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9 章 子供の歯科

はじめに

後藤 譲治

この章では,子供の歯科に関 して, 2 つの異なる事柄を取 り上げてある。第 1節には,大切な割にはその重要性に対する一般の知識 も理解 も不十分で,ど うせ生え変わる歯だか らとないが しろにされがちな乳歯 について,「なぜ乳歯 のムシ歯を放置 してはいけないのか」 と症例をま じえて説明 し,その重要性を 強調 してある。次に第 2節では,子供の歯科の臨床で,歯科医師が苦労 してい る 「 小児の歯科的対応」について,実際にはどのような対応がなされているの かについて記載 した。

子供の歯科に少 しでも理解 と感心を深めていただければ幸いである

1 節 なぜ乳歯のムシ歯を放置 してはいけないのか

乳歯は出生後 6‑ 7カ月 ころか ら口腔内に萌出を開始する。通常 3歳までに

は全ての乳歯,すなわち上顎 1 0 歯,下顎 1 0 歯が萌出 して唆合線に到達 し,乳歯

列校合が成立する。その後約 3年間の乳歯列期は比較的安定 してお り動きが少

ない。 6 歳になると乳歯列の最後部に最初の永久歯である第 1 大臼歯が萌出

し,混合歯列 となる。 この時期になると下顎の最前方の歯 ( 乳中切歯)は,乳

歯根が吸収 されて脱落 し,その下か ら永久中切歯が萌出する。そ して 1 1 ‑1 2 歳

までの間に,乳歯は順次永久歯 と交換 し,やがて永久歯列へ と移行する。従 っ

て乳歯が口腔内に存在するのは人の一生の内では一時期で,左程長い期間では

ない。乳歯はいずれ永久歯に生え変わる歯であり,それならばたとえ乳歯が繭

蝕 ( ムシ歯)に雁患 したとして も,慌てて治療などしな くて もはっておけばや

がて永久歯に交換す る,治療などは無駄な ことだ,その方が 自然の摂理 にか

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な っていると考える方 もあろう

しか し厳 しい生活環境で蘭蝕 も少なか った原 始時代の人類な らいざ知 らず.加熱 した軟 らかい食物を食べ,加工食品や砂糖 をふんだんに摂取す るため繭蝕の多い現代人では,乳歯 はどうせ生え変わ る歯 であるか ら,乳歯の繭蝕 は放置 して もかまわない と考え るのは大 きな誤 りであ

る。

図 1は, 3 歳児の口腔内の正常 な乳歯列を示す。歯並び も良 く,繭蝕歯 はな く,歯肉は健康で汚れ もない。歯 と歯 との問にスキマがあるではないか と云わ れ るか も知れないが,成人の永久歯列では歯 と歯の間に間隙があるのは正常で はないが,乳歯列では空隙型歯列弓 ( Spac e dt ypear c h) と呼び,歯間に空 防 ( 霊長空隙、発育空隙)がある方がむ しろ正常である。

次に図 2は同様に 3歳児の口腔 内を示す。 この症例では乳歯20 歯の全てが繭 蝕 に雁患 してお り,歯冠の崩壊が著 しく歯並びが良 いのか否か も不明な状態で あ る。一方歯 肉部を見 ると膿痕があ り, また一部 それが破裂 して療孔を形成 し,膿や血液が流 出 している。 これ等 の膿癌や療孔 は,乳歯 の齢蝕 に由来 し て,乳歯の根尖部に病巣があることを示 している。 このように惨憤た る状態に な るまでよ く放置 しておいた ものだ と感心 していないで, もう一度図 2を見 る と, この口腔 は初めか らこの様な状態であった ものではない ことに気づ く

恐 らく最初 は図 1の様な健康な口腔の状態の時代 もあったはずである。

1 .乳歯の下には成長発育中の永久歯膝がある

図 2で考慮 しな くてはな らないことは,ムシ歯か ら由来 した膿痕や療孔が見 られ る根尖部位,すなわち乳歯の直下 には成長発育途上の永久歯腔を有す るこ とである。

図 3 のⅩ線写真で は乳臼歯の直下に成長発育途上の永久歯肱が存在す ること を示 している。また図 4 の組織写真は,乳歯の直下の成長発育中の永久歯腔を 示 してお り,永久歯腔 は乳歯根 に極めて接近 していることがわか る

乳歯繭蝕 の紘果,乳歯の歯髄 に感染が及 び, さ らに乳歯の根尖部 に病巣が成立す ると, 乳歯の直下 に存在す る成長発育途上 の永久歯膝 に も悪影響を及 ぼす ことがあ る。図 5 の中央部には,妙な形の歯が見 られ るが, この歯は乳歯繭蝕の結果, 乳歯の根尖部 にで きた病巣の影響で形成が障害 された永久歯である

程度や時 期 によ りその影響 は様々であるが,最悪の場合には永久歯膝に感染が及び,永

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第 9 章 子供の歯科

図 1 3 歳児の正常な口腔内

図 2 3 歳児の惨憤たる口腔内

図 3 乳歯の下 に成長発育途上の永久歯 腫 (TG) が存在する ( X 線写真)

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図 4 永久歯肱は乳歯根に極めて接近 している

図 5 形成が障害された永久歯 ( 中央) 久歯が形成 されないことがある。

2 . 乳歯のムシ歯は永久歯の歯並びを悪 くす る

6 歳 になると,乳歯列の最後部に永久歯である第 1 大臼歯が萌出を開始す

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第 9章 子供の歯科

る。 この時第 1 大臼歯は乳歯列の最後部にある第 2 乳臼歯の遠心面を誘導面 と して,すなわち第 2乳臼歯の後縁部にそって萌出する。 この時期に,ムシ歯そ の他の原因で第 2 乳臼歯を早期に喪失することがあると,誘導面を失 った第 1 大臼歯 は前方へ向か って移動す る ( 図 6) 。一般に歯は近心 ( 前方)移動の傾 向がある。その結果,通常第 2 大臼歯の下か ら萌出する予定の永久第 2 小臼歯 は,萌出の場所を第 1大臼歯によって奪われて,萌出の場を失 うことになる。

図 7 は,第 1 大臼歯によって萌出場所を奪われた結果,やむをえず舌側に萌出 した第 2 小臼歯を示す。 このように,乳歯繭蝕によって乳歯が早期に喪失する と永久歯列の歯並びに悪影響を及ぼす ことがある。 このほか乳歯のムシ歯の結 果,乳歯を早期に喪失 しな くて も,永久歯の歯並びを悪 くす ることもある。図

図 6 誘導面を失った第 1臼歯は前方に移動す る

図 7 やむをえず舌側 に萌 出 した第 2 小臼歯

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図 8 乳歯残存のため,横に曲がって萌出した中切歯

8 は,上顎左側 中切歯が傾 いて異常 な位置に萌出 し歯並 びを悪 くし,審美性を 障害 している。 この症例で は上顎左側乳 中切歯がム シ歯の催恵か ら感染が歯髄 に及 び,その結果乳歯根の吸収が正常 に営 まれず, いっ まで も乳歯が脱落せず にその場所 に残存 している為 に,通常 この乳歯の位置に萌出すべ き永久歯の上 顎左側 中切歯が萌 出の場 を失 い,やむをえず横 に曲が って萌 出 した ものであ

る。

3 . 乳歯繭蝕の為害作用 ( 1 ) 局所的為害作用

以上,乳歯蘭蝕が永久歯の形成 に障害を及 ぼ した症例,歯列不正を誘発 した 症例等 について記載 したが, このよ うな乳歯繭蝕の局所的為害作用 は数 々あ っ て,枚挙 のい とまが ない程 で あ り, いちいち症例 を記載す ると紙面 が不 足す

そ こでそれ等の主 な ものを列記す ると, a. 捧痛

b. 岨噂障害

C. 後継永久歯への影響 d. 歯列不正の誘発 e. 顎 ・顔面の発育障害

f .発音障害 g. 口腔悪習癖

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第 9 章 子供の歯科

h. 永久歯髄蝕の誘発 i.口腔軟組織疾患の誘発

j .骨膜炎 ・歯槽骨炎 ・骨髄炎等の誘発 等 となる。

そ して乳歯嚇蝕の結果捧痛があると攻めない ( 岨噂障害) ,捧痛があると軟 食になり,偏食 となる。また喫まないと喫めな くなる。喫まないと唾液の分泌 が減 り,口腔内の自浄作用が低下 して口腔内は汚れる。口腔内が汚れるとさら

に繭蝕は増長する。 といった具合に悪循環 となる

( 2 ) 全身的為害作用

乳歯繭蝕の局所的為害作用は,ひいては成長発育途上の小児の全身的な為害 作用をきた し,全身の発育障害や抵抗力の減弱を もたらす。さらに乳歯の嚇蝕

は歯性病巣感染の原因ともなるが,その詳細は紙面の都合で省略する。

( 3) 心理的為害作用

乳歯蘭蝕の局所的為害作用はさらに小児の心理的 ( 精神的)為害作用にも発 展 してゆ く。以前は乳歯蘭蝕の心理的為害作用などあまり問題にされなか った が,決 して軽視すべ きものではない。乳歯離蝕の捧痛が もた らす精神的ス トレ ス,攻めないことか らのい らだちはもとより,審美性を損なう汚い歯のもた ら す外観に対する劣等感,発音障害 ( 発音に関与す る歯牙の役割は大 きい)か ら の 自信喪失等 は,小児の心理に影響を及ぼ し,性格を消極的にすることもあ

り,対象が小児だか らと云 って無視 してはな らない。現代は歯が美 しく調和が とれていることは文化性のあ らわれと認識 される時代であり,中身が良ければ 外見はどうで も良いと考える旧世代 とは異な り,新人類 は外見 も気にするので ある。乳歯鮪蝕に由来する心理的為害作用が,成長発育期の小児の情操に及ぼ す影響を決 して無視 してはな らないことを強調 しておきたい。

2 節 小児の歯科的対応法

小児の歯科的処置にあたって苦労す るのは小児の歯科的対応法であろう

科的対応法あるいは小児の行動管理 ( Be hav i ormanagement ) というとわ

か りにくいか も知れないが,要するに小児の歯科的取 り扱いである。以前は,

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小児の取 り扱いとしていたが,取 り扱いとい うと何や ら荷物を取 り扱 っている ように聞 こえるので,近年, 日本小児歯科学会の用語委員会では,小児の歯科 的対応法に変更 している。

1 .一般的対応法 ( 1) 年齢的配慮

小児 と成人 とはどこが異なるのかと考えてみると、小児は常に成長発育 ( 発 逮)を続 けている個体 とい うことがで き,成人にはもはや成長発育 はない。

Cas t ar dy は成長発育を続 ける期間は小児歯科の範囲であるとし ,De nt i s t r y f orAdol e s c e nt ( 青少年期歯科)を提唱 している。従 って小児歯科 に来院す

る患者の年齢的な幅は広 く,先天性歯牙で来院する生後間 もない新生児か ら, 大学生まで多岐に渡 っている。そこでその歯科的対応法 も,年齢や個 々の性格 に適 した ものが必要 となる。一般的な対応法 としては,患児に恐怖感を与えな いことが大切である。歯科恐怖 ( De nt alFear ) の問題 は,何 も低年齢の小児 に限 った ことではない。恐怖感を与えないことと同時に痛 くない歯科治療を心 掛 けるのは勿論である。痛 くない歯科治療に関 しては,末尾の第 1 4 章 に記載 し てある

同 じ事態に遭遇 して も,感知の状態 は年齢等によっなかなり異なったものと なる。例えば,出血 という現象に対 して,比較的年齢の高い患児においては, 成人 と同様に不快感を持っであろう

これは,血 とはどういうものか知 ってお り,血 は怪我や痛み,不快,恐怖,死等を連想 し,決 して快いものとは考えな いか らである

他方,血 とは何であるか全 く知 らない極めて低年齢の小児 にお いては,血は赤 くてキ レイだと感 じるか も知れない。従 って,歯科的対応法に あたっては年齢的配慮が必要 となる。

ところで歯科治療 は必ず しも楽 しく,快いことばか りではない。む しろ不愉 快なことも少な くない。そこで小児に対する歯科的対応法の基本 は,患児 に歯 科治療を理解納得 させ,治療に対 して協力的にさせ ることが必要である。歯科 治療に関 して十分説明を受け,内容を理解すれば,何をされるかわか らないと い う不安や恐れは解消す る。 しか しなが ら,理解納得 させるといって も,理解 す るにあた ってはある程度の知能の発達が必要である。必ず しも年齢のみに

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第 9章 子供 の歯科

よって分けることはできないが, 3 歳以下の小児においては,言語や知能の発 達 も未熟であ り,理解納得 させ るのが困難な場合 もある。その時は根気よ く態 度で示 し最善をっ くす努力が必要 となる。愛育病院名誉院長で小児科の大家, 内藤寿七郎先生によれば, 1) まず小児の目を じっとみつめる,す ると必ず 目 があう, 2) やさしい目でみつめる, 3) 愛情を こめて話 しかける, 4) そ し て友達 になる, との ことで, この言葉の内に小児への対応法の真理が含まれて いるように思える。

3 歳児になると,言語 も知能 も急速に発達 し,言語学者によると 3 歳児の語 嚢の総量 は平均 88 6 語であるという ( 表 1 ) 。基本的な英語 5 0 0 語知 っていれば

表 1 幼児 の語垂 の発達 年 齢 語 嚢 総 量

2 歳 2 9 5 語

3 8 8 6

4 1 , 6 7 5 5 2 , 0 5 0 6 2 , 2 8 9

海外旅行 も自由にこなせ るといわれてお り, 3歳児が 886 語知 っていれば,術 者の言葉を十分理解でき,要す るに話せばわかるのである。

年齢的配慮 と同時に,個 々の患児の性格 に適 した歯科的対応法が必要 とな る。個 々の小児は性質 も,趣向 も,経験 も,家庭環境 もそれぞれ異なった もの であるか ら,画一的な対応法を試みてはいけない。

( 2 ) 幼児思考の特徴

小児の歯科的対応法にあたって,幼児思考の特徴を理解 してお くことは重要

である。幼児思考の特徴 と しては, 1) 自己中心的, 2) 具体的, 3) 情緒

的, 4) 直観的といわれてお り,小児患者への対応法 としてはこれを逆に上手

に利用す る。すなわち, 1) 抽象的な説明はさけ,わか りやす く具体的に説明

す る, 2) 自己中心的 とい うことは, 自分 にかえ って くること,自分が得をす

ることな らある程度我慢す る訳である。歯を治療す ると 「 何で も暖めるように

な るよ」 よ りも 「 可愛 くな るよ」の方がベ ターである。 3) 情緒的であ るの

で,多少 は煽てて好かれるようにすることも必要である。小児 といって も千差

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万別であるので,その小児の程度 に応 じた対応,個 々の性質に応 じた対応が必 要である。

( 3) Te l l , Show, Do

一般的な対応法の基本 は,歯科治療を理解納得 させ,治療に協力的にさせ る ことにあ るが,そのためには, Adde l s t on 等の TSD 法が しば しば用い られ る。1 )Te l lは,よ く話 して聞かせ ることで,や さ しく,わか りやす く,具体 的 に説 明す る

2) Show は,治療器具等 を見せ,場合 によ っては器具 に触 れ させ,怖 い もので はない ことを具体的に教えて理解を得 る。 もっとも,注射 器のような怖 い ものを見せた り触れさせてはいけない。 また鏡 によって口腔内 を見せなが ら説明をお こな う

3) Do は,話 し,見せ,理解納得 させてか ら 処置を行 う

なお,歯科治療を理解納得 させ るには,術者 は小児に信頼 され る

ヒューマ ン ・リレーシ ョンの確立が望 まれ る。

( 4) 小児歯科 とバ リアーテ クニ ック

歯科治療 において HIV (ヒ ト免疫不全 ウイルス)の感染の可能性 は低 いと はいえ, B 型肝炎 ウイルスの催患率 は歯科医療従事者に高いことが報告 されて いる。また昨今,不潔な器具や手指等か らの院内感染の防止,そ してイ ンフェ クシ ョン ・コ ン トロールに感心が高 ま って いる。特 に小児歯科 臨床 において は,風邪,風疹,水痘,流行性耳下腺炎など,小児が罷患 しやすい疾患に伝染 の可能性 も少な くない。小児歯科臨床 におけるイ ンフェクション ・コン トロー ル として は,1 .バ リアーテ クニ ックと して ゴム手袋,マス ク, ゴー グル ( 眼 鏡) , 白衣, さ らにユニ ッ トのラ ッピング ,2 . バ ー,ハ ン ドピース等の器具の 滅菌,消毒 ,3 . 針 さ し事故の防止 ,4 . 診療室内の空気の洗浄等が取 り上げ られ ているOその うち, 2. 3. 4 に関 しては一般の歯科診療室で行われ るものと 特 に変わ った点 はないが, 1 のバ リアーテ クニ ックに関 しては,小児歯科特有

の ものを考慮す る必要がある。なぜな らば,あま り大袈裟なバ リアーテクニ ッ クは,かえ って小児 に恐怖感を与え,小児患者の歯科的対応 とい う意味でマイ ナスになることがあるか らである

すなわち,マスク, ゴーグル等 は,小児患 者 とのコ ミニ ュケ‑ションを取 りに くくさせ ることがある。小児 にとって術中 オペ レーターの表情 は重要であ り,たえずオペ レーターの リップ ・リーディン グ ( 表情,特 に口元の読み取 り)を行 っている。マスク, ゴーグル等 はこれを

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第 9章 子供の歯科

妨げる因子 となる。従 って,術者 はマスク, ゴーグルの代わ りに,透明プラス チ ックのフェースガー ド ( 図 1 )を用いると小児 とのコ ミニュケ‑ション上良 好である。ただ し,小児がその診療室への来院回数が多 く,小児歯科診療に慣 れている場合 は勿論 この限 りでない。

図 1 フェース ・ガー ド 図 2 抑制具 レス トレイナーで固 定 された小児

2 . 非協力児の歯科的対応法 ( 1) 抑制下の歯科的処置

どうして も歯科治療に協力できない小児患者の行動管理には種 々方法がある

が抑制下の歯科的処置が行われ ることもある。 1歳半の ヨチヨチ歩 きの小児が

転倒 して歯牙外傷で来院 した場合などでは,直ちに歯科的処置を行わねばな ら

ない。少 しずつ処置にな らしてゆき,理解納得 させてか ら歯科的処置を行 う時

間的余裕 は全 くない。 このような場合にはやむをえず抑制下の歯科的処置を行

抑制具 としては 「レス トレイナ ‑

」 1

)( 図 2 )等が用い られ る

この装置

は網で小児の身体を くるみ, クッションを張 った台に網をフックで止め,小児

の動 きを固定抑制す るもので,1 . 固定が確実である ,2 . 全身を網の平均 した張

力で固定す るので,局部に強圧が加わ ることな く,安全性が高い ,3 . 網を通 し

て固定の状態,身体の状態を確認できる ,4 . 取 り扱いが簡単である等の利点を

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有 している。 この他必要に応 じて開口器等 も用い られている。なお, レス トレ イナ‑は非協力児あるいは身体障害児の歯科治療 に用い られるが,やむをえな い場合を除いて乱用 は避けたい。 こうした抑制具の使用はあ くまで も歯科治療 がで きる方向へ持 ってゆ くための手段 としての抑制であ り,治療 に協力的に なった ら直ちに解除する必要がある。 このような装置の応用により治療態度の 改善をみた報告 も多 々あるとはいえ,やむをえない場合を除いて装置の乱用は 避 けねばな らない。またこのような方法で歯科治療を行 う場合には,事前 に必 ず保護者の諒解を得てお くことと,治療終了後 「 今 日はガ ンバ ッタネ, この次 か らもっとオ リコウにで きるね」などと声をかけ,励ます ことが必要である。

なお レス トレイナ‑使用による抑制下の歯科治療 は,小児の心理に悪影響を及 ぼす ことが懸念 され るが,心理テス トの結果,問題 になるような悪影響 は残 さ ないことが報告 されている2 ) .

( 2) 前投薬

薬物の応用下に歯科的処置を行 う方法である。患児が歯科治療に対する極度 の恐れ,緊張感か ら歯科的処置が困難な場合,あ らか じめ精神安定剤,睡眠剤 等を服用 させて緊張を和 らげる方法である。恐れや不安の強い非協力児,堰吐

しやすい過敏な小児,あるいは心身障害児等に用い られることがある。

( 3) アナルゲジア ( 精神鎮静法)

歯科治療に対 して極度の不安,恐怖を有す る小児,どうして も歯科治療 に協 力できない小児,心身障害児等に対 しては,アナルゲジア ( 精神鎮静法)の応 用下に歯科的処置を行 う場合がある。用い られるのは主 として笑気アナルゲジ アであるが,適応症 は広 く,禁忌 は少ない。笑気アナルゲジアは全身麻酔 とは 異な り,意識 はあり,代謝,その他の生活反応は正常であり,恐怖心や不安感 の減少に役立

っ 。

なお,小児が協力的でな く,口呼吸を行い,鼻孔か ら笑気ガ スを吸入 しない場合 には,笑気 アナルゲジアは有効 に働かない。 このような場 合 にはラバーダム防湿を用いることによって口呼吸を防止 し,笑気アナルゲジ

アの効果をあげることができる ( 図 3 ) 。

この他,静脈内にマイナー トランキライザー ( 精神安定剤)を注入 して鏡静 効果を得 る,静脈内アナルゲジアの もとに,歯科的処置が行われることもある

( 図 4 )0

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第 9 章 子供の歯科

図 3 笑 気 ア ナ ル ゲ ジ ア

図 4 静 脈 内 鎮 静 法

図 5 全身麻酔下の歯科的処置

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( 4) 全身麻酔

全身麻酔下の歯科的処置は,通常の歯科的対応法では非常に対応の困難な心 身障害児が主たる対象 となる。全身麻酔の方法は主 として経鼻の気管内挿管法 が用い られ,麻酔ガスの使用,術中の全身状態の把握等 は麻酔医の管理下 に行 われ,安全性 は高い ( 図 5 ) 。全身麻酔下の歯科的処置の利点 は, 1) 全 く苦 痛を感 じない無痛処置が行える, 2) 動かないので確実な処置が行える, 3) 多数歯の処置を一括 して行 う集中治療が可能である, 4) 術中,患児の協力は 不要である, 5) 唾液の分泌の抑制ができる等である

他方,全身麻酔下の歯 科的処置の欠点 としては ∴ 1) 処置内容が限定 され る, 2) 術前,術後の管理 が必要で通常入院を要する, 3) 麻酔医,麻酔の設備が必要である, 4) 患者 教育がで きない等である。

文献

1 .後藤譲治他 :重症心障害児の歯科治療 に用 いる患児固定装置 につ いて,歯科学 報 ,7 7:5 3 7 ‑5 77 ,1 9 7 7 .

2 . 吉野弘他 ・ .拘束歯科治療が小児の精神発達 に及ぼす影響 ‑ カ ラー ビラ ミッ ト性格 検査を用いた検討一小児歯誌 ,3 2:4 6 8 ‑4 8 4 ,1 9 8 5 .

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図 1 3 歳児の正常な口腔内
図 4 永久歯肱は乳歯根に極めて接近 している 図 5 形成が障害された永久歯 ( 中央) 久歯が形成 されないことがある。 2 . 乳歯のムシ歯は永久歯の歯並びを悪 くす る 6 歳 になると,乳歯列の最後部に永久歯である第 1 大臼歯が萌出を開始す ‑ 1 7 8‑
図 8 乳歯残存のため,横に曲がって萌出した中切歯 8 は,上顎左側 中切歯が傾 いて異常 な位置に萌出 し歯並 びを悪 くし,審美性を 障害 している。 この症例で は上顎左側乳 中切歯がム シ歯の催恵か ら感染が歯髄 に及 び,その結果乳歯根の吸収が正常 に営 まれず, いっ まで も乳歯が脱落せず にその場所 に残存 している為 に,通常 この乳歯の位置に萌出すべ き永久歯の上 顎左側 中切歯が萌 出の場 を失 い,やむをえず横 に曲が って萌 出 した ものであ る。 3
図 4 静 脈 内 鎮 静 法

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