●現代文化とマス・メディア
ア メ リ カ の 宗 教 と 政 治
テレビ伝道の台頭とそのゆくえ武田道生
わが国では︑一九八七年以来︑NHKが衛星放送を開始した︒
民間ではJSBが映画やスポーツを中心とした番組編成の
WOWOW局を開始し︑現在では百万を越える世帯が契約してい
る︒NHKの方はその数倍にも上っている︒もっともこのバブル
崩壊後の不景気でWOWOWは︑思ったより契約数が延びず青息
吐息のようであるが︒
民間では株式会社日本通信が大型衛星を打ち上げ︑中継器を
リースする事業を開始している︒これに大いに関心を示している
宗教団体は多い︒現在のところ︑日本電信電話(NTT)の衛星
ビデオ通信サービスを利用して中継を行っている企業は多く︑各
地の支社間でスクリーンや巨大プロジェクターで会議や情報のや
り取りを行っているといわれる︒またこの効果を一番有効利用し
ているのは教育産業ではなかろうか︒例えば︑大手予備校の河合
塾は︑全国のゴフンチ校に人気教師の授業を同時中継する褒ア
ライト授業・遠隔講義システム孫悟空プロ﹂を開始している︒
代々木ゼミナールも同様だし︑さらには︑こうした予備校の授業
を地方の私立学校などが正規の授業として取入れているのが現状
である︒ 宗教団体では︑特に阿含宗が熱心で︑一九八七年春には東京三
田の関東別院の落慶法要を放送衛星を使って北海道本部と九州支
部に設置した巨大なスクリーンで同時中継した︒以来︑毎月一回︑
ついたち桐山靖雄管長が導師をつとめる朔日縁起宝生護摩を各地の支部に
かざん中継している︒特に︑本部聖地の京都花山で毎年二月=日に行
う最大の行事﹁宝生・解脱大柴灯護摩供(ほうしょう・げだつだ
いさいとうごまく)﹂(通称阿含星まつり)の一九八八年のセール
ス・ポイントは︑衛星同時中継で︑京都に行かずに全国二〇ヵ所
の支部でいながらにして見られるというものであった︒もっとも
このアイデアは本部に出かける信者が激減したこともあって以後
行われていない︒この教団は︑責任者を後述するテレビ伝道の視
察にアメリカに派遣したほど︑その導入には熱心である︒これに
続いたのが真如苑で︑一九八七年秋︑山梨県河口湖畔にある真如
苑総本部真澄寺の別院柴燈護摩道場の落慶法要を中継した︒こう
した︑俗に第三次宗教ブームと呼ばれる現象の中心的存在である
密教系の新宗教が︑科学テクノロジーの最先端のメディアを使っ
た布教に関心を持っていることは︑大変興味深いものがある︒ま
た︑伝統仏教の浄土宗も将来のこととはいえ︑通信衛星を用いた
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布教活動の可能性を検討し始めている︒
しかしながら︑現在のところ阿含宗以外の各教団はまだ実際に
は衛星通信テレビ伝道を恒常的に行っているわけでもない︒阿含
宗にしても現在の方法は中途半端で︑受信設備のある地区支部ま
で行かなければ見られないわけで︑アメリカのように自宅でくつ
ろいで︑ポテトチップスを食べながら見るような視聴を表す︿カ
ウチ・ポテト﹀視聴への道は遠い︒これには︑日本とアメリカの
かせ放送倫理基準の違いと言う枷があることにも原因があることは後
述する︒どちらにしても︑これから紹介するアメリカで花盛りの
テレビ伝道という特殊な世界から︿布教媒体としての通信衛星﹀
というアイデアだけをいただいて来たわけだが︑実際には︑テレ
ビ伝道の意味や教団とテレビ伝道のあり方が︑アメリカでは全く
独自な展開を遂げて現在の繁栄を見ているのである︒
一般にテレビを用いて行う布教をテレビ伝道ないしはテレビ教
会︑その伝道師をテレヴァンジェリスト(テレビ福音伝道師を意
味する造語)あるいはテレビ伝道師と呼ぶが︑これらはいってみ
れば︑個人のカリスマ的魅力によって巨大な宗教企業を造り上げ
たものを言う︒これ以外に日本の教団の様に既に巨大化した︑デ
ノミネーションと呼ばれる教派の南部バプテスト教会やカトリッ
ク教会が独自の宗教放送局を持って番組を制作放映しているとこ
ろも出てはい臥縄・一介の伝道師がブラウン管を通じた魅力に
よって寄付を得て︑放送する局を増やして︑電波によって巨大教
会を形成していくところに︑アメリカのテレビ伝道という宗教の
独自性が見られるのである︒
なおアメリカのテレビ伝道の総合的研究とその紹介は︑生駒孝 彰氏の著作によってなされて転罷︒
本稿では︑こうして独自に発展して︑最近まで隆盛を極めたア
メリカのテレビ伝道の台頭の歴史とその文化的背景︑最近の凋落
とその経緯︑さらに民主党クリントン大統領政権の誕生と彼らへ
の影響と将来の展望についての問題点を︑いくつかの最近の事件
を追うことによって考察してみたい︒
テレビ伝道師の誕生とその歴史的背景
アメリカの建国の歴史は︑そのはじまりから宗教的なもので
あったことは周知の事実である︒ヨーロッパでの宗教的迫害を逃
れた︑最近の表現で言えば宗教難民が神の理想国家を新大陸の地
上に建国することを目指していたのである︒西部開拓のフロン
ティアは彼らに広大な土地を与えたが︑あまりにも過疎で広大な
開拓地には︑教会も神の言葉である福音を伝える伝道師も全く足
りなかった︒こうした状況で福音に飢えた開拓者にとって︑それ
までの彼らの属していた教派ではなくとも︑それぞれの教派の教
えに抵触しないキリスト教に共通する救いや神の愛といった福音
を説く福音伝道師が受け容れられてきたのである︒伝道師たちは
各地を巡回しながら︑集会場やテントで集会を行い福音を伝え続
けた︒数千人を集めて熱狂的な信仰覚醒運動や福音伝道師の祈り
や患部に触れて病気治しをする癒しによって︑熱狂的な支持を得
て人気伝道師たちが誕生してきたのである︒これは一九二O年代︑に入ってラジオ伝道が始まっても︑直接的な伝道師との触れあい
に救いを求める熱狂のなかでずっと長い間人気を保ち続けた︒
五〇年代の急速なテレビの普及と共に本格的なテレビ伝道が始
1,
まった︒それは︑依然としてラジオ伝道の域を出ない︑例えば︑
プロテスタンふ各派︑カトリック︑ユダヤ教といった既成大教派
であるデノミネーション各派による全米ネットの宗教番組だった︒
六〇年代後半になると︑自由な活動が許される教派から叙階だけ
受けて資格を得た一匹狼的な伝道師の番組が増加した︒七〇年代
になると︑さらにこの傾向は著しいものとなり︑いわゆるテレ
ヴァンジェリスト(テレビ福音伝道師)という言葉が一般的にな
るほど︑彼らの番組が︑個人的な魅力によって視聴者を魅了し︑
教会や放送局を運営する︑全く歴史上類を見ない宗教が誕生した
のである︒
二,テレビ伝道の隆盛とその文化的背景
こうした隆盛の直接的な要因として︑民主党大統領にして史上
初のプロテスタントではないカトリックの大統領であるケネディ
政権の誕生があげられる︒ケネディは社会的小数派(マイノリ
ティ)保護の政策を共和党や多くの反対を押切って断行した︒こ
れは当時の良心的な社会風潮でもあった︒これをうけて連邦通信
委員会は宗教放送規定を変更して︑連邦憲法の政教分離と宗教活
動の自由の原則から︑あらゆる宗教の平等な取扱と有料化を認め
た︒五〇年代までの宗教放送は公益性を重視しスポンサーなしの
無料放送とされていたのに対して︑スポンサー付きの有料放送を
認めた︒これによって宗教番組を増やす局が増加することになっ
た︒また視聴者への献金の訴えや物品(聖書︑十字架等)の通信
販売が許可されるようになった︒こうして大衆の要求に敏感に応
えた番組を組み︑激しく他の教派などを攻撃するようなカリスマ 的魅力を持ったテレヴァンジェリスト繁栄の直接的な起因ができ(4)あがったのである︒
一方︑彼らテレビ伝道師の台頭にさらに影響を与えたのは︑ア
メリカの時代的背景であったと思われる︒彼らの急激な台頭は︑
六〇年代後半から七〇年代前半にかけての︑ヴェトナム戦争に対
するアメリカ国内の反戦運動と全国的な厭戦ムードに覆われた
︿ヴェトナム戦争非聖戦観﹀の芽生えと時を同じくしている︒ア
メリカ建国の歴史上初めての聖戦の苦戦と闘う精神的宗教的意味
を失った長い泥沼の闘いの後の敗戦によって︑それまでアメリカ
をささえてきたあらゆる価値の崩壊現象が起こった︒例えば︑反
戦を訴えた穏健な自由主義的教派不信︑リベラルな民主党不信︑
神の正義の闘いのために力を行使する強いアメリカを象徴する教
育・家庭の崩壊︑経済的不況︑ヴェトナム帰還兵問題︑失業・犯
罪の増加︑麻薬問題などの社会︑経済︑道徳問題などが一気に噴
出した︒と同時に︑急進的な新しい価値を求める運動が始まった︒
マーティン・ルーサi・キング・ジュニアを先頭にした公民権運
動︑女性の権利の拡大を訴えるフェミニズム運動(当時の一般的
呼称は︑ウーマン・リブ運動)などがそれである︒以後︑少数民
族・人種差別の禁止を手始あに︑男女の性差別の社会的禁止︑妊
娠中絶の合法化︑ポルノの解禁︑同性愛の社会的容認など︑プロ
テスタントの神の国アメリカではこれまで考えられなかった︑精
神的倫理的宗教的価値の転換の大波がうねりとなって襲ってきた︒
社会・政治・文化のあらゆる分野の価値の喪失︑新しい価値の創
造の時代が到来したのである︒こうした極端なまでの改革による︿自由な真に人間的な﹀アメリカは︑多くの問題を抱えた︒余り
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