• 検索結果がありません。

龍谷大學論集 494 - 001塩田英子「『54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果 : 関連性理論の観点から」

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "龍谷大學論集 494 - 001塩田英子「『54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果 : 関連性理論の観点から」"

Copied!
30
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1F54字の物語」シリーズにみる「ぞっとする笑い」

の認知効果:関連性理論の観点から

1. はじめに:笑いと恐怖の共存 日常的な感覚として, 恐怖と安堵は両極端 に位置する。 ゆえに, 互 いに相容 れない感覚として対比さ れるのが常である。 しかし, 両者が共存し, 相互 作用 することによって独特の効果を生み出すことがある。 「ぞっとする笑いJ (horror joke) と形容さ れる笑いである。 (1 ) rあちらのお客様からです」私にカクテルを差し出すバーテンダーに 「何が見えているのですか ? J とは聞けなかった。 (氏田 20 1 8a: 1 23) 上記のジョークは, 読み手を一時的な恐怖, あるいは不安に陥れることで成り 立っている。 まず前半部分で, パーで見かけた気になる相手に飲み物をおごる という情景が描かれる。 この時点で読み手はまだ平常心を保ったままである。 ところが後半で一気に不安になる。 「何が見えているのですか ? J, つまり, 「あちら」には誰もいないのにバーテンダーには誰かの姿が見えている, とい う矛盾に気づく。 バーテンダーだげに見えて, 「私」には見えない幻がいると いう恐怖に鳥肌が立つ。 また, 「あちら」にいるのが, 超自然的存在なのか, はたまたバーテンダーが幻覚を見ているのか, はっきりしないところにも気味 の悪さ がある。 しかし, 最終的な解釈が確定した時点で, 読み手は現実世界に 引き戻さ れる。 剥那, 緊張の糸がほどけ, 一気に解放感を味わうことになる。 所詮は作り話だったのだ, と安心するからである。 そこで笑いが生じる。 だか らといって, 瞬時に恐怖や不安が完全に消え失せるわけではない。 読者は恐怖 や不安の余韻を引きずったまま, とりあえず笑うことになる。 この笑いは何か。 これまでことばが生み出す笑いについての研究はさ まざまな分野から試みら r54字の物語』シリ}ズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

-135一

(2)

れてきた。 特に言語学の分野においては語用論からの積極的なアプローチが見 られる。 たとえば, 関連性理論の観点からはY us (2016) をはじめジョーク や笑いについて, 数多くの研究が展開さ れてい

)。 また, 日本国内でも東森 (20 11 ) , 森垣 (20 1 4) などの研究がある。 これらの研究では関連性理論の観 点からジョークが分析可能なことを示しはしているが, ジョークによってもた らさ れる認知効果に焦点を当てた分析は充分になさ れていない。 そこで本稿で は笑いがもたらす認知効果に注目し, 「ぞっとする笑い」の効果を明らかにし ていく。 とくに, なぜ笑いを生み出すために, 恐怖心や不安感を増幅さ せる必 要があるのか, なぜ恐怖と笑いが共存しうるのかという疑問を, 関連性理論の 観点を借りることで解消する。 例として取り上げるのは11 54字の物語』として 知られるショートショート集である。 同シリーズから既刊の3冊を対象に, 例 の分類および分析を試みる。 第 2章では笑いの分類, 本稿での分析に必要な関連性理論の枠組みを概観す る。 そして, 本稿の主要概念である「ぞっとする笑い」と「認知効果」の定義 を明確にする。 第 3章では11 54字の物語』シリーズの概要を述べたのち, 具体 例の分析を試みる。 そして第 4章では例の分析から明らかとなった笑いの認知 効果について述べる。 そして最後に, 笑いの類型と認知効果の種類の相関関係 についての見解を示し, 本稿をしめくくる。 2. rぞっとする笑い」と認知効果 2 . 1. ぞっとする笑い そもそも「笑う」とはどのような行為なのか。 言葉による笑いのパタンには いくつかある。 たとえば志水ほか (1994) は以下のように分類している。 (2) 志水ほか (1994) による笑いの分類 1. 快の笑い ①本能充足の笑い ②期待充足の笑い ③優越の笑い ④不調和の笑い ⑤価値逆転・低下の笑い 2 . 社交上の笑い ①協調の笑い ②防御の笑い ③攻撃の笑い ④価値無化の笑い 3. 緊張緩和の笑い ①強い緊張がゆるんだときの笑い ②弱い緊張がゆるんだときの笑い (志水ほか 1 994: 44)

136一 能谷大学論集

(3)

上記は, ことば. による コミュニケーション以外も含んだ, 広い意味での笑いの 分類である。 これらの笑いは決して相互に排他的ではなく, ひとつの笑いが複 数の特徴をあわせもつ場合もあるという (志水ほか 1 994: 60 )。 ことばは, (2 )の笑いがもたらさ れるためのひとつの媒体にすぎない。 本稿ではことばを 介した笑いを扱うが, もちろん, ことばを介さ ない笑いもあるということも断 っておかねばならない。 ことばを介した笑いにはいくつかの種類がある。 たとえば英語では, 笑いを 意図した言語表現を総称してジョーク (joke) と呼び, さ らにその下位分類と して, ウイット (wit), コミック (comic), ユーモア (hum or) などと区別 することがある。 (3)は織田 (1986) によるジョークの分類である。 (3) 織田(1986)によるジョークの分類 a . ウイット (wit):人を刺す笑い b. コミック (comic) 人を楽しませる笑い c. ユーモア (hum or):人を救う笑い (参考 織田1 986: 255) また, (3)の分類を受けてさ らに宮田(1992 ) はユーモアの定義 を「解放とし ての笑いJ (宮田1 992 : 15) に位置付けている。 本稿で扱う「ぞっとする笑 い」は, 怖いと見せかけておきながら, 最終的には安堵を与えるという意味で は(3c)のユーモア, つまり人を救い, 解放する笑いである。 ここで, 言語表現としての「ぞっとする笑い」の定義 を明確にしておく。 「ぞ、っとする笑い」には 2 通りの解釈がある。 まず「見ている側を怖がらせる, 気味の悪い笑い」といった意味, そして「恐怖と安堵の入り混じった複雑な状 態で生じる笑い」である。 前者は受げ手以外の誰かの笑い, 後者は受け手自身 の感覚として生じる笑いをあらわす。 以降, 本稿で扱う「ぞっとする笑い」は 後者, つまり受け手が感じる笑いのことである。 「ぞっとする笑い」はブラック・ジョーク ( blac k joke) やブラック・ユー モア ( blac k hum or) がもたらす笑いとは趣を異 にする。 先掲の織田 (1986 ) はブラック・ユーモアを「攻撃の笑いが, 極端 に, くらい, いやな方向に向け られたJ (織田1986 : 55)ような場合の笑いであるとしている。 つまり, ブラ ック・ユーモアやブラック・ジョークの「ブラック」とは, 話題の選択 に関わ る分類である。 扱う話題が社会的にタブーであったり, 風刺の意味合いが強か

(4)

ったりするのがこの種のジョークであ

)。 これに対して, 「ぞっとする笑い」 はジョークによって生じる, 効果 (恐怖) からとらえた分類である。 ゆえに, 本稿での「ぞ、っとする笑い」はブラック・ジョークとは異 なる。 たとえば, 鈴木ほか ( 1993) で紹介さ れている(4)のユーモアは, 本稿でい う「ぞっとする笑い」の一例である。 なお, 本稿の引用において特に表記がな い限り, 英文の 日本語訳はすべて筆者による。

(4) Di d you hear a bout the man who ha d three wives? Two o f them di e d from eating poisonous m ushrooms. The thi r d one di e d o f a fract ure d skul し She woul dn 't eat the poisonous m ushroom s .

(鈴木ほか 1 993: 1 2) 3 人の妻がいた男のことは知ってるかい ? うち 2 人は毒キノコを食べて死 んだんだ。 3 人目は頭蓋骨骨折さ 。 3 人目の妻は毒キノ コを食べようとし なかったからね。

この例について鈴木ほか (1 993) は以下のように解説している。

(5) …… I she woul dn 't eat ...J [原文ママ]に至って, 3 人目の妻も殺さ れたという事実が明らかになる。 けれども, これは実話ではなく, ジョー クだったのだ。 ほっと一息つく。 隣の人と目を見交わす。 自然に笑いがこ ぽれる。 感情がなごみ, 雰囲気が和らぐ。 ジョークの効果が現れる。 一 男も 女も共 通に感じている脅威に対して, 高まっていた緊張が, punch line によって解放さ れる。 ……このジョークが面白くないという人は, 若 者, 理想主義者, 幸福な結婚をした人などである。 彼らにはユーモア感覚 がないからではなくて, 結婚や死が緊張を伴う脅威とは感じられず, それ ゆえ, 笑いで緊張を解きほぐす必要も感じないだけなのだ。 (鈴木ほか 1993: 14) このことから「ぞっとする笑い」には「緊張緩和」の効果が伴うということが わかる。 ジョークのオチ (punch line) の部分で, 読者を恐怖に陥れておきな がらも, 現実に引き戻すことで, 所詮はフィクションなのだと納得さ せる。 そ の時感じていた恐怖は錯覚なのだと安堵するのである。 上記から, 本稿では「ぞっとする笑い」を次のように定義する。

-138一 龍谷大学論集

(5)

(6 ) ぞっとする笑い 恐怖による緊張状態から解放さ れたときに生じる安堵の笑い 恐怖から安堵への移行によって笑いがもたらさ れるのはなぜなのだろうか。 笑いが快であるとすれば, なぜわざわざ不快な状況に受け手を置くという回り くどいことをする必要があるのだろうか。 たとえばジョークが途中で中断さ れ た場合, 相手は不快な状況のまま放置さ れる危険性もある。 なぜそのような コ ミュニケーション上の危険をおかしてまで笑いを表現する必要があるのか。 そ の答えを探るべく, 次の部分では関連性理論による認知効果の分析を概観し, のちの考察の礎とする。 2. 2. 関連性理論と 3 つの認知効果

関連性理論とは Sper ber & Wilson (1 995) によって展開さ れた発話解釈の 理論である。 この理論では, ひとが発話を解釈する際には, 解釈にかかる処理 労力 (processi ng eff ort) とその結果得られる認知効果 (cognitive eff ect) のバランスがとれているという期待をもっ , という関連性の原則 (principle of relevance) に基づいている。 発話解釈の結果得られる認知 (文脈) 効果 (cognitive [cont ext ualJ eff ects) は「文脈含意 (cont ext ual implicati on), 矛盾 (contra dicti on), 強化 (strengthening)J (内田ほか訳1 999: 1 42) の 3

つに集約さ れる。

(7) a. strengthening an existing assum pti on

b. contradicting an d l ea ding to the elimi nati on of an existing assumptlO n

c. contextual implication. where new inf orm ati on f ollows f rom the com bi nati on of new an d existing assum pti ons but woul d not f oll ow f rom either alone. (C lark 20 13: 10 2) a. 既存の想定を強化すること b. 既存の想定と矛盾することを示し, 破棄につなげること c. 文脈合意, つまり, 新しい想定と既存想定が, いずれか片方だけ ではなく, 両方が組み合わさ ることによって新情報が生じること。 上述の定義 を参考に, 本稿では, 以降, (7a)を想定強化, (7b)を想定破棄, rS4字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(梅田) -

13

9

(6)

-( 7c)を文脈合意と呼ぶ。

関連性理論では理論の中核を成す関連性 (relevance) の形式的特性を認知 (文脈) 効果の点から規定する。

(8) Relevance

An assum pti on is relevant in a cont ext i f an d onl y i f it has som e cont ext ual e ffect i n that cont ext . (Sperber & Wilson 1 995: 1 22)

園連盤

ある想定が文脈中で何らかの文脈効果をもっ とき, そしてそのときに 限りその想定はその文脈中で関連性をもっ 。 (内田ほか訳1 999: 1 9 7) ここからいえるのは, 何かの情報が自分にとって関係があるものとして受け入 れられるのは, その情報から何らかの影響を受けたと実感さ れる場合である。 この「何らかの影響」が(7)にあげた認知効果である。 言い換えれば, 認知効 果という正の影響を受けるからこそ, 自分に関連のあることだと感じることが できるのである。 以下, 具体例を挙げておく。 (9)土砂降りの雨の中, コンビニに駆け込んで傘を買ったAに Bが a . 止みそうにないね。 (想定強化) b. もう雨, あがったよ。 (想定破棄) c . すごい風! (文脈含意) この 3 つの発話は, どれもが認知効果を生じさ せる。 (9a)の場合, Aが傘を 買う根拠となった「これから大雨が降る」という想定が正しいものだと受け入 れている。 (9 b)は「これから大雨が降る」という想定を破棄さ せる。 (9c)で は雨だけではなく風も強まってきたと伝えることで, 新しい情報を伝えている。 このように(9)の発話はどれが発せられでも, 何らかの認知効果が得られるの でAにとっては関連性のあることとして受け取られる。 Sperber & Wilson ( 1995) は「関連性 (relevance)J という用語について, 日常的な意味で使用 さ れる概念の延長として用いる, ということを述べている。 このことから, ひ とがある発話について, 自分自身に関係があると思うのは, 認知効果が得られ るからだということがわかる。

(7)

認知効果は無償で提供されるものではない。 報酬を得るために労働が必要な のと同じく, 効果を得るためには解釈という労力が課される。 その労力の量を 決める条件について内田(2017) は以下のようにまとめている。

( 10) the form in which i n formati on is present e d l ogical an d linguistic com pl exity

the accessi bility o f the cont ext 情報が提示される形式 論理的, 言語的複雑さ コンテクストの呼び出しやすさ (内田2017: 3) これら 3 つの労力と効果のバランスがとれている状態が発話である。 つまり, 関連性とは, 「 自分に関係のあること」であるのと同時に, 「効果とそれに見合 った労力が得られる保証」であるともいえる。 そして, 関連性理論では, こと ばはすべてこの関連性の見込みをもっ と位置付けている。 つまり, ことばは発 せられた時点で, 何らかの効果が得られるという保証をも伝えるということに なる。 これは通常の言語表現のみならず, 笑いを生み出す表現についても当て はまる。 2 .3 . 笑いのもたらす認知効果 ことばによってもたらされる笑いはどのような認知効果をうむのだろうか。 投稿型のジョークサイト]okes4us. comから, いくつか例を見ておく。

( 11) a. W hat do you call a fri en dly school? Hi School!

b. 2 things y ou can l earn in school: Texting without l ooki ng an d t eamwor k on t ests.

c. Boy: Y our st upi d!

Girl: Do you know who 1 am? Boy: No.

Girl: I'm the principals daughter. Boy: Do you know who 1 am? Girl: No.

(8)

-Bo y: Good. ( wa lks awa y)

(]okes4us. com)

a. 居心地の良い[仲良しの]学校を何と呼ぶ ? 高校[ハイ!スクールl] b. 学校で学べる 2 つのこと。 それは手元を見ずにメールを打つこと とテストでカンニングすること。 c. 少年:ばーか! 少女:私が誰だかわかって言ってるの ? 少年:知らない。 少女:お父さんは校長先生なんだからね。 少年:僕が誰だかわかつて言ってるの ? 少女:知らない。 少年:よかった。 (その場を立ち去る)

(l1a)は, í rien dlyのもつ「居心地の良い」と「仲良しの」という意味をかけ あわせている。 まず学校という場所をあらわしているから「居心地の良い」と いう解釈を予測す る。 「居 心地の良い学校を何と 呼 ぶ ? Jと聞かれて, hi schoo l と答えることで, 「高校」という答えが返ってくるが, 実はHi という, 「友達のような」挨拶と schoo l を組み合わせた夕、ジャレにもなっている。 こ のジョークを見た者は, hi と high の同音性に気づき, high schoo lは, 音声 上は hi と schoo lに分解できるという点に気づく。 つまり, 語の構造に関する 新たな視点と知識, つまり, 新たな情報を得ることになる。 これは(7c)の文脈 含意の認知効果である。 (l1b)は学校で学ぶことは手元を見ずにメールを打つこととテストでチーム ワークをすること, つまり, 集団でカンニングすること, という格言めいたジ ョークになっている。 これは「学生は学校でちっとも勉強しない」という既存 の想定があり, 「やっぱりね」とその想定が肯定されることによって笑いが生 じる。 これは想定強化である。 仮に, 「学生はよく勉強する」などといった考 えを持つ者にとっては, 想定破棄, 学生がどのような生活を送っているのか知 らなかった者が読めば文脈合意になるが, ジョークとしての笑いが生じるのは (7a)の想定強化の認知効果が得られる場合だけである。 (llc)からは「校長の娘に偉そうな口をきいた少年はきっと理事長クラスの 有力者の子息に違いない」という想定が生じる。 しかし, 最後の部分で「よか った」といって少年が立ち去っている状況から, 「実は有力者の親戚ではなか

142

龍谷大学論集

(9)

った」と解釈され, 想定が覆される。 これは(7b)の想定破棄にあたる。 このように認知効果の観点から笑いを分析することは可能である。 しかし, いくつか問題点がある。 まず, ある特定のジョークのタイプと認知効果の聞に は何らかのつながりがあるという点である。 (l1b)の例でも述べた通り, ある 表現がジョークとして成り立つためには, どの認知効果を生じさせても良いわ けではなく, 何らかのパタンがあるかもしれない, ということだ。 つまり, あ る種のジョークと解釈によって得られる認知効果の結びつきは決まっていて, それ以外の認知効果と結びついた場合は笑いが起こらない, ということである。 2 点目として挙げられるのは, さらに根本的な問題である。 関連性理論の観 点、は通常の発話解釈にも当てはまる。 そしてジョークにも当てはまる。 では, ジョークとジョーク以外の発話を分けるのは何なのだろうか。 そもそも笑いを もたらす認知効果が笑いをもたらさない認知効果と一緒だとしてしまうと, な ぜ笑いを生じさせるのか, 説明できない。 最後に, 関連性理論のジョークについての分析では, 関連性理論の分析方法 がそのままジョークの分析にも適用できるとしている。 発話解釈の詳細なプロ セスについての対応をまとめてはいるが, 認知効果の観点からジョークを見直 したものはない。 さらに, 2 点目とも重なるが, 笑いをもたらすジョークと, ジョーク以外の発話のプロセスに違いがないということは, 逆に考えれば, 笑 いをもたらす言語表現と笑いをもたらさない言語表現に区別はなし、 つまり, 極端 にいえば, 笑いを生じさせる要素は発話解釈には存在しない, ということ になってしまう。 本稿は, これらの問題を解決するための鍵はジョークのパタンと認知効果の 相関関係, そして, 認知効果と処理労力の結果としての関連性の大小にあると いう立場をとる。 次の部分では1í54字の物語』の笑いを分析することで, 上記 の問題を解決する道をさぐる。 3. 1i54字の物語』シリーズにみる笑いのパタン 3 .1 . 1í54 字の物語』の表現パタン 1í54字の物語』シリーズ (氏田2018a , 2018 b;氏田編 2019) は第 1 作目が 2018 年に発売されて以来, 人気を博すショートショートのシリーズである。 も ともとインスタグラム (Instagram ) の投稿, いわゆる「インスタ小説」だっ た作品が書籍としてまとめられ, 出版されたのがはじめである。 やがて, r54 字の文学賞」なる コンテストが開催されるなど, 「『アナログな文化 (書籍).0 fS4字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑いJの認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

-143

(10)

と 『デジタルな文化 (S NS 他) �が相乗効果を発揮したJ(小野 2 01 9 : 47)こ とが人気のひとつであるとされている。 このシリーズには, 表現形式にいくつ かの特徴がある。 (12 ) 1154字の物語』の特徴 a. 文字数は, 54字ぴったりに収めること (ただし例外もあり) b. 句読点やカギ括弧にも1 マス使うこと。 (その代わり, 通常の作 文では r!Jr ? Jの後は1 マス空けますが, 54字の物語では空 けなくてOK) (氏田2 01 8a: 1 86) 上記のように, 54字の物語は1行あたり 9 文字x 6 行の原 稿用紙に収まる54字 で表現されるという特徴がある。 氏田(2 01 8a) はこの作品を「短 編小説の新 しい形J(氏田201 8a: 1 86) に位置付けている。 多くは, わずか54文字で笑い を誘う, いわば一発ギャクなのだが, すぐに笑いを生じさせるというよりは, 考えてみると「じわりとくる」類の作品群であり, 解放の笑い, つまりユーモ アの性質が強いものが多い。 1154字の物語』はジョーク集というよりはショートショートとして 編まれた 書籍である。 つまり短 編小説を意識している。 この点で, 一発ギャクと呼ばれ るダジャレとは一線を画す。 ダジャレは短さはもちろんであるが, 入 り込んだ 推論を必要としない。 たとえば「ふとんがふっとんだ」というダジャレは, 「布団」と「吹っ飛ぶ」の音の類似性を利用している。 いわば, 偶然の音の一 致を楽しむダジャレである。 しかし, 表現自体を理解するために文脈情報と照

144一 龍谷大学論集

(11)

らし合わせたうえで, 推論にかけ, 結論を導き出すという複雑さは必要ない。 つまり, ダジャレは短さもさることながら, 複雑な推論を要求しない。 しかし, 0'"54字の物語』を理解するにはある程度の推論を要する。 これも「短 編小説」 と呼ばれる所以である。 また, 1r54字の物語』は複数の推論とその結果として生じる複数の認知効果 によって成り立っていることがある。 たとえば想定破棄の認知効果がもたらさ れる場合, まず前半で情報を提示しておき (文脈合意), その後で新たな情報 を提供する (想定強化), そしてその情報を破棄させる (想定破棄) という, 表現の基本構造が見られる。 ( 14) a. rただいま」と言えば「お帰りなさい」と返ってくる新生活が始 まった。 家賃も安いし,

よ主主二本蓑主」主衰えゑ

v)。 (氏田2018a: 13) b. へぇ, 君, 成年なんだ。 偶然だね。 僕もだよ。 君も ?えっ, 君も 君も君たちも!1

豆生三組民責嬢全長己主之乏三友担p

(氏田2018a : 51) c. いいか, 絶対に鬼退治に行こうなんて考えてはいかん。 ヤツは人 聞が勝てるような相手ではない。 わかったか,

接送邸ρ

(氏田2018a: 18 1) [下線引用者] 上記のうち, 下線部は文脈合意を導く部分, 二重下線部は想定強化を, 波下線 部は想定破棄をもたらす部分である。 新たな情報が提示され (文脈合意), そ の情報によりもたらされた想定が強められ (想定強化), 最後の波線部に至っ て, 一気に覆す (想定破棄) ことで, 読者に「ぞっとする笑い」を生じさせる。 たとえば ( 14a)は「おかえり」と聞こえるのに一人暮らし, ( 14 b)は偶然の一 致と思わせておいて, 同学 年だから当たり前だと納得させる。 または4c)は最 後の桃次郎で, 実は桃太郎の弟に向かっているセリフであり, 桃太郎は鬼に負 けてしまった, ということがわかる。 ( 14)に共通しているのはどの例もすっき りしない後味を残すということだ。 このような複数の解釈による認知効果について, 内田(2011) は小説を分析 したうえで, 「ひねり」という用語を導入することで説明している。 ( 15) 聞き手あるいは読者の注意をある一定方向に向 けさせておいて次の rS4字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

一 145一

(12)

発話や話の展開を予想させ, 結果的にその予想に反する発話をした り筋を展開させることによって劇的効果をねらうことがある。 この 種の現象をひとまとめにして表現する適切な用語が見あたらないの で, ……とりあえず「ひねり」と呼んでおく。 (内田2011: 226) そしてさらに「ひねり」を以下に示すように 2つに分類している。 ( 16) a. 局所的ひねり ある場面における発話単位でその場その場で局所的に見いだされ る劇的効果 b. 大局的ひねり ストーリー全体の展開, 結末にかかわる大局的な劇的効果 (参考 内田2011: 226- 27) 「ひねり」という概念を導入することで, 内田(2011) は「どんでん返し」に ついてもまとめている。 内田(2011) によると, 「どんでん返し」とは, 読者 にとって思い浮かべやすい想定を「見せか砂」として使い, 同時に思い浮かべ にくい想定を「伏線」としてひそませておき, 後者をオチに持ってくるという パタンである (内田20日 : 231)。 この「ひねり」の構造は1i' 54字の物語』にももちろん当てはまる。 部分部分 の表現から得られる認知効果の移り変わりは局所的ひねりであり, 表現全体を 解釈し終わった時点で得られる認知効果は大局的ひねりであると考えることが できる。 また, 先述の通り, 1i" 54字の物語』シリーズのテクストは表現全体と しては緊張緩和の機能, つまり, 想定破棄の効果をもっ 。 (5)の引用からわか る通り, ジョークを解釈した後, 読者は現実世界に引き戻される。 フィクシヨ ンであるということがわかり, 安堵する。 そこで笑いの認知効果があらわれる。 これが大局的ひねりである。 さらに 1i' 54字の物語』シリーズは, 書きことばによる表現であるという点も 重要である。 会話のやりとりにおいて口頭で発せられるという音声的側面から は表現できない, 視覚的な刺激を利用した独特の例も見られる。

-146一 龍谷大学論集

(13)

(18) (19) (氏田 2018a: 137) ( 17)は原 稿用紙を将棋の盤に見立て, 「王JI歩JI金」の駒が, 将棋の盤上で 原 稿用紙に書かれているのと同じ位置にあれば, 勝てる, という意味である。 ( 18)は島根と鳥取の漢字を間違て「鳥根 (とりね)Jと「島取 (しまとり)J と表現している。 また( 19)では, 文字が中断されることにより, 何かが起こっ たことを想起させ, (20)では末尾を鏡文字で表現することで, 鏡の中に吸い込 まれたことを暗示している。 このような視覚メディアの多様な可能性を利用し ているところも, 意外性を増幅させ, 結果, 認知効果を強める働きがある。 こ れも, U'54字の物語』シリーズが人気を博す理由のひとつであると考えられる。 3. 2 . ジョークの表現ノTタン ジョークの表現形式にはいくつかのパタンが見られる。 以下, 英語のジョー r54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

-147一

(14)

クを例に主要なタイプを 4 つに分類して示す。 (21) a . なぞなぞ型 (riddle)

Wha t's the di fference be tween a boring teacher an d a bo ring book?

Y ou can shu t the book up .

( 退屈でうんざりする先生と, 退屈でうんざりする本の違いはな tこカ冶?

退屈でうんざりする本なら, 閉じることができる。 )

( 丸山2002: 174) c . 対話型 ( Q & A)

Blake: Do you think your son will forget a ll he learned a t college?

Nevil: 1 hope so . He cer tainly can 't make a living by chasing gir ls .

( ,あなたのところの息子さん, 大学で学んだことを全部忘 れてしまうと思うかね」

「そうであってほしいよ。 女の子の尻ばかり 追っかけてい ては生活できないからねJ) ( 丸山2002: 192) b. 格言型 (one -liner , wi tticis m)

A co llege pro fessor is one who ta lks in o ther people 's sleep . (大学の教授とは, 他の人が眠っているときに話をする人のこと

である。 ) ( 丸山2002: 189)

d. 陳述型 (s tor y te lling)

He 's go t no t on ly a B.A. an d an M.A. bu t a lso a Ph.D. The on l y thing he doesn 't have is a job.

( 彼は, 学士号, 修士号だけでなく, 博士号ももっている。 唯一 もっていないものは仕事だけだ。 ) ( 丸山2002: 19 2) (21a)には例に示したよ うな, 初発発話の話者 ( broacher) とその応答者 (respon den t) によってなされる会話のほか, 自己完結的に, 「質問+応答」 の形を述べる形式が当てはまる。 (21b)は(21a)のなぞなぞ型以外の会話によ ってジョークが表現されるパタンである。 (21c)はことわざのパロディや定義 一

148

龍谷大学論集

(15)

を提示するタイプである。 また(21d)は物語の形で述べられたジョークのこと で, 後述するように, 本稿で扱うW54 字の物語』シリーズは多くがこの形式で 書かれている。 上記の 4 つは区別が困難な場合もある。 たとえば, 陳述型として物語を述べ る中で, 登場人物どうしが対話をすることでジョークが生まれる場合もある。 また, なぞなぞ型は広い意味では対話型に入る。 しかし, なぞなぞ型や格言型 はジョークにおいてかなり定型化されたパタンであるため, ここでは区別する。 W54 字の物語』シリーズを(21)に示した 4 つの表現パタンと, 先述の認知効 果のパタンから分類したものが表 1 である。 表1 r54字の物語』シリーズの表現パタンと認知効果 文脈合意 想定破棄 想定強化 合計 なぞなぞ型 。 。 。 。 対 話 型 4 10 6 20 格 冨 型 。 。 。 。 陳 述 型 80 131 39 250 合 計 84 141 45 270 表 1 の分類では, なぞなぞ型と格言型の表現は見られない。 そのかわり陳述型, わずかではあるが対話型のパタンがあることがわかる。 ショートショート, 短 編小説, とうたっていることからも自明ではあるが, このシリーズの表現パタ ンの特徴であるということができる。 また, 表 1 より, 想定破棄が多く用いられていることがわかる。 つまり, 意 外性を与えることで笑いをもたらすパタンが多い。 それに対して, あらかじめ 与えられた想定を強化したり, 新たな文脈を与える, という例は想定破棄ほど 見られない。 これは「ぞっとする笑い」の特徴のひとつといえるのかもしれな し)0 たとえば, 日本人についてのエスニック・ジョーク (e thnic joke) を扱っ たセイン (2 014) とは対照 的である。 r54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

-149

(16)

表2 セイン (2014) の日本人ジョークにみる表現パタンと認知効果 文脈合意 想定破棄 想定強化 合計 なぞなぞ型 。 。 8 8 対 話 型 。 。 7 7 格 言 型 。 。 。 。 陳 述 型 。 。 61 61 合計 。 。 76 76 上記はセイン (2014) で紹介されている日本人ジョークを分類したものである。 コラム欄等で紹介されている用例は除き, 通し番号が振られている主要な例を 対象とした。 セイン (2014) の場合は想定強化が用いられている場合が圧倒的 に多い。 また, なぞなぞ形式を利用していたり, 対話を利用していたりするこ ともある。 ちなみに, 会話が用いられている場合でもト書きで状況設定がなさ れていたり, 文章の中に組み込まれている場合は陳述型に分類しであるため, 実際には会話のやりとりを扱ったものはさらに多くなる。 エスニツク・ジョー クは, ある特定の民族に対するステレオタイプ (st ereot ype , 固定観念) を利 用し, 笑いを生じさせるという特徴がある。 つまり, ステレオタイプという偏 見 (想定) が強化されることで成り立つということが, 表 2 から確認できる。 このように, 表 1 と表 2 の差を見る限りにおいては, ジョークのジャンルと認 知効果の聞に相関関係が存在する可能性がある。 先に述べたように, 「ぞっとする笑い」には緊張を緩和する効果がある。 こ の緊張を緩和する効果についても, 3 つの認知効果の観点から説明することが できる。 まず, 文脈含意は新たな情報が得られることによる効果である。 だと すれば, 新たな情報を導き出すことによる新たな視点の獲得を意味する。 わか らなかった謎が解ける, 答えがわかつてはじめて, そうなのか, と安心できる, という効果である。 これに対して想定破棄はどうだろうか。 緊張状態を生じさせた何らかの想定 が誤りであったとして破棄することは, すなわち, 緊張していたこと自体が誤 りであり, 心配する必要はないと解釈できる可能性がある。 この点において, 想定破棄は緊張の緩和をうむ。 また, 想定強化も, 緊張状態の緩和を助げる。 ある想定が正しし また, 他 者も同様に考えていたということを知ることによる自己肯定感の強化, 偏見だ と思っていたことが誰もが思っていたことだ, だから大丈夫だとわかる安堵感

150ー 龍谷大学論集

(17)

を生む可能性がある。 このように考えると, ことばによる コミュ ニケーション で得られる 3 つの認知効果は, すべてが「ぞっとする笑い」の緊張緩和効果を 説明する際にも利用できる可能性がある。 このように, 「ぞっとする笑しりはすべての認知効果を生じさせる可能性が ある。 にもかかわらず, 表 1 にあるような, 想定破棄が他の 2 つの認知効果よ りも多いということは何をあらわしているのだろうか。 (6 )ではぞっとする笑 いを「恐怖による緊張状態から解放されたときに生じる安堵の笑い」と定義し た。 この緊張状態からの解放は既存想定からの解放であるともいえる。 つまり, 負の既存想定を破棄することによる正の認知効果への転換である。 (6)の定義 と照 らし合わせれば, 想定破棄が多いことは明らかである。 しかし, 文脈含意の例も, 無視できるほどに少なくはない。 また, 文脈合意 の場合はいくつかの傾向がみられる。 たとえば, 負の想定, つまり, 不安を生 じさせるような想定を生み出す, ということがあげられる。 この負の想定こそ が, 「ぞっとする笑い」に必要な要素である。 つまり, 先の例と違うのは表現 全体を解釈し終わってはじめて負の想定が生じるということである。 次節では, 解釈過程のパタンをいくつかのレベルにわけで考えることにする。 3. 3 . ,.ぞっとする笑しミ」にみる認知効果のパタン 「ぞっとする笑い」の解釈過程において, どの段階で「ぞっ」とするのか, その現れ方によって得られる認知効果も変わってくる。 また, 解釈過程におい て得られる効果と, 解釈後に読み手が現実世界に引き戻される際の効果は別の レベルで生じるととらえることもできる。 このような認知効果の重層性を図示 したのが図 1 である。 解釈途中で段階的に 得られる認知効果 ジャンルとしての認知効果 図1 ジョークに見られる入れ子型の認知効果 上記はある程度一般化されたジョークのパタンである。 一番内側はジョーク F54字の物語』シリ}ズにみる「そ'っとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

ー 151

(18)

-解釈の際に段階的に得られる認知効果, そして表現全体の解釈が終わり, オチ がわかった後で得られる認知効果がその外側, 一番外側はジョークの種類, た とえば「エスニック・ジョーク」や「ノック・ノック・ジョーク」などといっ たパタンによる認知効果である。 図 1の入れ子構造を利用して, 「ぞっとする笑い」が生み出す 3 つの認知効 果を具体例とともに確認しておく。 3 .3 . 1 . 想定破棄のパタン 想定破棄のパタンでは, 表現内での解釈が決定されたのち, 最後に想定が破 棄される。 緊張緩和の効果がもっとも現れやすいタイプの認知効果をもっ とい える。

lE曹司I

:t!!�liJJi.

I

(22) a . 刃物で切られて, パラパラにされて, 溶かされて, 押しつぶされ て, また切られて,

よ三主玄麦主主お組主史は玄

。 (氏田 20 18b: 9 1) b. rねえ, 今誰かの声が聞こえなかった ? 怖い!この部屋何かいる よよ」うん, 聞こえてるよ。

主主主主主主主民護主企2

(氏田 20 18b: 47) c . 無邪気な笑顔, パッチリした二重, 白い肌。 君の写真を見せると

呈ど童JL

0

3主主回む乏旦豆ゑ虫ム生虫ムュ:f

。 (氏田編 2019 : 111) [下線引用者] 上記の下線部は( 14)と同様に下線部は文脈含意を導く部分, 二重下線部は想定 強化を, 波下線部は想定破棄をもたらす部分をそれぞれ意味している。 「ぞっとする笑い」のジョークの場合, 新情報を提供することで状況設定を 行う。 そのため, 3 つのタイプすべてにおいて文脈含意が先行する。 違いが生 じるのは, その後の認知効果のパタンである。 (22a)の場合は, 殺人事件のよ

-152ー 龍谷大学論集

(19)

うに思わせておき, さらにその想定を強化した後で, 実は紙だ、ったという想定 破棄を行っている。 (22b)や(22c)も最後の波下線部で想定破棄の認知効果を 与えている。 (22)の特徴は, 一度想定を強めておいて, その想定を一気に覆す というところにある。 落差をつけるためには, 既存の想定をあらかじめ強めて おく必要があるからだ。 3.3. 2. 想定強化のパタン 想定強化のパタンは受け手に与えられた想定をさらに強化することで成り立 っている。

lE司零時回

図3 想定強化 の認知効果 (23) a. ネットで注文したマッサージチェアが届いたが, すぐに返品する ことにした。 腰掛けていたあの男も付属品だったなんて。 (氏田2018 b: 105) b. ホトトギスから武将に抗議文が届いた。 「長時間ずっと監視され

ているI I過度な期待をされているI I殺されかけたl

(氏田2018 b: 35) c. 目を覚ますとまだ夢の中で, そこから自を覚ますとまた夢の中で, やっとの思いで目を覚ましたら, まだ夢の中だった。 (氏田2018 b: 33) [下線引用者] 他の認知効果とは違い, 想定強化は想定の与えられ方にいくつかの可能性があ る。 まず, 受け手の記憶や常識などといった, 言語外の想定を用いるパタンで ある。 これは(23a)と(23b)によって示されている。 そしてもうひとつは, ジ ョークの先行文脈によって作り出された想定である。 これは(23c)にあたる。 いずれにせよ, 解釈する時点、で受け手がもっている情報を肯定しさらに強める という意味では想定強化の認知効果が得られる。 r54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

-153

(20)

3 .3 . 3 . 文脈合意のパタン 文脈合意が面白さ を発揮するのは, 言語表現を解釈する場合ではなく, 解釈 の結果導き出さ れた結論の内容の恐ろしさ と, 現実生活の聞のギャップが知覚 さ れたときである。

lE官キ困|

(24) a. 私は訪問販売の営業マン。 今日は防犯カメラがよく売れる。 昨晩 寝る間も惜しんで一軒一軒訪問した成果が出たようだ。 (氏田 2018 b: 1 5) b. 遠い昔の火星に文明があったことを証明したのは, 考古学者でも 生物学者でもなく, 火星に降り立った霊能力者だった。 (氏田 2018 b: 117) c. r鏡と鏡を向かい合わせると悪魔が現れるよ」ってリサは言った けど, 何もいないじゃん。 リサの嘘つき。 殺してやる。 (氏田編 2019 : 51) [下線引用者] どれも解釈として最終的に(24a) r防犯カメラで撮影するべき不審者は話し手 自身であるJ. (24 b) r火星には幽霊がたくさ んいるJ, (24c) r合わせ鏡で現 れた悪魔は話し手自身である」といった文脈合意を生み出すことになる。 ここ で呼び出さ れる文脈合意が恐ろしいものであればあるほど, 笑いの度合いは大 きくなる。 なぜなら, 解釈が確定した直後, 「これはジョークなのだ」と解釈 をし直す際に, 導き出さ れた恐ろしい想定と比較したうえでの現実生活の平穏 さ を際立たせることができるからである。 これら 3 つのパタンを見て気づくことは, 図 2�4 に示したように, それぞ れの解釈過程における認知効果の種類に違いがあるということだ。 認知効果の 種類が, 最後にもたらす笑いの大きさに関係するのだと仮定すれば, これはう なずける。 以下はその適例である。

154

龍谷大学論集

(21)

(25) 身を護るために絶対に壊れない部屋をつくった。 扉も穴もないので 誰も侵入できない。 さあどこからでもかかつてこい。 (氏田2018b: 115) (25)は(26)のような 3 つの解釈の可能性がある。 (26) a. 想定破棄:文脈含意今想定強化今想定破棄 「身を護るために部屋をつくった」今「出入口もないほど安全 だJ=争「出口がないので自分も出られないから安全ではない」 b. 想定強化:文脈合意=争想定強化今想定強化 「身を護るために部屋をつくった」今「出入口もないほど安全 だ」今「絶対に安全だ、」 C. 文脈含意:文脈合意今文脈合意=争文脈含意 「身を護るために部屋をつくった」今「出入口もないほど安全 だ」今「敵に立ち向かおう」 3 つのパタンのうち, 笑いが生じるのは, 表現全体が想定破棄の機能を持つ (26 a) の場合のみである。 つまり 3 種類の認知効果が組み合わさっている場 合である。 (26 b) は 2 種類, (26c) は 1 種類の認知効果が発揮される。 認知 効果の種類が多ければ多いほど, 解釈にかかる労力が増す。 その都度, 解釈を し直さなければならないからである。 それに比べて同様の認知効果が現れる場 合は, 同じ解釈のパタンを適応するだけで構わないので, 労力があまりかから ない。 しかし, 労力はかければかけるほど, 認知効果として報われるという側 面がある。 それによって「笑い」も強まることになる。 これまでの考察から, 以下のことがいえる。 (27) a . ジョークがもたらす認知効果はジョークのジャンルによってある 程度の傾向がある b. ジョークは入れ子構造を成す複数の認知効果によって成り立つ c. ジョークによる笑いの大きさは, 解釈の際に得られる認知効果の 種類に比例する 先に述べたように, 解釈段階では3 つの認知効果が順に起こり, 読後に一気に 現実に引き戻される際にさらに既存想定の破棄が行われる。 しかし, この後も r54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

-155

(22)

まだ, 恐怖による余韻は続き, その恐怖による余韻と安堵の笑いが「ぞっとす る笑い」の効果を生みだしていると考えられる。 つまり, 認知効果はlつでは なく, 解釈課程においてその都度生じる。 そして, その積み重ねとして最終的 な発話全体の解釈が行われるという具合に入れ子型の構造を持っていると考え られるのである。 従来のジョーク研究においては, ジョーク全体が文脈の中でどう解釈される かについては扱ってきたが, 解釈プロセスの中で, ジョークを構成する個々の 表現の解釈によって, その都度, 動的に生じる効果についてはあまり言及され てこなかった。 しかし, 本稿で試みたような認知効果からのアプローチによっ て, 笑い, ひいては発話解釈全体を動的に捉えることが可能になると提案した しミ。 4. 動的要素としての認知効果 4.1 恐怖と笑いの漸増効果 「ぞっとする笑い」において, より高いレベル, つまり入れ子構造の外側に 向かつて解釈が行われても, 元の効果がまったく消えるわげではない。 安堵に とって代わられた恐怖は弱く持続している。 恐怖 安堵 解釈の確定 緊張緩和 笑い 「怖い! J rなんだ作り話ーかJ rあはは」 図5 rぞっとする笑い」にみる恐怖と安堵 図の面積は認知効果の大きさをさす。 右に行くにしたがって面積が増している のは, 複数の認知効果が段階的に付け加わるととによって, ジョーク全体の認 知効果が高まっているからである。 グラデーションの色の濃さは, それぞれの 156 龍谷大学論集

(23)

感覚の強弱を表している。 たとえば上段の恐怖では, 解釈によって一時的にぞ っとする感覚が与えられ, その後, 現実世界に引き戻される際に, 安堵が訪れ る。 下段の安堵では, 比較的平静な状態からジョークを聞くことで不安にさい なまれ, 最後には解放される。 これが本稿で述べてきた, 「ぞっとする笑しり の緊張緩和効果である。 内田 ( 2011 ) でいう, 「ひねり」における「どんでん返し」の効果において は, 弱い想定と強い想定が入れ替わることによって劇的効果を生んでいた。 こ れは「恐怖」と「安堵」の感覚についても当てはまる可能性がある。 グラデー ションで示したことからわかる通り, 互いの感覚は消え失せるのではなく, 弱 く残っている。 これが余韻であり, 「あとをひく余韻」や「後味」と形容され る感覚となる。 もちろん, 笑いを生み出す要素は, かならずしも受け手がはっきりと認識で きるとは限らない。 「ただ何となくわかるJr何かが起こりそうだ、」という期待 が, 笑いを生み出す要因になることもある。 つまり, 「これはジョークだ」と いうことが前提となり, コミュ ニケーションが行われることもある)。 このこと から, 図1 はさらに図 5 のように表現できる。

11

âf�ØJ�!1

1キ[宝百キ

|

」一一一一一ー 表現全体から得られる認知効果 . ジャンルとしての認知効果 ジョークとしての認知効果 図5 rジョーク」というコミュニケーションの認知効果 認知効果の種類が増せば増すほど, 笑いの効果が大きくなるというのは( 22c) で述べた通りである。 この捉え方が正しいのであれば, ジョークという コミュ ニケーションであるということ自体が, 日々のやりとりにおいて, 多大な認知 効果を発揮するということがうかがえる。 図 5 に示した外側の「ジョークとしての認知効果」の存在を示す根拠として, パタン化されたジョークが導く笑いがあげられる。 ジョークのパタンは時とし てオチの指標となる。 たとえば1 行ジョーク (o ne-l i ne joke) と呼ばれるジョ ークはその適例である。 f54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

ー 157

(24)

-(2 8) 1 asked the bartend er f or som ething cold and f illed w ith rurn, so he recomm end ed his wif e. (Stark et a l. 2 014 : 1) バーテンダーに, 冷たくてラム がたっぷり入ったものを注文したら,

彼の妻をすすめられた。

ここで, 前置きとして示され, 解釈の際に対比させられる要素 (connect or) は “ som ething cold and f illed with rurn" という部分, オチ (d isjunct or) に当たるのは末尾の “ his wif e" である。 Stark et a l. (2 014) によるとオチ は, 「ほぽいつもジョークの末尾にくる ( “ a lm ost a lwa ys at the end of the joke" ) J (Star k et a l. 2 014) という。 つまり, 1行ジョークは, 末尾が面白 いということが当然視されているので, 「オチとして解釈するべきだ」という 前提をもって解釈されるということになる。 たとえば, 実際に妻が冷たくて, 酒浸りだということが想像できない, 平穏な人生を送っている人物であったと しても, ここが笑うべきところ, ここがオチであるということは了解している。 以下のようなエスニック・ジョークについても同じことがいえる。 なお, 原文 では 1 文ごとに改 行が施されているが, ここでは改 行せずに示す。

(29) A globa l summ it was he ld with representat ives f rom around the wor ld . The Am erican stat ed his opinion and ca lled ever yone a t errorist who d isagreed with him. The F rench stated his opinion and ca lled ever yone unciviliz ed who d isagreed w ith him. The R ussians stat ed his opinion and ca lled ever yone a capita list who d isagreed w ith him. The ] apanese stated his opinion and agreed

w ith ever yone who d isagreed with him.

国際的なサミットが聞かれ, 世界各国から参加者が集まった。 アメ リカ人の参加者は意見を述べると, 自分に反対する者たちをテロリ ストと呼んだ。 フランス人の参加者は意見を述べると, 自分に反対 する者たちを野 蛮だと言った。 ロシア人の参加者は意見を述べると, 自分に反対する者たちを資本主義者と呼んだ。 日本人の参加者は意 見を述べると, 自分に反対する者たちに同意した。 (セイン 2 01 4 : 131-32 ) いくつかの国を列挙するタイプのエスニック・ジョークは, 最後にあげられる

-158

龍谷大学論集

(25)

国がオチとなっている。 つまり, このジョークを聞くものはすべて「ここが笑 うところである」という了解がなされているのである。 たとえそれが, 未知の 新情報であったとしても, ジョークという文脈で, ジョークのオチという位置 づけがなされているから, 聞いた者は笑わねばならない。 少なくとも, コミュ ニケーションを円滑にすすめるには, 笑う必要がある。 しかし, このようにして生じる笑いは, 当然, 「作り笑い」や「愛想笑い」 になる。 つまり, 認知効果としては小さい。 また, エスニツク・ジョークにつ いても, 想定の強化が行われるが, 既存想定を確認する, あらかじめ得ていた 情報の裏付けを取る, といった点では, 自然な流れの結果もたらされる認知効 果である。 想定破棄はそれまでの解釈を覆す, 大きな変化をもたらすが, 解釈 には労力がかかる。 これらのことを考え合わせると, 表現構造がパタン化され たジョークとして定着しやすいのは, 期待を満たすという意味では想定強化, もっといえば予定調和がもたらされる場合である。 この傾向は, エスニックジョークに顕著にみられる。 エスニック・ジョーク では, 特定の民族に対する偏見や固定観念が利用される。 つまり, ステレオタ イプに基づく想定が元になっている。 このことから, あらかじめもっていたス テレオタイプが肯定され, 強化されるので, パターン化しやすい。 想定強化の場合, 偏見が肯定されることでさらに強化されるという道筋をた どる。 このようにして通時的に認知効果が漸増されると, 定型表現として定着 しやすくなるといえるだろう。 一時的な解釈から得られる認知効果のみならず, パターン化が起こる理由の一部も, 認知効果から捉えることができる可能性が ある。 4 . 2 . 笑いの大小と認知効果 これまで笑いについて見てきたが, 一言で「笑い」といってもその度合いは 大小さまざまである。 では, 面白い笑いと面白くない笑いの差はどこにあるの だろうか。 先に述べたような認知効果の総和がかかわっていることは否めない。 また, 感情の振れ幅とも関係があるといえるのかもしれない。 つまり「恐怖」 と「安堵」の聞の振れ幅が大きければ大きいほど, つまり「落差」があればあ るほど, 笑いを生み出す。 たとえば想定破棄のパタンにおいては想定が破棄さ れる前にわざわざ強化されていた。 これは破棄される前後の落差を際立たせる ためだと考えられる。 このことは, 先に取り上げた内田(2011) にある「ひねり」が, 発話の伝え r54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田) ー159 一

(26)

る非明示的想定である「推意」の強弱, つまり, 想定の思い浮かべやすさ に言 及している部分からもうかがえる。 (30)推意の確定度が高ければ高いほど陳腐な「ひねり」となり, 弱い推 意をたくさ ん生み出せば生み出すほど創造的な「ひねり」と言うこ とができょう。 (内田 2011 : 231 ) ここで思い浮かべにくい想定である弱い想定 (弱い推意)であればあるほど効 果は大きいとしている。 つまり, 意外であればあるほど, 認知効果が大きい。 ここでいう「ひねり」は認知効果に置き換えれば想定破棄であるといえる。 先に述べた通り, 関連性理論においては, すべての発話は認知効果と処理労 力のバランスが保証さ れている, という考えに基づいている。 少ない労力で理 解できれば, それだけ楽である。 しかし, それなりの認知効果しか期待できな い。 いっぽうで労力をかければ, 効果も高まる。 このように考えれば, 多くの 認知効果を持ち, その都度, 解釈のやり直しを要求するジョークのパタンが用 いられやすいということが裏付けられる。 もちろん, 笑いについては諸説ある。 本稿では「ぞっとする笑い」に注目し たため, 緊張緩和効果にのみ注目して考察してきたが (2)で示したように, さ まざまな笑いがあることも否めない。 しかし, ジョークによる笑いは「人に とっての笑いとは何か」を考える上でとても重要な位置づけにある。 なぜなら, ジョークは, 動物的・本能的な身体的反応としての笑いではなく, 何らかの目 的のために「故意に作り出さ れた笑い」であるからだ。 その故意に作り出さ れ た笑いについて考察することで, 笑いとはなにか, なぜ笑わせる必要があるの かなど, ひとのコミュ ニケーションに関する多くの手掛かりを得ることができ る。 4 .3 . r笑い」とカタルシス 「ぞっとする笑い」がこれほどもてはやさ れるのは, 関連性理論からいえば, 高い認知効果が得られるからである。 そしてそれに伴い, 高い関連性を有する からである。 通常の言語表現で得られないような強い認知効果を与えることで 感情を強く揺さ ぶり, 一気に解放することで安堵を与える。 笑いの効果につい ては諸説あるがその中でも本稿では緊張緩和を中心にみてきた。 この緊張緩和 はより大きな視点では精神的浄化, つまりカタルシスといえるのかもしれない。

160

龍谷大学論集

(27)

たとえば文脈合意では知らなかったことを知ることですっきりする, 想定強 化では自分の考えが正しかったのだと不安がなくなり, すっきりする, 想定破 棄では勘違いが訂正されすっきりする。 このように考えれば, 対人関係上の意 味付け以前に, ジョークは精神的健全さを保ち, 維持するための手段といえる。 生存本能に根差した, 自然な行動といえるのかもしれない。 最後に, 本稿で問題提起した, 「笑い」と「笑いではない コミュ ニケーショ ンJ の違いは何か, という疑問に対する本稿での見解をまとめておく。 (31) 認知効果からみた「ぞっとする笑い」が生じる条件 a. 段階的に生じる複数の認知効果により漸増された強い認知効果を もつ b. 正の想定から負の想定, 負の想定から正の想定へ移行する際の落 差を利用する c. 受け手にとって利益となる緊張緩和や精神的浄化の効果をもっ 本稿の考察では以上3 つの要件を満たす場合に「ぞっとする笑い」が生じると いうことを見てきた。 (31a) は, 通常の言語表現では考えられないような入 れ子構造, またその構造故に, 複数の認知効果が組み合わさっていることによ る漸増効果が生じる, とする見方である。 また, (31b) については文脈含意 により与えられた想定がオチの部分で負の想定に代わり, さらに最後に現実に 引き戻される際に正の想定に戻ることを示している。 (31c) については故意に 作り出された恐怖からの緊張緩和の効果である。 このように, 認知効果に注目 することで, 笑いとは何か, という根本的な問題から, 笑いによって何が生ま れるのかという問題までをも包括的に説明できる可能性がある。 5. おわりに:聞くジョークから読むジョークへ ひとはなぜ笑うのか, という問題は長 年研究されてきたテーマである。 動物 行動学, 心理学, 文化人類学, 言語学などさまざまな分野の研究者がその答え をさぐってきた。 本稿では コミュ ニケーションの観点から, 「ひとはなぜ笑う のか」という疑問に近づくために「なぜ笑うことが快なのか」という問題にも 触れてきた。 恐怖と安堵のはざまで受け手を翻弄し, 感情の落差をつけることで笑いをも たらす。 このギャップ, 落差は処理労力を要する。 しかしその分, かえって認 r54字の物語』シリーズにみる「ぞっとする笑い」の認知効果:関連性理論の観点から(塩田)

(28)

-161-知効果を高めることになる。 本稿で触れたW54文字の物語』シリーズには, 視覚的な効果を狙ったジョー クも数多く扱われている。 言語学の分野ではこれまで, 音声的側面が重視さ れ, 文字によって記述さ れるコミュニケーションは, 音声言語の副産物として扱わ れることが多かった。 しかし, S NS の発達により, 文字による コミュニケー ションが音声によるコミュニケーションをしのぐ勢いで発展し続けている。 そ んななかでうまれた1r54文字の物語』は, 笑いの分析だけではなく, 視覚言語 に対する研究の重要性を示す。 この意味でも, 1r54字の物語』シリーズは, 単 なる流行書籍として読み流すには惜しい存在であり, 貴重な言語資料ともなり うるのである。 註 (1 ) Yus (2 019) の関連性理論に関する書誌によれば, Humour の項目に分類され た論文だけでも, その数は176にのぼる。 これに ]okeやそれに関連する論文を 加えると, さらに多くの論考が存在する。 (2 ) このほかにも絞首台のユーモア (galIows humour ) と呼ばれる笑いがある。 絞首台のユーモアは絶望的な状況で発せられる笑いに位置付けられ, 緊張を緩和 し, ストレス対処の効果が期待できる (Christopher 2 015)。 しかし, 通常は, 悲惨な状況から脱するための根本的解決にはならないユーモアでもある。 この種 のユーモアは受け手にとっての 現実世界の悲観的な状況とことばによる笑いとい う楽観的な状況の落差に基づいている。 いっぽうで, 「ぞっとする笑い」は, 現 実生活における悲惨な状況ではなし ことばによって故意に作り出された恐怖と その解消を利用した笑いであるため, 絞首台のユーモアとも異なる。

( 3) Sperber & Wilson (1995) は, 以下のように言及している。

. we believe that there is an important psychological property - a property of mental processes - which the ordinary notion of relevance roughly approximates, and which it is therefore appropriate to calI relevance too, using the term now in a technical sense. (Sperber & Wilson 1995: 119 ) …我々は, 重要な心理学的特性, 即ち, 心的過程の特性が存在し, それは日 常概念としての関連性で概ね言い表せるので, この特性を関連性と呼ぴ, 専門 用語としての意味で使うことは適切であると思っている。 (内田ほか訳 1999 : 14 3) (4 ) ジョークを聞くとき, 「ジョークである」という期待をもって解釈されるとい う側面は, 以下の言及からもうかがえる。

…when someone telIs a joke which begins with “There was an English. man, an lrishman and a Scotsman", for example, this introduction not

-162ー 龍谷大学論集

(29)

only announces that a joke is going to be told and hence produces humor­ ous expectations, but it also immediately evokes the corresponding stereotypes from the listener's encyclopaedic knowledge_ (Galiñanes 2000:

99) 誰かがジョークをいうとき, たとえば, 「イングランド人とアイルランド人と スコットランド人がいた」というように, ジョークを始めるとき, この導入部 分はジョークがこれから話されることを伝え, したがって, 笑いの期待を生み 出すだけではなし すぐに聞き手の百科事典的知識から対応する固定観念を思 い起こさせる。 参考文献

Carston, R. (2002) Thoughおand Utterances:・ The Pragmatics 01 Eゆlicit Com­ munication, Oxford: Blackwell Publishing. [内田聖二・西山佑司・武内道 子・山崎英一・松井智子訳 『思考と発話一明示的伝達の語用論ー』東京:研究

社, 2008_]

Christopher, S. (2015) “An Introduction to Black Humour as a Coping Mech­ anism for Student Paramedics," Journal 01 Paramedic Practice, Vol. 7, No_ 12, pp. 610-15_

Clark, B. (2013) Relevance Theoη, Cambridge: Cambridge UP.

Davis, J. M. (2013) “Humor and its Cultural Context: Introduction and Over­ view" in J. M. Davis and ]. Chey, eds. Humour in Chinese L俳and Culture:・ Resistance and Control in Modern Times, Hong Kong UP, 2013, pp. 1-21.

Dynel, M. (2009) “Beyond a Joke: Types of Conversational Humor," Lan­ guage and Linguistics Compass 3/ 5, pp. 1284-99.

Galiñanes, C. L. (2000) “Relevance Theory, Humour, and the Narrative Structure of Humorous Novéis," Revista Alicantina de Estudios Ingleses 1, pp.95-106.

Hu, S. (2013) “A Relevance Theoretic Analysis of Verbal Humor in The Big Bang Theory," Studies in Literature and Langu噌e, Vol. 7, No. 1, pp.10-14.

Reimann, A. N. (2010) “Intercultural Communication and the Essence of Humour," Journal 01 the Faculty 01 International Studies, Uiおunomiya Unive符ity, Vol. 29. pp. 23-34.

Sperber, D. and D. Wilson (1995) Relevance: Communication and Cognition. 2nd ed., Oxford: Blackwell. [内田聖二・中謹俊明・宗南先・田中圭子訳 『関 連性理論(第 2版):伝達と認知』東京:研究社, 1999.]

Stark, ]., K. Binsted and B. Bergen (2005) “Disjunctor Selection for One-Line J okes," Intelligent Technologies lor Interactive Entertainment. pp. 74-82. Yus, F. (2008) “A Relevance-Theoretic Classification of Jokes," Lodz Papers

(30)

in Progmatics, 4 (1), pp. 131-57.

Yus, F. (2016) Humour and Relevance, Amsterdam: John and Benjamins. Yus, F. (2019)“Relevance Theory Online Bibliographic Service," Fransisco

Yus, < https://personal.ua.es/francisco.yus/rt.html > (Last modified on May 30, 2019, accessed on June 1, 2019).

Wilson, D. and T. Wharton (2009) �最新語用 論入門12章』今井邦彦編, 井門 亮・岡田聡宏・松崎由貴・古牧久典・新井恭子訳, 東京:大修館書底. 氏田雄介(2018a ) �意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 54字の物語』東京: PHP研究所. 氏田雄介(2018b ) �意味がわかるとゾクゾクする超短編小説ゾク編 54字の物語 怪』東京:PHP研究所. 氏田雄介 編 (2019) �みんなでつくる意味がわかるとゾクゾクする超短編小説54 字の物語参』東京:PHP研究所. 内田聖二(2011) �語用論の射程:語から談話・テクストへ』東京:研究社. 内田聖二(2017) r関連性理論とメタファー:より一般的な説明を目指してJ r奈良 大学紀要』第45号, pp.1-15. 織田正吉(1986) r笑いとユーモア』東京:ちくま文庫. 小野くる み(2019) rr54字 の 物 語.!Jシリ ー ズJ rこども の本J 2019年1月号, p. 47. 志水彰・角辻豊・中村真 (1994) r人はなぜ笑うのか:笑いの精神生理学』東京: 講談社プルーパックス. 鈴木進・岩国道子・L・G・パーキンズ (1993) rアメリカン・ユーモア:英語にみ るジョークと文イ匂東京:丸善ライプラリー. セイン, デイピッド (2014) rデイピッド・セインの中学英語で楽しむ世界の日本 人ジョーク』東京:中経出版. 中野清治(2009) r英語ジョーク快読のススメ:ジョークがわかれば, 言葉も文化 もわかる』東京:開拓社. 東森勲(2011) 1"英語ジョークの研究:関連性理論による分析』東京:開拓社. 平田恵津子 (1997) rエスニック・ジョークについての研究:その性質と機能J 1"大 阪外国語大学論集』第18号, pp.251-67. 丸山孝夫(2002) 1"英語ジョークの教科書』東京:大修館書庖. 宮田光雄(1992) 1"キリスト教と笑い』東京:岩波新書. 森垣怜(2014) r関連性理論による日本人に対するエスニツクジョークの分析Jr英 語英米文学研究』第42号, pp. 20-32. キーワード ジョーク ユーモア 笑い ショートショート 関連性理論 認知効果

-164一 龍谷大学論集

参照

関連したドキュメント

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

共通点が多い 2 。そのようなことを考えあわせ ると、リードの因果論は結局、・ヒュームの因果

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

自閉症の人達は、「~かもしれ ない 」という予測を立てて行動 することが難しく、これから起 こる事も予測出来ず 不安で混乱

つまり、p 型の語が p 型の語を修飾するという関係になっている。しかし、p 型の語同士の Merge

  支払の完了していない株式についての配当はその買手にとって非課税とされるべ きである。

これからはしっかりかもうと 思います。かむことは、そこ まで大事じゃないと思って いたけど、毒消し効果があ

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から