国内産鶏肉から検出されたサルモネラ属菌の血清型と薬剤耐性
(1992〜2012 年)
東京都健康安全研究センター微生物部
加藤 玲 松下 秀 下島優香子 石塚 理恵 貞升 健志 甲斐 明美
(平成 26 年 5 月 13 日受付)
(平成 26 年 8 月 22 日受理)
Key words : Salmonella, serovar, drug resistance, chicken
要 旨
国内産鶏肉から 1992〜2012 年の 21 年間に検出されたサルモネラ属菌について,その血清型と薬剤耐性の 面から検討を加えた.検査に供した生鶏肉は,東京都多摩地区で市販されていたもので,原産地は全国各地 である.
検討した 1,576 検体中 469 件からサルモネラ属菌が検出された.2 年括りで見た検出率は 10.1%〜46.3%,
全期間では 29.8% であった.
469 件から検出された 477 菌株は,型別不能の 2 株を除き 22 種の血清型に分類された.血清型 Infantis(312 株)が最も高頻度で,次いで II O4:b:[e,n,x](II Sofia)(71 株),Hadar(20 株),Typhimurium(20 株),
Manhattan(12 株),Schwarzengrund(9 株),Agona(7 株),その他 15 種血清型(24 株)であった.
12 種薬剤に対する薬剤感受性試験の結果,477 株中 429 株(89.9%)が耐性株で,そのうち 387 株は多剤 耐性であった.薬剤別耐性頻度は高い順に SM(81.8%),TC(77.8%),KM(45.5%),ST(33.3%),NA
(11.3%),ABPC(9.6%),CP(2.9%),FOM(0.6%),CTX(0.6%),CAZ(0.2%)で,NFLX および IPM 耐性株は検出されなかった.
CTX 耐性 3 株と CAZ 耐性 1 株は ESBL 産生株で,CTX-M 型 ESBL 産生株である前者の遺伝子グループ は CTX-M-2 group(2 株)および CTX-M-9 group(1 株)に分類されたが,後者の 1 株が保有する遺伝子 の種類は不明であった.
〔感染症誌 89:46〜52,2015〕
序 文
我が国では 1991 年に,鶏肉などに起因する危害発 生防止を目的とした「食鳥処理の事業の規則及び食鳥 検査に関する法律」が施行され,食鳥肉の安全性確保 が図られている1)2).我々も国内産鶏肉の衛生確保対策 として,1992 年以降東京都多摩地区の店舗で流通し ている生鶏肉における,各種食中毒起因菌の汚染状況 を調査してきている.その中の一種サルモネラ属菌に 関して 1992〜2012 年に分離された菌株の血清型およ び薬剤耐性について報告する.
材料と方法 1.被検鶏肉
検査に供した生鶏肉は,1992〜2012 年に,東京都 多摩地区で市販されていた 1,576 検体,いずれも国内 産で,原産地は全国各地である.
2.サルモネラ属菌の検査方法
細断した生鶏肉 25g に,前増菌培地として EEM 培 地(栄 研 化 学;東 京)あ る い は 緩 衝 ペ プ ト ン 水
(OXOID;UK)を 225mL 加え,35℃18 時間培養.そ の培養液を選択増菌培地のラパポート・バシリアディ ス 培 地(OXOID;UK)と テ ト ラ チ オ ネ ー ト 培 地
(OXOID;UK)に接種,42℃24 時間培養した.選択 分離平板には DHL 寒天培地(栄研化学;東京)と酵 素基質寒天培地のクロモアガーサルモネラ(関東化 原 著
別刷請求先:(〒169―0073)東京都新宿区百人町 3―24―1 東京都健康安全研究センター微生物部
加藤 玲
Table 1 Incidence of Salmonella detec- tion in domestic chicken meat (1992- 2012)
Year No. of samples No. of positives (%)
1992-93 228 43 (18.9)
1994-95 190 29 (15.3)
1996-97 152 45 (29.6)
1998-99 213 80 (37.6)
2000-01 220 83 (37.7)
2002-03 227 105 (46.3)
2004-05 103 16 (15.5)
2006-07 79 8 (10.1)
2008-09 97 33 (34.0)
2010-12 67 27 (40.3)
Total 1,576 469 (29.8)
Table 2 Serovars of Salmonella strains isolated from domestic chicken meat (1992-2012)
Serovar O-group No. of strains (%)
S. Infantis O7 312 (65.4)
S. II Sofia O4 71 (14.9)
S. Hadar O8 20 (4.2)
S. Typhimurium O4 20 (4.2)
S. Manhattan O8 12 (2.5)
S. Schwarzengrund O4 9 (1.9)
S. Agona O4 7 (1.5)
S. Virchow O7 4 (0.8)
S. Blockley O8 3 (0.6)
S. Bredeney O4 2 (0.4)
S. Enteritidis O9 2 (0.4)
S. Haifa O4 2 (0.4)
S. Thompson O7 2 (0.4)
S. Bareilly O7 1 (0.2)
S. Derby O4 1 (0.2)
S. Heidelberg O4 1 (0.2)
S. Minnesota O21 1 (0.2)
S. Montevideo O7 1 (0.2)
S. Newport O8 1 (0.2)
S. Senftenberg O1, 3, 19 1 (0.2)
S. Stanley O4 1 (0.2)
S. Weltevreden O3, 10 1 (0.2)
Untypable O8 2 (0.4)
Total 477 (100)
学;東京)を用いた.疑わしい集落について生化学的 性状試験を実施,サルモネラ属菌を同定した.分離菌 株の血清型別試験は,市販の診断用免疫血清(デンカ 生研;東京)を用いて常法3)に従い実施した.
3.薬剤耐性試験
市販の薬剤感受性用ディスク(センシディスク:日 本 BD)を用い,米国 Clinical and Laboratory Stan- dards Institute(CLSI:前 National Committee for Clinical Laboratory Standards)の抗菌剤ディスク感 受性試験実施基準4)に基づき行った.供試薬剤は,ク ロラムフェニコール(CP),テトラサイクリン(TC),
ストレプトマイシン(SM),カナマイ シ ン(KM),
アンピシリン(ABPC),スルファメトキサゾール・
トリメトプリム合剤(ST),ナリジクス酸(NA),ホ スホマイシン(FOM),ノルフロキサシン(NFLX),
セフォタキシム(CTX),セフタジジム(CAZ),イ ミペネム(IPM)の 12 種である.これらの薬剤に対 する判定は R(耐性),I(中間)および S(感受性)
の 3 段階である.この基準で R と判定された菌株を 耐性株とした.
4.ESBL 産生性と遺伝子検出
CTX および CAZ 耐性株については,基質特異性 拡 張 型β―ラ ク タ マ ー ゼ(extended-spectrum β- lactamase;ESBL)産生性を市販の検出用ディスク
(EtestESBL;AB Biodisk)で検討した.これは ESBL 阻害剤であるクラブラン酸(CVA)による耐性抑制 の有無により判定する.更に,産生株と判定されたも のについては,CTX-M 型 ESBL 遺伝子の検出と遺伝 的相関グループ(CTX-M-1 group,CTX-M-2 group,
CTX-M-8 group,CTX-M-9 group)の分類を兼ねた PCR,クラス A β―ラクタマーゼの TEM 型および SHV 型遺伝子を標的とした PCR を行って,産生する β―ラクタマーゼ型とグループを決定した5)6).
成 績 1.サルモネラ属菌の検出動向
サルモネラ属菌の検出動向を,1 年間の検体数が少 ない年を考慮して,2 年括り(2010 以降は 3 年間)で Table 1に示した.検討を始めた 1992〜93 年は 228 件 中 43 件(18.9%)から 検 出,1994〜95 年 は 190 件 中 29 件(15.3%)から検出された.以後急増し,1996〜
97 年 は 152 件 中 45 件(29.6%),1998〜99 年 は 213 件 中 80 件(37.6%),2000〜01 年 は 220 件 中 83 件
(37.7%)で,2002〜03 年 は 227 件 中 105 件(46.3%)
と検討期間中における最も高い検出率であった.その 後 2004〜05 年 は 103 件 中 16 件(15.5%),2006〜07 年は 79 件中 8 件(10.1%)と低下した.しかし 2008〜
09 年 が 97 件 中 33 件(34.0%),2010〜12 年 が 67 件 中 27 件(40.3%)と再び高い検出率となっている.全 期間では 1,576 検体中 469 件(29.8%)から検出され た.
2.検出サルモネラ属菌の血清型
サルモネラ属菌が検出された 469 件からの 477 菌株
(8 件からは 2 種類検出)の O 血清群は,O7 群 320 株,
O4 群 114 株,O8 群 38 株,O9 群 2 株,および O3,10 群,O1,3,19 群,O21 群がそれ ぞ れ 1 株 で あ っ た
(Table 2).O7 群が 67.1% を占めたが,8 株を除く 312 株 は 血 清 型 Infantis で あ っ た.Infantis(検 出 株 の 65.4%)の他,II Sofia(現在では II O4:b:[e,n,x]
Table 3 Serovars of Salmonella starins isolated from domestic chicken meat, by year (1992-2012)
Serovar Year
Total (%)
92-93 94-95 96-97 98-99 00-01 02-03 04-05 06-07 08-09 10-12
S. Infantis 3 7 23 58 66 90 13 4 27 21 312 (65.4)
S. II Sofia 24 13 14 11 5 4 0 0 0 0 71 (14.9)
S. Hadar 8 3 1 2 3 1 0 0 1 1 20 (4.2)
S. Typhimurium 2 1 4 2 4 5 0 1 1 0 20 (4.2)
S. Manhattan 0 0 1 0 1 5 1 0 2 2 12 (2.5)
S. Schwarzengrund 1 0 0 3 0 1 0 1 1 2 9 (1.9)
S. Agona 0 1 0 0 3 0 1 0 1 1 7 (1.5)
Others 8 4 4 4 1 1 1 2 1 0 26 (5.5)
Total 46 29 47 80 83 107 16 8 34 27 477 (100)
Table 4 Drug-resitance of Salmonella strains isolated from domestic chicken meat (1992-2012)
Year No. of strains No. of resistants (%)
1992-93 46 37 (80.4)
1994-95 29 25 (86.2)
1996-97 47 41 (87.2)
1998-99 80 79 (98.8)
2000-01 83 75 (90.4)
2002-03 107 96 (89.7)
2004-05 16 13 (81.3)
2006-07 8 5 (62.5)
2008-09 34 31 (91.2)
2010-12 27 27 (100)
Total 477 429 (89.9)
Drugs tested: CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, FOM, NFLX, CTX, CAZ, IPM
Table 5 Drug-resistance of Salmonella starains isolated from domestic chicken meat, by serovar (1992-2012)
Serovar No. of strains No. of resistants (%)
S. Infantis 312 299 (95.8)
S. II Sofia 71 52 (73.2)
S. Hadar 20 19 (95.0)
S. Typhimurium 20 20 (100)
S. Manhattan 12 12 (100)
S. Schwarzengrund 9 7 (77.8)
S. Agona 7 3 (42.9)
Others 26 17 (65.4)
Total 477 429 (89.9)
Drugs tested: CP, TC ,SM, KM, ABPC, ST, NA, FOM, NFLX, CTX, CAZ, IPM
と表記されるが,本稿では従来の表記法とした)71 株(14.9%),Hadar 20 株(4.2%),Typhimurium 20 株(4.2%),Manhattan 12 株(2.5%),Schwarzengrund 9 株(1.9%),Agona 7 株(1.5%)など,22 種の血清 型に分類された.O8 群の 2 株は,運動性は有するが,
いずれの H 抗血清にも反応しなかったので型別不能
(Untypable)とした.
主な血清型菌の年次別検出状況を Table 3に示し た.Infantis は 1996〜97 年以降,各年次において最 も高率に検出されている.Typhimurium は 2003 年 まで 18 株検出されたがそれ以降は 2 株であった.II Sofia は 1992〜93 年,1994〜95 年において 最 も 高 率 に検出され,その後も 2002〜03 年までは検出された が,それ以降検出されていない.
3.検出サルモネラ属菌の薬剤耐性
検出されたサルモネラ属菌の年次別耐性菌出現状況 を Table 4に示した.2006〜07 年は検出菌株数が少な く,耐性率も 62.5% と若干低かったが,他の年次に おいては 80% 以上の高い耐性率であった.全体では 477 株中 429 株が,供試した薬剤に対し多剤耐性(387
株)あるいは単剤耐性(42 株)を示し,89.9% の耐 性率であった.
各血清型菌における耐性菌出現状況を Table 5に示 した.Infantis 312 株では 299 株(95.8%)と高い耐 性率であった.Typhimurium(20 株),Manhattan(12 株)は全株が耐性株であった.その他,II Sofia では 71 株 中 52 株(73.2%),Hadar で は 20 株 中 19 株
(95.0%),Schwarzengrund で は 9 株 中 7 株(77.8%),
Agona では 7 株中 3 株(42.9%)が耐性株であった.
供試薬剤別に見た耐性頻度を Table 6に示した.全 体的に見て耐性率が高かったのは SM(81.8%)およ び TC(77.8%)で,次いで KM(45.5%),ST(33.3%)
であった.NA 耐性率は全体では 11.3% であったが,
Typhimurium では 65.0%,Manhattan では 33.3% と 高率であった.ABPC 耐性は 9.6%,CP 耐性は 2.9%,
FOM 耐性 は 0.6%,CTX 耐 性 は 0.6%,CAZ 耐 性 は 0.2% に認められたが,NFLX および IPM 耐性株は検 出されなかった.
312 株と全体の 65.4% を占めた血清型 Infantis の耐 性パターンを Table 7に示した.26 種のパターンが認 められており,TC と SM の両者を含む耐性株が主体 で,TC!SM!KM!ST(95 株),TC!SM!KM(60 株),
Table 6 Drug-resistance of Salmonella strains isolated from domestic chicken meat, by drug (1992-2012)
Serovar No. of
strains
No. of resistants
(%)
% of strains resistant to indicated drugs
CP TC SM KM ABPC ST NA FOM NFLX CTX CAZ IPM
S. Infantis 312 299 (95.8) 0.3 93.6 91.7 59.3 3.8 48.4 8.3 0 0 0.6 0 0
S. II Sofia 71 52 (73.2) 0 26.8 62 0 8.5 0 8.5 4.2 0 0 0 0
S. Hadar 20 19 (95.0) 5 95 95 50 35 5 10 0 0 5 0 0
S. Typhimurium 20 20 (100) 30 85 55 65 85 10 65 0 0 0 0 0
S. Manhattan 12 12 (100) 0 91.7 100 0 8.3 0 33.3 0 0 0 8.3 0
S. Schwarzengrund 9 7 (77.8) 0 55.6 66.7 44.4 0 33.3 0 0 0 0 0 0
S. Agona 7 3 (42.9) 0 28.6 42.9 0 0 0 0 0 0 0 0 0
Others 26 17 (65.4) 23.1 23.1 33.1 19.2 11.5 7.7 11.5 0 0 0 0 0
Total 477 429 (89.9) 2.9 77.8 81.8 45.5 9.6 33.3 11.3 0.6 0 0.6 0.2 0
Table 7 Drug-resistance patterns of Salmonella Infantis isolated from domestic chicken meat (1992-2012)
Resistance pattern No.of
strains (%)
TC SM KM ABPC ST 3 (1.0)
TC SM KM ST NA 9 (2.9)
TC SM ABPC ST CTX 1 (0.3)
TC SM KM ABPC 1 (0.3)
TC SM KM ST 95 (30.4)
TC SM KM NA 5 (1.6)
TC SM ABPC ST 1 (0.3)
TC SM ABPC CTX 1 (0.3)
TC SM ST NA 2 (0.6)
SM KM ABPC ST 1 (0.3)
TC SM KM 60 (19.2)
TC SM ABPC 3 (1.0)
TC SM ST 35 (11.2)
TC SM NA 8 (2.6)
TC KM ST 2 (0.6)
TC KM NA 1 (0.3)
SM ABPC ST 1 (0.3)
CP TC 1 (0.3)
TC SM 57 (18.3)
TC KM 5 (1.6)
SM KM 1 (0.3)
SM ST 1 (0.3)
KM NA 1 (0.3)
TC 2 (0.6)
SM 1 (0.3)
KM 1 (0.3)
- 13 (4.2)
Total 312 (100)
Drugs tested: CP, TC, SM, KM, ABPC, ST, NA, FOM, NFLX, CTX, CAZ, IPM
TC!SM(57 株),TC!SM!ST(35 株)が主要耐性パ ターンであった.なお,CTX を含む多剤耐性株が 2 株検出されている.II Sofia の耐性 52 株の主要耐性パ ターンは SM 単剤(23 株),TC!SM(10 株)であっ た.Hadar の耐性 19 株の主要耐性パターンは TC!SM
(5 株),TC!SM!KM!ABPC(4 株)で,CTX を含む 多剤耐性株も 1 株検出されている.Typhimurium の 耐性 20 株では 4 剤以上の多剤耐性株が 15 株を占め,
耐性パターンは CP!TC!ABPC!NA(4 株),TC!SM!
KM!ABPC!NA(3 株),TC!SM!KM!ABPC!ST!NA
(2 株)など多岐にわたっていた.Manhattan の耐性 12 株の耐性パターンは,TC!SM(7 株),TC!SM!NA
(3 株),TC!SM!ABPC!NA!CAZ(1 株),ABPC 単 剤(1 株)であった.
4.ESBL 産生性と遺伝子の種類・分類
CTX 耐性 3 株に対する CTX の最小発育阻止濃度
(MIC)値はいずれも>16μg!mL で,CTX+CVA に おける MIC 値は 0.032〜0.064μg!mL であった.CAZ
Table 8 ESBL-producing Salmonella strains isolated from domestic chicken meat
Strain Year of
isolation Serovar Drug-resistance pattern ESBL-group
TBS09-8 2009 S. Infantis TC/SM/ABPC/CTX CTX-M-2 group
TBS11-1 2011 S. Hadar TC/SM/ABPC/NA/CTX CTX-M-2 group
TBS11-2 2011 S. Infantis TC/SM/ABPC/ST/CTX CTX-M-9 group
TBS11-8 2011 S. Manhattan TC/SM/ABPC/NA/CAZ not determined
Drugs tested: CP, TC, SM ,KM, ABPC, ST, NA, FOM, NFLX, CTX, CAZ, IPM
耐 性 1 株 に 対 す る CAZ の MIC 値 は>64μg!mL で,
CAZ+CVA に お け る MIC 値 は 0.125μg!mL で あ っ た.以上のごとく,これら 4 株は CVA による耐性抑 制が顕著に認められ,ESBL 産生株と判定した.それ らの分離年,血清型,耐性パターンおよび ESBL 遺 伝子グループを Table 8にまとめた.2009 年分離の 1 株 は 血 清 型 Infantis で 遺 伝 子 グ ル ー プ は CTX-M-2 group,2011 年の分離株で Hadar は CTX-M-2 group,
Infantis は CTX-M-9 group であった.Manhattan は 検討したプライマーによる PCR 法には反応せず遺伝 子の種類は不明であった.
考 察
我が国における食中毒発生状況を見ると,サルモネ ラ属菌を起因物質とする事例は,毎年件数,患者数と も上位にランクされ,依然として公衆衛生上重要な問 題となっている7)〜9).我々はその対策の一環として,東 京都多摩地区の店舗で販売されている国内産鶏肉にお けるサルモネラ属菌汚染状況について,1992 年以降 継続的に調査してきている.加えて,分離された菌株 については,血清型別試験および薬剤耐性試験を実施 している.
サルモネラ属菌の検出状況を見ると,1992〜93 年 および 1994〜05 年は 20% 以下の検出率であったが,
以降急増し 2002〜03 年には 46.3% となった.その後,
理由は不明だが 2004〜05 年からは減少し,2006〜07 年 は 10.1% で あ っ た.し か し そ の 後 は 再 び 上 昇 し 2010〜12 年は 40.3% で,近年においても高い検出率 であった.他の地域における報告10)〜13)でも高い検出率 が示されており,その改善が強く望まれる状況が続い ている.
検出されたサルモネラ属菌の血清型について見る と,Infantis が最も高頻度で,全分離 477 菌株中 312 株(65.4%)を占めていた.これは,他の地域での報
告10)〜13)でも同様であった.国内各地で飼育されている
ブロイラーの糞便を調査した成績14)においても Infan- tis が高率に検出されていることより,この鶏肉汚染 は,おそらく腸管に存在する菌によることが推測され る.ヒトから検出される各種血清型の頻度においても Infantis は毎年上位を占めており7)〜9),本血清型菌に
よる鶏肉汚染とヒト下痢症(食中毒)とは,深く関連 しているものと考えられる.Infantis の検出頻度は 1996〜97 年より急増,以降各年次とも最も高い検出 率で推移しており,今後の動向が注目される.なお,
近年ヒトから最も高頻度に検出され7)〜9),鶏卵汚染と の因果関係が確認されている Enteritidis は 2 株のみ で,鶏肉汚染と鶏卵汚染の関連性は小さいものと考え られた.
分離菌株の薬剤耐性に関しては,過半数を占める In- fantis の耐性率が 95.8% と高いことを反映して,全体 でも 89.9% の耐性率であった.供試薬剤別に見た耐 性頻度は,高い順に SM(81.8%),TC(77.8%),KM
(45.5%),ST(33.3%),NA(11.3%),ABPC(9.6%),
CP(2.9%),FOM(0.6%),CTX(0.6%),CAZ(0.2%)
であった.サルモネラ感染症の治療に汎用され,耐性 菌の出現が報告されてきている15)16)ニューキノロン系 薬剤(NQ)である NFLX に対する耐性菌は,今回の 検討では検出されなかった.ただし,旧キノロン系薬 剤である NA 耐性菌は NQ に低感受性を示し,NQ に よる治療,除菌に難儀をきたす場合があるので注意を 要する15).IPM については,メタロ―β―ラクタマーゼ 産生菌の出現監視の目的で検討しているが,耐性ある いは低感受性を示す株は認められなかった.
近年,第 3 世代セフェム系薬剤に対しても耐性を示 す ESBL 産生菌が,ヒト臨床サイドで大きな問題と なっている17).サルモネラ属菌に関しても,ESBL 産 生菌の報告18)19)が散見されるが,今回の鶏肉からの分 離株においても 2009 年以降に 4 株認められた.CTX- M 型 ESBL 産生株であった CTX 耐性 3 株の遺伝子グ ループは CTX-M-2 group が 2 株,CTX-M-9 group が 1 株で,鶏肉から検出される ESBL 産生菌において認 められている19)〜21)遺伝子グループであった.なお,遺 伝子の種類が不明の CAZ 耐性の 1 株については現在 検討を進めている.国内では養鶏でセフェム系薬剤は 使用されていないと理解しているが,飼育環境に汚染 源の存在が疑われる22).その動向には厳重な監視が必 要で,早急な対策が望まれる.
謝辞:本論文は,東京都健康安全研究センター(旧 東京都立衛生研究所)多摩支所衛生細菌研究室(2012
年で業務終了)で分離された菌株についての検討成績 である.長い期間ご協力いただいた関係者各位に深謝 申し上げます.
利益相反自己申告:申告すべきものなし 文 献
1)高谷 幸:食鳥検査制度導入の背景とその概要.
獣畜新報 1991;44:141―6.
2)厚生省生活衛生局乳肉衛生課監修:食鳥処理衛 生管理ハンドブック(1997).
3)善養寺浩,坂井千三,寺山 武,工藤泰雄,伊 藤 武:腸管系病原菌の検査法;第 4 版.医学 書院,東京,1985;p. 171―91.
4)National Committee for Clinical Laboratory Standards:M100-S12 Performance standard for antimicrobial disk susceptibility tests. NCCLS, Villanova, 2002.
5)Yagi T, Kurokawa H, Shibata N, Shibayama K, Arakawa Y:A preliminary survey of exten- ded-spectrum β-lactamases (ESBLs) in clinical isolates of Klebsiella pneumoniae and Escherichia coliin Japan. FEMS Microbiol Lett 2000;184:
53―6.
6)Shibata N, Kurokawa H, Doi Y, Yagi T, Yamane K, Wachino J,et al.:PCR classification of CTX- M-typeβ-lactamase genes identified in clinically isolated gram-negative bacilli in Japan. Antimi- crob Agents Chemother 2006;50:791―5.
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Serovars and Drug-Resistance ofSalmonellaStrains Isolated from Domestic Chicken Meat in Tokyo (1992-2012)
Rei KATOH, Shigeru MATSUSHITA, Yukako SHIMOJIMA, Rie ISHITSUKA, Kenji SADAMASU & Akemi KAI
Department of Microbiology, Tokyo Metropolitan Institute of Public Health
A total of 477 Salmonellastrains isolated from retail domestic chicken meat during 1992-2012 in Tokyo, were examined regarding their serovars and drug-resistance. These strains were detected in 469 (29.8%) of 1,576 samples. The detection rate in every two years was 10.1% to 46.3% of the range.
Serological typing results showed that 477 strains were classified into 22 serovars excepting 2 untypa- ble strains. Among them,S. Infantis (312 strains) was the most prevalent, followed by II O4 : b : [e, n, x] (S. II Sofia) (71 strains),S. Hadar (20 strains),S. Typhimurium (20 strains), S. Manhattan (12 strains), S. Schwarzen- grund (9 strains),S. Agona (7 strains), and other 15 serovars (24 strains).
Results of the antibacterial drug susceptibility test for 477 strains revealed that 89.9% was resistant to some of the 12 drugs tested, and multidrug-resistant strains accounted for 90.2% among them. The frequen- cies of resistance to each drug were 81.8%, 77.8%, 45.5%, 33.3%, 11.3%, 9.6%, 2.9%, 0.6%, 0.6% and 0.2%, in order with high frequency, for SM, TC, KM, ST, NA, ABPC, CP, FOM, CTX and CAZ, respectively. None of the strains was resistant to NFLX or IPM.
Three CTX-resistant strains were CTX-M type extended-spectrum β-lactamase (ESBL) producers, and the group of CTX-M type ESBL genes were CTX-M-2 group (2 strains) and CTX-M-9 group (1 strain). CAZ- resistant 1 strain was an ESBL producer, but the ESBL gene was not determined.