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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2021

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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

論文提出者氏名 中川秀太

論 文 題 目 現代日本漢語の意味・用法と造語機能に関する研究 審査要旨

漢語は、和語、外来語、混種語とともに日本語の語種の一つであるが、明治時代以後、社会の 変化に対応して諸領域で新たに作り出された日本語語彙の中心的要素となり、現代日本語ではそ の語彙(異なり語数)のなかば以上をしめるに至っている。漢語は、漢字を成立の要件とすると いう特色をもち、造語力が大きい一方で、同音語が生じやすいことや、語義がむずかしかったり、

あいまいになりやすかったりするというような独自の性格と問題を有している。本論文は、その ような問題点への対応として正確で効率的な日本語語彙のありかたを追究することを念頭に置き ながら、漢語の意味・用法や語構成等について、語彙論的視点と文法論的視点の両面から様々な 問題を広く取り上げ、分析、記述したものである。

調査資料として、辞書や新聞などにあげられた漢語を広く網羅的に取り上げることにつとめ、

さらにテーマに応じて資料を追加し、問題ごとにその対象となりうる漢語の全体像をうかがうに 足るデータを作成して、分析の基盤を着実なものにしようとしている。(第一章)

第二章では、一字漢語について、その独立用法と造語力について検討する。個々の漢字ごとに どのような熟語がどれぐらいあるかを確認して造語力をはかったうえで、現代語において比較的、

造語力の大きい漢字として「残・開・閉」等について具体的にその使用状況を確認している。現 代語では二字漢語を新たに作り出す造語力は小さくなっているといわれるが、漢字によっては新 たな二字漢語を生み出す可能性があることが指摘されている。

第三章では、漢語の中心をなす二字漢語について多面的に論じられている。前半は運用上の機 能が問題になるもので、「CD を録音する」のように、動名詞の直接的な対象物が先行の名詞として 表現されないような用法と、逆に、「病院に入院する」のように意味上は重複があると見られるよ うな表現が慣用的に行われているものについて、そのような表現が生じる背景と違和感の度合い 等について検討する。

後半では、漢語略語、異音同表記語、漢語の位相性の問題などが取り上げられる。従来も、漢 語は略語を作りやすいものであることが指摘されてきているが、略語のパターンを整理し、元の 形と略語形の使用状況や位相差を確認している。ある二字漢語を略語と認定するか、否かについ て判定のむずかしいところがあるが、略語と見なしうるものを包括的に取り上げ、その特色を整 理しようとした試みとして評価してよいものであろう。「半生」が「はんせい・はんしょう・はん なま」のいずれとも読みうるというような異音同表記は、日本語における漢字の読みとして音と 訓があること、そしてその音と訓がそれぞれ複数、存在しうることが背景になっている。これは 漢語のみの問題というわけではないが、漢語の場合に特に問題となるところが大きい。ここでも、

対象となりうる例を網羅的に取り上げ、それらのパターンを整理し、読み取り上の混乱を避ける ための対処についての見通しを示している。漢語の中には専ら文章語として用いられるような硬 質のものがあるが、それらは書きことばの中で用いられる場合でもわかりにくい語として読解上 の障害になることがある。さらに、改まった場面などで話しことばとして用いられるような場合 には、一層、理解上の困難を伴うことになる。そのような文章語の漢語としてどのようなものが あるかを見渡し、場面に応じた適切な漢語使用を考えるための土台作りを行っている。以上の問 題は、いずれも漢語が円滑な伝達のための障害となりうる場合ということを想定して設定された ものである。ただちに解決策が見いだせるという類のものではないが、いずれも問題点の整理と

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氏名 中川秀太

改善にむけての基礎的研究として評価できるであろう。

第四章では、造語機能との関係から三字漢語と四字漢語を中心に取り上げ、「新」「同」などの 造語機能の分析を行い、また四字漢語の辞書への登録の問題を論じている。このうち、「新」につ いて、「新東京名所」に対する「東京新名所」のように、「新 AB」とともに「A 新 B」の位置も取り うる場合の条件を分析した箇所や、「新会社」のように「新~」という表現がモノ自体の新しさを 表わす場合と個人にとっての新しさを表わす場合とがあって、それがどのような条件によって異 なるのかを分析した箇所は、指摘として興味深い。「~警察署」という表現をうけて再出の場合に

「同署」とするような、先行表現を代行する「同」について、その用法を精密に分析し、その中 に多様な用法が含まれていることを示した箇所も丹念な使用例の確認にもとづく重要な指摘であ った。

後半では、いわゆる四字熟語のうち、「運動中枢」のように現代語を対象とする小型辞書にも広 く登録されているものと、「反対方向」のように見出しとしては登録されることのないものとにつ いて、その違いが何によって生じているのかを検討している。四字熟語の構造の分類にもとづき、

四字熟語の一語全体としての意味と構成要素それぞれの意味との関係を考慮に入れて、実際の国 語辞書における立項の状況との対応が確認されている。辞書編纂の現場で経験的に対処されてき てはいるが明確には理論化されていない判断に根拠を与えるものとして参考になるであろう。

本論文は現代日本語における漢語の適切な使用を念頭においたものであり、そうした背景にも とづいて論述が進められているところが多い。漢語の改革や整理ということは、実際には簡単に 実現できることではなく、論者もそれはよく承知していることであるが、そうした問題意識によ って、新たな問題点を掘り起こし、具体的な対処の方法を模索し、一定の方向性を示している点 は評価してよいであろう。その一方で、研究としては、そうした姿勢が問題点をやや拡散させて いるように見えるところがないとは言えない。それぞれの問題について研究の一層の深化を期待 するところであるが、全体としては、現代漢語の研究として、従来の研究の十分に及ばなかった 諸問題を取り上げて丁寧に考察を加え、妥当性の高い結論を導き出しており、博士学位の授与に 相当する論文であると判断する。

公開審査会開催日 2015 年 1月 10 日

審査委員資格 所属機関名称・資格 博士学位名称 専門分野 氏 名

主任審査委員 早稲田大学・教授 日本語学 高梨信博

審査委員 早稲田大学・教授 博士(文学)(早稲田大学) 日本語学 上野和昭 審査委員 早稲田大学・教授 学術博士 (大阪大学) 日本語学 森山卓郎

審査委員 早稲田大学・名誉教授 日本語学 野村雅昭

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