一 321 一
亭亭大子 51(3):321〜324,1993
Valsalva洞動脈瘤を合併した心室中隔欠損症の術後に 大動脈弁閉鎖不全が発生した1症例
A Case of Aortic Valve Regurgitation after Operation of the Ventricular Septal Defect associated with Aneurysm of the Sinus of Valsalva
福島洋行,張 工藤龍彦
益商,曲 恵介*,長田鉄也,
東京医科大学八王子医療センター心臓血管外科
*厚生中央病院循環器科
はじめに
Valsalva洞動脈瘤(以下Valsalva瘤)を合併し た心室中隔欠損症(以下VSD)の根治術後に,大動 脈弁閉鎖不全(以下AR)が発生し,1年半後に大動 脈弁置換術(以下AVR)を行った症例を経験したの で報告する.
症 例
患者:19歳(初診時),男性.
主訴:心雑音.
既往歴,家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:1990年3月に会社健診で心雑音を指摘さ れ,当センターを受診し,精査目的で同年5月 に入院となった.精査の結果,Valsalva瘤を合併し たVSDと診断し,同年7月■E.手術を施行した.
初回入院時所見:身長168cm,体重64 kg,血圧 132/58,脈拍60/分,整であり,胸骨野縁第3肋間に 最強点を有するLevine 5度の全収縮期雑音を聴取
した.
検査所見:心電図は洞調律で,左室肥大を示して おり,胸部X線写真(図1a)上, CTR 41%であ った.心エコーでは,右室側に突出した右Valsalva
洞を認め,同等直下の心室中隔より,右筆側への shunt flowを認めた.またARは軽度であった.
心臓カテーテル検:査(表1)では,右室流出路で02 step upを認め, shunt率は6%であった.大動脈 造影(図2a)では,右Valsalva洞の動脈瘤形成(→)
を認め,ARはSellorsの分類1度であった.
手術所見:胸骨正中切開にて心臓に到達した.ま ず右室流出路を縦切開すると,肺動脈弁直下に,約 7×5mm大の心室中隔欠損孔を認め,左室側から Valsalva洞動脈瘤の突出を認めた(図3b).次に大 動脈を切開すると,右冠尖の弁輪部に約5×5mm大 の膜様陥凹部を認めた.大動脈側から動脈瘤開口部 をプレジェット付き2−0糸によるマットレス縫合に て縫縮閉鎖した(図3a).また右心尖の弛み変形が あったため,無冠尖との交連部1カ所をplication した.最後に右室側より,馬心膜を用いて心室中隔 欠損孔をパッチ閉鎖した(図3b).
術後経過:術後の心エコーにて,中等度のARを 認めたが1990年8月 退院となり,経過観察を していた.しかし,心拡大およびARの増強を認め たため再手術目的で1991年12月再入院となり,
1992年1月半 AVRを施行した.
再入院時検査所見:胸部X線写真(図1b)上
(1993年2月4日受付,1993年2月16日受理)
Key words:心室中隔欠損症(ventricular septal defect), Valsalva洞動脈瘤(Aneurysm of the Sinus of Valsalva),大動脈弁閉鎖不全(aortic valve regurgitation)
(1)
一 322 一 東京医科大学雑誌 第51巻第3号
a.初回入院時
駕
b.再入院時 図1
表1心臓カテーテル所見(術前)
pressure(mmHg) 02SAT
( ):mean (%)
SVC (6) 80
IVC (5) 80
RA (5) 81
RV 37/EDP 7 81
RVout 84
PA 33/17(22) 84
PCW (11) 98
LV 138/EDP 13 98
Ao 109/87(91) 98
Lm>R shunt:60/o
CTR 48%であり,心エコーではLVD d 70 mm,
EF 54%であり, severeなARを認めたが, Val−
salva瘤やVSD shunt flowは認めなかった.大動 脈造影では,右Valsalva洞の瘤形成はなかったが,
4度のARを認めた(図2b).
再手術所見=胸骨正中切開にて開胸し,癒着を剥 離し,上下大静脈脱血,大動脈送血による体外循環 心停止下に大動脈を切開した.
Valsalva瘤縫縮部は器質化治癒していたが,右冠 尖は,変形,肥厚しており,前回plication部位に 小穿孔を認め(図4←),弁形成術は困難と考え,21 mm Bj6rk−Shiley弁によるAVRを施行した.
(2)
令/
粛婬 ,,・
オレ
a.初回入院時
b.再入院時 図2 大動脈造影
考 察
VSD症例にValsalva瘤が合併する頻度は比較
1993年5月 福島他4名:Valsalva洞動脈瘤を合併した心室中隔欠損症の術後 一 323
ク ,∫ノ〆〆〆〆つ
コ ノ
多・り,,講ミ
tsA r t, ;,2
診
・門彫
RCC
Valsalva洞動脈瘤
馬心膜パッチ
a
図3 初回手術シェーマ
b
a:大動脈側から動脈瘤入口部を縫縮し,右無冠 尖交連部をplicationした.
b:右室側から約7×5mm大のVSDを馬心膜
を用いてパッチ閉鎖した.
的少ないが,ARを伴ったVSD症例では約15%に Valsalva瘤の合併がある1)とされる.逆に Val−
salva瘤症例のうちVSDを合併したものは約
30〜50%2)と多い.また,本邦ではARを伴うもの やsubpulmonary typeのVSDが比較的多い3)4)5)こ ととも関連して,Valsalva瘤を合併したVSDは比 較的多く,特にsubpulmonary VSDでは約10%に 合併しており,10歳以上の症例が多かったとされ る3).subpulmonary VSDの約20〜40%に右冠尖 のprolapsが合併1)3)4)していることや, ARまたは prolapsが年長児以降になってから発生してくる1)3)
ことなどから,VSDに合併したValsalva瘤はVSD に伴い2次的に発生または増大したものとも考えら
れる3)6).
Valsalva瘤は破裂の危険性が高く,破裂した症例 のほうが多い3>7)8)ことから,すべて根治術の適応が あると考えられる.
本症例は,1型VSDに右Valsalva洞の動脈瘤を 合併した病型であるが,手術に際し,動脈瘤を大動 脈側から縫縮閉鎖したことによって,弁尖の歪み,
変形が生じ,結果的にARが増強したと考えられ た.この予防には,心室側より瘤基部を縫合閉鎖し たり,patchを用いたり2)7)して弁尖への影響を最小 限にする注意や,弁形成術を追加するなどの工夫が 必要であると考えられた.しかし,大動脈弁形成術 後にも,ARの残存や再発4)5)9)も見られることから,
弁尖の変性や変形が強い場合にはAVRの選択もあ りうると考えられる.
いずれにしても,術式の選択には,ARの程度や,
・避.
い転,..
/ t
.4ぐ■
af
図4 大動脈弁切除標本
弁尖の状態,VSDやValsalva瘤の大きさや位置な どを十分考慮した上で,的確な処置が必要であると 考えられる.
結 語
1型VSD兼Valsalva瘤の根治術後にARが増強 したため,AVRの再手術を行った症例を経験した.
subpulmonary VSDやValsalva瘤の根治術におい て,大動脈弘仁への影響や,ARに対する処置につ いては十分過注意が必要であると考えられた.
文 献
1) Kirklin JW, Barratt−Boyes BG:Ventricular se−
ptal defect. Cardiac Surgery, A Wiley medical publication, 1986 599・一一664
(3)
一 324 東京医科大学雑誌
2) Kirklin JW, Barratt−Boyes BG:Congenital aneurysms of the sinus of Valsalva. Cardiac Surgery, A Wiley medical publication, 1986 665 一一677
3) Momma K. et al:Natural history of subarterial infundibular ventricular septal defect. Am Hert J 108(5) :1312n−1317, 1984
4)藤岡康彦,他:大動脈弁閉鎖不全を伴う心室中隔欠 損症の外科治療胸部外科31(9):680〜684,1978 5) Tatsuno K. et al:Pathogenic mechanisms of prolapsing aortic valve and aortic regurgitation associated with ventricular septal defect. Circula−
tion 48:1028r−1037, 1973
6) Sakakibara S, Konno S:Congenital aneurysm of
7)
8)
9)
第51巻第3号
the sinus of Valsalva associated with ventricular septal defect. Am Hert J 75(5):595r−603, 1968
Tanabe T, Yokota A, Sugie S:Surgical Treat−
ment of aneurysms of the sinus of Valsalva. The Annals of Thoracic Surgery 27 (2) : 133−v136, 1979
末定弘行,他:Valsalva洞動脈瘤今野IV型破裂の2 手術経験.臨床胸部外科9(3):291〜296,1989 Karpawich PP. et al:Ventricular septal defect with associated aortic valve insufficiency. J Thor−
ac Cardiovasc Surg 82:182t一一189, 1981
(別刷請求先:〒193八王子市館町1163
東京医科大学八王子医療センター 心臓血管外科福島洋行)
(4)