景気循環理論における微分方程式の使用法
村 上 弘 毅
第 1 節 序 文
第 2 節 微分方程式における解の存在及び唯一性 第 3 節 微分方程式における周期解の存在 第 4 節 微分方程式における周期解の唯一性 第 5 節 結 論
第 1 節 序 文
景気循環理論は,国全体の総生産又は総所得その他の経済指標の変動を説明することを目的と するものである.景気循環理論において,経済指標の循環的変動は,国全体の経済活動を決定す る微分方程式又は差分方程式の周期解又は閉軌道でこれを表現し,かかる周期解の存在は,これ を継続的景気循環の存在を示すものとみなす1).
景気循環理論において用いられる微分方程式及び差分方程式は,特別の場合を除いては,線形 でないものでなければ周期解を有しない.これがため,景気循環理論に関する多数の研究は,線 形でない微分方程式又は差分方程式を用いて,継続的景気循環を表現する周期解の存在を証明し てきた2).
この論文は,景気循環理論において現在までに用いられてきた線形でない微分方程式に関する 知識を整理し,以て将来の景気循環理論に関する研究に寄与することを目的とする3).
1 ) 現在広く承認されている「動学的確率的一般均衡理論(Dynamic
StochasticGeneral Equilibrium Theory)」に基づく景気循環理論は,この論文で論じられる方法を用いず,景気循環を確率的攪乱に
よって生ずるものとみなして,景気循環の機構を説明する方法を提供するものである.これらの方法の 相違については,MurakamiandZimka(2020)を参照されたい.又,動学的確率的一般均衡理論その
他現在マクロ経済学の基礎理論として広く承認されている理論に対する批判的考察については,村上(2020)を参照されたい.
2 ) Kaldor(1940),Hicks(1950)及び
Goodwin(1951)は,Keynes(1936)の有効需要の原理に基づく
景気循環理論に関する研究で,線形でない関数が欠くことのできないものであることを認めた最も初期 のものである.3 ) 差分方程式は,線形である場合でも線形でない場合でも,この論文でこれを論じない.差分方程式に
第 2 節 微分方程式における解の存在及び唯一性
景気循環理論で用いられる微分方程式の多数は,次の形式で表現される常微分方程式である4). 但し,t≥ 0 は,時間を表現する 0 以上の実数であり5),x=(x1,
x
2,…,x
n)Tは6), 2 以上の自然数n
に対して,n個の経済指標を表現するようなn
次元の実数(ユークリッド)空間 nにおける(空で ない)領域D
⊂ nに属する変数(x∈D)であって
7),f=(f1,f
2,…,f
n)Tは,任意のx
∈D
に対し 連続的に微分することができる(C1級である)実関数(f: D→ n)であるものとする8).( 1 )
この式は,時点
t=0における初期点たる x
(0)が領域D
上に与えられれば,(微積分学の基本定理に よって)次式と数学的に同等となる.( 2 )
景気循環理論において,第 1 式で与えられる微分方程式は,考察の対象とする経済状況の変化 を表現するものであって,任意の時点におけるその解の存在及び唯一性(一意性)が示されなけれ ば,これを経済理論として適格であると認めることができない.しかし,景気循環理論に関する 多数の研究は,かかる解の存在又は唯一性を証明せず,継続的景気循環を表現する周期解の存在
ついては,Robinson(1998)を参照されたい.
4 ) この論文において,v4は,これを変数
v
の時間微分を表現するもの(v4=dv/dt)とする.5 ) 時間を表現する変数
t
は, 0 以上の実数たることを要せず,この論文で行う考察は,時間の起点を 0 とすれば,変数t
が 0 以上の実数でない場合においてもこれを適用することができる.変数t
が複素数で ある場合における常微分方程式の解の存在及び唯一性の証明については,CoddingtonandLevinson
(1955,Chap.1,Sect.8)を参照されたい.
6 ) この論文において,ATは,これを行列(ベクトルを含む.以下同じ.)Aの転置行列を表現するもの とする.
7 ) この論文において,「領域」とは,連結であり開集合である実数空間の部分集合をいう.
8 ) この論文第 1 節で行う考察は,関数
f
が時間を表現する変数t
の関数である場合(非自律系微分方程式 の場合)にも成立するものである(かかる場合には,x0=t及びx
40=1並びにx ~
=(x0,x)
Tとして,x~
に対 して,この考察を直接適用することもできる).又,微分方程式は,関数f
が連続的に微分することがで きる場合でなくとも,関数f
が領域D
において連続であれば,その解の存在を証明することができる(この場合及び関数
f
が不連続点を含む場合における微分方程式の解の存在の証明については,Codding-ton andLevinson(1955,Chaps.1and2)を参照されたい).経済理論においてかかる証明を用いた研
究としては,Arrowetal.(1959)を参照されたい(又,細矢(2019)をも参照されたい).のみを証明するものであった9).
第 1 式で与えられる微分方程式が経済状況の変化を表現するものとして適格であることを確認 するため,第 1 式の解の(領域
D
における)存在及び唯一性は,その周期解の存在に先立ってこれ を論ずる.かかる目的を達するため,領域D
に含まれる(矩形)部分集合R
を次のように定義す る.但し, 1 以上n
以下の任意の自然数i
に対し,x―
i及びx
―
iは,x―
i<x―
iを満たす実数の定数とする.( 3 )
定数
x ―i及びx
―
iは,各々これを経済指標(変数)x
iの実現することができる最大値(又は上限値)及 び最小値(又は下限値)とみなせば,集合R
は,これを(経済的に)実現することができる経済指 標の集合(実現可能集合)であるとみなすことができる.又,この部分集合R
に対して,n-1次元 の実数空間R
n-1部分集合R
-iを次のように定義する.( 4 )
第 3 式で定義された集合
R
に属する任意のx=(x
1,…,xi,…,x
n)Tは,第 4 式で定義された集合R
-i に属するx
-i=(x1,…,xi-1,xi+1,…,xn)Tを用いて,これをx=(x
i, x
-i)Tと表現することができるもの とする.関数
f
は,領域D
において連続的に微分することができるものであって,第 3 式で定義された 集合R
は,領域D
に含まれる凸集合であるため,平均値の定理により,任意のx∈ R
及びx∈ R
は,次式を満たすような 0 以上 1 以下の定数θ
を有する10).関数
f
の導関数(ヤコビ行列)Df
は,領域R
において連続であって,x+θ
(x-x)は,凸集合R
に属するものであるため,すべてのx∈ R
及びx∈ R
に対し次式を満たすような正の定数k
が,存在する11).
( 5 )
第 1 式の解が第 3 式で定義された集合
R
において唯一に存在することを示すため,次の条件式9 ) 景気循環理論に関する研究で微分方程式の(周期解以外のものを含めた)解の存在及び唯一性を示し たものについては,Murakami(2014,2015,2017,2018a,2018b,2020b)を参照されたい.
10) この論文において,行列
A
に関する |A
| は,行列A
のすべての要素の絶対値の和を表現するものと する.11) 第 5 式は,関数
f
が集合R
において「リプシッツ(Lipschitz)条件」を満たすことを示すものであ る.この条件については,CoddingtonandLevinson(1955,Chap. 1 )を参照されたい.が,任意の
i
に対し成立すると仮定する12).( 6 )
これは,第 4 式で定義された集合
R
-iに属する任意のx
-i∈R
-iに対して,次式を成立させる.これは,第 1 式の微分方程式の解に関して,任意の
x
-i∈R
-iに対して,次式が成立することを示 すものである.( 7 )
第 1 式の解の存在及び唯一性は,前段までに得た結論を用いて,次の命題のようにこれを保証 することができる.
命題 1 第 1 式は,第 6 式が任意の
i
に対し成立するとき,その初期点たるx
(0)が第 3 式で定義 される集合R
上にあれば,任意の時点t
≥0において(集合R
に属するような)唯一の解x
(t)∈R
を有する13).証明 時間
t
に関する関数列{x(t)}j j=0は,j=0である場合には,すべてのt
≥0に対して,これをx
(t)=x0 (0)∈R
と定義し,j≥1である場合には,任意の時点s
∈[0,t]で x
j-1(s)∈R
を満たすよ うなt
≥0に対してのみ,次のようにこれを定義する.( 8 )
関数
f
は,第 3 式で定義された有界閉集合R
において連続である関数であって,すべてのx
∈R
に対し次式を成立させる正の定数M
を有する.( 9 )
これは,任意の
j
≥1について,第 8 式で定義される関数x
(t)が, 0 以上jt
以下の任意の時点s
でx
j-1(s)∈R
が満たされることにより,次式を満たすことを示すものである.12) 第 4 式で定義された集合
R
-iは,n-1次元の実数空間
n-1の有界な閉部分集合であって,関数f
は,第 3 式で定義された集合
R
上で連続であるため,第 5 式の左辺で定義される最大値及び右辺で定義され る最小値は,共に存在する.又,第 5 式は,Murakami(2014,2015,2017,2018a)で採用された条件と 同等のものである.13) この命題と同様の内容のものは,Murakami(2014,2015,2017,2018a)がこれを証明した.
有界閉集合
R
の境界∂R
に対して,任意の境界上のx
∈∂R
に対し次式を満たすような境界上のx ~ ∈ ∂R
が,存在する.前 2 式は,任意の
t
≥0に対しx
(t)=x0 (0)∈R
であることと相俟って,次式で与えられるt
0≥0に対 して,任意のj
≥1について任意の時点t
∈[0,t
0]においてx
(t)∈jR
であることを帰納的に示すも のである.(10)
第 8 式で定義された関数列{x(t)}j j=1は,第10式で与えられた
t
0≥0に対し任意の時点t
∈[0,t
0] において,次式を満たす14).但し,正の定数k
及びM
は,各々第 5 式及び第 9 式で与えられたも のである.これは,関数列{x(t)}j j=1が,任意の時点
t
∈[0,t0]において次式を満たすことを示すものである.これがため,無限級数 は,時間の区間[0,
t
0]において一様に収束し,次式に よっても与えられる関数列{x(t)}j j=1も,同様に,かかる区間において一様に収束する15).又,関数列{x(t)}j j=1が時間の区間[0,t0]において一様に収束する関数を
x
(t)とすれば,集合R
は,(有界)閉集合であって,任意のj
≥ 1 に対して,任意の時点t
∈[0,t0]においてx
(t)∈jR
で あるため,かかる関数x
(t)は,任意の時点t
∈[0,t0]においてx
(t)∈R
となる.前段で定義した関数
x
(t)は,第 8 式においてx
(t)j→x
(t)とした際に,(関数f
の連続性によって)第10式で与えられる
t
0≥ 0 に対し任意の時点t
∈[0,t0]について次式を成立せしめる.これは,関数
x
(t)が,任意の時点t
∈[0,t
0]において,第 2 式を満たすことを示すものであっ て,この関数が,任意の時点t
∈[0,t0]において,集合R
に属する第 1 式の解であることを示す14) この事実は,帰納法によって容易にこれを証明することができる.
15) この事実は,高木(2010,定理39)を用いてこれを示すことができる.
ものである.
第 1 式の解が,第10式で与えられる
t
0≥ 0 に対し時間の区間[0,t0]において唯一に存在するこ とを示すために,前段で与えられた関数x
(t)以外の関数y
(t)も,かかる区間において,集合R
に 属する第 1 式の解であると仮定する.関数x
(t)及びy
(t)は,任意のt
∈[0,t
0]において,x
(t)∈
R
及びy
(t)∈R
であって,第 2 式及び第 5 式により,次式を満たす.(11)
これは,次の不等式を成立させる.
この左辺の(変数
t
に関する)原始関数(の 1 つ)は, であって,この両辺の 区間[0,t]における時間に関する積分は,次式の成立を確認するものである.これは,第11式と相俟って,任意の
t
∈[0,t0]において,次式を成立せしめる.これは,関数
x
(t)及びy
(t)が,時間の区間[0,t
0]において常に(恒等的に)等しいことを示すも のであって,これらの関数が異なるという仮定に反する.これがため,第 1 式の解は,任意のt
∈[0,t0]に対し唯一に存在する.第 1 式が,任意の
t
≥ 0 において(集合R
に属するような)唯一の解x
(t)∈R
を有することを示 すために,第10式で与えられたt
0≥ 0 に対して,時点t
0以後における第 1 式の解の存在及び唯一性 を考察する.微分方程式の解の延長に関する定理によれば16),区間[0,t
0]における第 1 式の唯一 の解x
(t)∈R
は,時点t=t
0以後,第 1 式によって初めて集合R
の境界∂R
に達する時点t=t
1≥t
0 までにおいても,第 5 式(リプシッツ条件)が満たされるため,集合R
に存在する唯一の解とな る.又,この唯一の解x
(t)は,第 7 式がかかる時点t=t
1において(境界∂ R
上で)成立するため に,その直後の時点においても,集合R
に属することとなる.これは,区間[0,t
0]における唯一 の解x
(t)が,時点t=t
0以後の任意の時点t
においても,x(t)∈R
を満たし且つ第 5 式を満たすた め,微分方程式の解の延長に関する定理によって,第 1 式の唯一の解となることを示すものであ る.(証明終)16) この定理については,CoddingtonandLevinson(1955,Chap.1,
Sect.4)又は Hirsch and Smale
(1974,Chap.8,Sect.5)を参照されたい.
命題 1 で示された微分方程式の解の存在及び唯一性は,第 1 式が経済指標の変動を表現するも のとして適格であることを保証するものであると共に,次節で論ずるように,第 1 式が周期解を 有することを証明する際に欠くことのできない性質である17).
命題 1 は,第 1 式が,集合
R
に属する初期点を有するとき,それ以後の任意の時点において集 合R
に属する唯一の解を有することを示すものでもある.集合R
は,特に,かかる場合におい て,これを第 1 式の「正不変(PositivelyInvariant)集合」という.第 3 節 微分方程式における周期解の存在
この節は,前節に引き続き,微分方程式を用いた景気循環理論の研究において,継続的景気循 環を表現するものとみなされる周期解の存在に関する定理を整理することを目的とする.
景気循環理論に関する多数の研究で用いられてきた周期解の存在を保証する定理は, 2 次元の 微分方程式に対して成立する「ポアンカレ=ベンディクソン(Poincaré-Bendixson)の定理」18)及 び 2 次元以上の次元数を有する微分方程式に対しても成立する「ホップ(Hopf)分岐定理」19)で あって,これらの定理は,その関連する定理と共にこれを論ずる.
ポアンカレ=ベンディクソン定理は,第 1 式において
n= 2 である場合に相当する次の微分方程
式に,これを適用することができる.但し,変数x
及び関数f
は,第 1 式の場合と同様の性質を満 たすものとする20).17) 2 次元の微分方程式における周期解の存在に関する「ポアンカレ=ベンディクソン(Poincaré-Bendix-
son)の定理」は,第 1 式において n=2である場合に相当する微分方程式が唯一の解を有することが保
証されないときには,これをかかる微分方程式に適用することができない.この定理については,次節 又は
CoddingtonandLevinson(1955,Chap.16)若しくは HirschandSmale(1974,Chap.11)を参照
されたい.18) Rose(1967),Stiglitz(1967)及び
ChangandSmyth(1971)は,この定理を適用した景気循環理論
に関する研究で最も初期のものである.この定理を用いた景気循環理論に関する近年(平成元年以後)の研究については,Lorenz(1993),Matsumoto(1997),浅田(1997),吉田(2003),Matsumoto
(2009),MatsumotoandSzidarovszky(2010),Dohtani(2010)及び
Murakami(2014,2015,2018b,
2019, 2020a, 2020b)を参照されたい.又,特別の場合の 3 次元の微分方程式に適用することができる「(拡張された)ポアンカレ=ベンディクソンの定理」については,Hirsch(1982)を参照されたい.
19) Torre(1977),BenhabibandNishimura(1979)及び
BanhabibandMiyao(1981)は,この定理を
適用した景気循環理論に関する研究で最も初期のものである.又,この定理を用いた景気循環理論に関 する近年(過去 5 年間)の研究については,Murakami(2015,2016,2018a),Asadaetal.(2016,2018, 2019),二宮(2018),MurakamiandAsada(2018),MurakamiandZimka(2020),Nishi(2020)及 びMurakamiandSasaki(2020)を参照されたい.
20) 第12式にポアンカレ=ベンディクソンの定理を適用するには,関数
f
は,領域D
⊂R
2において連続的 に微分することができる関数たることを要せず,第12式が任意の時点t
≥ 0 において唯一の解を有する限(12)
ポアンカレ=ベンディクソン定理を論ずるため,第12式は,領域
D
に,その正不変集合たる(空でない)有界閉部分集合
K
⊂D
を有する(任意の初期点x
(0)∈K
に対し任意のt
≥ 0 において,集合
K
に属するような唯一の解(x t
)∈K
を有する)と仮定する21).又,与えられた初期点x
(0)∈K
の下で,任意のt
≥ 0 において唯一に定められた第12式の解x
(t)∈K
について,n→∞においてt
n→∞
であって,n→∞においてx
(tn)→yをであるような( 0 以上の)実数列{tn}n=1を有する点y
の集合は,これを初期点x
(0)∈K
に関する「(ω
)極限集合(LimitSet
)」といい,L(x(0))でこ れを表現する22).第12式における周期解の存在は,前段において付された仮定及び定義の下で,次のポアンカレ
=ベンディクソン定理のようにこれを示すことができる.
定理 1 第12式は,その初期点たる
x
(0)が(その正不変集合たる)有界閉集合K
上にあり,且つ,かかる初期点に関する極限集合たる
L
(x(0))がその均衡点を含まなければ23),次のいずれかの事 項を満たし,集合K
に属する周期解を有する.1 その任意の
t
≥ 0 において定められた解x
(t)が,周期解であること.2 その極限集合
L
(x(0))が,周期解であること24).証明 この定理の証明については,Coddington
and Levinson
(1955,Chap.16)又はHirsch and Smale
(1974,Chap.11)を参照されたい.(証明終)定理 1 は,第12式の周期解の存在を示すものであるが,これを用いて周期解の存在を証明する
り,領域
D
において連続であれば足りる.ポアンカレ=ベンディクソンの定理の前提条件については,CoddingtonandLevinson(1955,Chap.16)を参照されたい.
21) 前節第 3 式で定義された集合
R
においてn=2である場合に相当するものは,(命題 1 の証明で確認し
たように)第 6 式においてn= 2 である場合に相当するものが成立する限り,第12式に関する正不変集
合となって,これを集合K
とみなすことができる.22) 第12式に関する極限集合のみを定義するには,その初期点は,(必ずしも)有界閉集合
K
に属するもの(x(0)∈
K)たることを要しない(CoddingtonandLevinson(1955,Chap.16)又は HirschandSmale
(1974,Chap.11)をも参照されたい).この論文における極限集合の定義に基づけば,第12式の任意の初 期点
x
(0)∈K
に対して,その極限集合たるL
(x(0))は,(集合K
が閉集合であることによって)有界閉 集合K
に含まれる(L(x(0))⊂K)こととなる.
23) 第12式の「均衡点」とは,領域
D
に属し且つ(x)=0を満たすような点f x
をいう.24) 特に,周期解のうち,そのもの以外の解が,t→∞又は
t→-∞
においてそれに収束するものは,各々 これを「安定的極限閉軌道(LimitCycle)」又は「不安定的極限閉軌道」という.周期解は,Goodwin(1967)の景気循環理論の研究で確認することができるように,必ずしも極限閉軌道であるとは限らず,
これらは,かかる理由によって,区別されなければならない(Goodwin(1967)で用いられたロトカ=
ヴォルテラ方程式における周期解の性質については,HirschandSmale(1974,Chap.12)又は
Velupil-
lai(1979)若しくは Flaschel(1984)を参照されたい.
には,領域
D
は,第12式の正不変集合たる有界閉集合K
を有しなければならず,又,かかる集合K
は,その極限集合L
(x(0))が均衡点を含まないような初期点x
(0)を含むものでなければならな い25).景気循環理論に関する多数の研究は,第12式に還元されるような 2 次元の微分方程式におい て,その正不変集合たる有界閉集合
K
が領域D
にあることを確認した後,均衡点を含まない極限 集合を有する初期点が集合K
に属することを示すため,集合K
の内部にある唯一の均衡点におい て評価された関数f
の導関数(ヤコビ)行列(Df)が有する固有値の実数部分がすべて正である(かかる均衡点が局所的に漸近的に完全不安定である)ことを確認し,以て定理 1(ポアンカレ=ベン ディクソンの定理)を適用して周期解の存在を証明する.但し,かかる導関数行列の有する固有値 の実数部分がすべて正であることが,集合
K
が均衡点を含まない極限集合を有する初期点を含む ことを示すものであることは,本来的には,証明を要するものである.前段で証明を要することを論じた事実について,その証明を与えるため,第12式は,その正不 変集合たる有界閉集合
K
の内部に属する唯一の均衡点x
*=(x1*,x
2*)T∈K
を有すると仮定する.かかる均衡点で評価された関数
f
の導関数(ヤコビ)行列は,次式のようにこれを与えることがで きる.(13)
関数
f
は,集合K
において連続的に微分することができるものであって,均衡点x
*が属し,集合K
に含まれるような任意の(空でない)凸集合V
に属する任意の点に対して,(平均値の定理及びf
(x*)=0であることによって)次式を成立させる 0 以上 1 以下の定数
θ
を有する.右辺第 2 項を (x)=((x1 1,
x
2), (x2 1,x
2))Tとすれば,この式は,次式にこれを還元することがで きる.(14)
又,関数 は,(導関数
Df
の連続性によって)任意の(充分に小さい)正数εに対して, |x-x
*| <δ
25) 第12式の周期解は,(Coddingtonand
Levinson(1955,p.400, Corollary1)によって)その内部に
(少なくとも 1 つの)均衡点を有するため,正不変集合たる有界閉集合
K
は,(ポアンカレ=ベンディク ソンの定理によって)必ず均衡点を含む.であれば次式が成立するような正数
δ
を有する.(15)
前段で付された仮定の下で,次の命題を証明することができる.
命題 2 第12式の正不変集合たる有界閉集合
K
は,第13式で与えられた行列(集合K
の内部にあ る唯一の均衡点x
*∈K
で関数f
のヤコビ行列)の有する固有値の実数部分がすべて正であると き,その点を初期点とする際の極限集合L
(x(0))が均衡点x
*を含まないような点x
(0)を有する.証明26) 第13式で与えられた行列
Df
(x*)の固有値は,この命題の仮定により,すべて正の実数で あり,又は,正の実数部分を有する共役複素数である.かかる固有値がすべて正であって,これ らをλ
1及びλ
2とする(λ1=λ2である場合を含む)とき,行列Df
(x*)は,逆行列を有する適当な( 2 行 2 列の)行列P
によって,次の形式(ジョルダン(Jordan)標準形)にこれを表現することがで きる27).但し,λ1及びλ
2は,λ1≤λ
2を満たす正の定数であって,γ
は,λ1=λ2であるときのみに 1 で あって,それ以外の場合には 0 である定数である.(16)
又,かかる固有値が正の実数部分を有する 1 組の共役複素数であって,これらを
α
+iβ及びα
-iβ とするとき,行列Df
(x*)は,逆行列を有する適当な行列P
によって,次の形式にこれを表現する ことができる.但し,α
及びβは,正の定数である.(17)
第16式又は第17式で定められた行列
P
に対して,y=(y1,y
2)Tは,これを次式で与えられるもの とする.但し,κは,行列Df
(x*)が第16式で表現される場合においてλ
1=λ2であるときのみに-
γ
/λ2であって,それ以外の場合には 0 である定数である.これは,次式と同等である.
(18)
行列
Df
(x*)が第16式で表現される場合において,第12式は,第14式及び第18式によって,次式に26) この証明は,CoddingtonandLevinson(1955,Chap.13,Theorem1
.
2)を適用してもこれをすること ができる.27) 正方行列のジョルダン標準形については,HirschandSmale(1974,Chap.6)を参照されたい.
これを還元することができる.但し,y
~
は,第18式の右辺を表現するy
の関数である.(19)
又,行列
Df
(x*)が第17式で表現される場合において,第12式は,同様に次式にこれを還元するこ とができる.(20)
第19式又は第20式の右辺第 2 項を
y
の関数としてh
(y)=(h(y1 1,y
2),h
(y2 1,y
2))Tとすれば,これ は,第15式及び第18式によって,任意の(充分に小さい)正数ε に対して, |y
| <δ
であれば次式 が成立するような正数δ を有する.
(21)
あらたに変数
y=(y
1,y2)Tを極座標を用いてy=(r cos ϕ , rsin ϕ
)Tと変換すれば,第12式が第19式 に還元される場合において,変数 は,次の微分方程式を満たす.これは,(λ1≤
λ
2であるために)次式の成立を示すものである.又,第12式が第20式に還元される場合において,変数
r
≥ 0 は,次の微分方程式を満たす.これは,次式の成立を示すものである.
これがため,第13式で与えられた行列
Df
(x*)の固有値がすべて正の実数であるとき(第12式が第19 式及び第20式のいずれに還元される場合においても),第18式で与えられた変数y=(y
1,y2)Tに対して 定義された変数 は,次式を満たす正の定数ρ を有する.
(22)
関数
h
は,第21式によって,第22式に与えられた正数ρ 未満の正数ε に対して, | y
| <δ
であれ ば次式が成立するような正数δ を有する.
これは,第22式と相俟って,第18式で定められた変数
y
が |y
| <δ
を満たす限り,変数r
≥ 0 が次 式を満たすことを示すものである.この不等式は,変数
r
の(t= 0 における)
初期値(0)に対して,次式を成立せしめる.r
これは,( であることにより)任意の時点
s
∈[0,t]において |y
(s)| <δ
である時 点t
≥ 0 に対して,次式が成立することを示すものである.これがため,変数
y
は,その初期点y
(0)が 0 < |y
(0)|<δ
を満たすとき,(ε
<ρ
であることにより)次式で与えられる時点
t
1以後の任意の時点t
≥t
1において |y
(t)|≥δ
を満たす.(23)
前段までに論じた理由によって,第12式は,第18式により,前段で定められた正数
δ
に応じて適 当に定められた(充分に小さくとることができる)正の定数δ ~
に対して, 0 < |x
(0)-x*| <δ ~
を満た す初期点を有するとき,第23式で定められた時点t
1以後の任意の時点t
≥t
1において |x
(t)-x*| ≥δ ~
を満たす唯一の解を有する.これがため,正不変集合たる有界閉集合K
から |x-x
*| <δ ~
を満たす 点の(開)集合を除いた後に得ることができる集合は,第12式の正不変集合たる有界閉集合となっ て,初期点x
(0)がかかる集合に属する場合における極限集合は,均衡点を含まない.(証明終)定理 1 及び命題 2 は,第12式に還元される微分方程式を用いた景気循環理論に関する研究にお いて周期解の存在を証明する際に採られた方法が正当なものであることを保証するものである.
2 次元の微分方程式における周期解の存在を否定する条件も,ポアンカレ=ベンディクソン定 理に関連してこれを論ずる.この条件は,次の定理のように与えられるものである.
定理 2 第12式は,関数
f
の偏導関数に関して次式で与えられる値の符号が,領域D
に属する任 意のx
に対し正であり,又は領域D
に属する任意のx
に対し負であるとき,領域D
において周期 解を有しない.証明 この定理を証明するため,第12式は,領域
D
に周期解C
を有すると仮定し,かかる周期解C
の周及びその内部で構成される集合は,これを集合Γ
とする.次式で与えられる集合Γ
で定義さ れた(二重)積分及びその周C
で定義された(線)積分は,グリーン(Green)の定理に基づい て,相互に等しいものとなる28).左辺の符号は,この定理の仮定により正又は負のいずれかとなるが,右辺は,(第12式の周期解
C
上においてf
1dx
2-f2dx
1=(f1x
42-f2x
41)dt=0であることにより)
0 となって,この等式は,成立しな い.これがため,第12式は,領域D
に周期解を有しない.(証明終)定理 2 は,「ベンディクソンの(否定)基準」として知られるものであって29),定理 1(ポアンカ レ=ベンディクソンの定理)と共に, 2 次元の微分方程式が唯一の均衡点を有するとき,その解 が,任意の時点で唯一に存在し有界であれば,初期点によらずかかる均衡点に収束する(均衡点が 大域的漸近安定性を有する)ことを示す際に,これを用いることができる30).
ホップ分岐定理は,第 1 式において関数
f
が媒介変数μ
にも応じて定まる場合に相当する次の微 分方程式に対してこれを適用することができる.但し,μ
は,実数空間 における(空でない)開 区間I
⊂ に属する変数であって,fは,任意のx
∈D
及びμ∈I
に対し 2 階連続的に微分するこ とができる(C2級である)実関数であるものとする31).(24)
28) グリーンの定理は, 3 次元の実数空間で成立するガウス(Gauss)の定理の内容が, 2 次元の実数空 間でも成立することを示すものである.これらの定理については,高木(2010,第 8 章)を参照された い.
29) この基準は,(一般化された)ポアンカレ=ベンディクソンの定理(CoddingtonandLevinson(1955,
Chap.16,Theorem3 .
1)を参照されたい)と相俟って, 2 次元の微分方程式が唯一の均衡点を有すると きに,その解が初期点によらずにかかる均衡点に収束する(均衡点が大域的漸近安定性を有する)こと を証明するためにこれを用いることができる.この基準(及びその一般化されたもの)については,An-dronovetal.(1966,pp.305―306)を参照されたい.この基準(又はその一般化されたもの)を用いた経
済理論に関する研究については,Minagawa(2008)及びMurakami(2014,2015)を参照されたい.
30) この方法を用いて唯一の均衡点の大域的漸近安定性を示した経済理論に関する研究については,
Minagawa(2008)及び Murakami(2014,2015)を参照されたい.又, 2 次元の微分方程式における唯
一の均衡点の大域的漸近安定性は,Olech(1963,Theorem 4 )の定理によってもこれを示すことができ る.この定理を用いた景気循環理論に関する研究については,Changand Smyth(1971, 1972),
Semmler(1987),Asada(1987),浅田(1997)及び Murakami(2020a)を参照されたい.
31) 第24式にホップ分岐定理を適用するため,関数
f
は, 2 階連続的に微分することができることを要す る.ホップ分岐定理を論ずるため,第24式は,任意のμ∈
I
に対し領域D
において均衡点x
*∈D
を 有し,かかる均衡点x
*∈D
は,任意のμ
∈I
に対し連続的に微分することができる関数であると 仮定する.かかる均衡点で評価された関数f
の変数x
に関する導関数(ヤコビ)行列は,次のよう にこれを与えることができる.
又,この行列に対する固有方程式は,次のようにこれを表現することができる.但し,任意の 1 以上
n
以下の自然数i
に対して,a(iμ
)は,任意のμ∈I
に対し連続的に微分することができる実関 数である.(25)
第24式における周期解の存在は,前段において付された仮定の下で,次のホップ分岐定理のよ うにこれを示すことができる.
定理 3 第24式は,第25式が任意の
μ
∈I
に対し連続である 1 組の共役複素数の解α
(μ
)±iβ
(u)を 有し,又,μ
=μ
0である場合に,かかる 1 組の共役複素数の解が( 0 でない)純虚数であって,第 25式のそれ以外のいずれの解も 0 でも純虚数でもなく,且つ,α
(μ
0)≠ 0 であるような定数μ
0が領 域I
にあるとき,媒介変数μ
がかかる定数μ
0に充分に近い場合において,周期解を有する.証明 この定理の証明については,MarsdenandMcCracken(1976,Sect.5)を参照されたい.
定理 3 は, 2 以上の次元数を有する微分方程式におけるその周期解の存在を示すものであっ て, 2 次元の微分方程式のみに適用することができる定理 2(ポアンカレ=ベンディクソンの定理)
よりも多数の場合においてこれを適用することができる.但し,この定理を適用するには,第25 式に相当する方程式が 1 組( 2 つ)のみの共役純虚数の解を有するような媒介変数の値μ0が,領域
I
に存在することを確認することを要する.次の命題は,第24式において
n= 3 である場合に,前段で論じた必要を満たすためにこれを用い
ることができる.命題 3 第24式において
n= 3 である場合に,第25式に対し次の条件を満たすような定数 μ
0が領域I
にあるとき,定理 3 の結論は,成立する.証明 第25式は,この命題の仮定の下で,
μ
=μ
0であるとき,次式と同等となる.こ れ は , こ の 命 題 の 仮 定 の 下 で , 第 25式 が , か か る 場 合 に , そ の 解 と し て 及 び
-a(1
μ
0)≠ 0 を有することを示すものである.第25式は,この命題の仮定の下で,μがμ0に充分に近いとき, 1 組の共役複素数α(
μ) ±iβ
(u)及び 実数γ(μ
)のみをその解として有し,これらの解は,かかる仮定の下で,μ
0に充分に近い任意のμに対 し連続的に微分することができる実関数であって,前段の考察により,α
(μ
0)=0, 及 び となるものである. 3 次方程式に関する解と係数の関係によって,これらの 解は,次式を満たす.これは,(その両辺の変数
μ
に関する微分及びα
(μ
0)= 0 であることにより)次式を成立させる.これは,この命題の仮定の下で(β(
μ
0)≠0及びγ
(μ
0)≠0であるために)μ
=μ
0であるときα
(μ
0)≠ 0 であることを示すものである.これがため,定理 3 の前提は,この命題の仮定の下で成立し,定理 3 の結論も,かかる仮定の 下で成立する.(証明終)
次の諸定理は,第24式において
n=4又は n=5である場合に,命題 3 と同様の目的を達成するも
のである.定理 4 第24式において
n=4である場合に,第25式に対し次の各号の条件のいずれかを満たすよ
うな定数μ
0が領域I
にあるとき,定理 3 の結論は,成立する.1 次の条件をすべて満たすこと.
2 次の条件をすべて満たすこと.
証明 この定理の証明については,Asada
and Yoshida
(2003,Theorems2and
3)を参照された い.定理 5 第24式において
n=5である場合に,第25式に対し次の各号の条件のいずれかを満たすよ
うな定数μ
0が領域I
にあるとき,定理 3 の結論は,成立する.1 次の条件をすべて満たすこと.
2 次の条件をすべて満たすこと.
証明 この定理の証明については,DouskosandMarkellos(2015,Theorems 3 and 5 )を参照さ れたい.
景気循環理論に関する研究において用いられる微分方程式の多数は,その次元数が 5 以下で
あって,これらの周期解の存在は,命題 3 又は定理 4 若しくは定理 5 を適用してこれを示すこと ができる32).
第 4 節 微分方程式における周期解の唯一性
前節までに論じたように,微分方程式を用いた景気循環理論の研究において,周期解の存在 は,継続的景気循環が現に存在することを示す重要な結果とみなされるものであるが,周期解の 唯一性も,又,周期,振幅その他継続的景気循環が有する諸性質が唯一に確定されることを示す 価値ある結果とみなされるものである33).
この節は,微分方程式を用いた景気循環理論の研究において用いられてきた周期解の唯一性に 関する定理を整理することを目的とする.
景気循環理論に関する複数の研究で用いられてきた周期解の唯一性を保証する定理は, 2 次元 の微分方程式の特別の場合のみに対して成立する「レヴィンソン=スミス(Levinson-Smith)の 定理」34)及び「シャオ=ヂァン(Xiao-Zhnag)の定理」35)である.
レヴィンソン=スミス(Levinson-Smith)の定理は,第12式の特別の場合に相当する次の微分 方程式にこれを適用することができる.但し,x及び
y
は,共に実数空間 に属する変数(x∈ 及 びy
∈ )であって,f: 2→ は,任意のx
∈ 及びy
∈ に対し連続的に微分することができる実 数関数であり, :→
は,任意のx
∈ に対し連続的に微分することができる実数関数であると する.(26)
第26式における周期解の存在及び唯一性は,前段で付された仮定の下で,(Levinson
andSmith
32) 次元数が 6 以上であるときに(命題 3 又は定理 4 若しくは定理 5 と同様に)ホップ分岐定理の前提を 満たすに足りる条件を示す定理については,Liu(1994)を参照されたい.
33) 景気循環理論に関する研究で微分方程式の周期解の唯一性を示した(少数の)ものについては,
Ichimura(1955),Kosobudand O’Neill(1972),Lorenz(1986,1993),GaleottiandGori(1989),
Sasakura(1996)及び Murakami(2018b,2019,2020a,2020b)を参照されたい.
34) この定理は,特別の場合の微分方程式の解の唯一性のみでなくその存在も保証するものであって,景 気循環理論に関する最も初期の研究で用いられたものである.この定理については,Levinson
and Smith(1942)を参照されたい.又,この定理を用いた景気循環理論に関する初期の研究については,
安井(1952,1953),森嶋(1953),Ichimura(1955)及び
Morishima(1958)を参照されたい(Velupil- lai(2008),Gandolfo(2009)及び Asada(2014)をも参照されたい).
35) この定理は,Murakami(2018b,2019,2020a,2020b)の景気循環理論に関する研究において適用され たものであって,又,Sasakura(1996)の景気循環理論に関する研究においてもこれを適用することが できる.
(1942)による)次の諸定理のようにこれを示すことができる.
定理 6 第26式は,関数
f
が変数x
のみの関数であって,次の条件をすべて満たすとき,唯一の周 期解(且つ極限閉軌道)を有する.1 次の条件をすべて満たす正の定数
a
及びb
が存在すること.イ 任意の
x
∈(-a, b)に対し(x)< 0 であること.f
ロ 任意の
x<-a
又は任意のx>b
に対し(x)≥ 0 であること.f
2 任意x
≠ 0 に対し,x(x)> 0 であること.3 次の条件を満たすこと.
4 第 1 号で定められた正の定数
a
及びb
に対して,次の条件が成立すること.証明 この定理の証明については,LevinsonandSmith(1942,TheoremIII)を参照されたい.
定理 7 第26式は,次の条件がすべて満たされるとき,唯一の周期解(且つ極限閉軌道)を有する.
1 任意
x
≠ 0 に対し,x(x)> 0 であること.2 次の条件を満たすこと.
3 f(0,0)< 0 であること.
4 任意の
x ≤-a
又は任意のx ≥a
及び任意のy
∈ に対し(x,y)≥ 0 であるような正の定数f a
が 存在すること.5 前号で定められた正の定数
a
に対して,任意のx ≤-a
又は任意のx ≥ a
に対し(x, y)f ≥-K
で あるような実数の定数K
が存在すること.6 前 2 号で定められた正の定数
a
及び実数の定数K
に対して,次式を満たすようなa
よりも大 きい定数b
が存在すること.但し,zは,xの任意の減少関数とする.7 次の条件をすべて満たす正の定数
c
及びd
が存在すること.イ 任意の
x
∈(-c, d)及び任意のy
∈ に対し(x,y)< 0 であること.f
ロ 任意の
x <-c
又は任意のx>d
及び任意のy
∈ に対し(x,y)≥ 0 であること.f
8 前号で定められた正の定数c
及びd
に対して,次の条件が成立すること.9 任意の
x
∈ 及びy
∈ に対して,次式が成立すること.証明 この定理の証明については,LevinsonandSmith(1942,TheoremsIandIV)を参照された い.(証明終)
景気循環理論に関する複数の研究は,定理 6 又は定理 7 を適用して周期解の唯一性を示した が,その適用の際に必要な前提の一部は,経済学的に正当であると認められないものであった.
かかる理由によって,これらの定理(レヴィンソン=スミスの定理)は,現実的な前提の下で,継 続的景気循環を表現する周期解の存在及び唯一性を示すことを目的とする景気循環理論には適用 し難いものである36).
シャオ=ヂァンの定理は,レヴィンソン=スミスの定理と同様に,第12式の特別の場合に相当 する次の微分方程式にこれを適用することができる37).但し,xは,実数空間 に含まれる(空で ない)開区間(x
― , x ―
)に属する変数であり,yは,実数空間 に含まれる(空でない)開区間(y― , y ―
)に属する変数であって, :(x
― , x ―
)→
は,任意のx
∈(x― , x ―
)に対し連続である実数関数であり,F:(x ― , x ―)→
は,任意のx
∈(x
― , x ―
)に対し連続的に微分をすることができる実数関数であり,φ
:(y― , y ―
)→
は,任意のy
∈(y― , y ―
)に対し連続的に微分することができる実数関数であるとする.又,x
―
及びx
―
並びにy ―及びy
―
は,-∞≤x ―< 0 <x―
≤∞及び-∞≤y
―
< 0 <y―
≤∞を満たす実数の定数 とする.(27)
第27式における周期解の唯一性は,前段で付された仮定の下で,(Xiaoand
Zhang(2003)によ
る)次の定理のようにこれを示すことができる.定理 8 第27式は,次の条件をすべて満たすとき, 2 個以上の周期解を有しない.又,かかる周 期解は,存在すれば,安定的極限閉軌道である.
1 (0)= 0 であって, 0 でない任意の
x
∈(x― , x ―
)に対しx(x)> 0 であること.
36) この定理を
Kaldor(1940)の景気循環理論に適用してかかる理論における周期解の唯一性を保証する
には,かかる理論で用いられる総所得の関数たる(総)貯蓄関数は,著しく線形でないものであること を要する.この要求は,Lorenz(1993)が論ずるように,経済学的に正当であると認めることができな いものである.37) 第27式で与えられる微分方程式は,これを「一般リエナール方程式(GeneralizedLiénard
Equa-
tion)」という.
2
φ
(0)= 0 であって,任意のy
∈(y― , y ―
)に対しφ
(y)> 0 であること.3 次の条件をすべて満たし,且つ
― x<x―
0< 0 <x―
0<x―
である実数の定数x ―
0及びx
―
0が存在すること.イ F(x
―
0)=F(0)=F(x―
0)= 0 であること.ロ 任意の
x
∈[x―
0,x ―0]に対しxF
(x)≤ 0 であって,任意のx
∈(x―
,x ―0)又は任意のx
∈(x―
0,x ―)
x
∈(x―
0,x ―)
に対し
xF
(x)> 0 及びF
(x)≥ 0 であること.ハ 関数
F
が,絶対値が充分に小さく 0 でないx
に対し常には(恒等的には)0 でないこと.4 前号で定められた定数
x ―0に対して,φ
(y)=F(x)の曲線が,任意のx
∈[x―
0,x ―0]について唯一
に(一意に)定義されること38).
5 第 3 号で定められた実数の定数
x ―0及びx
―
0に対して,次の各号の場合に応じその下に付された 条件を満たすこと.イ であるとき
ロ であるとき
証明 この定理の証明については,Xiao
and Zhang
(2003,Theorem2.
2)を参照されたい.(証明 終)定理 8 は,定理 6 又は定理 7(レヴィンソン=スミスの定理)の場合と異なり,経済学的に正当 であると認められる前提の下でも,景気循環理論の研究において,これを適用することができ,
以て継続的景気循環の唯一性を示すことができるものである39).但し,この定理は,定理 6 又は定 理 7(レヴィンソン=スミスの定理)の場合と異なり,第27式に関して,その周期解の唯一性を保 証するものであるが,その周期解の存在を保証するものではない40).
38) この条件は,Murakami(2018b, 2019, 2020a, 2020b)が確認したように,Xiao
and Zhang(2003,
Theorem2 .
2)で要求された次の条件に代わって,定理 8 を証明するに足りるものである.「
φ
(y)=F(x)の曲線が,任意のx
∈(x― , x ―
)について唯一に(一意に)定義されること.」39) Murakami(2018b, 2019, 2020a, 2020b)は,この定理を用いることにより,Keynes(1936)又は
Kaldor(1940)に基づく景気循環理論において,貯蓄関数が総所得の線形関数であるという経済学的に
正当であると認められる前提の下で,継続的景気循環(又は継続的成長循環)を表現する周期解の(存 在及び)唯一性を証明した研究である.40) 第27式の周期解の存在を示すには,この定理の適用以外の別の方法によらなければならない.
Murakami(2018b,2019,2020a,2020b)は,第27式に相当する微分方程式を用いて,ポアンカレ=ベン
第 5 節 結 論
この論文は,景気循環理論に関する研究において用いられてきた微分方程式に関する知識を整 理すると共に,現在までのこれらの研究の多数で考察されることのなかった微分方程式の解の存 在及び唯一性その他の事項についても詳細に論じたものである.この論文で論じた微分方程式に 関する知識は,すべて公の性質を有するものであって,景気循環理論に関する教育研究を行うす べての者に信託されなければならないものである.
謝辞:この研究は,中央大学基礎研究費及び特定課題研究費並びに日本学術振興会科学研究費助成事業(学 術研究助成基金助成金)(課題番号18K12748)の助成を受けたものである。
参 考 文 献 浅田統一郎(1997)『成長と循環のマクロ動学』日本経済評論社.
高木貞二(2010)『定本解析概論』岩波書店.
二宮健史郎(2018)『金融不安定性のマクロ動学』大月書店.
細矢祐誉(2019)「経済学のための常微分方程式入門」『三田学会雑誌』第111巻第 4 号,435―461頁.
村上弘毅(2020)「マクロ経済学の基礎理論に関する一考察」『中央大学経済研究所年報』第52号,261―283 頁.
森嶋通夫(1953)「三つの非線型モデル」『季刊理論経済学』第 4 巻第 3
―
4 号,213―219頁.安井琢磨(1952)「自励振動と景気循環」『季刊理論経済学』第 3 巻第 3
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