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中国における女性の雇用平等保障

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翻 訳

中国における女性の雇用平等保障

─制度に対する反省とその改革への展望─

Employment Guarantee for Equality of Women in China:

The Review of the System and the Prospects for the Reform

郭 延 軍

監訳 米 津 孝 司**

唐 佳 寧***

目 次

訳者はしがき は じ め に

一.中国における女性の雇用平等保障制度の偏り

二.中国における女性の雇用平等保障に関する制度的欠陥の根源 三.中国における女性の雇用平等保障制度に関する改革

訳者はしがき

本稿は,上海交通大学郭延軍副教授による中国女性労働者の雇用平等保 障に関する論文を翻訳したものである。

本論文でも述べられているように,1949年に中華人民共和国が成立して 以降,女性の解放は中国革命の課題の一つであり,男女平等は社会主義改 造の一環として進められた。政府の強力なイニシアティブにより,女性の

上海交通大学凱原法学院副教授・法学博士

**

所員・中央大学法科大学院教授

***

中央大学大学院法学研究科博士後期課程在学中

(2)

就労の大規模な拡大を目指す政策が中心に据えられた結果,女性の社会的 地位の向上・確立し女性の置かれた状況は大幅に改善された。また,中国 の労働法制も女性労働者に対して手厚い特別保護を与え,成果を上げてき た。

そして本論文では,1980年代から始まった改革開放による革命の継続か ら経済成長重視への転換に伴い,企業が経済的な効率を重視し始めるよう になったことから,工場労働と旧来の女性観を前提に形成された女性労働 者に対する保護措置を負担と感じる企業が急増し,近年の中国女性の就職 状況は改革開放以前と比べると悪化し続けていることを明らかにしてい る。郭副教授は,企業が,女性を「劣った労働力」として取り扱い,女性 保護制度の適用による労働効率の低下を懸念し,募集の段階において露骨 に女性労働者を排除する事例(直接差別)も最近頻繁に現れている現状に ついて,いかなる方法で改善可能かを考察している。

ひるがえって日本では,1986年に「勤労婦人福祉法」(1971年施行)を 改正する形で「男女雇用機会均等法」を施行,労働基準法上の女性保護規 定も一部撤廃して,女性の活用を進めており,近年では仕事と生活の両立 支援などの視点も加えて,男女雇用平等の実現に取り組んでいる。これか ら女性の社会的進出をさらに促進したい日本と,女性雇用の状況悪化に歯 止めをかけ,回復したい中国にとって,法制度整備の現状や企業の組織形 態などの社会事情が違っても,対面する問題の本質は共通していると訳者 は考える。つまり両国とも今後の課題は,農業社会,そして工場労働の時 代の経験に基づいた,女性を「劣った労働力」と位置付ける女性観に由来 する従来の認識をいかに克服していくかにある。中国にとっては,特に均 等法をはじめとする,日本が実施,運用した法政策および関連する研究成 果(特に将来中国でも必ず起こる間接差別の問題など)は示唆に富んでお り,また日本は,長年中国が行ってきたような政治主導の下で継続的に社 会啓発を推進するような決心をさらに固めなければならないだろう。

本論文は,中国の女性労働者に関する状況と課題を知るには参考価値の ある資料であり,今回の紹介が女性の雇用と平等に関する研究の促進,関

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連課題に関する両国間の学術交流の深化の一助となることを願っている。

は じ め に

憲法上の男女平等原則を確実なものにするため,雇用分野において中国 は一連の法律と政策を策定したが,実効性はあまり芳しくない。その原因 は制度に内在する欠陥にある。制度の具体的な問題に対し,多くの学者が 既に詳細な研究を行っているが,現在の研究には中国女性の雇用平等保障 に関する法制度の特徴の全体像を把握しようとする視点が欠けている。採 用平等などの保障と女性就業権益1)に対する特別保護との相互関係が注視 されていないとともに,現行制度の特徴が形成された歴史的な根源にも必 要な考察が行われていない。本稿では,中国における女性の雇用平等を保 障する制度の特徴およびその形成に関する経済的・社会的な根源を考察 し,男女の性別上の相違を正確に認識した上で,中国女性の雇用平等保障 制度を機能させるにはいかなる改革が必要であるかを検討したい。

一.中国における女性の雇用平等保障制度の偏り

中国における女性の雇用平等権を保障する制度の主要な法的根拠は,

1) 中国における「就業権益」とは,労働者の就業の全過程において有する権利

と享有する利益と一般に定義されている。法律の範囲内で実現されるべき労働

者の就業権益は,関連する法律によって保障されており,また,中華人民共和

国憲法における「権利と義務不可分の原則」に基づき,労働者は就業権益を有

すると同時に相応な就業義務と就業責任も求められている。就業権益の具体的

な内容には,就業前に職業教育訓練を受ける権利,求人の情報を十分かつ平等

に受ける権利,職業選択の自由,就業に関する自己決定権と就業援助を受ける

権利,就業中に心身の安全が保障される権利,労働の収益を受ける権利,長期

安定的な職業に就く権利およびその他関連する社会保険による利益などがあ

る。現在日本で提起されている「就労利益」と類似する概念と言える。(訳者

注)

(4)

「中華人民共和国憲法」,全国人民代表大会(全人代)が1992年に制定した

「女性権益保障法」(2005年改正),全人代常務委員会が1994年に制定した

「労働法」,2005年に制定した「公務員法」,2007年に制定した「就業促進 法」,国務院が1955年に制定した「国家機関職員の定年に関する暫定弁法」,

1978年の第 ₅ 次全人代常務委員会第 ₂ 回会議で批准された「国務院の老弱 病残幹部の安置に関する暫定弁法」,と「国務院の労働者の定年,退職に 関する暫定弁法」,国務院が1988年に制定した「女性労働者に対する労働 保護に関する規定」である。他には多くの労働と雇用に関する地方法規で も,雇用における性差別を禁止している。例えば,「天津市労働就業管理 規定」,「山東省就業促進条例」,「上海市就業促進に関する若干の規定」な どである。

現行の女性の雇用平等保護に関する法律法規は内容に基づき,主に ₂ 種 類に分けることができる。

₁ つ目は,性差別を禁止し,女性に対して採用の平等を保障する規定で ある。主な禁止事項は,①採用に当たり,国が定めた女性として適切では ない職以外で性別を理由に女性を採用拒否すること,または女性の採用基 準を引き上げること,②女性労働者との労働契約や服務協定の中に結婚,

出産を制限する内容を定めること,③職業仲介機構が出す情報への差別的 記述である。

次は,女性労働者に対する特別保護措置である。①女性労働者の就業制 限職種。すなわち鉱山井戸の労働,国が定めた第四級の肉体労働強度の労 2)とその他の従事が禁止されている労働に従事させることの禁止,②出

2) 肉体労働強度の分級制度は,政府が策定した労働者保護のための基準であ

り,労働の身体への負担の大きさを確定する根拠となっている。この分級制度

の運用を通じて,肉体労働強度が大きい職種と生産業務を判断し,労働者の労

働強度を効果的に把握し,その緩和の実現による労働者の保護及び生産性の向

上へ繫がる施策が策定される(中華人民共和国国家基準 GB3869─83 中国国

家基準局が1983年 ₉ 月29日に公布し,1984年12月 ₁ 日から施行。1997年,労働

部の依頼を受けた中国予防医学科学院労働衛生・職業病研究所が新しい強度基

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産期間の雇用保障。結婚,妊娠,出産,授乳などを理由にした労働条件の 不利益な変更,解雇の禁止,③四期(女性の生理,妊娠,出産,授乳期 間)中の労働保護。禁止されるのは生理期間中及び妊娠中の女性労働者の 高所,低温,冷水での作業と国が定めた第三級の肉体労働強度の労働に従 事させることの禁止,妊娠 ₇ ヵ月以上の女性労働者への残業と夜勤, ₁ 歳 未満の乳児に授乳する女性労働者の第三級体力強度の労働の従事,授乳期 に制限される業務の従事の禁止,④女性の早期定年退職がある。

以上二種類の法規範を見ると,中国における女性の雇用平等保障の法規 には,女性の採用平等を保障する法規範が少なく,内容も原則的なものに 留まるが,就業中の女性に特別な保護を与える法規が多く,保護の内容も 具体的であるという特徴が見てとれる。

1980年代以降,計画経済体制が市場経済に切り替えられ,就職のあり方 も国による労働者の統一的配置から使用者が自由に採用する形に変わった ことで,女性の採用平等よりも就業権益の保護を重視する現行制度の欠陥 が如実に現れてきている。その特徴は以下のように整理できる。

⑴ 女性の採用平等保障の不十分さ

まず全体から見れば,中国女性の実際の就業率は男性より低い。2001年 の国家統計局による第 ₂ 期中国女性社会地位抽出調査の報告では,2000年 末,18─64歳の女性の就業率は87%であり,男性より6.6%低かった。また 1990年と比べ,都市部男女の就業率はどちらも下がっているが,男性は 90.0%から81.5%,女性は76.3%から63.7%と,男性と比べ女性の就業率低 下はさらに大きい。都市部での18─49歳の女性の就業率は72.0%で,1990

準 GB3869─1997(現行)を策定し,1997年 ₇ 月 ₇ 日公布,1998年 ₁ 月 ₁ 日か ら施行)。第四級肉体労働強度の労働とは, ₁ 日 ₈ 時間の労働を標準にして,

一人平均2200kJ のエネルギーを消耗し,労働時間率は77%,すなわち作業時

間は370分に達し,第三級肉体労働強度の労働とは, ₁ 日 ₈ 時間の労働を標準

にして,一人平均7310.2 kJ のエネルギーを消耗し,労働時間率は73%,すな

わち作業時間は350分に達し,いずれも重強度労働である。(訳者注)

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年と比べても16.2%下がった3)。『2005年労働統計年鑑』によれば,2004年 では全国都市部の在職者は11098.9万人,そのうち女性は4227.3万人と,全 在職者の38.1%を占め,女性労働者の総数は2000年より4.2%下がった4) そして2004年の全国都市部職業と社会保障研究の調査データを

ILO

の失 業に関する定義に基づいて分析すると,16─60歳の男性と女性の失業率と 労働参加率は,男性の失業率は7.9%,女性は11.82%,男性の労働参加率 は62.79%,女性は45.41%となっている5)

また,採用に関する性別上の制限も男性より女性のほうが多い。四川大 学の周偉教授は,労働法施行後の1995年から2005年までの11年間に上海市 と成都市の新聞に掲載されたすべての募集情報に含まれる性別を条件とす る募集情報を調査した。11年間での両地域の新聞掲載の求人総数は上海市 が242,520件,成都市が57,799件であり,男性限定の件数はそれぞれ72,782 件と19,486件で,求人総数の30%と33.7%を占めた。管理職の求人総数は 64,427件(上海市)と22,959件(成都市)あったが,男性限定の求人は 20,544件と5,893件であり,管理職の求人総数の31.9%と25.7%を占めた。

技術職の求人総数は67,847件(上海市)と16,606件(成都市)あったが,

男性限定の求人は26,849件と6,810件であり,技術職の求人総数の39.6%と 41%にもなった。また,一般的に女性が集中するサービス業の場合,性別 を応募要件とした求人は110,246件(上海市)と18,234件(成都市)に上 り,男性のみが応募可能だったのはそれぞれ25,389件と6,783件で当該サー

3) 国家統計局「第 ₂ 期中国女性社会地位抽出調査主要データ報告」。Phttp://

www.stats.gov.cn/tjgb/qttjgb/qgqttjgb/t20020331_15816.htm,(2009年11月10日 アクセス)

4) 国家統計局人口と就業統計司,労働と社会保障部企画財務司編『2005年中国 統計年鑑』(中国統計出版社,2005年)。

譚琳主編『中国性別平等と女性発展に関する報告書1995─2005』(社会科学文献 出版社2006年)35─37頁。

5) 王美艶「中国失業女性の状況」「2006─2007年中国性別平等と女性発展に関す る報告書」(譚琳主編『2006─2007年中国性別平等と女性発展に関する報告書』

社会科学文献出版社 2008年85頁)。

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ビス業求人総数の23%と37.2%を占めた6)

そして,男女の職業分離と同一労働に従事する男女間の賃金格差現象 も,非常に広く見られる。『2005年労働統計年鑑』によれば,2004年の全 国都市部の在職者のうち,責任者,専門技術者,職員とその関連,商務サ ービス提供者,農林水産従業者,運送設備操縦者およびその関連,その他 という ₇ つの主な職種の中では,ここで雇用されている女性の6.4%のみ が技術職と管理職の業務を務めている(男性は10.9%)。逆に79.8%の女性 が体力系と非管理職の業務を務めており,そのうち60.1%の女性が技術性 と収益性が相対的に低い農業作業に従事している。農業作業に従事する女 性の割合は,男性より9.4%高い7)。マイクス中国大学生就職に関する研究 課題チームによる2008年卒の中国大学生の就職状況に関する調査では,大 卒女性が従事する上位十位の職種は,幼児の入学前教育,通訳,行政・総 務,小中学校教育,財務・監査・税務・統計,ホテル・旅行・展示,報 道・出版,高等教育・職業訓練,人力資源であり,下位十位の職種は,家 電・オフィス機材修理,機械・電子,冶金材料,航空機械・電子,計器・

メーター,鉱山・石油,電気・電子(パソコン以外),建築であることが 明らかになった。収入については,2008年卒の女子学生は,その収入が最 も高い業種においてであっても,通常の収入は同一条件の男子学生より低 い。実はすべての業種と分野においても同様な収入格差の現象がある8)

加えて,女性の就職機会は出産の問題に強く阻害されている。これは女 性が直面している特殊問題である。2009年 ₆ 月に北京大学法学院女性法律

6) 周偉「中国都市部採用における性別差別に関する研究─1995─2005年上海市 と成都市の新聞掲載の30万件の求人情報を素材にして」(『政治と法律』2008年 第 ₄ 期)。

7) 国家統計局人口と就業統計司,労働・社会保障部企画財務司編『2005年中国 統計年鑑』中国統計出版社2005年版。

譚琳主編『中国性別平等と女性発展に関する報告書1995─2005』(社会科学文献 出版社,2006年)35─37頁。

8) マイクス中国大学生就職に関する研究課題チーム編『2009年中国大学生の就

職に関する報告書』(社会科学文献出版社,2009年)175─184頁。

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研究とサービスセンターが公表した「中国の職場における差別禁止」の調 査報告書によれば,調査を受けた女性のうち,4.1%が「結婚禁止」,3.4%

が「妊娠禁止」の契約条項へ同意を強いられた経験があった。特に民営企 業の場合が多く,その次は公共事業部門,国有企業と政府機関,合弁と外 資企業となっている。21.5%の回答者が,自分の勤め先は結婚と出産を控 えている女性の雇入れに否定的だと述べており,合弁と外資企業にはこの ような状況が多い9)

⑵ 女性の就業権益に対する特別保護の実効性の乏しさ

まず,出産前後の女性の雇用保障と四期中の女性に対する特別保護は,

計画経済の時代には十分に実行されていたが,市場経済の下では,関連す る必要措置と相応な法的責任の規定が欠如しているため実効性に乏しいと いう問題が表れてきた。2010年,全国人民代表大会常務委員会が前述の

「女性権益保障法」の施行状況について検査を行った。湖南,山東,内モ ンゴル,新彊,黒龍江などの法施行検査状況によれば,制度不備のため,

一部の非公有制企業と中小企業において,女性の四期に対する保護が十分 に実行されておらず,不十分な労働安全保護など女性労働権益上の問題が 広い範囲に存在していた10)

また,市場経済の下では,女性に対する特別保護措置が十分実行されな いことのみならず,事実上女性の採用平等に逆効果となり,不利な要素と なっている。一方,後に詳細を述べるが,就業中の女性に対する特別保 護,業種制限や早期定年などは,もともと性差別の産物であると言わざる

9) 劉宏「就業差別に関し専門の法律を制定すべきである」(「法政日報」2009年

₆ 月15日第 ₇ )。

10) 王春霞「女性の就業権への保護は本腰で推進するべき─全国人民代表大会常

務委員会女性権益保護法執行検査報告書㈡」中国女性ネット。http://www.china-

woman.com/rp/main?fid=open&fun=show_news&from=view&nid=58424,(2013

年 ₁ 月22日アクセス)

(9)

を得ない。このような保護措置によって女性に対する適切ではない先入観 が形成されてしまえば,女性の就職に不利に働く。また,過度の保護措置 によって,企業が女性従業員の仕事を穴埋めするための余剰人員確保を考 慮しなければならないため,男性が優先的に選ばれ,女性の就職がさらに 困難になっている。

二.中国における女性の雇用平等保障に関する制度的欠陥の根源

中国における女性の雇用平等保障制度では,採用平等保障が弱い一方で 就業中の権益を重視するという特徴があると指摘できるが,それには経済 的・社会的な背景があり,また中国の法制と法学理論発展の不十分さに関 連している。中国の法制度の中で,女性の採用平等保障の内容が不十分で ある原因は,以下の ₄ 点が考えられる。

⑴ 比較的純粋な生産手段の社会主義公有制と労動に応じた分配制度に よって性差別を生み出す経済基盤が解消された

中国の社会主義改造は1956年にほぼ完了したが,1954年の「中華人民共 和国憲法」が定めた私有経済制度の存在も認める基本経済制度の原則から は乖離してしまい,当初の原則は徐々に崩れ始めた。純粋な公有制に向か って急進的な路線に転換し,すべての非公有制経済が資本主義のものとし て排除されるまで進んだ。1975年憲法の第 ₅ 条は,「中華人民共和国の生 産手段所有制は,現段階において ₂ 種類あり,それは社会主義全民所有制 と社会主義労働者共同所有制である。国家は,都市部の末端行政組織と農 村人民公社の生産チームの指導の下で,法律が許可する範囲内で,非農業 個人労働者に他人への搾取にならない個人労働の従事を許し,同時に段階 的に彼らを社会主義集団化の道に誘導する」と定め,1978年憲法の第 ₅ 条 にも中国の基本経済制度について同様の規定が置かれた。また,1982年憲 法(現行)も基本経済制度に関する規定に大きな変化はなく,第 ₆ 条第 ₁ 項は「中華人民共和国の社会主義経済制度の基礎とは生産手段の社会主義

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公有制,すなわち全民所有制と労働者共同所有制である」としている。

1956年の社会主義改造の後,所有制度の形式と合わせ,個人の生活手段 の分配について「各自の役割を十分に果たせれば,それに応じて分配を行 う」という基本分配制度が掲げられ,1975年憲法,1978年憲法,1982年憲 法のいずれでも維持されている。この分配制度が各労働者に全力を尽くし て社会のために働くことを求め,社会は各労働者が提供した労働の量と質 に応じて生活手段を提供する。

理論上は,生産手段社会主義公有制と労動に応じた分配の経済制度の下 では,全社会共同で生産手段を所有し,共同で働き,労働は分配の前提で あるのと同時に,分配を決める判断基準であることになる。労働能力を有 する人間は労働に参加することによって分配に参加する権利を得ることに なり,生産手段を占有することにより生じる他人の労働成果の占有という 状況は発生しない。このような経済制度の背景があったため,生活手段の 分配に関する個人間の差は,労働の量と質によるものに限られ,私有制に よって生まれる男性の女性に対する圧迫,女性の男性への人身的な依存関 係は存在する土壌も当然ないと考えられた。

労動に応じた分配の主な方式は,都市部においては等級賃金制度であ り,農村部においては労働分業制である。このような中国の分配制度の実 際の運用状況を見れば,労働に応じた分配の各方式の実施は確かに搾取の 消滅,性別による圧迫の消滅に着実な成果をあげた。

都市部で施行される等級賃金制度には,技術等級賃金制度と職務等級賃 金制度がある。技術等級制度は主に現場の労働者に適用され,労働者の熟 練度と作業技術の複雑度によって等級が設定される。中国で実施されてい る技術等級賃金は一般には ₈ つの等級に分けられており, ₇ つの等級, ₆ つの等級,または15の等級に分けられている等級制度もあった11)。職務 等級賃金制度は職務に基づいて賃金基準を定める制度であり,行政機関,

公的部門の行政管理職,技術者,経済管理者,科学研究者,文化教育医療

11) 李楠『マルクスの労働に応じた分配理論とその現代中国における発展』(高

等教育出版社,2003年)63─67頁。

(11)

分野の従業員と国家政府機関の従業員(国家公務員)に適用されている。

適用対象者によって,職務等級賃金制度は更に職務別賃金制,専門技術職 務等級賃金制,銀行・保険分野等級賃金制等に分けられる12)。計画経済 体制の下に,各業界,各地域,各ポストの労働基準と賃金基準は国家が統 一的に定め,賃金上昇のペース,比例,時期と実施のあり方も国家が統一 的にコントロールしている。

また,農村部の人民公社に実施される労働採点制度は,生産チームを基 本の分配単位とし,業務を評価し採点を行い,年末に統一的に分配すると いうことを基本形式とする。そしてこれには ₂ つの種類がある。 ₁ つ目は 定額ポイント制,すなわち生産チームの長もしくはチームの党委員会があ る業務に相応なポイントを決め,社員の完成度に応じてポイントを記録す る方法である。 ₂ つ目は固定ポイント制,すなわち生産チームの長もしく はチームの党委員会が各社員の労働能力を評価し各自の労働力固定ポイン トを決め,例えば成年男性労働者は毎日10ポイント,女性労働者は毎日 ₈ あるいは ₆ ポイント,そして各社員の実際の出勤日数に応じてポイントを 記録する13)

企業,公的事業部門と国家機関に実施される等級賃金制度には,労働者 間の技術力の差,従事する業務の技術的な複雑さの程度と責任の大きさに 関する差が主に表れ,労働者の実際の貢献度は反映されていない。農村部 の人民公社に実施される労働ポイント制,特に固定ポイント制は各社員の 出勤状況を反映するだけで,その努力の程度と実際の労働の質は全く考慮 されていない。したがって,この二種類の分配制度により中国の生活手段 分配は平均主義的なものになり,この徹底した平均主義の下に,労働者間 の労働の量と質による区別もなくなった。したがって,分配制度下の労働 意欲とその経済発展に与える現実の影響を考えなければ,男女間の平等な 経済基礎は確かに着実に構築され,(性差別は)現実社会の主な矛盾には ならないのである。

12) 李楠 前掲注11) 80─84頁。

13) 李楠 前掲注11) 107頁。

(12)

⑵ 計画経済体制下の計画に基づく労働力配置であるため女性の採用平 等保障の法制度が求められなかった

社会主義国家では,すべての社会構成員にとって労働は権利であり,義 務でもある。1954年憲法第91条が国民は労働の権利を有すると定めた一 方,第16条は「労働は,中華人民共和国の労働能力を有するすべての国民 にとって光栄あることであり,国家は国民が労働において積極性と戧造力 を発揮することを提唱する」と定めた。1978年憲法第10条第 ₂ 項にも「労 働は労働能力を有するすべての国民の光栄ある責務である。……国民の労 働において社会主義的積極性と想像力の発揮を提唱する」と定められ,

1982年憲法第42条では端的に,中華人民共和国の国民は労働の権利と義務 を有すると定められた。

確かに,社会主義の下に労働はすべての国民の権利と義務であるはずで ある。そして社会主義公有制と分配制度により性差別を生み出す経済基礎 は解消されたが,経済発展水準の制約と封建思想の影響があるため,特別 な制度上の保障がなければ,女性差別がある現状をただちに全面的な男女 平等な状態へと変革することは難しい。では,どのような仕組みがあれば 女性が平等に社会労働に参加する権利が保障できるだろうか。

歴史を振り返ると,採用の際の性差別禁止は,法律制度ではなく計画的 な労働力配置制度がその役割を果たしていた。計画的な労働力配置は,計 画経済における重要な要素の ₁ つであり,また中国は,生産手段公有制を 基礎にして,国家による経済,社会建設と発展に関する統一計画に基づ き,国民経済を管理する計画経済体制である。そのような経済体制は,

1953年から1957年の第 ₁ 次五年計画の間に順次形成され,そして改革開放 の開始まで厳格に実施された。計画経済の実質を中国のある経済学者が一 言で言い表している。いわく,「全社会の組織を一つの単一な大工場に変 身させ,事前に制定した計画に基づき資源を配置する」14)

計画経済による中国の労働力配置では,農村部においては大量の労働力

14) 呉敬璉『当代中国経済改革』(上海遠東出版社,2004年)23頁。

(13)

を農村に縛るという強制手段を用いて自由に都市部に移動させないこと,

都市部においては統一配置の労働人事制度を採用することを行った。つま り国家が行政機関,公的事業部門と一般企業の従業員に対し,高度に集中 的な計画に基づく管理を行い,統一的な人事計画を制定し,募集そして配 置を行うのである。

このようなあり方は中華人民共和国成立の初期から始まり,そして当初 から女性に有利に働いた。1952年中央人民政府(政務院)は「労働就職問 題に関する決定」を発表した。この決定の目的は,「これから大規模な国 家建設を展開し,失業,準失業問題を全面的に順次解決するため,計画的 に都市部および農村部の剰余労働力を生産事業と他の社会事業に十分使用 し,そして最終的には労働力の統一的調達を実現する」とされた。そのよ うな決定の中,政府が一部の失業者に対し,「引き受けて安置する」とい う政策(政府による実質的な雇い入れ)をとり,そして一部企業の人員整 理に制限規定を策定することで,新規の失業を減らした。また,政務院が 女性の就職について,同決定の中に具体的な方針を入れ込んだ。すなわち

「失業中あるいは在職従業員の家族の中の婦人および他の家庭主婦を,(企 業自らの)原料と業績の情況に合わせて臨時的に加工業務や他の手作業生 産に参加させ,また企業側に需要があり,そして可能であれば他の業務に も従事させよう」,「知識人層出身の家庭主婦で現在,就職を希望している 者については,家事負担などの事情を十分に配慮しながら,組織的,計画 的,適切なあり方によって仕事に参加させよう。例えば半日もしくは一日 数時間勤務させ,一定の生活補償を与えることは,双方の利益になるもの である」。このような決定の内容からは,中華人民共和国建国の初期に女 性が既に労働力とされていた事実が確認できる。

社会主義改造を終えると,国家が雇用を保障し統一的に労働者を配置す る固定工制度が自らの意志・活動による就職にほぼ取って代わり,中国の 主たる労働力の配置方式となった。こういった方式により,都市部におい ては男女を問わず就職の年齢になると,国家が統一的にポストを調達し,

計画指令に基づき,労働者が職場に配置される。このような労働力の計画

(14)

的な配置と固定工制度によって,女性は男性と同様な就職機会と職業保障 を得ることができた。確かに都市部では職業と勤め先の選択は有しない が,職業を得るという面では,男女の間に平等が実現された。しかしこの 平等は法制度により実現されたものではなく,上からの指令による計画で 実現されたものであった。

⑶ 国家主導の婦人運動が女性の就職機会保障を求める法律の必要性を 低下させた

中国の婦人解放運動は,中国共産党指導の下,マルクス主義的婦人観に 基づき全面的に推進された。マルクス主義的婦人観の中では,「婦人は革 命と国家建設の重要な役目を持つ」と強調された。中国で婦人解放運動を 組織しリードしていたのは,中国共産党の指導を受ける中華全国婦人連合 会である。全国婦人代表大会はその婦人連合会の最高指導機関である。歴 代の全国婦人代表大会の業務報告で述べられていた婦人運動の中核的任務 は,各時期の社会国家建設の中心任務に基づき,婦人を団結させ,動員 し,社会主義国家の各建設任務に関与させることとされた。このような上 からの婦人運動を通じて女性を社会に進出させ,社会の経済建設に従事さ せることは, ₁ つの重要な政治の任務となった。かかる社会背景の下で は,女性の雇用平等保護の法律規範が存在するか否かは実際には重要では ない。

全国婦人代表大会の業務報告における婦人運動に関する総括から,当時 の婦人運動の勢いおよび女性を動員して社会労働に参加させる実際の効果 がうかがえる。1953年に中国婦人第 ₂ 次全国代表大会の業務報告が第 ₁ 次 大会後の ₄ 年間についてのまとめを行い,全国の婦人運動は大きな成績を 収めたと位置付けた。報告によると, ₄ 年間に全国各省,市およびほとん どの県に民主婦人連合会が結成され,各管理ポストに務めている女性幹部 は34万人に及んだ。1952年までには,全国の農業生産に参加する女性が全 農村部女性労働力人口の約60%を占め,一部進んだ地域においては80─90

%に到達した。相当数の女性が生産過程の中で主要な役割を果たし,女性

(15)

従業員が新中国の建設において ₁ つの重要な力となった。特に繊維産業で は女性労働者は従業員総数の60%を超えた。国家からの「重工業を工業発 展の中心へ」の呼びかけに応じ,過去に女性が従事したことがない部門に 少数ながらも女性たちが進出し始めた。初の女性だけの地震研究チーム,

初の女性だけの測量チームである「三八」測量チーム,初の女性製鋼ボイ ラーチーム長が続々と誕生し,建築業には女性の左官なども現れた。重工 業技術を身に付ける女性労働者は年々増加した15)。1957年の中国婦人第 ₃ 次全国代表大会の業務報告に取り上げられた,女性の社会主義経済建設へ の参加に関する実績によると,1956年には約1.2億人の農村部の女性が男 性と共に農業生産協同組合に加入しており,農業,放牧業,副業に従事し ているとのことであった。女性の労働意欲が高揚しており,労働の範囲も 拡大された。1956年末,150万人余りの女性手工業者が手工業生産協同組 織に加入しており,加入者総数の約30%を占めた。社会主義国家建設の迅 速な発展によって,全国の女性労働者の数は増加し,1952年の女性労働者 約150万人から1956年末にはその ₂ 倍の約300万人までに達した16)

中華人民共和国成立後,国家が行政手段を用いて労働力を計画の通り配 置し,また,婦人連合会がリードする婦人運動が多数の女性を組織・動員 して国家建設の第一線に向かわせたことで,このような短期間にもかかわ らず女性の就職の間口を広げることができた。これによって,女性が働く ことも社会において徐々に常識となっていった。もちろん,このような国 家の主導によって上から展開される婦人運動は,女性が法制度を通じて雇 用平等保障を求めることには繫がりにくいものである。

15) 鄧頴超「 ₄ 年間の中国婦人運動の基本総括と今後の任務─1953年 ₄ 月16日中 国婦人第 ₂ 次全国代表大会における業務報告─」『中華全国婦人連合会四十年』

中国婦人出版社 382頁。

16) 章 「勤倹で国を構築,勤倹で家計を維持。社会主義の建設に奮闘しよう─

1957年 ₉ 月 ₉ 日中国婦人第 ₂ 次全国代表大会における業務報告─」『中華全国

婦人連合会四十年』中国婦人出版社 396─397頁。

(16)

⑷ 平等理論における差別禁止に関する内容の欠如により女性の雇用平 等保障の理論的支柱がない

1950年代後半,法的虚無主義(法的ニヒリズム)の衝撃で,法的平等原 則は資産階級,修正主義のものとして強く批判されるという誤りがあり,

さらにその後の文化大革命時に遂行されたファシズム的政策の下でさらに 人々が触れることができない禁断区域となってしまった。したがって,差 別禁止法規定の制定は当時取り上げられなかった。

1978年12月に開かれた中国共産党第11期中央委員会第 ₃ 回全体会議が改 めて法的平等を国民に保障すると宣言し,その後,1979年 ₆ 月に成立した

「中華人民共和国人民法院組織法」,「中華人民共和国人民検査院法」と

「中華人民共和国刑事訴訟法」が法律の面からその原則を明確に肯定した。

1982年の憲法修正では当該原則を憲法の原則として条文に取り込み,現行 憲法第33条第 ₂ 項では,「中華人民共和国の国民は,法律の下で一律平等 である」と定められた。

しかし第11期 ₃ 中全会から今世紀はじめにかけては,人々の「法律の下 での一律平等」原則についての理解には,差別禁止という考えがあまり含 まれてこなかった。当該原則の主な内容は「特権禁止」である。特権と差 別は不平等に関する ₂ つの表れであり,特権は社会の中で不当に優位に立 ち,他人より高い権利を享有すること,差別は一部の人を不当に区別し,

排除することによってその権利が取り消され,また侵害されることをい う。

これまでの中国共産党の公式文書と法律の中には差別禁止の内容はあま り見当たらない。1978年第11期 ₃ 中全会公報の中には,国民に法律の下で 一律平等を保障し,人が法律を超える特権を持つことは決して許されな 17)との記述があった。1979年の「中共中央刑法,刑事訴訟法切実の実施 に関する指示」の中でも「法律の下で一律平等の原則を必ず堅持し,法律 の拘束を受けない特殊国民の存在や法律を超える特権の存在は決して許さ

17) 中国共産党歴次党大会データベース。http://cpc.people.com.cn/GB/64162/6

4168/64563/65371/4441902.html(2011年 ₅ 月 ₅ 日アクセス)

(17)

ない」,「被告人の社会的政治的な地位,社会的身分および政治的経歴を問 わず,また被告人が罪を犯しているのか,敵対矛盾であるかにかかわら ず,適用する法律は必ず一律であり,これは法律の下で一律平等である」

ということが取り上げられた。全人代常務委員会委員長(当時)の彭真 は,1979年の第 ₅ 期全人代第 ₂ 回会議で「法律の下で一律平等であるとい うことは,我々全国民,全共産党員と革命幹部のスローガンであり,特権 を行使しようとする人に反対するための思想的武器である」と述べた。ま た,1954年に公布された人民法院組織法第 ₅ 条では法的平等原則につい て,「人民法院が案件を裁判する際,すべての国民に対し,民族,性別,

職業,出身,宗教,教育程度を問わず,法律は一律平等に適用される」と 定め,1979年公布の人民法院組織法第 ₅ 条の定めもこれを踏襲したが,条 文の最後にさらに「いずれの特権も許されない」という文言が追加され た。

学者の言論も法的平等原則の特権反対機能に力を入れ,中国の法律学界 は1978年から80年の ₃ 年間に法的平等原則について大規模な議論を展開し た。中国社会科学院法学研究所資料室が1981年に『法的平等原則を論じ る』という書籍を出版し,社会科学文献出版社によって2003年に再販され た。ここには当時の代表的な論文30本が収録されているが,法的平等原則 における差別禁止の重要性を提起したものはごくわずかで, ₃ 本のみであ る。呉大英,劉瀚の「法律の下で一律平等を必ず保障する」18)という論文 は,法政機関が法律を執行する際にはすべての人を平等に取り扱わなけれ ばならないこと,一部の人が法律の拘束を受けないばかりか法律を超える 特権を有していること,あるいは一部の人が様々な差別を受け法律の保護 を受けられないことを述べている19)。王志文の「全ての国民に法的平等 原則の適用を堅持する」20)という論文も,「国民の身分などを理由に,ある

18)「内モンゴル日報」1979年 ₂ 月16日。

19) 中国社会科学院法学研究所資料室編 『「法律の下での一律な平等」を論じ る』(社会科学文献出版社,2003年)45頁。

20)「北京政法学院学報」1979年第 ₂ 期。

(18)

人に特権を容認し,ある人に差別的措置をとるべきではない」と指摘し 21)。また袁小凡は「法律適用の平等を論じる」22)で次のように述べた。

「既に歴史的に証明されているが,司法不平等の結果,必ず一部の人が法 律を超え,不法な特権を享有することになり,また別の一部の人が差別を 受け,さらに不法な刑罰を受けてしまうということになっている。いずれ にしても無産階級や国民の利益にならないことであり,これは決して無産 階級の立場からの表れではなく,直ちに無産階級の立場に反するものであ る」23)。しかし,これらの論文はやはり特権反対を中心的な内容として議 論を展開しているため,差別禁止の問題は具体的に論じられなかった。

憲法の教科書もほぼ同様の状況であった。ここでもいくつか代表的な例 を取り上げる。許崇徳教授主編の『中国憲法』(1989年)では,国民の平 等権は次のように解釈されている。「『国民の平等権』とは,法律を基準に して,すべての国民が享有する権利と負担する義務は一律平等であるかを 評価すること。具体的には ₃ つの面があり,第一に全ての国民は憲法と法 律が定めた権利を享有すること,第二に国家機関が法律を運用する際に は,いずれの人に対しても保護と刑罰を平等に与えること,第三にいずれ の組織または個人も憲法と法律を超える特権を保有してはいけないこ と」24)。肖秀梧教授主編の『中国憲法新論』(1993年)での法的平等原則に 関する論述の主な内容は,「国民は法律の下で一律平等であり,平等に憲 法と法律による権利を享有し,平等に義務を果たす。法律の適用につい て,すべての国民が平等な地位にあり,いずれの組織と個人も憲法と法律 を超える特権を享有してはならない」ということであった25)。また,肖 蔚雲教授などが著した『憲法学概論』(2002年)では法的平等原則につい て,「①中国国民は,民族,性別,職業,出身,宗教,教育程度,財産情

21) 前掲注19) 53頁。

22)「法学研究」1980年第 ₂ 期。

23) 前掲注19) 156頁。

24) 許崇徳『中国憲法』(中国人民大学出版社,1989年)402頁。

25) 肖秀梧『中国憲法新論』(中国政法大学,1993年)254頁。

(19)

況,居住期限を問わずに憲法と法律が定めた権利を一律平等に享有する。

②すべての人の合法的権益が憲法で一律平等に保障され,違法行為におい ても一律に法に基づき追及される。③法律の下で法律を超える特権の享有 は許されず,いずれの人にも法が定めた以外の義務を負わせ,法が定めた 以外の刑罰を受けさせてはならない」と述べた26)

今世紀になってから,教科書の法的平等原則に対する解釈は変化を見せ た。差別禁止も平等の範疇に含まれるようになった。例えば,張千帆の主 編した『憲法学』(法律出版社,2004年)では,平等権に関する部分の中 で,差別(差別待遇)についての論述を行った。胡錦光が主編した『憲法 学原理と案例教程』(2006年)での平等権に関する論述は「第一,国民は 立法上の平等な地位と平等権を有する。第二,法律の適用については,国 民は平等に適用される権利を享有し,国民の権利と自由の平等に対する保 護が与えられる。第三,国民の権利について,差別的な扱いは禁止。皮膚 の色,民族,宗教,性別,年齢などを理由にして差別的な待遇を与えては ならない。第四,すべての特権と貴族制度を廃止。第五,合理的な理由に よる差別の原則」27)であった。

法的平等原則についての理解における差別禁止に関する内容の欠如は,

前世紀の人々に差別禁止問題についての認識が足りなかったことの表れと 言える。このような背景の下では,差別を規制する法律規範を構築しよう とする主観的意識はなかなか生み出されないだろう。同様に,女性の雇用 平等を保障する法制度の構築も不可能であった。

⑸ 中国において女性の就業権益に対する法的な特別保護導入を重視す るべき理由

なぜ中国で女性の就業権益に対する特別保護を重視するのか,その根本 的な理由は,たとえ婦人運動が推進されても,人々は,女性は育児や家事

26) 肖蔚雲など『憲法学概論』(北京大学出版社,2002年)191頁。

27) 胡錦光主編『憲法学原理と案例教程』(中国人民大学出版社,2006年)294

頁。

(20)

などの主役であるという事実と対面しなければならない現状があるからで ある。中国婦人組織の業務報告と主要指導者の談話からその点がうかがえ る。全国婦人連合会副主席であった鄧頴超が1953年中国婦人第 ₂ 次全国代 表大会での報告で以下の通り指摘した。「女性労働者の労働意欲を激励す るために,今の生産条件の下で,女性労働者の安全生産,労働保護及びそ の他特殊な問題について,民主婦人連合会が工会を督促し,協力し,これ らの問題を適切に解決できるよう運動しよう。中国の現在の情況の下では 女性労働者に対する特殊保護の放棄と解決可能な問題の解決努力が必要で ある。生産にとっても不利であり,是正しなければならない」28)。全国婦 人連合会主席であった蔡暢が1955年に出した重要談話でも「わが国の現在 の条件で,無理やり家事の社会化を進め育児を全部国に任せる試みは,不 適当であり,物理的にも不可能だ。現在女性が負担する重い家事を考慮せ ず,過重な社会労働や社会活動の参加へ動員すれば家庭生活と本人の健康 に悪い影響を与えることになるため,適切ではない。同時に,いかに女性 の家事負担を減らすかを考えずに女性の社会活動を増やす考え方も正しく ない」29)と指摘した。また,彼女は他の重要談話でも「女性労働者は他の 社会義務も負っている。育児と同時に家事も負担している。対面する困難 は男性よりさらに多い。したがって,彼女たちの困難を配慮し,彼女たち の前進をサポートし,激励する必要がある」30)と述べた。もちろん,現在 でも女性の仕事と育児・家事の両立問題は,事実上うまく解決されていな い。

女性の就業に対する特別保護について,もう ₁ つ提起をする必要があ る。中国の婦人運動の歴史には,運動の最高潮のとき,男性を基準とし,

28) 中国婦人連合会編『蔡暢,鄧頴超,康克清 婦人解放問題文献』(人民出版 社,1988年)240頁。

29) 蔡暢「レーニンの社会主義建設と婦人解放に関する論述─レーニン生誕85周 年記念」中国婦人連合会編 前掲注28)252頁。

30) 蔡暢「女性労働者は積極的に優秀生産者運動に参加せよ」中国婦人連合会編

前掲注28)277頁。

(21)

男女間の仕事における絶対平等を追求するという現象が現れた。このよう な男女平等は,伝統的な男女の職業分離を打破し,女性を今まで彼女らが 従事したことのない様々な分野に進出させた一方,男女間の同一性が無理 やりに拡大され,男女間の生理上の相違が抹殺されたため,女性の身体に 大きな負担を与えた。中国の女性に対する就業上の保護,例えば女性に相 応しくない職業分野の設定や女性四期における保護措置は,すべて男女間 の生理上の相違に基づく考慮であり,ある程度において,男女の間の絶対 平等の追求を見直し,女性の心身の健康の保護に大きな役割を果たした。

計画経済の時代に,このような保護は特別な意義があった。なぜなら,労 働力を計画的に配置する体制の下,男女配置の随意性を防止でき,男女間 の生理上の相違を見落とすことによる女性への身体的負担を減らすことが できたからである。

三.中国における女性の雇用平等保障制度に関する改革

中国において,女性の雇用平等保障制度に存在する採用平等の保障より も,女性の就業中の権益に対する特別保護を重視する特徴の形成は,確か に歴史的な要因がある。しかし,計画経済から市場経済への移行に伴う就 職のあり方の変化に対応できるよう,現行制度の改革を行わなければなら ない。いかに女性の雇用平等保障の法制度を改革するのか,それは男女間 の性別上の相違およびその相違から発生する女性の就職能力への影響につ いての理解に左右される。

⑴ 男女間の性別上の相違およびその相違による女性の就職能力への影響 現在の学界では,通常,性別を生理的性別と社会的性別に区分してい る。筆者の男女間の性別上の相違およびその相違による女性の就職能力へ の影響についての理解を,以下の ₃ 点にまとめたい。

第一に,女性と男性の性別上の相違は女性の就業能力を左右する決定的 要素ではない。両性間に生物学上の相違が存在するのはもちろん間違いな

(22)

く,主に染色体,性腺,性ホルモン,解剖構造,生理機能,身体,運動機 能などに表れている。このすべては先天的なの遺伝要素で決められてお り,いずれの社会文化的要素によっても解消できないものである。生理,

性別による相違が女性の行為能力に影響を与えるのかについては,既に数 多くの研究で証明されているが,生物学上の両性間の相違が男性と女性の 個性や行為に一定の影響を与える場面は非常に限定される。また,男女の 間に身体や個性と行為能力の相違が存在しても,統計学上の意義に留ま り,このような統計学的なまとめを具体的個人に適用させることには問題 がある。すべての個体にそれぞれの相違が存在し,男性でも女性でも,後 天の訓練と教育で人の身体的な素質,性格,行為能力を変えられる。した がって,単純な統計学上の数字で具体的な一人の人間の能力を判断するの は適切ではない。科学技術の発展によって労働のあり方が変えられ,労働 条件も改善されている。高い身体的能力が要求されるために女性には不利 になる仕事が減ってきており,男女間の体力の相違は,徐々に女性の雇用 を制限する理由にはならなくなってきている。

第二に,事実上女性の雇用を阻害しているのは社会的・文化的性別(ジ ェンダー)である。社会的・文化的性別によって形成された女性の雇用に おける弱い地位は,短期間では解消されない。社会的・文化的性別とは生 物学上の性別(sex)と相対的に区別される概念であり,社会・文化の中 で形成される男女間の相違についての理解および社会・文化の中で形成さ れた女性,または男性に属する群体の特徴と行動様式である31)。この概 念は1960 ~ 70年代に欧米のフェミニストが確立した。社会・文化によっ て構築された性別に関する相違は,社会,経済,家庭と個人生活など様々 な面に反映されている。例えば男性には勇敢さと独立,女性には親切さと 愛情が期待され,また「男性は外,女性は内,あるいは男性が技術的,主 動的な業務に従事し,女性が補助的,単純な業務を担当する」などは,男

31) 譚兢常,信春鷹『英中女性と法律用語釈義』(中国対外翻訳出版社,1995年)

145頁。

(23)

尊女卑を反映する意識である。これらが原因となり,性別や性質の相違に よって権力レベルの相違が生まれた32)。ジェンダー理論は,男女の性質 は生物学的な性別に決定されたものではなく,社会・文化と社会心理の影 響によって形成されたと指摘し,そして,男女の社会的役割に関する位置 づけは自然に形成されたものではなく,後天的な社会的・文化的な因子に より形成されたものだと主張する33)。筆者は,このような考え方に賛同 しており,先に取り上げた人為的な社会的・文化的性別が女性の雇用に影 響を及ぼし,女性を不利な立場に立ち続けさせている原因だと考えてい る。このような社会的・文化的性別はいきなり構築されたものではなく,

長期間に渡って「人々の間で相互に働きかけ合い特定文化的な表現で伝え られる,日常生活の様々な場面での生産および再生産」34)によってできあ がったものである。したがって,社会的・文化的性別が一旦形成されてし まえば,短期間に解消できるわけがなく,女性の雇用における弱い地位も すぐに改善されることはない。

第三は,女性特有の生理現象は女性の就職能力と雇用機会に一定の影響 を与えるということである。ある学者は「次のような男女間の統計学上の 相違:身長,体重,寿命,数学に対する感覚力,進取の精神(aggression),

子育ての能力と体力。これらをもって各個人の情況を論じることは適切で はない。ただし,男女の間に他の範疇に属す相違は存在し,統計学上のま とめに留まらず,生殖能力,性別による身体構造の相違が取り上げられて いる」35)と指摘する。したがって,生物学上の両性の相違が男女個体に与 える影響は限定的であるが,雇用の問題において女性特有の生理現象(生

32) 佟新『社会的性別研究序論─両性不平等の社会体制に関する分析』(北京大 学出版社 2005年)25頁。

33) 趙津芳,岳素蘭『男女平等─基本国策簡明読本』(北京大学,2008年)12─13 頁。

34) 趙津芳,岳素蘭 前掲注33) 12─13頁。

35) 周安平「性別平等の法律進路に対する批判」『法商研究』2004年第 ₄ 期。

(24)

理,妊娠,出産,授乳)は女性の業務能力発揮に影響があることなどを考 慮しなければならない。妊娠出産期間の女性は継続勤務ができず,一時的 に業務能力を事実上失うことは否定できない。また,生理,妊娠と授乳期 の女性は通常の業務を終えるためにいつもより多くの苦痛の辛抱が強いら れ,そして健康上のダメージを受けざるを得ない場合もある。他には胎 児,乳幼児の健康も考慮する必要がある。そうしなければ非人道的である が,四期中の女性に特殊保護を与えれば労働効率が下がり,雇用のコスト も増えるだろう。このような保護責任を分配する制度が存在しない限り,

雇用主が経済と効率の面を後回しにして,積極的に特殊保護義務を負うこ とは決してないだろう。したがって,女性特有の生理的な特徴は,女性の 職務能力の発揮と雇用機会に一定程度のマイナスの影響を及ぼしている。

⑵ 中国における女性の雇用平等保障制度の改革に向けた基本的な考え方 前項で述べた筆者の認識に基づき,また女性雇用平等保障の実際の状況 を鑑み,改革は二つの面から展開すべきであると考えている。

まず,女性雇用平等保護に関する法律の改善を行うこと。

女性の雇用平等保障によって最初に解決しなければならない問題は,社 会的性別に基づく女性差別を原因とする,男女間の雇用機会の不平等であ る。したがって,雇用差別の禁止,女性に平等な雇用機会を保障する法律 の整備は優先して取り組むべき課題であり,まさに現在最も欠けているも のである。実際の必要性と合わせ,そして外国における関連法の実践の経 験を参考にして,以下の通り法整備をすべきと考えている。

① 雇用における性差別の法的判断基準

中国の現行実定法には,雇用差別や性差別に対する明確な定義,判断基 準がまだ存在しない。中国女性の労働権保護制度には一部性差別禁止に関 する規定があるが,包括的な規制ではないため,雇用における性差別の要 件を網羅できていない。判断基準と識別のあり方が不在のため,仮に相応 な法的救済措置が存在しても差別を受けた女性が救済を得られない。した がって,雇用における性差別の判断基準の確定は女性労働権平等保障の急

(25)

務である。

② 採用時性差別を防止する法律

採用のすべての段階で,求職者と求人側はそれぞれどんな権利と義務を 有するのか,女性求職者に要求できることとできないことについて,法律 は明白な基準を定めるべきである。他には,政府行政機関が果たすべき,

採用過程に対する監督責務や求人側の具体的な情況の把握,採用における 差別行為の是正などについての法律は現在存在していないため,整備する 必要がある。

③ 雇用における性差別に関する法的責任

法的責任について,現在確認できる関連法規定は ₃ つある。

女性権益保障法第57条第 ₃ 項:「本法の規定に違反し,女性の文化,教育 の権益,労働と社会保障の権益,人身と財産の権益…を侵害した場合,侵 害者の所属,所管部門,または上部機関が是正命令を発する…」,労働法 第98条:「使用者が本法の規定に違反し,労働契約を解除し,または労働 契約の締結を拒否した場合,労働行政部門は是正命令を発し,労働者に損 害を与えた場合,使用者は賠償責任を負う」,就業促進法第68条:「本法の 規定に違反し,労働者の合法的利益を侵害し,財産上の損失及び他の損害 を与えた場合,民事責任を負い,犯罪に及んだ場合,刑事責任を追及す る」。以上の規定を見れば,中国法では差別行為により負うべき責任の種 類や責任が追及されるべき主体は,決して明確とは言えない。またこのよ うな規定の運用実例は存在せず,事実上機能もしていない。法的責任をさ らに細分化,明確化する必要がある。

④ 雇用における性差別に関する紛争の解決プロセス

現在の中国では,雇用における性差別救済のルートが欠けているとは決 して言えない。就業促進法第60条は労働行政部門が本法の実施を監督する こと,告発制度を構築し,受理した告発事案を迅速に確認し処理すること を定め,第62条は差別を受けた場合,労働者が人民法院に提訴できること を定めている。したがって,女性は行政及び司法のルートで差別の救済を 求めることができる。問題は主管部門の具体的職能,解決方法,行政及び

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