて いるものが少なくないが、同文の規定においてはそのような制限は付されていない。 144
また、公序条項が新たに置かれたことも、ベトナム法を本位とする立場を表現するものとして注目される。す なわち、第一〇一条第一文において、﹁本法及び他のベトナム法律文書、または、ベトナム社会主義共和国が署名 もしくは同意した国際的合意が援用することを定めるときは、援用された外国法の適用が本法に定められた諸原 則に反しない限り、かような外国法が適用されるものとする。﹂と規定されているのがそれである。公序則発動の 基準とされる公序概念は、﹁ベトナム社会主義共和国婚姻及び家族法に定められた諸原則﹂であり、それがベトナ ム国内実質法上の諸原則であることはいうまでもない。 三 新立法中の国際私法各論規定
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各論規定として新立法中に存在するのは、︵一︶婚姻の成立要件、︵二︶離婚、︵三︶養子縁組、︵四︶後見に関する 諸規定に限られている。 ︵一︶ 婚姻の成立要件 婚姻の成立要件については、第一〇三条第一項第一文本文が、﹁ベトナム公民と外国人との間の婚姻については、 各当事者は、その者の本国の婚姻要件に関する立法を遵守しなければならない。﹂として、両当事者の本国法の配 分的適用の立場をとっている。これは、旧立法第五二条第一項が、﹁ベトナム公民と外国人との婚姻においては、 両当事者は、自国の婚姻に関する規定に従うものとする。﹂とするのと同一である。しかし、新立法の下において は、次のように、ベトナム法が準拠法とされる場合が一段と拡大されていることが看取される。すなわち、まず、 145ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート 同文但書は、﹁但し、それらの者の婚姻がベトナムの権限を有する国家機関において行なわれるときは、外国人も また本法上の婚姻要件に関する諸規定を遵守しなければならない。﹂と定めている。これは、旧立法第五二条第二 項が、﹁ベトナム公民と外国人との婚姻がベトナムにおいて行なわれる場合には、外国人は、さらに本法第五条 ︵注・婚姻年齢に関する規定︶、第六条︵注・婚姻の自由に関する規定︶、第七条︵注・婚姻禁止の事由に関する規定︶の 諸規定に従わなければならない。﹂と定めていたのと同一であると見られるが、さらに、新立法第一〇三条第一項 第二文は、﹁ベトナムにおける外国人の間の婚姻であって、ベトナムの権限を有する機関におけるものは、婚姻要 件に関する本法上の諸規定に従わなければならない。﹂と定めて、ベトナム法の適用を拡大している。このような 一方的抵触規定の下にあっては、両当事者の本国法の配分的適用という原則は、それが援用される機会を殆ど失 うことになるであろう。 婚姻の手続きについては、新立法には同様な規定は置かれていないが、旧立法第五二条第二項第二文において、 ﹁婚姻の手続きは、閣僚会議によって規定される。﹂と定める特別の規定が置かれていた。その規定を受けて、﹁ベ トナム公民と外国人との間の婚姻及び家族法令﹂が制定され︵一九九四年三月一日︶、同法令第二条第三項により、 わが国の市町村役場に相当する各級人民委員会が、政府の決定に基づき、ベトナム公民と外国人との婚姻及び家 族法に関する国家管理を実施する責任を負うものとされ、また、同法令第七条により、ベトナム公民と外国人と の間の婚姻手続きについては、当事者であるベトナム公民が現に居住している地の人民委員会が権限を有すると 定められている︵竹澤雅二郎目篠崎哲夫編著﹃新版渉外戸籍のための各国法律と要件﹄︵日本加除出版、二〇〇二年︶二七 146
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九頁参照︶。また、近時の先例としては、日本人男子とベトナム人女子がベトナムの方式によって婚姻した旨の同 国ホーチミン市人民委員会発行の婚姻許可証が添付され、婚姻の報告的届出がなされた場合において、同婚姻許 可証を戸籍法第四一条に規定する証書として取り扱っても差し支えないとした平成九年一〇月九日民事第二課第 一八四八号回答がある︵竹澤U篠崎・前掲書二七九頁及び二八五頁、戸籍六六七号七五頁参照︶。 ︵二︶離婚 離婚については、新立法第一〇四条第一項は、﹁ベトナムに恒常的に居住するベトナム公民と外国人との間、ま たは、外国人の間における離婚は、本法の諸規定に従って解決される。﹂と規定している。この規定はベトナム法 の適用を謳った一方的抵触規定であるが、前者は、法例第一六条但書における日本人条項に似たベトナム人条項 ともいうべき規定であり、一方、後者は、同一常居所地法主義を採用しているものであるかのように見られる。 いずれにしても、ベトナム法が適用される場合についてのみ規定するものである。しかし、また、第一〇四条第 二項は、﹁ベトナム公民である当事者が、離婚請求の当時、ベトナムに居住しない場合には、離婚は、夫婦がとも に恒常的に居住する国の法律に従って解決されるものとする。但し、それらの者がともに恒常的に居住する地を 有しないときは、ベトナム法が適用されるものとする。﹂と規定している。同項は、その本文において、同一本国 法であるベトナム法を適用することなく、同一常居所地法であるいずれかの外国法を適用すべきことを定めてい る点に特徴を有するものである。また、その但書において、同一常居所地法がえられないときには、補充的に、 ベトナム法に依るべきことが定められている。このように、離婚の準拠法について、同一常居所地法と法廷地法 147ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート の段階的連結の規則をそこに見ることができる。従って、右第一項に規定されているベトナム人と外国人との間 の離婚についても、内国法志向としてではなく、端的に同一常居所地法主義が採られているものと解することが 正当であろうと思われる。 さらに、離婚の際の財産分与に関する規定と見られるものであるが、新立法第一〇四条第三項は、﹁離婚した夫 婦の財産であって、外国における不動産であるものの解決は、かような不動産が所在する国の立法に従うものと する。﹂と規定する。離婚の準拠法に依らしめることなく、不動産所在地法に依らしめることの理由は、準拠法の 適用の実効性の確保を顧慮したものであろう。一方、動産の分与に関する特別規定は見られない。従って、それ については、離婚の準拠法が規律するものと考えられる。 なお、旧立法においては、その第五三条により、﹁ベトナム公民と外国人との問の夫婦関係、財産関係、父母と 子の関係、婚姻の取消し、離婚、養子縁組及び後見に関する問題については、国家評議会によって規定される。﹂ として、別個の立法に広く譲られていた。 ︵三︶ 養子縁組 新立法第一〇五条は、養子縁組の成立の準拠法と養子縁組の効果のそれとを区別して規定している。すなわち、 前者に関する同条第一項は、﹁ベトナム人である子、または、外国人である子であって、ベトナムに恒常的に居住 する者を養子にすることを志願する外国人は、本法、及び、かような外国人が子の養子縁組についての要件を尊 重する公民である国の法律の諸規定を遵守しなければならない。﹂として、養子がベトナムに常居所を有する場合 148
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に関して、ベトナム法と養親の本国法との累積的適用の規則を定めている。また、後者に関する同条第二項は、 とくに養親と養子との間の法律関係について、ベトナムにおいて締結される養子縁組に関するその第一文におい て、﹁渉外的要素を有する子の養子縁組がベトナムにおいて行なわれる場合には、養子をする両親と養子にされる 子の権利及び義務、並びに、離縁は、本法の諸規定に従うものとする。﹂として、養子縁組締結地であるベトナム 法に依るべきものとし、他方、外国において締結される養子縁組に関するその第二文において、﹁子の養子縁組が 外国においてベトナム公民と外国人との間において行なわれる場合には、養子をする両親と養子にされる子の権 利及び義務、並びに、離縁は、養子にされる子の居所が所在する国の法規定に従うものとする。﹂として、子の居 所地法に依るべきことを定めている。実際には、両者のいずれの場合も、準拠法は子の居所地法に一致すること になるであろう。尚、それらの規則は離縁についても規律することが定められている。それを養子縁組の成立の 準拠法に依らしめるわが法例第二〇条第二項とは異なる立場が採られている。 さらに、外国人との養子縁組についての準則を定めている﹁ベトナム人と外国人との婚姻及び養子縁組に関わ る政府の議定書﹂︵一九九四年一一月三〇日政府法令︶の存在が知られている︵司法研修所編﹃渉外養子縁組に関す る研究−審判例の分析を中心にー﹄︵法曹会、一九九九年ご〇六頁参照︶。それによれば、まず、手続きは、外国 人がベトナムに在住しているベトナム人の子を養子とする場合と、外国人が外国に在住しているベトナム人の子 を養子とする場合に分かれる。二つの手続きは、その流れや要件は殆ど同じであるが、縁組を公認する機関が異 なる。すなわち、前者の場合には、国内の養子縁組の場合と同様のベトナム人民委員会が公認機関となるが、後 149ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート 者の場合には、ベトナム国外での外交代表機関またはベトナム領事機関が公認機関となる︵司法研修所編.前掲書 一〇八頁参照︶。但し、新立法の施行後、同議定書の有効性については明らかではない。なお、わが国における実務 上、人民委員会の公認については、わが国家庭裁判所の許可審判によって代行せられている。人民委員会の公認 も、わが国家庭裁判所の許可審判も、養子の福祉の観点からなされる審査である点において代行は可能であると いうのが理由である︵司法研修所編・前掲書一一〇頁参照︶。 ︵四︶後見 新立法第一〇六条は、ベトナムにおける後見と外国における後見とに区別し、前者については、属地的後見の 立場に立ってベトナム法の適用を優先させ、また、後者については、後見人の法の適用を優先させている。すな わち、同条第一項においては、﹁渉外的要素を有する婚姻及び家族関係における後見であって、ベトナムにおいて 行なわれたもの、及び、海外のベトナム外交使節または領事館においてすでに登録された後見は、本法または他 のベトナム法規定に従わなければならない。﹂とされる一方、同条第二項においては、﹁婚姻及び家族関係におけ る後見であって、ベトナム公民と外国人との間におけるものが外国において行なわれる場合には、後見人と被後 見人の権利及び義務は、後見人の居所が所在する国の法律に従うものとする。﹂と規定されている。なお、後見人 の居所地法に依るべきとすることの当然の前提として、後見人及び被後見人の居所が同一国に所在することが想 定されているものと考えられる。 150
四 新立法中の国際手続法規定
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比較立法的な観点から、新立法の特徴として指摘されるべきであるのは、所轄官庁に関する規定が少なくない ことである。そのことにより、諸官公庁の権限及び役割が明確にされている。それらとして、まず、第一〇二条 第一項第一文は、人民委員会の権限として、﹁諸州及び直轄都市の人民委員会は、本法及び他のベトナム法の規定 に従い、渉外的要素を有する婚姻登録、子の養子縁組及ぴ後見を遂行する。﹂と規定する。また、同条第二項は、 ベトナムの外交使節及び領事館の権限として、﹁海外におけるベトナムの外交使節及び領事館は、本法の諸規定及 び他の然るべきベトナム法規定、並びに、ベトナム社会主義共和国が署名または同意した国際的合意に従う婚姻 登録、または、渉外的要素を有する子の養子縁組及び後見に関する事項の解決が、受入れ国法に反しない限り、 かような登録及び解決を行なう。但し、それらは、渉外的要素を有する婚姻及び家族関係におけるベトナム公民 の合法的な権利及び利益を保護する責任を負う。﹂と規定する。さらに、同条第三項は、人民裁判所の権限として、 第一文において、﹁諸州及び直轄都市の人民裁判所は、本法の諸規定及び他のベトナム法規定に従い、渉外的要素 を有する非合法な婚姻を無効とし、離婚事件、夫婦、親子の権利及び義務、父母または子の認知、子の養子縁組 及び後見に関する争訟を解決し、諸外国の裁判所または他の権限を有する機関の婚姻及び家族に関する判決及び 決定の承認または不承認を判断する。﹂と規定し、第二文において、﹁ベトナム公民が居住する地方地区、都会地 区、地方の町または市の人民裁判所は、本法の諸規定及び他のベトナム法規定に従い、ベトナムに接する地域に 151ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート 生活する近隣諸国の公民とともに国境地域に居住するベトナム公民の間における非合法な婚姻を無効とし、離婚 事件、夫婦、親子の権利及ぴ義務、父母または子の認知、子の養子縁組及び後見に関する争訟を解決する。﹂と規 定している。 また、新立法中における国際手続法ないし国際民事訴訟法に関連する規定として、身分形成に関する外国判決、 及び、外国官庁が関与した身分行為の承認に関する諸規定が挙げられる。まず、外国離婚裁判の承認に関する第 一〇四条第四項は、﹁外国の裁判所または外国の他の権限を有する機関の離婚判決または決定は、ベトナム法の諸 規定に従い、ベトナムにおいて承認されるものとする。﹂と規定し、また、養子縁組の承認に関する第一〇五条第 一項第二文は、﹁外国人である子の養子縁組であって、外国の権限を有する機関においてすでに登録されているベ トナム公民によるものは、ベトナムにおいて承認されるものとする。﹂と規定している。前者の場合には、ベトナ ム法の諸規定に従うべきであるとされている点において、実質審査が要求されているとも見られうるのに対して、 後者の場合には、同文上の要件を充たすことをもって足りる形式審査に止められている。 152 五 結語 以上のように、このベトナム家族法中の国際私法規定が規律している事項的範囲は極く制限的であり、いまだ に、多くの事項が政府の命令による規律に委ねられている。しかも、相続に関しては、この新立法中においても、 また、一九九五年の民法典中にも、何らの定めも存在しない。そして、また、新立法中の規定の多くは、前出第
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一〇〇条の諸項においても総括的な法文が見られるように、ベトナム法が適用される場合についてのみ定めた一 方的抵触規定である。そのような意味において、ベトナム国際家族法はいまだ法典化の中間的過程にあるという 印象は拭えないであろう。しかし、その一方、かつての宗主国フランスにおいて、法規命令︵急Rのこ9が法源 として重要な役割を果たしていること、また、同国国際私法上においては、近時、一方主義の再生が論じられて いること等に鑑みるならば︵西賢﹃属人法の展開﹄︵有斐閣、一九八九年︶九九頁以下、拙稿﹁フランス国際私法におけ る離婚の準拠法﹂法学新報八六巻七・八・九号二六一二頁以下、とくに二八七頁以下︶、その影響がベトナムのこの新立法 に認められると見ることもあながち筋違いなことであるとはいい切れないであろう。従って、見方によっては、 この新立法もまた、今日的国際私法立法のひとつのあり方を実践しているものであると評すべきかもしれない。 さらに言及されるべきこととして、新立法においては、普遍的思想となりつつある女性と子の人権保護の理念 が、特別の規定をもって強調されている。女性の人権については、第一〇三条第二項が、﹁女性に対する性的虐待 の取引のため、または、他の利己主義な目的のために渉外的要素を有する婚姻を利用することは厳格に禁止され る。﹂と規定し、また、子の人権については、第一〇五条第一項第三文が、﹁子の労働力を搾取するか、子に対し て性的に虐待するか、もしくは、子を取引するか、または、他の利己主義な目的のために、子の養子縁組を利用 することは厳格に禁止される。﹂と規定している。これらの規定は、準拠法指定の規則を定めた抵触規定とは異質 なものである。しかし、ここに規定されることにより、特別公序を定めた規定として、その存在を位置付けるこ とができるであろう。 153ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート 邦訳に際して依拠したのは、舅嚢8。ρψ田民に掲載されている英語訳である。また、その出典として知ら れるのが、..︾ω①一①o江99詮邑蝉ヨ①旨巴冨≦ω9≦Φ9ΦBU簿①馨一Φ讐巴簿一8、、”コき○ど8。どやお9紹ρで ある。以下は、その試訳である。 ︵参考資料︶ ベトナム婚姻及び家族法中の国際私法規定
べトナム社会主義共和国婚姻及び家族法︵二〇〇一年一月一一日施行︶
第二章渉外的要素を有する婚姻及び家族関係
第一〇〇条 渉外的要素を有する婚姻及び家族関係の当事者の合法的権利及び利益の保護 一 ベトナム社会主義共和国においては、渉外的要素を有する婚姻及び家族関係は、ベトナム法、及び、ベトナ ム社会主義共和国が署名または同意した国際的合意上の諸規定に従い、尊重され、かつ、保護される。 二 ベトナムにおける外国人とベトナム公民との婚姻及び家族関係においては、ベトナム法によって別段に定め られた場合を除き、その者はベトナム公民と同一の権利及び義務を享受する。 三 ベトナム社会主義共和国は、ベトナム法、受入れ国法、並びに、国際法及び国際慣習に従い、外国における 154東洋法学
ベトナム公民の婚姻及び家族関係において、その者の合法的な権利及び利益を保護する。 四 本章における諸規定は、一方または双方当事者が外国に居住する場合のベトナム公民間の婚姻及び家族関係 にも適用されるものとする。 第一〇一条 渉外的要素を有する婚姻及び家族関係への外国法の適用 本法及び他のベトナム法律文書、または、ベトナム社会主義共和国が署名もしくは同意した国際的合意が援用 することを定めるときは、援用された外国法の適用が本法に定められた諸原則に反しない限り、かような外国法 が適用されるものとする。 外国法がベトナム法へ送致し返す場合には、ベトナムの婚姻及び家族立法が適用されるものとする。 第一〇二条 渉外的要素を有する婚姻及び家族関係に関する事項を解決する権限 一 諸州及び直轄都市の人民委員会は、本法及び他のベトナム法の規定に従い、渉外的要素を有する婚姻登録、 子の養子縁組及び後見を遂行する。 国境地域に居住するベトナム公民とベトナムに接する地域に生活する近隣諸国公民との間における婚姻登 録、子の養子縁組及び後見は政府によって規定されるものとする。 二 海外におけるベトナムの外交使節及び領事館は、本法の諸規定及び他の然るべきベトナム法規定、並びに、 ベトナム社会主義共和国が署名または同意した国際的合意に従う婚姻登録、または、渉外的要素を有する子の 養子縁組及び後見に関する事項の解決が、受入れ国法に反しない限り、かような登録及び解決を行なう。但し、 155ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート それらは、渉外的要素を有する婚姻及び家族関係におけるベトナム公民の合法的な権利及び利益を保護する責 任を負う。 三 諸州及び直轄都市の人民裁判所は、本法の諸規定及び他のベトナム法規定に従い、渉外的要素を有する非合 法な婚姻を無効とし、離婚事件、夫婦、親子の権利及び義務、父母または子の認知、子の養子縁組及び後見に 関する争訟を解決し、諸外国の裁判所または他の権限を有する機関の婚姻及び家族に関する判決及び決定の承 認または不承認を判断する。 ベトナム公民が居住する地方地区、都会地区、地方の町または市の人民裁判所は、本法の諸規定及び他のベ トナム法規定に従い、ベトナムに接する地域に生活する近隣諸国の公民とともに国境地域に居住するベトナム 公民の間における非合法な婚姻を無効とし、離婚事件、夫婦、親子の権利及び義務、父母または子の認知、子 の養子縁組及び後見に関する争訟を解決する。 第一〇三条渉外的要素を有する婚姻 一 ベトナム公民と外国人との間の婚姻については、各当事者は、その者の本国の婚姻要件に関する立法を遵守 しなければならない。但し、それらの者の婚姻がベトナムの権限を有する国家機関において行なわれるときは、 外国人もまた本法上の婚姻要件に関する諸規定を遵守しなければならない。 ベトナムにおける外国人の間の婚姻であって、ベトナムの権限を有する機関におけるものは、婚姻要件に関 する本法上の諸規定に従わなければならない。 156
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二 女性に対する性的虐待の取引のため、または、他の利己主義な目的のために渉外的要素を有する婚姻を利用 することは厳格に禁止される。 第一〇四条 渉外的要素を有する離婚 一 ベトナムに恒常的に居住するベトナム公民と外国人との間、または、外国人の間における離婚は、本法の諸 規定に従って解決される。 二 ベトナム公民である当事者が、離婚請求の当時、ベトナムに居住しない場合には、離婚は、夫婦がともに恒 常的に居住する国の法律に従って解決されるものとする。但し、それらの者がともに恒常的に居住する地を有 しないときは、ベトナム法が適用されるものとする。 三 離婚した夫婦の財産であって、外国における不動産であるものの解決は、かような不動産が所在する国の立 法に従うものとする。 四 外国の裁判所または外国の他の権限を有する機関の離婚判決または決定は、ベトナム法の諸規定に従い、ベ トナムにおいて承認されるものとする。 第一〇五条 渉外的要素を有する子の養子縁組 一 ベトナム人である子、または、外国人である子であって、ベトナムに恒常的に居住する者を養子にすること を志願する外国人は、本法、及び、かような外国人が子の養子縁組についての要件を尊重する公民である国の 法律の諸規定を遵守しなければならない。 157ベトナム国際家族法立法に関する研究ノート 外国人である子の養子縁組であって、外国の権限を有する機関においてすでに登録されているベトナム公民 によるものは、ベトナムにおいて承認されるものとする。 子の労働力を搾取するか、子に対して性的に虐待するか、もしくは、子を取引するか、または、他の利己主 義な目的のために、子の養子縁組を利用することは厳格に禁止される。 二 渉外的要素を有する子の養子縁組がベトナムにおいて行なわれる場合には、養子をする両親と養子にされる 子の権利及び義務、並びに、離縁は、本法の諸規定に従うものとする。 子の養子縁組が外国においてベトナム公民と外国人との間において行なわれる場合には、養子をする両親と 養子にされる子の権利及び義務、並びに、離縁は、養子にされる子の居所が所在する国の法規定に従うものと する。 第一〇六条 渉外的要素を有する婚姻及び家族関係における後見 一 渉外的要素を有する婚姻及び家族関係における後見であって、ベトナムにおいて行なわれたもの、及び、海 外のベトナム外交使節または領事館においてすでに登録された後見は、本法または他のベトナム法規定に従わ なければならない。 二 婚姻及び家族関係における後見であって、ベトナム公民と外国人との間におけるものが外国において行なわ れる場合には、後見人と被後見人の権利及び義務は、後見人の居所が所在する国の法律に従うものとする。 158