ブ ル ガ リア の ダマ ス キ ニ派 作 品 にっ い て(二 宮)107
ブ ル ガ リ ア の
ダ マ ス キ ニ 派 作 品 に つ い て
二 宮 由 美
は じめ に
1原 著 者 ダ マ ス キ ン ・ス トゥデ ィ トに っ い て 2.1ブ ル ガ リア の ダマ ス キ ニ派 作 品 に っ い て 2.2ダ マ ス キ ニ 派 作 品 の 分 類 にっ い て
2.3ダ マ ス キ ニ 派 作 品 の 言 語 的 特 徴 3.1『 女 性 に関 す る説 教 集 』 に つ い て 3.2『 女 性 に関 す る説 教 集 』 の 言 語 的 特 徴 む す び
は じめ に
『ス ラ ヴ ・ブ ル ガ リア史 』(1762年)を 著 し、 文 化 の 父 と呼 ば れ る修 道 士 パ イ シ ・ヒ レ ン ダル ス キ(naHc舩XHハeH双apcKH1722‑1773年)が 民 族 の 覚 醒 を試 み る以 前 に 、 ブ ル ガ リア 文 学 の 土 壌 に あ った の は ダ マ ス キ ニ派 作 品 と称 され る もの で あ った 。 ブ ル ガ リア の トル コ支 配(1396‑1878年)か らの 解 放 運 動 を め ざす 、 ブ ル ガ リア 民 族 復 興 期(18世 紀 後 半一1878年)以 前 の 16世 紀 末 か ら19世 紀 初 め に ブ ル ガ リア 文 学 の 中 心 で あ った ダマ ス キ ニ派 作 品 に っ い て 、 そ の言 語 的 特 徴 と と も に述 べ て み た い 。
1原 著 者 ダマ スキ ン ・ス トゥデ ィ ト(不 詳 一1577年)に つ い て
ダ マ ス キ ン ・ス ト ゥデ ィ トは ギ リ シ ャ の テ ッサ ロ ニ キ 生 ま れ で 、 コ ン ス タ ン テ ィ ノ ー プ ル で テ オ フ ァ ン ・エ レア ブ ル ク に 師 事 す る 。 東 方 キ リス ト教 会 の 聖 職 者 で 、 の ち に 府 主 教 と な る が 、 副 輔 祭 の こ ろ か ら創 作 活 動 を 始 め て い
る 。
ダ マ ス キ ン ・ス ト ゥデ ィ トは 作 家 と し て 散 文 と 詩 を 残 し て い る が 、 著 作
『宝 典 集 』("CbKPOBH取e""θ εσαりρò")が ギ リ シ ャ と ス ラ ヴ 民 族 の あ い だ で は 彼 の 代 表 作 と し て 有 名 で あ る 。 こ の 『宝 典 集 』 は オ リ ジ ナ ル 作 品27
(1)
編 と 古 い 別 の 作 家 の 作 品 を も と に 再 話 され た9編 の 計36編 か ら な って い る 。 内容 は祭 日に 行 う説 教 や 聖 者 伝 、 詩 や 哀 歌 、 ダ イ ア ロ グや モ ノ ロ ー グで 、 な か に は 『高 位 聖 職 者 に 対 す る二 人 の 風 刺 的 会 話 』CaTHpHqecKHpa3roBoP
Ha耶e朋UanpoTHsapxHepeHTeと 題 す る も の も あ り、 教 会 文 学 か ら世 俗 文 学 まで 多 岐 に わ た って い る。 特 筆 す べ き は 当 時 の ギ リシ ャで は新 しい傾 向で あ る近 代 ギ リシ ャ語 の 話 し言葉 で この 『宝 典 集 』 が 書 か れ た こ とで あ る。
『宝 典 集 』 は1558年 に ベ ネ チ ア で 初 版 さ れ た 。 ブ ル ガ リア に は1575年 頃 か ら18世 紀 末 に全 体 訳 、 部 分 訳 が 浸 透 した 。 ブル ガ リア ・ダ マ ス キ ニ 文 学
は ブ ル ガ リア文 学 の発 展 に重 要 な段 階 を もた ら した 。
{2)
ロ シ ア に は1656年 、1715年 の2度 、 セ ル ビ ア に は ブ ル ガ リ ア と マ ケ ドニ
(3)
ア を経 由 して 『宝 典 集 』 が もた らされ た 。
2.1ブ ル ガ リ ア の ダ マ ス キ ニ 派 作 品 に つ い て
ブ ル ガ リア に 『宝 典 集 』 の 翻 訳 が 現 れ る の は16世 紀 末 、 原 著 者 ダ マ ス キ ン ・ス トゥデ ィ トの 『宝 典 集 』 を ギ リシ ャ語 か ら訳 した もの で あ る。
しか し17世 紀 と18世 紀 の2度 、 ロ シ ア に 『宝 典 集 』 が は い った と きは 全
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(4)
体 の 直 接 訳 で あ った の に 対 し、17世 紀 か ら18世 紀 に ブ ル ガ リア で は 『宝 典 集 』 の変 容 が 始 ま る。 ダ マ ス キ ン ・ス トゥデ ィ トに よ る 『宝 典 集 』 は 、 他 の 作 家 の作 品 も混 在 す る寄 せ 集 め の コ ン ピ レー シ ョンの選 集 と な った 。 常 に ダ マ ス キ ン ・ス トゥデ ィ トの 説 教 を 内容 とす る も の で は な くな って い た が 、 ダ マ ス キ ニ派 作 品 と称 され る よ う に な り、16世 紀 末 か ら19世 紀 に か け て 、 ブ ル ガ リア全 土 に普 及 した 。 そ の 内 容 は 多 岐 に わ た り、金 ロ ヨ ア ンの 問 答 集 、 ア ポ ク リ フ ィ、 物 語 、 教 会 文 学 と世 俗 文 学 にわ た っ て い た 。17世 紀 以 降 、 特 に18世 紀 に は 広 く読 ま れ る 民 衆 的 な読 み 物 集 の 選 集 と して形 成 さ れ た 。 ブル ガ リア文 学 史 に お い て ダマ ス キ ニ派 作 品 は そ の 発 展 に お い て 重 要 な段 階 と な る。 ダ マ ス キ ニ派 作 品 に は それ ま で の 古 ブ ル ガ リア 語 に徐 々 に変 化 を も た らす 要 素 が あ った 。 ダ マ ス キ ニ派 作 品 は 民 衆 が わ か りや す い文 体 、 新 ブ ル ガ リア 語 の 話 し言 葉 で 書 か れ た 。16世 紀 末 に は 言 語 の 民 衆 化 が 始 ま り、17、
18世 紀 に は そ れ は 明確 で あ った 。 当 時 の ダ マ ス キ ニ 派 文 筆 家 は 「ブル ガ リ ア 語 で 」、 「素 朴 な話 し方 で 」、「一 般 大 衆 のた め に シ ン プル で 素 朴 、 飾 らな い 言葉 で」 書 く こ と を課 題 と して 自覚 して い た 。 こ う して ダ マ ス キ ニ派 作 文 筆 家 は 、0般 民 衆 に は理 解 で き な い 、 そ れ ま で の 書 き 言葉 の 伝 統 に対 して、 矛 盾 を投 げ か け 、 新 しい 伝 統 を 開 始 した 。18世 紀 に は 特 に ダ マ ス キ ニ 派 作 品 に お い て 、方 言 的 特 徴 を伴 った 話 し言 葉 が 広 く用 い られ て い る。 書 き 言 葉 の 伝 統 を完 全 に 断 ち切 る こ と な く、 ダ マ ス キ ニ派 文 筆 家 は 自身 の 話 し言 葉 で 書 き 、 音 声 的 、 語 彙 的 、熟 語 成 句 的 に 、生 きた 民 衆 の 言 葉 の特 徴 を 、 作 品 に反 映 して い る。 ダ マ ス キ ニ 派 作 品 に お け る言 語 の 民 衆 化 と と も に 、18世 紀 以 降 、 書 き言 葉 も平 易 化 され た 。
初 期 の ダマ ス キ ニ派 文 筆 家 は オ リジ ナ ル を厳 格 に翻 訳 した 。 しか しなが ら そ の後 、17世 紀 一18世 紀 に な る と 、 ダ マ ス キ ニ派 文 筆 家 は 訳 しなが ら、 テ キ ス トを 自身 の読 者 の興 味 に合 わ せ る よ う 、 改 作 しよ う と して い る。 難 解 な 部 分 の 削 除 、 内容 の単 純 化 を 行 い 、 ブ ル ガ リア社 会 に 関 連 した 自身 の 考 え や
説 明 を付 加 し、 作 品 の ブル ガ リア化 が 行 わ れ た 。 そ の結 果 、作 品 は広 く民 衆 に読 まれ 、 ダマ ス キ ニ派 文 筆 家 も民 衆 の 中 か ら、 民 衆 の なか で 生 活 す る修 道 士 、 村 の聖 職 者 、教 師 、世 俗 の 人hが あ らわ れ た 。
18世 紀 以 降 、 ダ マ ス キ ニ派 作 品 に は 新 しい 内 容 、 テ ー マ が み られ 、 そ れ は 改 作 や 訳 語 、 他 人 の テ キ ス トに独 自の 付 け 加 え を 行 う こ と に あ らわ れ て い る。 これ らの 改 作 や 付 け 加 え に は 、 ブ ル ガ リア の 現 実 社 会 と道 徳 的 問 題 が 反 映 して い る。 例 え ば 、 最 も著 名 な ダマ ス キ ニ 派 文 筆 家 の ひ と り ヨ シ フ ・ブ ラ ダテ ィの選 集 に は 隷 属 の社 会 が 描 写 され 、 トル コ支 配 に抵 抗 す る助 言 が 示 さ れ 、 隷 属 の原 因 説 明 を試 み て い る。 ま た 民 衆 啓 蒙 の 問 題 、 話 し言 葉 に よ る教 訓 的 書 物 の必 要 性 、 さ らに金 貸 業 、 飲 酒 へ の 批 判 も示 さ れ て い る。 他 の ダ マ ス キ ニ派 文 筆 家 、 ヨ シ フ ・ヒ レン ダル ス キ は読 書 の 重 要 性 や 読 み 方 を説 き、
近 代 ブ ル ガ リア 語 に よ る 出版 の ア イ デ ィア は1796年 に 司 祭 プ ンチ ョに よ り 示 され 、1806年 に ソ フ ラ ニ ・ヴ ラチ ャ ンス キ に よ って 実 現 化 され た 。
ダ マ ス キ ニ 文 学 の 新 しい テ ー マ と ア イ デ ィア は 、 社 会 活 動 、 民衆 生 活 と正 し く結 び っ き 、 そ の 後 の ス ラ ヴ伝 統 文 化 復 興 期 の新 ブ ル ガ リア語 に よ る文 学 の 基 本 と な った 。 そ して そ れ は パ イ シ ・ヒ レ ン ダル ス キ に よ る 、18世 紀 末 か ら19世 紀 の ス ラ ヴ の伝 統 復 興 に 引 き継 が れ る。
ダマ ス キ ニ著 作 を専 門 とす る文学 者 た ちの精神 性 の変 化 が18世 紀 以降 に み られ る。 それ は新 しい タイプの文筆 家の形 成で 、聖職 者 のみ な らず 、世 俗 の人 が教 会 に縛 られず個 人 と して、文筆 活動 の 自身 の動機 を直接表 現す るよ うに な った ことで あ る。 自叙伝 的 な動機 に発 す る興 味深 い書 き込み には文筆 活 動 に対す る文筆 家 の態度 の変化 がみ られ る。それ は精神 救済 の手 段か ら、
民衆 のた めの活動 へ の変化 であ る。新 ブル ガ リア語で書 いた ダマ スキ ニ文筆 家 によ るブル ガ リア全土 へ の作品 の普及 は 民族意識 の 目覚め を もた ら した。
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16世 紀 末 の ダ マ ス キ ニ派 文 筆 家 グ リ ゴ リ ・プ リ レプ ス キ は ダ マ ス キ ン ・ ス トゥデ ィ トのr宝 典 集 』 の 翻 訳 家 で あ る 。 『宝 典 集 』 の 部 分 訳 、 全 体 訳 は 多 くの種 類 が あ る 。16世 紀 後 半 に は マ ケ ドニ アで の グ リ ゴ リ ・プ リ レプ ス キ に よ る翻 訳 と西 ブル ガ リア で の 無 名 の文 筆 家 に よ る二 つ の翻 訳 が あ る。18
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世 紀 に は ヨ シ フ ・ブ ラ ダ ィが ギ リシ ャ語 か らの 直 接 訳 を行 な っ て い る。
2.2ダ マ ス キ ニ 派 作 品 の 分 類 に つ い て
ダ マ ス キ ニ 派 作 品 は 数 世 紀 に わ た る 様 々 な 時 期 、 様 々 な 口 語 の 特 徴 を 反 映 して い るが 、 全 刊 行 さ れ て い る の は リ ュ ブ リ ャナ ・ダ ア マ ス キ ン(Jlk)6朋HCKH 双aMacKHH)、 コ プ リ フ シ ュテ ィ ・ダ マ ス キ ニ(KonpHB【ueHcKH乃aMacKHH)、
(6}
シ ュベ ス トフ ・ダ マ ス キ ニ(CB剛oBcKH刀aMacKHH)で あ る。
ドンカ ・ペ トカ ノ ヴ ァは著 書 『ブ ル ガ リア文 学 にお け る ダマ ス キ ニ派 作 品 』 の な か で ダマ ス キ ニ文 学 を概 念 的 に次 の3つ の グル ー プ に 分 け て い る。
116世 紀 末 本 来 の ダ マ ス キ ン ・ス トゥデ ィ トの 説 教 著 作
217世 紀 初 め ダ マ ス キ ニ 文 学 活 動 家 の 著 作 が 他 の 著 者 の 作 品 と と も に書 き写 され 始 め 、 混 在 した 内 容 と な る。 ダ マ ス キ ン ・ス トゥデ ィ トの 説 教 を 大 部 分 含 ん だ 混 在 した 宗 教 的 啓 蒙 的 内容 の 文 集
3様 々 な 内容 の 著 作 集 、 ダマ ス キ ン ・ス トゥデ ィ トの 著 作 を含 ま な いが しば しば ダ マ ス キ ニ 派 作 品 と称 す る こ と が 可 能 と され る文 集
そ して 、 一 番 多 い の は 第2グ ル ー プ で あ る と し、 「こ の3グ ル ー プ を 分 け た り部 分 的 に扱 う こ と は ダ マ ス キ ニ 文 学 の 出 現 と発 展 、 そ して16世 紀 末 か ら19世 紀 始 め の ブ ル ガ リア文 学 の 特 徴 に 関 して完 全 で 正 しい概 念 を 与 え な
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い 。」 と し て い る 。
同 著 、 第7章 の 「ダ マ ス キ ニ派 作 品 文 献 一 覧 」 で は 、1全 体 あ る い は部 分
的 に ダ マ ス キ ン ・ス ト ゥ デ ィ トの 作 品 を 内 容 と す る も の 。IA16世 紀 の 作 品7編 、IB17世 紀 の 作 品29編 、IB18世 紀 の 作 品70編 、IF19
世 紀 の 作 品26編 、 計132編
IIダ マ ン ス キ の 説 教 は 含 ま な い が ダ マ ン ス キ 派 作 品 と 分 類 さ れ る も の 。II A18世 紀 の 作 品27編 、 正IB19世 紀 の 作 品34編 、 計61編 。 合 計198編
く ラ
と な る。 『女 性 に関 す る説 教 集 』 はIIBに 分 類 され て い る。
2.3ダ マ ス キ ニ 派 作 品 の言 語 的 特 徴
ペ トカ ノ ヴ ァは 同著 、 第5章 「ダマ ス キ ニ派 作 品 の 言 語 」 で は 以 下 の よ う に 指 摘 して い る 。
ダ マ ス キ ニ派 作 品 が ブ ル ガ リア語 史 の研 究 、特 に個 々 の名 詞 、 動 詞 、 代 名 詞 、 外 国語 な ど につ い て貴 重 な資 料 と して 指 標 と な る こ と。 言 語 と と も に そ の 内容 の研 究 に お い て はB.ツ ォネ フ(B.Ljoxes)に よ る と こ ろが 大 き い 。 B.ツ ォネ フ は17世 紀 以 降 の ダ マ ス キ ニ派 作 品 に み られ る新 ブ ル ガ リア 語 の 要 素 は 、 熱 心 に 作 品 を書 い た 「遠 慮 深 い活 動 家 」(CKPOMHH刀e加H)に よ る と こ ろ が 多 く、 彼 らの ほ とん どが 自身 の名 を残 して い な い が 、 そ の 功 績 は顕 著 で あ る と して い る。 彼 らは 様 々 な年 代 記 や 説 教 集 を 「わ か りやす い 明 瞭 な
ブル ガ リア 語 」 に訳 した 活 気 あ る ブ ル ガ リア の聖 職 者 た ち で あ った 。
また ダ マ ス キ ニ派 作 品 の研 究 と して ヴ ェル チ ェ ヴ ァ(B.Be朋eBa)を 紹 介 して い る。 ヴ ェル チ ェ ヴ ァは17‑8世 紀 の新 ブ ル ガ リア語 に よ る ダ マ ス キ ニ作 品 の 指 示 代 名 詞 と副 詞 の 研 究 を古 ブ ル ガ リア 語 と ブ ル ガ リア方 言 と の 関 係 にお け る 問 題 か ら検 討 して い る。
文 学 的 視 点 か らダ マ ス キ ニ派 作 品 に み られ る 民 衆 の 気 質 、 内容 と と も に 言 語 の 面 か らは ブ ル ガ リア文 学 の 民 衆 化 と い う傾 向 が 興 味 深 い 。 作 品 が 人hに 受 容 され る 時 、 作 品 へ の 民 衆 の 愛 着 はそ の 言 語 を抜 き に して は検 討 で き ない 。
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14‑一一16世 紀 の 教 会 文 学 の 書 き 言 葉 は 民 衆 の 大 衆 の 言 葉 と は 大 き くか け 離 れ て い た 。 生 き た 話 し言 葉 が 記 録 と して残 さ れ る こ と は 、16世 紀 ま で は 稀 な例 に しか み られ な い 。 こ の こ ろ最 も貴 重 で あ った の は 、 話 し言 葉 の 形 が よ り広 く と り入 れ られ て い た 、15世 紀 以 降 の ヴ ァ ラ キ ア ・ブ ル ガ リア 文 書 で あ った 。 ヴ ァラ キ ア ・ブ ル ガ リア文 書 は生 き た 言 葉 は 書 き言 葉 か ら既 に遠 く 離 れ て しま っ て い る こ と 、 書 き 言 葉 と話 し言 葉 の 間 に大 き な距 離 が 存 在 す る こ と を 、 は っ き り と示 して い る。 初 期 の写 本 に 比 べ 、 ソ フ ィア地 方 の 書 き言 葉 に よ る年 代 記 に は 民 衆 言 語 の 影 響 が よ り強 くみ られ る も の の 、16世 紀 に は こ の 「距 離 」 は 大 き く な り続 け た 。 この 頃 、 文 筆 活 動 の 中 心 で あ った 西 ブ ル ガ リア地 方 で は 、 セ ル ビ ア式 編 纂 が 中心 的 で あ った 。 セ ル ビア語 の 書 き 言 葉 の影 響 は ブ ル ガ リア の トル コ支 配 以 前 か ら始 ま っ て い た 。 そ の 当 時 、 ブ ル ガ リア 語 とセ ル ビア語 の 差 異 は 少 な く、 トル コ支 配 以 降 、 セ ル ビア 語 の影 響 は よ り強 くな った 。 オ フ リ ッ ド大 主 教 は セ ル ビア式 編 纂 を 受 け 入 れ て い る。
16世 紀 、 セ ル ビア の 東 方 進 出 に と も な い セ ル ビア 語 の影 響 は ブ ル ガ リア 内 陸 に広 が った 。 ブル ガ リア領 土 で の セ ル ビア語 に よ る西 地 方 で用 い られ て い る よ う な書 き言 葉 が 使 わ れ た が 、 そ れ は純 粋 な ブ ル ガ リア 語 で も セ ル ビア 語 で も な く、 古 ス ラ ヴ語 を基 礎 と した も の で あ った 。 これ も ま た話 し言 葉 とは 大 き くか け 離 れ て い た 。 『宝 典 集 』 の初 期 翻 訳 は この 言 葉 で 書 か れ て い る 。 しか しこれ らの翻 訳 に は それ ま で の教 会 文 学 と は違 う要 素 が あ った 。 ダマ ス キ ニ派 作 品 に お い て初 め て 、 話 し言 葉 と書 き 言葉 の距 離 が 縮 み 始 め た 。 ダマ ス キ ン ・ス トゥデ ィ トの 例 に な らい 、 初 期 の ダマ ス キ ニ派 文 筆 家 は 自身 の 作 品 を話 し言 葉 で 書 く とい う意 思 を も ち 始 め た 。P.A.ラ ヴ ロ フは 「時 代 の 書 き 言 葉 の 伝 統 一 ブル ガ リア ・セ ル ビア 語 」 に お い て 「民 衆 の うね り」 が 噴 出 した の だ 、 と指 摘 して い る。 当 時 の ダ マ ス キ ニ派 作 品 は まだ 民 衆 語 を そ の 特 徴 と して い なか った 。B.ツ ォネ フ は エ レ ンス キ ・ダ マ ス キ ニ を も と に セ ル ビア 語 版 の確 立 した 基 準 の転 換 を示 し、 そ して これ は ツ ォネ フ に よれ ば 「新
ブル ガ リア 語 文 法 と語 彙 」 か ら作 り出 され た も の で あ る。 ツ ォネ フ は 、音 声 学 的 、形 態 論 的 、統 語 論 的 転 換 を指 摘 し、 さ らに そ れ らを 「過 誤 あ る い は 新 用 法 」 と称 して い る。 一 方 、P.イ リエ フ ス キ(n.H加eBCKH)は ダ マ ス キ ン派 作 品 の マ ケ ドニ ア語 訳 に注 目 し、 そ こに 「民 衆 の 話 し言 葉 的 要 素 」 を 発 見 し大 き な 関心 を よ ん で い る。 両 者 は と も に 「転i換」 と 「要 素 」 に っ い て 指 摘 しお り 、教 会 ス ラ ヴ 語 の 伝 統 の 生 存 へ の 刺 激 が 与 え られ た 。17世 紀 に ダ
マ ンス キ ン派 作 品 に お け る言 語 関 係 は 、 既 に 明 確 に 変 化 して い る 。 す で に 17世 紀 前 半 、 ダ マ ス キ ニ 派 作 品 の 文 筆 活 動 家 は 新 しい ブ ル ガ リア 語 の 必 要 性 、 不 可 欠 性 を感 じて い た 。 初 訳 の ダ マ ス キ ニ 派 作 品 説 教 集 の 言 語 を書 き写 しっ づ け る文 筆 活 動 家 は 少 なか らず い た 。 指 摘 した よ う に17世 紀 前 半 、 新 ブ ル ガ リア語 の 話 し言 葉 に よ る初 期 の ダマ ス キ ニ派 作 品 の 「訳 」 が 現 れ る。
そ れ は 広 く普 及 し、 古 い 訳 に 取 って 代 わ り 、17世 紀 末 に は 第 二 の 新 ブル ガ リア 語 訳 と な った 。 話 し言 葉 に訳 さ れ た の は ダマ ス キ ニ派 作 品 説 教 集 だ け で は な く、 よ り古 い 出 典 に よ るす べ て の 作 品 で あ った 。 ダマ ス キ ニ派 作 品 間 の 差 異 、 例 え ば リラ訳 の写 しと ス レ ドナ ・ゴラ地 方 と の 差 異 は 明確 で あ った 。 初 期 の ダ マ ス キ ニ 派 作 品 で は 古 い 言 語 が 、17世 紀 以 降 は 話 し言 葉 が 優 勢 で あ った 。 こ こで 例 と してrド ゥ リ ノ ブ ダマ ス キ ニ説 教 集 』 と 『プ ロ トピ ン ス キ ・ダ マ ス キ ニ 』 を あ げ る。 『プ ロ トピ ンス キ ・ダマ ス キ ニ 』 で は 、16世 紀
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の 『ドゥ リ ノ ブ説 教 集 』 に は稀 な新 ブ ル ガ リア 語 の 諸 特 徴 を指 摘 す る。
ペ トカ ノ ヴ ァは1"J著 、 第7章 「ダ マ ス キ ニ派 作 品 文 献 一 覧 」 でIAの16 世 紀 の 作 品 に 分 類 さ れ た 『ドゥ リノ ブ説 教 集 』 とIBの17世 紀 の 作 品 『プ
ロ トピ ンス キ ・ダ マ スキ ニ 』 を特 に個hの 名 詞 、 動 詞 、 代 名 詞 、 外 国 語 な ど にっ い て 、 比 較 対 照 の 例 に あ げ て い る。
単 音 節 語 の 複 数 形 に 関 して 、 『ドゥ リ ノ ブ説 教 集 』 で は 古 い屈 折 語 尾 が 用 い られ て い る の に対 し、 『プ ロ トピ ンス キ ・ダ マ ス キ ニ 』 で は 現 代 語 の 語 尾
ブル ガ リア の ダ マ ス キ ニ 派 作 品 にっ い て(二 宮)115
が 用 い られ て い る こ と を 指 摘 し て い る 。
『ド ゥ リ ノ ブ 説 教 集 』 『プ ロ トピ ン ス キ ・ダ マ ス キ ニ 』 No.432(HBCΦ)No.708(HBCΦ)
伊瞳rpaAHrpaノ 【OBe
qHHbI,qHHHqHHOBe
また 冠 詞 形 にっ い て は 『ドゥ リノ ブ 説 教 集 』 で は 書 写 した 人 が 古 ブ ル ガ リ ア語 の 書 式 伝 統 に従 って い る こ と か ら、 非 常 に稀 に しか み られ な い こ と、 そ れ に対 し 『プ ロ トピ ンス キ ・ダ マ ス キ ニ』 で は冠 詞 形 が 頻 繁 に用 い られ て お
り、 そ の 理 由 と して生 きた 言 葉 の確 立 を あ げ て い る。
例Tpane3aecTpane3aTae
Bo3HececeHaH60BT)3HececeHaHe6eTo
さ らに所 有 代 名 詞 に関 して は 『ドゥ リノ ブ説 教 集 』 で は格 変 化 を伴 った 所 有 代 名 詞 が 、 古 ブ ル ガ リア 語 と 同 じよ う に名 詞 の 後 に 置 か れ て い る 。 一 方
『プ ロ トピ ンス キ ・ダマ ス キ ニ』 で は 所 有 機 能 を 伴 った 短 形 与 格 代 名 詞 形 が 優 勢 で 、 こ の形 は 古 ブル ガ リア 語 に よ る文 献 で は稀 で あ る こ と を 指 摘 して い
る。
イ 聾oqHTBOHoqHTeTH
(10)
OTpOKOMbCBOHMMOHuHTeCH
これ らの例 か ら、作 品 が書 かれ た時期 や場所 と もに、作 品 を書写 した人 が 古 ブル ガ リア語 の書 き言葉 の伝統 を重 視す るのか 、あ るいは話 し言葉 を書 き 言葉 に反 映 させ る という姿勢 に立 って い るのかが大 き く影 響 して い る ことが わか る。
3.1r女 性 に 関 す る説 教 集 』 に つ い て
ペ ッ トカ ノ ヴ ァは そ の 著 書 の 中 で このr女 性 に 関 す る説 教 集 』 に関 し以 下 の よ う な説 明 を付 して い る。
「筆 跡 は 教 師 ト ドル ・ピル ドプ ス キ の 諸 説教 集 と 同 一 。 内 容 は 、 魔 女 、 害 毒 者 と人 殺 し、 女 預 言 者 に関 す る説 教 、 化 粧 と装 飾 品 を 身 に っ け る こ と に対 す る説 教 、 よ き女 性 に関 す る説 教 そ の他 を含 む 。 内 容 は ヨシ フ ・ブ ラ ダ テ ィ の諸 説 教 集 にみ られ る説 教 と 同 じで あ る が 、新 しい 時 期 に属 す る か 、 あ る い
く
は新 しい改 作 で あ る。」
筆 者 は 昨 夏 、 ソ フ ィア で このr女 性 に 関 す る説 教 集 』 を手 にす る こ とが で きた 。
(12}
キ リル ・メ トデ ィ国 立 図 書 館 の 古 文 書 室 に 、 こ の 説 教 集 の 写 本(761番) が あ った 。 全 一 二 九 葉 の 写 本 、 九 つ の 挿 し絵 っ き 、題 名 や 注 釈 そ して装 飾 は 朱 色 で施 され 、 手 の ひ らに ず っ し り と い った 感 じで あ った 。
写 本 の フ ィル ム撮 影 申請 を して、 紙 焼 き し、 そ れ を コ ピー し綴 じて ソ フ ィ ア大 学 附 属 ス ラ ヴ ・ビザ ンチ ィ ン ・ ドゥチ ェフ セ ン ター の ヴ ァシ ャ助 教 授 の 助 け を お か り し一 緒 に読 ん で い た だ い た 。
この 説 教 集 の写 本 は 筆 跡 に よれ ば ブル ガ リア の ト ドル ・ピル ドプ ス キ教 師
(13}
に よ る も の と され 、 時 代 を反 映 し、 十 九 世 紀 の ブル ガ リア 語 で 書 か れ て は い る も の の 、 西 方 言 に加 え 、 トル コ語 と ギ リシ ャ語 が 混 在 す る。 口承 文 学 と し て 普 及 し、 文 法 の つ じっ ま が 合 わ な い と こ ろが あ ち こ ち に 見 られ る。
聞 い た 説 教 を 記 憶 に も とつ い て 記 した も の だ か らで あ ろ うか 、 文 法 た と え ば 人 称 と動 詞 の 語 尾 変 化 の で た らめ な個 所 が と こ ろ ど こ ろ に み られ 、 俗 化
(バ ル ガ ナ イ ゼ ー シ ョン)を 起 こ して い る。
「お 聞 き な さ い 。 老 い も若 き も東 方 キ リス ト教 徒 よ。」 と は じま る 内 容 は
ブル ガ リア の ダ マ ス キ ニ 派 作 品 に つ い て(二 宮)117
魔 女 と妖 精 と 女 魔 術 師 が どれ ほ ど悪 い か 、 ま た これ らの も と に通 う人 々 も 同 罪 で 、 異 教 徒 で あ り悪 魔 の 使 い とす る。 次 に善 き 女 性 の 例 と して聖 女 伝 が 引 か れ 、hの エ ピ ソー ドが 続 く。 結 び の表 現 がす ば ら しい 「善 き 女 性 と い う の は あ た か も銀 の ご と く0見 わ か ら な い もの で あ る。」 と。
3.2r女 性 に 関 す る 説 教 集 』 の 言 語 的 特 徴
『女性 に関す る説教 集』 の なか には以下 の よ う な トル コ語 、 ブル ガ リア西 方言 の例 がみ られ る。
トル コ語 ブル ガ リア語 の意 味
3aMaxMxoro
XO凪a(イ ス ラ ム 教 の 聖 職 者)
capaHTeABOpeu 6apeMnOHe ノ章OK∫IHMara3Hx
西方言
xaxo
i
oTH
CTpyBaπacH
exHMe
KHH?KOBeH
xax
B墾)B
3aLLjOTO
HanpaBHJIaCH
JIeKap
む す び
以 上 、 ブ ル ガ リア の ダマ ス キ ニ 派 作 品 に っ い て 、 言 語 の 歴 史 、 書 き言 葉 と
話 し言 葉 の距 離 と い う 点 か ら、 ドン カ ・ペ トカ ノ ヴ ァに よ る 『ブ ル ガ リア文 学 に お け る ダ マ ス キ ニ 派 作 品』 を も と に検 討 して み た 。
文 化 の 父 パ イ シー が 民族 の 覚 醒 を 試 み る以 前 に 、 そ の 素 地 を ダマ ス キ ニ 派 作 品 が 作 って いた こ とが 明 らか に な った 。 オ リジ ナ ル の ギ リシ ャ語 『宝 典 集 』 が 翻 訳 者 、 書 き写 す 人 の 意識 に よ って 、 変 容 して い く様 子 も 明 らか に な った 。 しか し、 先 述 した よ う にペ トカ ノ ヴ ァが 「ダマ ス キ ニ文 学 を 部 分 的 に扱 う こ と は そ の 出現 と発 展 、 特 徴 に関 して 、 正 しい概 念 を与 え な い 。」 と指 摘 して い る よ う に 、200編 近 い ダキ ス キ ニ 派 作 品 の ひ とっ 『女 性 に 関 す る説 教 集 』 に つ い て も 、 部 分 的 な検 討 は完 全 な概 念 を与 え な い が 、 トル コ語 の 影 響 、 西 方 言 の要 素 、 ま た 書 き 手 の態 度 を垣 間 見 る こ と は で き る。
【参 考 文 献 】
佐 藤 純 一 『言 語 学 大 辞 典 』 下 一1P833‑840三 省 堂1992年
[注]
(1)且.neTKaHoBa,八aMacKHHHTeB6モ 、丑rapcKaハHTepaTypa,BAH.
cTp.14,CocpHA,1965 {2)TaMxce,cTp.13
(3)PeqHHKHa6T、 刀rapcKaTa汀HTepaTypalToM.cTp.304,CoΦHH 6る 訂rapcKaTaaKaノ 夏eHHHHaxayxHTe,1976
(4)几neTKaHoBa,cTp.13
(5)PeqHHKHa61,,πrapcKaTaJIHTepaTypa,cTp.305‑307 (6)几neTKaHoBa,cTp.4
(7)TaMxce,cTp.5 (8)TaM)Ke,cTp.237‑255 {9)TaMxce,cTp.214‑216 {10)TaMaxe,cTp.217 {11)TaMxce,cTp.253
(12)C60pHHKsaxcexKTe,No.761,HBCΦ.
(13)B.L【oHeB,OnHcT.II,c.425‑430,CoΦHH,1923