︹特別寄稿︺
研究ノート
地理的表示の保護と商標制度
青木博文
第一 問題の所在
一 地理的表示とは何か︵定義︶
﹁地理的表示︵ΦΦoσ︒日廿巨6巴冒合6③註o⇒°︒︶﹂とは︑例えば︑ワインの﹁ボルドー﹂や﹁シャブリ﹂︑チーズの﹁ゴ
ルゴンゾーラ﹂︑磁器の﹁マイセン﹂等のように︑本来的にはある商品の産地名を示すものであるが︑その商品の
品質や特性が当該産地の地理的環境︵自然的環境・人的環境︶と密接に結びついているため︑需要者がその表示を
見ただけでその商品の確立した品質や社会的評価を思い起こす程度に市場に浸透している表示をいう︒
このような地理的表示は︑その表示自体が当該商品の出所や特定の品質及び名声を需要者に認識させ︑商品の差
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別化を図り商品購入の選択を促すものである︒すなわち︑商品の出所を識別しあるいは品質を保証する機能を有し︑
また顧客吸引力を伴った財産的価値を有するものということができる︒
我が国において︑法令用語として﹁地理的表示﹂の語が用いられているのは︑世界貿易機関を設立するマラケシ
ュ協定附属書一C知的所有権の貿易関連の側面に関する協定︵以下﹁TRIPS協定﹂という︒︶においてのみで
︵1︶
ある︒本稿でいう﹁地理的表示﹂の用語は︑右のとおり︑TRIPS協定二二条一項に定義する意味においてのも ︵2︶ のとする︒
二 地理的表示の性質および保護の意義
﹁地理的表示﹂は︑後述する歴史的背景やその機能にかんがみれば︑当該表示に係る農工業製品の生産者の永年 ︵3︶ の努力と知識の蓄積を化体したものであり︑一種の知的財産と認められる︒そして︑地理的表示を知的財産として
捉えた場合︑地理的表示の保護の実質的な意義は︑当該地理的表示が付された商品の品質.特性の維持による︑消
費者の誤認・混同の防止と︑当該地理的表示に係る財産的価値から生ずる利益の権利者への正当な配分にあるとい ︵4︶ えよう︒詳しくは後述するように︑特に欧州においては︑一世紀以上も前から︑虚偽の産地表示によって消費者に
誤認を生じさせることを排除するための制度的努力や︑特にワインについての原産地名称.地理的表示の︵国際的
な︶普及と一般名称化を防止するための試みが続けられてきた︒
国際的にも高い評価や営業上の信用を化体した著名な地理的表示が存在する場合︑その名声や顧客吸引力に便乗
して不当な利益を得ること︑あるいはそれによって︑その名声が稀釈化したり︑一般名称化してしまうことについ
ては︑それらが排除されるための何らかの措置をとることが必要となろう︒
三 現行の地理的表示の保護の基準
現行の地理的表示に関する保護の基準は︑その保護レベルに応じて︑一般的保護と追加的保護に分けることがで
弘・=般的保護Lとは・商品の地理的原産地について・虚偽のあるいは公衆を混同・誤認させるような地理的
表示が使用されることや商標登録されることを防止することであり︑﹁追加的保護﹂とは︑公衆の混同.誤認の有
無に関わらず︑当該地理的表示によって表示されている場所を原産地としない商品について当該地理的表示が使用︑ ︵7︶ 商標登録されることを防止することである︒
TRIPS協定等関連する諸条約で定められたこれらの保護は︑いずれもミニマムスタンダードである︒そして︑
これに対応する各国の法制は・フランスや鮭のように二地理的表示Lを乙゜巨︒・Φ曇゜・な権利として認め立法して ︵9︶ いる国︑地域もあれば︑米国のように︑証明商標制度で手当てしていると主張する国など︑相当のバラエティがあ
︵棚・ そして︑我が国においても︑後述するように︑さまざまな商品表示に関する法令で︑事実上︑対応しているのが
現状である︒
四 問題意識
我が国現行法制が︑地理的表示の保護に関する条約上の義務を遵守していることについては論ずるまでもないが︑
それとは別に︑地理的表示の保護の実質的な意義との関係において十分な措置がとられているか︑という観点につ
いては︑検討を要する問題である︒
地理的表示の保護と商標制度 ︵都法四十九−一︶ 五三
五四
本稿においては︑特に欧州を中心とした知的財産としての﹁地理的表示﹂の概念の発祥の歴史とその保護の意義
について再確認した上で︑我が国の﹁地域団体商標制度﹂に代表される商標法による保護の意義︵特に︑地理的表
示と商標との相違︶について検討し︑現状の問題点の整理と今後の制度の在り方についての考察を行うこととする︒
地理的表示に関する国内外の動きをみると︑WTO交渉の場においては︑TRIPS協定二三条の追加的保護の
対象となる商品範囲を拡大することや︑地理的表示の多国間通報制度の創設について検討することが︑ウルグア
イ.ラウンド後の再検討事項として︑現在も議論が行われている︒一方︑国内においては︑昨今︑特に問題となっ
ている食料品等の産地偽装からの消費者保護の問題や︑いわゆる﹁地域ブランド﹂の活用による地域活性化の動き
がある︒ このような情勢において︑地理的表示保護の本来的な意義の確認と我が国における適切な対応の議論は︑今後︑
更に必要性の高くなるものと思料する︒
第二 背景
一 地理的表示という法令用語について
﹁地理的表示﹂という法令用語は比較的新しいものである︒この用語が国際的な議論の場において初めて表れた
のは︑世界知的所有権機関︵WIPO︶での一九七五年の地理的表示に関する条約草案及び一九八〇年のパリ条約
一〇条の四の新設提案においてであった︒これら条約の締結のための会議はいずれも中座してしまったが︑WIP
・国際霧局はその後も国際的な研究フ﹃・フムにおいて地理的表示に関する調査゜研究を進めていつ︵熱・その傍
らで︑欧州を中心とした国際協定において︑例えば一九九二年の﹁農産品及び食品の地理的表示及び原産地名称の ︵12︶ 保護に関する共同体規則﹂︵心⊃Oo◎一\⑩心o︶や一九九四年のEU・豪州間のワイン・スピリッツに関する二国間協定など
において︑この﹁地理的表示﹂の用語が採用され︑これらと併行して交渉が進められていたウルグアイ.ラウンド
の成果物として︑一九九四年のTRIPS協定第二部第三節で定義されるに至った︒そして︑地理的表示について
は︵パリ条約以来の﹁原産地表示の虚偽表示の防止﹂のための措置を除き︶︑特許や商標など他の知的財産権の分
野に見られるような制度の国際的調和は殆どなされておらず︑各国においてその保護の法制・態様が著しく異なっ
ているのがその大きな特徴といえる︒
二 ﹁地理的表示﹂もしくは﹁原産地名称﹂の保護の歴史ーフランス
﹁地理的表示﹂あるいはその前身ともいえる﹁原産地名称﹂の保護制度の起源をたどると︑二〇世紀初頭のフラ
ンスに辿り彰・高倉成男﹁地理的表示の国際的竃﹂は・フランスにおける原産地名称保護制度発足の背景とし
て﹁シャンパーン事件﹂を紹介している︒すなわち︑一九世紀末︑好景気下にあった欧州では︑シャンパーンの消
費が急激に拡大し︑メーヵ1やネゴシアンがシャンパーニュ地方以外の産地のぶどうやワインをシャンパーンに混
入した︒これに激怒したシャンパーニュ地方のぶどう栽培農家が暴動を起こし︑これを契⁝機としてフランス政府が ︵15︶ シャンパーンに使用するぶどうの栽培地の法的境界を定めたというものである︒
フランスにおける法的な制度としては︑一九〇五年に法律によって︑行政機関が原産地名称に係る産品の生産地
域を確定することができることとしたのが最初である︒しかし︑複雑に利害の絡む生産区域の確定は︑当時の行政
機関では難しく︑その制度では対応が困難であったので︑争いがある場合には裁判によって産品の生産区域等の確
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定などを行うための法律が制定された︒一九一九年の﹁原産地名称の保護に関する法律﹂︵以下﹁原産地名称保護 法﹂という︒︶である︒その後︑この制度は全国レベルのものに発展し︑ワインと蒸留酒の名称ごとに生産区域︑
ぶどうの品種︑ヘクタールあたりの単収︑最低アルコール度などを予め定める統制原産地名称︵宕bo自昌o⇒°︒
確立していったといえる︒ ︵19︶ 原産地名称全国機関︵INAO︶﹂が設立されたことにより︑フランスにおける原産地名称の保護に関する制度は 制度に関する法律︵以下﹁AOCワイン法﹂という︒︶﹂が制定され︑さらに︑一九四七年に﹁ワインおよび蒸留酒 び
ユ.尓?吹B○○昌δぽΦ︵AOC︶︶制度の創設が試みられ︑一九三五年の﹁ワイン市場の保護およびアルコールの経済
右の各法令で定めるフランスの原産地名称の保護制度は︑おおむね︑以下のとおりで五劉︒
まず︑保護の対象となる﹁原産地名称﹂とは︑商品の原産地を示し︑その産品の品質と特質が産地の自然的要素
と人的要素を含む地理上の条件に由来することを示すため︑産品に国︑地方︑あるいは︑地域の名称を表示するも ひ のである︒保護される原産地名称を確定する手続きは︑①裁判によってその原産地名称の使用の条件を確定する方
法︑②政府が業界の意見を聴いて政令で定める方法︑③統制原産地名称︵AOC︶制度による方法のいずれかであ
るが︑昨Aマは︑③が主要な役割を果たしている︒AOCは︑INAOが関係生産組合と協議し︑原産地名称産品の
名称の使用と生産の条件について原案を作成し︑これを基に政令が策定され︑原産地名称を管理または統制するも
のである︒この政令は︑各原産地名称に係るAOC産品ごとにその生産条件︵生産地域︑原料︑アルコール含有量︑
基本単収︑分析.検査等︶について細かく規定しており︑それら条件を満たしていないものは当該原産地名称を表
示することが認められず︑これに違反して購入者を誤信させるような表示を行った場合には︑法律によって罰せら
れる︒ 原産地名称を構成する地理上の名称は︑類似の産品に使用することはできず︑また︑その名称が︑原産地名称の
産品の名声を害したり︑弱めたりする可能性のある場合は︑類似産品以外の他の産品についても使用することはで
きない︒原産地名称が不正確と知りつつ︑未加工のあるいは加工された産品を販売︑流通させた者には︑三か月以
上の禁固および罰金が科される︒また︑当該行為によって損害を受けていると考える者および当該原産地名称の権
利に関係する団体は︑当該表示の使用の差止めや損害賠償を求めることができる︵フランス消費者法典巨㌫ーベい
一﹂ひー°︒︶︒
かかるフランスの原産地名称制度については︑知的財産制度というよりは︑農業政策と見る方が適当であるとい
︵22︶ う見解もある︒たしかに︑この制度は︑農産品・食品の品質を原産地名によって証明し︑商品についての信用を維
持することによって商品の付加価値を高め︑︵海外品を含め︶商品の差別化を可能にすることを目指すものであり︑
これにより生産者の利益を守り︑地域農業を振興することを目的とするものといえる︒一方で︑このように地域と
の密着性の強い商品について蓄積された商品製造のノゥハゥや伝統的な生産方法を厳格に維持することによって当 ︵23︶ 該原産地名称に化体された信用や名声は︑一種の知的財産ともいえよう︒商品を原産地という視点で捉えることに
よって原産地名称商品は︑文化や歴史や地域を体現しつつ︑かつ︑質や安全性も確保していることを需要者に伝え︑ ︵24︶ 商品の差別化や顧客の吸引を図っている︒実際上︑ワインのラベルの表示はシンプルである︒それは︑原産地名称
自体が当該ワインの出所を表示し品質を保証しているものであるから︑多くの品質や生産方法に関する記載は不要
なのである︒その反面︑その原産地名称の登録や地理的範囲等の確定にあたっては︑厳しい品質基準の遵守が求め
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られる︒ さて︑フランスにおいては︑第二次世界大戦の後︑AOCワインの経済的成功が次第に認められ︑原産地名称制
度が輸出の振興︑条件不利地域の経済の維持・発展に果たす役割も認識されるに至った︒そして︑国内においては︑ ︵25︶ さらに︑AOCには達しないが保護すべき原産地名称ワインを﹁VDQS﹂として表示させる法律の制定や︑AO
C制度をチーズその他の食料品にも適用しfNAOの権限拡大とAOC制度の拡充を図つ︵煙・芳・イタリアや
スペインなどでも・フランスの成功に倣い・原産地名称制度の充実゜整備が図ら提・
国内に著名な地理的表示を有し厳格な統制制度を有するフランスは︑EC内においても地理的表示保護を最も強
く主張する国であり︑域内国間においてもドイッ︑スペイン等との間で二国間協定を結ぶなど積極的な活動を行っ
てきた︒同じく︑EC全体においても一九入○年代から︑加盟国全域に効力の及ぶ地理的表示保護のためのルール
作りが行われた︒爾来︑今日に至るまで︑数々の共同体規則が成立・改廃し︑これらが複雑に入り組んで規制され
ているのが︑現行のECにおける地理的表示の保護制度である︒
三 ECにおける地理的表示保護制度の概要
ECにおける地理的表示の保護制度の特徴は︑各商品︵実際には農産品・食品︶の品質の維持︑市場における安
定供給などを目的とした総合的な農業政策の中で︑地理的表示を当該農産品・食品の品質的特徴を特定する表示と
して登録保護し︑登録された地理的表示の権利者に︑他人による同一又は類似の表示・商標の使用を排除するため
の権利行使を可能にし︑また︑場合によっては地理的表示が商標に優先するとも思われる調整嚢を設けている点
である︒かかるECの地理的表示保護制度は︑①ワイン︑②スピリッツ︑そして③これらを除く農産品および食品
と︑大きく三つの体系に分かれて定められている︒その概要は以下のとおりである︒
︵一︶ワインに関するEC規則
ワインの地理的表示に関するECの規則の原型として︑以下の二つが挙げられる︒すなわち﹁ワインについての ︵29︶ 共同体市場構造に関する一九八七年五月一六日の共同体規則 ︵o◎心oN\Q◎べ︶﹂と︑﹁特定地域高級ワインに関する特別 ︵30︶ 措置を定める一九八七年五月一六日の共同体規則︵o◎心oω\o︒べ︶﹂である︒
EC規則︵Qo心o心o\Ooべ︶は︑ワイン生産性の向上のための製造及び管理に関する規則︑ワイン醸造の実務と工程に関
する規則︑料金システムと市場介入その他市場環境整備のための規則︑第三国との貿易に関する調整並びに市場流
通・市場開放に関する規則を定めることを目的として制定された︒この規則は一九九九年五月にEC規則︵一おc︒\
︵31︶
お㊤Φ︶に置き換えられた︒新規則でも当初の立法趣旨は一条で確認されている︒また︑新規則五〇条では︑﹁地理
的表示﹂についてTRIPS協定を引用して定義し︑加盟国はTRIPS協定二一二条及び二四条を遵守するために
必要な措置を設けなければならない旨規定している︒
次に︑EC規則︵○◎ト⊃己o\ooべ︶であるが︑これは特定の要件を満たしているワインの地理的な表示の登録制度という
ことができる︒同規則の目的とするところは︑高品質ワインの品質に関するミニマムスタンダードを維持すること
によって︑野放図なワイン製造を排除し︑公正な取引慣行を確立するために加盟国の関連規定を調和させること等
にあるとされる︵前文︶︒制度の概要は以下の通りである︒まず︑ワインに関しては︑﹁特定地域高級ワイン︵ε阜
﹂蔓≦雪o︒︒︑︑霧﹃︒.︵肩o合80日c・駕○昌o巳苫oaざ霧︶﹂の概念が定義されている︵一条二項︶︒特定地域とは︑ワインの生
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産地またはワインの生産地の結合体であって特定の品質的特徴を有し︑当該表示がワインの特徴を表示するものと
して使用されているものをいう︵三条一項︶︒いわば限定された地域での高品質ワインである︒特定地域は原則と ︵32︶ して特定の地理的名称︵o︒①oo︒日廿巨︒巴日∋Φ︶で表示されなければならない︵一五条三項︶︒EC加盟国で特定地域
高級ワインと認定されたものは︑当該名称と国内法の適用規定とともに欧州委員会に提出される︒委員会は認定さ
れた特定地域高級ワインのリストと関係国内法令を公報に掲載する︵一条︶︒その認定にあたってはワイン製造に
係る伝統的な条件を考慮する必要があり︑具体的には︑製造地の境界画定︑ぶどう品種︑栽培方法︑ワイン製造方
法︑最低アルコール含有量︑一ヘクタールあたりの収穫高︑感覚器官による特徴の分析及び評価等厳格な基準が設
けられている︵二条︶︒ある加盟国で特定地域高級ワインの特定地域名として認定されたときは︑当該地域以外で
生産されたワインや当該地域で製造された場合であっても所定の基準に合致していないワインについては︑当該地
域名を表示することは禁止される︵一五条四項︶︒
︵二︶スピリッツに関するEC規則 ︵33︶ ﹁スピリッツ飲料の定義.表示および標章に関する一般規定を定める共同体規則︵一〇べΦ\Q◎⑩︶﹂は︑スピリッツ飲
料の共同体農業政策における重要性に鑑み︑その品質基準の維持及び特定地域において有する特性や財産的価値を
化体した地理的名称の出所表示性を確保し︑これがパブリック・ドメインや一般名称となることを防止すること等
を目的として︑スピリッツ飲料の定義︑銘柄及び表示に関する一般規則を定めるために成立した︒一条四項では︑
スピリッツを口ξ∨司巨゜・貫bd﹃芦身等のように分類してそれぞれ定義し︑この定義と異なる商品についてこれら表
示を使用することを禁止している︵五条一項︶︒また︑これら表示に加えて︑需要者に混同を生じさせないことを
条件として地理的表示︵σqΦoσq日b巨o巴巨合6豊自゜︒︶又は地理的名称︵o︒Φoσa日b巨6巴q︒°︒お冨江05°︒︶を付記することが
できるとする︵同条二項及び三項︶︒そして︑このような地理的名称は︑商品製造の過程でその特性又は特定の性
質が当該表示に係る地理的場所に依拠する場合に保有されるものであり︑加盟国は各領域において共同体規則と調
和した形で特別の国内法を適用することができ︑また︑当該法令で地理的領域における商品の製造と品質について
規則を設けることができる︵同条三項︶︒具体的に保護の対象となる地理的名称は︑同規則附属書2でリスト化さ
れている︒加盟国政府は︑スピリッツに関する共同体の法令の遵守状況を監視する機関を設置しなければならない︒
附属書2のリストに係る商品の域内流通については︑そのような監視及び保護は︑行政機関により証明された商業
文書及び適切な登録により確保されるべきことを規則所定の手続により委員会で決定することができる︵一〇条一
項︶︒また︑附属書2の商品で輸出に係るものについては︑理事会は詐欺的行為や偽造を排除するための認証文書
システムを設置しなくてはならない︵同条二項︶︒
スピリッツの地理的な表示の相互認証に関する二国間協定は︑ECと︑スイス︑メキシコ及び米国との間で締結 ︵34︶ されている︒
︵三︶農産品および食品に関するEC規則︵心︒O°︒﹂\q⊃N︶ ︵35︶ ﹁農産品および食品の地理的表示および原産地表示の保護に関する共同体規則︵心︒O°︒一\⑩N︶﹂は︑一九九二年七月
のEC農相理事会で採択され︑一九九三年に発効した︒この制度の理念とするところは︑①真正産地の生産者の知 ︵36︶ 的努力へのただ乗りを排除すること︑および②消費者の産地についての正しい認識を確保すること︑とされる︒規
則の保護対象品目は︑ローマ条約附属書2に記載される農産品及び本EC規則附属書1の食品及び附属書2の農産
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品とされるが︑ワイン及びスピリッツは除かれる︵一条一項︶︒ ︵37︶ 制度の仕組みは︑おおよそ以下のとおりである︒
まず︑保護の客体となる表示は︑﹁PDO︵印08含80Φ゜・曹昌o⇒o﹃O§︶﹂と﹁PGI︵零9︒99Φ8鴨e字
6巴甘合゜9ざ田︶﹂に分けられる︒前者はリスボン協定二条一項の﹁原産地名称﹂︑後者はTRIPS協定二二条一項
の﹁地理的表示﹂の定義にそれぞれ準ずるものであり︑保護の要件としてはPDOの方がPGIよりも厳格となっ
ている︵二条二項︑四条︶︒具体的には︑PDOは︑生産物の品質又は特性が固有な自然的及び人的要素を含む限
定的な地理的環境に本質的又は排他的に起因することを示す名称であって︑したがって︑PDOとして登録される
ためには︑生産・加工及び仕上げは︑登録された指定地域内で行われなければならない︒これに対しPGIは︑生
産物の品質︑社会的評価又はその他の特性が地理的原産地に帰せられることを示す名称であって︑したがって︑生
産︑加工又は仕上げが登録された指定地域内で行われなければならない︵二条二項︶︒PDO又はPGIの有効な
使用のためには︑各名称に係る明細書︵゜・bΦ6巳o豊05︶に適合していることが条件である︒明細書には少なくとも
以下のものを含んでいなくてはならない︒すなわち︑各農産品・食品の名称︵原産地名称又は地理的表示を含む︒︶︑
当該産品の説明︑地理的地域の指定︑当該産品が当該地域で生産されていることについての証拠︑当該産品の生産
方法︑当該名称が地理的環境に帰因することについての詳細な説明︑当該名称の検査機構についての詳細︑当該名
称のラベル表示法の詳細︑その他共同体又は国内法所定の要件︑などである︵四条︶︒PDO又はPGIを登録す
るためには︑当該名称に係る産品が生産される加盟国の管轄機関に上記明細書を含んだ書類をもって出願しなけれ
ばならない︵五条︶︒出願を受理した国の機関は︑出願に係る表示について審査し所定の要件に合致している場合
には当該名称を欧州委員会へ通知する︵五条︶︒当該名称が委員会の方式審査を経てECの公報に公告された後六
か月以内にいずれの加盟国からも異議申立がない場合は︑当該表示は委員会が管理する登録簿に登録される︵六
条︶︒異議申立がなされた場合は・委員会はそれに三て関係国との調整も含め審査し決定を下す︵︵38︶七条︶・
PDO又はPGIの登録の効果としては︑他人による以下のような行為に対する保護が与えられる︒すなわち︑
①登録された名称の直接的又は間接的な商業使用で︑それが登録された産品と同一でなくても︑それと類似︵8日
冨日臣Φ8︶の商品又はその名称の名声を搾取するような使用であるもの︑②真正原産地名を付した場合︑当該名
称の翻訳である場合︑﹁〜型﹂・﹁〜様式﹂といった表示を伴う場合であっても誤った使用や模倣である使用︑③そ
の他産品の原産地︑性質︑品質等について虚偽又は誤認を生じる包装・広告・取引文書等における使用︑などに対
しては︑差止めを請求することができる︵=二条一項︶︒一方︑登録されたPDO又はPGIの品質維持︵明細書
に適合していること︶を監視するシステムとして︑加盟国は検査機構を設置しなければならない︵一〇条一項︶︒
また︑いずれの加盟国も︑登録されたPDO又はPGIに係る農産品・食品の明細書の要件が︑実際の産品におい
て適合していない場合は︑これを当該管轄加盟国に申告し審査を要請することができる︒その結果は欧州委員会に
提出され︑委員会はこれを審査して・場合によっては登録の取消に至るものもある︵ ︵39︶二条︶・
四 小括
以上述べた︑フランス︑ECにおける原産地名称ないし地理的表示の保護制度の特徴についてまとめれば︑以下
のことがいえよう︒
原産地名称.地理的表示の保護は︑基本的に︑行政機関︵農政担当部局︶の審査を経た上で登録・リスト化する
ことにより︑保護対象を公示し第三者の予見性を確保し︑また普通名称化を防いでいること︑②保護対象の確定お
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よび登録にあたっては︑当該商品の品質︑生産地域︑生産方法等についての厳格な基準が法定され︑権利主体には
これに適合した明細書の提出が求められること︑また︑実際の商品の品質が当該明細書の要件に適合していないと
きは︑登録の取消しもあること︑これらのルールにより︑地理的表示とそれが保証する商品の品質との関係が担保
されていること︑③登録によって与えられる保護としては︑登録時の所定の︵政令または明細書︶の条件を満たさ
ない︑虚偽または誤認を生じさせる使用の禁止︑他人による類似する商品への当該表示の使用の禁止︑地理的表示
に係る商品の名声を害する他人の使用︵商品の類否に関わらない︶の禁止︑そして︑④前記③の行為に対する制裁
としては︑行政による禁止や刑事罰の適用に加えて︑私的な権利行使としての損害賠償︑差止めが認められる場合
もあること︑などである︒
第三 現行の我が国法制における地理的表示の保護の概要
以下では︑我が国における商品や役務についての表示に関する多種多様な法規制について︑各法律の下で地理的
表示の保護はどの程度可能となっているかといった観点から概観してみる︒
一 JAS法
農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律︵昭和二五年五月一一日法律第一七五号︶︵以下﹁JAS
法﹂という︒︶は︑適正かつ合理的な農林物資の規格を制定し︑これを普及させることによって︑農林物資の品質
の改善︑生産の合理化︑取引の単純公正化及び使用又は消費の合理化を図ると共に︑農林物資の品質に関する適正
な表示を行わせることによって一般消費者の選択に資し︑もって公共の福祉の増進に寄与することを目的としてい
る︵一条︶︒同法の規定により農林水産大臣が制定する﹁規格﹂とは︑﹁日本農林規格︵JAS規格︶﹂であり︑こ
のJAS規格において定める名称が︑当該規格において定める生産の方法とは異なる方法により生産された農林物
資についても使用されており︑これを放置しては一般消費者の選択に著しい支障を生ずるおそれがあるため︑名称
の表示の適正化を図ることが特に必要であると認められるものとして政令で定めるもの︵指定農林物資︶について
は︑当該名称の表示を付してはならない︵一九条の一〇︶︒これに違反した者に対しては︑農林水産大臣は当該表
示の除去.抹消の命令をし︑当該農林物資の販売等の禁止をすることができる︵一九条の一一︶とされている︒
JAS規格の本来の趣旨は︑法目的の前段からも明らかなように︑各県において異なっていた農林物資の規格を
統一し︑これを普及させ︑取引の単純公正化を図ることにあるものであるから︑地域ごとに固有の品質・産地基準
を設けるような地理的表示制度は馴染まないものといわ麩・
また︑同法では︑一般消費者の選択に資するため︑品質に関する表示︵原産地表示を含む︒︶を制定することを
定めているが︑これも現行制度上は︑原産地表示は正しい原産地を表示すればよいこと︑生産方法に特色があるも
のは︑かかる品質表示基準の対象外とされている︵一九条の八︶等︑固有の品質や特徴を有する地域特産品の保護
を対象とし︑生産者の利益︑地域産業の振興を目的とする地理的表示保護制度とは馴染まない仕組みといわざるを
えないであろう︒
一一
団法
酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律︵昭和二八年二月二八日法律第七号︶︵以下﹁酒団法﹂という︒︶は︑
地理的表示の保護と商標制度 ︵都法四十九ー一︶ 六五
六六
酒税が国税収入のうちにおいて占める地位にかんがみ︑酒税の保全及び酒類業界の安定のため︑酒類業者が組合を
設立して酒税の保全に協力し︑及び共同の利益を増進する事業を行うことができることとするとともに︑政府が酒
類業者等に対して必要な措置を講ずることができるようにし︑もって酒税の確保及び酒類の取引の安定を図ること ︵41︶ を目的としている︵一条︶︒酒団法では︑TRIPS協定二三条一項及びその脚注に対応する形で︑八六条の六
︵酒類の表示の基準︶を設け︑酒類の表示の適正化を図るために︑酒類の製法︑品質その他これらに類する事項の
表示について︑酒類業者が遵守すべき必要な基準を定めることができるとし︑財務省告示でこれを定めている︒具
体的には︑TRIPS協定二一二条の規定振りをそのまま示した﹁地理的表示に関する表示基準﹂︵平成六年一二月
二八日国税庁告示第四号︶によってぶどう酒︑蒸留酒または清酒について日本の産地表示で国税庁長官が指定する
もの及びWTO加盟国のぶどう酒または蒸留酒の地理的表示で当該産地以外の地域を産地とするものについては︑
たとえ真正の原産地が表示されている場合︑翻訳での使用である場合︑あるいは﹁種類﹂︑﹁型﹂等の表現を伴う場
合であっても使用してはならないとしている︒また︑日本の産地表示で国税庁長官が指定するものとしては︑現在︑
しょうちゅうについては︑﹁壱岐﹂︑﹁球磨﹂︑﹁琉球﹂及び﹁薩摩﹂の四つが︑清酒については﹁白山﹂が︑それぞ
れ︑告示されている︵平成七年六月三〇日国税庁告示第六号︶︒これらの基準に関し︑特に表示の適正化を図る必
要があると認められる事項については︑財務大臣は酒類業者に対し基準を遵守すべきことを命令することができ
︵入六条の七︶︑これに違反したときは罰金に処する旨定めている︵九八条二号︶︒
酒団法に基づく表示規制は︑酒税の確保と取引の安定を図ることを目的とするものであり︑品質保証を直接の目
的とするものとは言いがたい︒行政規制であるから︑保護対象である﹁地理的表示﹂といっても︑当該生産者等に
私的な権利行使を認めるものではなく︑EC規則に定めるような強い権利とはいえない︒しかしながら︑政府によ
り定められた商品の品質や製造方法等の要件を満たした産地表示を地理的表示として公示し︑第三者の予見性を高
めていることや商品の品質の維持が規則により担保されている点において︑フランスの原産地名称制度に共通する
ところもある︒また︑このような保護制度に我が国のしょうちゅうの地理的表示を載せていることにより︑TRI
PS協定二四条に基づく国際的保護を期待することもできる︒
三 不正競争防止法
不正競争防止法︵平成五年五月一九日法律第四七号︶は︑事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的
確な実施を確保するため︑不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ︑もって国民経済の
健全な発展に寄与することを目的︵一条︶として制定された法律である︒法律の構成としては︑同法二条一項各号
で定義し類型化する﹁不正競争﹂行為に対し︑それによって営業上の利益を害され又は害されるおそれのある者の
請求により︑当該行為の差止︑損害賠償︑信用回復等の権利行使を認めるものである︒二条一項二二号では︑﹁商
品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の生産地︑品質︑内容︑製造
方法︑用途若しくは数量若しくはその役務の質︑内容︑用途若しくは数量について誤認させるような表示をし︑又
はその表示をした商品を譲渡し︑引き渡し︑譲渡若しくは引渡しのために展示し︑輸出し︑若しくは輸入し︑若し
くはその表示をして役務を提供する行為﹂を不正競争とし︑民事上の措置として︑それにより営業上の利益を害さ
れた者に差止請求権︵三条︶及び損害賠償請求権︵四条︶を認めるとともに︑刑事上の措置として︑不正の目的で
行った者又は虚偽の表示をした者については刑事罰も設けている︵一四条一号及び二号︶︒このような措置は︑T ︵42︶ RIPS協定二二条二項に対応するものといえる︒
地理的表示の保護と商標制度 ︵都法四十九ー一︶ 六七
六八
最近︑社会問題化している食品等の産地偽装事件においては︑多くは不正競争防止法に基づき立件されているよ
うである︒しかしながら︑不正競争防止法は︑事後的な行為規制であり︑保護すべき対象を予め登録・公示して予
見可能性を高めたり︑商品の品質の保証を図るものではないことに留意すべきである︒
四 その他の表示規制法
商品又は役務について誤認を生じさせる表示を含む不適正な表示に対しては︑不正競争防止法による規制のほか︑
様々な法律による規制が行われている︒例えば︑不当景品類及び不当表示防止法︵景表法︶は︑商品又は役務の品
質︑規格その他の内容又は価格その他の取引条件について︑実際のもの又は競争事業者のものより著しく優良又は
有利であると一般消費者に誤認されるため︑不当に顧客を誘引し︑公正な競争を阻害するおそれがあると認められ
る表示を禁止し︑その違反に対する公正取引委員会の排除命令等を定めている︵四条および六条︶︒これは本来的
には消費者保護のための措置といえるが︑その反射的効果として地理的表示が保護されると見ることもできよう︒ ︵43︶ ただし︑同法もまた︑事後的な行為規制型である点において前記不正競争防止法と同様である︒
五 商標法︵地域団体商標制度︶
︵一︶地域団体商標制度
商標法︵昭和三四年四月三日法律第一二七号︶は︑商標を保護することにより︑商標の使用をする者の業務上の
信用を図り︑もって産業の発達に寄与し︑あわせて需要者の利益を保護することを目的とする︵一条︶︒平成一七
年の法改正により制定された地域団体商標制度の立法趣旨は︑発展段階にある地域ブランドの保護にあるとされて
︵44︶
いる︒一般に﹁地域ブランド﹂というと︑その商標の態様は様々であるが︑法で定める﹁地域団体商標﹂の対象と
なるのは︑基本的に︑商品の産地名と商品名を表示する文字のみからなる商標である︵七条の二第一項各号︶︒そ
のような商標は︑従前の商標制度では︑全国的な知名度がなければ商標登録は認められなかった︒しかしながら︑
それを獲得するまでの間は他人の便乗使用を排除することができず︑また︑他人の使用により︑出願人の商標とし
ての知名度の獲得がますます困難になるという問題があった︒これを解消するため︑全国的な需要者との関係では
十分に出所識別⁝機能を有しているとまではいえない段階にあっても︑商標登録を受けることができるようにした︑
というものである︒
地域団体商標は︑通常の商標に比較して︑登録要件の一つであり商標の本質的要件である﹁識別性﹂のハードル
が低くなっている︒とはいえ︑登録された商標権は全国に及ぶ排他独占権であるから︑そのバランスを図るため︑
識別性以外の登録要件や︑権利の効力に関して︑特有の制約を受けることとなっている︒例えば︑商標権者である
組合に属さない善意の使用者の当該地域団体商標またはそれに類似する商標の先使用権に関する要件が緩和されて
いること︵三二条の二︶︑商標登録の無効審判の請求の除斥期間の適用が基本的にないこと︵四七条一項︶︑後発的
な登録無効事由を設けていること︵四六条一項六号︶︑また︑出願時に現実の使用や相当程度の周知性が要件とさ
れているので権利化できる指定商品の範囲が必然的に狭いこと︑など多々挙げられる︒これらの点を考慮すると︑ ︵45︶ 地域団体商標権は通常の商標権に比して︑必ずしも安定的な権利であるとはいい難い︒
︵二︶地域団体商標と地理的表示との実質的な相違
地域団体商標と地理的表示との相違点について言及する前に︑両者の共通点について確認してみたい︒両者はい
地理的表示の保護と商標制度 ︵都法四十九−一︶ 六九
七〇
ずれも︑事業者が自己の商品の取引のために使用する標章であり︑需要者に商品の出所を表示し︑品質を保証する
機能を有し︑権限を有しない他人による当該標章︵表示︶の使用を排除するための権利行使や罰則の根拠となると ︵46︶ いう点で共通する︒また︑地域団体商標は︑産地との密接な関連性を登録要件としているため︵七条の二第二項︶︑
地理的表示に通じる要素が導入されている︒たとえば︑権利主体である組合に対し︑正当な理由なく︑構成員たる
資格を有する者の加入︵すなわち︑当該地域団体商標の使用︶を拒むことを︑間接的ではあるが︑禁止しているこ
と︵七条の二第一項︶や︑前述の先使用権の要件を緩和することにより︑それぞれ︑産地に関する基準を満たす第
三者︵権利主体以外の者︶による当該商標の使用を確保していること︑権利範囲を定める指定商品の表示は実際上︑
商品の産地や品質に関する制限が多く含まれること︑権利の譲渡やライセンスが制限されること︵二四条の二︑三
〇条︶︑などである︒
︵47︶ 次に︑両者の実質的な相違点としては︑以下のものが挙げられよう︒
まず︑①保護の目的としての﹁品質保証﹂の意義の相違である︒すなわち︑一般に︑商標の機能としての品質保
証とは︑同じ商標を付している商品は均一の品質を有している︑というものであり︑=疋の品質基準をクリアして
いることを登録の要件として政府または国が保証するものではない︒地域団体商標に係る登録要件や商標登録の取
消制度︵五三条︶により品質保証機能を補完しているとはいっても︑結局のところ︑それは︑権利主体の自律的な
品質管理に委ねられ︑その責任は権利主体に帰せられる︒これに対し︑地理的表示の場合は︑制度自体︵例えば︑
前述のとおり︑フランスにおいては政令︑EC規則においては明細書提出制度︶が当該商品の品質︵特に︑﹁当該 ︵48︶ ︵49︶ 産地に帰せられる品質﹂を意味する︒以下同じ︒︶を保証しているということができる︒
これに関連して︑②これらの標章・表示の登録のための法令・基準の策定や審査を担当する公的機関の役割も相
違してこよう︒地域団体商標︑すなわち商標の本質的機能は出所表示機能であるから︑登録審査の主眼は︑出願毎
に異なる指定商品との関係における当該商標の識別力の有無である︒これに対し︑地理的表示の本質的な機能は商
品の品質の保証であるから︑これに係るルールの策定や登録審査を管轄する機関には︑当該商品分野における商品
の品質︑産地︑生産・製造方法等に関する技術的・専門的な知識や経験が求められよう︒
次に︑③権利の効力についての相違が挙げられる︒登録地域団体商標の効力範囲は︑指定商品と同一または類似
の商品についての使用までである︵三七条︶のに対し︑地理的表示の保護範囲は︑前述のフランスやECの制度に
みられるように︑類似の商品への使用はもとより︑混同を生ずるおそれのある商品や︑当該地理的表示の名声を害
する行為への規制にまで効力が及ぶ規定となっている︒尤も︑この点については︑日本と欧州の商標法における商
標権の効力範囲の相違の問題に置き換えられるかもしれない︒しかしながら︑前記Oで述べたように︑地域団体商
標の権利の効力範囲は通常の商標権に比べても︑狭く︑かつ︑不安定な要素を残すものであることに変わりなく︑
欧州における地理的表示の保護範囲とは相当に異なるものといえよう︒
そして︑④普通名称化の問題も挙げられよう︒一般に︑商標については︑登録後に普通名称になってしまったも
のは︑そもそも商標としての自他商品識別機能を果たさないものであり︑登録されていても効力を有しないものに ︵50︶ なる場合がある︒一方︑地理的表示の場合︑制度の建前上︑登録されたものについては普通名称化はない︑と考え
られている︒商品の品質や特性がその地理的原産地に帰せられるものであり︑それが登録され︑その品質︑特性を
有する商品についてのみ排他的に使用されるものであるから︑これが一般名称︑普通名称にはなり得ないという考
え方である︒反面︑そのような地理的表示保護制度がない場合は︑得てして普通名称になりやすいのが地域名を用
地理的表示の保護と商標制度 ︵都法四十九ー一︶ 七一
七二
いた表示の宿命ともいえる︒したがって︑普通名称化の防止こそ︑地理的表示の権利者にとっては︑地理的表示の ︵51︶ 登録・通報制度の創設への要請の大きな理由の一つといえよう︒
第四 今後のあり方について
一 商標制度の活用の可能性
地域団体商標制度の立法趣旨は︑前述のように︑発展段階にある地域ブランドの保護にあるとされている︒欧州
のような︑地理的表示を゜︒已σ︒①⇒Φ書な権利として認める保護制度が存在しない我が国において︑地理的表示を地
域団体商標として登録し︑商標登録制度の下で︑その保護レベルを高めていく手法も理論上はあり得る︒すなわち︑
まず︑ある程度知名度を得た地理的表示を︑実際の使用商品を指定商品にして地域団体商標として登録する︑登録
地域団体商標の継続的な使用により識別力を高め︑次に︑通常の商標として登録する︵商標法三条二項︶︑さらに︑
その著名性を高め︑指定商品とは異なるが混同を生ずるおそれのある商品について防護標章登録︵六四条︶をする︑ ︵52︶ といった方法である︒しかしながら︑このような方法は︑通常︑相当の時間を要することが予想される︒
一一我が国における地理的表示保護制度創設の可能性について
以上みてきたように︑地理的表示保護の実質的な意義というものを考慮すれば︑地域団体商標制度を含め我が国
の既存の法制では︑十分な措置を講じているとはいい難い︒また︑食品等の産地表示に関する複雑な法制や行政の
仕組みも問題視されているのが現状である︒
このような状況を踏まえ︑今後︑地理的表示保護の本質を正面から捉えた︑商品の品質の保証︑地域産業の振興︑
そして消費者の利益を目的とする立法について検討する必要があるのではないか︒また︑これを国際的な文脈でみ
れば︑我が国固有の伝統や文化の培われた産品︑商品を国際的に発信し︑かつ︑模倣等の被害から守っていくため
には︑国内に地理的表示保護制度を確立し︑TRIPS協定二四条に規定する国際的スキームに載せていくことが ︵53︶ 効果的︑という理論もあろう︒もちろん︑現行の商標制度においても︑地域団体商標登録に基づき︑商標の国際登
︵融︶ 録制度を利用する道はあるが︑前述のように︑商標制度の枠内での制約がある︒
ただし︑そのような地理的表示の保護制度の検討に当たっては︑再度︑真にかかる制度による保護に値するもの
が我が国においてどの程度存在するかについての検証が必要であろう︒特に︑保護対象となる﹁地理的表示﹂の定
義に関わる﹁産地﹂との関連性や﹁社会的評価﹂の取扱いには注意を要する︒﹁産地﹂との関係でいえば︑我が国
において過去には︑商品の品質︑特徴が産地に帰せられていたものも現在では産地との関係が希薄になってしまっ
たものも多いと聞く︒その関連性についてあまり厳格にみると︑保護の対象がなくなってしまうというおそれもあ
ろう︒我が国の地理的表示保護の必要性と︑産地との関連をどの程度にとらえるかのバランスを考慮した︑いわば ︵55︶ 線引きの問題といえるかもしれない︒
また︑このような検証と併行して︑真に保護に値する我が国固有の地理的表示を育て発展させていくことが今後
の地域の問題として︑および国の政策として求められることと考える︒そのような意味で︑地域団体商標としての
登録を契機として︑これをより広く強い権利保護の形態としての地理的表示に発展させていく可能性も考えられよ
︵65︶・つ︒