知的障害特別支援学校小学部における電子黒板を活用した授業の実践 ―動物園を題材とした国語の授業を通して― 大阪教育大学附属特別支援学校教諭 長澤 洋信 [email protected] 1.実践のねらい 本校小学部では、国語の授業において、習熟度別または課題別の集団を編成し、児童の 実態に応じた学習活動を展開している。本実践は、国語の学習活動に対して編成された4 グループのうち、もっとも基礎的な課題をねらいとしたグループの電子黒板を活用した指 導の一事例である。 電子黒板は、視覚情報を拡大して提示する拡大機能、PC を経由せずに直接操作できる タッチ機能があり、これらの機能は特別支援教育の指導においても有用であると考えられ るが、実践事例はあまりみられない。特に、「教師の話を聞いたり、絵本などを読んでもら ったりする」こと、「教師と一緒に絵本などを楽しむ」こと、「いろいろな筆記用具を使っ て書くことに親しむ」こと等、国語の基礎的内容を学習課題とした児童への指導において、 電子黒板を活用した指導例は見当たらない。しかし、マウスやキーボード等の機器を通さ ず直接操作できる電子黒板は、より直感的・直接的であり、本グループの児童に対しても 有効な教材であると考えた。 本実践では、具体的操作や人とのやりとりを通してことばの世界を広げる段階の児童に 対して、どのような電子黒板の活用方法があるか、実践内容からその成果と課題を整理し たい。 2.実践の内容 (1)対象児童の実態 本グループは1~4年生までの児童5名で構成されおり、3名の教師が指導している。 新版 S-M 社会生活能力検査における社会生活年齢の値(SA)は、1歳2ヶ月から2歳3 ヶ月までであり、目線や表情で意思を伝えられる児童や、ジェスチャーや動作で意思を伝 えられる児童、単語で意思を伝えられる児童など、児童の実態は多様である。 児童によって実態に差はみられるが、特別支援学校学習指導要領小学部国語の目標「日 常生活に必要な国語を理解し、伝え合う力を養うとともに、それらを表現する能力と態度 を育てる」ことの観点で考えると、いずれの児童においても、国語の学習の基礎段階にあ ると考えている。特に1年生児童3名は、集団での学習経験が浅く、学習活動に取り組む 基礎として、基本的な学習態度や国語への興味関心を養う段階にある。これらの実態から、 身のまわりにあるものの名前や、あいさつ・要求などの日常的なことばの獲得を、年間を 通じて学習する課題として設定し、継続的に取り組むことにした。 なお、電子黒板の操作に関わる手指機能に注目すると、日ごろから家庭でスマートフォ ンを操作している児童1名を除いて、人差し指または手全体でタッチすることが学習課題 となっている。人差し指でのタッチ操作についても、爪でノックするようにタッチする児 童や、上から下へスクロールするようにタッチする児童など、正確な操作が難しい児童が 多い。
(2)学習活動の概要 1月 16 日から全 14 回の単元として、「どうぶつえん にいこう」をテーマに、動物の動作や鳴き声の模倣、簡 単なやりとりのことばを学習内容とした国語の指導を設 定した。1・2学期では、児童が注目しやすいように大 型絵本等の教材を使用してきたが、より興味関心をもっ て学習活動に取り組めるように、タッチで反応する設定 が可能な電子黒板を使用することにした。絵本とは違い、 電子黒板には動作設定や音を自由に変更できる利点があ るので、児童の興味関心に合わせて授業ごとに工夫を重 ねてきた。 学習活動は、「はじめのあいさつ・出席調べ」「どうぶ つえんにいこう」「個別学習」で構成されている。「はじ めのあいさつ・出席調べ」は、授業のはじまりを意識す る場面であり、グループの友だちや教師を意識できる場 面になる。3学期は、「聞く」ことの課題を重視し て、保護者が児童の名前を呼ぶ音声を録音し、そ の音声を聞いて、「返事する」「画面にある自分の 顔をタッチする」「あいさつをする」といった活動 (写真1)に取り組んでいる。また、出席調べの 中で電子黒板に学習スケジュール(写真2)を提 示し、活動への期待と見通しが持てるように取り 組んでいる。 主題材となる「どうぶつえんにいこう」(写真3) では、①児童らがバスに乗り込み動物園に移動す る場面、②画面の動物園で動物にタッチ(写真4)したり、 模倣遊びをしたりする場面、③あいさつをして動物園から帰 る場面で構成されている。①および③の場面では、アニメー ションを加えた電子黒板の映像と教師の読み聞かせを中心に 指導が展開される。 ②の場面では、動物園と動物のイラストに対して、「指示さ れた動物を探してタッチする」「音声に合わせて名前や鳴き声 を模倣する」「指示を聞いて、口や足など身体の部位をタッチ する」「足やしっぽなどの部位を見て、正しい動物を選ぶ」な どの課題に、一人ずつ取り組む。着席して活動を見ている児 童についても、電子黒板をみながら模倣活動ができるように 指導する。 「個別学習」は、書字を含め、個々の児童の学習課題を個別に設定し取り組む学習活動 である。「どうぶつえんにいこう」で学んだ内容を、選択課題やなぞり書き課題などの個別 に設定された課題の中で、補充的または拡充的に学習できるように指導する。 写真1 写真2 写真3 写真4
いずれの活動においても、児童の興味関心、学習課題、操作や動作における課題等を考 慮して、教材の設定や提示の仕方を工夫し、取り組んでいる。また、興味関心をもつこと が重要な学習活動であるため、選択や模倣に課題を設定しながら、学習を楽しむこと、繰 り返しの中で自らはたらきかける喜びを知ることを重視して指導している。 (3)電子黒板の活用について 学習活動での教材の提示は、電子黒板を中心におこ ない、必要に応じて A4サイズにプリントしたイラス トカード等を個別に提示(写真5)した。また、 PowerPoint のアニメーション機能を使って、タッチ での回答に対して丸印を提示(写真1)したり、タッ チでバスが移動したりと、児童が興味関心をもって画 面を見ることができるように設定を工夫した。 その他、保護者が児童の名前を呼ぶ声を録音・録画 し、その声を聞き比べる課題に取り組んだり、保護者が「いってらっしゃい」と言う様子 を録画したものをみて、「いってきます」と答える課題に取り組んだりと、必要に応じて録 音・録画機能を活用した。 いずれの活用についても、PC および PowerPoint を中心とした ICT の有効活用の一例 に過ぎないが、電子黒板を用いた場合、児童に見える形で操作や指導ができると同時に、 児童も主体的に操作することができる。爪でノックするようにタッチする児童や、上から 下へスクロールするようにタッチする児童など、電子黒板の操作に必要なスキルが整って いないグループではあるが、自ら働きかけることによって画面が変化する経験は、児童の 主体的な活動を促す上で有効であると考え、取り組みを進めた。 3.成果と今後の課題 (1)成果 ○児童の興味関心を育む授業づくり 1・2学期の大型絵本の読み聞かせと比べて、児童が注目して教材を見ることが増えた。 特に、タッチで丸印があらわれたりバスが移動したりするアニメーション設定をすること で、児童が自ら操作しようとする様子が多くみられた。本グループの児童は、課題への集 中が欠けてしまうことがよくみられるが、メリハリのあることばかけとアニメーション設 定によって、より児童の興味関心を育む授業づくりができたと考えている。 また、実際の動物の鳴き声や動きを音声や動画で示すことで、集中して見聞きし、模倣 しようとする様子もみられた。絵本にはない本物性のある教示をすることで、興味関心を 育むと同時に、より意欲的な模倣活動を促すことができたと考えている。 ○児童の主体的な操作と学習 複雑な操作ではなく、タッチでアニメーションが動作する設定ができるため、児童の主 体的な操作が増えた。活動に慣れてくると、他の部分をタッチすると何が始まるのか、試 行錯誤する児童がみられるようになった。国語への興味関心を育むためには、「なぜ?」「な に?」「もっと」といった主体的な探求ができる学習環境は重要になる。今回の実践を経て、 電子黒板の視覚的情報の豊富さと操作の簡便性・直感性は、主体的な探求心を育む上で有 写真5
用であったと考えている。 ○ICT を活用した学習活動の経験 近年、スマートフォンやタブレット端末など、操作を簡易にした ICT が普及し、生活支 援としての側面だけでなく、学習機器としての側面も注目されるようになった。この電子 黒板を活用した指導を通して、児童にとっては、タッピングやスクロールといった操作を 経験する機会にもなった。電子黒板での学習経験は、将来的な ICT の活用を可能とする操 作スキルを習得することにもつながると考えている。 (2)今後の課題 ○パネル操作に必要なスキル タッピング等の操作を経験できた一方、実際の学習場面では、タップしようとしてスク ロールしてしまう、爪でタッチするため反応しない、手全体でタッチするため反応しない 等、学習活動を展開する上で、不都合や誤作動がたびたび生じた。電子黒板を活用した指 導においては、対象の児童のパネル操作に必要なスキルの状況を把握し、必要に応じて電 子黒板の設定を変更するなどの配慮が必要になる。また、パネル操作に必要なスキルを獲 得するために、タブレット端末等で繰り返し取り組むことも必要になると考えている。 一方、これらのスキルを ICT のためのスキルとして考えるのではなく、手のひらや指先 を自由に使う手指機能としてとらえ直すことも重要になると考えている。ICT 活用に必要 なスキルを生活に必要な手指機能の一部としてとらえることで、より様々な生活場面で、 パネル操作に必要なスキルを習得することが可能になる。本グループの児童で考えると、 手指機能の基礎を養うねらいで、砂あそびや粘土あそび等の主体的な造形活動の経験を、 十分に保障することも必要ではないかと考えている。 ○学習内容を日常生活に関連づけるための指導支援 本実践は、電子黒板での教示を中心に指導を展開してきたが、くらしに生きた学習にす るために、学んだことばやあいさつを日常生活に関連づける指導が必要になる。児童の興 味関心に合わせて教材の工夫を重ねると、電子黒板への依存度が高くなり、児童の画面へ の集中は高まるものの、画面の中でのみ学習が完結してしまうおそれがある。 知的に障害のある児童への指導であるからこそ、日常生活に関連づける指導を意識し、電 子黒板から実際のやりとりや日常生活につながる取り組みを進める必要があると考えてい る。今回のような動物が題材の学習であれば、牧場・動物園・ペットショップ等で動物を 間近に見る・触るような実体験を関連づけ取り組むことで、よりいっそうことばの世界に 興味関心をもつことができよう。他の学習活動との関連性を明らかにすることで、電子黒 板を含む ICT の教材としての価値も、明確になると考えている。 ○他の ICT と関連づけた学習活動 上述したように、近年普及してきたスマートフォンやタブレット端末と電子黒板は、操 作方法で類似する点が多く、関連づけて指導することが可能であると考えている。電子黒 板を集団での学習で活用し、その経験と獲得したスキルを、スマートフォンやタブレット 端末の活用に関連づける取り組みも検討していきたい。 4.おわりに 本実践では、電子黒板を活用した指導の一事例を示してきたが、デジタル情報だけでな
く、イラストカードや教師の模倣モデルなど、アナログ的な教示を加えることで、人との やりとりを含む学習活動にすることができた。ICT の普及に伴い、その活用方法が注目さ れることは当然だが、くらしに生きる力を考える上で、人を介したアナログ的な活動との バランスを保って、指導支援することが重要になると考えている。ICT を学習ツールのひ とつとしてとらえ、ことばへの興味関心を育むために、より効果的な指導方法のあり方を 今後も検討していきたい。