今回、「日刊工業新聞社オレゴン州産業視察ツアー」に参加し、オレゴン州及びポートランド 都市圏を訪問した。現地企業、現地の日本企業や産業団地等を視察し、オレゴン州、ポートラ ンド市の産業誘致や都市開発部局や周辺自治体首長、オレゴン州日米協会、ポートランド日本 商工会の関係者との面談、ヒアリングの機会を得た。 本稿は、オレゴン州の概要及び州全体の産業構造とポートランド市及び周辺自治体を中心と するポートランド都市圏の社会、経済状況について取りまとめたものである。
⑴由来
州名となるOregon(オレゴン)はコロンビア川の旧名Ouragon に由来するとされていて、発音はOry-gunに近い。⑵位置
アメリカ合衆国本土で太平洋に面している3州、ワシントン州、 オレゴン州とカリフォルニア州の一つである。北のワシントン州と 南のカリフォルニア州に挟まれる形で位置しており、内陸側はアイ ダホ州とネバダ州に隣接している。面積は255,026㎢で、全米で 9位の大きさとなっている。日本に当てはめると本州と四国の合計 とほぼ等しい大きさである。⑶気候
州内にカスケードレンジと呼ばれる山脈が走っており、これを境 はじめに 1.オレゴン州の概要 ポートランド市遠景 セミナー会場風景 ワシントン州 ポートランド ネバダ州 カリフォルニア州 オレゴン州 シアトル ラスベガス ロサンゼルス サンフランシスコ経済・産業視察レポート
ぶぎん地域経済研究所 調査事業部長松本 博之
アメリカ・オレゴン州及び
ポートランド都市圏の経済、産業、社会 ( 概要 )
界として気候は東西に2分される。東側の3分の2は降水量が少なく、寒暖差が激しく大半が 高原型の砂漠となっている。西側の3分の1は降水量が多く寒暖差が少ないため、主要河川の 流域を中心に州内の人口・産業の大半が集中している。
⑷人口
オレゴン州の人口は約393万人(2013年)で全米50州の中位。日本では静岡県や横浜市と 同じ程度の人口である。2000年から2010年に約12%増加している。特に州内北西部を南から 北へ流れてポートランドでコロンビア川(約1,989㎞)に合流するウィラメット川(約300㎞) 沿いにはオレゴン州最大の都市ポートランド、第2の都市ユージーン、第3の都市(州都)の セーラムがあり、ウィラメット川流域全体でオレゴン州の人口の約70%が居住している。 建設中の歩行者・自転車専用橋 ポートランド市民の足――公共交通トラム 2.オレゴン州の主要産業 オレゴン州は恵まれた自然条件や社会環境により多様な産業が息づいている。次にオレゴン 州の主な産業について、その概要を紹介したい。⑴農業・食品加工
1世紀以上も前からアメリカ北西部の多くの農産物を世界に向け輸出してきている。良質な オレゴン州の農産物に付加価値を付けて加工品として世界各地に輸出する食品加工業者が存在 し、その多くが州内に拠点を置いている。またオレゴン州はホップの生産に適した気候と恵ま れた水があることで世界有数のクラフト・ビール(地ビール)の産地で120の地ビールメーカー がある。またピノ・ノワール種の世界有数の生産地で450のワイナリーがあり、同州の有力な 観光資源にもなっている。 主な食品加工業の分野では、冷凍食品製造、乳製品、果実・野菜の缶詰製造、ビールやワイ ンの醸造酒・蒸留酒製造、パン製品、パスタ、トルティーヤ製造がある。⑵林業
オレゴン州は森林面積が12万3,000㎢と州の陸地面積の46%を占めている。全米最大の製材 産出州であるオレゴン州は、林業の先進地として国際的な認知を得ている。またオレゴン州立大学は林業分野における研究において世界のトップクラスであり、木材の収穫から木材製品の 加工まで二次木材製品の製造分野のビジネス環境に最適な場所として地位を得ている。針葉樹 材モールディング、木製家具、建築用木製加工構造材、ドアなどがオレゴン州の世界的に付加 価値が高い主要木材製品である。
⑶金属製品・先端ものづくり産業
オレゴン州は長期間にわたり金属製品分野の革新的な役割を担ってきていた。鉄道車両、船 舶やボーイング社に代表される航空機など多様な分野での技術開発を経験してきている。環境 に優しいまちづくり・都市交通ということで、注目されている近代的なストリートカーもオレ ゴン州で最初に開発されている。また電気自動車や再生可能エネルギーの分野においても州政 府、民間企業が連携して進めている。約2,000社の関連企業が集積し、45,000人が従事してい る。20億ドル(約2,040億円)の年間売上を記録している。⑷ハイテク産業
オレゴン州のハイテク産業の歴史は古く60年代にテクトエオニクスの進出に始まり80年代 のインテルなど大手が進出してきた。これらの大手企業の進出が数多の下請け、関連産業をオ レゴン州に集積させる結果となった。特にインテルの世界最大の生産拠点の進出はオレゴン州 のハイテク産業の知名度と集積を飛躍的に高めた。オレゴン州内には1,500超のソフトウェア 企業が存在し、特に財務、教育、健康分野でのソフトウェアが強みとなっている。半導体産業 は州内に6,000社が展開し、6万人近くの雇用を生んでいる。年間売上は376億ドル(3兆 8,352億円)となっている。またソフトウェア産業もアイ・ビー・エムやメンター・グラフィッ クスなど大手企業を筆頭に1,500社が進出し、2万人以上の雇用を創出している。⑸スポーツ・アパレル産業
オレゴン州には同州で生まれたコロンビア・スポーツウェアやナイキのグローバル本社(世 界本社)がある。またポートランド都市圏にはドイツの世界的なスポーツウェアメーカーであ るアディダス社のアメリカ本社があり、これらの会社が世界的なブランドへと成長していく過 程で中小規模の関連産業が集積した。400社を超える企業が展開しており、13,000人以上を雇 用し、年間売上は52億ドル(約5,300億円)を記録している。 ナイキ世界本社の全景 インテル社の世界最大の製造工場 (出所:Business Oregon 配布資料)経済・産業視察レポート
⑴地理的利便性
太平洋に面し、日本に最も近い州のひとつで、全米一の市場規模を誇るカリフォルニア州へ のアクセスが良く、環太平洋地域への輸送物流面において利便性が高い。オレゴン州のゲート ウェイであるポートランドには成田空港からデルタ航空の直行便が毎日運航(片道約9時間) している。またワシントン州との州境を流れるコロンビア川沿いに位置するポートランド港は 海から160㎞離れているにもかかわらず全米でも屈指の港湾都市である。⑵低いエネルギー・コスト
自然の力を利用した水力発電能力の高いオレゴン州では、工業用エネルギー・コストはキロワッ ト時(kwh)当たり平均6セント以下と全米でも最も低い州の一つとなっている。⑶優良で若い労働力
オレゴン州民の教育水準は高く、勤勉な労働者が多いとされている。これらによって生産性 の質について極めて高い評価がなされている。また労働者に占める若年層(19 ~ 34歳)の割 合は全米平均より39%高く、州内への若年労働者の流入も増加している。 オレゴン州進出の日本企業 (出所:Business Oregon 資料) 3.オレゴン州における企業進出(事業投資)のアドバンテージ⑷有利な租税措置
オレゴン州は低租税構造と言われるように“Low Business Taxes”が一つの特長でもある。オレ ゴン州は全米で2番目に有効事業税率が低い州である(2013 「Ernst & Young C.O.S.T. Study」)。
⑸企業立地に対する各種優遇税制度及びインセンティブ
州が指定した経済の活性化を目指した地域であるエンタープライズゾーンが62か所指定され ており、工場やビジネスの拠点をおく企業の建物や機器類に対する固定資産税を免除される。ま た巨額の設備投資負担となる固定資産税減免措置で、固定資産税の一部を15年間免除になる制 度である戦略的投資プログラム(SIP)など税額控除や融資制度なども用意されている。⑹日本人に適した生活環境(日本からの従業員やその家族に優しい生活環境)
オレゴン州はアメリカの各州のなかで治安も良く日本人(従業員やその家族)にとって暮ら しやすい環境である。またオレゴン日米協会、ポートランド商工会などの日系団体も活発な活 動をしており、日系企業間の横の結びつきも緊密である。⑺日本語による継続的な支援対応
オレゴン州政府の駐日代表部は1984年に開設され、日本企業のオレゴン州進出について支援 を行っている。日本語での継続的な対応が可能である。またポートランド市都市開発局には企業 誘致担当に日本人スタッフを配置するなど日本企業の進出に的を絞った支援体制を敷いている。主な進出日本企業リスト
食 品: 敷島製パン、味の素冷凍食品、山本山、森永乳業、クノール食品、桃川酒造、森永乳業、 ヤマサ醤油、カルビー 輸送用機械:トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工、ブリヂストン 物 流:川崎汽船、日本通運、近鉄航空貨物、西日本鉄道、ヤマト運輸、郵船航空 電 気 機 器: パナソニック、ウシオ電機、カシオ計算機、日本航空電子工業、東京エレクトロン、堀場製作所、 エプソン 精 密 機 器:島津製作所、ニコン、日立 素 材:東洋炭素、太平洋セメント、旭硝子 化 学:日本ゼオン、東京化成工業、東ソー そ の 他:荏原、住友電工、貝印刃物、千寿製薬、ローランド 商社・金融: 三井物産、三菱商事、住友商事、丸紅、伊藤忠商事、双日、豊田通商、兼松、三菱東京UFJ銀行 大 学:早稲田大学、東京国際大学 オレゴン州では、1985年に旭化成が進出以後、製造業を中心に120社の日本企業が進出し ている。その多くはポートランド市とその周辺(コロンビア川の対岸のワシントン州バンクー バーを含む)のポートランド都市圏に集積している。 4.オレゴン州進出の日本企業経済・産業視察レポート
ポートランド市は現在、全米で最も注目を浴びている都市の一つと言ってもよい。温暖な気 候、山や海、川などが豊かな自然に恵まれ、環境に配慮した自転車通勤や電気自動車の推進や 地産地消の食文化が定着するなどしており、“世界で最も住みやすい都市 1位”、“全米で最も 環境に優しい都市 1位”、“全米で最も持続可能(サスティナビリティ)な都市 1位”と多 くのメディアの評価が高い。ポートランド市単独では人口60万人程度となっている。ポートラ ンド都市圏はポートランド市を中心に3市25郡で構成され、オレゴン州の390万人余りのうち 220万人がこの地域に在住しており、オレゴン州の経済、産業の中心となっている。