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湧田 尚樹 学 位 の 種 類

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Academic year: 2021

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氏 名 わくた なおき

湧田 尚樹

学 位 の 種 類

博士(医学)

報 告 番 号

乙第 1848 号

学位授与の日付

令和 2 年 10 月 1 日

学位授与の要件

学位規則第 4 条第 2 項該当(論文博士)

学 位 論 文 題 目

Analysis of endoscopic findings in the chronic subdural hematoma cavity: bleeding factors in chronic subdural hematoma natural history and as predictors of recurrence

(慢性硬膜下血腫における血腫腔内の内視鏡所見の検討: 慢性 硬膜下血腫の自然史における出血源と再発予測因子)

論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授

吉満 研吾

(副 査) 福岡大学 教授

鍋島 茂樹

福岡大学 講師

前田 俊樹

内 容 の 要 旨

【目的】

慢性硬膜下血腫は外傷を契機に発症し、その後の血腫腔内の間歇的小出血が増悪にい たる病態生理として考えられている。しかし、その自然史はいまだ不明な点が多い。ま た、外科的治療法は確立されているが、術後再発が課題として残されている。これまで 慢性硬膜下血腫における血腫腔内の神経内視鏡所見の報告は少なく、また少数例を対象 としたもののみである。今回われわれは、慢性硬膜下血腫に対する術中の神経内視鏡観 察から得た所見をもとに、術前の CT 所見と共に慢性硬膜下血腫の自然史を検討した。ま た再発に関して、患者背景や CT 所見、神経内視鏡所見を評価し、再発予測因子と思われ る血腫腔内構造に関して考察した。

【対象と方法】

2008 年 4 月から 2017 年 3 月にかけて、当施設および関連の 2 施設において、慢性硬膜 下血腫に対して神経内視鏡を併用し穿頭手術を施行した 466 症例 540 病変を対象とし た。血腫腔内の出血への関与を疑う神経内視鏡所見として、1)血腫外膜の微小出血斑、

2)血腫腔内の凝血塊、3)脳実質の牽引、4)脳表血管の伸展、5)血腫腔内の柱状構造、6) 血腫腔内を分ける隔壁構造の有無を評価した。また自然史を検討する際、慢性硬膜下血 腫に先行する外傷から神経内視鏡観察までの期間を、16-30 日、31―45 日、46-60 日、

61―90 日、91 日以上の 5 群に分類した。神経内視鏡所見、外傷からの期間、CT 所見の 3

要素に関して、各々の相互関係を評価し、慢性硬膜下血腫の自然史における血腫腔内の

(2)

変化を考察した。また再発に関して、神経内視鏡所見を患者背景や CT 所見と共に評価 し、再発への関係性を検討した。

【結果】

外傷からの期間と CT 所見の関係性において、厚さ 20mm 未満の比較的薄い血腫は 30 日 未満の早期群で最も多く(p=0.037)、外傷後の経過が長い症例ほど血腫が厚い傾向にある ことが示された。また、内腔が high-low mixed density を呈する血腫は外傷より 2 か月 以降で有意に増加していることが示された(p=0.017)。神経内視鏡所見と CT 所見の関係 性において、血腫腔内の凝血塊は CT で high density もしくは high-low mixed density を呈する血腫との有意な関係性が明らかとなった(p<0.001)。他に、柱状構造と high density、隔壁構造と mixed density との間にいずれも関係性が示された(p=0.040、

p=0.004)。外傷からの期間と神経内視鏡所見の関係性において、血腫外膜の微小出血斑 は全ての時期を通じて高率に認められた。一方、血腫腔内の凝血塊は二峰性の分布を呈 し、外傷より 30 日未満もしくは 61 日以降に多くみられた(p<0.001)。また、血腫腔内の 柱状構造は外傷より 61 日以降で増加傾向を呈し(p=0.021)、血腫腔内を分ける隔壁構造 は外傷後の経過と共に増加傾向の一途にあることが示された(p=0.003)。脳実質の牽引と 脳表血管の伸展に関しては、有意な偏りは示されなかったが、自然史のいずれの期間に おいても一定の割合で同定された。再発予測因子の検討において、2 型糖尿病、両側性病 変、20mm 以上の血腫厚と共に、脳表血管の伸展と血腫腔内の凝血塊の存在が再発関連因 子としての可能性が示唆された。また、血腫腔内の柱状構造および隔壁構造の存在が、

それぞれ有意な再発予測因子として示された(p=0.022、p=0.001)。

【結論】

慢性硬膜下血腫の自然史に関して、外傷からの期間における CT 所見の推移は、同 CT 所

見を呈することの多い神経内視鏡所見の推移と同様の変化であった。血腫外膜の微小出血

斑は、この疾患の自然史を通じて、血腫外膜から間歇的な微小出血が生じていることを示

唆するものと思われた。血腫腔内の凝血塊は、発症早期の活動期の出血や比較的長期的経

過に至った進行期における出血によるものが考えられた。柱状構造と隔壁構造は、いずれ

も血腫腔内で繰り返される炎症の産物として、経過と共に増加していくものと思われ、ま

たこれらが進行期における新たな出血の関連構造物である可能性に関しても、神経内視鏡

所見によって示された。われわれの検討した神経内視鏡所見の推移は、慢性硬膜下血腫進

行のメカニズムが外傷からの時間経過と共に変遷していく様子を示すものと思われ、過去

の報告で組織学的もしくは生化学的手法によって検討された慢性硬膜下血腫の自然史の

仮説を、新たな臨床的所見によって支持する結果であった。また本研究の対象症例におけ

る再発率は 7.5%と比較的低く、再発予測因子の一つである隔壁構造に対する術中の処置

が、その結果に寄与した可能性が考えられた。今回同定された再発予測因子を有する症例

においては、内視鏡的手技による再発率低減の可能性があり、その有用性が期待される。

(3)

審査の結果の要旨

本論文は、慢性硬膜下血腫の自然史に関して、先行する外傷からの期間と神経内視鏡に よる観察で得られた血腫腔内の所見をもとに検討を行ったものである。また、慢性硬膜下 血腫の再発リスクと血腫腔内の所見との関係性に関しても考察している。血腫腔内の所見 には時期を問わず一定の割合で同定される所見と慢性期において増加する所見があり、自 然史を通した一定の出血傾向に新たな出血源からの出血が加わることで血腫が増大して いくことが示された。再発リスクに関しては、神経内視鏡で同定された柱状構造や隔壁構 造が有意なリスク因子として同定され、本研究対象には隔壁構造を処理している症例が多 く含まれることにより、全体の再発率が低減した可能性が示唆された。以下に本論文の斬 新さ、重要性、研究方法の正確性、表現の明確さ、主な質疑応答の内容についてそれぞれ 記載する。

1. 斬新さ

慢性硬膜下血腫における神経内視鏡所見の報告はほとんどなく、多数例を対象にその 所見を収集し、自然史や再発予測因子に関して検討した点はユニークであり、過去に 報告のない斬新な内容である。

2. 重要性

慢性硬膜下血腫の自然史は従来、生化学的、組織学的、もしくは放射線学的観点から 検討されてきたが、神経内視鏡所見という実臨床に基づいた証拠をもって、これまで に提唱されてきた慢性硬膜下血腫の自然史に関する仮説を実証している。また再発予 測因子に関しては、再発リスクとなる具体的な治療対象を提示しており、更にその処 理により再発率が低減される可能性を示している。

3. 研究方法の正確性

本研究の対象は本院および福岡東医療センター、白十字病院の患者であり、同一教室 で修練を積んだ複数の脳外科専門医による診療データである点において、一定の正確 性を担保するものと考える。また 540 病変は統計解析に十分な症例数である。

4. 表現の明確さ

目的、方法、結果については明確かつ詳細に表現されている。本研究は結果の考察に 当たっては統計学的手法を用いて神経内視鏡所見の変動や再発予測因子を評価してお り、明確な結果であると思われた。

5. 主な質疑応答

以上の研究内容の説明に対して、審査員により、研究方法、結果の解釈、臨床的な意 義に関する質疑が行われた。下記のような多数の質問があり、活発な討議が行われた。

Q; 多施設研究であるが、所見の標準化にはどのように対応したのか?

A; 当院脳神経外科の関連施設の 3 施設が研究に参加しており、術後カンファランスで複

数の脳神経外科専門医により所見を同定しつつ、主研究者自身が改めて全例の所見を確認

(4)

している。

Q; 本研究の再発率は慢性硬膜下血腫の疫学研究の半分程度であるが、疫学研究は神経内 視鏡を用いた報告か?また、その疫学研究の時期は今回の研究と同じ時期に行われている か?

A; 引用した疫学研究は、DPC データをもとに収集した標準的な穿頭治療を受けた本邦の 慢性硬膜下血腫の症例が対象であり、神経内視鏡を用いた症例は含まれていない。時期に 関してはほぼ同時期であるが疫学研究において数年の違いがある。

Q; 再発予測因子として同定している柱状構造の処理まで行えば、より再発率が低減され るのではないか?

A; 可能性はあると考えるが、柱状構造は内部に血管を含有するものがあり、処置におい て出血リスクを伴う可能性を考慮すべきである。内視鏡手技は穿頭部からの到達可能範囲 や挿入可能デバイスに制限があるため、現時点では慎重に対応している。また、柱状構造 は多数みられることが多いが、再発リスク低減に必要な処理の数量なども明確ではない。

Q; 再発における出血リスクとなる内服歴に関しての検討はしているか?

A; 抗凝固薬や抗血小板薬は再発リスク因子として検討項目には加えている。既報では有 意なリスクとする報告もあったが、本研究においては有意なリスクとはならなかった。実 臨床において、患者背景に起因する出血リスクを、術者が事前に認識し、対処しているこ とが関係している可能性がある。

Q; 対象症例に無症候の症例が含まれているがどのようにして治療に至っているのか?

また無症候でも手術することがあるのか?

A; 慢性硬膜下血腫の手術適応に関して、症候性であるということの他に、血腫による脳 の圧迫所見が著明であるということがある。高齢者のケースでは脳の萎縮が強く、無症候 であっても検査で脳の圧迫が同定され、治療に至る症例がある。

Q; 再発因子として同定された隔壁構造を有する症例に関して、再発率はどの程度か?

A; 隔壁構造の開放を行っていない症例に関して 7 例中 6 例と高率に再発していた。

その他いくつか質問やコメントがあったが、発表者はいずれについても概ね的確に応答 した。

以上、内容の斬新さ、重要性、研究方法の正確性、表現の明確性および質疑応答の結果

を踏まえ、本論文は博士学位論文に値すると評価された。

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