コンクリート構造物の品質確保のためのデータベースシステムの
構築とその活用に関する研究
山口大学大学院理工学研究科 環境共生系専攻 教 授 中村 秀明
山口県土木建築部 技術管理課 主 査 仙石 克洋
山口県土木建築部 技術管理課 主 任 西富 一平
山口県土木建築部 道路建設課 主 任 芳西 孝行
山口県土木建築部 技術管理課 主 任 安藤 義樹
1.はじめに
山口県では、平成 19 年度から産官学協働で「コンクリート構造物ひび割れ抑制システム」
(ひび割れ抑制システム)
1)を運用しており、相当数の施工記録データが蓄積されている。施
工記録データは Excel 形式のデータベースで広く公開されているが、将来的にデータが増えて
くると Excel 形式では管理が難しくなる。
そこで、本活動では、リレーショナル形式のデータベースシステムとして再構築を行うとと
もに、データの活用や分析方法について検討を行う。
2.新たなデータベースシステムの構築
2.1 概要
図-1 に示すように、施工記録データは設計や施工、維持管理の各場面で有効に活用する必
要がある。施工記録のデータベース化は手段であり、コンクリートのひび割れを抑制し、品質
を確保するといった目的に沿って活用されなければ意味が無い。目的を明確に持ち、そのため
に必要なデータを収集し、分析、活用していくステップが必要となる。分析された「知見」を
もとに、意志決定やアクションを起こし、目的を達成した時点で「データが活用できた」こと
になる。
図-1 データベースの活用
【設計委託】 山口県 【設計業務】 コンサルタント設計
【発注・監理】 山口県 【施工】 建設会社 【材料】 生コン製造者等施工
ひ び 割 れ 抑 制 対 策 資 料 データ整理 データ分析 ひび割れ 対策協議 データ 参照 【対策資料・ 規準の改訂】 山口県 打設管理記録の提出 既設工事の記録参照 【データ整理・分析・ 情報提供】 山口県建設 技術センター 徳山高専 山口大学 参照 参照 根拠山口県で構築されている施工記録データベースは、単にデータを収集しているだけではなく、
データが分析され、ひび割れ抑制や品質確保に役立つ知見が公表されている
2),3)。さらに入力
する受注者は、温度ひび割れの照査の方法として「既往の施工実績による照査」ができるよう
に、データが広く公開
1)されており、山口県での取り組みを想定し、土木学会のコンクリ-ト
標準示方書 2012 年版[設計編]
4)では、温度ひび割れの照査の方法として既往の施工実績による
照査が盛り込まれた。
平成 27 年 7 月末現在山口県の施工記録データベースには、1,270 件のデータが格納されてい
るが、上記のことを更に進めるためには、山口県の施工記録データベースをさらにブラシュア
ップし、全国レベルのデータの収集が必要である。データの収集では、データ項目が重要であ
るが、データ項目は自治体や事業者等により異なっていることが考えられ、また将来的に追加
や削除などが行われる可能性がある。従来のデータベースでは、これらに柔軟に対応できない。
一般的なリレーショナルデータベースでは、必要なデータ項目をあらかじめ全て準備する必要
があり、想定されていないデータ項目を新たに追加するにはデータベースの設計変更を行う必
要があり、容易には行えない。そこで、本活動では、データ項目のテーブルを柔軟に変更でき
るよう、テーブル作成のためのプログラムを新たに構築した。
2.2 従来のデータベースとの相違
データベースは、データを集めて管理し、データの検索や抽出が容易に行えるシステムであ
る。データベースソフトとしては、Oracle、MySQL、PostgreSQL などが有名であり、データ
ベースは SQL というデータベース言語(問い合わせ言語)によって操作される。しかしなが
ら、SQL によるデータ入力は、初心者にはハードルが高く、操作が厄介である。Microsoft 社
の Excel には、データベース機能があり、データの管理、整理、検索、抽出が行えるだけでは
なく、多角的なデータ解析なども行える。そのため、山口県の施工記録データベースは、Excel
をベースにデータベースが構築されている。Excel とデータベースソフトとの関係は、自宅の
本棚(Excel)と図書館(データベースソフト)をイメージすると良くわかる。自宅の本は多
くても数百冊なので一人で管理できるが、図書館は本が多いため、管理するには専門の司書が
必要で、司書が本の整理や保存、閲覧などの業務を行う。読みたい本があれば、利用者は司書
に問い合わせだけを行えば良いので、非常に楽で、効率的に本を捜したり、返却したりするこ
とができる。現在の山口県の施工記録データベースは、データ件数が 1,270 件程度で、データ
項目も多くないため、専用のデータベースソフトを使うまでもなく、Excel で十分に運用可能
である。しかしながら、将来的にデータが増えてくると Excel では管理が難しくなる。
2.3 リレーショナルデータベースの構築
リレーショナルデータベースでは、各データは 2 次元の表(テーブル)によって表現され、
複数の表のデータを関連付けることで、すべてのデータをひとつの巨大なデータベースとして
活用している。現在では多くのデータベースシステムが、このリレーショナル型を採用してい
る。山口県の施工記録データベースもリレーショナル型となっている。リレーショナルデータ
ベースでは、必要なデータ項目をあらかじめ全て準備する必要があり、想定されていないデー
タ項目を新たに追加するにはデータベースの設計変更を行う必要があり、容易には行えない。
山口県の施工記録は、データ項目が予め全てわかっており、データ項目の追加や削除はないの
で、リレーショナルデータベースでも特に問題は生じないが、他の機関では、それぞれのアプ
リケーションやシステムで情報を管理しており、それぞれ独自にデータ項目を定義しているの
で、他の機関のデータとともに、統一的に扱うには問題が生じる。
本活動では、図-2 に示すように、PHP と MySQL を使って Web 上から操作できるデータベ
ースの構築を行った。データベースのテーブルは、基本情報テーブルとコンクリートテーブル
から構成されており、そのテーブル構造を表-1および表-2 に示す。
図-2 リレーショナルデータベースの構築
表-1 基本情報テーブル
Data base
(MySQL)
リクエスト
Web Server
PHP
Web
Browser
レスポンス
(動的なHTML)
リレーショナルデータベース
項目名 シンボル名 データ型 桁数 主キー Not Null 内容1 リフトID liftID int(6) 6 ○ ○ リフトを識別するための固有の番号
2 整理番号 referenceNumber char(12) 12 ○ PDFファイルの識別名 3 登録日 registrationDate date 8 ○ 登録年月日 4 修正日 modyficationDate date 8 修正年月日 5 公開か非公開か publicID int(1) 1 非公開:0 6 都道府県コード prefectureID int(2) 2 構造物の存在する都道府県 7 市町村コード cityID int(6) 6 市町村コード 8 事務所名 office varchar 50 管理事務所 9 発注者コード organizationID int(8) 8 工事を発注した組織名(事務所名) 10 請負者 contractor varchar 50 受注者名(請負者名) 11 路線・河川・地区等 route varchar 50 路線・河川・地区等 12 工事名 cons_Name varchar 100 工事の名称 13 施工場所 cons_Location varchar 50 施工場所 14 緯度 cons_Latitude float(10,6) 10 緯度(百分率表記) 15 経度 cons_Longitude float(10,6) 10 経度(百分率表記) 16 構造物名1 structure_Name1 varchar 50 構造物名(場所) 17 構造物名2 structure_Name2 varchar 50 構造物名(構造物) 18 構造形式 structure_Form varchar 20 構造物の形式 19 構造物種類 structure_Type varchar 20 構造物の種類 20 打込み部位 structure_Part varchar 20 打込み部位 21 打込み時期 placingMonth int(2) 2 打込み時期(月) 22 工期(開始) cons_Start date 8 工事の開始日 23 工期(終了) cons_End date 8 工事の終了日 24 リフト高 lift_Height float(7,3) 7 リフト高さ 25 厚さ structure_Height float(7,3) 7 厚さ(m) 26 長さ(幅) structure_Width float(7,3) 7 長さ(m) 27 実際のリフト高 lift_HeightReal float(7,3) 7 実際のリフト高さ 28 誘発目地間隔 jointInterval float(3,1) 3 誘発目地の間隔(m) 29 補強材料 reinforceBarType varchar 20 補強鉄筋のタイプ 30 鉄筋比(実施時) steelRatio float(4,2) 4 実施時の鉄筋比 31 鉄筋比(発注時) steelRatio0 float(4,2) 4 発注時の鉄筋比 32 最大ひび割れ幅 maxCrackWidth float(4,2) 4 最大ひび割れ幅(mm) 33 打継間隔 placingInterval float(5,2) 5 打ち継ぎ間隔(日) 34 打設日 placingDate date 8 打設日 35 天気 wether varchar 20 天気 36 打設開始時間 placingStart time 6 打設開始時間 37 打設終了時間 placingEnd time 6 打設終了時間 38 打設量 amount int(4) 4 打設量
表-1 中の赤い網掛けは、現在の施工記録データベース中のデータ項目には存在しない項目
である。表中の 6,7,9 の項目は将来的に他の機関のデータを扱う際に必要となる項目である。
また、14,15 の項目は構造物の位置を表す項目で地理情報システムとの連携や位置によるデー
タ参照の際に必要となる項目である。また、23 の後期(終了)は、現在の施工記録データベ
ースでは工期(開始)と同じ項目にテキストデータとして格納されているが、それを日付デー
タとして扱う場合に分離したものである。
表-2 コンクリート情報テーブル
項目名 シンボル名 データ型 桁数 主キー 必須 内容1 リフトID liftID int(6) 6 ○ ○ リフトを識別するための固有の番号
2 呼び強度 strength int(2) 2 呼び強度(N/mm2) 3 スランプ slump float(3,1) 3 スランプ(cm) 4 骨材最大寸法 maxAggregate int(2) 2 骨材の最大寸法(mm) 5 セメント種類 cementType varchar 20 セメントの種類 6 水セメント比 wc int(2) 2 水セメント比(%) 7 単位セメント量 unitCement int(3) 3 単位セメント量 8 混和剤 chemicalAdmixture varchar 20 混和剤の種類 9 混和材 mineralAdmixture varchar 20 混和材の種類 10 補強材料 reinforcingMaterial varchar 20 補強材の種類 11 生コン工場 plant varchar 30 生コン工場 12 セメント会社 cementCompany varchar 30 セメント製造会社名 13 スランプ許容値 limitSlump varchar 20 スランプの許容値(cm) 14 空気量許容値 limitAirContent varchar 20 空気量の許容値(%) 15 塩化物総量許容値 limitChloride varchar 20 塩化物総量の許容値(kg/m3) 16 スランプ slump000 float(3,1) 3 打込み開始時のスランプ(cm) 17 空気量 airContent000 float(3,1) 3 打込み開始時の空気量(%) 18 コンクリート温度 concreteTemp000 float(4,1) 4 打込み開始時のコンクリート温度(℃) 19 打込み時外気温 ambientTemp000 float(4,1) 4 打込み開始時の外気温(℃) 20 塩化物総量 chloride000 float(5,3) 5 打込み開始時の塩化物総量(kg/m3) 21 7日強度 strength07000 float(4,1) 4 打込み開始時の7日強度(N/mm2) 22 28日強度 strength28000 float(4,1) 4 打込み開始時の28日強度(N/mm2) 23 スランプ slump150 float(3,1) 3 150m3打込み時または午後のスランプ(cm) 24 空気量 airContent150 float(3,1) 3 150m3打込み時または午後の空気量(%) 25 コンクリート温度 concreteTemp150 float(4,1) 4 150m3打込み時または午後のコンクリート温度(℃) 26 打込み時外気温 ambientTemp150 float(4,1) 4 150m3打込み時または午後の外気温(℃) 27 塩化物総量 chloride150 float(5,3) 5 150m3打込み時または午後の塩化物総量(kg/m3) 28 7日強度 strength07150 float(4,1) 4 150m3打込み時または午後の7日強度(N/mm2) 29 28日強度 strength28150 float(4,1) 4 150m3打込み時または午後の28日強度(N/mm2) 30 スランプ slump300 float(3,1) 3 300m3打込み時または午後のスランプ(cm) 31 空気量 airContent300 float(3,1) 3 300m3打込み時または午後の空気量(%) 32 コンクリート温度 concreteTemp300 float(4,1) 4 300m3打込み時または午後のコンクリート温度(℃) 33 打込み時外気温 ambientTemp300 float(4,1) 4 300m3打込み時または午後の外気温(℃) 34 塩化物総量 chloride300 float(5,3) 5 300m3打込み時または午後の塩化物総量(kg/m3) 35 7日強度 strength07300 float(4,1) 4 300m3打込み時または午後の7日強度(N/mm2) 36 28日強度 strength28300 float(4,1) 4 300m3打込み時または午後の28日強度(N/mm2) 37 運搬時間 transportTime int(3) 3 現場までの運搬時間(分) 38 待機時間 waitingTime int(3) 3 現場での待機時間(分) 39 打込み時間 placingTime int(3) 3 打込み時間(分/台) 40 ポンプ車台数 pumpCar int(1) 1 ポンプ車台数 41 バイブレータ台数 numberOfVibrators int(2) 2 バイブレータ台数 42 バイブレータ予備 reserveVibrator int(1) 1 予備のバイブレータ台数 43 ホース筒先人数 nozzleMan int(2) 2 ホース筒先の人数 44 バイブレータ人数 vibratorMan int(2) 2 バイブレータ人数 45 打込み速度 placingVelocity float(4,2) 4 打込み速度(m/h) 46 脱枠日 removalDay date 8 脱枠日(年月日) 47 存置期間 maintainPeriod int(3) 3 型枠存置期間(日) 48 養生方法(型枠面) curingSide varchar 30 型枠面の養生方法 49 養生方法(打込み面) curingTop varchar 30 打込み面の養生方法 50 養生(湿潤)期間 curingPeriod int(3) 3 養生期間(日) 51 初期温度 initialTemp float(4,1) 4 コンクリートの初期温度(℃) 52 最高温度 maxTemp float(4,1) 4 コンクリートの最高温度(℃) 53 温度上昇量 riseTemp float(4,1) 4 コンクリートの温度上昇量(℃) 54 最高温度に達した時間 maxTime float(4,1) 4 最高温度に達した時間(○○時間後)