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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 論文提出者氏名 金 孝淑

論 文 題 目 源氏物語論――物語の言葉と異国――

審査要旨

金孝淑氏の学位請求論文「源氏物語論――物語の言葉と異国――」は、第Ⅰ部から第Ⅲ部までの計十 章、及び序章と終章から成っている。副題が示すように、本論文は、『源氏物語』の中にみえる異国を あらわす言葉、及び異国と関係の深い人物・文物などに注目し、それぞれの意味もしくは機能を読み 解いてゆくという一貫したテーマのもとにまとめられている。全体の分量は 400 字詰原稿用紙に換算 して 540 枚程度に及ぶ。査読付きの学会誌に掲載された論考3篇のほか、論集等に掲載された論考を 礎稿とする章も含まれているが、「源氏物語論」としての体系性を確保すべく、いずれも全面的に手が 加えられている。

『源氏物語』においては、中国・渤海などの異国との交流、あるいは異国から伝えられた諸文化に ついての叙述がかなり多く見出される。金氏は、『源氏物語』において異国をあらわす言葉が複数ある こと、また異国と日本とを並べて示すような表現がたびたびみられることなどに注目して、独自の論 を展開している。その際、徹底的に『源氏物語』の言葉を検討・吟味しようとする姿勢を堅持してい る点が特長的といえる。

以下、本論文の構成にしたがって各章の主旨を確認するとともに、それぞれの学術的価値について 述べることとする。

「第Ⅰ部 『源氏物語』における異国」では、『源氏物語』において異国をあらわす言葉を徹底的に検 証する章が中心となっている。第一章は、特に「から」と「もろこし」という頻出する二つの単語に ついての考察である。一般に中国を指示するとされてきたこれら二語については、意味・用法の違い が必ずしも明確ではなかった。この章では、数多くの用例を精査することによって、「もろこし」が実 在する場所としての外国を指すのに対し、「から」は日本に軸足をおいた言葉であり、抽象的・観念的 でもあることなどを明らかにしている。また、これまではいずれも漢詩を指すとされてきた「から(の うた)」と「もろこし(のうた)」についても、金氏の精査により、前者が作中の人物による(つまりは 物語世界の中で生成する)漢詩であるのに対し、後者は物語の外側にある中国漢詩を指すという大き な違いがあることが解明された。これまで確認し得なかった相違点が明らかにされており、その学術 的価値はきわめて高いとおもわれる。第二章では、光源氏の流謫の地・須磨が「知らぬ国」とされて いることと、「絵合」巻において『うつほ物語』の俊蔭が流れ着いた国をやはり「知らぬ国」と表現し ていることとの照応に着目する。従来は、単に「見知らぬ国」と解されてきたわけだが、ここでは、

『うつほ物語』の俊蔭と光源氏とのつながりがとらえられるとともに、「知らぬ国」という表現に「為 政者の政治力の届かない国」という意味が含まれることなどを明らかにしている。第三章は、『源氏物 語』のみならず、『うつほ物語』と『狭衣物語』をも対象として、「唐土(もろこし)」と「高麗(こま)」

という二つの単語の用例数、あるいはこの二つが併記されるパターンなどについて検討している。そ の結果として、それらの異国をあらわす言葉の使い方が、物語内容と密接に関わっていること、また

『源氏物語』において相対的に「高麗」の重要性が高まっていることなどがとらえられている。第四 章では、中世の代表的な『源氏物語』古注釈書『河海抄』における「異朝」(「唐朝」「漢朝」)と「本 朝」という言葉について調査し、特に「異朝」の例と「本朝」の例とを区別したり、「和」と「漢」と を殊更に比較検討したりするような傾向が見出されることを確認している。さらに、『河海抄』の注釈

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氏名 金 孝淑

方法については、『源氏物語』の世界を「和」と「漢」の空間において読み解いているのだとする興味 深い見解を示している。近年、『河海抄』成立時(南北朝期)の注釈行為の特質を積極的にとらえる議 論が盛んになってきたが、当時の注釈行為における「和」と「漢」への姿勢がとらえられたことは、

貴重な成果といえよう。

「第Ⅱ部 『源氏物語』の作中人物と異国――末摘花・玉鬘――」は、副題が示しているとおり、末 摘花と玉鬘という二人の作中人物に関する論である。これら二人の場合は、特に異国文化との関わり を示す記事が頻出するという。第五章と第六章は、末摘花のもつ「異国」性を丹念にくみとる論考で ある。また、第七章では、異国との交流が当時もっとも盛んであった筑紫の地で成育した玉鬘につい て論じているが、たとえば「螢」巻のいわゆる「物語論」において異国のことを引き合いに出すよう な叙述と、この「物語論」に関わっている玉鬘の造型との関係性がうまく把捉されている。第八章は、

玉鬘の物語が、母・夕顔の女から末摘花の物語を経由して生成していること、さらには玉鬘と末摘花 とが密接に繋がる面をもつということを論じている。かつての『源氏物語』成立構想論との接点をも ちながらも、それを踏み越えて、「光源氏の「隠ろへごと」の系譜」という新たな水脈をとらえている 点に価値があろう。

「第Ⅲ部 『源氏物語』の書物と異国」は、特に『源氏物語』における異国の書物、及び異国の学 問に関する議論である。第九章では「本」について、また第十章では「学問」と「才(ざえ)」につい て探究している。今後は、『源氏物語』のみならず、内外のさまざまな文献における用例も精査する必 要がありそうだが、『源氏物語』自体が〈書かれた物語〉であることからも、「本」、あるいは「学問」

「才」に対する物語自身のつよい意識を読みとるという論は大変魅力的であり、これからのさらなる 展開が期待されるところである。

以上みてきたように、本論文は『源氏物語』の異国に関わるさまざまな問題を掘り起こし、詳細に 検討したもので、その独自性の高さは間違いなく認められよう。よって、本論文を早稲田大学におけ る博士(文学)の学位に充分値するものと判断する。

以 上

公開審査会開催日 2008 年 1 月 9 日

審査委員資格 所属機関名称・資格 博士学位名称 氏 名 主任審査委員 早稲田大学文学学術院 准教授 博士(文学) 早稲田大学 陣野 英則

審査委員 早稲田大学文学学術院 教授 兼築 信行

審査委員 早稲田大学文学学術院 准教授 博士(文学) 早稲田大学 河野貴美子 審査委員

審査委員

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