Bulletin of Faculty of Education,Nagasaki University:Curriculum and Teaching1990,No.14,95−110
教育舞踊における今日的な中心課題について〈その1>
松本式舞踊課題学習法に関するくまるごと体験・
運動課題・極限的動き〉の再検討を中心として 堀 野 三 郎*
(平成元年10月31日受理)
On the Current Main−Problems
in Educational Dance〈1>
Focusing on Reexamination of<Total Dance Experience,
Movement Theme and Maximum Moving>in Matsumoto s Dance
Leaming Method of Problem Solving一Saburo HORINO
(Recieved October31,1989)
1 はじめに
近年,日本女子体育連盟主催の研究会(研究発表,公開授業,研究協議,実技研修等)
では,ダンス学習の全面的な特質として〈おどり・つくり・みる>といったダンスの全体 験(まるごと体験)の歓びを味わう学習法として,「課題学習」に関する独自の視点に立脚 した方法1)が全国的なスケールで盛んに行われている。筆者の居住する長崎県下の各地各 校においても熱心な研究・研修の試みと努力がみられる。
長崎県においては,とりわけ昭和61年11月に「第20回全国女子体育研究大会」が長崎市 内で開催され,それに向けての数年前から,そして,同大会開催を契機として,その後今 日に至るまでの3年間は特に熱心に,上記主旨による「課題学習法」を積極的に導入・実 施し,その実践経験に基づいてこの手法に関する利点・困難点・疑問点・欠点等について 論議したり,情報交換や意見交換をしたりする機会が増大している現状にあると思われる。
また一方,それらの傾向を通じてのデメリットな事例・現象もしばしば散見される。例 えば,同課題学習法に準拠した方法によらない授業展開の場合は,その教育的価値が低い,
あるいは欠けるかのような言動・態度を示されたケースや,「貴方は同課題学習法について よく知らないから(勉強不足だから),そのような発言をするのだ」といった同法のみが課 題学習法の総てであり,絶対的なものであるかのような価値観や,自分や自分達だけが勉 強・努力し,頑張っていて,他の視点・手法に立つ人達は無駄な努力をしているだけだと
*長崎大学教育学部保健体育教室
独善独断するかのような,即ち,柔軟性に欠けた権威主義的な視点からの対応に終始する だけで,問いかけた具体的事例の疑点に対して何ら明確な対応・説明も示さないリーダー もいたとの述懐も伝聞する。また,毎時とも必ず〈はじめにウォーム・アップ,次に課題 の解決,おわりに観せあい>といった授業形態・展開,即ち,<おどり・つくる・みる>経 過を型通り踏まなければならない2)とか,毎時とも極限的な運動・表現質に関する授業展開
が含まれていなければならないとの松本千代栄氏の同課題学習法に関する論考での強調
点3)に対する盲目的な思い込みの視点からと思われる発言や対応等に接したナンセンスな ケースもよく見聞される。筆者の見解によれば,松本論考での上記の強調点は,あくまでも基本的理念・原理(基 本姿勢)としての特徴的論調・論点と解すべきであり,ある事例における効果的なアプロー チの方法の一つ(one of a lot of apProachingmethods inproblem solving)としてケー ス・バイ・ケースで時に応じて有効に活用されるべき視点と思われる。
もしもそうでなければ,上述の松本式論調・論点は,本論でこれから展開される予定の 標題に関する問題提起と3種の実態・事例報告例に基づく考察(ただし,今回は紙面の都 合上,実態例の授業分析法による報告のみ)に対して,充分に対応し包括することが困難 な自己撞着(内部矛盾)に落ち込む危険性を内包していると思われる。
と同時に,既に各地の研究会・研修会等において,特に同法設定の特徴的な要点の一つ とされるフォーマル・ドリル形式の学習展開に関しては,一昨年も昨年も今年も人は代わ れど指導形態は変わらずで,その展開内容も前年と殆ど同種・同レベルで,そして各年度 の担当指導者自身の独自の工夫・匂いも感じられない〈自分の顔のない人>による遠隔操 作ロボット的・猿回しの猿的な同一パターンの繰り返しや,小・中・高校共に例えば〈伸 びる・縮む>課題での教師の予測的な題材例や具体的な発展内容等において近似・同質的 な課題設定のまま,即ち,逐年累積的な縦の連携や横の充実に乏しい,従って,<児童・生 徒の成長・発達に即し,子供達の内的要望に即応した課題設定を>と文字には綴っても実 質的には掛け声倒れの,即ち,児童・生徒の感性に触れない・燃えない活動や,教師自身 の心に触れない自己不在・自己喪失に近い権威主義的な画一化・形骸化(conformisum)
を助長する傾向も現に生じており,憂慮される。
次ぎに,本論の標題中やその他で用いた〈松本式課題学習法>と「松本式」を付加した
筆者の意図・意味としては,次の3点から用いた:
①今まで述べてきた諸点に肯定・否定・誤解等の各個人の評価の如何に関わらず,こ
れらの視点・側面と密接な「課題学習法」(以下「同課題学習法」または「松本式課題学習 法」という)に関する多くの著作,公的発表・発言,同学習法の形成過程・普及過程での 中心的指導・推進者は,松本千代栄氏であると思われること。②「舞踊(ダンス)課題学習法」と称せられる,あるいは扱われ得る類書は,国外,国 内共に多くみられ,それら他のダンス・システムとの明確な区分が必要と思われること。
③同課題学習法は,松本氏のこれらに関する研究グループの意で「松本派」と呼称す
るよりも,現状は既述の如く,遙かに多くの人々に流布・活用されていること。および,「松本システム」と称するには,他の類書,例えば「ヨース=リーダー・メソード」や「ラ バン・システム」等に比して,長期的な歴史的時問経過の中での活用人口のクローバルな 広がりや多様な実績等の視点からは,同課題学習法を現時点で同列に扱うのは適当でない
堀野:教育舞踊における今日的な中心課題について〈その1> 97
と思われること。および,筆者の独断も含めて「同課題学習法」は,未だ研究発展途上に あり今後益々充実した成果が累積加算されるものと期待されること 等である。
以上,本論提起に当たって,標題に関して筆者が過去数年の問に見聞し,実践し,実験・
追試等を行ってきた経験・経緯を通して,筆者自身が当面した疑点・問題点とその一部解 消・解決策への模索・提言・提案を試みる訳であり,これらの私案が前述の意味での「松 本システム」確立・完成への細やかな一助ともなれば幸いである。と同時に,同課題学習 法に関して筆者自身不明な部分も多いと思われることも含めて,私見に対する諸賢の温か いご批判やアンチ・テーゼとして単なる建前論的ではなく,具体的な実践活動事例・資料 の提供・紹介等の建設的なご指導も併せてお待ちしたい。
II研究目的
本論では,教育舞踊としての一般的な実技授業時間は,50分授業(実質活動時問は45分 間前後)であり,実技参加の生徒数は,45−50名程度を指導対象とするものと前提して検 討した。今回は,諸問題の中から特に次の3点に絞って研究目的を設定した。
ただし,今回は,紙面の都合上,この中で授業分析法による下記の[目的III]中心に[目 的1]を派生的・付加的事項として検討し考察した。
今後は,他の視点による[目的III]の継続的検討や,[目的II]に関する用語概念の検討 や「7つのモーティヴ」に関する反応実態例等について引続き報告する予定である。
[目的1]:毎時とも〈おどり・つくり・みる>まるごと体験としてのダンス活動は常に
必要か?また,実施可能か?
[目的II]:運動課題設定の中核的意味(主な設定理由)は何か?
[目的m]:毎時の課題とも極限的動き・表現質の活動は常に必要か?
III研究方法
前述の3つの研究目的について,目的1(大概念)>目的II(中概念)>目的III(小概念)
の関係とみることが出来る。
また,松本式課題学習法での特徴的論調(主張点のユニークさ)の観点からも本論標題 の範囲に限って言えば,筆者の視点では,同様の関係にあるとみることが出来る(その根 拠等の詳細は後述)。
前述のように,今回は紙面の都合上,次記の[方法1]についてのみ報告する。
初めに,前記の〈研究目的1・II・III>に共に関連深い具体的実践例から問題点・疑点 等を抽出し,次いで,それらの各事項について,前記の小概念に関する考察,次いで中概 念に関する考察,最後に大概念に関する考察という手順で検討を行った。
[方法1]:VTRによる公開授業記録からの授業分析法による理念的・実証的論考(詳細 は後述,および表14)を参照)。
なお,主要な考察は筆者単独で行ったが,VTR映像中,その活動や場面が〈極
限的な動きか否か?>の判断に関しては,6名の評定者(高校体育教師2名,
大学体育教師1名・大学美術教師1名,体育専攻学生2名)による主観的判
定結果(主観の客観化)を尊重・参照して考察を行った。なお,下記の「方法2・3]は,当初,本論記載の予定であったが,紙面の都合上,次
回に報告の予定であり,ご参照頂きたい。
次回は,本論の継続研究として,特に前記のく目的Ill>に関して,上記の〈方法1>に よる分析例以外にも,追加事項として,既報の2つの資料を援用しての考察を行う予定で ある。その概要は,次の通り。
[方法2]:「4つの大学生ソロ舞踊作品の運動過程における運動要因分析と連合;連合 型」についてのフィルム・カウント分析法の資料に基づく実証的論考(詳細
は次回に報告の予定)。[方法3]:「3人の踊り手による同一舞踊作品『ボレロ』からの同一抜粋部分の観照結 果の比較分析」についてのアンケート調査資料に基づく実証的論考(詳細は
次回に報告の予定)。IV結果と考察
{1}VTRによる公開授業からの授業分析について:
[1] 授業記録
中学3年女子生徒20名対象の約31分31秒間の研究授業(指導・山田敦子氏:高知大学)
《課題学習一運動課題〈捻じる一回る一見る>……個の開発を主体とした指導》より
[第20回全国女子体育研究大会長崎大会・全体会:実技指導] S.61.11.14團
(表1を参照)
★ 同会場でのく公開授業・中学校の部>開始前の松本コメントより:
「学習の前半の指導で,どういう風に切り込んでゆくことが,この課題というものを一 番良く子供達と一緒につかみ出し,子供自身の表現を切り拓いて行くことが出来るか,
このようなことをご一緒に観させて頂こうというのが(この公開授業のポイントです。)
・中略……限られた前半の時間でございますので,(運動からイメージヘの,入り・切 込み方の)学習の全貌ではありませんが,前半の一番大切な部分としてお考えください。
……一………イメージ課題〈……を洗う>公開授業終了後一…一一一…一…一
ただ今,学習では,とりわけ一つの極限の動きに向かって子供が踊ることによって,
自からイメージが湧いてくる(という)極限の方向と,一つでなく多様な方向にそれを 試みていく,この二つの大きな原則を持ちながら進めております。
では,次に中学生・3年生,山田先生お願いします。」
〈A> 授業開始後1分00秒一5分25秒(4分25秒間):
○ 始業直後の約1分間は,全員,両手連手・内向き隊形で円心移動し,「ギューウと小さ
くなって」密集隊形にしゃがみ,指導者より〈ダンス・ウォーミング・アップ(以下
「Warm−up」と記す)>の手順・指示サイン等の説明を聞いた後,① [指導のはこび]・〈Wam−up〉:〈先生と一緒に>動く 〔1分32秒間〕
<a−1>軽快な伴奏音楽と共に,全員,両手連手・内向きのままウォーキング・ステッ
プ(後半はステップ・ホップ・ステップで)で円外へ後退しながら手一杯に
輪を拡げ,次いで,ランニング・ステップで「速く(円心へ向かって)縮む。」〈a−2>②の反復。ただし,輪を拡げる際は,ウォーキング・ステップで1歩1歩「ゆっ
くり ゆっくり ゆっくり,ギリギリまで,切れたら駄目!」の指示で,極
堀野:教育舞踊における今日的な中心課題について〈その1〉 99
限まで両手一杯に輪を広げる。
<a−3>再び円心へ密集移動し,「ハイ,背中合わせ 背中合わせ 背中合わせ,小さ
くなって 小さくなって 小さくなって,ハイ,そのまま回ってごらん!
一」の指示で,外向き・しゃがんだ中腰姿勢の密集隊形のままC.W.方向ヘ
ウォーキング・ステップで側進移動(時計周り)し,次いで,全員,両手連 手・外向きのまま「……ハイ1歩・ハイ1歩,ドンドン拡がって,手切れな いギリギリ,ハイ1人置いたお隣りの人にタッチ!……,動いては駄目!」
〈a−4>「ハイ,,もう1遍やろう!」の指示で,今度は,内向き・両手連手のまま〈縮
む一拡がる>とも軽快なスキップ・ステップでForward and Backの移動を 行い,[手切れるギリギリの所まで行ってごらん!ハイ,動かないで1人置い た隣の人にタッチしてごらん!どっちでも良いから動かないで動かない で」の指示で,生徒は,両手間隔を最大に拡大した輪の位置で,何れかの片
足をその位置に固定したまま,1人先の人と他の片足や手でタッチし合う。② [指導のはこび]・<Warm−up>:〈1人で自由に動く・止まる> 〔2分18秒間}
(教師のタンブリンの音がしたら止まる。) 〈詳記略>
③ [指導のはこび]・<Warm−up〉:〈皆の中に出なかった動き> 〔35秒間〕
教師のリードで,皆一斉に動く・集まる く詳記略>
<首の回旋,まっすぐ立つ一そのまま歩く,踵をあげて座る>
〈B> 授業時間後5分25秒一7分18秒(1分53秒):
本時のメイン運動課題〈捻る一回る一見る>の確認,および グルーピング(血液型毎に,5人組一2班,4人組一2班,
成)。
2人組一1班の5班編
<C〉授業開始後7分18秒一12分39秒(5分21秒):
①各班毎に内向き両手連手の円形隊形からスタートして,指導者提起の[イメージヘ
の言葉かけ1・〈粘土細工のようにクネクネ形を変える>「複雑に色んな形してね」の指 示に従って,クネクネー一クニャクニャとくぐり抜けたり,交差したり,重なり合っ たりしながら色々と変形した後,タンブリンの合図で,各踊り手達は,上体を反らし たり,全身を斜めに捻ったり,肘や肩が異常位姿勢のまま,即ち,変形姿勢のまま,こね上がった粘土の塊としてポーズ。
②[指導のはこび]・〈グループで動く>活動に関する指導者のその後の指導言語を中心 とした逐語的な展開経緯:
<a−1〉[(手が)切れたら駄目。ハイ,その形のまんま,手を離さないで,1歩外へ
でる。1歩,もっと拡がれるかナ?あと10cm外,あと10cm,Yさんはもう10 cm下がれるんじゃない?手切れないんじゃない?まだ切れないんpやない?
それが皆がやりたかった形なんだヨ。」
〈a−2>「イイ?もう1遍いこう。ハイ,クネクネクネ……。手が切れるギリギリ。
ハイ,大きく拡がった?ホラもう1遍,まだいける人,外へいってごらん。
1cm外。(タンブリンが)鳴った瞬間にピッと筋肉引っ張るのヨ。」
〈a−3〉
<a−4>
<b−1>
「いい?ハイ,もう1回いきましょう。……。いい?鳴ったら,なりたい形 の筋肉をギュッと引っ張ろう。……最初から形をしないで,もっと色々 一 くタンブリン音「パン」>。
ホラまだ足りないゾ。体中の筋肉全部使っている?ハイ,1歩外へ出てごら
ん,今の形のまんまで1歩,もう1歩。そこまでに1瞬になろうネ」
「ハイ,最後の挑戦!いい?頑張ろう。……。
ホラ,甘いんじゃない?そこの筋肉甘くない?手ギリギリ。切れそうなギリ ギリにしてる?してる? そう,凄く素敵になった!」,
「金塵蛙,.止薮2二皇ゑ壁,、.貝分は何竺髪見三ゑかナー?ということを意識 して止まって下さい。サン,ハイ!」……。
「<粘土細工>いろんな形出来るのヨ。どんな形になるのかナー?ハイくドン>
上見三ゑム蛙・.呈寅璽塁三婁霊三泣血ζ臭ゑ9コ三臭=る人は,ブラジル見る。
ゑゑ血ζ易な翌見な2昆てる?そこまでちゃんとやろう。それでさっきの1
歩が足りないんじゃあないだろうかナア?どう?ギリッギリでお互いの筋肉,競争・競争している?そう,素敵!もう1遍いくヨ」
〈b−2〉「ハイ,もう1遍いきましょう。今度は,体中の筋肉使うことと,止めたと
きに何処見ているかはっきりするのヨ!サン・ハイ!」[クネクネー一一一一一,ヤッ!〈バン>」
「筋肉使って,ホイヤッー一一一,早く!ホイヤッ……。何処見た?見てな
珍g見乙ゑζ三ゑ匁墾z但些ヱ但竺2.そ一う,ハイ!良いでしょう。」〈c−1> 「いい?今度は離しましょう。今は,両手つながれているから苦しいのネ。
何処か1本だけ離してやりましょう。いい?1本だけ離れてるの,……。(各
班,両端の者のみ片手組みの線形隊形でスタート。)片手を離して良いから,さっきよりは自由よネ。何だろう。<糸がからまるみ たいなのかナー>〈もつれた毛糸みたいなのかナー><スパゲッティーみたい
になるのかナー>色々やりましょう。ハイ!……,形考えなくって直ぐ反応
すれば良いの,ホイッ〈パン!>。杢乙、≦具ゑ≧.登注意』左.2注童』な3、さっきの筋肉も使った?言われた ピッ,ピリピリ。そ一う,良い!」
〈c−2>「もう1回いこうね。速くもクネクネ,ゆっくりもクネクネ,色んなくぐり 方,色んなくぐり方。〈バン バン>瞬間止まるの。そう。はい,片脚挙げら れる人は,挙げてごらん。そのまんまで,そのまんまで。」
〈c−3> 「今度は,そうゆうものも入れて下さいネ。ハイいこう,もう1回いこう。」
さん・ハイッ!……。くぐり方,くぐる(2人組の)2人頑張って,移動し
ても良いのヨ。<スパゲッティ>移動しても良いのヨ。……。そう良いのヨ。〈バン バン>。
見るとこ決めた?落ちた,そしたら崩れたまんまで頑張れ!崩れたら崩れた
所で頑張れ!そう,そう良いでしょう」〈d−1>授業開始後12分39秒一18分18秒(5分39秒間):一〈詳記略>
[指導のはこび]・〈グループで動く>:<1人ずつ順番に動く一見る,前の人のどこかに
堀野:教育舞踊における今日的な中心課題について〈その1> 101
タッチして止まる。〉
[動き・イメージヘの指導の要点]:〈空中まで捻じりながら;友達の所へいく道は無 限・.迷路を通って近ずく>
<D>授業開始後18分18秒一23分21秒(5分03秒間):一く詳記略>
[指導のはこび]・〈1人で動く>:〈身体部位を(ex・おヘソも)・脚を捻じる;ジャン
プして捻じる;総括的に続けて動く>
[動き・イメージヘの指導の要点]:〈すばやく回り解く;カクカク捻じる;座っ て;・立って;片脚で・両脚で;座位での形をジャ ンプの中で;静々》に・、速く・空中で;スローモー ションで>〈カリントウのように〉<ねじり飴のよ
うに>
〈E> 授業開始後23分21秒一26分40秒(3分19秒間):一く詳記略>
[指導のはこび]・〈2人組で見せあい>:〈イメージを見つける>
[動き・イメージヘの指導の要点]:生徒から出たイメージ:
〈ボールが跳んだ;ゴムの変形;タカやワシが獲 物を捉えて喜んでいる;飛び魚;鳥が飛ぶ;糸を
巻く;クモの巣に捕まった虫;絡まった糸が風で 解ける;新体操のリボンが回る etc.><F> 授業開始後26分40秒一31分31秒(4分51秒問):一く詳記略>
<a−1>[指導のはこび]・〈音楽の中で,イメージを感じながら,1人で動く>:
く同じイメージの人だけ動く〉
[動き・イメージヘの指導の要点]:指導者の助言イメージ:〔3分20秒間〕
<① ボールーふわっと。
ゴム・ガムーねばっと。
②糸・リボンー軽い,優しい,静か 塗。
③鳥・虫・動物。
④その他。>
〈a−2>[指導のはこび]・〈音楽の中で,皆で,同じイメージで動く>:
[動き・イメージヘの指導の要点]:〈皆リボンになって>〔1分31秒間〕
助言イメージ:
〈①軽く,くるくる,ふわっと捻じる。
足も捻じる。
②風静かに吹きてきた,リボンの動 きまた静かになるヨ。全身リボンヨ。
③もっと静かに風,もっと静かにリ
ボン。
吹いているか吹いてないか分から ないぐらいの風。もっと静かに風。
風もう止まりそうかな?
乙Σゴ量,、』金貝璽霊翌璽.≦見ゑ≧,鍍 処見るの?何処見ているの?
ハイ立って!今日のく捻じる一回る一見る>終わります。
★ 同会場での〈公開授業・中学校の部>終了後の松本コメントより:(2分36秒間)
「山田先生の指導を通して,からだの意識,どのようにからだを目覚めさせていって,
表現の質というものを自分が感じとり,行うことが出来るようになるか,といったよう な運動の質感とからだの筋肉感覚,こういうものを張りつめた形でからだが使えるよう にという一つの切込みがあったという風に思います。また,どのように空問を動いてい くことがダンスか,といったような空間性への多様化といったようなヒントもあり,ま た,全体と個人,仲間と関わりながら個人が拓かれていく方向,仲問を感じながら同時 に表現の存在というものを感じながら自分を拓く活動,また,運動の課題から色んなイ
・メージをもって活動が展開される,そのようなイメージの引出し方,そして,最終的に は,同じ運動課題から,自分自身の色々な概念への即興的な動きがあったという風に思 います。
〔色々年齢が違いまして,題材も違いましたが,〕〈おどり・つくり・みる>そういう全 体的なまるごとの体験をこの(各)30分の時問に展開して下さったという意味では,先 ほどお話しました私達の授業研究の共同の考えであったという風に思います。まるごと の体験をすることによって,時には部分を引き出しながら,まるごとダンス体験を高め て行くことが出来るという風に感じています。
プロフェッショナルな人達が,それぞれ部分の練習をして,部分を積み重ねて,から だを改善していく,プロフェッショナルな人達の練習法が,即,学習の形態ではないと いうことかと思います。
教育体験としては,様々な教育科学的な学習法の研究を進めながら,あくまでもダン
スのまるごと体験を,まるごと自分でぶつかって表現を楽しみ,ダンスを楽しんで行く ことではないか,舞踊の本質的・ダンスの本質的な歓びに触れるということは,そのよ うなまるごと体験ではないか というのが,今日の一つの皆さんへ対する授業形究の提示 ということになります。限られた時間で,少し時問が過ぎましたが,これで終わらせて頂きます。有難うござ いました。
[2]授業考察
〈1>全授業時間(31分31秒問)中,約78.9%(24分52秒問:始業直後のWarm−upより〈2
人組でみせあい>活動の直前まで,および本時最終部の〈皆リボンになって>動く活
動)は,殆ど教師主導型の授業展開による動きの発展・変化,極限的動きの強調およ びそれらの運動要素と対応した教師呈示イメージ題材による生徒のイメージ同化(同調)活動がみられる。
堀野:教育舞踊における今日的な中心課題について〈その1> 103
即ち,生徒にとっては〈踊る>よりはく踊らされる>活動,<自律的なイメージ開発>
よりはく他律的なイメージ同化>の活動を主調とした授業展開といえる。
同様にくつくる〉側面についても,上記の諸活動は,教師主導型の〈他律的に創ら
されイメージ同化させられた>活動が主調といえる。〈2> 同授業は,全授業時間の約3/4以上が教師主導型の導入・展開による,即ち,生徒に とっては他律的な学習経験をヒントに,それ以後の授業展開に於て,最終的には,動 きの多様性と極限性を含む生徒の〈自律的におどり・つくり・みる>活動を期待する 学習形態の一つとして,〈動きからイメージヘ>の生徒の自律的な定着がなされるなら ば,有意なアプローチ法の一つと言える。
しかし,その反面,<運動課題>としての学習経験が,最終的に生徒の自律的なダン ス・イメージの多様化,極限的運動・表現質の拡大化に活用・実現されないならば,
それは単に〈運動創作経験の多様化の経験>,即ち,〈体操>領域での運動創作と同種 または近似の学習経験に止まり,ダンス特有の領域(種目特性であり,かつ教材とし ての主な存在理由であるところの「自分や自分達の心の内に感じ・思い・考えること を自律的に創作した動きを通して外に表現し,内にあっては新たな自己発見をしたり,
自己認識を深めたり,また,外に向かっては他との交流・協力・共感の歓びを共有す ること」〈堀野案>)とはズレた(ボタンの掛け違え的な)活動に終わる(または堕す る)危険性や曖昧さも内包した課題設定スタイルの一つとも言える。
<3〉 同授業の展開過程における具体的活動に(主として筆者がアンターラインを付した 部分を中心に)関連した考察は,以下の通り:
1.極限的動きに関して:(主として筆者がアンダー・ラインを付した部分を中心に)
(1)極限的動きに関する学習(以下「同学習」という)の時問配当は,導入部〈A〉:Warm−up 前半の〈a−1〉一〈a−4〉の両手連手で最大に拡がった輪作りおよび他とのタッチの活 動〔1分32秒問〕,および<C〉:く粘土細工>の〈a−1〉一〈a−4>,<b−1><b−2>の 全員両手連手の変形姿勢でこね上がった粘土のポーズをとる群塊としてのグループ表現 活動〔3分27秒間〕の計4分59秒間,即ち,全授業時間の約15.8%であり,また,教師 主導型の授業時間中の約18.78%を占めており,松本式課題学習法の主要骨子の一つとし て「極限的動き」への学習経験の重視がうかがわれる。
(2)同学習内容の具体的展開とその問題点は,次のように考察される。
①〈A〉:Warm−up内で展開された全員両手連手のまま円形隊形で両腕を「手一杯に,
ギリギリに輪をつくる」の活動(3回)で両手一杯に極大の輪をつくった後,「1人置 いた隣の人にタッチ」の活動(2回)(以下「タッチの活動」という)中で,〈a−3>
の外向き状態で,その上更にタッチの活動は,教師の指示(活動主旨)が不徹底で不 成功に終わった。しかしたとえその指示内容が徹底していたとしても,その活動は,
生徒にとって物理的にも非常に実行困難な不適当なく練習課題〉だと考えられること。
また,もしも実践するとしても,その展開順序は,次の活動<a−4>と入れ替えて 逆の順序にした方が妥当と思われること。即ち,〈a−3>では外向きの輪であったの に対して,<a−4>では内向きの輪での活動であった。元来,人間はその身体構造上,
物理的に極限の動きをする場合は,内向きの輪の状態からの方が,より容易である。
実際授業では,この場合<a−4>ですら,その指導は不徹底・不成功に終わった。
以上の経緯に関する対応策・留意点として,次の2点等が考えられる。
1)直接タッチする活動からよりも,「1人置いた隣の人のタッチしやすい身体部位を 狙って,どちらかの片手か片足先を近づけてみよう」といった〈焦点focalpoint>
や〈接近approaching;nearing>等の活用が,初心の踊り手サイドからみて,より有 効な導入方法の一つと思われること。
2)次いで,「タッチの活動」の場合でも,「どちらかの片足はその位置に固定したま
ま動かさないで,他の足やどちらかの片手を使って1人置いた隣の人にタッチして
みよう」と,固定部位は何か?自由部位は何か?どんなルールで動くか?など活動 方針・方法等を明確に指示する必要があること。即ち,学習者全員が,実践活動に 入るより前に,活動内容を事前理解・予想し,次いでトライし,成就・完了し,そ して満足感や納得を得る〉といった配慮が必要であること。(このようなケースは,幼児のゲーム遊びにおいてしばしば留意・運用される重要な視点の一つである。)
②〈C>・〈a−1・2・3・4>:<粘土細工のようにクネクネと形を変える>の活動 で,4−5人組で,内向き両手連手のままクネクネと捻じる動きの後,タンブリンの
合図でお互い両手連手の変形姿勢のまま,外方へ極限的拡大ポーズ(以下「極大ポー ズ」という)の練習課題に関して,次の諸点を検討・考察した。1)踊り手が「拡大ポーズ」で各部位を捻った変形姿勢を意欲的にトライすればする
ほど,その直後から教師指示で熱心に行われた「もっと拡がれるかな?あと10cm外 ・ヨ等の一層の拡大へ向かっての要求は,困難性増大の無理な注文になり易く,不安定な姿勢状態の如何では,身体的な筋違い・軽度捻挫等の運動傷害も生じ兼ね ない危険性をはらんだ課題であり,また「正直者・頑張り屋ほど苦労する」といっ た反感・反発・学習意欲減退などといったデメリットも招き兼ねない不適当な練習 展開といえること。
2)計4回行われたこの「極大ポーズ」の活動過程は,各VTR場面の極大ポーズを画
面トレースして最終ポーズの大きさを比較した結果からも,踊り手にとって何の予測もなく精一杯懸命に頑張ってみたと思われる第1回目のポーズが最大であり,そ の後の3回の方が何れもやや縮小ポーズで終わっていることは,教師の期待とは逆
方向の反応の現れの一つと思われること。以上の経緯に関する対策・留意点について,次の3点等が考えられる。
1)「両手つなぎのままでは,外へ精一杯拡がるのが難しい人・苦しい姿勢の人は,片 手を離して近くの人の肩でも膝でも頭でもその他何処でもいいからタッチしてみよ う」のように,踊り手に取って自由選択肢の多いフレキシブルな練習課題から入る こと。
2)踊り手にとって〈不安定な拡大姿勢でのポーズ>の活動は,その過程が<a−3〉
〈c−2>でみられるように,く急にパッとポーズ〉の課題よりもその前にくだんだ ん……と次第に大きく,最後は最大のポーズ>のように,〈漸次的拡大ポーズから>
始めるのが技術的にも自然で有効である。と同時に,この「だんだんに……」の展 開法は,単に技術的容易さや身体的安全性の側面以上に,学習者の心の構えについ てゆとりを持って実践し内観し感情移入し易い状況を生み易いというメリットを内 包している点で有為な展開指針の一つといえること。
堀野:教育舞踊における今日的な中心課題について〈その1> 105
3)前項に関する具体的題材例として,<はじめ…,だんだん…に,そして遂に…。>
といったく場面設定>はよく用いられるグッド・アイディアの一つといえる。即ち,:
〈パンこね一パン焼き〉〈あめ細工〉〈マグマ〉〈結氷一氷塊一氷山>〈ゴム風船に入っ て行く空気〉等はその例である。
③<極限的動き>とは,本来は,身体の外方への極大的拡大と共に,内方への極小的縮 小もあること。この視点からく粘土細工〉の表現質感と動きとの関連性を顧みると,
このテーマは,〈捻じる>動きには関連しても,何らかの極限状況的な場面設定がない 限り,本来的には,外方拡大的なイメージは持たないこと,それよりもむしろ群塊と いう立体的形態cubicshape感覚からは,例えば,下肢のゼスチャー1eggestureや全身 の極小的収縮minimum contractionの活用も有意な視点の一つと思われる。
④以上の諸点を考慮すれば,〈C>:〈a−1>中の「それが皆がやりたかった形なんだ ヨ。」の発言は,教師としてやらせたかったものには間違いないが,事前に心の準備も なく,「たとえ苦しい動きではあってもそれを越えて,私達はこんな粘土の塊を,私達 が工夫したこんな動きや形で,こんなに表現しているんダ!」といった確からしさ・
歓び・使命感もなく,突如性急に,イメージ的親和性にも乏しい状況下で,只ひたす ら,「もっと大きく,あと1歩外へ,……」の指導助言が不適当な失言であることは明 かといえる。
(3)同学習法の学習成果(評価)は,次の手順で行った。
① 前項の学習経験が,前述〈2>の視点から,運動課題が単に運動的パリエーションの 経験だけに終わることなく,ダンス表現としてのイメージ化の中で充分に活用された か否かが運動課題設定の中核的な意義の一つとして問われる。
同授業の場合,その検証は,生徒の自律的活動が主流として展開された<E〉・〈イ メージを見つけ,2人組で見せ合う>活動〔3分19秒〕および<F>・〈イメージを感じ ながら,1人で動く〉活動〔3分20秒〕を.中心に,更に本時の課題の総括的なまとめ として教師主導的に集約された〈F〉・<a−2>:〈皆リボンになって,1人で動く>
活動〔1分31秒〕観察から判断するのが妥当と思われる。
今回は,同授業記録のVTRテープを6名の評定者(高校教師2名,大学教師2名,
体育専攻学生2名)に対して,
「これからVTRによる中学3年女子生徒の公開授業時の活動の一部をご覧頂きます。
生徒達の動きの中に極限的な動き,もうこれ以上は動けない,精一杯の・極限的な 感じがする動きが,有るか否か?に注意してご覧下さい。」
との問いかけの下に,複数による主観的観察・分析を実施し,次の諸点を得た。
②極限的運動質(物理的に極大の動き)としては,6人全員「皆無」(0/6)と判断した。
③ 極限的表現質としては,<E〉:<F〉・〈a−1〉のく生徒の自律的活動が主体の場面>
のみに関して,評定者6人中2人が生徒20人中1−3人の踊り手の動きの一部に極限
的な感じがしたと回答した。その質感・判断の理由・その他の意見は,次の通りである。1)「物理的には,極限的な感じの動きは全然観られなかったが,この踊り手の動きと してはこの感じの腕の曲げ方や伸ばし方が一番マッチしていると感じた」とか,「上
体や胸のそらし具合いがこの子にとっては,これ以外にないと感じた」とかの〈究
極的で適切な動き>だと感じた」(2/6)。2)「〈回り跳ぶ>〈動きの技術的な難しさ>・これ以上はその様には跳べない動きと感 じた」(1/6)の2面であった。
3).また,それと同時に,これらの判定者の何れもが,「これらの感じを与えた動き は,本時の指導や学習経験の結果の反映というよりも,各踊り手が内包している〈資 質そのものによる>と思われる」との意見や,「これがく公開授業の場だから>,積 極的に,活発に…」「この生徒達は,〈元々よく動ける人達>をピック・アップした のでは…」そして,「現実の普段の授業だと,ダンス不得手・嫌い・無関心の生徒も 必ず混在しているので,そんな生徒達も含めてクラス全体のムードを少しでも熱く するのに,そのこと自体に,ひと苦労もふた苦労もしている」といった述懐や経験 談等もあった。
④以上の諸点より,教師主導型授業時間の約1/5近く(18.78%)を占めて重点目標の 一つとして展開された〈先生リードの活動では,可成り活発な極限的動きが行われた>
が,それらの学習経験を経た後で展開された〈生徒の自律的活動では,殆ど極限的動 き学習のイメージ化への活用・反映はなされなかった。即ち,その成果は定着しなかっ た>といえる。
この判断は,前項③:1):2)で,たとえ評定者6人全員が1)・2)に記載の視点
や理由で,その踊り手達に対して極限的な動きの感じを受けたと仮定しても,それら の生徒数は最大でも3/20(15%)に過ぎない。ちなみに,幼児に適した運動遊びか否 かの判定基準として,子供達の成就率70%が一応の目安とする案があるが,その数値 的な当否は別として,少なくとも50%以上の成就率や成果がなければ,一般教育の場 で採り上げる課題としては不適な手法と言える。以上,《1.極限的動きに関して》その中心課題を小括すると,次の通りである。
松本は,同公開授業開始前のコメント内で「ただ今,(運動課題)学習では,とりわけ一 つの極限の動きに向かって,子供が踊ることによって,自らイメージが湧いてくる(とい う)極限の方向と……」として,もう一方の〈多様化の方向>と共にこれらを松本式課題 学習法では二大原則の一つとして位置づけ,運動課題での極限的動きの学習が,生徒の自 律的イメージ表現の質を内観・感受・習熟させる上で,必須条件(必ず必要な条件)の一 つであるかのように重視3)している。そして,その模範的指導例の一つとして同公開授業が 行われたと思われる。そして,上記の結果は,その必須的重視を否定するものである。即 ち,本論の研究目的[III]への回答は,「極限的動き・表現質に関する学習課題(今回の授 業展開でみられた,物理的な外方拡大の動きと解する限りで)は,毎時常に必ず必要とは いえないこと」が帰納される。しかし,この結論への反論として,「極限的動きの学習・経 験の効用は,1時問完結的な短絡的な狭い視野の範囲で決着を着けるべき要素・原理では ない。もっと長時問・長期継続的にそれと関連・類似した課題の反復・習熟を経てこそ定 着を図る(期待する)べきものの一つである。また,本時内でも,学習活動の活性化(動 きのメリハリ感覚の覚醒や活動的ムードの醸成等)において充分効用がある。」との意見が 予想される。筆者自身もこの意見・主旨には,条件付きで賛成である。
しかし同時に,この反論としての意見は,従来とも他の各ダンス指導法やダンス・シス テムにおいても,レ既に充分採用され,行われていることであり,松本式課題学習法で,敢
堀野:教育舞踊における今日的な中心課題について〈その1> 107
えて運動課題として「ひと流れの動きの連続・反復」の中に,〈極限的動き学習>を設定 し,かつ「〈おどり・つくり・みる>まるごと体験」を毎時間とも必ず実施し,ダンスの本 質的中核に触れようとするのが,課題設定理由の骨子であり,「極限の動きに向かって踊る
ことにより,自らイメージが湧いてくる」との意図に従って跳めれば,やはり本時そのも のの中にもその学習成果がイメージ化の定着としてみられるか(極限的動きがあるか)否 かが問われることになる。
従って,同授業の展開内での〈極限的動き学習は何のために行ったのか?それは果して 展開として適当であったのか?>が問われ,筆者の判断としては,前述の諸点から,
①本時内での学習効果という視点からは,それは不十分かつ不適当な局面が多かったこと。
②特に,各地各校で悩み注目している事項の一つとして,「先生リードによる運動創作の 段階では,それなりに活発なムードと成果がみられるが,その次にイメージ化へという段 階に至ると途端に停滞し不活発となり,今までの学習努力が活かされないで,先生・生徒 とも悩み苦しんでいるが,どうしたら……?」の疑問や期待に,そのお手本授業の模範例 として応えてこそ,舞踊運動課題学習法を単なる<一面的な感じの運動>ではなく,<多面 的な感性を含んだ舞踊>として設定する意義・重要性が証明されると考えること。
③そしてまた,その感性的なふくらみが課題として増せば増すほど,それは45分前後の授 業時間内に納めて内観・感受し,その上,習熟することやイメージ化することの何れの一 つ取ってみても言うは易く実践・実現は困難なこと。その上更に,1時問完結型を基本べ一 スとする際は,単純レベルでの課題は別として,むしろ1時問完結志向では盛り込み難い テーマや,〈まるごと体験〉を必ず実施しなければならないとしたら,そのテーマの本質や主 旨に触れ,理解することすら,短時問分断では不可能に近いテーマの方がむしろ一般的に なってくると思われること。(なお,極限的な動きに関する他の視点からの検討や総括は次
回に譲る。)
また,〈まるごと体験の「体験」の質とは何か?>も問題となる。松本は,「<おどり〉と は,簡単にいうと,<イメージを内包した運動〉である。それはまた,リズミカルなある感 じのこもった運動であり,生命的なひと流れの動きの反復による躍動感が感じられる非日 常的な,単なる運動以上の表現質を持った動きの世界」との意を述べている。松本は,「〈お どり・つくり・みる>の3側面は,密接不離のダンスの本質そのものである故に,毎時と も常にまるごと展開・まるごと体験が必要である。そしてまた,それぞれの局面自体がくお どり・つくり・みる>の全体験を含んでいるとみられる」との意を述べている。そして〈お どる>局面の引例として,〈盆踊りの踊り手>の例と〈同大会中学校部会の授業実践〉の例 とに触れての解説があったが,後者の例に関しては現時点では具体的な客観資料が得られ ないので,そしてまた本論の事例と類似のケースであり,かつ前述のように本論のケース が模範的公開授業例として適例と思われるので,ここでは,盆踊りの踊り手に関する解説 についての筆者の見解を述べることにする。即ち,松本は,「伝承的な型を持つ盆踊りにお いても,踊る行為としてみる時は,リズムにのり,歌意を楽しみ,個々にくふうして味を 出し,互いに感じあい,見る,即ち,踊り・つくり・見るダンスの本質を不可分なものと して潜在させていることに気付くだろう。」2)と述べている。この際〈踊り,観る〉側面は,
内観・鑑賞を含めて当然のこととして,ここでは触れない。この際の〈創る〉に関して先 の引用文の直前には「……より格好よく踊りたいと手振り足どりを内観し,自分の味わい
を求めて稽古し,他人の上手下手も見分けつつ踊る。……」2》として,〈自分の味わいを求め て,……踊る>活動を〈創る>と同一視している。また,同会場での解説の中では,阿波 踊りにおける各連の踊りの振りの工夫部分や即興的な踊り部分にも付言している。それら
に対する筆者の観察は,以下の通りである。①盆踊りで,自分の味わいを求めて踊るこ
とは,その〈表現を高める表現活動であって,創作活動ではない>こと。それは,古典バ レエのバレリーナと振付け家が別人物の場合と同様である。即ち,その際,バレリーナは 彼女が如何に与えられた振りの中で役づくりに腐心し,自分の持ち味にマッチするように 創意工夫し,そのテクニックを芸術的な高みにまでトレーニングし,磨き上げたとしても,それが演じられた際の評価は「彼女の表現力の素晴らしさは……;彼女の演じた神技とも 言える表現性は……」というのが通常例であり,「このバレリーナの創作力は……」とは言
わないのが,常識である。②後者の阿波踊りの連の振付けの工夫や即興的な振りは,南
方渡来説もあるように,音楽的リズムや掛け声での即興部分も多い,創作活動も多分に含 まれた表現活動として,伝承的な日本民踊には稀な踊りとして有名である。ただし,民踊における典型例でないことにも留意したい。③何よりも先ず留意すべき事項は,松本氏
の論考の焦点も筆者の論点も共に学校教育の場でのより豊かなダンス授業展開を求めての 理念と方法の追究にあるという点であろう。その視点で,盆踊りへ参加する一般人または 専門家としての踊り手と学校でのダンス授業時の生徒とでは,各々の置かれたグルンテ(背 景;立地条件)が異なることである。多くの相違点が考えられるが,本論の主旨との関連 でその一部を抽出列記すると,前者は,参加動機に於て本人が自発的にやりたいと自由志 向する分野のみに向かっての自主・自律的な参加であり,そのやりたいダンスの技術的高 さや持ち昧等を予測した上での参加が一般的である。もしも参加後,その予測・期待が外 れた場合は,直ちに参加放棄ができ,上手に踊りたいと欲すれば,原則的には,長時間の 活動や長期永続的な活動が可能な同好的・同志的な集団成員であることである。これは,一般の芸術的舞踊集団や娯楽的舞踊集団に共通するダンス・グルンデである。それに比し て,ダンス授業時の生徒は,50分という短時問・断続型のダンス活動とか,学校という6 年間毎や3年間毎にメンバー・チェンジする短期的・有限的な時間制約の多い集団の成員 であり,また,ダンス不得手・嫌い・無関心な成員も常に内包した集団も含めて,技術的・
時間的・意欲的にも制約的な状況にあること。④盆踊りの踊り手は,くより上手に踊ろう>
と試みるより以前に,即ち,事前にその活動の全体的な流れやキー・ポイント(集中点・
注意点は何か?等)を既に承知していることである。このような状況設定は,ダンス授業
の展開の前提条件としても重要な示唆を含んでいること。⑤それに対して,本論の事例
では,本時のイメージ化への事前情報もなく,たとえ耳では「……のように」とイメージ 的なヒントは聞いていても,生徒自身の自分の眼・自分の心で提起された運動課題やその 表現質について,じっくり受け止め,自律的・自主的に自分達のものとして造り上げよう とする心のゆとりも時間的な余裕も殆どないままに,次々と踊らされというよりは動かさ れ,即興的な工夫や表現を迫られた後に,「今までの経験をヒントに,さあイメージ化して ごらん」と要求しても,生徒にとっては,ほとほと困惑するか,あるいは自分なりの日頃 身につけた動き・調子でうるさく言われない先に動いてみるかといった実りない結果にもなりかねない展開・経緯であったと,筆者には思われたこと。⑥これらのデメリット現
象(前項の筆者の観察が,筆者の読み違いであれば幸いであるが……)の打開の第一歩は,堀野=教育舞踊における今日的な中心課題についてくその1> 109
生徒自身の感性に「初めイメージありき」ということ。これに向かっての有効でかつ簡単 な事前設定の一つは,前時の内に「次回のテーマとその要点予告をすること」を必ず実行 することであろう。
V おわりに
本論では,標記の主題に関して,紙数の制約もあり,「毎時の課題とも極限的な動き・表 現質の活動は常に必要か?」を中心に授業分析法による一部の検討・考察を行った。しか し,未だ,本主題に関しても「研究目的 II」の中で予定として挙げたような多くの問題 点へのアプローチが残っており,今後も継続して検討して行きたい。
最後に,筆者自身が教育舞踊をどの様に捉え,その実現・実践に向かって,どの様に展 開したいか,その要旨を披渥し,今後の検討の原点としたい。これについても併せて諸賢 のご批判・ご指導もお願いしたい。
★ 教育舞踊の目的と実践的理念について
筆者の規定する《教育舞踊の目的》は,「身体活動を通しての美的創造的教育(美的・
創作的・表現的教育)による全人的な人間形成に資すること」である。
そして,この目的実現・実践に向かっての児童・生徒への期待,即ち,《教育舞踊の実 践的理念》は,①第一に,「初めイメージありき」で,何よりも先ず〈児童・生徒のファー スト・イメージ>(最初に描いた一捉えた;触れた;ボンヤリと感じた等のイメージ)を 大切にすること。次に,それを〈1つか2つ,ポーズや短い動きでトライ>してみる(も しも,1この段階で未だ自分のポーズや動きがでない者は,近くの友達のイメージやアイ ディアを聞いた上で,そのポーズや動き模倣する)一このように自分や自分達の描いた イメージやアイディアを出発点(原点)として,次の段階からは,本時の課題としての 「イメージからの発展課題」や「動きからの発展課題」に従って,より適切な・効果的 なイメージと動きの接点の発見・多様化に向かって〈試行錯誤〉する,次に,〈中間発表〉
(途中の見せ合・話合い一主として本時のねらいと各動きへの接点・定着への助言)を する,次に,〈創り込み〉,次いで,く見せ合・感想と反省・評価〉そして〈次回の課題予 定>を確認すること。②次いで,継承的(既成技術)表現活動5)を児童・生徒が実現可 能な範囲(質的・量的レベル)において拡げ深める。③〈創り踊る・観る・踊り込む・
観る・そして次回は>6)の各過程を通して「虚実被膜の世界」での心身両面にわたる自己発 揮に挑戦し,新たな自己発見・他との相互交流を自覚・共感し,集団的協力による克服・
完成の歓びを共有し,その楽しさ(他との一体感・連帯感)を体験すること 等である。
参考文献
1)松本千代栄,「おどり・つくり・みる」女子体育,女子体育連盟,29−3,1987.pp.8−9.
2)松本千代栄,「おどり・つくり・みる」女子体育,女子体育連盟,29−3,1987.p.8.
3)松本千代栄,「舞踊課題と課題解決学習」女子体育,女子体育連盟,24−3,1982.p.8.
4)松本千代栄,「おどり・つくり・みる」女子体育,女子体育連盟,29−3,1987.p.11.
5)堀野三郎,「ダンス指導の根底は何か」体育科教育,大修館,27−7,1979.p.16.
6)堀野三郎,「研究協議:高校の部〈ダンス>への指導助言〉」女子体育,女子体育連盟,29−3,1987.
P。36.
表1 課題学習一運動課題〈捻じる一回る一見る〉
・・ の開発を主体とした指導 指導 山田 敦子(高知大学)指導のはこび
○ダンス・ウォーミング・アップ ・先生と一緒に
皆で両手をつないで輪になって 動く
・ひとりで自由に動く,止まる ・皆の中に出なかった動きを揃って 動く
○学習内容の確認
○グループで動く
・両手をつないで,いろいろな形を つくる
・止まった時 見る を意識する ・片手をつないで,移動しながら皆 で,同時に
・1人ずつ順番に動く一見る,前の 人のどこかにタッチして止まる Ol人で動く
・身体の部分をねじる
・脚をねじる
・ジャンプしてねじる
・今までみつけた動きを続けて動く
02人組でみせあい ・イメージをみつける一
〇音楽の中で,イメージを感じながら,
1人で動く
・同じイメージの人だけ動く
・皆で,同じイメージで動く
指導の要点(指導言語で記述)
身体・運動への言葉かけ イメージヘの言葉かけ
・円を大きく一小さく i スキツプで : ゆっくり一速く i 手がちぎれるぐらい :
・まっすぐ立つ一そのまま歩:
く 踵をあげて座る
●〈捻じる』回る一見る>i
いろいろな動き,気持よく1・動きながらイメージをみつ
つなぐ iける
・タンブリンの合図で止まる,1・粘土細工のようにクネクネ どんな状態でも i 形をかえる
遜子惚募嬬手をi
・あと10cm, 1cm出る :
・筋肉をピッとひっぱる i
・身体中の筋肉を使って i
i・宇宙の彼方を見る
・いろいろなくぐり方 i・ブラジルが見えた?
・片脚をあげて止まる i・糸がからまった
・すごく早く i・スパゲティのように
・空中までねじりながら i・友達の所へ行く道は無限 i・迷路を通って近づく
・おヘソもねじった? :
・すばやく回りながら解く i
:鶏響垂立してもi.カリントウ,ねじりあめの
:撫灘つてiように
・静かに,速く,空中でも i
・くりかえす :
・スローモーションで i・ゆっくりするとどんな感 : じ?
(灘蓼:織繍馨耀)
i.ねばった〈捻じる_回る i 一見る>…ゴム,ガム 1・軽い,やさしい,静かな