「耘田器」の使用痕分析 : 良渚文化における石製 農具の機能
著者 原田 幹
雑誌名 季刊 古代文化
発行年 2011‑01‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/47918
季干
J『古代文化』 第63巻 第 1号 抜刷 (京 都 ・2011年 6月
)「転 田器」の使用痕分析
― 良渚文化 における石製農具の機能 ―
原 田 幹
「隷田器」の使用痕分析
―― 良渚文化 における石製農具 の機能 一一
幹
要 旨 新石器 時代後期 の良渚文化 には特徴 的な石器が発達 し、その多 くは稲作 農耕 に関わる農具 と考 え られてい る。 しか し、個別 の石器 の機 能 ・用途 については、様 々な見解があ リー致 をみていない。本 研 究 は、実験使用痕研究 に基づいた分析 に よ り、良渚文化 の石器 の機 能 を推定 し、農耕技術 の実態 を明
らか に しようとす る ものであ る。
小論 では、除草具、耕起具、収穫具 な ど様 々な機能 ・用途が説かれている「萩 田器」 をと りあげ、金 属顕微鏡 を用 いた高倍率観察 によって、石器表面 に形成 された微小光沢面、線状痕 な どの使用痕 を検 出 しその機 能 を推定 した。その結果、 イネ科 な どの草本植物 の実験 で多 く認め られ る使用痕 が確 認 され、
収穫具 とす る説が支持 された。 さらに、使用痕 の分布パ ター ンを石庖丁
(石刀 )の 使用痕 、民族 資料 に み られ る収穫具 の使用方法 と比較 した ところ、現在 の中国南部 か ら東南 アジアにかけてみ られ る「押 し 切 り」 に よる使用方法が想定 された。復元石器 を用 いたイネの収穫 実験 の結果 か らも、 この使用方法が 妥 当であ る と考 え られ る。
本分析 の成果 は、長江下流域 の稲作 農耕 に ともな う収穫具 の存在 が明 らか になった こと、東南 アジア の民族誌 として知 られてい た収穫 具 の使用法 が、考古学 的 な資料 において も明 らか になった こ とであ り、今後東 アジア地域 の農耕技術 ・文化 の歴 史的 な展 開 を考 えてい くうえで も重要 な意味 を もつ と考 え られ る。
は じめ に
良渚文化 は長江下流域 の新石器時代後期 の文化 であ る。大規模 な土台状建造物、階層分化 の進 んだ墓 葬、精級 な玉器 に代 表 され る手工業生産 の発達 な ど、諸方面 において研究者 の注 目を集 めている。 なか で も、多種多様 な形態 に分化 した精級 な磨製石器 の存在 は、良渚文化 の特色 の一つ といえる。
新石器 時代 における長江下流域 の経済 的基盤 は、稲作 を主体 とす る農耕生産 に もとめ られ るが、良渚 文化期 の農耕 の実態 には不 明 な点 が多 く
1)、農耕技術 の具体 的 な内容 は農具 とされ る石器 か ら推測 され てい る。良渚文化 に伴 う石鎌 ・石刀 ・萩 田器 0破 土器 ・石梨 な どの特徴 的 な石器 は、農耕技術 の一定の 到達度 を示 す資料 として評価 されて きた。例 えば、厳 文明 は、耕前期 ・相耕期 ・梨耕期 とい う農耕技術 の発展段 階 を示 し、良渚文化 を梨耕期 にあて、各種石器 の農業生産 における役割 を評価 してい る の 。 中 村慎一 は、松沢文化 か ら良渚文化 にかけての石製農具 の革新 を稲作 の集約化 を反映 した もの ととらえて いるめ。特 に重視 されているのが、石梨や破土器の出現で、耕起技術 の大 きな画期 として理解 されている。
一方、収穫具 と位置づ け られ る石器 は少 な く、収穫技術 に関す る議論 は低調 であ る。 しか し、個 々の石
田
(65) 65
萩 田器 の使用痕分析
器 の具体 的 な機 能 ・用途 については諸説があ り、見解 の一致 をみていない こともまた事実 であ る。良渚 文化 の農耕技術 を正 しく位置づけるためには、これ らの石器の機能 ・用途 を特定す る研究が不可欠である。
本研 究 は、高倍率 の顕微鏡観察 と実験使用痕分析 の方法論 を用 いて、良渚文化 の石器 の機能的 な検討 を行 うものであ る。使用 に よって生 じた痕跡 を もとに、使用部位 、操作 方法、作業対象物 といった石器 の基礎 的 な機能 を把握 し、最終的 には、石器 の農具 としての役割 を再評価す ることを目的 としてい る。
良渚文化 には様 々な石器 が あ るが、小論 で は、「萩 田器」 と呼 ばれてい る石器 を と りあげ る。 この石 器 は中国の新石器文化 で も特 に良渚文化 に特徴 的 な器種 であ り、その機能 ・用途 について様 々な説が述 べ られている。 まず、森 田器の機能 ・用途 を特定す ることで、良渚文化 の農耕技術 の一端 を明 らか に し てい きたい。
I 転 田 器 につ い て
萩 田器 は、松沢文化後期 に出現 し → 、良渚文化 で は一般 的 な器種 として定着す るが、その後 は急速 に 衰退 しみ られ な くなる。主要 な分布範 囲 は、おおむね長江下流域 の南 、太湖周 辺 か ら杭 州湾周辺 にかけ ての地域 である。形態 は多様性 に富 むが、その時間的変遷 については不 明 な点が多 い。
この石器 は、 もともと石刀 の一種 として考 え られて きたが
9、一般 には中耕 除草具 を意味す る「緑 田 器」の名称 が普及 してい る。他 に も「 V字 状石刀」 「菱角形石刀」な ど石器 の形態 を もとに した名称 、 「石 相冠」「石鋤」 な ど機 能 ・用途 に関 わる名称 が使 われてい る。
1.形 態 的特徴
石器 の横 幅 は10〜 15cmほ どで、左右対称 で鋭 い刃部 を もつ薄 身の石器 であ る。典型 的 な もの は、刃部 が V字 状 を呈 し、対辺 中央 に、台形状 の突 出部、円孔 を有す る。 ただ し、細部 の形態 は多様 であ り、次 の ように中間的 な形態 も多 い。
刃部 の平面形 は、 V字 形 をなす もの、緩 やかに弧 を描 くもの、直線 的 な もの、 あるいはこれ らの中間 的なタイプがある。背部 の平面形 は、 V字 形 または緩 やか に弧 を描 くもの、直線 的な もの、あるいはこれ らの中間的なタイプがある。背部中央 に突出部 をもつ ものが多 く、台形状 の明瞭な突起部 を作 り出す もの、
この部分 をわずかに尖 らせた ものがある。 また、突出部 をもたない もの もある。穿孔 は石器中央部の背部 寄 りに施 され、無孔 ・ 1孔 ・ 2孔 以上 の ものがみ られる。孔 は錐状 の工具 によって穿 たれた小 さな もの と 管鑽 と呼ばれる管状工具で穿 たれた大 きな ものがあ り、管鑽 の場合 は径 2 cmほ どの大 きなもの もみ られる。
逆 に共通性 が強い部分 は次の とお りである。総 じて断面の ライ ンは直線 的で、厚 さは均一 で数mm程 度 と非常 に薄い ものが多 い。刃部 は基本 的 に両刃 である。刃角 は小 さ く、石器 の主面 と刃面 との境界 はあ ま りはっ き りしない。
石材 は、 ほ とん どが暗灰色 の級密 な石 が用 い られてい る。 中国の報告書 では、細粒 頁岩 と表記 される ことが多 い。今 回の分析 にあたって、共同研究 に参加 した岩 田修一 (地 質学 )は 、 この石材 を変成作用 を受 けた頁岩質 のホル ンフェルス と鑑定 している。節理 に沿 って薄 く剥がれやすい石材 の性 質が、均質 な厚み を もつ緑 田器 の製作 に適 していた もの と考 え られ る。
2.機 能 ・用途 に関す る諸説
緑 田器 の機 能 ・用途 については様 々な説があるが、多 くは農具 としての使用 を想定 した ものであ る。
66
原 田 幹
主 な もの は、 A:除 草具 の刃部 とす る説 、 B:耕 作具 の 刃部 とす る説、 C:石 刀 (収 穫具
)とす る説 に整理 で きる。
A:除 草具 転 田器 の名称 は この想定 に由来す る。 中国 南方 で使用 されてい る鉄製 の除草具 の刃部 に形態 が 類似 す る こ とを根拠 とす る。穿孔部 に竹 や木 の柄 を 差 し込み、背部 の突起部 を縄 で縛 って固定す る とい う復 元 が な され て い る (第 1図
1)①。劉 軍 ・王 海 明 は これ を水 田中の除草農具 とみ な してい る つ 。
B:耕 起具 牟永抗 は孔 に紐 を とお して固定す る「石絹 冠 」 と して復 元 して い る (第 1図 2)① 。劉 斌 は、
玉器 の冠状飾 の源流 を緑 田器 と関連づ ける研 究 にお いて、 「石鋤」とす る考 えを示 してい る
(第1図 3)"。
中村慎一 は、 V字 状 の形態が後世 の鉄鉾 と類似す るこ
1
除草具2 石絹冠
3 石鋤 4 1又 穫具 第 1図 萩 田器の推定復元諸説
(言
主 60809。 11よ り
)とか ら、耕 起 具 の一種 と考 え、木 製 の台座 に 刃先 として装着 された と想定 した Ю
)。C:石 刀 (収 穫具 )1又 穫 具 とす る復 元 であ る
(第1図 4)11)。 紀仲慶 は、刃部 に土壌 に よる摩擦 の痕跡 がみ られ ない こ とか ら、上記 の説 には否定的であ る。 む しろ刃部 の形状 や微細 な剥離 な どの観察か
ら、主 な用途 を収穫用 の石器 であろ うと推定 してい る ② 。 形態 に よって機能 ・用途が異 なる と考 えた研究者 もいる。
梶 山勝 は、小型 で薄 く軽量 であ ること、刃部 の磨損 な どを根拠 に、短 い柄 をつけた手鍬 の ような もの、
中国で言 う寿鋤 の ような ものが想起 され る としてい る。一方で、突起 や孔 が ない ものは石刀 の ように手 に持 って使用 した と考 えてい る 。 。
命為潔 は、器形が大 き く、かつ穿孔 の施 されている ものあるい は突起 したほぞ を もつ ものは牟永抗 の 石絹冠 とす る説 を認 めてい るが、非常 に薄 く平 らで、孔 や ほぞ となる突起 を もたない ものは、石庖丁 の 一種 と考 え、収穫具 としての使用 を想定 してい る
141。農具 とは違 った機 能 ・用途 を想定 した論考 もあ る。
蒋衛東 は、北方 の ウル族 が使用 す るナイ フ と形態 的 に類似 す る こ とを指摘 し、皮革加工 に関係 した工 具 であ ろ うと推定 してい る 馬
)。程世華 は、製塩 で使用 され る道具 との関係 を想定 してい る
)。以上 み て きた よ うに、萩 田器 の機 能 ・用途 につ いて は、 まさに諸説紛紛 と した状 況 であ る。 これ ら 様 々な説 の根拠 は、石器 の形態、民俗 資料 との比較 、墓 における副葬 品の出土状 況 な どか ら推測 されて きた。 しか し、形態上 の類似性 を指摘 で きて も、石器 の機 能 を推定す る うえでの決定的 な証左 とはなっ ていない。 この ようななかで、石器 の痕跡 や細部 の観察 に言及 してい る紀仲慶 の視 点 は重要 であ る。現 在 の研 究 で は、 まず石器 その もの に残 された情報 を客観 的 に評価 し、石器 の機 能 を特定す る こ とが第一 に必要 だ と考 え られ る。 この点 において、実験使用痕分析 を緑 田器 の機 能推定 に適用す る意義があ る。
Ⅱ 紙 田 器 の 使 用 痕 分 析
1。
分析 資料
本分析 は、 日中共 同研究「良渚文化 における石器 の生産 と流通」 0の 一環 として実施 した ものである D。
浙江省 ・江蘇省 ・上海市 の各研 究機 関 に所蔵 されてい る隷 田器約20点 を分析 した (第 2図 )° 。第 4図 に
(67) 67
紙 田器 の使用痕分析
第 2図 1.亭 林遺跡 2.綽 以遺跡 3.
6.塘 山遺跡 7.良 渚遺跡 8.
分析 遺跡位 置 図
淀西宅前遺跡 4.市 内出± 5廟 前遺跡 白泉遺跡 9.孫 家山遺跡
掲載 した遺物実測 図 は、共 同研 究調査 において作 成 した図面 を 使用 してい る。 これ らの資料 に は、発掘調査 の出土 品だけでな く、採集資料 な ども含 まれてい る。帰属 時期 が不 明確 な資料 も あ るが、形態 的 に良渚文化 ある いはこれ に前後す る とみ られる ものをとりあげて分析 を行 った。
2.分 析 の方法 本分析 は、実験 資料 に基づい て使用痕 を観察 ・解釈す る実験 使用痕分析 に立脚 した ものであ る
20。高倍率 の落射照 明型顕微
写真 6
1
未使用の研磨面2
草本植物、生、cut、3000回
3
草本植物、生、cut、3000回
4
木(スギ)、乾燥、saw、3000回
5
角(シカ)、加水、saw、3000回
6
角(シカ)、加水、scrape、3000回
7
皮(シカ)、乾燥、whttle、 4000回
8
土(水
田)、湿つた状態、dig、2000回 0 100
μ m対物レンズ 50倍 ン
写真
8第 3図 微小 光沢面 のバ リエ ー シ ョ
写真1 写真 2 写真
3
写真 4
写真 7
写真
5
68
:彗離:彗
: :難 :
二::: 11 111■■│1 1,■■ │.│11111■11壺 :繁轟:11:■原
田
幹
鏡 を使用 し、主 に微小光沢面 (以 下、光沢面 )や 微細 な線状痕 を観察す る高倍率法 に よる分析 を実施 し た。
微小光沢面 は、顕微鏡下 で石器表面 が光沢 をおびたなめ らか な面 として観察 され る もので、作業対象 物 との接触 に よって石器表面が摩耗 す るこ とで形成 され る と考 え られてい る。光沢面 の特徴 は、平面的 な広が り方、高低差、表面 の きめ、明 るさ、 ビッ トや線状痕 な どの付属 的 な属性 に よって、い くつかの パ ター ンに分 け られている。 この光沢面 のパ ター ンは、作業対象物 の種類 (イ ネ科等 の草本植物 、本、
骨 ・角、皮 、 肉、土 な ど )や その状態 (乾 燥状態 、水 分 を含 むな ど )と 一定 の関係 を もつ ことが、実験 的 に確 かめ られてい る
21)。線状痕 は、石器 の運動方向 に沿 って形成 され る線状 の痕跡 で、石器 の操作方 向 を推定す る手がか りになる。本分析 では、主 に光沢面 の表面 に形成 された きわめて微小 な線状痕 を観 察対象 としてい る。 また、彗星状 ピッ トは光沢面 の属性 の一つで、石器 の操作方向 を特定す る手がか り
になる。第 3図 は、今 回の分析 に先立 って実施 した実験石器 で、泥岩 の研磨面 に形成 された光沢面 と線 状痕 のバ リエーシ ョンを示 した ものであ る
22)。使用痕 の観察 には、同軸落射照 明装置 を内蔵す る金属顕微鏡 (オ リンパ ス製 BX30M)を 使用 した。
観 察倍率 は、
100・ 200・500倍 であ る。資料 の観察 にあたって特 別 な前処理 は行 っていないが、観察前 にアル コールで石器表面 に付着 した脂分 な どの汚 れ を拭 き取 った。使用痕 は、主 に光沢面 と線状痕 を観 察 し、 肉眼 や ルーペ で観察 され る剥 離痕 ・擦 痕 (規 模 の大 きな線状痕 )・ 摩滅痕 な どを補足 的 な情報 と して記録 した。実際の観察 では、 まず石器 の刃部 を中心 に使用痕 の有無 を確認 し、使用痕が観察 された 石器 について は、光沢面 の特徴 や分布範 囲、線状痕 の方向等 を実測 図上 に記録 した。 あわせ て、 デ ジ タ
ルカメ ラで使用痕の写真 を撮影 した
20。3.分 析結果 の概要
第 4図 に掲載 した20点 全 ての石器 に使用痕 (微 小 光沢面 )が 認 め られ た。若干風化 に よる変化 もみ ら れたが、総 じて石材表面 の遺存状態 は良好 で、分析 には条件 の良い資料 であった。
観察 され た使用痕 の特徴 は、非常 に明 る くなめ らか な光沢面 であ る。輪郭が明瞭 でパ ッチ状 (斑 点状 に )に 発達 してい るのが特徴 で、パ ッチが広 い範 囲 を面 的 に覆 うように大 き く発達 した もの もみ られた。
光沢 断面 は丸 み を もち、面 的 に発達 した部分 で はやや平坦 な
(細部 は丸 み を もつ )も の もある。光沢表 面 の きめ はなめ らかで、 ビ ッ ト、彗星状 ピッ ト、微細 な線状痕 な どの付属 的 な属性 が観察 された。微小 光沢面 の分類 では、パ ッチ状 の ものが Bタ イプ、面的に広 く発達 した ものが Aタ イプの光沢面 に相 当す る。
微小光沢面 の観察結果 か ら被加工物 を推定す る と、珪酸分 を多 く含 むイネ科植物 な ど、水 分 を含 んだ 柔 らかい草本植物 との接触 に よって形成 された使用痕 だ と考 え られ る。
光沢面 の残存状 況が良好 な資料 については、光沢面 の発達程度 を実測 図上 に記入 した光沢強度分布 図 を作 成 した (第 4図
)。光沢 強度分布 図 は、阿子 島香 が石庖丁 の分析 に導入 した手法 であ る
20。草本植 物 な ど光沢面 の分布範 囲が広 く、漸移 的 に発達 を強 め る光沢面 に有効 で、石器 の使用方法 を復元す る上 で有益 な情報 が得 られ る。本分析 で は主 に200倍 観察視 野 中に占め る光沢面 の広 が り方 を 目安 とし、光 沢面 の発達 に応 じて次 の ように区分 した。
強 :光 沢面パ ッチが大 き く発達 した状態
(第5図 写真
3)。中 :小 さな光沢面が密集 または連接 し広 が りつつあ る状態 弱 :小 さな光沢面が単独 で散在 す る状態
(第5図 写真
5)。(69)
平面 的 に広範囲 に広 が る もの を含 む。
(第 5図 写真
4)。69
緑 田器 の使用痕分析
ハ
=
︱︱
︲I V
h 柵 幽
︱︱
︱I V
∩
= H II
II V
凡 例
写 真11 ヾ
′ 桁 縁
● 光沢強
―
不明・観察不能
◎ 光沢中
←→ 線状痕の方向
○ 光沢弱
一一 光沢強度の境界
× 光沢なし
0 10cm
写 真 12
015
16
第 4図 分析 資料 実測 図 ・光沢強度分布 図
②左主面から中央穿孔部が発達
∩ H
=
=
= V
′
線状 痕
8
写 真
2
o/′ ′ ゝ、 ` ` ヽ 、 レ / °
9`、 ○ ○
第 1表 分析結果一覧表
番号分析試料番号 石
材 使用痕の特徴 遺跡名
機関名等
文 献 第
4図‑1
01021 未鑑定 沢 布 痕 光 分 線
BoA― 表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
両面 ともほぼ全面に分布。主面左倶
1で発達。
刃縁 に平行。
白泉遺跡
?舟山市博物館 2
02010
ホルン フェルス
光 沢 :A・ B― 表面は明る く滑 らか。平坦 な面 として発達。
分 布 :両 面 とも広範囲に分布。主面左側が強い。刃縁 は発達が弱い 線状痕 :刃 縁 に平行・斜行。
亭林遺跡 上海博物館
註25①
3
01017 未鑑定 沢 布 痕
大
光 分 線
BoA― 表面 は滑 らかでやや平坦。パ ッチが大 きく発達。
両面 とも広範囲に分布。主面中央か ら右側にかけて強い。
刃縁 に平行。
・ 廟前遺跡
ilI江省文物考古研
究所
註25②
4 02042
ホルン フェルス
光 沢 :BoA― 表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :両 面 とも広範囲に分布。主面左側で強い。
線状痕 :刃 縁 に平行。
綽敬遺跡
昆山市文化管理所
註25③ 5
01014 粘板岩 光 沢 :B・
A―表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :両 面 とも広範囲に分布。左側が発達。
線状痕 :刃 縁 に平行
(左刃部
)。湖州市内出土 湖州市博物館 6
01022 未鑑定
光 沢 :BoA― 表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :両 面 ともほぼ全面に分布。刃部中央 と主面左がやや発達。
線状痕 :刃 縁 に平行
(左刃部
)。斜行。
孫家山遺跡
舟山市博物館
主25④ 7
01018 未鑑定 光 沢 :B― 表面は滑 らか。
分 布 :両 面 とも広範囲に分布。主面左側が強い。刃縁 は微弱 線状痕 :刃 縁 に斜行
(左刃部
)・ 廟前遺跡
ilF江省文物考古研 究所
註 25② 8
02041
ホ ル ン フ ェ ル ス
光 沢 :BoA― 表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :両 面 とも広範囲に分布。主面中央か ら左側で強い 線状痕 :刃 縁 に平行。
綽敬遺跡出土 昆山市文化管理所 9
01016
ホ ル ン フ ェ ル ス
光 沢 :B― 表面は滑 らか。
分 布 :片 面のみ確認。主面左倶
1に限定。
線状痕 :不 明。
廟前遺跡 浙江省文物考古研
究所
註25②
10
01029 未鑑定 光 沢 :A・ B― 表面は明る く滑 らか。平滑 な石材表面 を覆 うように形成。
分 布 :刃 縁 に沿って発達。分布範囲は広いが、石材表面の反射が強 く全体の分布 は不明。
線状痕 :刃 縁 に平行 ・斜行。
廟前遺跡 浙江省文物考古研
究所
註25②
11
01023 未鑑定
BoA― 表面 は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
部分的な観察のため詳細 は不明。
不明。
沢 布 痕
大
光 分 線
跡 物 遺 博 山 市 家 山 孫
舟
註 25④
12
02047 未鑑定
B― 表面は滑 らか。
刃部中央のみ残存。
不明。
沢 布 痕 光 分 線
塘 山遺跡
・
illl江省文物考古研 究所
13
02036
ホ ル ン フ ェ ル ス
光 沢 :B・
A―表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :両 面 とも広範囲に分布。主面左側で強 く発達。
線状痕 :不 明。
綽域遺跡
昆山市文化管理所
註25③
1401024 未鑑定 BoA― 表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
部分的な観察のため詳細 は不明。
不明。
沢 布 痕
犬
光 分
線 跡 館
物 遺 博 山 市 家 山 孫
舟
註25④
15
01025 未鑑定 光 沢 :B・
A―表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :部 分的な観察のため詳細 は不明。
線状痕 :不 明。
土 館 出 物 内 博 市 市 山 山 舟 舟
16
02043
ホル ン フェルス
達 発 状 o チ 明 ツ 不 パ oは
細 か 詳 ら め 滑 た は の 面 察 o 表 観 行 一な 平 A 的 に
︒ 分 縁 B 部 刃 沢 布 痕 大 光 分
線 綽敦遺跡出土
昆山市文化管理所
1702014
ホ ル ン フ ェ ル ス
光 沢 :B・
A―表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :両 面 とも広範囲に分布。
線状痕 :刃 縁 に平行 ・斜行。
亭林遺跡
上海博物館 註 25①
1802038
ホ ル ン フ ェ ル ス
光 沢 :BoA― 表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :片 面のみに分布。風化の影響 により光沢の残存状況はよくなし 線状痕 :不 明。
淀西宅前遺跡採集 昆山市文化管理所
1902037
ホ ル ン フ ェ ル ス
光 沢 :B・ A― 表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :両 面 とも広範囲に分布。
線状痕 :刃 縁 に平行。
太史淀遺跡採集 昆山市文化管理所
20
204 ホ ル ン フ ェ ル ス
光 沢 :B・
A―表面は滑 らか。パ ッチ状 に発達。
分 布 :部 分的な観察のため詳細 は不明。 光沢の残存状況はよくなし 線状痕 :刃 縁 に平行。
淀西宅前遺跡採集 昆山市文化管理所
原 田 幹
な し :光 沢面 が認 め られ ない状態
(第5図 写真
6)。実測 図中には、● :強 ・◎ :中 ・○ :弱 ・ × :光 沢 な し・ 一 :観 察不 能 とい った記号 を記入 し、補助 線 でおお よその分布 の境界 を示 してい る。
また、個別資料 の分析結果 は表 にまとめ
(第1表
)2つ、代表的 な使用痕 の顕微鏡写真 を提示 した
(第5・
6図
)。第 4図 の実測 図中に記載 された写真番号 は、第 506図 の顕微鏡写真 の番号 に対応 し、写真番 号 キ ヤプシ ヨンの向 きは、顕微鏡写真 の向 きと対応 してい る。
(71) 71
緑 田器 の使用痕分析
写真 8 第 4図 3 対物 レンズ50×
対物レンズ
20倍0
250μm
写真1
第4図 1
対物 レンズ20×
写真2
第4図 2
対物 レンズ50×
写真
3
第4図 2
対物 レンズ20×
写真4
第4図 2
対物 レンズ20×
写真
5
第4図 2
対物 レンズ20×
写真6
第4図 2
対物 レンズ20×
写真
7
第4図 3
対物 レンズ50×
72
第 5図 使用痕顕微鏡写真
(1)対物 レンズ50倍
0
100μm
原
田
幹
写真 16 第 4図 17 対物 レンズ20×
対物レンズ
20倍0
250μm
写真9
第4図 4
対物 レンズ50×
写真10
第4図 5
対物 レンズ50×
写真
11
第4図 5
対物 レンズ50×
写真12
第4図 6
対物 レンズ50×
写真
13
第4図 7
対物 レンズ20×
写真14
第4図 8
対物 レンズ50×
写真
15
第4図 10
対物 レンズ20×
(73)
第 6図 使用痕顕微鏡写真
(2)対物 レンズ50倍
0
100μm
73
i薦::
萩 田器 の使用痕分析
4。
使用痕 の特徴
光沢面 の特徴 や分布 のあ り方 はか な り似通 ってお り、次の ように複数 の石器 で共通す る特徴 を見 いだ す こ とがで きた
(第4図 の実測図番号 または第 5・ 6図 の写真番号 に対応
)。①光沢面はBタ イプ、Aタ イプである。パ ッチが散在するものから、大 きく発達 したものまでみられる。
②光沢面は主面の広い範囲に形成されている。光沢強度分布は、主面の片側から中央の穿孔部にかけて よく発達 してお り、総 じて器面の左佃
1で強い。また、右側縁に近い部分にも発達 した光沢面が認めら れることがある
(第4図 102・ 6な ど
)。③光沢面は両面に分布 し、同様な分布の偏 りが認められる。刃縁 を挟んだ表裏面の分布は点対称の関係 に な る。
④穿孔部 と背部の突出部の間で、帯状に光沢の空白域が認められるものがある (第 4図 206な ど
)。⑤刃縁の光沢面に観察される線状痕は刃部 と平行する方向性をもつ
(第4図 5‑第 6図 写真 10・ 11な ど
)。彗星状 ピットは側縁の方向を向 くものが多い。
⑥主面内側 (特 に左主面 )で は、光沢面に斜行する線状痕が観察され、穿孔部へ向かう方向性が認めら れる
(第4図 2‑第 5図 写真 2、 第 4図 6‑第 6図 写真 12な ど
)。⑦刃縁では、光沢面が微弱か、全 く観察されない場合がある (第 4図 2・ 6な ど
)。5.機 能の推定
分析の結果確認された使用痕の特徴から、緑田器の機能及び使用状況は、次のように推定される
(番号は 3使 用痕の特徴①から⑦の番号に対応
)。微小光沢面の特徴から、イネ科等の草本植物の切断に用いられたと推定される (使 用痕の特徴①
)。非常に広範囲に光沢面が分布 してお り、器面に植物を押さえつけるような使用方法が想定される。こ の場合、光沢面が強 く発達 している主面左側から中央部にかけて対象物 と強 く接触 したことがうかがえ る (特 徴②
)。刃縁の線状痕 と彗星状 ピットは、刃を側縁に向かって平行に操作 したことを示 している (特 徴⑤
)。ただし、刃縁 より奥では斜行する線状痕 もみられ、この方向に沿った運動 も想定されるなど、実際の操 作方法はより複雑なものである (特 徴⑥
)。両面 とも同様な光沢分布の偏 りがみられることから、表裏を入れ替えて使用されたようである (特 徴
③
)。この場合、左右の刃部はそれぞれ独立 した刃部として機能 していたことになる。
背部の非光沢部は直接石器の操作 と関係するものではないが、柄や紐などが装着されていたことを示 唆する痕跡である (特 徴④
)。刃縁で光沢面が微弱なのは、刃部の研 ぎ直 しによるものである (特 徴⑦
)。Ⅲ 使用方法 の検討
以上のような使用痕の観察結果から、萩田器はイネ科等草本植物の切断に機能 した石器で、植物を主
面に押 さえつけるようにして使用 したものと推定された。このことから、土の痕跡が残ると予想される
耕起具の刃先や中耕除草具の可能性は低い。光沢面の特徴からは、収穫具とする説の蓋然性が高いとい
える。 しかし、収穫具 としての具体的な使用方法を検討するには、石器の操作方法について、実際の収
原 田 幹
穫作業 との関係 で議論 をす る必要がある。そのため に、本章 では、 これ までの収穫 関連石器 の分析 をふ まえた比較 と、民族資料 にみ られ る収穫具 の使用法 とい う二つの側面か ら、緑 田器 の使用方法 について 検言 寸してい くこ とに したい。
1。
石庖丁 の使用痕 との比較
イネ科植物 の収穫 に関連 した石器 の使用痕分析 は、すで に多 くの蓄積 がある。東 アジア地域 では、 日 本 を中心 に、石庖丁 (石 刀
)、石鎌 、大型直縁刃石器 な ど、複 数 の器種 で異 なる使用痕 のパ ター ンが明
らか になってい るが
20、このなかで萩 田器 の使用痕 と近似 す る の は石庖丁 (石 刀 )の 使用痕 であ る。 まず、両者 を比較 す るこ とで、収穫具 としての操作方法 を検討 してい こう。
石庖丁
(石刀 )は 、中国北部 に起源 を もち東 アジアに広 く分布 す る石器 である。 この石器 については、 中国・朝鮮半 島 に先 ん じて、 日本 において使用痕分析 と実験 に基づ く機 能研 究が な さ れて きた
2つ。 その結果、石庖丁 の使用方法 は、器面 に穂 の下 の 茎 の部分 を指 で押 さえつけ刃 を刃縁 と直交方向 に操作 す る「穂 摘 み」の方法が復元 されてい る
(第7図
281)。近年 では、韓 国や 中国において も石刀 の使用痕分析 が行 われ
29、基本的 には 日本 の場合 と同様 な使用方法が想定 されてい る。
緑田器と石庖丁で類似 している点は、微小光沢面の特徴 (Ⅱ
‑4使 用痕の特徴①
)、光沢分布の特徴 (特 徴②③
)、研 ぎ直し による刃面の光沢面の消失 (特 徴⑦
)、などである。逆に、刃 縁の線状痕の方向 (特 徴⑤
)、器面内側の線状痕 (こ の痕跡は 石庖丁では顕著でない )の 様相 (特 徴⑥
)、背部の光沢面の空
白域 (特 徴④)な どの違いがある。
特徴②③ など、器面 に茎が強 く接触する状況は両者 とも共通
している。一方で、刃 を直交 に操作する石庖丁 と平行 に操作す 第 7図
る紙田器では、石器の動か し方に大 きな違いがあるとみ られる。
石庖丁 (岐 阜県柿 田遺跡 )の 光沢強度分布図 と推定使用方法
2。
東南 アジアの収穫具 とその使用法
道具 を用 いた収穫作業 は、農耕 の開始以来現在 まで世界 中で行 われている行為 であるが、対象作物 や 栽培環境 のほか、地域 や民族 に よって道具 の形 や使用方法 に違 いがみ られ る。マルセル ・モース (Marcel
Mauss)は 、 身体技 法が社会 や歴 史的背景 に よって異 なる ことを指摘 したが
30、収穫具 の形態 とその使 用方法 (動 作 )も 身体技 法 の ひ とつ として とらえる こ とがで き、 その関係 は、従 来 か らの型式論 や伝播 論 に加 えるべ き考古学 的 な課題 の一つ とい える。緑 田器 と石庖丁 の使用痕 の違 い は、収穫具 を使用す る 際 の身体技法 の違 いが反映 された もの と考 え られ ない だろ うか。
石庖丁 の使用方法 は、 日本東北地方 の コウガイな ど雑穀類 の収穫具 の使用方法 と同様 な もの と理解 さ れてい る。 コウガイは、 「穂先 か ら一尺
(約30cm)ほ どの茎 の位置 に刃 をあて、指 で押 さえ、… (筆 者略
)…内惧
1に回転 させ なが ら切 る」 とあ り ・
)、刃 を直交方向 に操作 し、テ コの原理 で を茎 を摘 み取 る石庖丁
(75) 75
9
﹄ r l l l
5ブ ルネイ・イバン族
緑 田器 の使用痕分析
二 T
6フ
ィ リピン ミンダナ オ島・ マ ノボ族の操作方法 は、 この ような民俗 資料 か らも裏打 ち され る。
この ような観点か ら従来の民 族誌 を見直 した ところ、 中国南 部 か ら東南 アジアで使用 されて い る稲 の収穫 具 の使 用 方 法 か ら、示 唆 に富 む情報が得 られた
(第8図
)3の。
例 としては、 中国南部 の瑶族 の用 いる収穫具、マ レーシアや ス マ トラ の ケ タ ム (ketam)・
フ イ リ ピ ンの ヤ タブ (yatab) あ るい は ラケム (lakem)・ ジ ャ ワの ア ニ ア ニ (ani̲ani)、 ヴ ェ トナム
Jヒ部 の タイー族 の レプな どをあげることがで きる。 これ らの収穫具 には、刃 と直交す る 軸棒 (柄 )を 取 り付 けた もの と、
指 をかけ るための紐輪 を付 けた ものがみ られ る。具体 的 な操作 第 8図 東南 アジアの収穫具 と使用方法 (註 33〜
38による
)方法 については、次の ような記述 がある。
中国の瑶族 では、「把手 を薬指 と中指 と人差 し指 で握 り、小 指 を刃 の下 にあてがい手 中に固定す る。
上面 にそ ろえた 3本 の指 と親指 を動 か して稲穂 をつかみ、刃部 を上方 にはねあげる」鋤 とされる
(第8 図
2)。ヴェ トナムの タイー族 の レプについては、「本体 に交差 している竹 を親指 と人差指、そ して小指 で固 定 し、木製本体
(刃)部 を中指 と薬指 の間 に挟 んで…
(筆者略 )… 中指 と薬指 で稲穂 を捉 え、手首 を外 佃 1に 反 らせ る動作 によって稲穂 を刈 り取 る」
3のと報告 されている
(第8図 1)。
石毛直道 はブルネイの イバ ン族 の収穫具 の使用夕
1をと りあげ、「中指 と薬指 の間 に台部が は さまるよ うに柄 をに ぎる。す なわち、台部上面 には、親指、人差指、中指が、台部下面 には、薬指、小指が くる ように柄部 をに ぎる。台部上面 に持 ちそえ られた三指 をうごか して、稲穂 をつかみ、穂 の直下の稗 の部 分 に刃 をあてて、刃部 を上方 にはねあげ る動作 で稲穂 を摘 む」 と説明 してい る。「テ コの原理 で、摘 む 動作」 とい う表現 を用いている
(第8図 5)35)。
この他 、第 8図 に掲載 した もので は、 フ ィリピン・ル ソ ン島の事夕 1(第 8図
3)30、フ ィリピ ン・ ミ ンダナオ島の事例
(第8図
6)3つ、中国 0海 南 島の事例
(第8図 4)30な ど、広 い地域 で同様 な収穫具が 用 い られてい る。
小林公明 は、 日本 の石庖丁 の使用方法 を推定す るにあたって、東南 アジアの収穫具 をもとに「水平押 切法」 と呼ぶ操作方法 を復元 している
30。東南 アジアの柄付 きの収穫具 を想定 した実験 では、 「操作 は、
左 手で稗 をつかみ、右手 の柄 にかか っている中指以下 を拝 にのば して、銃 の引金 の ように素早 く引 き寄 76
3フ
ィ リピンル ソ ン島1ベ
トナ ム・ タイー族原 田 幹
せ る。 その瞬間、手首 を外 に反ねる ように庖丁 を押 出す。その際、左 手 は反射的 に引 く」 と説明 し、磨 製石庖丁 に も同様 の柄 が付 くと想定 した
40。これ らの報告 をみ る と、観察者 の表現 の仕方や使用者 の指 の使 い方 に若干 の違 いはみ られ る ものの、
基本的 な操作方法 は共通 してい る。 まず、収穫具 の刃がつけ られた面 を指 と指 の間 にはさんで保持す る こ と、次 に刃 の上 にあ る指 (小 林 の場合 は刃 の下 の指 )を 動 か して穂 をつかみ、手首 をひね って稲穂 を 切 断す る とい う一連 の動作 に よって収穫作業 が行 われてい るこ とであ る。 ここで重要 なの は、収穫 具 の 操作 が、「穂摘 み」 の よ うに手首 を内佃
1にひねって切 断す る方法 とは逆 で、手首 を外倶
1に反 ら し刃 を押 し出す動作 になる点である。指 の使 い方 は上下逆 だが、小林 の「水平押切法」 も基本 的 には同 じ原理 で あ る。以後、前述 した東南 アジアの収穫具 の操作方法 を「オ 甲し切 り」 とし
4)、コウガイな どの「穂摘 み」
の動作 と区別 してお きたい。
紙 田器 の操作 方法 を東南 アジアの「押 し切 り」 と仮定す る と、次 の ように観察 資料 の使用痕 のパ ター ンについて理解 しやすい点が多い。収穫具 の上面 で穂 をつかむため この部分 で器面 に接触す ること
(特徴②
)、手首を反らして刃を動かすため刃部 と対象物 との接触は平行方向であること (特 徴⑤
)、切断さ
れた穂は軸棒 (紐 の場合は背部中央 )に 向かってたぐり寄せられるため石器中央で観察される線状痕が 背部中央を向 くこと (特 徴⑥ )な どである。
Ⅳ 転 田 器 の 使 用 実 験
1。
実験 の概要
1)目 的
前章 での検討 をふ まえ、復元石器 を用 い た実験 を実施 した め 。 実験 の 目的 は、緑 田器 が収穫具 であ る とい う推定 に基づ き、想定 され る操作方法 と使用痕 の分布パ ター ンを比較検証す ることであ る。 また、使用方法 に よる操作性 の違 い を明 らか に し、新 田器 の 形態 的 な特徴 を力学 的 に検証 す るこ とに も留意 した。
2)実 験石器 と条件
本来 な らば良渚文化 の石材 と同 じもの を使用すべ きであ るが、
現地 での石材 の入手 が困難 であ ったため、当初 は弥生 時代 の石庖 丁 に用 い られている結 晶片岩 を使用 した。 その後江蘇省 で採取 さ れ たホル ンフェルスで製作 した石器 を追加 した
40。実験石器 の使用方法 は次 の とお りであ る
(第9図
)。実験 1 押 し切 り
東南 ア ジ アの「押 し切 り」 を想 定 した穂 首 の収穫 作 業 を行 っ た
40。石器 は、 中指 と薬指 の間 には さみ込 み、紐 または柄 で手 中 に固定す る。石器上面 の親指 か ら中指 を使 って穂 をつかみ、手首 を外倶
1にひねって刃 を押 し出す ように して切 断す る。
S‑253(結 晶片岩製 )と S‑268(ホ ル ンフェルス製 )は 竹製 の 柄 に溝 を穿 ち、 この部分 に石器背部 の突起部 を差 し込み、紐 で固 定 した。 S‑254(結 晶片岩製 )は 、穿孔部 に指掛 け用 の紐 を装着
(77)
2.押
し切 り(柄)4.押 し切 り (紐
)8.穂 刈 り 第 9図 実験 石器 と使用方法
77
萩 田器 の使用痕分析
す る タイプの想定復元 による。
実験 2 穂摘 み
S‑255・ S‑257(結 晶片岩製 )は 、穿孔部 に紐 をとお し手 に保持す る。使用方法 は、親指 と人差 し指 の間で石器 を保持 し、親指 と手の甲で稲穂 をつかみ石器主面 に押 し当てる。手首 を内側 にひね り、刃 を 起 こす ように して穂 首 を切 断す る。
実験 3 穂刈 り
S‑256(結 晶片岩製 )は 、鎌 の ように穂首 を引 き切 る収穫作業 である。親指 と中指 の間 に石器 をはさ み、人差 し指 は石器背面 にそえる。左 手 で稲穂 をつかみ、手首 を手前 に引いて、刃 を平行 にス ライ ドし て切 断す る。
3)実 験 の進 め方
作業時間 は20分 〜30分 を単位 とし、作業 の間 に10分程度 の休憩 をは さんで実施 した。実験 は 1人 が同 一 の石器 を使 い続 けるのではな く、各 回 ごとに作業者 を入れ替 えなが ら行 った。各回の進行状況 と作業 量 は第 2表 に示 した とお りである。
2.実 験石器 の使用痕
1)肉 眼観察
実験石器 は作業終了後、切 断で生 じたイネの残片 や液 の付着範囲 を略測図 に記入 した。 これは石器 と 作業対象物 が どの ような接触 の仕方 を したのか を知 る手がか りにな り、発達す るのに時間がかかる微小 光沢面 の分布範囲 を補足 す る情報 となる。
微細 な剥離痕 が生 じた もの もみ られた。剥離 は節理 に沿 って生 じるケースが多 く、分布 もランダムで ある。継続 して使用 した石器 は、いずれ も刃縁 に肉眼で も観察で きるわずかな光沢面が形成 された。
2)顕 微鏡観察
(第10011図
)顕微鏡 に よる観察 ・記録 は出土遺物 の分析方法 に準 じて行 った
4'。ただ し、考古 資料 に比べ光沢面の 第 2表 実験経過表
験 号 実
番 器
号 石
番
器 種
操作方法単 位
第 1回 実験 第
2回
実験 第3回
実験 第4回
実験計
作業量業 間 作
時 本/分 作業量 業 間 作
時
本
/分 作業量 業 間 作時
本
/分 作業量作業時間
本
/分 作業量 業 間 作 時本
/分実験
1S‑253 転田器 柄 押 し切 り
穂 数 3569 260
13.7 14.54951
13.9S‑268 縁田器 柄 押 し切 り
穂 数 290
9.360
9.33265
S‑254 緑田器 紐 押 し切 り
穂 数
13.0290
7.61375
12.56961
10.5実験 2
S‑255 緑田器 紐 穂摘み穂 数 300 38
S‑257 緑田器 紐
穂摘 み
穂 数219
18.72777 290
9.6 13.5実験 3
S‑256a緑 田器 穂刈 り
穂 数84
12.3S‑256b 縁田器
穂 刈 り
穂 数156
16.3156
16.3験 号 実
番 器
号 石
番 作 業 の 経 過
実験
1S‑253
S‑253は
第4回
実験 で、ホゾに挿入 した突起部が破損 した。S‑268は
製作時に中央で二つに割れて しまったが、強力 な接着剤でつなぎ合 わせ、裏面 に鋼板 をあてがって使用 した。第3回
目の実験 で、 この部分が再度破損 し、使用で きな くなった。S‑254は
目立った損傷 もな く、継続 して使用することがで きた。S‑268 S‑254
実験 2
S‑255S‑255は
、第 1回 目の実験作業 中に刃部が大 きく破損 して使用不能になったため、以降はS‑257に
替 えて実験 を行 っ S‑257 た。実験 3
S‑256aS‑256は
第 1回 目の実験で、石器のほぼ中央で二つに折れて しまった。予備の石器がなかったため、使用刃部を入れ 替え半分の状態で実験 を継続 した。 この実験 は第2回
日以降は実施 していない。S‑256b
第 3表 実験石器 の使用痕
実 験 1
S‑253 光沢面 はBタ イプで、出土資料 と比べ ると発達は弱い。表面では中央付近か ら左刃部にかけて最 も発達 し、背部側への侵 入度 も大 きい。裏面では中央部 を中心 に分布 し、刃縁 に沿った狭い帯状 に分布する。線状痕は両面 とも刃縁 に近い部分で 確認 され、刃 と平行するものが主体である。
S‑268
使用痕光沢面 は、石器表面の左側刃部及びその裏面 に形成 された。
もとの石材表面 をほぼ覆っている部分 もある。他の実験で使用 した 面 はきわめて平滑であることか ら、平面的な光沢面がスムーズに飛 向に形成 されている。
刃面では特 に発達が強 く、光沢部が平面的に広が り、
結晶片岩に比べ、ホルンフェルスは組織が緻密で研磨 成 されたとみ られる。線状痕 は微細で、刃縁 と平行方
S‑254
光沢面はBタ イプである。表面では中央付近か ら左刃部 にかけて最 も発達 し、背部倶1への侵入度 も大 きい。裏面では中央 部 を中心 に分布 し、刃縁 に沿った狭い帯状 に分布する。線状痕 は両面 とも刃縁 に近い部分で確認 され、刃 と平行するもの が主体である。
実験2 S‑257
し、微弱なが ら背部側にも光沢面が分布 している。右主面の の接触 による使用痕かどうかは判断で きない。裏面では刃部 にご く微弱な光沢面が観察 されるが、ほとんど分布 しない。線状痕は表面の刃縁で確認 され、刃部 と直交するものが主体 である。
碁 猾 璽昌忌 発 象 裏 璽 害象
iま憾 昇 暮奮 奮習 議 a習 『 幌 禁 1再 発 績 侯 寝と 「ド ネ λ 言 尭 葬 暫 単 碁 ∵ 2?房 をコ 馨 F央 付近で 、
実 験 3 S‑256
原
田
幹
発達が弱 いため、弱 と な しの間に△ :微 弱 と い うカテ ゴリー を設定
し、図 に表記 した。顕 微鏡 に よる実験石器 の 観察結果 は、第 3表 に
まとめ る。
3)使 用痕 の検討 微小光沢面 いずれ も Bタ イプの光沢面が 形成 され た。作業量 が 少 ないため、光沢面 の 発達 は総 じて弱 く、小 さなパ ッチが散在す る 程度であ った。
分布 光沢面 の分布 範 囲 は狭 く、 ほぼ刃縁 に限 られ る。残滓の付 着範囲 は、茎 を器面 に
凡例
●
光沢強
◎
光沢中
○
光沢弱
△
光沢微弱
×
光沢な し
←→
線状痕の方向 一
光沢強度の境界 一 一 一 ―付着物の範囲
0 10Cm
lT―
「
―
「
T―十一一―――――――J
〔 三 二 〕 l i
S‑257
S‑268
写真3
S‑253
写真乏x
写真1
S‑254
第
10図実験 石器光沢強度分布 図
押 さえつ けた実験 1と 実験 2で は、主面 の中央か ら左倶
1に偏 ってい る。茎 を平行 に切 断す る実験 3で は、
残津 の範 囲 も刃部 に沿 った狭 い範 囲 に限定 され る。
茎 との接触 実験 1に おける石器 と茎 の接触 について、切 断 された穂 が柄 (紐 の場合 は穿孔部 )に 向 か ってた ぐりよせ られ ることで、主面上 を斜 め に接触す ることが確 かめ られた。 また、残津 の付着が機 能部 とは反対 の右傾
1側縁 に もみ られ た。 これ は切 断時 に石器 の側縁 が弧 を描 くように動 くこ とで、周辺 のイネの茎 と接触 したため と考 え られ る。一方、実験 2で は、穂 が主面上 に固定 され、刃部以外 での動
きは小 さか った。
線状痕 刃部 を平行 に操作 す る実験 1と 実験 3で は、縁辺 と平行す る線状痕 が形成 された。刃部 を直
(79) 79
萩 田器 の使用痕分析
写真
l S‑253
対物 レンズ50× 写真 2 S‑268 対物 レンズ50×
写真
3 S‑257
対物 レンズ20×
写真4 S‑256
対物 レンズ50×
対物 レンズ20倍 対物 レンズ50倍
第
11図実験石器顕微鏡写真
0 250μ m 0 100μ m
交方向に動か した実験 2で は、刃縁 に直交する線状痕が認められた。
なお、使用痕ではないが、石器の断面が薄身であること、刃角が小 さく鋭いといった形態的な特徴は、
刃 を平行 に操作 して切断する際に非常 に機能的であ り、逆に直交方向の負荷には弱 く破損 しやすいこと も確認で きた。
V 結 論
前章 までの検討 をふまえ、考古資料 に形成 された使用痕の特徴 と実験結果 とを対比 し、萩田器の使用 方法についてまとめてい く。 まず結論か ら言えば、考古資料の使用痕 と最 も整合するのは実験 1「 押 し 切 り」 にもとづ く使用方法である。
使用痕の特徴② (主 面の光沢強度分布 )は 、植物 を石器上面のやや左側でつかむためこの部分で光沢 面が発達すると推定 されたが、この点は実験石器では付着物の範囲 として確認 した。また、主面の右側 縁側で光沢面が発達 した事例 も、切断時に石器の側縁が弧を描 くように動 くことで、周辺の植物の茎 と 接触 して形成 された もの と推定 される。
特徴⑤ (線 状痕の方向 )は 、刃部 を押 し出す ように平行 に操作するため刃縁 と平行 し、彗星状 ピット
80
原