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20 世紀初頭フランスにおける財団法草案

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(1)

20 世紀初頭フランスにおける財団法草案

―― 立法研究協会での審議(2)――

野 田 龍 一 *

*文中[ ]および...は、それぞれ、筆者による挿入部分および削除部分を示す。

目  次 はじめに

1.立法研究協会での審議過程

2.遺言による財団設立(以上:『福岡大学法学論叢』第 54 巻第 1 号)

3.コンセイユ=デタの許可と親族の保護(以上:本号)

4.設立後の財団の権利能力 5.監督委員会の構成と権能 6.財団の転換と解散 むすび

3.コンセイユ=デタの許可と親族の保護

立法研究協会は、フランスに、あたらしい財団概念を立法でもって導入し ようとした。このあたらしい財団概念は、財団設立者の意思による設立を認

 *福岡大学法学部教授

(2)

めることを特徴とした。しかしながら、立法研究協会は、同時に、財団設立 については、行政による事前許可を要求した。この章では、この行政による 許可の内実について考察したい。なぜ、財団設立にあたっては、行政による 許可が必要なのか。その法的性質はなにか。いかなる行政官庁がこの許可を 付与する権限をもつのか。許可を付与するか否かの判断基準は、当該官庁の 自由裁量による基準であるのか、あるいは一定の法定の基準であるのか。財 団の種類に応じて、許可の在り方はことなるのか。しかりとすれば、いかな る種類で区別するのか。最後に、とくに遺言による財団設立について利害関 係をもつ親族には、許可付与に関して、いかなる権限を、また、いかなる範 囲の親族のために認めるべきか。

これらの点に関して、立法研究協会での審議をたどりたい。

1)Saleilles の委員会準備報告書

Saleilles は、財団委員会のための準備報告書を公にした。その中で、あた らしい財団にあって、行政による設立許可が、従来フランス民法典第 910 条 にもとづいておこなわれてきた公益認定と、いかなる点でことなるのかを説 明した。それは、3 点に及んだ。

(1)財団の法人格は、財団設立者の設立行為に遡及する

第一に、あたらしい財団概念にあっては、財団の法人格は、ひとたびそれ が承認されるや、財団設立者の設立行為に遡及的に由来する

1)

。これに対し て、従来の公益認定にあっては、財団に法人格を付与するのは、デクレによ る公益認定であり、この公益認定には遡及効がない

2)

(2)行政による許可は、財団の活動実績を要件としない

第二に、あたらしい財団概念にあっては、行政の許可は、それが付与され

るためには、当該財団の活動実績を要件とはしない。これに対して、従来の

公益認定にあっては、当該財団がすでに活動実績を積み、それをふまえて、

(3)

当該財団が公益認定に値する、と判断されるための証明がおこなわれること を要する

3)

(3)私的財団もまた、許可の対象となりうる

第三に、あたらしい財団概念にあっては、行政による許可の対象とされる ことができるのは、国家に奉仕することを目的とする、公的な財団にかぎら れない。純粋に私的な目的もまた、行政による許可の対象とされることがで きる。行政による許可は、個人のイニシアチヴを是認することを目的とし、

財団の私的な性格を奪い取ることはない。これに対して、従来の公益認定 は、当該財団を、国家の保護に中に組み入れることを目的とする。公益認定 を付与されることができるのは、比較的大規模な施設に限定される

4)

2)財団委員会(1907 年 1 月 12 日・2 月 9 日)での議論

(1)論点整理

立法研究協会内に設置された財団委員会は、1907 年 1 月 12 日、財団に関 して審議した。その中で、同委員会は、行政による許可に関して、つぎの 2 つの論点を定めた。

第一に、行政による許可にあっては、行政の自由裁量による許可を要する のか、あるいは、たんなる届出で十分であるのか、である。第二に、許可を 付与する官庁は、どこか、である

5)

(2)行政による許可の要否

1907 年 2 月 9 日、財団委員会は、さきの第一の論点、行政による許可の 要否、ならびに許可を要するとしたときの許可の内実(行政の自由裁量か、

一定の法規にもとづく法規裁量か)について審議した。

審議にあたり、Saleilles が、Larnaude を代理して、行政による許可につ

いては、2 つの方途が可能であることを指摘した。その 1 は、原則として行

政による許可を必要とし、例外的に一定の範疇の財団に関しては、許可不要

(4)

とする方途である。その 2 は、原則として許可不要とし、例外的に、とくに 危険な一定の財団に関してのみ許可を必要とする方途である。こうした危険 な財団とは、政治的性格ないし宗教的性格のある財団である。これら 2 つの 方途のうち、Saleilles は、Larnaude が、第二の方途をよしとする意向をも つ、と伝えた

6)

(3)Grunebaum による許可主義の主張

Saleilles を承けて、Grunebaum が、あたらしい財団の行政による許可と 従来の公益認定との間にあるのは、理論的相違というよりも、むしろ事実上 の相違であること、事実上の相違ゆえに、改革が十分に正当化されることを 指摘した。そのうえで、Grunebaum は、かの Larnaude が主張する、原則 許可不要なる方途が、詐害に門戸を開くことになるとして、すべての財団に ついて行政による許可を必要とするべきだ、と説いた

7)

(4)Romieu も行政による許可に賛成

Romieu もまた、従来の公益認定が容易にはおこなわれないことを指摘し たうえで、財団に関して立法でもって改革することが望ましいと述べ、この 行政による許可システムにあっては、一定の財団については許可を免除で き、また、許可が拒絶されたときには、行政訴訟 recours contentieux なる ものを認めることができる、と説いた

8)

(5)Saleilles による全財団に関する要許可の主張

Saleilles は、すべての財団に関して、行政による許可を必要とするべき だ、と主張した。ただし、公益認定を受けることによって、それだけで贈与 および遺贈を受け取る権利能力をもつ特殊な範疇の財団については、これを 別に置くのが適当であると説いた

9)

(6)Truchy の提案:財団保有の資産の多寡に応じて許可の要否を区別

Truchy は、行政による許可の要否を、当該財団が保有する資産の多寡に

応じて区別することを提案した

10)

(5)

(7)議長(Tanon)による Truchy 提案に対する批判

Tanon が、Truchy の提案を批判した。Tanon は、とくに遺言によって設 立される財団が、私的財産とは別のところで、莫大な資産を蓄積する、とい う危険を指摘した

11)

(8)Saleilles の提案:生前財団設立にのみ許可拒絶に対する行政訴訟承認 Saleilles は、生前財団設立の利益のためにのみ、許可拒絶に対する行政訴 訟を認めることを提案した

12)

。これを裏返せば、遺言による財団設立につ いては、許可が拒絶されたときには、行政訴訟を認めない、というのが、

Saleilles の意見であったであろうか。

(9)議長(Tanon)によるまとめ

Tanon は、財団設立にあたっては、行政による許可が必要である、とい う原則については、全員が賛成している、と、とりまとめた

13)

3)Saleilles による論点一覧表

1907 年 2 月 23 日、財団委員会は、行政による許可に関して、次回の委員 会までに、問題となる論点一覧表 questionnaire を作成することを、Saleilles に託した

14)

この論点一覧表は、以下のとおりである

15)

。 財団に関する許可

1.いかなる官庁が、財団に関して許可を与えることに任じられるべきか。

2.許可拒絶権は、権限ある官庁の自由裁量による評価に委ねられるであ ろうか、あるいは、一定の法定の諸要件の立証に服させられるであろうか。

3.目的によって特定される一定範疇の財団に関しては、当該財団が法律 によって確定されるその範疇に属しない場合のみに許可拒絶は可能であるこ とを、承認するべきか。

4.その外に、これらの特権を付与された財団に関しては、許可拒絶を正

(6)

当化しうるその他の法定事由、たとえば、遺言による財団に関しては法定相 続人らの異議、または、実現するべき目標と比較したときの資産不足を承認 するべきか。

5.こうして、少なくとも一定範疇の財団に関しては、介入を付託された 官庁の評価権を制限するであろう法定制限のシステムを承認するとすれば、

法律が承認する諸事由以外に許可が拒絶された場合に関しては、不服申立 を、どのように組織するべきか。

6.反対に、区別なしに、すべての財団に関して、許可付与に任じられる 官庁の自由裁量による評価権を承認するべきか。

7.少なくとも、最後の[6 の]システムにおいて、管轄権限ある官庁が 許可を拒絶するときには、当該官庁がその許可拒絶に理由を付することを要 求するべきか。

4)財団委員会(1907 年 3 月 9 日)での議論

(1)財団許可に関し管轄権限ある官庁は、コンセイユ=デタである 1907 年 3 月 9 日、財団委員会は、まず、いかなる官庁が、財団設立の許 可に関して管轄権限をもつべきか、について審議した。審議の結果、コンセ イユ=デタが、財団設立の許可に関して管轄権限をもつこと、また、コンセ イユ=デタの許可管轄権限は、遺留分を有する法定相続人の異議申立権の存 否にかかわりなく、つねに存在することを決定した

16)

(2)財団に関する許可の内実:法規裁量か自由裁量か

一争点となったのは、財団設立に関する、官庁による許可の内実であっ

た。Saleilles は、特権を付与された財団に関しては、当該財団が法定要件を

満たしているときには、許可拒絶はありえないこと、この場合には、許可は

官庁の自由裁量による評価に委ねられないこと、そうだとすれば特権を付与

された財団の範疇を規定するべきことを説いた

17)

(7)

これに対して、Larnaude は、さきに 2 月 9 日の委員会で Saleilles が代理 説明したシステムによれば、一定の範疇の財団に関しては許可が免除される べきだ、と説いた。さらにすべての財団に関して許可を必要とするのであれ ば、一定の範疇の財団に関しては、許可拒絶ができないとするべきである、

と主張した。Larnaude の念頭にあったのは、1898 年の共済組合および 1905 年の生命保険組合の先蹤であった

18)

。これらの組合については、一定の法 定要件をそなえるときには、設立許可は拒絶されない

19)

一定の範疇の財団に関しては許可不要か、または、許可強制とする、との Larnaude に対しては、Saleilles が、これを批判した。Larnaude のシステム は、危険な革新になる。行政官庁の介入は、確実な保護を成す。行政官庁 の介入を制限すれば、財団法立法事業が危険にさらされる。Saleilles は、財 団設立に関する行政官庁の許可を、法規裁量ではなく自由裁量とするべきこ と、ただし、それには理由を付すべきことを主張した

20)

財団設立に関する行政官庁(コンセイユ=デタ)の許可ないし許可拒絶は 自由裁量による(Saleilles)か、法規裁量による(Larnaude)か。財団法草 案の必要性一般については、軌を一にしてきた Saleilles と Larnaude は、こ こで袂を分かち合ったのである。

他の委員らが発言した後、議長(Esmein)は、こうとりまとめた。特権 を付与されていない範疇に属する財団に関しては、許可は自由裁量的で、か つ理由を付されない

21)

(3) 「許可」autorisation なる用語の可否

財団設立に関する官庁の「許可」autorisation は、行政官庁の創設的行

為 création を意味するから、財団設立のさいにもちいるのは不適切だと

Romieu が主張した。委員会では、それに替えて「登録」enregistrement あ

るいは「認証」approbation が提案された。議論の末、委員会は、すべての

財団に関し「許可」autorisation をもちいることにした

22)

(8)

(4)特権を付与される財団の範囲

3 月 9 日開催の委員会は、いかなる財団が、特権を付与された財団とされ るべきかについて審議した。

Larnaude は、慈愛 charité・(自然)科学 science・スポ-ツ sport を目的 とする財団が特権を付与された財団とされるべきことを提案した

23)

これに対して、議長(Esmein)が、科学ないしスポ-ツを目的とする財 団なるものは、しばしば政治イデオロギ-を隠蔽する可能性があることを指 摘した

24)

Tanon は、特権を付与された財団にあっては、十分に事情を把握して、

その範疇をたてることが重要であることを力説した

25)

委員会は、科学・スポ-ツを目的とする財団についての審議を次回に保留 した

26)

Tanon が、慈愛 charité を、それよりもより意味の広い慈善 bienfaisance に置き換えることを提案し、委員会は、これをよしとした

27)

ラテン語の caritas に由来する charité がカトリックの「隣人愛」を想像 させるところから、これを避け、宗教的色彩のより薄い慈善 bienfaisance に 置き換える

28)

ことになったのではあるまいか。

5)財団委員会(1907 年 4 月 27 日)での議論

(1)特権を付与される財団の範囲(つづき)

1907 年 4 月 27 日、財団委員会は、さきの委員会で懸案となっていた、ス ポ-ツおよび科学を目的とする財団を、特権を付与された財団という範疇に 入れるかどうかを審議した。まず、スポ-ツを目的とする財団について審議 がおこなわれた。

Larnaude が、スポ-ツを目的とする財団を、特権を付与された財団とい

う範疇に入れるべきだ、と主張した。スポ-ツ、なかでも射撃訓練のための

(9)

財団は、軍役期間が比較的短いフランスにあっては、軍事教練を補完する役 割をはたすこと、スイスでは、多くのスポ-ツを目的とする財団が存在する こと、スポ-ツを目的とする財団が、政治イデオロギ-を隠蔽することは困 難であることが、提案理由であった

29)

de Ségogne もまた、本来の目的からの逸脱があれば、制裁、さらには解 散を規定することができるとして、Larnaude の主張に賛成した

30)

Larnaude-de Ségogne の賛成意見に対して、Tanon が、反対意見を述べ た。スポ-ツを目的とする財団が愛国的財団であるからといって、これが財 団として集合財産を蓄積するのを認めるメリットはないこと、スイスとフラ ンスとでは国情がことなること、財団に対する制裁は、しばしば実施するに 難いことが、理由であった

31)

Esmein も Tanon に同調した。スポ-ツ財団の多くは国益に合致するわけ ではない。愛国的事業は、財団ではなくアソシアシオンの形態で展開する ことができる。むしろ、アソシアシオンの能力を拡大することが改革にな ろうというのである。ここでもまた、財団における財産の非流動化に対する Esmein の懸念が、背後にあった、と言える

32)

票決の結果、1 票差で、スポ-ツを目的とする財団は、特権を付与された 財団の範疇から外されることに決まった

33)

つづいて、委員会は、科学を目的とする財団に関する審議をおこなった。

Larnaude が、科学を目的とする財団には、教育を目的とする財団が含ま れないこと、また、講座の寄付は、負担付き遺贈という方途でおこなわれる べきであって、寄付講座を目的とする財団も、科学を目的とする財団には含 まれないことを説いた

34)

。ここにあるのは、第三共和政下で争いの多かっ た「教育」問題に触れることへの警戒である

35)

Esmein・Tanon・Weiss が、この点については、Larnaude の意見に賛成

した

36)

(10)

委員会は、全委員一致して、科学を目的とする財団を、特権を付与された 財団の一範疇とすることで意見が一致した

37)

さらに、芸術または文芸を目的とする財団もまた、特権を付与された財団 の一範疇とすることが決定された

38)

慈善を目的とする財団には福利厚生を目的とする財団が含まれるのか、と いう問題が、Larnaude によって提起された。これについては、Esmein が、

福利厚生については、1898 年の共済組合法の規定する共済組合で対応可能 である、と述べ、これには異論がでなかった

39)

(2)特権を付与された財団の許可に対する親族の異議申立権

財団委員会は、ついで、特権を付与された財団に対する法定相続人の異議 申立権について審議した。

Larnaude は、法定相続人保護のためには遺留分減殺請求権で十分であっ て、特権を付与された財団の許可に対する法定相続人の異議申立権を新設す る必要なし、と説いた

40)

これに対して、Tanon が、「一定の親族」certaines familles の利益のため には、遺留分減殺請求権では不十分であって、許可に対する異議申立権がぜ ひ必要だと主張した。この異議申立権がなければ、財団設立者の、とくに遺 留分を有しない親族は、せいぜい財団がその受けた無償出損の一部を親族の ために任意で放棄することを期待するほかはない

41)

。議論の末、Larnaude は、かりに親族にこうした異議申立権を認めるとするならば、この異議申立 権を行使できる親族の範囲を限定するべきだ、と主張した

42)

委員会は、Weiss の提案にもとづいて、異議申立権を財団設立者の直系

血族(卑属または尊属)・兄弟姉妹・兄弟姉妹の卑属に認めることを承認し

た。遺留分を有しない兄弟姉妹および兄弟姉妹の卑属にまで異議申立権を認

めたのは、親等よりも、「愛情の現実の絆」lien réel d’ affection をむしろ顧

慮したためであった

43)

。この異議申立権が配偶者に認められてはいないこ

(11)

とに、留意しなければならない。

6)財団委員会(1907 年 11 月 23 日)での議論

(1)親族の異議申立を受けたコンセイユ=デタの裁量権

1907 年 11 月 23 日、財団委員会は、親族からの異議申立を受けたコンセ イユ=デタの裁量権の内実(自由裁量か、法規裁量か)について審議した。

Romieu は、親族が異議申立をなしうる要件を精緻化するべきだ、と主張 した

44)

これに対して、Esmein および Tanon は、コンセイユ=デタの裁量は、自 由裁量であるべきだ、と主張した

45)

Saleilles は、財団の目的に関する行政訴訟 recours contentieux と、親族 の異議申立に関する行政不服申立 recours administratif とを区別するべし、

と説いた

46)

Romieu は、許可拒絶の要件を精緻化しないならば行政訴訟はありえない と説いた

47)

Esmein および Tanon が、これに対して反論した。かれらは、コンセ イユ=デタには、財団の利益と親族の利益とを考量したうえで、「自由に librement 態度を決定する権利」、すなわち自由裁量権を委ねることが望ま しい、とふたたび主張した

48)

Larnaude は、かれがおこなった提案によれば、法定相続人の異議申立権 は、特権を付与されていない財団の許可に関してのみ考えられていたこと、

こうした異議申立権は、慈善や科学を目的とする特権を付与された財団の範 疇とはなじまない、と主張した

49)

Saleilles および Romieu は、委員会での議論の経過をふまえたうえで、こ

うまとめた。もともとの Larnaude の構想によれば、特権を付与された財団

については許可は不要で、それが公示される登録簿に登録されるだけでよい

(12)

とされた。しかし、その後、委員会は、すべての財団について、行政による 事前の許可が必要である、との考えにいたった。事前の許可にあたっては、

特権を付与されていない財団については、だれもが異議を申し立てることが できる。特権を付与された財団については、一定の期間内において、一定範 囲の親族のみが異議を申し立てることができることになる

50)

(2)財団設立無効および財団財産の減殺

議長(Esmein)が、コンセイユ=デタは、許可について判断をおこなう さいに、たんに許可・不許可の判断のみならず、財団財産の減殺をもなしう るかどうか、との問題を提起した。委員会は、財団財産の減殺をもなしう る、と結論にいたった

51)

(3)審議のとりまとめと異議申立権ある兄弟姉妹の卑属の限定

最後に、Saleilles が、特権を付与された財団に関してつぎのようにとりま とめた

52)

a)コンセイユ=デタによる許可は、つねに必要である。

b)法定相続人は、一定期間内に異議申立をなす権利をもつ。

c)異議申立が承認されるときには、コンセイユ=デタは、理由を付した そのデクレでもって、財団設立の許可を拒絶するか、または財団財産を減殺 する。

最後に、異議申立権をもつ法定相続人の範囲に関して、兄弟姉妹の卑属に ついては、兄弟姉妹の卑属一般ではなく一親等の卑属に限定することが、委 員会では承認された

53)

特 権 を 付 与 さ れ た 財 団 を め ぐ り、 自 由 裁 量 を 主 張 す る Saleilles に、

極力財団を認めまいとする Esmein-Tanon が接近し、法規裁量を主張す る Larnaude がこれに対峙した。また、親族の異議申立権についても、

Esmein-Tanon と Larnaude との対立があきらかになった。

(13)

7)草案条文

以上の審議を承けて、財団委員会は財団法草案を起草した。該当条文は、

つぎのとおりである

54)

第 3 条「いかなる財団も、それが、コンセイユ=デタで言い渡されるデク レによって許可されるときのみ、公示されることができる。

コンセイユ=デタは、その決定を言い渡すためには、財団の事業が実施さ れることを待つべきではない。

コンセイユ=デタが財団を許可するとき、その許可は、公益認定の性格を もたない。コンセイユ=デタの決定には、いかなるときでも、理由を付する 必要がない。コンセイユ=デタの決定には、不服申立をなすことができな い」。

第 4 条「許可は、慈善または科学の発展、文芸もしくは芸術を目的とする 財団に関しては、法上当然に[法定の要件を満たしていることの判断のみ で]存在する。

許可拒絶については、理由を付さなければならない。許可拒絶は、当該財 団がうえで列挙した諸目的のうちの 1 つと合致しないことに、または、本法 の諸規定からすれば財団解散を正当化する諸事由の 1 つにのみ、根拠付ける ことができる。

[コンセイユ=デタがおこなった許可]拒絶に対しては、だれであれ利害 関係人または、財団設立者の代表者らは、コンセイユ=デタ争訟部に不服を 申し立てることができる。この不服申立は、無料であり、また、[コンセイ ユ=デタ付]弁護士の仲介なしに、これをおこなうことができる」。

第 5 条「なんぴとも、許可目的のための申請から起算して 2 ヵ月の期間内 に、許可申請を支持するか、または、それに異議を申し立てる目的で、コン セイユ=デタに申立書を提出することができるであろう。

財団が慈善または科学の発展、文芸もしくは芸術を目的する場合で、当該

(14)

財団が遺言によって設立されたときには、遺言者の卑属および尊属、ならび に、遺言者の兄弟姉妹およびこれら兄弟姉妹の一親等の卑属は、コンセイユ

=デタの許可に対して、異議を申し立てることができる。そして、コンセイ ユ=デタは、この場合には、第 4 条第 2 項所定の法定事由以外であっても、

財団[設立]を拒絶することができるであろう。;コンセイユ=デタは、同 じく同一の諸要件のもとで、財団[設立許可]拒絶に代えて当該財団に与え られる基金の金額を異議申立人らの利益において、減殺することができるで あろう」。

第 6 条「コンセイユ=デタの決定は、前条所定の期間が満了する前には、

けっしておこなわれることができないであろう。コンセイユ=デタの決定 は、当該決定が、本法の第 3 条が規定する財団に関するものか、または、本 法の第 4 条が規定する財団に関するものかを、つねに明示的に表示しなけれ ばならないであろう」。

8)Saleilles による注釈

以上の第 3 条ないし第 6 条について、Saleilles が注釈を作成した

55)

。以 下、財団設立における行政の許可の必要性・許可の内実・特権を付与された 財団・親族の異議申立権の諸点を中心に、そのあらましを見ておこう。

第 3 条について:

(1)財団設立における行政の許可の必要性

ドイツ民法典第 80 条

56)

は、財団設立にあたり、行政の許可を要求した。

これに対して、スイス民法典第 81 条

57)

は、財団設立にあたり、たんに登録 を要求するにとどまった。

フランスでは、いかにあるべきか。Saleilles は、つねに行政の許可が必要 だと説く。第一に、フランスにおける公論の未成熟さについて、である。

フランスは、これまで民法典第 910 条所定のように、既存の財団の実績を

(15)

前提とする公益認定のシステムでやってきた。この極端な国家管理主義 étatisme から、スイス型の無統制な登録主義に移行するのは、危険である。

Saleilles の評価によれば、政治的には、フランスには、いまだに民衆におけ る公論の成熟がない。また、宗教的には、宗教的寛容が、いまだに十分では ない。多くの扇動者は、自由を求める。それは、後になって自由を抑圧する ためである。こうした扇動者に迎合してはならない。自由がフランスに根付 き拡大するためには、自由についてゆっくりと学ぶことが重要である

58)

第二に、アソシアシオンと財団との間にある相違について、である。1901 年法は、アソシアシオン設立に関しては、届出主義を採用した。なぜ、財団 設立に関しては、届出主義ではなく、許可主義なのか。Saleilles は、アソシ アシオンと財団との間にある、諸相違を指摘する。アソシアシオンはつねに 公論とともに盛衰をたどる。財団はひとたび設立されるや永久的なものとな り、公論からは遮断される。たとえば、会計報告は、アソシアシオンにあっ ては総会に対してなされるが、財団にあっては理事会に対してなされるにと どまる。両者の間に設立に関しては、ことなる規律があることがむしろ必要 である

59)

第三に、以上よりして、フランスにあっては、一方では、民法典第 910 条 所定の公益認定主義から脱却し、他方では、公論を不安にしないためには、

財団設立を法認し、しかもすべての財団について、行政による許可を設立要 件とする立法が必要である。この立法は、一方では、財団設立という個人の イニシアチヴ実現を可能にする、と同時に、それは、他方では、設立許可と いう、行政による消極的統制を前提とするものである

60)

財団設立について許可主義を採ることについては、財団委員会の意見は一 致した

61)

(2)行政による許可の内実

ついで、Saleilles は、財団設立に関しては許可主義を採るにせよ、ここで

(16)

「許可」とは、いかなるものかについて、財団委員会で議論があったことを 紹介する。具体的には、コンセイユ=デタが許可拒絶できるのは、一定の法 定事由あるときのみとする法規裁量を唱える者と、コンセイユ=デタに、フ リ-ハンドの自由裁量を委ねる者との対立である。Saleilles は、自身の意見 として、草案では、自由裁量を採るべきだと主張した。その理由は、こうで あった。政治的目的や宗教的目的をもつ財団は許可されない。また公序良俗 違反の事項を目的とする財団も許可されない。こうした財団について判断す るとき、一定の判断基準を法律で定めていても所詮役に立たない。慈善や科 学を目的とする財団についてもまた、その目的を具体的に審査しないことに は、許可・不許可の判断を下すことができない。こうした判断の基準は千差 万別であり、これをあらかじめ法律で決めておくことはできない。コンセ イユ=デタは、司法機関として、財団設立許可について判断するのではな く、行政機関として判断するのである。行政機関としてのコンセイユ=デ タの判断にあっては、その自由裁量に判断を委ねても、恣意的になること はない

62)

このような Saleilles の考えは、財団委員会での審議について見たように Esmein-Tanon らの支持するところであり、しかし Larnaude の法規裁量説 と対立するものであった

63)

(3)許可拒絶にさいしての理由付けの要否

コンセイユ=デタの財団設立許可拒絶には、理由を付けねばならないか。

Saleilles は理由を付けねばならない、とする考えを、「無益の形式主義」と 呼び、これを非難した。コンセイユ=デタの決定に対しては不服申立ができ ない以上、許可拒絶に理由を付けてもなんの役にも立たない、というのであ る

64)

(4)行政による許可と公益認定との相違

Saleilles は、第 3 条に関するその注釈を終えるにあたり、行政による許可

(17)

が、従来の公益認定と、どう違うか、について、念を入れて説明している。

その相違は、つぎの 2 点にある。第一に、財団設立の許可は、ひとえに寄付 行為(定款)の審査にもとづいて判断される。公益認定のように一定期間の 活動実績があることは要件ではない。第二に、財団設立許可の判断基準は、

公益認定の判断基準よりもより緩やかでなければならない

65)

。 第 4 条について:

(1)特権を付与された財団

Saleilles によれば、第 3 条は、原則として、すべての財団設立について、

許可の可否判断を、行政機関としてのコンセイユ=デタの自由裁量に委ね た。それは、社会にとって危険な政治的目的ないし宗教的目的を隠蔽する財 団をふるい分けるためであった。

しかし、財団の中には、こうした危険な目的を比較的もちにくい財団が存 在する。こうした危険ではない財団の設立にあたっては、一定の諸事由が存 在しない以上、例外的に、かならず設立を許可するべきである。これらの設 立許可が拒絶される事由とは、当該財団が無益であるときや公序に違反する ときなどおよそ財団の解散を正当化する事由である。

このように例外的に一定の範疇の財団については、それらの設立をかなら ず許可する、という規定を設けることに対しては、財団委員会内で反対が あったことが付言された

66)

(2)財団における財産蓄積の懸念

では、なぜ、特権を付与された財団を法認することに対して反対がでたの

か。反対論者(具体的には Esmein や Tanon)は、つぎの点を指摘した。民

法典第 910 条によれば、ほんのわずかの財産を公益施設に贈与・遺贈するに

しても、行政による許可が例外なしに必要である。また、1901 年 2 月 4 日

のアソシアシオン法によれば、届出られたアソシアシオンについては、これ

また例外なしに、当該アソシアシオンへの贈与が禁止されている。しかる

(18)

に、特権を付与された財団の設立をかならず認めるとなると、財団設立のさ いの出損行為によって、こうした財団には、財産が不当に蓄積されることに なりはしないか。

Saleilles は、この反対論に対する妥協として、財団委員会では、特権を付 与された財団の設立にあっては、一定の近親の親族に、異議申立権を認めた ことを伝える

67)

。この親族の異議申立権については、第 5 条注釈のところ で、まとめて紹介したい。

(3)特権を付与された財団の範疇

とくに設立にあたって優遇される、という意味で特権を付与される財団と は、いかなるものか。

これに属するのは、第一に慈善を目的とする財団である。Saleilles は、慈 善目的にはイングランドの charities とはことなって学校財団が含まれない ことを注記した

68)

第二に、スポ-ツを目的とする財団は、当初の Larnaude による構想で は、特権を付与された財団の 1 つとされた。しかし、スポ-ツを目的とする 財団が、政治的目的ないし宗教的目的を容易にもちうることを懸念する声が 優勢で、財団委員会は、スポ-ツを目的とする財団を、特権を付与された財 団の範疇から外すことになった

69)

第三に、こうして、特権を付与された財団の範疇に属するのは、慈善・科 学・文芸もしくは芸術を目的とする財団ということになった

70)

(4)家族財団は特権を付与された財団ではない

スイス民法典第 335 条

71)

は、家族財団なる範疇を認め、これについても

登録のみによる設立とした。ここで家族財団とは、もっぱら、家族の利益の

ため、たとえば家族構成員の教育・婚姻にかかる費用を支弁するための財団

である。委員会草案は、この家族財団を、特権を付与された財団の 1 つとは

しなかった。Saleilles は、民法典第 910 条所定の従来の公益認定と、草案が

(19)

描く財団が相違すること、草案が描く財団とは、まさに、公益認定とは無関 係の私的財団であること、また、家族財団こそは、もっぱら親族の利益保護 を目的とするものであることにかんがみれば、家族財団を、特権を付与され た財団とするべきではなかったか、と示唆している

72)

。しかし、財団委員 会の審議にあって、家族財団を特権を付与された財団の 1 つとすることは認 められることがなかった。ドイツ民法典やスイス民法典にならった、純粋に 私法上の財団を構想する Saleilles の意に反して、財団委員会のメンバ-の 念頭にあったのは、慈善・科学・文芸芸術といった社会性ないし公益性の ある財団であった。家族財団は、社会性ないし公益性を欠くゆえに排除さ れた

73)

(5)財団設立許可拒絶の理由の必要性

草案第 4 条は、特権を付与された財団については、コンセイユ=デタが 設立許可を拒絶するときには、その理由を付けねばならないと規定した。

Saleilles によれば、許可拒絶の理由とは、当該範疇の目的にそぐわないこ と・目的が公序に違反することにほかならなかった

74)

(6)財団設立許可拒絶と財団解散宣告

Saleilles は、さらに、第 3 条および第 4 条が規定する財団設立許可拒絶 と第 16 条が規定する財団解散宣告との相違点に触れている。財団設立許可 拒絶は、コンセイユ=デタ、すなわち行政官庁がこれを所管する。しかる に、財団解散宣告は、普通法上の裁判所、すなわち司法官庁がこれを担当 する。このように所管官庁がことなっていることは、不合理ではないのか。

Saleilles は、つぎの理由から、そこには不合理はないと断じる。設立許可拒

絶にあって問題であるのは、国家がそれを保護する権利をもつ公序上の利益

において財団の設立当初の性格を評価することであり、それは財団の寄付行

為(定款)に即しておこなわれる。これに対して、財団解散を宣告するさい

に問題であるのは、財団の意思・権利と社会の進展の過程で出現する公序観

(20)

念との衝突であって、財団の寄付行為(定款)の評価ではない。この衝突を 審理するのは民事司法官庁の使命である

75)

(7)許可拒絶に対する不服申立手続き

草案は、設立許可拒絶に対する不服申立にあっては、弁護士の仲介が不要 であることや手数料は無料であることを規定した。これは、手続きを単純化 し、費用負担を軽減することにより、申立人の不服申立の権利をできるだけ 保障しようとするものであった

76)

第 5 条について:

(1)財団設立許可に関する意見聴取

第 5 条は、まず、およそ財団一般に関して、その設立許可に関する賛否両 論の意見を提出することを、すべての者に認めた。想定される対象者は、

Saleilles によれば、利害関係人・親族一般・公序の代表者(検察官)・市長・

県知事である。提出された意見は、行政の自由裁量権を変更することはな い。それは許可判断の参考とされるにとどまる

77)

(2)特権を付与された財団許可に関する親族の異議申立権

ついで、第 5 条は、特権を付与された財団に関しては、一定範囲の親族 に、遺言による財団設立についての許可に対して異議申立を提出する権利を 付与した。Saleilles は、この親族保護を、遺言による財団設立についての反 対論のための妥協策としてとらえた。

この異議申立権は、遺留分減殺請求権とどうことなるのか。第一に、この 異議申立権は遺留分ある法定相続人のみならず、それ以外に、被相続人の 兄弟姉妹および兄弟姉妹の一親等の卑属にもまた付与される。配偶者は、

Saleilles の注釈においても、いまだ、まったく言及されていない。第二に、

この異議申立権の効果は、行政に、その自由裁量による許可・不許可の決

定、さらには、遺言によって設立されるべき財団に付与される財産の減額決

定を委ねることであって、遺留分減殺請求ではない

78)

(21)

第 6 条について:

(1)期間の設定と対象となった財団の類別の明示

第 6 条は、第 5 条を承けて、行政に、意見聴取ないし親族の異議申立の提 出に関して、一定期間を設け、その期間を徒過してはじめて決定を下すこと を義務付けた。また、そのさい、行政は、許可・不許可の対象となった財団 が、第 3 条所定の一般財団であるか、あるいは、第 4 条所定の特権を付与さ れた財団であるかを明示するべきものとされた。

Saleilles は、第 6 条に関するその注釈の中で、第 6 条所定の期間限定が、

あくまでも財団法にもとづく意見提出ないし親族の異議申立に関するもので あること、したがって、普通法所定の遺留分減殺請求やコンセイユ=デタ行 政部の決定に対する行政訴訟としての取消の訴えは、それぞれ、独自の手続 きで、おこなわれることを、説いている

79)

9)Larnaude の総会口頭報告

1908 年 12 月 17 日、Larnaude が、立法研究協会の総会で、草案に関し て、口頭で説明をおこなった

80)

。その説明は、さきに見た Saleilles の注釈 と、見解を異にした。こうした見解の相違は、第一に、財団設立に関する行 政の許可の意義の点において、ついで第二に、財団設立許可に対する親族の 異議申立権の意義の点において、あきらかである。

(1)財団設立に関する行政の許可の意義

Larnaude は、Saleilles とことなり、財団設立に関する行政の許可は、行 政の自由裁量によるべきではなく、法定の判断基準に依拠する法規裁量であ るべきだ、と主張した。

理由は、2 つあった。その 1 は、許可の法的性格にもとづくものである。

Larnaude によれば、財団設立は、あくまでも設立者の意思に由来する。行

政による許可は、この意思による設立に、最後の仕上げをし、最後の磨きを

(22)

かけるにすぎない。Larnaude は、とくに、Romieu を援用して、こうした 許可からは自由裁量的で恣意的な性格を取り上げるべきだ、と主張する。か れの主張の背景には、その当時、フランスであいついで制定された 2 つの法 律の規定があった。1898 年 4 月 1 日の共済組合法および 1905 年 3 月 17 日 の生命保険組合法である。これらの法律によれば、組合承認の拒絶は、いず れも、法定の拒絶事由にもとづいてのみおこなわれることができる

81)

。フ ランスにあっては、このように、行政の許可に関しては、自由裁量制は、あ きらかに後退傾向にあるのである。Larnaude は、こうした自由裁量の後退 および法規裁量の導入を、財団設立許可にもまた希求した。しかし既述のよ うに、その願望は、財団法委員会では実現されなかった。いわば妥協の産物 として、第 3 条所定の一般財団と第 4 条所定の特権を付与された財団とに財 団を類別し、前者については、自由裁量制が、後者については、法規裁量 制が構想されたのであった。「自然は跳躍しない」。Larnaude は、この立法 が、数世紀来のフランスの伝統の尊重に由来する、自然にならった漸次的な 推移であり、妥協の産物であることを強調している

82)

(2)特権を付与された財団の範囲

Larnaude は、特権を付与された財団の範疇の 1 つとして、スポ-ツを目 的とする財団を挙げていた。しかし、これは財団委員会で排除された。その 原因は、Larnaude によれば、財団委員会での審議当日に、一委員が、自転 車ではねられたことにあった

83)

ただし、Larnaude にあっても、宗教・教育・政治を目的とする財団は、

けっして特権を付与された財団の範疇に算入されてはならない、とされた。

これらの財団については、依然、行政の自由裁量による許可・不許可決定が

承認されなければならない。これらの財団は、フランスのような感受性の強

い国では、内乱ないし市民間の底知れぬ対立の道具であるからである

84)

(23)

(3)財団設立許可に対する親族の異議申立権

遺言による財団設立のさいの親族の異議申立権に関しても、Larnaude は、Saleilles と対立した。すでに見たように Larnaude は、親族保護のため ならば、法定相続人に遺留分減殺請求権を与えることで十分であると主張し ていた

85)

。財団財産は、遺言による設立でもって、遡及的に、遺言者の財 産から分離され、独自の集合的財産を構成する。この財団独自の財産に対し ては、親族は、もはや-遺留分減殺請求権を例外とすれば-いかなる権利を ももつことができないのである。Larnaude によれば、法定相続人に唯一残 される遺留分減殺請求権それ自体が、すでに、一般的・社会的利益を構成す るものであって、たんに私益保護を目的とするものではないとされた

86)

。 しかし、この Larnaude の所論が、財団委員会では受け入れられなかったこ とは、これまた、すでに見たとおりである

87)

ただし、いったん財団に帰属した財産が、当該財団が解散する場合でもま た設立者の親族には復帰せず、独自の運命をたどることは、Larnaude の主 張どおりに承認された

88)

10)総会での審議

1909 年 1 月 28 日および同年 2 月 25 日、立法研究協会は、その総会で、

財団法草案第 3 条ないし第 6 条を審議した

89)

。総会では、とくに、財団設 立に関する行政の許可(許可決定官庁はどこか)・許可裁量の性格(自由裁 量か法規裁量か)・特権を付与された財団の可否と範囲・親族の異議申立権 の意味と当該親族の範囲をめぐって議論がおこなわれた。

①第 3 条について:

(1)財団設立に関する行政の許可

許可を付与する官庁は、どこか、が議論された。

Taudiére は、コンセイユ=デタが許可を与えるとしたのは過去に 1848 年

(24)

に 1 回あったにすぎないこと、コンセイユ=デタが与えるのは意見 avis で しかないことを指摘した

90)

これを承けて、Romieu が、許可を与える官庁を、コンセイユ=デタでは なく、行政 administration publique としたらどうか、と提案した

91)

(2)財団設立と公益認定とを区別する規定

ついで、問題となったのが、第 3 条で、財団設立と公益認定とを区別する 規定がおかれていることの可否について、であった。

Romieu が、この規定の削除を提案した

92)

これに対しては、Saleilles が、削除すれば、財団法草案所定の許可が公益 認定と区別がつかなくなることを理由に、削除に反対した。財団法草案の立 法意義は、まさに、財団設立が、従来の公益認定とことなることを宣言する ところにあり、規定は必要と述べている

93)

議長(Colson)は、許可が公益認定よりも与えるに容易いことを、条文 のかたちで述べることは、困難ないし無益である、として、削除案に賛成 した

94)

Larnaude は、草案があまりにも学理的でありすぎることを認めたうえ で、むしろ、第 8 条において、財団設立と公益認定との相違を明示したらど うか、と提案した

95)

Saleilles は、財団設立の許可が、公益認定とはことなって、まったく消極 的性格をももつこと、このことを条文で明示することが不可欠であると、強 調した

96)

議長(Colson)は、財団設立について「許可」autorisation という用語を 使っている以上は、それが、公益認定とことなることは、一目瞭然だ、と応 酬した

97)

Rau は、財団設立にあっては事前の活動実績を要件としないが、公益認定

にあっては事前の活動実績を要件とするから、両者を区別する規定を置くこ

(25)

とは適切だと述べた

98)

議長(Colson)は、Rothschid 財団

99)

が公益認定を受けたときには、事 前の活動実績が要件とはされなかったことを指摘して、Rau の所論を否定 した

100)

総会では採決をしなかったから、以上 2 つの問題、許可官庁はどこか、な らびに、財団設立と公益認定とを区別する明示的規定は必要か、は、懸案事 項とされた。

②第 4 条について:

(1)特権を付与された財団と許可主義

行政の自由裁量による許可ではなく、法定の要件を満たしていれば許可が 付与される、という意味で、特権を付与された財団を例外として設ける必要 性について、議論があった

101)

Saleilles は、このように例外を設けることについては、Tanon および Esmein が反対し、また、Saleilles 自身も異論があることを、述べた

102)

。 Saleilles は、この例外規定が、財団設立に関する許可原則における、いわば

「綻び」brèche であると批判した。

「綻び」と言われたことに対して、Larnaude が、反論した。共済組合法も 生命保険組合法も、もはや自由裁量による許可主義から脱却している。どう して、財団に関してのみ、なお時代遅れの自由裁量による許可主義に固執し なければならないのか、と説いた

103)

。Larnaude は、特権を付与された財団 の発想が、イングランド法を模倣した、と言う

104)

(2)特権を付与された財団の範疇をめぐる諸問題

ついで、審議は、特権を付与された財団の範疇をめぐる諸問題に移った。

Tanon が、科学・文芸芸術という範疇が、法律の回避を惹起する、と批 判した

105)

議長(Colson)は、設立後の統制でもって、法律の回避を阻止できる、と

(26)

指摘した

106)

Tanon は、事前許可と事後統制とがことなることを強調したうえで、す べての財団について、行政が自由裁量によって許可・不許可を決定するべき だ、と反論した

107)

Larnaude は、Tanon に対して、こう応答した。フランスでは、1810 年の 刑法典が、その第 291 条

108)

で、結社を、公権力の許可によるものと規定し ていた。この規定にあっても、文芸・芸術のアソシアシオンの名のもとに反 政府のための陰謀が図られる危険が指摘されていた。しかし、この第 291 条 は、1901 年のアソシアシオン法によって廃止された。われわれは、1810 年 にいるのではなく、1901 年以降の時代にいるのである。この時代にあって どうして、文芸・芸術の名のもとに政治的目的が隠蔽される可能性があろう か。また、救援物資を貧困者に配分すること、高齢の被用者のために年金を 立ち上げること、教授資格試験志願者らに奨学金を割り当てること、そして 外国での研究のために派遣することが、どうして陰謀なり策略を隠蔽するこ とができるのか。Tanon の懸念は、空想上の懸念である。第 4 条でもって、

政治的目的をもつ財団を阻止する網の目は、十分に密である。特権を付与さ れた財団のそれぞれについて、解釈は厳格におこなわれる。その外に、財団 設立後については、監督委員会による統制が可能である。Larnaude は、財 団委員会で排除されたはずのスポ-ツを目的とする財産を例に持ち出して、

たとえば、費用のかかる航空飛行を目的とするときには、財団形態が有益で あることを付言した

109)

Larnaude に対しては、Saleilles が、自由裁量許可主義の立場からふたた び批判した。

第一に、財団は、そこに財産を蓄積し、非流動化する。これは、フランス

では伝統的な「偏見」であるかもしれない。しかし、それは、フランスの現

実と一致している「偏見」である。財団法草案は、他日、フランスの議会に

(27)

かけられ立法化されるべきものである。それは、実際に議会で受け入れら れることのできる実務的な作品でなければならず、理論的な作品であって はならない。いま、特権を付与された財団について自由裁量許可主義を適 用除外とするならば、財団法草案がフランス議会で日の目を見ることはな かろう

110)

第二に、Saleilles の同僚であるパリ大学教授らの意見がある。それによれ ば、第 4 条で特権を付与された財団にのみ自由裁量許可主義を適用除外とす るのは非論理的である

111)

第三に、科学や文芸を目的とする財団が特権を付与された財団であるとす れば、フランスの各地方で、あちこち、こうした目的をもつ研究施設が設立 されよう。こうした研究施設の乱立は、まったく無益であり、厄介なものと なるのではないか

112)

第四に、科学や文芸を目的とする研究施設の名のもとに、無政府主義の学 校を設立することが可能になるのではないか。こうした無政府主義の学校に 対しては、事後的な統制が用意されているかもしれない。しかし、設立後に 無効とし解散させることよりも、事前に行政によって不許可とするほうがよ りよいことではないか。設立のさい寄付行為(定款)のみによって当該財団 を純粋に政治的であると判断するのは困難である。しかし、自由裁量による 許可のシステムのもとでは、政治性を立証できなくとも不許可にできる

113)

。 最後に、遺憾ながら、フランスは、財団に関しては、久しく自由が存在し なかった。このフランスにあっては、極端に走るのではなく、漸進的に歩む ことが、得策である。アソシアシオンの場合のように、財団についても、一 歩一歩進むべきである

114)

理念としては設立者の自由意思による財団設立を支持しながら、しかし、

フランスの現実を思えば、なお、すべての財団について、行政の自由裁量

に、許可の判断を委ねざるをえないというのが、Saleilles の、一見すれば、

(28)

Esmein や Tanon 派の立場と見紛う立場であろうか。

Tanon は、第 4 条に関する議論の中で、Larnaude が、Tanon の懸念を、

空想上の懸念と評したのに対して、自分が懸念するのは、特権を付与された 財団における死手財産の蓄積であって、結社の権利についての市民の自由の 濫用ではないことを弁明した。そのうえで、第 5 条所定の異議申立権には 実効性がないことを指摘した。けだし、異議申立権をもつはずの法定相続人 は、設立された財団と和解し、その権利を行使しないからである

115)

議長(Colson)が、議論をまとめた。特権を付与された財団に対する懸念 の理由は、2 つである。その 1 つは、死手財産の蓄積である。いま 1 つは、

科学・文芸芸術の名のもとに政治的目的が隠蔽されることである。これに対 しては、議長は、事前許可の時点でこれを見抜くことは不可能であり、むし ろ、設立後の統制で対処できるのではないか、と指摘した

116)

ゲストとして出席していた Largésille が、発言した。かれは、もしも第 4 条を削除するならば、財団法草案はなにも新しいことを規定しなかったこと になると説いた。従来、財団を設立するためには政府の許可を要したし今後 も許可を要するからである

117)

Largésille の発言に対しては、Saleilles が、応答した。たとえ第 4 条を 削除してもなお、財団法草案は、従来に比して、革新をもたらすものであ る。それは、この財団法草案によるならば、遺言者は、その遺言でもって 財団を設立し、と同時に、当該財団を、受遺者に指定することが可能にな る、ということである。これは、死後に財団を設立しようとすれば、既存 の公益施設に負担付き遺贈をし、その負担の履行として財団設立をさせる ほかなかった、従来の破棄院判例に比すれば、画期的な革新である

118)

③第 5 条について:

(1)遺言による財団設立に対する配偶者の異議申立権

第 5 条に関しては、総会での議論は、特権を付与された財団が遺言でもっ

(29)

て設立されるときの行政による許可に対する一定の親族の異議申立権に関す る諸問題に集中した。

まず、Saleilles が、異議申立権を遺言者の配偶者にも与えるべきだと主張 した

119)

。これは、Morel d’ Arleux の意見でもあった

120)

。これに反対する 者はいなかった。

(2)科学を目的とする財団の「科学」

Larnaude が、特権を付与された財団の 1 つの範疇としての科学を目的と する財団にいわゆる「科学」science とは、自然科学に限定され、人文科学 や社会科学は、ここには含まれないこと、さもなければ、まさに「科学」の 名において政治的・教育的・宗教的目的が隠蔽される危険が生じることを指 摘した

121)

これに対しては、多数の者から批判がでた。「科学」を自然科学に限定す るのであれば定義を設けるべきである

122)

。「科学」と言うとき、一般には、

人文科学や社会科学もそこには含まれ、そこから人文科学や社会科学を排除 することは、不可能である

123)

いくたびかの応酬の末、議長(Colson)は、財団委員会に検討を一任し た

124)

(3)慈善を目的とする財団の「慈善」

さらに、慈善を目的とする財団にいわゆる「慈善」の内実について議論が あった。

たとえば、宗教や社会保障が「慈善」に含まれるのか、と質問する者た ちがいた

125)

。これに対しては、Larnaude は、含まれないとの見解であっ た

126)

ついで、Lagrésille が、ミサ寄進は、「慈善」に含まれるか、と質問し た

127)

これに対しては、Saleilles が、ミサ寄進は、多くの場合、負担付き贈与な

(30)

いし遺贈のかたちでおこなわれるので、財団法草案でいわゆる独立した倫理 的人格のある財団とは無関係であると応答した

128)

Larnaude は、ミサ寄進が独立した財団設立のかたちでおこなわれるとき には、それは、特権を付与されていない、一般財団の範疇に属すると応答し た

129)

Duguit は、こんにち(1908 年の時点)では、フランスでは、かつての教 会財産管理委員会が存在しないので、贈与または遺贈の方途でのミサ寄進が 不可能であると説いた

130)

(4)異議申立権をもつ親族の範囲と異議申立権の存在理由

Duguit が、特権を付与された財団設立の許可に対して異議申立権をもつ 親族の範囲およびこの異議申立権の存在理由について、問いただした

131)

Saleilles は、この異議申立権については、遺留分で十分とする意見と、

遺留分のない法定相続人(とくに遺言者の兄弟姉妹)にも異議申立権を認 める意見との対立が、財団委員会であったことを紹介した。そのうえで、

Saleilles は、この異議申立権の範囲を、遺留分ある法定相続人をこえて認め る意見に賛成した

132)

では、この異議申立権は、いかなる機能をはたすのであろうか。

Larnaude は、これによって、第 4 条の特権を付与された財団が第 3 条の 一般財団に移される、と説明した

133)

Saleilles は、それによって、行政のためには、許可に関する自由裁量権が 取り戻される、と指摘した

134)

議長(Colson)は、異議申立が認められ、財団設立が不許可になれば、遺 言者の遺産が財団から遺留分のみならず全部について法定相続人に持ち戻さ れることになる、と説いた

135)

以上の議論に対して、Berthélemy が、なにゆえに、フランス法が従来認

めなかった、そのようにも広い親族の異議申立権が必要なのか、その存在理

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