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A Study of Based Technology Education upon the Situationof Forestry in Aomori

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(1)

 弘前大学教育学部技術教育講座非常勤講師

  Lecturer(Non-Full-time), Department of Technology Education, Faculty of Education, Hirosaki University.

**弘前大学教育学部技術教育講座

  Department of Technology Education,Faculty of Education, Hirosaki University.

1. はじめに

 平成22年度,青森県弘前市において全国中学校技 術・家庭科教育研究大会(以下,技・家研全国大会)

が開催される。この大会へむけて,公開授業を担当す る弘前地区の中学校ではさまざまに実習内容や授業内 容への工夫が進められているものと思われる。折しも 平成24年度には学習指導要領(以下,指導要領)が改 訂される1)。ものづくりの領域においては,材料の特 徴をよく知り,その特徴に則った活用を図るととも に,その技術(それに用いられる材料も含む)が産業 発展にどのように役立てられているか,また環境とど のような関係があるかという技術の有用性を考えるこ とが求められることとなった。技・家研全国大会には こういった新しく要求される学習内容と学習の目的・

結果を射程に入れての提案が要請されており,公開授 業においてこれらに対してどのような提示が行われる かが注目されるところである。

 さて「地域産業」「環境」「活用」という三つの言葉 が重要なものとして意識されると「地場産の木材」が 教材として取り上げられる可能性が高まるであろう。

平成21年度,奈良県を舞台にした技・家研全国大会で も地場産「吉野杉」が教材として提案された。

 本論は指導要領の要求する如上三要素を全うする教 材として青森県産木材を扱う方法について検討するこ とを目的とする。研究方法としては,まず青森県産木 材,林業状態を明確にする。イメージではなく,青森 県の具体的木材生産状況を把握し,その上で青森県に おける地場産木材の歴史的な利用状況を踏まえる。次 いで青森県津軽地域で実施した技術科木工教材の利用 状況調査に基づき,当該地区における教材選定の傾向 を探る。現状の教材利用で指導要領の求める「伝統文 化と地域」「社会と環境」「技術の評価・活用」の三要 素の理解を全うすることが可能か,また青森県産木材 を利用することでどのような優位性があり得るのかを

青森県林業と中学校技術科単元「材料と加工の技術」教材の一考察

-地域産業・環境・活用の視点-

A Study of Based Technology Education upon the Situation of Forestry in Aomori

~ A Viewpoint of Local Industry,Environmental Education,Application ~ 福眞 睦城

・荒井 一成

**

・大谷 良光

**

Mutsuki FUKUMA・Kazushige ARAI・Yoshimitsu OTANI

 

論文要旨

 平成24年度実施の中学校技術・家庭科学習指導要領において「伝統文化と地域」「社会や環境」「技術の評価・活 用」が強調された。本論では青森県に植生する樹木と林業環境を概観し県木ヒバの植生,生産の困難な状況を明ら かにした。また白神山地が世界遺産に指定された効果や観光ブームによってブナが新しい県のイメージになりつつ あることを論じ,ヒバとブナを教材としての「青森県産木材」と定義づけた。青森県産木材の教材利用において素 材の特徴に基づいた活用が行えること,さらに各地域においてそれがどのように利用され,歴史遺産や地域産業に 結びついてきたか,また身近な風景を形成しているのかという大きな環境意識の育成まで行うことができることを 指摘した。

キーワード:青森県産木材,ヒバ・ブナ,木材加工,学習指導要領,中学校技術科教材

(2)

探る。

 本来,技術科は産業を通じて社会を認識させ,ひい ては職業観の涵養や進路意識の萌芽を目指すという非 常に広汎な教養的要素を求められる教科だと認識して いる。ならば教材となる木材が地域において果たして きた役割をその土台として知っておくことは必須のこ とである。我が国林業は輸入材に押されて産業,経済 統計レベルではその比重は極めて小さい。しかし今日 の森林は世界遺産屋久島,知床半島,白神山地のごと く産業の土壌という側面だけでなく環境を考えるため の存在でもある。明治以前,我が国はほとんどの物 産,エネルギー資源を国内だけでまかない,安定した 国民生活を維持させてきた。今言うところの循環型社 会が完成していたのである。これは世界的にも希有な 事例であり,先人の環境との共生に対する優れた意識 を認めることが出来る。その先人が青森県産木材とい う資源とどのように付き合ってきたのかについても明 らかにしておきたい。

 また教材とは感覚的な理解=感性に訴え次いで概 念把握につなげられるものが必要であることが指摘2)

されている。加えて技術科の取り上げる分野=産業・

技術分野は極めて広く複雑である。よって授業ではど の分野のどの側面を取り上げるのかを絞り込み,その 中で生産技能や技術に関する科学的概念を具現した

「典型的な教材」を見いだして提示する重要性が説か れている3)。こういった授業の前提,定義づけがあっ てこそ「なぜその素材を教材として使うのか」という 意義づけが出てくると考えられる。

 如上,どんな教材に何を語らせ,そこから何を紡ぎ 出すかという明確な定義,目的意識をもって取り組む 素材を選定し授業に臨まなければならないということ は明白である。以下,地域の特産材を教材利用する場 合の優位性と意義づけについて考察をしていく。

2.地場産木材の利用 2.1 林業の現状

 今日,林野業が産業全体に占める割合は極めて小 さい。以下「林業関係基本指標4)」(表1)によって 概観していこう。平成19年度国内総生産515兆8千億円 余に占める林業は4.8千億円程度でわずかに0.09%であ る。ちなみに昭和55年度,国内総生産額はおよそ半 分で240兆円余であるが林業生産額は8

.

3千億円程度で 0.34%である。27年の間に国内総生産は倍増し,林業 生産額は半減している。林業従事者も減少傾向にあり 昭和55年の19万人から平成19年は5万人まで減少して

いる。一方,森林が国土に占める割合は67%台,国土 の3分の2を占める状態に変化はない。

 国も手をこまねいて林野業の衰退傾向を見ているわ けでない。平成8年には「林業労働力の確保の促進に 関する法律」を成立させ,当時の労働省(現厚生労働 省)と林野庁の共同で各都道府県に林業労働力確保支 援センターを稼働させた。このセンターは林業従事者 の雇用安定,労働環境の改善整備,新規就業者の募集 や指導などにあたり,各地域において林業の衰退防止 に一定の役割を果たしている5)。県面積の80%弱を森 林が覆う長野県の事例を見てみよう。林業従事者総数 は平成7年の3,020人から平成18年は2,600人余に減少 しており,県目標の3,700人の確保には遠く及んでい ない。それでも年平均の新規就労者数が100名を越え,

就労者平均年齢が若返りを果たすなどこの事業は一定 の成果を上げている6)

 また一般に「林業」生産といった場合,木材生産だ けをイメージしがちである。しかし林業産出額内訳は 木材生産,薪炭生産,栽培きのこ類生産などに分類さ れ(表2)7),木を切り出すだけが林業ではない。木 材の生産額が年々減少傾向にある中,栽培きのこ類生 産額は横ばいで推移しており,平成19年では林業全体 の産出額4.4千億円のほぼ半分が木材生産以外で占め られている。

表2 林業産出額及び生産林業所得(全国)

(千万円)

区   分 H2年 H7年 H12年 H15年 H16年 H17年 H18年 H19年 林業産出額 97,714 7,055 53,110 44,842 43,461 41,677 43,216 44,144

木材生産 72,814 52,661 32,213 23,142 22,048 21,023 21,708 22,558 針葉樹材 55,250 43,676 26,533 19,543 18,776 17741 18,389 19,520

(スギ) 21,502 18,739 12,378 9,264 9,250 8,753 9,259 10,277 広葉樹材 16,870 8,602 5,472 3,452 3,158 3,171 3,219 2,938 薪炭生産 826 793 616 755 649 609 560 548 栽培きのこ類生産 22,943 21,832 19,689 20,665 20,364 19,850 20,705 20,830 林野副産物採取 1,132 770 592 279 400 196 243 208 生産林業所得 70,248 53,291 35,187 28,301 26,394 24,560 24,878 24,639

表1 林業関係基本指標(全国)

項    目 単位 S55年 H2年 H7年 H12年 H15年 H16年 H17年 H18年 H19年

①国内総生産 千億円2409.6 4401.2 4969.2 5029.9 4902.9 4983.3 5017.3 5073.6 5158.0

千億円 8.3 6.6 7 8.9 5.8 5.3 4.5 4.8 4.8

林業 / 総生産 0.34 0.15 0.14 0.18 0.12 0.11 0.09 0.09 0.09

②就業者総数 万人 5,536 6,249 6,457 6,446 6,316 6,329 6,356 6,382 6,412

万人 19 11 9 7 6 6 6 6 5

林業 / 総就業 0.34 0.18 0.14 0.11 0.09 0.09 0.09 0.09 0.08

③国土面積 万ha 3,777 3,777 3,778 3,779 3,779 3,779 3,779 3,779 3,779

④ 森 林 面 積 万ha 2,528 2,521 2,515 2,515 2,512 2,512 2,512 2,512 2,510 森 林 / 国 土 67.8 67.6 67.5 67.5 67.4 67.4 67.4 67.4 67.3

⑤ 保 安 林 面 積 万ha 732 830 857 893 1,019 1,133 1,165 1,176 1,188 保安林 / 森林 29 32.9 34.1 35.5 40.6 45.1 46.4 46.8 47.3

⑥ 森 林 蓄 積 億 25 31 35 35 40 40 40 40 44

⑦木材(用材)需要(供給)量 万 10,896 11,116 11,192 9,926 8,719 8,980 8,586 8,679 8,236 国 内 生 産 量 万 3,456 2,937 2,292 1,802 1,616 1,656 1,718 1,762 1,863 万 7,441 8,179 8,901 8,124 7,104 7,325 6,868 6,917 6,374 木材(用材)自給率 31.7 26.4 20.5 18.2 18.5 18.4 20 20.3 22.6

⑧新設住宅着工戸数 万戸 127 171 147 123 116 119 124 129 106

59.2 42.6 45.3 45.2 45.1 45.5 43.9 43.3 47.6

(3)

 さて青森県林業8)であるが,森林面積は636千ha余 で県の総面積66

.

2%,全国森林面積に占める割合は 2.5%である。内訳は国有林が62%,県営林を含む民 有林が38%程度である。全国森林面積でみた場合,国 有林が30%,民有林が70%となるので青森県の森林保 有状況は逆である。

 木材の生産量は平成18年で568千立方m,国内生産 量に占める割合は3%程度である。林業従事者は青森 県も減少傾向に歯止めがかかっていない。既述の林業 労働力確保センターとして「社団法人青い森農林振 興公社」が認定を受けて雇用の確保に向けた取り組み を行い,県独自には「青森県森林整備担い手対策基 金」の創設を行うなどの動きをしている。しかしなが ら昭和35年の1万1千人余をピークに減少が止まらず 苦しい状況が続いている。平成17年度国勢調査の結果 に拠れば全県で林業に従事するのは1,560人,全県の 15歳以上就業者数685千人余に占める割合はわずかに 0.2%である。また,長野県の様に就労者年齢の若返 りに成功する例がある中で青森県は就労者の高齢化に 歯止めがかからず,60歳以上の占める割合が36%に達 する一方,40歳未満が17.3%の低位にある。これは森 林を多く保有する地域の少子高齢化,過疎化のスピー ドが早いという事情も色濃く反映しているが,産業の 継続,森林の維持という面で深刻に憂慮すべき状態に ある。

 このように生産の場としての林業は輸入材の増加や 低価格志向による価格低迷,人材不足にともなう経営 効率の悪さにより産業としての魅力を発信することが 非常に困難になっている。その一方,我々が森林に求 めものは非常に多様で重要なものになっているという 現実がある。我々は森林に土砂災害をはじめとする災 害防止,洪水や渇水を防ぐという水源保全,空気の清 浄化という国土保全の機能を担わせてきた。昨今では 地球規模で叫ばれる地球温暖化予防,多様な生物の種 の保存,さらには自然林が世界遺産に登録されること で森林は人類共有の文化的存在,学習の場として一段 の注目を集め,経済的機能以上の存在になりつつあ る。

 我々はこういった厳しい林業や森林の実態について 学ぶ機会をほとんど持っていないのである。

2.2 青森県産木材について

 青森県は全国の木材生産量の3%を産出している。

わけても地域ごとに樹種を異にし,豊富な種類の木材 を産出するという特徴を持つ。それでは「青森県内の 樹種別蓄積9)」(表3)「青森県における主要樹種別素

材生産量10)」(表4)を基に,青森県産出の木材につ いてみる。

2.2.1 スギ材

 青森県産木材として蓄積量,産出量ともに圧倒的な のはスギである。青森県は「県産木材住宅に対する助 成事業」の実施を行い,県産スギを利用した住宅建設 を推奨してきた11)。県の林野行政において大いに利用 されるべき青森県産木材といえばスギという認識がこ こからも看取されるだろう。現在も計画的な植林の成 果によって安定的な供給が継続しており今後もこの傾 向は持続すると見られる。

2.2.2 パイン材

 パイン材も三八地区を中心に供給が行われ,身近な 木材として利用されている。建築材料としてはもとよ り,リンゴ箱などの形で津軽地区でも目に触れること が多い。青森県は本州で唯一,松食い虫被害を受けて いない県であるため生産量が安定した供給地となって いる。特に地味の痩せた土地での生育も可能という特 徴から三八上北地方では木材としての生産が盛んであ る。また,津軽地方の西海岸では痩せ地に育つ特徴を 活かし防風・防砂林としての植林が藩政時代から行わ れた。これにより独特の青松風景を形成している。地 域により材木としてあるいは立木と差が見られるのも 特徴である。

表3 青森県内の樹種別蓄積

(千)

 針 葉 樹

総数 スギ アカマツ クロマツ ヒバ カラマツ その他 68,346 40,519 8,100 2,428 12,930 3,648 721  広 葉 樹

総数 ブナ ナラ類 その他

38,946 14,796 1,708 22,442

表4 青森県における主要樹種別素材生産量

(千)

年次

針葉樹 広葉樹

クロマツアカマツ カラマツ トドマツエゾマツ

H 9年 736 562 88 308 0 38 0 128 174 4 62 108 H10年 645 486 76 272 1 32 0 105 159 6 49 104 H11年 625 490 72 289 1 29 0 99 135 9 31 95 H12年 612 486 90 277 1 32 2 84 126 9 29 88 H13年 541 439 55 271 1 36 1 75 102 6 13 83 H14年 493 394 64 237 4 27 2 61 99 5 9 85 H15年 517 425 63 270 0 31 0 60 92 4 9 79 H16年 552 458 65 304 0 36 0 53 94 7 9 78 H17年 581 484 76 341 0 28 0 39 97 29 8 60 H18年 568 485 75 348 0 32 1 30 83 9 5 69

(4)

 『東奥日報』平成21年2月24日付朝刊によれば日本 造園組合連合会青森県支部が「南部アカマツ」を伊勢 神宮へ献木している。すなわちアカマツが青森県を代 表する樹種という認識が県内外に存在すると見てよ い。

2.2.3 ヒバ材

 青森県在住者にとって県を代表する木材,青森県産 木材といえば「青森ヒバ」ではないだろうか。なによ りヒバ樹は青森県の県木と定められ12),別称「あすな ろ」は昭和52年「あすなろ国体」として全国に発信さ れた。またいつ,誰が言い始めたか不明であるが木曾 檜,秋田杉とならぶ日本三大美林13)に青森県のヒバ を列格して美称するのも青森県ならではだろう。しか しヒバ材を取り巻く現状は厳しい。「美林」といいう るほどの密生地域は希である。内外の認識差も大き い。県民にとっては代表樹であるが,建築関係者を除 けば県外一般での知名度は希薄であると思われる。

 こういった県木認識と実態のずれは数字によっても 裏づけられる。ヒバの森林面積は極めて小さく,民有 林面積のわずか1%,国有林でようやく12%を占める 程度であり,県内森林面積全体ではわずかに8%とい う状態である。これではこれが県木のヒバ樹だと自信 を持って立木を指し示せる県民がどれだけいるか心許 ないと言わざるを得ない。素材生産量(平成18年)に しても総量の5%未満にすぎない状況である。さらに 平成21年4月10日,東北森林管理局青森事務所は「森 林の公益性や将来にわたって持続可能な供給量を維持 する観点」から伐採量の抑制を打ち出し,当年の伐 採量を前年比2割減の15千立方mとする旨を発表した。

この中で需要の高い50㎝径以上の木がまだ生育途中に あること,増伐予定はないこと,平成24年までは平均 7千立方m程度まで伐採量を減少させるといった見通 しが示された14)。ヒバ樹が我々の身近な存在ではなく なるばかりか,経済の一翼を担う存在からも遠ざかっ ているのが現実である。唯一,青森県の特産であると 主張しうる根拠は少ない絶対量ながら国内ヒバ林の 80%近くが青森県に集中しているということだけであ る。建築関係者以外に「ヒバ材は特産品」と訴えにく い理由はこうした存在の希薄さも要因であろう。

 県木をヒバ樹と定めたのは昭和41年であった。当 時,ヒバ材の生産量(伐採量)はピークを迎えてお り平成18年のおよそ17倍に近いものだった(図1)15)。 県民にとってもヒバ樹が県経済を支える主要な存在と いう広い認識があったことだろう。筆者が五所川原市 金木地区等で聞き取り調査を実施した結果でも昭和30

年から40年くらいが材木で地域が最も栄えていたとい う。「青森県産木材といえばヒバ」という今に残る感 覚はこうした映像の残滓と思われる。誤解を恐れず言 えば産業面,生育状況の面からもヒバ樹は「名ばかり 県木」になりつつあると思われてならない。

2.2.4 ブナ材

 青森県有数の観光資源として注目を浴びているのが 世界遺産白神山地で,国内有数のブナを中心とした広 葉樹林である。ブナは岩木山麓・八甲田山系一帯,そ して白神山地と広範囲に分布しており,県内森林面積 全体の15%を超える。特に青森県国有林の23%を占め ており,ナラ他の広葉樹と共に青森県の景観や文化へ 大きな影響を与えている。立木面積や立木蓄積量は かなりのものであるが,素材生産量は減少傾向にあ る。平成18年度には木材生産量の1%未満に過ぎなく なった。ブナ材の木材生産量の減少は北洋材と称され るヨーロッパ産のブナ材が大量に輸入されるようにな り,生産合理性の面から国産材が敬遠されたことに主 たる原因が求められる。

 とすれば,青森県産木材としてのブナはヒバ同様に 実在性の乏しい存在ということが出来る。ところがブ ナの集積地である白神山地が自然遺産に登録されたこ とで俄然注目を集めることになった。自然林としての 貴重性,水源涵養に果たす役割の重要性が脚光を浴び たのである。「マザーツリー」の名で呼ばれるブナの 巨樹が全国に知られ,実際に入山してブナ林に触れる 人たちも増えている。また比較的各地の里山にも雑木 林として立木を見ることが出来,県内では山菜狩りな どで多くの人にとって日常性の高い樹種でもある。県 民にとっても第三者からも自然豊かな青森県という印 象を決定づける存在として認識されている。さらに産 業面では昭和31年,青森県工業試験場(現青森県工業

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図1 青森県におけるヒバの年度別伐採量

(5)

総合研究センター弘前地域技術研究所)を中心に産官 連携による青森県産ブナ材の有効利用を目指す開発が 行われた。この結果「ブナコ」という製品が誕生し,

今日では非常に付加価値の高い高級物産として知られ るようになった。ブナコというブナ材製品は「白神山 地=ブナ=青森県」をみごとに印象づける存在として 世界に発信されているといっても良い16)。実際のブナ コ原料が世界遺産の山地から切り出されるはずはな い,という現実を想起させることなく等式を成り立た せたすぐれた産業化の例である。さらに現在JR東日 本が五能線にブナの名を冠した列車を走らせ,全国か ら集まる観光客に「白神山地=ブナ=青森県」という インパクトを与え続けている17)。まさに新しい県木と いってもよい顔を持った樹種である。

2.3 ヒバの歴史的利用

 様々な樹種を産出する青森県であるが,歴史的にそ の利用を跡づけることが出来るのはヒバである。

 岩手県奥州市の中尊寺金色堂(国宝)は主要な部材 にヒバ材が用いられた建造物として確認される最古の 建造物である。すでに建築から九百年を経過している が,ヒバ材はほとんど腐朽せず昭和の解体修理でも古 材が再利用されたという18)。中尊寺には鎌倉期の建立 にかかる「旧覆堂」(重要文化財)も存在するがこの 建築材も実見した限りヒバ材とみて良いようである。

このヒバ材の産地が岩手県内か青森県域からの移出に 拠るのかは不明であるが,すでに平安期にはヒバ材の 腐朽性,耐水性,防虫性というすぐれた耐久性が認識 されて利用されていたことを知ることが出来る。

また青森県深浦町の円覚寺薬師堂厨子(重要文化財)

は室町初期(15世紀前半)の建造物で青森県内に残る 最古の建造物である19)。この建造物もヒバ材が用いら れている。雨ざらしの建造物でなく,仏堂に納められ て伝来したため現在も美しい白木姿を見せている。

 遠く青森県を離れた福井県小浜市に羽賀寺本堂(重 要文化財)が存在する。青森県域から福井まで実際に 材木が回漕されたことを明示する史料はないがこの本 堂は青森県産ヒバ材を運搬して造作されたものと想定 されている20)。この建造物は後花園天皇の勅命を受け た津軽安藤氏が永享8年(1436)から造営をはじめ,

文安4年(1447)に落成させた文化遺産である21)。当 時,津軽安藤氏は南部氏との攻防の最中であり,安藤 氏はこの最中に拠点である十三湊を追い落とされると いう苦境にあった。戦争継続中にかかわらず造営事業 を全う出来た安藤氏には財力,海運力ももちろんなが ら材木の確保能力があったとみてよいだろう22)

 津軽安藤氏は十三湊没落後北海道道南に渡り,さら に秋田県男鹿半島の南側檜山へと移る。没落後の安藤 氏が拠点とした場所は北海道道南の檜山地方,移った 先は秋田県檜山地方である23)。明証はないがいずれも

「檜」山=ヒバ生産地であった可能性が高い。とすれ ば安藤氏がヒバの重要性を認識した上で,その確保を 図っていたことをうかがわせる。

 これ以外にも弘前市現存の弘前城建造物,長勝寺三 門,最勝院五重塔ほか,多くの江戸期建造物から明治 期の洋館に及ぶまでヒバ材によって造作が行われ,今 日にその姿を残している24)

 このようにいつの時代にあってもヒバ材は材木とし て極めて利用度が高く,風雪という経年変化に対する 耐久性のすばらしさが古くから認識されていたことを 知る。

 ヒバの素材優位性が江戸期に認識されていた例とし て石川県の県木「档」(アテ),別名「能登ヒバ」に 触れておきたい。この樹種は青森ヒバに極めて似た特 性をもっているのだが,深雪地域でも植生し,なおか つ優れた木材になる樹種ということで江戸時代に津軽 から植樹されて今日に至ったものという25)。この一事 からもヒバ材は弘前藩にとって有力な換金対象物であ り,藩の許可無く伐採や利用が厳しく禁じられてきた ことがうなずけるのである。弘前藩も伐採と植林のバ ランスの維持や資源確保には常に注力していた。しか し藩政時代前半,特に弘前城築城時の伐採により津軽 平野南部(石川・大鰐方面)のヒバ林は完全に資源枯 渇した26)。そのため現在ではこの地域にヒバ林が存在 した痕跡さえ見られない状態になっている。自然破 壊,景観の破壊は歴史の中にも明確に存在するのであ る。

 明治にいたるまで我が国は海外からエネルギーや資 材が入らず,すべて国内産品で経済が運営される閉鎖 経済であった。今日のように木材を輸入すると言うこ とはないわけで,切り尽くしてしまえば後がないと いう認識は広く共有されるものであったろう。このた め,弘前藩でも厳重な林政が敷かれた。藩有林という べき「御本山」を中心に伐採と保護育成がおこなわれ ていく27)。結果として江戸時代を通じて人工林の造成 が続けられヒバやスギという付加価値のある樹種の占 める面積が増えていったと考えられる28)

 明治以後,戦後昭和40年代にかけて青森県林業はヒ バの切り出しによって大いに沸いた。金木町(現五所 川原市)などでは津軽山地からのヒバ切り出しによっ て栄えたことは地域の記憶に残っている29)。太宰治の

(6)

生家として知られる総ヒバ造りの「斜陽館」が当時の 建造物としてそれを伝えている。また現在ではほとん ど姿を消してしまった森林鉄道が津軽山地を縦横に巡 り,住民生活の足として活躍していたことも林業の繁 栄と地域の発展が一体のものであったことをかいま見 せてくれる30)

 ちょうど,地域の記憶=材木で町が良かったという 記憶と高度経済成長期は重なる。この時期のヒバ材伐 採量はピーク時に590千立方mと今日の40倍というす さまじい量であった31)。青森県内ヒバ林の資源枯渇は この時期にほぼ決定したといえる。ヒバの群生地は津 軽山地と下北半島部であるが周辺集落でさえ天然ヒバ 林を見ることは困難になり,ヒバ樹は遠い存在になっ てしまった。

 青森県内ヒバ林は昭和6年に松川恭佐氏によって確 立された「森林構成群を基礎としたヒバ天然林施業 法」32)に基づきながら現在も管理と育成,活用が図ら れ整備された天然林という姿を持続,回復させてき た。しかし「日本三大美林のひとつ」と自称した英姿 が蘇り,「県木はこの樹」と県民が指させる日がやっ てくるのはおぼつかない状況である。

3 技術科教材としての木材 3.1 技術科における青森県産木材

 これまで述べた如く林政,あるいは林業においては 青森県に育成し伐採,加工される木材は全て「青森県 産木材」と位置づけられるだろう。特に青森県の林業 においてはスギ材が有力な青森県産木材として活用が 企図されてきている。しかし,冒頭述べたように技術 科の教材として考えるには,技術なり素材なり,或い は技術史的に「典型的な教材」を定め,それに依拠し ながら授業を展開する必要がある。では青森県産木材 を利用する場合の典型,あるいは意義はどうあるべき だろうか。

 教材選定の視点として生産量の多さ,入手の容易さ に注目すれば間違いなくスギ材とパイン材である。汎 用性と流通性,加工優位性や日常性という観点に立っ てもこれらはすぐれた素材である。しかし青森県産木 材を単なる木材として取り上げるのではなく,青森県 全体の自然環境や天候,林業や製材・建築業等を広く 見聞する意義を有する教材と考え,さらなる動機とし て「自分たちが他者=他地域からどのように見られて いるか」という比較の視点,自分たちが扱う素材をは ぐくんできた地域を他とは異なる存在ならしめている ものが何であるのかという視点で選ぶならば,青森県

ならではの偏在性や特異・特殊性を重視する選択で あっても良い。各地にはその土地を深く印象づけてい る木材がある。奈良県の吉野杉,岐阜県の木曾檜,京 都ならば北山杉など生産量が膨大なわけではないが,

地域アイデンティティとしての存在感をもつ素材であ る。これらは他者がその地域を認識するときのメルク マールともなる存在感も持っている。自分たちにとっ て特別な存在であり,同時に他者からもそれをもって 印象づけられる存在「特産品」,それこそ自己認識を 図る教材としての青森県産木材の「典型的な教材」と 見なすことが出来るだろう。

 すると青森県は全国のヒバ立木の8割が集中生育し ているという偏在性やヒバ材による文化遺産を多く抱 えているという歴史的背景,世界遺産の白神山地=ブ ナ林を保持しているというフィルターで他者に認識さ れているという現実を踏まえればヒバ材,ブナ材が教 材の典型,教材としての青森県産木材と主張すること が出来る。以下,この認識に基づいてヒバとブナを青 森県産木材教材として利用する場合の意義づけや手法 を検討していく。

3.2 中学校における木材加工教材の実態

 表5は聞き取り調査によって作成した青森県津軽地 域の中学校で利用されている木材加工教材の一覧であ る。調査は平成18年度利用の教材と平成21年度利用の 教材について実施した。地域は大きく弘前周辺と西津 軽,北五地域の2地域に分けて表示した。いずれの学 校も木材加工は1学年に実施されている。表5では導 入用の教材と,通年かけて学ぶ大型の教材をそれぞれ

「導入用:○○」「通年用:△△」とし樹種を明記し た。また教材メーカーによる教材キットを利用した場 合には「キット」と示した。

 全地域において平成18年度の教材はパインやアガチ ス,シナなど樹種も豊富である。これら教材の選定理 由を聞き取ったところ「加工しやすい樹種」「使い慣 れた樹種」といった経験的基準,さらには「素材寸 法」に基づき切削指導が行いやすいとか,接合が容易 であるという指導的基準,さらにキット教材の場合に は「製作例が豊富であるかどうか」,予算に収まるか どうかといった基準で行われていることが得られた。

 次いで平成21年度では,中弘南地区で19校中6校,

西北五地区で22校中3校が「青森県産ヒバ」材を利 用している。なぜ平成21年度に採択があったのだろう か。ヒバ材の特徴を活かす,加工優位性,教授経験と いう基準に従って積極的に選定されたということでは ないようである。この変化の理由は冒頭に述べた技・

(7)

家研全国大会が要因のようである。この大会に向けて 地場産材を自校でも利用し,大会での作品展示にその まま利用したいという意見,中教研技術科部会で技・

家研全国大会に向けて地場産材を利用した授業を提案 しようという一定の方針が出されたのに従ったなどの 選定理由が寄せられた。このようにヒバ材が教材とし て選定されるに至った主な理由は技・家研全国大会に 向けて青森県のオリジナリティ=地元の木材を利用し た教材の提案をしたいという趣旨に導かれたものであ ると言えそうである。

 今後もヒバ材が教材として利用され続けるかは経年 調査をして結論を出さねばならないが,採択動機が大 会実施の準備であることを考えると継続は厳しいと思 われる。ヒバ材の特徴を認識し,ヒバ材だからこそと いう意識で採択していればともかく,単に地元産の素 材のひとつを利用しておこうという単純な理由にだけ 依拠するなら,敢えて高価なヒバ材を選定する必要は

ないのである。前章で述べたように「青森県産木材」

を青森県内で生産された木材という目の粗いフィル ターで選定するならばスギ材でもパイン材でも,ある いはブナ材という選択肢であってもよいのである。

 青森県だからヒバ材で,という意識は県木という称 号や,産出が黄金期を迎えたときの記憶の残滓がある ことが主たる原因と考える。しかしヒバ材の現状はす でに述べたとおり,「名ばかり県木」に近い。実際,

青森県とヒバ樹を等式で認識している人は限定的だろ うと思われる。

3.3 青森県産木材の教材優位性

 動機はともかく現在,ヒバ材が津軽地方の複数の学 校で用いられていることを明らかにした。青森県産木 材を教育の素材として取り上げるということは,青森 県全体の自然環境や天候,林業や製材・建築業等を広 く見聞するという社会学習活動につなげることができ る。すなわち,青森県産木材を通じて自らの存在基盤 表5 青森県津軽地域の中学校で利用されている木材加工教材一覧

*「-」はデータの採取が出来なかった箇所である。

H18年度 H21年度

中弘南地区

1 導入用:スギ丸太材 キット 通年用:パイン集成材

    ヒバ集成材

2 導入用:パイン材 キット 通年用:パイン集成材

導入用:パイン集成材 キット 通年用:ヒバ集成材

3

導入用:樹種混合 キット

通年用:キリ集成材 キット

    ヒバ集成材・

    ブナ集成材     ブナコ用材 4 導入用:パイン材 キット

通年用:アガチス集成材 キット

5 導入用:パイン材 キット

通年用:パイン集成材 キット    パイン集成材 キット 6     アガチス集成材 キット

7     ヒノキ間伐集成材 キット     ヒバ集成材 8     アガチス材 キット     ヒバ集成材

9     アガチス集成材 キット     パイン集成材 キット 10     エゾマツ材 キット     エゾマツ材 キット 11     アガチス集成材 キット

12     ヒノキ材 キット 導入用:パイン集成材 キット 通年用:シナ無垢材 キット 13     コルク・パイン材 キット     パイン集成材 キット 14     キリ集成材 キット     パイン集成材 キット 15 導入用:パイン集成材 キット

通年用:アガチス材 キット

導入用:パイン集成材 キット 通年用:パイン集成材 キット

16     キリ集成材

17     パイン集成材 キット 18     キリ集成材     ヒバ集成材

西北五地区

19     スギ材 キット 20導入用:パイン集成材 キット

通年用:アガチス材

21 導入用:パイン集成材 キット 通年用:アガチス材 キット

導入用:パイン集成材 通年用:キリ集成材 キット

H18年度 H21年度

西北五地区

22     パイン集成材 キット     シナムク材 キット 23 導入用:パイン集成材 キット

通年用:スギ材 キット

24 導入用:パイン集成材 キット 通年用:アガチス材

    ヒバ集成材

25 導入用:パイン集成材 キット 通年用:パイン集成材 キット

26 導入用:パイン集成材 キット 通年用:パイン材 キット

導入用:パイン集成材 キット 通年用:パイン集成材 キット 27 導入用:パイン集成材 キット

通年用:パイン集成材

導入用:パイン集成材 キット 通年用:アガチス材 キット 28     パイン集成材 キット     アガチス集成材 キット 29     パイン集成材 キット     米ヒバ集成材 キット 30     パイン集成材 キット 導入用:パイン集成材 キット 通年用:シナ無垢材 キット 31 導入用:パイン集成材 キット

通年用:アガチス材

導入用:パイン集成材 キット 通年用:アガチス材

32     パイン集成材 キット 33 導入用:スギ材 キット

通年用:パイン集成材 キット

    ヒバ集成材

34     パイン集成材     ヒバ集成材

35     アガチス材 導入用:パイン集成材 キット 通年用:アガチス材

36     アガチス材     アローカリア材 キット 37     スギ間伐集成材     スギ間伐集成材 キット 38     パイン集成材 キット     セン材キット 39 導入用:パイン集成材 キット

通年用:モミ集成材 キット

    アガチス板材 キット     シナ無垢材 キット 40     セン材 キット 導入用:パイン集成材 キット 通年用:シナ無垢材 キット 41     パイン集成材     SPF 材

(8)

である大地・環境,なによりも慣れ親しんでいる風景 について見直すのだという意義を見いだすことが可能 なのである。風景,これ以上感性を通じて現実を把握 させる大きな教材は無いだろう。

 青森県産木材がどのような特性を持っており,どの ように利用されているのか,さらにどのように流通し 産業と成立しているのか(利用されているか)を学ぶ ことは需給バランスや流通経済全体についての知見 を得ることにもつながる。すなわち,素材の特性を理 解し,活用することの重要性,また産物を通じて自身 が他者にどのように見られているのかを知ることであ る。技術科で青森県産木材を取り上げる意義づけと優 位性はこの点にあると筆者は考える。

 聞き取り調査の限り技術科で「木材の特徴」と言え ば木質の堅さ,水分含有量,用途分類など素材利用に 際しての特徴分析(狭義の特徴)で終わっている例が 散見された。しかし「青森県産木材」を教材として考 えるならば,まず考えるべき特徴はそれではない。そ の生育環境やなぜその樹種が青森県に数多く生育し 残っているのか,またその分布がどのようになってい るのか,そして産業としてどう活用されているのかと いう全体像(広義の特徴),言い換えるなら社会科学 的視点からのものでなければならない。これについて は教師側が林学・歴史学的な概論把握をする必要が発 生するが,こういった「特徴」を捉え提示しないので あれば,汎用材を退けてあえて青森県産木材を利用す る必然性はない。

 かかる広義の特徴理解は技術科の時間に限らず様々 な機会を使って行うことも可能である。たとえば兵庫 県で取り組みはじめたように遠足や野外活動といった 機会を活用しながら樹木の植生,林業の生産管理,伐 採の実態を知るようにすれば学校菜園では達成し得 ない生物育成という分野への展開も出来る33)。特に現 在,青森県内において林業に従事する人口は1,500人 余りでしかない。日常生活において林業という職業そ のものが非常に希薄化している。森林県である青森県 にとってこれは非常に大きな問題である。単に雇用環 境を整えるなどの対処療法ではなく,森林とそれを維 持し,生産する現場が存在することを学習によって知 見させることも大局的見地から非常に重要なことと考 える。繰り返すが青森県産木材を利用するなら,その 素材の背景までも探り出し,幅広い情報に生徒達が触 れられるようでなければならないし,それができるこ とが教材として最大の優位性ということである。

 如上の広義の特徴を把握して後,指導要領が説く材

料としての特徴,その加工活用方法などが展開される べきである。青森県産木材の特徴がどのような利用法 を生み出し,どのような産業に結びついているのかを しっかり展開できれば,他者からの視点を内面から意 識した授業,自己存在の確認の出来る授業が成立しう る。小規模校を中心に増えつつある免許外教諭にとっ てもこういった視点で授業を形成すれば「作っておし まい」「作らせるだけ」という授業から脱却できるだ ろう34)

3.4 青森県産木材の特徴の把握とその活用  指導要領は「材料の特徴と利用方法を知る」という 目標を設定している。青森県産木材がもつ狭義の特徴

「材料の特徴」が,どのような利用のされ方を導いて いるのか,またどのような利用が可能なのかを考える ことも重要である。広義の特徴と狭義の特徴は一体の ものであり,両方相まってはじめて素材のもつ教材の 意義が十分に活用されたことになる。以下,ヒバ材と ブナ材の「材料の特徴」を見,指導要領が求める内容 をどのように達成できるか検討する。

 ヒバ材にはヒノキチオールが多く含まれているため 抗菌性,耐蟻性に優れる。その結果,耐久性,耐水性 などに優れ,その利点が周知されて住宅建築業では大 いに活用されている35)。ヒバを教材として利用する場 合は,こういった特徴と利用のされ方をしっかり把握 し,生徒に伝えていかなければあえてこの素材を利用 する有意性を失う。

 ヒバは建築外構材に最適の特徴を有する。また耐水 性が優れていることからかつては風呂桶やすのこ板な ど水回り用品に用いられてきた。いずれも「腐朽しに くい」という特徴を最大限に利用してのことである。

指導要領に照らせば「腐朽しにくい特徴」が「水回り に使われる」という利用法を生み出してきた素材がヒ バだということになる。つまりその特徴を活かすこと を前提として「使用目的・使用条件」を考えて教材選 定と作品製作を行う必要がある。単に地元素材を使っ てみよう程度の感覚で,こういった特徴を一顧だにせ ず卓上小物などを製作するのでは今一段の検討を要す るといわざるをえない。たとえ卓上小物などを製作す る場合でも,ヒノキチオールの揮発による設置空間へ の防虫効果や殺菌効果を生徒に伝えることでヒバ材を 活かしたデザインも生まれよう。

 もう一つ,青森県産木材と位置づけたブナ材は水分 含有量の多さから十分な乾燥が難しく,さらに腐朽性 が高く防虫性や耐食性に弱い36)。そのため多くの場合 構造材には用いられない素材である。今日では乾燥技

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術の進歩もあり,木目の美しさや堅牢さを活かして 木工製品,特に高級家具類への利用がなされている が,古来里山を構成する樹種として薪炭用材としての 利用,実の食用としての利用など民生的な利用が主で あった。

 ブナは板材として非常に高価である上,狂いや硬度 の面から見ても加工が非常に難しい。そのまま中学校 現場の教材にするのは非常に困難を伴う素材である。

さらに青森県産ブナ材を入手することは極めて困難な ことはすでに述べたとおりである。

 水分含有量が多く,薄い板状にした時に極めて柔軟 性を持つというブナ材の特徴を活かした地場産業「ブ ナコ」の例に倣い,その技術史や産業的側面からこの 素材を活かすことが方法として考えられるだろう。単 純な板材としてブナ材を把握するのでは青森県産木材 の利用になるまい。

 いずれの素材を利用するにしても,その材料が持つ 素材としての特徴をしっかりと把握し,それを活用で きる教材選定と知識準備が必要だろう。その上で素材 の特徴の理解,利用法の学習から社会全体へのその演 繹を展開することは科学の日常性の把握にたしかにつ ながるものと考える。

4.おわりに

 これまでの技術科では時間数の限界や指導者の関心 の問題から素材と社会の関わりが大きく取り上げられ ることは無かったのではないだろうか。しかし,指導 要領は「技術と社会や環境とのかかわりについて」の 理解を促し,環境への理解を着地点のひとつに見据え ている。さらに具体的には技術が「産業の継承と発 展」にどのように用いられているかを「伝統的な製品 や建築物」を通じて学習することをも求めている。こ れは科学技術の領域というより,社会科学,人文科学 の領域に属する内容にわたる。これらの指導と課題の 解決には青森県産木材の「広義の特徴」を把握するこ とで達成できるとの論拠を明示した。

 最後に白神山地のブナ林がなぜ残ったのか,その経 緯に触れ,ブナ材の持つ社会科学的側面を再確認す る。

 長谷川成一氏によれば弘前藩では白神山地はランド マークとして地図への記載が行われてきたが,山林行 政の対象として「白神」の名を見ることはないとい う37)。この地は藩政時代,木材の生産と移出の拠点で あった。ヒバ,栗,槻,松などが換金材として「津軽 追良瀬山」(深浦町)から材木が切り出され開発の手

が入っていることが確認できる38)。しかし急峻な地形,

柔らかく崩れやすい土壌などが原因で藩政期には大規 模開発には到っていない。近代に入っても明治40年こ ろの認識ではブナ材は素材加工技術の限界からあまり 有望なものと扱われず,大規模伐採の対象にはならな かったらしい39)

 大正10年になると岩木鉄道敷設の動きが活発にな る。その設立趣意書は「殊ニ目屋及ビ相馬地方ノ大森 林ハ,豊富ナル林産物及ビ各種鉱物ヲ包蔵シ(中略)

暗門瀑其他名蹟多シト雖モ」世間に知られていないの で弘前を起点に西目屋村まで鉄路を引くことを願っ た。この請願は国によって認可されるのだが,関東大 震災の影響によって実施には到らなかった40)。昭和10 年,「弘前=田代間鉄道」(目屋鉄道)の整備を訴える 動きが再び起こる。この時も「林産ノ無尽蔵ナル鉱産 ノ多量ナル」地の開発に益するものとして運動された

41)。昭和16年,引き続き同様の請願が国になされ,昭 和17年には「大湊防備府ヨリ弘前,田代経由スル時ハ 五能線ヲ使用スルヨリ優ニ四時間ノ短縮」と軍事上の 利用,利点も加味主張して弘前・西目屋・岩崎を直接 結ぶ鉄道の敷設が要求されている42)。これら鉄道敷設 の請願は時局の許すところとならず実現しなかった が,常に白神山地,ブナ林は大規模伐採,開発の危機 にさらされていたのである。

 そして戦後,まさに目屋鉄道を実現する形で「弘西 林道」が昭和36年着工され,白神山地の分水嶺をいく つも横断する難工事を敢行し48年に全線開通した43)。 結果としてこの林道は白神山地の大型破壊の第一歩と なる。国内ブナ伐採量が最大値を打つのは実に昭和47

~48年 で白神山地が切り尽くされる端緒が開かれた ことが見えてくる。その一方で,現在白神山地へ多く の人が親近できるのもこの林道のおかげなのである。

弘西林道は開発と保護の背反性をよく示す存在になっ ている。昭和53年,青秋林道の建設計画が持ち上が り,57年には認可着工される。しかしこの林道は自然 保護運動の前に挫折を余儀なくされ,ついに平成2年 には林野庁が一帯を森林生態系保護地域に指定するこ とで中止をみた。平成5年,屋久島とならんで我が国 初の世界自然遺産に登録されて今日に及んでいる45)。 これによってブナは一躍県の顔となる。

 白神山地のブナ林はなぜ残ったのか。ブナ材は建築 材として利用しにくく産業的価値がなかったからとい う回答を引き出すことも可能だろう。だが現実には戦 前から「林産ノ無尽蔵」な場所とされ,戦後は加工技 術の進歩によって無尽蔵のパルプ原料林として期待さ

(10)

れ開発の波にさらされていたのである46)

 青森県産木材を取り上げることが出来るというの は,すなわち地域を見つめるきっかけを手にしている と言うことだろう。林業の衰退,イメージと現実の落 差,今ある風景と過去の風景,そして身近な生活そ のものを構成する素材への関心を高めることである。

「技術の進展と環境との関係を考える」ことが求めら れる技術科の授業展開に青森県は恵まれた素材で応ず ることが出来るのである。

 概観したとおり国土の三分の二を超える森林を保全 する林業の衰退は目を覆うばかりである。また森林資 源の枯渇が危機的であることはヒバ材の現状に明らか であるし,白神山地という宝庫が残ったのも危機に継 ぐ危機を乗り越えてのことであった。

引用・参考文献

1)文部科学省:『中学校学習指導要領解説 技術・家 庭科編』2008,上野耕史・岡陽子:「解説/各教科 の展望 技術・家庭科」『中等教育資料』平成20年 6月号,2008

2)高村泰雄:『物理教授法の研究』北海道大学図書刊 行会,1987,P44により,大谷良光:『子どもの生活 概念の再構成を促すカリキュラム開発論-技術教育 研究』学文社,2009,P105が「典型」との関連で詳 説している。

3)田中喜美・佐藤史人:「中学校技術科教材論ノート」

『技術教育研究』38・39,1991・92,田中喜美:「中 学校技術科の授業論」『技術科の授業を創る』学文 社,1999にもとづき大谷前掲書第4章にまとめられ ている。

4)林野庁:『森林・林業白書(平成21年版)』2009より 編集。

5)青森県林政課:『青森県の森林・林業(平成20年度 版)』2008

6)長野県林務部森林政策課:『長野県の森林・林業~

平成19年度長野県森林・林業白書』資料編4(2007)

7)林野庁:『森林・林業白書(平成21年版)』2009より 編集。

8)青森県林政課:『青森県の森林・林業(平成20年度 版)』2008

  以下青森県の林業に関する数値は特に断りのない限 り当該資料による。

9)前掲『青森県の森林・林業(平成21年度版)』から 編集。

10)前注に同じ。

11)この事業は平成16~19年度に実施され,結果は2010 年1月現在も県庁ホームページで公開されている。

12)都道府県木選定は昭和40年,万国博覧会を記念して

毎日新聞社が提唱した「緑のニッポン全国運動」の 一環として行われた。本県では翌年アオモリトドマ ツ,りんご,ヒバの三種で県民投票が実施されヒバ が選定された。

13)日本三大美林という言い方がいつ誰によってはじめ られたか明証を知らない。また,木曾や秋田でも同 様に「三大美林」の呼称をもってするのか,その場 合本県のヒバも加えて呼称するのか例証を持ってい ない。

14)『東奥日報』平成21年4月11日朝刊

15)青森県林政課が『青森営林局事業統計書』等に基づ き作成した図の提供を受け、編集した図である。

16)『経済産業公報』2007年5月24日掲載。

17)2010年1月現在,JR東日本は五能線に「リゾー トしらかみ」号という列車を三編成走らせ「青池」

「くまげら」ブナと白神山地を象徴する名前を与え ている。

18)藤島亥治郎:『中尊寺』河出書房新書,1971,青森 市森林博物館展示パネル

19)東奥日報社:『青森県の文化財』1988

20)2009年6月,福眞が現地において確認した限り少な くとも主要な部材はヒバ材による構築物と思われ る。羽賀寺の説明では安藤氏が材木を運んできたと いう話も伝わっているということであった。

21)『本浄山羽賀寺縁起』(大永四年成立,羽賀寺蔵,

『新編弘前市史』資料編1,780号)

22)西津軽郡史編集委員会:『西津軽郡史 全』名著出 版,1975,P359では中世に青森県産ヒバが全国に 流通していた証拠として『庭訓往来』に諸国名産と して「津軽木材」が掲載されていることを証左とし て記述している。しかし『続群書類従』十三下所収 本,『新日本古典文学大系』所収本いずれにも「津 軽木材」の記載は無い。管見の限り中世に「津軽木 材」という呼称が存したことは確認できない。黒瀧

秀久:『弘前藩における山林制度と木材流通構造』

北方新社,2005,第二章第3節は本書に依って京都 において津軽が木材産地として室町期に知られてい たと論ずるが、この引用には資料的根拠が取れない ことを指摘しておく。

23)遠藤巌:「戦国大名下国愛季覚書」『北日本中世史の 研究』吉川弘文館,1990,同「日の本将軍安東氏と 環日本海世界」『北の環日本海世界-書きかえられ る津軽安藤氏』山川出版社,2002,樋口知江「『諸 家系図纂』所収の「安藤氏系図」について」『東北 史を読み直す』吉川弘文館,2006。現在の秋田県能 代市の檜山地区という地名は津軽安藤氏が男鹿半島 から拠点を移し,河北郡の名前を檜山郡に変えて以 来のものである。

24)前掲『青森県の文化財』,青森市森林博物館におい

(11)

て県内に残る主要ヒバ材建築がパネル展示されてい る。

25)前注22)黒瀧第2章脚注46を参照。

26)『弘前市史』藩政編,P345

27)弘前藩の林政史概略は前注22)黒瀧第1章。また同 脚注3に先行研究がまとめられている。

28)塩谷勉:「部分林制度の史的研究(3)-南部・津軽 両藩制度の比較」『九州大学農学部演習林報告』22,

1953

29)福眞は『青森県祭り・行事調査報告書』青森県教育 委員会,2007執筆のため,金木地域の民俗調査に当 たった。その際,各地の60歳以上の年齢層の方々か ら「材木が良かったころ」という言葉を聞いている。

同書所収拙稿「西院河原地蔵例祭」でも戦前から昭 和30年代までが活況であったという結果が得られて いる。この西院河原はすぐ東側に営林署管理地があ り津軽山地の材木供給によって繁栄していたことを うかがわせる。

30)青森市森林博物館展示パネル,五所川原市金木地区 歴史民俗資料館展示。

31)日本の天然林を救う全国連絡会議『林野庁による国 有天然林破壊の歴史と現状-日本の林野行政機構改 革の緊急性・重要性に関する見解(改訂版)』2006 32)松川恭佐:『森林構成郡ヲ基礎トスルひば天然林ノ

施業法』旧青森営林局,1935は現在実物を手にする ことは極めて難しい書籍であるが,東北森林管理局 がホームページ上に全文公開しており内容を知るこ とが出来る。

33)イスペット:『学習ノート 生物育成』2009 34)聞き取りの結果,免許外教諭は実際には教科指導が

出来ずひたすら時間数を消化するために「なにか」

を作らせ続けることに終始しているという傾向であ る。

35)北島君三:「青森産ヒバ材の特性に就て」『林學會雑 誌』11-4,1929をはじめ,ヒバの特徴は様々に紹介 されているが代表的なものとして青森営林局:『青 森のヒバ材』1962を上げておきたい。なお,行論上 ふれなかったがヒバの精油「ヒノキチオール」の特 徴を活用するという利用も盛んである。

36)中野達夫:「今月のテーマ/ブナ(上) 樹種シリー ズ13」『林業技術』739,2003

37)長谷川成一:「弘前藩の史資料に見える白神山地」

『白神研究』2,2005 38)前注22)黒瀧第3章 39)前掲中野論文

40)『新編弘前市史』資料編4,628~632号 41)『新編弘前市史』資料編5,218号 42)『新編弘前市史』資料編5,219,220号 43)『新編弘前市史』通史編5,第6章P486 44)前掲注29)

45)青秋林道の開発を巡る動きについては『新編弘前市 史』通史編5,P688以下にまとめられている。

46)眞柄謙吾:「第35回物質生産機能(パルプ原料)」森 林総合研究所『所報』52,2005によれば終戦後,海 外領土からの針葉樹パルプ原料輸入が途絶し国内広 葉樹をパルプ原料とする技術が要求され,昭和29年 にその技法が確立。以後,ブナは有力なパルプ原料 として伐採されていくという。

(2010. 8. 9. 受理)

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