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国際 ビジネスと人的資本の国際問移動 *

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船 津 秀 樹

Ⅰ は じ め に

2 1 世紀 において,利潤の最大化 を目的 とす る企業の活動は, さまざまな歴史 的な要因によって形成 されて きた国境線 を越 えて拡大 しつつある。いまや,競 争力のある多国籍企業は,世界企業 とな り,その行動 を,単一の国家が独 自の 法制度によって規制す ることは困難 になっている。国境 を越 えた貿易 と投資の 広が りは,その主たる担い手である世界企業の行動 を詳細 に分析す る必要性 を 増大 させている。国際 ビジネスが,新 しい学問分野 として広が りを見せている のは当然の ことであろう。 さまざまな分析の視点がある中で,各国の教育制度 と国際 ビジネス経済活動 との関係 は,特 に重要であると思われる。 日本 をは じ め とする先進国において,少子高齢化が進み,教育 を受けるべ き若年人口が減 少傾向にあるのに対 して,発展途上国では,依然 として,人口の増加が進んで いる。人間の知恵や知識の世代 間移転が,教育活動の大 きな目標の一つである とすれば,国ごとに教育 を行 う現在の仕組みでは,教育サー ビスを提供す る側 と受ける側の さまざまなミスマ ッチが発生 して くるのは当然の ことであろう。

特 に,その活動が国際的であることが一般的になっている企業が求めるニーズ と,伝統的に国家に対 して有用 な人材 を育成することを目的 として きた教育機 関が提供す るサー ビス との間にかい経が生 じて くるのは必然的 ともいえる。

*この論文は,平成1 9 年度〜平成2 0 年度科学研究費補助金を得て実施 した 「 国際ビジ ネス経済活動と教育投資に関する実証的研究」の成果の一部をまとめたものである。

〔 3 7〕

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38 商 学 討 究 第5 8巻 第 4 号

この小論の 目的は,活発化 しつつある国際 ビジネス経済活動に対 して,各国 の教育政策は どの ような影響 を与 えているのか国際経済学の分析手法 を用いて 明 らかにす ることにある。 これ までに,船津 ( 2 0 0 5 ,2 0 0 7 ) を通 じて,地域経 済統合 の進展 との関連で,「 学生の国際間移動」 を見 えないサー ビス貿易 とと らえて分析 を行 って きたが, さらに,研究 を進めて,国際 ビジネス経済活動全 般 に対する各国の教育政策の影響 を分析 してい きたい。 ここでは,その道筋 を 明確 に してお こうと考 える。

研究の出発点は,学生の国際間移動 にある。海外留学 自体 は, 日本では,逮 幅便や遣唐使の時代 までさかのぼれるほど古 くか ら観察 される現象である。進 んだ国の文化や知識 を吸収す るために,その国に行 って学ぶ とい う行為 自体 は, 近代国家 による公教育が一般化す る以前か ら存在 していた。各国において,あ る程度 自然 に形成 されて きた留学制度は,長い歴史を持つ人間社会の必然的な 所産 と言えるか もしれない。 しか しなが ら,今 日一般的にな りつつあるのは, いわゆるエ リー トを育成す るための留学ではな く,その活動が必然的に国際的 になった企業の一員 として,かな り長期 間にわたって働 き続 けるための準備 と して,別の国で学ぶ とい う行為である。 自らの職業生活 を充実 した ものにする ために,将来の 自分への投資 として,海外で学ぶのである。 したがって,国家 の発展 に貢献す るために留学するという意識 よ りは, 自らのために留学す ると い う意識が強 くなって くる。そのためには,かな りの費用 を支払 って もよい と 考 える人たちが増 えて くる。留学の市場経済化が進行 しつつあると言 って も良 いか もしれない。

若いころか ら将来のために自らに投資を した人達の数が社会の中に増加 して くれば,その ような人たちが集積 した国や地域 と,そ うではない国や地域 との 間には, しだいに経済格差が生 じて くるはずである。すなわち,現時点での学 生の国際間移動 は,国や地域の将来の ビジネス経済活動の活発度 を予測す る一 つの指標 になるか もしれない。 これが, この研究 を進めてい く上での作業仮説 の一つである。

2 0 0 2 年 に, 経 済協 力 開発 機構 ( OECD) と国 際 連合 教 育 科 学 文 化 機 関

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( UNESCO) が共 同で出版 した Fi na7 1 Ci n gEduc at i o n‑ I nv e s t me nt sandRe ‑ t ur ns ,A7 , l al ys i so ft heWo r l dEduc at i o 7 lI ndi c at o r s によれば,経済成長のエ ン ジンとしての教育投資の重要性 は,先進国ばか りでな く,発展途上国の政策立 案者の間で も,強 く認識 されるようになって きている。 また,国際連合教育科 学文化機 関教育統計所 ( UNESCO I ns t i t ut ef o rSt at i s t i cs ) の発行 した 2 0 0 6 年教育 ダイジェス トによれば ,21 世紀 になって,海外の大学で学ぶ留学生の数 は急速 に増加 してお り ,2 0 0 4 年 には,世界全体で,約 2 5 0 万人 と ,1 9 99 年の 1 7 5 万人か ら ,5 年間で 41 % も増加 した と報告 されている。これは ,1 9 7 5 年か ら 1 9 8 0 年 にかけて ,3 1 % 程度増加 した第一の波 ,1 9 89 年か ら 1 9 9 4 年 にかけて 3 4% 増加

した第二の波 に続 く第三の波 と呼ばれ,高等教育の国際化 を象徴す る現象 とし て注 目されている。

経済学の研究においては,教育の問題は,ベ ッカーの人的資本の理論 に代表 されるように ,1 9 6 0 年代か ら成果が蓄積 されて きてお り,教育の経済学 として, 独立 した分野 を形成 しつつある。ただ,国際経済学分野‑の応用研究は少 な く, Ca r t i gl i a ( 1 9 9 7 ) や Fi ndl a ya ndKi e r z ko ws ki( 1 9 83 ) な どが よ く引用 される 代表的な論文である。本研究は,人的資本の理論の延長線上で,各国の教育政 策が世界企業の国際 ビジネス活動に対 して どの ような影響 を与 えているのか明 示的に考察 しようとす るものである。国際 ビジネス研究の分野において も,人 材育成や知的財産権の活用が,重要 な研究課題 として意識 されるようになって お り, この分 野 にお け る代表 的 な学術雑誌 であ る J our nalofl nt ernat i onal Bu s i ne s sSt udi e s に,国際 ビジネス活動 に対す る人的資本の蓄積 による影響 を 分析 した実証研究の論文が掲載 されるようになって きている。広 く 「国際 ビジ ネスの経済分析」の一環 として, これ まで筆者が行 って来た学生 の国際屠移動 に関する回帰分新= をさら精微化 してい くことによって,新たな知見 を得てい き たい。

この小論は,次の ように構成 される。第 2 節では,企業の国際 ビジネス活動

に対す る各国政府 による教育政策の影響 を分析するための知的な枠組みについ

て考察する。第 3 節では,現時点における人的資本の国際間移動 に関 して利用

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40 商 学 討 究 第 5 8 巻 第 4 号

可能なデータについて説明す る。第 4 節では,修正 された国際間学生移動 に関 す る回帰分析の結果について報告す る。最後 に,結論 と今後の研究の方向につ いて述べ る 。

Ⅰ 国際ビジネスと教育政策

最近,大学で用い られる国際 ビジネスの教科書 には,国際貿易や投資,地域 経済統合の現状分析か ら始 まって, 最後の方の章で,人材資源管理の問題 を扱 っ ているものが多い。( 例 えば ,Da ni e l sa ndRa d e b a u gh( 2 0 0 1 ) ,Wo o d s( 2 0 0 1 ) な どを参照の こと。) また,異文化マネジメン トの観点か らの記述 も多い。 日 本で も ,1 9 9 0 年代後半か ら,規制緩和 の影響で,海外企業の 日本進出が進み, それに伴 って 日本語 を母語 としない人物 を経常の トップに据 える例 も出て き た。企業活動が国際化する中で,経営 トップの資質の中に,多様 な国際人材管 理の能力が求め られるようになって来たのは間違いがない。複数言語 を操れる 能力や異文化マネジメ ン ト能力 も,世界企業 においては必須の もの とな りつつ ある。 このような能力の育成は,終身雇用が一般的であった頃の 日本の企業で は,将来の経営者の候補 を従業員 として雇い入れてか ら,海外の ビジネス ・ス クールに派遣す るなどして,会社内部で育成す るのが一般的であった。 ところ が ,9 0 年代の 日本経済の停滞 と世界経済の市場経済化 に伴 う競争激化で, 日本 企業において も,人材育成のアウ トソーシングが始 ま り,なおかつ優秀 な人材 の流動性 も高 まったように見 える。必然的に,国際 ビジネスに必要な資質 も, 自前で,会社 に入 る以前 に身につける必要が出て きた。少 な くとも,先進国に おける第三の波 と呼ばれる学生の国際間移動の増大 については, この ように考 えることがで きる。企業活動の国際化が,人々に学生時代 における国際経験の 重要性 を認識 させ,国際間移動 を高めているという仮説である。 この仮説に立 てば,ほかの財やサー ビス と同様 に,高等教育サー ビスの貿易が行われるよう にな りつつあると,留学生数の増加 を説明す ることがで きる。

その一方で,各国の政府は,公的な教育費の増大か ら,高等教育に関 しては,

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受益者負担の原則 を打 ち出 し始めている。高等教育 も含めて,教育は触償で国 家が提供す るもの とい う考 え方 は, しだいに修正 を余儀 な くされ,欧州の大学 で も ,1 9 8 0 年代後半か ら授業料の徴収が始 ま り, 日本で も,国立大学が法人化 され,授業料の増加傾向が続いている。かつての ように,企業活動の範囲が国 家の境界の内側にとどまっている限 り, 教育 による正の外部経済効果 を信 じて, 税金 を用いて,無償で高等教育サー ビスを提供することも,納税者の理解 を得

ることがで きたであろう。 しか しなが ら,今 日の ように,財政規模の小 さな国 家 をしの ぐ売上 を持 ち,世界中で利益 をあげつつある企業の活動 を,一国家が 規制で きない以上,そ こで働 く人たちの能力 を向上 させ る費用 を,ある程度そ の人たちに負担 して もらうことには,経済的な合理性があるであろう。問題 は, 経済発展が, まだ十分ではな く,能力があ りなが ら,学ぶ機会 に恵 まれない発 展途上国の若者 たちに, どのように して学ぶ機会 を提供 してい くかである。 こ のまま,先進国における高等教育 を受ける費用が増加 していけば,学ぶ機会の 格差 は拡大 してい く可能性がある。富める国には,優秀 な人材が集中 し,新 し い ビジネスの創 出で, ます ます富んでい くのに対 して,貧 しい国か らは,人材 が流出 して,経済 ビジネス活動が不活発 にな り, ます ます貧 しくなってい くか もしれない。近年,マクロ経済学者たちは,経済発展 における人的資本の役割 を強調す るモデルを分析 して きた 。Ro me r( 1 9 8 6 ,1 9 9 0 ) と Luc a s( 1 9 9 0 ) の 研究によって発展 して きた経済モデルは,先進国 と発展途上国 との間で一人当 た り所得格差の拡大 をもた らす主要 な要因 として研究開発活動に焦点 をあてて いる。先進国には,多数の新 しい技術 を生み出す ような高等教育機関が存在 し ていて,創造的な人材育成が行われている。その人材の集積 は,将来国際企業 へ と成長 してい く可能性のある新 しいビジネスを生み出す0‑万,途上国には, その ような教育機関が ないために,国際的な人材の集積 は進 まず,したがって, 経済活動 も低迷 を続 ける。 この ような悪循環の結果 として,国際的な経済格差 は拡大 してい く。このことは,発展途上国の教育政策の立案者たちにとって も, 共通理解 にな りつつあるようで, 自国における人材育成に力 を入れる国が増加

して きた。ブリックス と言われ,注 目を集めつつある中国,イ ン ド,ブラジル,

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4 2 商 学 討 究 第5 8巻 第 4 号

ロシアは,人口規模が大 きく,高等教育の伝統 もある国々である。これ らの国々 が,高等教育 を通 じて, 自国内に人的資本 を集積す ることに成功すれば,現在 ある所得格差 は, しだいに収縮 してい くか もしれない。 また,これ らの国々に おけるビジネスチ ャンスが拡大す ると予測すれば,それ らの国々での生活 を若 い うちに体験 しておこうとい う若者 も増 えるか もしれない。現在の先進国か ら 発展途上国‑の留学 ということも十分あ り得 る。

企業活動の国際化が一般的ではない時代 に確立 された近代的な公教育の仕組 みや制度は, しだいに曲が り角に来ているのか もしれない。各国における義務 教育の年限は同 じではない し,教 えられている中身 も異 なっている。財 ・サー ビスの移動ばか りでな く,知識 と教育 を体化 した人的資本の国際間移動が活発 化 して くるにつれて,それぞれが受けた教育の質の違いは,世界企業の活動 に 追加的な費用の負担 を強いるもの となる。 これが,国際 ビジネスにおける人的 資源管理の重要性 を正当化す るのであるが, これに対す る十分な学問的な研究 がなされて きた とは言い難い。経済学における企業行動の理論では,捨象 され て きた領域 なだけに, もう少 しソフ トなアプローチが必要 なのか もしれない。

現実の世界では,欧州における地域経済統合の進展が,教育制度 と政策の協

調 とい う面で も先進事例 となっている。専 門的な職業 に必要 な資格 は,それぞ

れの国の教育制度 に規制 されて きただけに,域 内での職業選択お よび働 く場所

への移動の 自由を保障 しようとすれば,規制 を緩和する必要が出て くる。言語

や文化的な背景の異 なる国々において,労働市場 を統合 しようとすれば,教育

政策の協調が不可欠 となる。近代的な学校教育制度の源である欧州での社会的

な実験の成果 は,やがて,世界各地域へ と取 り入れ られてい くであろう。国際

ビジネスの戦略論的な分析 でなされるように,複数国で ビジネスを行 う企業の

行動に,現地政府の教育政策が, どの ように影響 を及ぼすのか,ゲームの理論

を用いた立論 も可能であろう。 また,国際貿易理論で,伝統的に用い られて き

た小規模 な一般均衡分析 も,依然 として有用 な枠組みであろう。少数ではある

が,教育部門を明示的に取 り入れたモデル も存在す るので,その拡張 を図るこ

とも大切であろう。 さらに,不確実性下の企業行動理論 を応用 して,各国の教

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育制度や政策の違いか ら生 じる リスクをどの ように管理す るか という視点で, この問題 にアプローチ してい くことも可能であろう。

いずれに して も,現段階では,企業の国際 ビジネス活動に対 して,各国の教 育政策が どの ような影響 を与 えているのかを分析 をするための決定的な理論モ デルは存在 していないために,既存の経済理論モデルを応用 しつつ,現実に起 こっている現象 を注意深 く観察 してい く必要がある。人的資本理論 をベースに しつつ,利用可能なデー タを用いて,現状 を分析 してい くこととす る。

Ⅱ 人的資本の国際間移動

教育 に関する国際デー タは,経済活動 に関するデー タと比べ ると十分 に整備 されているとは言 えなかったが,ユネス コ教育統計所の活動 によって,オンラ イ ンで使用で きるデータが増 えて きた。学生の国際間移動について も,歴史的 なデー タの整備 は行 われていない ものの,2000 年以降のデー タは,UNESCO I ns t i t u t eo fSt a t i s t i c s の ウェ ッブサ イ トか ら誰で も入手可能 となっている。 こ のデー タが注 目に値す るのは, 2 国間の人的資本の移動 を近似する国際デー タ としては,現在利用可能なほとん ど唯一の もの と言 えるか らである。高等教育 機関に入学するためには,通常 ,1 2 年間の初等お よび中等教育が必要 となる 。

各国の義務教育制度の成果 を自らに体化 した人的資本が,大学生 と考 えると, その人的資本が, 自国の大学ではな く,他国の大学‑行 くとい う意思決定 をす るには,十分 な動機が必要 となる。単純 な生産要素の国際間移動理論 に従 えば, 投資の レン トの低 い国か ら高い国へ と人的資本 は移動す る。 自国の大学 に進学 するよ りも,外国の大学 に行 った方が,生涯所得が高い と考 えれば,留学する

とい うことである。

船津 ( 2005,2007)で用 い られた学生の国際間移動 のデー タは,UNESCO

統計所 の好意 によって提供 され,非公 開の段 階の ものであった。現在 では,

ウェッブ上で,公開され,誰で も利用可能 となっている。2000 以前のデー タに

ついては,依然 として未公開であるが,主要国については,冊子体で公刊 され

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4 4 商 学 討 究 第 5 8 巻 第 4 号

ていた UNES COYe a r b o o k に記載 されているので,ある程度 さかのぼってデー 夕を整理す ることは可能である。

今回は,とりあえず, 再度 2 0 0 0 年のデー タを用いて,推計 をや り直 して見 ること と した。 サ ンプル数 と して は,前 回の 1 0 4 2 7 に対 して,今回は ,1 6 0 6 8 ある。各 国の学校歴の違いか ら ,2 0 0 0 年のデータ と言 って も同 じ時点の留学生の在籍数 と 限 らないことに留意す る必要がある。 日 本では, 4月か ら学校暦が始 まるが,多 くの国では, 9 月か ら始 まる。 したがっ て何人の留学生がその国の高等教育機関

表 1 学生の 2 国間移動データの基 本統計量

平 均 値 1 0 1 . 6

中 央 値 0

最 頻 値 0

標準偏差 1 0 4 1 . 5 分 散 1 0 8 4 6 4 8

最 大 値 5 1 9 8 6

計 1 6 3 2 6 8 8

に在 籍 して い る か は, 各 国 の 政 府 が

UNES CO に報告する時期 によって,若干のずれがあるとい うことである。

2 0 0 0 年 における学生の国際移動の合計数は ,1 6 3 万 2 6 8 8 人であ り , 2 国間の 平均移動数は ,1 0 1. 6 名であった 。1 6 0 6 8 のサ ンプルの うち, まった く学生の移 動が ない 2 国間関係 は ,1 1 1 9 9 であ り,多 くの発展途上国の間では,学生 は移 動 していない。移動数が 1 0 0 以下のサ ンプル数は ,1 4 9 3 3 であ り,学生の移動 は, 特定の 2 国間で発生 していることがわかる。移動数の トップテ ンを見てみると, 興味深い 2 国間関係がわかる。中国,イ ン ドか ら,アメリカ合衆国に多数の学 生が留学 していることは,ある程度想像がつ くが,ギ リシャか ら連合王国, ト ルコか ら ドイツ,モロッコか らフランス,カザ フスタンか らロシアへの留学生 数が多いことは, このようなランキ ングを作 ってみて,初めてわかることであ り,興味深い。中国か ら日本への留学生数の多 さも,世界第 5 位であ り,この 2 国間関係が,一般に想像 されているよ りも,強いことがわかる 。

人的資本の移動が,将来長期 にわたる 2 国間の技術移転や知識の伝播 につな

が ると考 えると ,2 0 0 0 年の時点における 2 国間学生移動数は ,1 0 年後 ,2 0 年後,

3 0 年後の国際 ビジネス活動の活発化 を予想す る重要 な要因 となるに違いない。

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この点が, この研究 を進めてい く上での,重要 な作業仮説 となっている。若 い 学生 は,その時点で利用可能な情報 をすべ て用 いて,留学の選択 を しているは ずである。受入国で学 んだ知識 を生か して職業生活の充実 を図ってい くとすれ ば, この人的資本の移動数 は,将来の 2 国間経済関係 に関す る有益 な情報 を, 我 々に提供 して くれるはずである。そ して, この移動数 に変化 を与 える各国の 教育政策 は,人的資本の蓄積 と移動 を通 じて,世界経済の発展 の方向性 に影響 を与 えてい くはずである。通常の財やサー ビスの貿易や企業 による直接投資の 分析 と比べ る と,人的資本の移動 に関 しては分析 が進 んでお らず,注意深 く, その変化 を観察 してい く必要がある。

表 2 学生の2 国間移動数の トップテン1 )

受 入 国 派 遣 国 留学生数

アメリカ合衆国 中 国 51 9 86 アメリカ合衆国 イ ン ド 47 411

アメリカ合衆国 日 本 40327

アメリカ合衆国

国 3962 4

日 本 中 国 31 955

連 合 王 国 ギ リ シ

2 86 40

ド イ

ト ル コ 2 65 80

フ ラ ン ス モ ロ

コ 2 42 8 4 アメリカ合衆国 カ ナ

21 925

今 回, 2 国間学生移動数の回帰分析 を行 うにあたって,説明変数 としては, 各 国の GDP, 2 国間距離 に加 えて ,UNESCO 統計所が公開 している 2000 年時

1)UNESCO 統計所のオリジナルデータでは,アメリカ合衆国への留学生の移動は,

推計に基づ くために,小数点以下の数字 も存在する場合がある。このでは,小数

点以下は,四捨五入することとした。

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46 商 学 討 究 第 5 8 巻 第 4 号

点 にお ける受入国の大学数貞数, 受入 国お よび派遣 国の学生 人 口規模 を用 いた。

GDPにつ い て は, 国際通 貨基 金 ( I MF) の Wor l dEconomi cOut l ookDat a‑

bas eの1 996 年 か ら2000 年 までの ドル換算 の実質 GDPの平均値 を用 いた。 2 国 間距離 のデー タにつ いて は, ウェブ上 に公 開 されてい る フラ ンスの シ ンク タ ン クに よるデー タを用 いた2 ) 0

Ⅳ グ ラ ビテ ィー モ デ ル に よ る分 析

今 回 も, 回帰分析 の基本 モデル と しては,Ti nber gen ( 1 962) に よって,欧 州 にお ける地域経済統合 の分析 に用 い られて以来,今 日にいた るまで, さまざ まな 2 国間の財 やサー ビスの移動 や資本 の移動 の分析 に用 い られて きたグ ラビ テ ィーモデル を使用す る。

( 1 ) I SMl , ‑α+βl l ogGDP . + β2 l ogGDPJ +β3 l ogDり+E

但 し,I SMり は i 国か らj国へ の学生移動数 を,GDPi は i 国の国内総生 産 を, GDP ,は j国の国内総生 産 を,D . j は 2 国間の距離 を,Eは撹乱項 を,それぞれ 表 す。GDPと 2 国 間距 離 は, それぞ れ対 数変換 した数値 を用 い る。最小 二乗 法 に よる推計 の結果 は,表 3 に要約 されてい る とお りであ る。

表 3 学生の 2国間移動に関する最小二乗法による推計結果

説 明変数 推 定 値 標準誤差 t 値

切 片 3 9 3. 1 6 7 6 8 8. 4 4 87 9 4. 4 451 4 4 受入国のGDP 1 9 9. 1 2 6 4 8. 87 71 7 1 2 2. 4 31 2 9 派遣国のGDP 9 6. 5 2 7 7 6 7. 91 2 2 01 1 2. 1 9 9 8 6

サ ンプル数 1 6 0 6 8 調整済決定係数 0. 0 43 2

2)ht t p: / / www. c e pi i . f r/参照の こと。

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すべての説明変数は ,1% の有意水準 において も ,2 国間学生移動数に対 し て影響がない とい う仮説 を棄却で きる。推計結果 は,派遣国の GDP が 1% 上 昇す ると,約96 人学生移動数 を増加 させ,受入国の GDP が 1% 上昇す ると, 約1 99 人学生移動数 を増加 させ ることを示 している。 この推計結果 は,経済成 長が著 しい国同士ほ ど,学生の移動 は増加す ることを示 している。モデルが想 定す るとお り , 2国間の距離が離れているほど,学生の移動数は小 さくなる。

次 に,切片 に関 して,欧州連合 ( EU) 加盟国に関す るダミー変数 を導入 し てみ よう。推計結果は,次のようになった。

表 4 欧州連合ダミー変数を導入した場合の推計結果

説明変数 推 定 値 標準誤差

t

切 片 2 42. 9 2 91 8 9. 0 9 9 9 8 2. 7 2 6 47 7

E U ダ ミ ー 8 85. 1 85 6 7 8. 3 45 5 9 l l. 2 9 8 47 受入国の GDP 1 85. 5 6 2 8 8. 9 2 35 2 0. 7 9 4 8 4 派遣国の GDP 8 4. 5 7 4 4 6 7. 9 5 1 8 85 1 0. 6 3 5 7 8

サンプル数 1 6 0 6 8 調整済み決定係数 0. 05 1

E U ダミー変数 は,有意であ り ,E U加盟国内には,学生の移動 を創 出す る 効果があることが推測 される 。E U加盟国は,その後,2005 年 と 2007 年 に増加 してお り, この効果が どの ように変化 しているのか調べ るのことは興味深い。

2000 年の時点では,885 人の学生移動効果があった と推定 されているが,加盟 国の増加 は,この移動効果 をどのように変化 させたのであろうか。

さらに,前 回の調査 と同様 に,ア ジア太平洋経済協力加盟 国について も,

APEC ダ ミー変数 を導入 して調べてみた。推計結果は,以下の ようになった。

APEC ダ ミー変数 も,統計的に有意であ り ,APEC 加盟 国内において も,

学生の移動 を創 出す る効果があるようである 。E U において も ,APEC におい

て も,地域経済統合 を進める過程 において,留学生の域内移動 を促進 させ るこ

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48 商 学 討 究 第 5 8 巻 第 4 号

表 5 APEC ダミー変数 を導入 した場合の推計結果

説明変数 推 定 値 標準誤差

t

3 2 2. 6 5 9 8 8. 2 6 7 7 3 3. 6 5 5 45 7 APEC ダ ミー 1 1 5 6. 7 3 9 6 2. 3 47 31 1 8. 5 5 31 6 E U ダ ミ ー 9 5 1. 0 7 41 7 7. 6 0 3 07 1 2. 2 5 5 6 3 受入 国の GDP 1 6 5. 9 7 81 8. 8 9 2 5 41 1 8. 6 6 4 8 7 派遣国の GDP 61. 8 2 9 6 8 7. 9 6 31 9 9 7. 7 6 4 42 7

サ ンプル数 1 6 0 6 8 調整済み決定係数 0. 07 1

とは,経 済統合 プ ロセス を円滑 にす る との認識 に基づ いて,奨学金 の付 与 な ど 政策 的 な配慮 が な されて きた 。2000 年 の デ ー タを分析 す る限 り, そ れ らの教 育 政策 に は,一定 の効 果 が あ った よ うに思 われ る。

表 6 受入国の大学教員数 を説明変数 に加 えた場合の推計結果

説明変数 推 定 値 標準誤差

t

2 7 6. 8 31 5 1 01. 1 8 0 4 2. 7 3 6 0 2 APEC ダ ミー 1 1 4 8. 3 2 8 6 7. 0 5 5 7 4 1 7. 1 2 49 8 E U ダ ミ ー 8 6 2. 5 5 2 9 8 0. 7 6 3 3 6 1 0. 6 8 受入国の大学教員数 1 6. 5 91 06 1 0. 6 3 31 3 1. 5 6 0 31 7 受入 国の GDP 1 6 2. 85 2 9. 5 61 5 3 3 1 7. 0 31 9 9 派遣国の GDP 6 0. 7 8 6 6 6 8. 7 0 9 5 35 6. 9 7 9 3 2 3

サ ンプル数 1 2 7 47 調整済み決定係数 0. 07 4

受入 国の大 学教 員数 の影響 はマ ー ジナ ルで, そ れ ほ ど学生 の移動 に影響 を与

えてい ない よ うに も思 われ る。 さ らに,受入 国,派遣 国の大 学生 人 口 を説 明変

数 に加 えて推 計 した ところ, あ る程 度,統計 的 に有 意 な結果 が得 られた。 た だ

(13)

し,教員数のデー タがないために,い くつかの国の学生移動数のサ ンプルを除 去 して得 られた結果であ り, さらに詳細 な分析 は,今後の課題 となっている。

Ⅴ お わ り に

この小論では ,UNESCO 統計所 において整備 されつつある大学生の国際移 動デー タを用 いて,グラビティーモデルによる分析結果 を報告 した。従来の研 究で実施 した分析 を精微化す るとともに,大学生の国際間移動パ ター ンは,棉 来の国際 ビジネス活動の活発化 を予想す るための重要 な説明要因 となる可能性 について議論 して きた 。2 0 0 0 年時点における留学生の 2 国間移動数は顕著 な特 徴 を持 ち始めてお り,特定国か ら特定国へ と大量の学生が移動 していることが うかがえる。その一方で, まった く学生の移動が観察 されない 2 国間関係 も多 数存在 してお り,格差が拡大 しているようにも見 える。グラビテ ィーモデルは, 従来の研究通 り, 2国間の留学生の移動 をうまく説明 している。特定のサ ンプ ルの間では,大学教員数の ような教育に関連す る変数が,有意 となる場合 もあ

り, さらに詳細 な分析が必要である。

2 0 0 0 年の時点における二国間学生移動数には,はっきりとした傾向があ り, 21 世紀の新 しいビジネスが,知識集約型の ものであるとすれば,今後の国際貿 易,直接投資の動向は,学生の国際間移動 と無関係ではあ りえないだろう。

今後 は,今回の研究成果 を踏 まえて,次の ような方向に研究 を拡張 してい き たい と考 える。

( 1 ) 各国の教育支出な ど,教育政策に関す る変数 を説明変数 として加 えるこ とによって,地域経済統合だけではな く,各国の政策が留学生の移動 に影 響 を与 えるのか吟味す る。

( 2 ) 2 0 05 年 における 2 国間の財サー ビス貿易,直接投資,国際観光客数な ど

のデータか ら , 2 国間の国際 ビジネス活動指数 を構築する。そ して ,2 0 0 0

(14)

50 商 学 討 究 第5 8巻 第 4 号

年 時点 にお ける学 生の国際 間移動パ ター ンが, どの桂度,2 0 05 年時点 にお ける 2 国開国際 ビジネス活動 に影響 を与 えてい るのか検討す る 。

( 3) グラ ビテ ィーモデルに代 わ る推計 の基礎 となる理論 モデル を,大学生 の

留学 に関す る意思決定 まで さかのぼ って,考案す る。 で きれば複 数の反証

可 能 な命題 を導 出で きる理論 モデル を考 えてみたい。

(15)

データ付録

紙数の関係 で ,5 0 0 名以上 の 2 国間学生移動 があるサ ンプル を,移動数の多 い順 で記 してお く。受入 国 GDP ,派遣 国 GDP ,二 国間距離 は対数変換 済みの 値である。

学生の国際間移動データ 2 0 0 0 年 移動数 5 0 0 人以上のサンプル

入 LZ 退 IBl 留学生数 APECダ ミー EUダ ミ 人lgGDP 派退L封CDP ̲ EkllHJ距 牡 ULlltedStates Chllla

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(16)

52

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商 学 討 究 第5 8巻 第 4 号

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