年ゴール型ゲーム「タグラグビー」を事例に
Author(s) 石崎, 寿和; 橋本, 忠和; 小松, 一保
Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 72(1): 613‑628
Issue Date 2021‑08
URL http://s‑ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/12065
Rights
チーム学習による小学校体育科の授業づくりについての一考察
―第3学年ゴール型ゲーム「タグラグビー」を事例に―
石崎 寿和・橋本 忠和*・小松 一保*
北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻
*北海道教育大学函館校授業開発研究室
DevelopingElementarySchoolPhysicalEducationClasses throughTeamLearning
―ACaseStudyofThirdGradeGoal-TypeGame“TagRugby”―
ISHIZAKIToshikazu,HASHIMOTOTadakazu*andKOMATUKazuyasu*
DepartmentofAdvancedTeachingPractice,GraduateSchoolofEducation,HokkaidoUniversityofEducation
*DepartmentofEducation,HakodateCampus,HokkaidoUniversityofEducation
概 要
今日の体育科では運動する子としない子の二極化が懸念され,その改善する手立てとして,
他者と創意工夫しながら課題解決に挑んでいく学びの必要性が指摘されている。そこで本研究 では運動の特性の習得に触れながらも,子供の人間関係を大切にした協働的で創造的な学びを 形成してくことが重要と考え「チーム学習」に着目した。そして,それを軸とした授業展開を マイケル・A・ウエストの「探究・思考・選択・実行」の「4段階のプロセス」を活用して構 想すると共に,その事例を氏の「チーム機能の4タイプ」の分類を活用して分析することで学 習の成果・課題を抽出・考察することを試みた。その結果,「チーム学習」を軸にした授業を 展開することで,単元目標達成に有効に機能すると共にチームの協働性が活性化され,さらに 教科の目標達成と人間関係の正の関係性を見出すことができた。
1 はじめに
平成28年度版の小学校学習指導要領(平成29年 告示)解説体育編(以後,解説と表記)では,3・
4年生の目標の「学びに向かう力,人間性等」に
関する記述で下記のように体育科における人間関 係の位置付けを示す一文がある。
「運動をする際の良好な人間関係が運動の楽しさ や喜びに大きな影響を与えることや,友達と共 に進んで意思決定に関わることが,運動やスポー
ツの意義や価値等を知ることにつながる。」1)
したがって,体育科における活動は,身体の発 達やその機能の維持,体力の向上などの効果や自 信の獲得等の心理的効果及びルールやマナーの合 意・活用を通して周囲との人間関係を築いたりす るなどの社会性を高める効果,運動やスポーツの 意義や価値等を知ることにつながると思われる。
この体育科が重視する人間関係による学びの機 会を工夫した授業づくりに関して,筆者も従前か ら北海道教育大学附属函館小学校での体育科の運 動領域において,その教育的価値を実践的に研究 してきた。そこでは,「グループ学習」に着目し,
グループ(チーム)による活動で協働的に多様な アイディアを出し合いながら問題解決を図るプロ セスの様相と教育的効果を観察・検証してきた。
すると,子供たちはルールや練習の場を自分たち で決めたり,互いの動きを評価し合ったりするこ とで魅力的な動きを獲得するとともに,相互理解 を深める場面を見受けられた。反面,グループ活 動等を設定するだけでは,勝ち負けを優先するあ まり人間関係がぎくしゃくしてしまい,活動に消 極的な児童が生まれる場合もあった。
この課題について解説では,上記のような授業 実践を行うことによる弊害として,「運動をする 子供とそうでない子供の二極化傾向が見られ る」2)と示している。また,解説ではその解決法 として,「様々な人々と協働し自らの生き方を育 んでいく」3)ことの重要性を示していることか ら,本研究においても,運動の特性の習得に触れ ながらも,他者と協働し,創意工夫しながら課題 解決に挑んでいく学びを形成していくことが重要 であると考えた。
そこで本研究では,その学びが具現化した形と して「チーム学習」に着目し,それを軸とした授 業展開をマイケル・A・ウエストの「探究・思 考・選択・実行」の問題解決の4段階のプロセス を活用して構想を示すと共に,A・ウエストの
「チーム機能の極端な4タイプ(弾力的なチーム・
自己満足のチーム・機能不全のチーム・駆り立て られたチーム)」4)を活用して,北海道教育大学 附属函館小学校3年生児童の振り返りシートや学
習のプロセス等を分析することで学習の成果・課 題を考察することを目的としている。
2 体育科でチーム学習を行う価値
この章では,まず体育科とチーム学習との接点 を学習活動に位置づける価値を見出すために,西 之園晴夫らのチーム学習の理論やA・ウエストの 文献を参照に,抽出,整理する。その上で,体育 科におけるその位置づけについて,平成28年中央 教育審議会答申(以後,平成28年答申と表記)及 び体育科に関連する学習形態論や学習集団論から チーム学習の価値及び効果を明らかにする。
2-1 チーム学習の定義する内容とは
まず,先行研究や関連文献からチーム学習の定 義に関連する文章を抽出したものが表1である。
以上のチーム学習の定義に関する文面を概観す ると,この定義が一文で簡潔に説明できないこと
表1 本研究で参照するチーム学習の定義一覧 チーム学習の定義
西之園 晴夫
お互いに協力しながら知識を創造す ること5)。協調学習
長尾尚 ほか
学習者の協調自律性を導き出す学習6)
江見圭司 小林信三
スポーツの集団競技のチームで成果 を上げるための学びである7)。協調学習 木村裕斗 チーム内で疑問を提示し,フィード バックを求め,新しい試みをし,結果 について議論するといった,チームメ ンバーの相互作用によってパフォーマ ンスに変化を起こす一連のプロセスで ある8)。創造的チーム学習
梅垣明美 大友智 ほか
①体育授業で組織する小集団をスポー ツチームとして位置付ける。
②チームとは何かという原理に関する 知識及びチームワークを高める方法 という手続きに関する知識を提供し 構造的に理解させる。
③異質な他者との相互作用により提供 した知識を生徒に十分理解させる。
という学習を通してチームづくりに取 り組ませる教授方略。
チームビルディング学習9)
が明らかで,その明確な定義化はされていないよ うに思える。しかし,上記の文面の中から共通す る用語を抜き出すと下記のようになる。
a.協調学習 b.協調自律
c.メンバーの相互作用 d.異質な集団(小集団)
これらの用語からは,学習者=メンバーの相互 作用によって共有化されたタスク(目標)の達成 や学び(学習)を形成する手立てとして協調や集 団,相互作用というチーム学習の価値が見えてく る。しかしながら,チーム学習は学びの道具とし ての側面だけでなく,西之園の内容にあるように
「知識を創造する」というその学習プロセスその ものにも価値があり,上記の共通用語だけではそ の定義の輪郭が明確ではないと思われる。
そこで,チーム学習の価値の輪郭を見出すため に,チームワークの効果に着目し,分析している A・ウエストの「チームワークの定義」1 に着目 した。すなわち,その定義の各項目と表1のチー ム学習の定義との関連性を下記の5点において整 理することで,チーム学習の価値を抽出した10)。
① チームの目指すタスク(仕事・作業・課題)
に取り組む少人数の学習(d)
② チームで取り組んだ方が効果的にやり遂げ られる学習(a)
③ タスクから設定したチームの目標をメン バーが共有している学習(a)
④ メンバーそれぞれに役割がある学習(c)
⑤ メンバーは目標達成のために必要な権限,
自律性,リソース(人的資源=知識・スキル 等)をもち,活かせる学習(b)
ただ,上記の5点の定義においては,表1の西 之園がめざす「知識を創造する」視点が明文化さ れていない。しかし,A・ウエストも「チームの 創造性とイノベーション」11)の関係に着目してい ることから,西之園がめざす「創造」というキー ワードを取り入れたチーム学習の価値を加えるこ ととする。
⑥ チーム内で創造的な問題解決をする学習 本研究では,以上の6点をチーム学習の輪郭を 捉える価値として意識し,以後の事例開発の視点 とする。
2-2 答申が示す体育科の課題とチーム学習 平成28年の「幼稚園・小学校・中学校・高等学 校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び 必要な方策等について(答申)」(以下「答申」と 表記)では,体育科における課題について,以下 の3点を示している。
・習得した知識や技能を活用して課題解決する ことや,学習したことを相手に分かりやすく 伝えること等に課題があること
・運動する子供とそうでない子供の二極化傾向 が見られること
・子供の体力について,低下傾向には歯止めが 掛かっているものの,体力水準が高かった昭 和60年ごろと比較すると,依然として低い状 況が見られること12)
この記述から「伝える力(コミュニケーション 力)の必要性」「運動する子としない子の二極化 の改善」「体力の向上」が今後の改善すべき課題 と指摘している。そして,その課題の具体的な改 善事項が答申では以下のように示されている。
「粘り強く意欲的に課題の解決に取り組むとと もに,自らの学習課題を振り返りつつ仲間と共 に課題を解決し次の学びにつなげる主体的・協 働的な学習過程を工夫し改善を図る。」13)
以上の文面が示す改善の方向性を抽出すると下 記のようになる。
・粘り強く意欲的に課題の解決に取り組む ・自らの学習課題を振り返る
・仲間と共に課題を解決する
・主体的・協働的な学習過程を工夫する これらの改善点の方向性を見ると「主体性」・
「振り返り」・「協働」がキーワードとなり,前節 で述べたチーム学習の定義とも関連付けることが でき,その学習を軸とした学習活動が必要になっ てくると思われる。
2-3 チーム学習を導入する価値
続いて,体育科におけるチーム学習を導入する 必要性すなわちその価値をより一層明確にするた めに,友添秀則による体育におけるこれまでの学 習形態とこれから期待される新しい学習形態を参 照に,考察する。
友添は,体育における学習形態(論)は,運動 学習という学習場面での教師と学習者や学習者相 互の人間関係のコミュニケーション形式や学習者 の組織形態の狭義の学習形態に着目し,一斉学習,
班別学習,グループ学習,個別学習等に分類され るとし,図1のように示している。
友添によれば,これまでの学習形態を見直し,
共生の視点に立った学習形態を模索していく価値 を以下のように指摘している。
「従来の体育における学習形態は,学習者相互 の人間関係を基盤にして,学習効果を高めるた めに,特にグループ学習を積極的に採用してき た。しかし,1990年代後半以降,価値観が多 様化しグローバル化する社会への対応から,
各自の個性を最大限に活かしつつ,『共生』や
『連帯』の視点に立った共同学習(cooperative learning) や 統 合 教 育(integration) 等 多 様 な形での新しい学習形態が模索されだしてい る。」15)
この指摘にあるように,学習者相互の人間関係 を基盤にして,学習効果を高めるために体育科で は「グループ学習」が採用してきたが,さらに,
これからは多様性を重視した共生等の視点が重要
であると考えられる。
そこで,この新しい学習形態として示され,前 節で示した本研究で目指すチーム学習の姿にも あった「異質な集団」・「メンバーがそれぞれの役 割を果たす」・「メンバーの相互作用」等の視点を 体育科への導入の価値として捉え,友添が示す新 しい学習形態としてのチーム学習を導入して授業 づくりを構想していく。
2-4 チーム学習を導入することで期待できる 効果
ここでは,体育においてチーム学習の効果を整 理するために,体育科の目標と加登本仁の体育に おける学習集団論の関連性を見出す。そこで,解 説における各学年の内容の中で,本研究の事例開 発の対象運動領域と学年としている「Eゲーム」
の第3・4学年の「思考力・判断力・表現力等」
の目標である「規則を工夫したり,ゲームの型に 応じた簡単な作戦を選んだりするとともに,考え たことを友達に伝えること。」16)の表記から,チー ム学習を導入することで期待できる効果に関する ものを抽出する。
なお,加登本仁が,体育における学習集団論に は次の2つの立場があるとしているので,抽出す る際の分類に活用する。
・「『社会的行動』を教科内容に位置づけ,直接的 に子供の行動に働きかける立場」17)
・「教科内容として『技術認識』を追究し合う集 団を組織し,すべての子供の主体的学習参加を 目指す立場」18)
そして,以上の分類を「社会的行動(集団活動)
を子供に学ばせる立場」と「子供の主体的学習参 加を目指す立場」と捉え,「思考力・判断力・表 現力等」の目標を整理すると下記の2点である。
①「社会的行動(集団活動)の仕方を子供に学ば せる立場」
・規則を工夫すること
②「子供の主体的学習参加を目指す立場」
・ゲームの型に応じた簡単な作戦を選ぶこと
・課題の解決のために考えたことを友達に伝え ること
上記の抽出した目標から,チーム学習には第 図1 学習形態の種類14)
3・4学年の「Eゲーム」においてだけでも上記 の集団行動を学んだり,主体的に学習を目指した りする立場に関連する活動が期待できる。
すなわち,チーム学習を取り入れる教育的効果 として,自分の考えを他者に伝えることで個人と チームの活動が充実・向上するとともに,自己の 考えを深めることが期待できると思われる。
3 チーム学習を軸にした授業プロセスの構 想と授業評価の視点
本章では,前節の期待できる効果を検証する手 立てとしてチーム学習を軸とした授業づくりを具 現化するためにA・ウエストの問題解決の「4段 階のプロセス」と「チーム機能の4タイプ」に着 目し授業プロセスの構想と授業評価の視点を示す。
3-1 チーム学習を軸にした授業プロセスの構 想
ここでは,チーム学習を軸にした授業づくりを 構想したり,学習展開の活動場面での児童の姿を 把握したりするために,A・ウエストの示す創造 的な問題解決の4段階のプロセスに着目した。そ の4段階について彼は下記のように示している。
「問題を解決するために十分に確立された4つ の段階とは,問題を探索する段階,代替案を作 る段階,取捨選択を行う段階,よりよい好まし い選択を実行する段階」19)
A・ウエストが示す上記のプロセスを本研究で は「4段階のプロセス」とし,児童の活動場面と 効果的な解決方法を各段階の特徴を授業づくりの 構想に合わせて整理すると以下のようになる。20)
・第1段階 探索
(問題を明確化して探索する段階)
・第2段階 思考
(問題解決法の代替案について可能性を広げて いく段階)
・第3段階 選択
(ゲーム等において適切な作戦や練習かどうか を建設的に議論する段階)
・第4段階 実行
(起こりかけているかもしれない問題に対して 開かれた態度を取って,実行プロセスを適切 に修正するための準備をしておく段階)
上記の「4段階のプロセス」において,異なる 段階を区別しながら,チームの活動状況に応じて 判断し,教師と児童が各段階を適切に活用してい くことが重要であると考えられる。そこで,次章 では,自らの実践事例から「チーム機能の4タイ プ」を参照に,振り返りシートを作成し,各チー ムの「タスクの振り返り」と「社会的な振り返り」
を分析するとともに,A・ウエストの示す創造的 な問題解決の「4段階のプロセス」を導入し,児 童の活動場面や教師の支援等の視点から授業づく りのプロセスの有効性と課題点を明らかにする。
3-2 チーム学習を軸とした授業評価する視点 続いて,チーム学習の有効性を分析,検証する 授業評価の視点としてA・ウエストが示すチーム が効果的に機能するためのリフレクションとして 述べている「チーム機能の極端な4タイプ」21)に 着目し,その4タイプの表記を筆者の従前の授業 実践における児童の集団学習の様相から下記の項 目・内容で整理した。( )内は筆者が設定した。
・「タスクの振り返り(目標に焦点化し,定期的 に達成や活動の仕方の振り返り)」
・「社会的な振り返り(サポートの仕方やトラブ ルの解決方法,チームの社会的,感情的な雰囲 気の振り返り)」
上記を視点にA・ウエストの「チームの4つの タイプとそれぞれの結果」22)を参照に分類したも のが図2である。
そして,彼が示した各チームの様相を参照に,
各チームの特徴を整理すると以下のようになる。
A 弾力的なチーム(協働で常に向上心をもっ て,高いパフォーマンスを維持することがで きるチーム)
B 自己満足のチーム(凝集性はあるものの,
課題遂行能力が低いチーム)
C 機能不全のチーム(チームが機能せずに,
向上することがないチーム)
D 駆り立てられたチーム(仲間意識は低く,
目標の実現が弱い傾向にあり,チーム内での 対立が多く発生する可能性があるチーム)
この「チーム機能の4タイプ」の分類から,本 研究においては,協働で常に向上心をもって,高 いパフォーマンスを維持することができるチー ム,いわゆる「弾力的なチーム」を目指し,人間 関係の構築の在り方と効果的なチーム学習による 体育科の授業づくりを構想していく。加えて,各 チームが効果的に機能しているのかを見るために A・ウエストの振り返りの視点を参照に,「タス ク(課題)の振り返り」と「社会的な(仲間意識 の)振り返り」を行い,チームをタスクと社会性 の現状を把握し,チーム学習を取り入れる授業づ くりの効果と各チームの様相を見とるときにも役 立てる。
4 実践事例の分析
本章は,体育科で人間関係を大切にしたチーム 学習の授業として前節でA・ウエストの「チーム 機能の4タイプ」と問題解決の「4段階のプロセ ス」を用いて設定した授業づくりの有効性と課題 点を自らの事例を通して検証し明らかにする。
4-1 実践事例の概要
⑴ 対象児童:北海道教育大学附属函館小学校3 年生1クラスの児童(34名)を対象に授業と調 査を行った。
⑵ 実施時期:令和2年10月~11月
⑶ 授業単元名:「みんなでトライ~トリプルア
クセルタグラグビー~」
4-2 実践事例の展開
⑴ 単元目標
タグラグビーに必要な動きを見つけ,こつや作 戦などを友達に伝えることを通して,チームワー クを活かしてタグラグビーを楽しむことができる ようにする。
⑵ 単元の目的と単元計画
本単元では,どの子も運動に積極的に関わり,
得点を取る喜びや楽しさを味わうこと,チーム内 での役割を明確にして,仲間とともに協力して運 動することを目指すこととした。教材のタグラグ ビーは,ゴール型ゲームの陣地を取り合うゲーム だが,サッカー等の攻守入り交じり型とは異なり,
攻撃方向が常に一方向である易しいゲームである。
この技能的安易性は,ゲーム内容を安易にする ことで主体的な参加を促し,運動の楽しさや喜び を味わうことにつながるとともに,自己有用感の 向上も図られると考えられる。
また,全員がより一層楽しくなる規則づくりな どに子供が参画することで,自分たちで創り上げ ていく学びの面白さだけでなく,タグラグビーの 運動特性も理解することができると考えられる。
加えて,練習や試合のプロセスに振り返り活動 を位置付けることで,チーム全体や個々の状況を 把握し,自分たちで考えた活動のねらいや手立て の妥当性を追究する学びが実現できると共に,互 恵的な学びによりチームワークの重要性も体感で きることが期待できる。
なお,表2で示す通り,オリエンテーションで,
目指す姿を児童と共に設定したり,チーム学習の 行い方等を確認したりする。続いて前半では規則 の理解やゲーム運営の行い方の定着を図りなが ら,学習を展開していく。そして,展開ではゲー ムを楽しむ中で,見つけた動きのコツや困ったこ とを振り返り場面で共有することで,課題意識を もったり規則を変更していったりする。さらに後 半では,チーム学習をベースに,チームの課題解 決に向けて,試合に勝つための作戦や練習方法を 考え,活動していく。
単元終了後は,特別活動として児童主体でクラ 図2 チーム機能の4タイプ(筆者編集)
ス対抗のタグラグビー大会を設定し,学習したこ とを生かして勝敗を競い合う楽しさを味わわせる。
⑶ 各チームの現状を把握
各チームの現状を把握するために,A・ウエス トの「チームの振り返りのための質問紙」23)の質 問項目を参照に,児童向けの「チームの振り返り シート」(図3)を作成し,事前にアンケートを 取り,集計した。
そして,このアンケート結果をA~Fの6つの
チームに分け数値化し,「チーム機能の振り返り」
として,「タスク(課題)の振り返り」と「社会 的(仲間意識)振り返り」,「合計」をグラフ化し た。(図4)
図4を概観すると,A~Fの全チームが「タス ク(課題)の振り返り」より「社会的な(仲間意 識の)振り返り」の方が高い数値を示しているこ とが読み取れる。また,「タスク(課題)の振り 返り」が低かった理由としては,事前ということ
図3 児童向け「チームの振り返りシート」の項目 表2 単元目標
もあり,チームでの課題意識がまだ醸成されてい ないことが要因であると思われる。
次に,チーム別で分析すると,Dチームが最も 数値が高く,「タスク(課題)の振り返り」が5.8 ポイント,「社会的な(仲間意識の)振り返り」
が6.1ポイントであった。最も低い値を示したの がBチームで,「タスク(課題)の振り返り」が4.1 ポイント,「社会的な(仲間意識の)振り返り」
が4.5ポイントであり,Dチームとは「タスク(課 題)の振り返り」が1.7ポイントと「社会的(仲 間意識)振り返り」が1.6ポイントとの差が見ら れた。これらを「チーム機能の4タイプ」に分類 に可視化したのが図5である。
この図5を見ると,縦軸が「タスク(課題)の 振り返り」で,横軸が「社会的な(仲間意識の)
振り返り」を指し,7点満点となっている。事前 では,全てのチームが「タイプA:弾力的なチー ム」となったものの,先に示したグラフの通り,
そこには上位のチームと下位のチームでは差が見 られた。Bチームにおいては,「タイプB:自己 満足のチーム」に近いと思われ,これを理想的な
「弾力的なチーム」のDチームに近づけるには,
チームのメンバーによる課題設定や課題を自分た ちで見出していく活動を授業の中に位置づけるこ とが必要であったと考えられる。
さらに,教師による学習過程や支援等は適宜 行っているものの,児童の思いよりも教師の思い が強い授業づくりの傾向が見受けられため,単元 を構想する際には,教師は,運動技術や戦術の要
点を明確にしていく必要があり,学習活動では学 習者主体で進めていくことが重要になると思われ る。
4-3 実践の内容
本節では,A・ウエストの示す問題解決の「4 段階のプロセス」を取り入れた授業を構想,実践 した。そして,前節で示したチーム機能を向上す る手立てとして,A・ウエストの示す問題解決の
「4段階のプロセス」の視点に,チーム内での創 造的な問題解決を目指した児童の活動と教師の具 体的な支援の有効性を検証する。
すなわち,問題解決の「4段階のプロセス」の
「①探求,②思考,③選択,④実行」に基づき,
児童の活動と教師の支援方法の有効性を明らかに するために,実践事例の授業展開で取り入れた手 立てと見えた児童の姿から検証した。まず,検証 プロセスの第一段階として,問題解決の「4段階 のプロセス」の児童の活動と教師の支援の概要を 表3のように整理した。
続いて,上記の表3から,授業展開において問 題解決の「4段階のプロセス」を取り入れた具体 的な手立てを明らかにしたのが下記の①から④で ある。
① 規則(ルール)づくり
児童に対して,単元のはじめに,「ゲームをし ていく中で,自分たちに合った規則を考えてみん なで楽しもう!」と投げかけ,規則(ルール)づ くりを提案した。その観点は「ゲームを進めるた めのルール」(スキル)と「チームで高めあうと きにマナー」(社会性)の2つで随時児童から出 図4 事前のチームの振り返りシートのグラフ
「タスク(課題)の振り返り」と「社会的な(仲間 意識の)振り返り」をそれぞれ8項目7点満点とし,
合計点を平均化した。
図5 チーム機能の4タイプに分類
されたことを全体で共有し,追加することにした。
教師はタグラグビーの運動特性を踏まえつつ,
児童の発見や疑問等つぶやきや活動状況を把握 し,意図的に取り上げ,児童とともに規則(ルー ル)の形成を図った。(写真1)
一方,児童からは,「タグをたくさん取っても,
守り続けなければならないから,タグを何回か 取ったら攻めと守りを交代したい。」「タグを取ら れても,走り続ける人がいるから,タグを取られ て動いたら反則にしたらいい。」等,規則やマナー の提案があり「3タグ」「3歩」という「3回タ グを取ったら,取られたら攻守交替」「3歩以内 でパス」等のスキル面と「兄弟チームにアドバイ ス」「困っている人がいたら助けてあげる」等の 人間関係に関わるマナー面が追加されていった。
このようなつくり上げる活動を位置付けること
で,教師から一方的に与えられるだけでなく児童 が主体性をもって運動に触れることができたと考 えられる。
② 全体やチーム毎の課題追究(作戦会議・振り 返り場面)
児童と攻撃側に視点をおいて,トライするため の「動きのコツ」や作戦を共有した。(写真2)
この振り返りの場面では,単元前半はゲームを 通して自分自身の良い動き,友達の動きの良さを 発見,自分との動きの違いに気付くといった視点 をもち,全体で共有する場を設け,後半は,チー ム毎に課題を決めて,それを解決するための作戦 を考え,練習やゲームで実行したり見直したりし て,新たな課題を見出すために,チームで振り返 る場を設けた。その際,自分の役割を明確にする ように,作戦ボードを活用して,個人それぞれの 写真つきマグネットを自分で動かしながら確認で 写真1 掲示した追加規則項目(点線内)
表3 「4段階のプロセス」における児童の活動及び教師の支援
写真2 動きのコツを共有する場面
きるようにした。(写真3)
ただし,「思考段階」の場面では表1で示した ように,多くのアイディアを出すこと,「いいね,
それで……」を合言葉として話し合いや振り返り することを児童と教師の共通の約束とした。
そして,「選択段階」では,「動きのコツを使っ て攻めることができたか」・「チームの作戦はうま くいったか」・「チームの強みと弱み」などの視点 をもとに振り返ったものから,出てきた最も見込 みのある作戦や作戦を実行するための練習を次の 時間で試すこととした。(写真4)
そこでの話し合いでは,自分の考えを受け入れ てもらえることで,安心して作戦会議等に臨む様 子が伺えた。しかし,単元が進むにつれて,勝利 にこだわったり,作戦がうまく機能していなかっ たりで,意見の対立がチーム内で起こってしまう 場面も見られた。「実行段階」として,教師もチー ムの一員として修正を考える姿勢を示すことで,
意見が収束したりまとまったりしていた。
反面,全体交流での動きのコツの共有やチーム の作戦については,多くの意見が出されたものの,
動きのコツと作戦のつながりや作戦の妥当性につ いては検討したり段階的に示したりすることがで
きなかった。
③ 通信を発行してアイディアの共有
授業では,運動量確保の面からも,振り返りや 話し合い活動に時間が多く取られてしまうことは 避けなければならないと考えた。そこで児童から 出された多くのアイディアを共有する手立てとし て,振り返りカードや話し合いで得られた児童の 声を通信で取り上げることで,全体共有を図った。
その通信では,教師から見た全体の活動の様子 やこれまでの学びの軌跡を伝えるコーナー,児童 から出た「スキル」の面の気付き,「人間関係」
の面の気付きを記載するコーナー,進行表などで 次時の学習の見通しをもたせるコーナー等を設け ることとした。(写真5)
これらの内容で児童が最も興味を示したのが,
児童同士の振り返り等であった。通信で知らせる ことで,児童の課題発見・解決や振り返りの視点 も,「ルールを守りたい」・「たくさんタグを取 る」・「フェイントをして相手をかわせた」といっ た個の一面から見た課題発見・解決や振り返りか ら「自分オリジナルな動きやタグを1回も取られ ないみたいな工夫をがんばりながらプレイしてい きたい。」・「友達がボールを出しやすいところに いる。」というトライに向けての自分の役割や動 きの振り返りや課題が出されるようになった。
また,「連続でパスや守りをちゃんとしたいし,
作戦もいっぱい使いたい。」・「黒チームは,パス をいっぱいしていて,みんなできていた。」・「み んなで作戦を立てて,その作戦を実行して『うま 写真4 動きのコツと作戦を掲示
写真5 タグラグビー通信の発行 写真3 作戦ボードを活用した作戦会議
くいった。』『うまくいかなかったからこうしよ う。』と話し合っていた。」といった,自チームや 他のチームの集団としての動きや活動に目を向け るように,多面的な見方で課題発見・解決,振り 返りに変容していった。
④ 兄弟チームによる高め合い
兄弟チームをつくって練習や試合をすること で,自分のチームだけでなく,他のチームの良さ や課題解決方法を見つけることを試みた。兄弟 チームの良いところを見つけ,自由に書き込み掲 示することで,自分たちでも気づかなかったこと や相手を見ようとする意識が生まれた。(写真6)
4-4 実践の分析
ここでは,授業展開において問題解決の「4段 階のプロセス」を取り入れた具体的な手立てが,
体育科の目標の具現化,すなわち,どのような教 育的効果があるのか,実践事例を分析し,その効 果と課題点を見出す。
4-4-1 事前事後のアンケートの対比させた 分析
ここでは,単元の事前と事後の児童の学習に対 する期待や身に付けた力の変容を比較するため,
事前に「できるようになりたいこと」・「学びたい こと」,事後に「学んだこと」・「できるようになっ たこと」の自由記述のアンケートを行い,分析し た。この分析方法は,そのアンケートの自由記述 を可視化し客観的に分析するために,KH-Cord
(Ver.3.BTa.01e)25)を使ってテキストマイニン グを実施し,共起ネットワークで視覚的に整理し た。事前アンケートにおいて,語句全体の傾向を 見ていくと,「タグラグビー」(24語)・「チーム」
(17語)・「ボール」(16語)・「パス」(14語)・「タ
グ」(13語)・「ルール」(13語)等が多く使われた 語であることがわかった。これらの抽出された語 と語の関係性を共起ネットワークで示すこととし た。さらに,この事前アンケートの共起ネットワー クに,A・ウエストの「タスク(課題)の振り返 り」と「社会的な(仲間意識の)振り返り」の項 目内容を構成する用語「チーム目標・見直し=タ スクの振り返り」・「ゲーム・練習=手立て」・「協 力・支え合い・教え合い=人間関係」・「動きのコ ツ=スキル」等を視点に分析すると,「スキル」
と「人間関係」と「手立て」と「タスクの振り返 り」として分析すると,図6のように分類できた。
この関係性を見てみると,児童は「スキル」の ルールを学んだり,タグを取ったり,パスをつな いでトライするといったタグラグビーの知識及び 技能を向上させたいという思いが強いことが読み 取れる。ただ,この段階では,その「スキル」の 向上に「人間関係」とのつながりは見ることがで きず,「試合」や「対決」といった「手立て」を 通して向上が図られるという結びつきになってい ることが見て取れる。また,「スキル」の「ボー ルをうばい」・「ボールを取る」といった回答やト ライに繋がる動きが「タグを取る」といった動き が多く見られた。これらの動きは,タグラグビー の本来のルールとしてふさわしくなかったり,タ グを取る動きが直接トライにつながらなかったり するなど,オリエンテーションの段階では,行い 方やタグラグビー本来の運動特性を十分に理解し 写真6 兄弟チームによる良いとこみつけ項目
図6 事前アンケートの共起ネットワーク
ていなかったと思われる。
次に,事後アンケートにおいて,語句全体の傾 向としては,「トライ」(46語)・「チーム」(30語)・
「作戦」(24語)・「タグ」(23語)・「パス」(23語)・
「タグラグビー」(21語)・「学ぶ」(20語)等が多 く使われていることがわかった。これらの抽出さ れた語と語の関係性を共起ネットワークで示すこ ととした。さらに,事前アンケート同様,事後ア ンケートの共起ネットワークに,「タスク(課題)
の振り返り」と「社会的な(仲間意識の)振り返 り」の項目内容を構成する用語の「チーム目標・
見直し=タスクの振り返り」・「ゲーム・練習=手 立て」・「協力・チームワーク=人間関係」・「仲良 く=社会的な振り返り」・「動きのコツ=スキル」
等を視点に分析すると,図7のように分類できた。
この関係性を見てみると,どの項目も密接に関連 しており,「タスクの振り返り」と「社会的な振 り返り」が「スキル」と「人間関係」の周りを囲 んでいることからも,課題や仲間意識を振り返る ことでスキルを高めたり豊かな人間関係を形成し たりするのに有効に機能していると思われる。
さらに,チーム学習の成果と課題を見出すため に,事前と事後アンケートの共起ネットワークを 比較すると,事後アンケートの用語として,「作 戦」・「実行」・「コツ」・「全員」・「チーム」・「リー ダー」等が新たに出現していた。反対に,「落と す」・「覚える」・「勝つ」・「対決」等の「スキル」
と「手立て」の用語がなくなった。これらの変化 を関係性で見ていくと,事前は「ルールを覚え る」・「ボールを落とさないようにする」・「対決し て勝つ」といったタグラグビーの知識や技能を向
上させたいという思いと勝利を目的として取り組 もうとするグループのタスク優先の意識が現われ ているのに対し,事後には「動きのコツを実行」・
「チーム(全員)で作戦を全員で立てる」・「ルー ルを見つける」・「作戦を実行」・「リーダーが考え る」といった本単元の体育科の目標が具現化され ていたことが読み取れる。ただ,事後の共起ネッ トワークにおいての7つのサブグラフ(群)のう ち4群が他の群と共起しておらず孤立していたこ とから,児童は振り返り活動はできているものの,
「仲良く」=「チームワーク」の効果を実感してい なかったことが読み取れる。
しかしながら,事前と事後では「人間関係」・「ス キル」・「手立て」・「タスクの振り返り」・「社会的 な振り返り」の各要素の出現数と重なりに顕著の 差が見られた。これは,児童のチーム学習による 活動が児童の自己との対話(振り返り)を通して,
運動の意義や価値が多様化・深化したことを示し ていると思われる。また,先に述べたが,振り返 り活動がチームワーク(人間関係)や作戦(手立 て)・技術(スキル)を周囲から支え,高めてい る構図が読み取れることから,チーム学習におけ る「振り返り活動」の重要性がより一層際立って いることがわかると共に,事例におけるその不十 分さも見出すことができた。
4-4-2 「チーム機能の振り返り」の各チー ムにおけるグラフの変化の分析 続いて,実践事例の教育的成果を検証するため に,事後にも事前に行った「チームの振り返りシー ト」を活用し,同内容のアンケートを行い,事前 と事後とを比較し分析した。(図8)
まず,図8で注目するのは,事後では全てのチー ムが「タスク(課題)の振り返り」と「社会的な
(仲間意識の)振り返り」で向上または同様の数 値を示したことである。この状況から,事前より,
チームの機能が高まったことが読み取れる。
続いて,「タスク(課題)の振り返り」と「社 会的な(仲間意識の)振り返り」の事前と事後の 平均値した表4を比較すると,「タスク(課題)
の振り返り」と「社会的な(仲間意識の)振り返 り」のどちらも向上が見られた。加えて,「タス 図7 事後アンケートの共起ネットワーク
ク(課題)の振り返り」を見ると,事前では,チー ム平均4.8ポイントだったのに対し,事後には6.0 ポイントと1.2ポイント上昇しており,各チーム が課題の振り返りに基づいて次の活動を展開して いたことが見て取れる。
さらに,「タスク(課題)の振り返り」と「社 会的な(仲間意識の)振り返り」が乖離していた 部分があったが,チーム学習を取り入れた授業づ くりを展開すると,「タスク(課題)の振り返り」
と「社会的な(仲間意識の)振り返り」が同等の 数値になり,従来は活動の目的が「仲良くするこ と=仲間づくり」だったのに対して,仲間づくり が技能向上や勝利につながる,すなわち協働性と 技能向上や勝利を振り返り活動で同等の価値で関 連付けて考えることができるようになっていった と考えられる。
以上のことから,問題解決の「4段階のプロセ ス」を活用し授業のプロセスを構想し実践を分析 すると,「協働性と技能向上や勝利を振り返り活 動で同等の価値で関連付け」とあるように,「振 り返り=思考」のプロセスが非常に重要であるこ とが読み取れる。
加えて,抽出したBチームの変化をさらに詳細 に見てみると,「タスク(課題)の振り返り」が3.7
ポイントから5.9ポイントに,「社会的な(仲間意 識の)振り返り」が4.5ポイントから6.5ポイント と両方とも2ポイント以上上昇していることも振 り返りを充実させることがチーム内の人間関係を 豊かにすることに通じていると思われる。
4-4-3 Bチームを抽出して「チームの振り 返りシート」の相関関係の分析 続いて,事後のBチームの「チームの振り返り シート」の各質問項目の関連性を見るために,図 式化したものやJs-star26)を使って相関関係を分 析する。相関関係有意な正の相関が見られた項目 を抽出してみると,表5の結果のようになった。
この表5からは,「③ゲームを協力して行うた めに,練習の流れをしばしば話し合っている。」
と「⑩取り組んでいる運動が,うまくいかないと きにも,チームでたすけあっている。」の間には 非常に強い関連が見られた。これは,「タスク(課 題)」と「社会的(仲間意識)」で有意な正の相関 が見られたことを示し,前述でも示したがチーム ワークと体育の単元目標の達成とは深い関係があ ることが改めて可視化できた。
加えて,表5が示す非常に強い関連を抽出した ものが下記の内容である。これを見ると,チーム による導入時の前時の振り返り活動,活動途中,
終末の振り返り活動も体育の単元目標の達成にプ ラスの影響を与えていることが読み取れた。
以上のことから,前項で示したように人間関係 が充実することに加え,体育の単元目標の達成に も「思考のプロセス」すなわちチーム学習におけ 図8 事前と事後の「チームの振り返りシート」のグラフの変容
表4 事前と事後の平均値の変容
る「振り返り活動」が重要であることが見て取れ る。そして,その振り返り活動において「支え合 い」の姿勢・声かけが,プラスの効果を生む要因 になっていることがわかる。
さらに,「チームの振り返りアンケート」の設 問を構成する各要素の関係性を観察すると,「社 会性=人間関係」を豊かにすることが技術の習得 やチームの勝利に加えて主なタスクになっている ことがわかる。これは,チーム学習による「支え 合い」が軸となり,チームメンバーの良好な関係 性が高まり,それと相まってチームの協働性が活 性化されていったと考えられる。
5 体育科におけるチーム学習の成果と改善 点の考察
本章では,前章で見出した成果と課題を抽出・
整理し,その要因を見出し,改善点を明らかにす る。その上で,今後の継続的研究として取り組む 指導上の課題を改善する方向性を考察する。
5-1 本研究の成果と課題
ここでは,前章の実践事例の分析と考察から本 研究の成果と課題を抽出・整理し,その要因とし ての指導上の成果と課題を見出す。
① 成 果
・チーム内またはクラス全体で,動きのコツの
共有,作戦会議の場面においてプラスの声か けをすることで,支え合い,教え合いが生ま れた。
・自分たちに合った規則をつくり上げる活動を 位置付けることで,教師から一方的に与えら れるだけでなく,主体性をもって運動に触れ ることができることが明らかとなった。
・児童の振り返りを授業の導入時や通信等で取 り上げ,多くのアイディアを共有することで,
個からチームへと多面的な見方で課題発見・
解決が変容していくことにつながることが見 出された。
・教師は,児童のアイディアや悩みを受け入れ るように,肯定しながら建設的に言葉がけを することで,失敗を恐れずチームの課題を見 出したり,解決する手立てを創出できたりす るようになる。
② 課 題
・作戦の振り返り活動はできているものの,個 人同士で行うのではなく,チームメンバー間 で行う効果を実感していなかったことが読み 取れたことから,チーム内の協働性について の振り返りができていなかったことが見出せ た。
・教師が児童から出された動きのコツと作戦と の関連性や作戦の価値について,作戦の良し あしを判断する立場になってしまったことか ら,教師は児童と同等の立場で児童と共に作 戦を検討する時間を確保する必要がある。
5-2 本研究の改善点
ここでは,前節で見出した成果と課題点の整理 をもとに,その要因を抽出し,今後,継続的研究 のテーマとして取り組む指導上の課題を改善する 表5 Bチームの単元終了時のアンケートによる相関関係による分析
方向性を考察する。
まず,本実践事例において,規則づくり,作戦 の立案等を児童が主体的に行うことや振り返り活 動における前向きな児童間の相互意見交流や教師 の助言が体育の単元目標の達成や豊かな人間関係 の構築にプラスに働いていたと考えられる。一方,
課題点としては次のものが要因として見出せた。
・チーム内の協働性についての振り返りがない。
・作戦の目標と対比させた妥当性について振り返 る機会が少ない。
・教師が作戦の成果の良しあしを判断している。
以上の課題を生み出す要因として,教師の指導 上の改善点を見出すことができる。
・振り返りの十分な時間を設定する。
・教師が児童から出された作戦等の価値を児童と 同じ立場で検討する。
前章の分析と前節の成果から,スキル(技術)
の習得や勝利への手立てとして,チームワークが 位置付けられる状況から,振り返り活動をチーム ワークの中に位置づけることで,豊かな人間関係
(仲間意識)の構築やチームとしての勝利につな がる可能性を児童が気付いたからと想定される。
ただ,上記の改善点からはその際,教師の指導上 の留意点として,タスク(課題)を達成するため の道具として,「人間関係」を位置付けないよう に配慮する必要性を見出すことでき,その関係性 を整理すると図9のようになる。
5-3 改善の方向性
今後の改善の方向性としては,より一層,体育 科において「チーム学習」を行うことが体育科の 単元目標に基づく個人およびチームのタスク達成 と共に「豊かな人間関係」を形成,充実させてい
くために,有効なのか振り返り活動の「チーム学 習」における位置づけとそれにかかわる教師の働 きかけを明確する。そして,豊かな人間関係を軸 としたチーム学習による授業づくりの取組を深化 し,広めるようにするため,前項で見出した指導 上の改善点および留意点に配慮した授業づくりと 共に,下記の3点の取組みを,継続的に実践事例 の開発と検証を通して明らかにし,その成果を発 信していきたい。
・本研究における「チーム学習」を導入した授 業づくりのプロセスを可視化し,チャート図 等に整理することで,他教科等においても活 用できるようにする。
・本研究における学習成果と課題を把握するた めに用いた分析方法等を他教科の授業改善に 活用する。
・ミドルリーダーとして上記の取組を校内研修 に組み込み,推進する。
注1 マイケル・A・ウエスト,高橋美保訳,2014,『チー ムワークの心理学-エビデンスに基づいた実践へのヒ ント-』,東京大学出版会,pp.36-37
マイケル・A・ウエストは,この「チームワーク」
の定義については,下記の様に示している。
「チームとは明確に定義された困難なタスクに取り組 む比較的少人数の集団です。そのタスクは個人が単独 で,あるいは複数の人がそれぞれ単独で取り組むより も,集団で一緒に取り組んだ場合に最も効率的にやり 遂げることができます。メンバーは,タスクから直接 的に派生した明確で,共有された,チャレンジングな チームレベルの目標をもっています。彼らは目標を達 成するために,密接に,お互いに依存し合って働く必 要があります。チームにはメンバーそれぞれの役割(い くつかの役割は重複します)があります。そして,メ ンバーはチームの目標を達成するために必要な権限,
自律性,リソースをもっています。」
引用文献
1)文部科学省,2017,『小学校学習指導要領(平成29年 度告示)解説体育科編』,東洋館出版社,p.69
2)上書,文部科学省,pp.18-19 3)上書,文部科学省,p.19 図9 改善の方向性の構造図
4)マイケル・A・ウエスト,高橋美保訳,2014,『チー ムワークの心理学―エビデンスに基づいた実践へのヒ ント―』,東京大学出版会,p.29
5)西之園晴夫,2004,『教育の方法と技術』,佛教大学 通信教育部,ミネルヴァ書房,p.149
6)長尾尚・市川隆司・奥田三郎,2011,「学習意欲を引 き出すチーム学習の枠組み―知識時代の学習者参加型 授業をめざして―:大阪信愛女学院短期大学紀要45 号」,大阪信愛女学院短期大学,p.1
7)江見圭司・小林信三,2017,「技能を伝承するための 教育から見たチーム学習あるいはグループ学習による アクティブ・ラーニング:情報教育シンポジウム論文 集」,京都情報大学院大学,p.63
8)木村裕斗,2014,「創造的チーム学習モデルの検討―
集団特性の影響に着目して―:経営行動科学第28巻第 3号」,経営行動科学学会,pp.197-198
9)板垣明美・大友智・南島永衣子ほか,2016,「中学生 の体育授業を対象としたチームビルディング学習の開 発とその有効性の検討:体育科教育学研究32巻(2016)
2号」,体育科教育学研究,p.5 10)前掲書,A・ウエスト,pp.36-37
マイケル・A・ウエストの「チームワーク」の定義の 文面(注1)を①~⑤に整理し,表1の内容から抽出 した用語a ~ dとの関連性が見出せる内容を抽出したも のが本文の5つの内容である。
11)上書,A・ウエスト,p.210
12)中央教育審議会,2016,「幼稚園,小学校,中学校,
高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及 び必要な方策等について(答申)」,文部科学省,p.186 13)上書,中央教育審議会,p.187
14)高橋健夫・岡出美則・友添秀則・岩田靖,2002,『体 育科教育学入門』,大修館書店,p.92
15)上書,高橋・岡出・友添・岩田,p.93 16)前掲書,文部科学省,p.99
17)加登本仁,2011,「体育の学習集団研究の方法論とし ての活動理論:広島大学大学院教育学研究科紀要第一 部第60号」,広島大学,p.82
18)同上
19)前掲書,A・ウエスト,p.216 20)上書,A・ウエスト,pp.216-218 21)上書,A・ウエスト,p.9 22)同上
23)前掲書,A・ウエスト,pp.12-14 24)上書,A・ウエスト,p.217
25)樋口耕一,KHCoder(Ver.3.Beta.01e),
https://khcoder.net/(2020年7月9日取得)
26)田中敏・Nappa,js-STARXRversion1.0.1j,
http://www.kisnet.or.jp/nappa/software/star/info/
copy.htm(2020年12月3日取得)
(石崎 寿和 函館校教職大学院生)
(橋本 忠和 函館校教授)
(小松 一保 函館校特任教授)