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急増する人の国際移動 経済の国際化の進展につれて

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急増する人の国際移動

経済の国際化の進展につれて、貿易(モノ)、投資(カネ)のみでなく労働(ヒト)

の面でも統合が進みつつある。統合が進む国際的労働市場のなかで、人はさまざま な理由から国境を越えるようになった。ある者は、母国での迫害等をのがれるため 自由な国へと移動し、またある者は経済的理由に基づいて所得の高い先進諸国へと 移動する。

こうした移民労働者の増加に貢献した最大の出来事は、1990年代初めのソビエト 連邦崩壊、およびそれに続く東欧諸国の西側経済への統合であろう。1990年代以降、

東欧諸国から多くの移民労働者がイギリス、ドイツ、フランスなどの西ヨーロッパ 諸国に移動した。また、21世紀に入ると、東欧諸国の多くは欧州連合(EU)への加 盟を認められた。西ヨーロッパ諸国15ヵ国をメンバーとするEU15は、2004年5月に はハンガリー、ポーランド、チェコなど10ヵ国を新メンバーとして受け入れた。ま

た2007年1月にはブルガリアとルーマニアが加盟を認められ、EU加盟国は27となり、

ほとんどの東欧諸国を包含することとなった。EU域内では、モノ、カネ、ヒトの自 由な移動が認められており、したがって、原則的には出稼ぎ労働も自由とされてい る。もちろん、所得水準等が大きく異なる東欧諸国の加盟に際して一定の制限的経 過措置がとられているが、EU加盟が認められた東欧諸国からの移民は今後も増加す るものと予想されている。

移民労働者の増加はヨーロッパに限定されるものではない。アジアにおいても近 年の移民労働者の増加傾向は著しい。確かに、東アジアにおける労働市場統合の程 度はレベルでみた場合にはまだ他の地域よりも低いが、近年急速に上昇してきてい る。また、わが国でも移民労働者(外国人労働者)は年々増加している。1980年代半 ばまでは、わが国にやってくる外国人労働者の数は非常に少なく、また一定の業種 に限定されていたが、その後急増し、厚生労働省の推計によれば約80万人の外国人 労働者が日本で働いている。

国際連合が昨年発表した「世界の移民の趨勢についてのレポート」によれば、

国際問題 No. 574(2008年9月)1

◎ 巻 頭 エ ッ セ イ ◎

Goto Junichi

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2005年には移民の数は1億9000万人を超え世界人口の約3%に達している。

国境を越えない移民

労働市場の国際的統合を促進するもう一つの要因は、いわゆる「国境を越えない 移民」の増加である。これは、あまり議論なされていないが、インターネットの普 及や国際通信料金の低廉化等に伴う国際的アウトソーシングの増大として顕著にあ らわれている。今日では、特に欧米の航空会社や他の大企業のコールセンターは、

インド、フィリピン、中南米諸国など世界各地に配置されている。たとえばアメリ カの消費者がアメリカの航空会社に予約を入れようとして電話をした場合、賃金が 低廉でかつ英語圏の途上国に設置されたコールセンターのオペレーターが答えてい るというケースが多いのである。また、出版においても、タイプセッティングなど の労働集約的部分はインドなどの途上国にある企業で行なわれ、メール添付ファイ ルやフロッピーなどで先進国に送り返されるというケースが多い。

このように国際的なアウトソーシングに従事する途上国の労働者はしばしば「国 境を越えない移民」と呼ばれその数は急増している。たとえば、アジア開発銀行に よれば、フィリピンにおける2007年から2010年にかけての新規雇用の11%は、コー ルセンターをはじめとする国際的アウトソーシングにおいて創出されると言われて いる。外国人労働者問題が議論される際には、しばしばヒトの物理的な移動に限定 されてきたが、こうした「国境を越えない移民」の可能性を考慮する必要があろう。

つまり、物理的なヒトの移動を伴うことなく、外国人労働力を間接的に活用すると いう選択肢があるわけである。

国際労働移動に関するわが国の基本的政策

このように国際労働移動は世界的に急増しているが、ヒトの移動は受け入れ国、

送り出し国にさまざまな経済的、社会的インパクトを与えるため、特にわが国を含 む受け入れ国において、その是非についての活発な(そしてしばしば感情的な)政策 的議論が行なわれている。

外国人労働者問題に関する日本政府の基本方針は明確で、1999年8月に閣議決定 された第9次雇用対策基本計画によれば以下のようなものとなっている。

(i) 専門的、技術的分野の外国人労働者については、わが国の経済社会の活性化や一 層の国際化を図る観点から受入れをより積極的に推進する。

(ii) いわゆる単純労働者の受入れについては、国内の労働市場にかかわる問題をはじ めとしてわが国の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすと予想されることか ら、国民のコンセンサスを踏まえつつ十分慎重に対応することが不可欠である。

(iii) 単に少子・高齢化に伴う労働者不足への対応として外国人労働者の受入れを考え

巻頭エッセイ統合が進む国際的労働市場と日本

国際問題 No. 574(2008年9月)2

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ることは適当ではなく、まず高齢者、女性等が活躍できるような雇用環境の改善、

省力化、効率化、雇用管理の改善等を推進していくことが重要である。

つまり、専門的・技術的労働者の受け入れは積極的に推進する一方で、いわゆる 単純労働者の受け入れは一部の例外を除いて原則禁止という立場が貫かれているの である。換言すれば、「人材」の受け入れは認めるが「(安価な)労働力」の受け入れ は好ましくないとされているわけである。しかし、近年、少子高齢化、経済のグロ ーバル化を背景にいわゆる単純労働者をも含めた外国人労働者受け入れ擁護論が再 び盛んになってきた。

国際的労働移動に関する三つの議論

わが国における外国人労働者受け入れ論の台頭には三つの流れが観察される。ま ず第一の流れは1980年代後半から90年にかけての好況下での人手不足、特に中小企 業の3K(きつい、汚い、危険)職種における人手不足を背景にした外国人労働者受け 入れ論である。日本人が嫌う職種は外国人にまかせるしかないという考え方のもと に、建設業界などが外国人労働者の受け入れを強く主張し、雇用許可制などを導入 してローテーションで受け入れることの可能性などが議論された。政府は、1990年 に出入国管理法を改正して専門的・技術的労働者については受け入れを促進すべく 職種の拡大をはかったが、いわゆる単純労働者については受け入れないという方針 を堅持した。

しかし、建前上は単純労働者の受け入れは認めないという方針を堅持しつつも二 つの点で風穴を開けることとなった。一つは、入管法改正のなかで日系人について は定住者として3年間の居住を認め、その活動に制限を設けず、非熟練労働も自由 に行なえるという改正を行なった。3年を超える場合もほぼ無制限に定住ビザの更新 が認められ、また長く滞在するものについては永住権も比較的容易に与えられ、わ が国に居住する日系人の数は20万人を超えるようになってきた。

もう一つの風穴は、1993年に開始された技能実習制度である。技能実習制度は

「研修期間と合わせて最長3年の期間において、研修生が研修により修得した技術・

技能・知識が、雇用関係の下、より実践的かつ実務的に習熟することを内容とする」

(国際研修協力機構:JITCO)とされているが、入管法上の在留資格は「特定活動」で、

研修とは異なり労働者として賃金を得るものである。4―5万人が技能実習への移行 を認められている。しかし日本人が嫌う職種に外国人を受け入れようという議論は 1990年代以降の平成不況のなかでやや下火になっている。

第二の流れは、少子高齢化のなかで予想される将来の人手不足に対処するために 外国人労働者の受け入れが不可欠とする議論である。近年の少子化傾向に歯止めが かかる様子はなく、わが国人口は急速に高齢化することが予想されている。特に今

巻頭エッセイ統合が進む国際的労働市場と日本

国際問題 No. 574(2008年9月)3

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後20年間における年齢構成の変化は著しく、2020年までに生産年齢人口は約1000万 人減少するものと見込まれ、厳しい人手不足時代が到来すると言われている。全体 的な労働力需給だけでなく、介護など特定の分野ではより深刻な人手不足に見舞わ れるとも言われている。こうしたなかで、日本人の働き手が減るから積極的に(い わゆる単純労働者をも含めた)外国人労働者の導入を進めるべしといった意見が声高 に主張されるようになっている。こうした議論は1990年代半ば以降強く主張される ようになっており現在でも有力な主張であるが、生産性向上・女性の職場進出など が進めば少なくても総量的には問題はないとする主張もある。

第三の流れはごく最近アジアFTAとのからみで行なわれるようになってきた議論 である。周知のように、わが国はシンガポールとの協定を皮切りに、メキシコとの 間でも紆余曲折の後、経済連携協定を締結している。また、マレーシア、タイ、フ ィリピン、東南アジア諸国連合(ASEAN)全体などアジア諸国との間でFTA締結な いし交渉が進んでいる。しかし、アジア諸国との自由貿易協定(FTA)締結交渉にお いては、農産物自由化と並んでヒトの移動が大きな課題となってきた。モノの輸入 の促進といった従来のFTA交渉の内容に加えて、看護師、介護士、タイ式マッサー ジ師、家事補助者、ベビーシッター等ヒトの移動も重要なテーマとなり、最近締結

されたFTAに基づいて、本年からは、インドネシア人の看護師、介護士が日本にや

ってくることになっている。

わが国でも外国人労働者が急増し始めた1980年代後半から20年が経過し、その間 にさまざまな政策的議論がたたかわされてきたが、いまだ合意には程遠い状況にあ る。本号では、活発化する人の国際移動に関し、さまざまな観点からの分析が提供 される。こうした分析が、混乱する議論を整理し、わが国および世界各国の国際労 働力移動に関する望ましい政策決定に一歩となることを期待したい。

巻頭エッセイ統合が進む国際的労働市場と日本

国際問題 No. 574(2008年9月)4

ごとう・じゅんいち 神戸大学教授 [email protected]

参照

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