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日本災害法研究史(中)

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日本災害法研究史(中)

前 田 定 孝

第2節 各論的視角

災害法学における上記の特徴等を受けて,

以下では個別の論点についていかに検討され てきたのかを概観する。なお,本稿はあくま でも過去においてなされた議論をトレースす るのみであって,本来検討されるべき論点を 示したものではないことを,あらかじめお断 りしておきたい。

組織法的側面

東日本大震災において,陸前高田市,大槌 町,南三陸町,および女川町の各庁舎が津波 によって破壊された。その際に,文書データ 等が大被害を受けた。このデータのその後に つき,野村武司によると,

陸前高田市役所で

は,1階にサーバーがあり,すべて被害を受

ただし,住民基本台帳情報については,

2月 28 日分まで委託業者にバックアップさ れており,残りのデータは水につかったサー バーから奇跡的に復活させているとする(47) このことは,災害時における市町村単位にお ける司令部機能が喪失することを意味する。

自治体機能の喪失に際して,

都道府県に

よる応急措置等についての市町村機能を代行 する制度を拡充するとともに,国による応援 の制度についても検討すべきではないか(48) という問題提起がされている。しかしなが

ら,災害対策の市町村中心主義にはそれなり の理由がある(49)。そこでは災害および災害対 策の個別性に着目した対応が求められる。仮 に都道府県および国による対応が求められる としても,市町村権限を補完するかぎりでの ことである(50)

この点,下山憲治は,

最悪の事態を考えて

おくことは必要であるとしても,より平常時 の予防対策を重点的に検討すべきであり,

また,権限代行論についても,平常時の業

務を経験しない国の職員などによる事務の代 行は,緊急事態の状況下において,本当に実 効的といえるか,疑わしいとし,それを踏 まえて,

返って,災害対策における戦後の基

本原則どおり,基礎自治体中心主義を踏まえ,

それ自身の体制・基盤と相互連携の強化がま ずは必要であるとする(51)

自治体間の協力体制については,いわゆる ペアリング支援体制の構築があるのと同時 に,自治体の業務そのものが丸ごと機能不能 となった場合における対策が問題となろう。

この場合,第1に,災害時の自治体業務の継 続計画をどのように策定するのかという課題 が,第2に仮設庁舎を域外に設置するに際し ての問題が,第3に域外に避難した住民との 関係をその後どのようにして継続していくの かという課題がある。

(2)

なお,仮設庁舎の域外設置問題については,

青森県東通村役場がむつ市内に設置されてい た例や,鹿児島県十島村と三島村役場が鹿児 島市内に設置されていた例などが,前例とし て存在する。

防災計画論

次に,地域防災計画をはじめとする防災計 画論である。防災計画論の主要なテーマは,

それが住民に対する負担を前提とすることか ら,その計画策定権限の所在,基準設定の合 理性の確保,避難経路等の設定,災害時要援 護者対策,応急対応後の生活確保のあり方に 焦点があてられる。

この点,災害対策基本法は,

伊勢湾台風で

大きな被害を出したことの反省を出発点とし て制定されたもので,今回(阪神大震災のこ と――筆者)のような都市の直下型の激震を 想定したものではなかったとされる(52) にかんがみると,東日本大震災,さらには今 後きたるべき南海トラフ三連動型地震・津波 のような超大規模災害を想定したものではな い。この法制度の欠陥が露呈するなかで,災 害対策基本法制度がその基本とする市町村へ の重点的な権限配分の考え方が没却されない ように注意されなければならないのではない かと思われる。

① 計画策定権限

地域防災計画の策定権限につき,第1に,

市町村と国・都道府県との権限配分が問題と なる。災害対策基本法上の権限の多くは,ま ず市町村に配分されている。その理由は,

町村は基礎的地方公共団体として住民に最も 近く,消防団・水防団等の防災組織を擁して

いるのであるから,災害時の応急措置もまた 第一次的に市町村を中心として行われるのが 自然である(53) とされる。

しかしながら,内貴滋は,事故災害とりわ け原子力発電所事故に際しては,

地方公共

団体は原因者である事業者の日常を監督して いるわけではなく,

通例,航空機・鉄道・

船舶等の事故のように,当事者である事業者,

施設管理者等から安全規制担当省庁に報告が なされ,そこから地方公共団体に連絡がある ものの,

原子力発電所事故のように,当該地

域において,住民への危険を伴う重大な事故 が発生した場合には,特別の協定等により,

事業者や施設管理者から迅速に事故の情報を 受ける体制をとることが重要であり,この ように

事故災害については,原因者がおり,

そういう意味では,地方公共団体の第一義的 責任はないといえるにもかかわらず,

地方

公共団体は,消防・警察という,救急救助機 関を持ち,自らの責務として人命等の救助活 動を行う以上,事故連絡を受け,直ちに被害 者の救出や,二次災害から住民の安全を維持 する観点から必要な援助を行うことは当然で あるとする(54)

この指摘は,市町村中心主義に基づく地域 防災計画が災害対策基本法上は防災基本計 画,防災業務計画,および都道府県地域防災 計画に整合しなければならないとする規定と 競合する可能性を示唆するものでもある。

この点につき,災害対策基本法制定当時,

当時の法制局長官の林修三は,法制度整備に 際して考究すべき問題点として,

第一は,災

害が発生しようとし,又は発生した場合の臨 機の措置及び災害発生後における応急措置な どについての実施,運用の機構とか,その総

(3)

合調整のやり方を,中央,地方を通じて整備 するという問題,および

第二は,国又は地

方公共団体の機関のもつべき実施権限の巾の 問題であるとし,前者について,

災害とい

う非常な事態においては,形式的にも,実質 的にも,国がその対策の第一線に乗り出すの が当然であるし,また必要とする認識を示 している(55)

この点残念ながら,災害対策について自治 体独自の対策を打ち出すのはきわめてまれで ある。この点につき星野安三郎は,大日本帝 国憲法下における災害対策立法として存在し ていた備荒貯蓄法,河川法,砂防法,水難救 護法および災害準備金特別会計法などを通じ て,

これらの立法にもうかがわれるが,災害

に対する国家の役割は,予防という面におい て国土保全と災害時に備える食糧等の備蓄を 地方公共団体に義務づけ,さらに,災害復旧 に対する国庫補助は行うが,その災害対策は,

市町村に任せられていたものの,

市町村は,

それについて独立した権限をもたず,官選で あった知事の指揮監督の下に置かれていた とする(56)

② 基準の設定

地域防災計画策定にあたって,いかなる災 害が想定されるのかは,かかる計画の前提と なる。そこでは,過小な災害予想により本来 掬われたはずの人命等が救われないケースを 想定する場合にかぎられず,自由主義的観点 からは,過剰な災害予想により,本来要しな いはずの負担を私人にかける場合性が指摘さ れる。

1 災害とリスク論

基準設定段階においては,被害想定につい てのリスク・アセスメントの妥当性が問題と なろう(57)。そこでは,想定震源域・規模につ いての定性的リスク・アセスメントおよび,

その発生確率についての定量的リスク・アセ スメントの両面からの研究がなされなければ ならない。この点,たとえば 1979 年段階に おいては地域防災計画における震災対策の 取扱いは,震災編が独立しているもの,震災 対策に関し,全く特別の項目を起こしていな いもの等様々であるが,東京都,愛知県等一 部を除いては,地域防災計画は,風水害対策 を中心として定められており,震災対策はそ の応用問題として位置付けられている現状 であったようである。さらに,

充実した地

域防災計画をするために重要と考えられる被 害想定は,東京都,札幌市,名古屋市,大阪 市以外の一一道府県及び八市では行われてい ない。その主な理由は,⒤学問的,技術的知 見を伴わないと無意味で説得力がない。⒤i 災害の態様は区々であり,具体的な被害想定 をしても現実に想定できるとは思われない等 が挙げられており,被害想定は,実際に難し く,しかも具体的な防災への反映も明確化し 難いところに悩みがうかがわれるされてい たのが現状であった(58)

これらを受けて設定されるリスク・マネジ メントの側面については,具体的には防災 マップなどの策定における合理性確保および 住民参加などが問題となる。そこでは,過去 の裁判例として,水害や高速道路倒壊をめぐ る営造物の管理瑕疵論を類推できないか否か が問題となる。

そこでは,そのうえで道路(人工公物)と

(4)

河川(自然公物)との法的な違いなども問題 となろう。同時に,災害の発生機序に照らし てみた場合に,水害においては河川における 流量の急増による溢水が災害の原因となるの に対して,地震災害については,活断層また はプレート境界の活動の結果として発生する 地盤の動きによって,自然公物と人工公物含 めた建造物による被害が発生するということ が考慮されることになる。

これらのことから,一口に暴風,豪雨,

豪雪,洪水,高潮,地震,津波,噴火その他 の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは 爆発という場合に,公物・営造物の設置・

管理瑕疵に着目すると,水害や火山噴火など もっぱらその自然公物たる特定の河川・火山 で完結するものがあるのに対し,暴風,豪雪,

震災のように主として二次被害を主たる側面 とするものがあることに,注意が払われなけ ればならない。これらは別異の取扱いが必要 ではないかと考える。とりわけ,瑕疵・法的 責任という場合に,自然公物と人工公物との 取り扱いに差違があるとすれば,その安全基 準のあり方についても違いがあるのではない かと思われる。

2 被害想定と司法審査――水害訴訟から学 ぶもの

災害法をめぐる判例は,水害訴訟を経て形 成された。そこでは河川管理の安全性基準が 被害想定との関係で論じられているのであ り,災害想定論を法的に論じるに際しては,

避けては通れない課題である。

水害訴訟において,

自然公物としての河

川の特殊性を強調し,水害天災論を前提とし た被告(国および新潟県)の不可抗力の抗弁

を大幅に取り入れながら(ただし,判文上,

不可抗力という表現は,慎重にも,一切

使用されていない),河川についての安全確 保義務の範囲・程度を大きく制限した(59) される新潟地判 1975 年7月 12 日判時 783 号 2頁(加治川水害訴訟第1審判決)が嚆矢と なった。しかしながらそのなかでもとりわけ 重要なのが,

ある被害の発生につき営造物

の設置・管理の可視と外力(自然力)とが共 に寄与する場合を,競合関係と併存関係に分 け,

長時間床上浸水

の結果をもたらしたこ とは右競合関係にあたるとし,生活利益の侵 害につき河川および水路管理者(国,大 阪府,大東市)に連帯責任を負わせた(60) 阪高判 1976 年2月 19 日判時 805 号 18 頁(大 東水害訴訟控訴審判決)から,

右諸制約のも

とで一般に施行されてきた治水事業による河 川の改修,整備の過程に対応するいわば過渡 的な安全性をもつて足りるとした同上告審 である最1小判 1984 年1月 26 日民集 38 巻 2号 53 頁と,

(改修)工事は,当時の一般的 技術水準からみても,また財政的,社会的見 地からみても十分に実施可能であり,かつ,

時間的にも余裕があったものであると認めら れるから,控訴人が本件災害の結果発生を回 避することは可能であったとした最1小判 1990 年 12 月 13 日民集 44 巻9号 1186 頁(多 摩川水害訴訟)の2つである。

このうち大東水害訴訟最高裁判決の柱は,

以下の3つである。

⑴ 治水事業は,もとより一朝一夕にし

て成るものではなく,しかも全国に多数 存在する未改修河川及び改修の不十分な 河川についてこれを実施するには莫大な 費用を必要とするものであるから,結局,

(5)

原則として,議会が国民生活上の他の諸 要求との調整を図りつつその配分を決定 する予算のもとで,各河川につき過去に 発生した水害の規模,頻度,発生原因,

被害の性質等のほか,降雨状況,流域の 自然的条件及び開発その他土地利用の状 況,各河川の安全度の均衡等の諸事情を 総合勘案し,それぞれの河川についての 改修等の必要性・緊急性を比較しつつ,

その程度の高いものから逐次これを実施 していくほかはない

⑵ また,その実施にあたつては,当該河

川の河道及び流域全体について改修等の ための調査・検討を経て計画を立て,緊 急に改修を要する箇所から段階的に,ま た,原則として下流から上流に向けて行 うことを要するなどの技術的な制約もあ り,更に,流域の開発等による雨水の流 出機構の変化,地盤沈下,低湿地域の宅 地化及び地価の高騰等による治水用地の 取得難その他の社会的制約を伴うことも 看過することはできない。しかも,河川 の管理においては,道路の管理における 危険な区間の一時閉鎖等のような簡易,

臨機的な危険回避の手段を採ることもで きないのである。河川の管理には,以上 のような諸制約が内在するため,すべて の河川について通常予測し,かつ,回避 しうるあらゆる水害を未然に防止するに 足りる治水施設を完備するには,相応の 期間を必要とし,未改修河川又は改修の 不十分な河川の安全性としては,右諸制 約のもとで一般に施行されてきた治水事 業による河川の改修,整備の過程に対応 するいわば過渡的な安全性をもつて足り

るものとせざるをえないのであつて,当 初から通常予測される災害に対応する安 全性を備えたものとして設置され公用開 始される道路その他の営造物の管理の場 合とは,その管理の瑕疵の有無について の判断の基準もおのずから異なつたもの とならざるをえない

⑶ 我が国における治水事業の進展等に

より前示のような河川管理の特質に由来 する財政的,技術的及び社会的諸制約が 解消した段階においてはともかく,これ らの諸制約によつていまだ通常予測され る災害に対応する安全性を備えるに至つ ていない現段階においては,当該河川の 管理についての瑕疵の有無は,過去に発 生した水害の規模,発生の頻度,発生原 因,被害の性質,降雨状況,流域の地形 その他の自然的条件,土地の利用状況そ の他の社会的条件,改修を要する緊急性 の有無及びその程度等諸般の事情を総合 的に考慮し,前記諸制約のもとでの同 種・同規模の河川の管理の一般水準及び 社会通念に照らして是認しうる安全性を 備えていると認められるかどうかを基準 として判断すべきであると解するのが相 当である。そして,既に改修計画が定め られ,これに基づいて現に改修中である 河川については,右計画が全体として右 の見地からみて格別不合理なものと認め られないときは,その後の事情の変動に より当該河川の未改修部分につき水害発 生の危険性が特に顕著となり,当初の計 画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を 変更するなどして早期の改修工事を施行 しなければならないと認めるべき特段の

(6)

事由が生じない限り,右部分につき改修 がいまだ行われていないとの一事をもつ て河川管理に瑕疵があるとすることはで きない

このうち判旨⑴につき,

一般論として,自

然公物としての河川管理の特質性といった点 を,最高裁判所が強調しているものの,

然公物と人工公物といったような分け方は,

概念の遊びというと語弊がありますが,非常 に概念的なものなのであって,そもそも,こ の二つを区別して考えることは,適切ではな (61) との批判がされている。同じ席上で,

森島昭夫も,

一方が人工公物であり,他方が

自然公物だから違うのだ,というのではなく て,実質的な側面での両者のどのような違い が具えるべき安全性への期待を異ならしめて いるのか,ということを明らかにすべき(62) とする。

次に,判旨⑵の過渡的安全性論については,

たとえば芝池義一は河川管理の瑕疵の有無 の判断に際して適用することのできる具体的 な基準が欠如している(63) とし,潮海一雄は 道路の設置・管理の瑕疵との比較のうえで

川管理の限界性を強調する判断が導かれてい としたうえで,

未改修河川および改修の

不十分な河川については,行政当局は財政的 制約を強く主張すれば免責される可能性が強 いこと,および道路の管理の場合と異なっ た安全性概念としての過渡的な安全性に つき,

行政の立場からのみ措定する

もので ある(64) とする。さらに高橋利明は,この判 決はその改修計画等の合理性の有無の判断 にあたっての検討項目(被害の状況,自然的,

社会的要検討)を示しただけで,最終的な判 断基準は示さなかったことになるのであっ

て,原審判決がしたような未改修部分の放 置によって予測される被害の重大さとその改 修の技術的困難性や改修に要する費用との比 較衡量のうえ,管理の瑕疵の認定をした瑕 疵認定の手法は,

今後なお有効ではないだ

ろうかとする(65)

さらに,判旨⑶については,

河川工事の経

済性が前面に押し出されていることが問 (66) とされる。

この判決に対して,学説は一様に批判的で ある。この判決の先例価値につき,池田恒男 は,本件が先例としての価値を有するという 場合に,以下の場合に限定されるとする。

第一に,大東水害は,河内平野という広大

な低湿地帯を後背地とする寝屋川水系の支川 において,大都市近郊の人口急増地を舞台に,

地盤沈下の上にスプロール開発のあおりを受 けて同じ降雨量でも洪水量が著増する条件下 で,予見可能ではあっても付近一帯に災害救 助法が発動された程の豪雨による当該溢水部 堤防の設計外力を超えた洪水発生という条件 下での水害であったことである。/第二に,

本件は,治水当局が河川改修計画を策定し,

現に改修工事を実施している途上で発生した 河川堤防の溢水事件であり当該溢水は前記の 地形的条件のもとで背水の水位が未改修堤防 高に迫っていて通水が妨げられるという未改 修堤防形成時に予期されなかった条件下で発 生し,同じ条件下での内水滞留水との複合作 用による水害であったことである。/第三に,

被害の対応がおおむね重大でない物損ないし 生活上の不便にとどまり,人の生命・身体や 重大な財産損害を伴わなかったことであ (67)

これに対し,多摩川水害訴訟最高裁判決は,

(7)

以下のように判断した(68)

⑴ 工事実施基本計画が策定され,右計

画に準拠して改修,整備がされ,あるい は右計画に準拠して新規の改修,整備の 必要がないものとされた河川の改修,整 備の段階に対応する安全性とは,同計画 に定める規模の洪水における流水の通常 の作用から予測される災害の発生を防止 するに足りる安全性をいうものと解すべ きである

⑵ 本件における河川管理の瑕疵の有無

を検討するに当たっては,まず,本件災 害時において,基本計画に定める計画高 水流量規模の流水の通常の作用により本 件堰及びその取付部護岸の欠陥から本件 河川部分において破堤が生ずることの危 険を予測することができたかどうかを検 (すべきである)。

⑶ これが肯定された場合には,右予測

をすることが可能となった時点を確定し た上で,右の時点から本件災害時までに 前記判断基準に示された諸制約を考慮し ても,なお,本件堰に関する監督処分権 の行使又は本件堰に接続する河川管理施 設の改修,整備等の各措置を適切に講じ なかったことによって,本件河川部分が 同種・同規模の河川の管理の一般的水準 及び社会通念に照らして是認し得る安全 性を欠いていたことになるかどうかを,

本件事案に即して具体的に判断すべきも のである

この最高裁判決を受けた差戻し後控訴審

(東京高判 1992 年 12 月 17 日判時 1453 号 35 頁)は,

1 本件災害時において,基本計

画に定める計画高水流量規模の流水の通常の

作用により本件堰及びその取付部護岸の欠陥 から本件河川部分において破堤が生ずること の危険を予測することができたかどうか/2 右の予測可能性が肯定された場合,その予測 をすることが可能となった時点はいつか/3 右の時点から本件災害時までに,前記判断基 準に示された諸制約を考慮しても,なお,本 件堰に関する監督処分権の行使又は本件堰に 接続する河川管理施設の改修,整備等の各措 置を適切に講じなかったことによって,本件 河川部分が同種・同規模の河川の管理の一般 的水準及び社会通念に照らして是認しうる安 全性を欠いていたことになるかどうかについ て,本件事案に即して具体的に判断すべきで あるとしたうえで,

本件堰及びその取付部

護岸並びに本件高水敷は,昭和四六年当時の 一般的技術水準からみて安全性に問題があ り,基本計画に定める計画高水流量程度の洪 水の通常の作用によって堤内災害が発生する ことを予測することが可能であったのである から,控訴人は,本件堰の堰高を切下げたり,

堰可動部の比率を高めたり,或いは堰取付部 護岸の被覆工ないし構造を改善したりするこ と等によって,本件災害の発端となった本件 堰下流取付部護岸ないし小堤の破損を防止 し,ひいては本件災害を回避することができ たものというべきである。そして,このよう な工事は,当時の一般的技術水準からみても,

また財政的,社会的見地からみても十分に実 施可能であり,かつ,時間的にも余裕があっ たものであると認められるから,控訴人が本 件災害の結果発生を回避することは可能で あったといわざるをえないと判断した。

このように,⑴予見可能性,および⑵⑶諸 制約を考慮しても改修,整備等の各措置を適

(8)

切に講じなかったことによって,本件河川部 分が同種・同規模の河川の管理の一般的水準 及び社会通念に照らして是認し得る安全性を 欠いていたことになるかどうか,という2つ の基準を立てて判断しているのが特徴であ る。なお,多摩川判決において,大東判決の

過渡的安全性

すでに使用されなくなっ

ているので,この点は,その段階に対応した 安全性という意味で捉えられるとする下山 瑛二の指摘がある(69)

それでは,前者の予見可能性とはいかなる 内容をともなうのだろうか。この論点は,地 域防災計画における被害想定との関係で,重 要なポイントを示すものである。

この点につき,芝池義一は,

(たとえば 10 年に1度の生起確率として,一時間当たりの 降雨量を設定したとしても)この降雨量また は洪水量についての予測可能性を基準とする 限り,極論すれば,いかなる水害についても,

その予測可能性は存在するために,

こうし

た降雨量または洪水量の予測可能性を法的判 断の基準とすることは意味がないのに対し,

河川管理上どの程度の降雨量または洪水量

を予測することが合理的かということ,すな わち,合理的予測値が意味をもつとしつつ,

その危険が通常予測されうるとしても右 危険が改修,整備がされた段階の置いては予 測することができなかったものである場合 には,

ただちに,河川管理の瑕疵があるとす

ることはできない,すなわち,

改修・改修

済みの河川については,予測可能性・回避可 能性の基準が適用されるのであるが,水害発 生の危険が改修・整備のときには予見できず,

損害発生時に予見可能であったものについて は,大東訴訟最高裁判決の基準が適用される

こと,およびかかる危険性が事後的に明らか になった際において,

水害発生の危険性の

予見可能性の生じた時点を確定することが求 められているものの,

事実審裁判所にとっ

ては,実際にはきわめて困難なことであろう とする(70)

さらに池田恒男は,改修のあり方について,

以下のように述べる。

河川改修計画におい

てかりにこのような暫定目標値が定められて いない場合には,《河川改修というものは,諸 制約の下で順を追って計画的に時間をかけて 進められるもの》という大東判決の論理の前 提が崩れ,もしくは満たされないものとして,

それ自体計画の瑕疵ないしブランクがあるも のとしてあつかわざるを得ず,

未改修ない

し改修途上の河川であっても,水害要因に国 その他の公共団体(一般に行政)のイニシャ ティブによって惹き起こされた事象(治水条 件を明白にもしくは著しく悪化させる加害行 為)がある場合には,それによって齎される 治水環境は社会的制約一般とは全く異な る性質の外部条件ですから,……大東判決の 判断枠組みを超えたところで,

諸般の事項

を総合考慮して具体的,個別的に判断され なければなりませんとする(71)

3 道路被害――人工営造物との違い なお,前記大東判決が最初に示したように,

論点として,河川という自然営造物の設置管 理の瑕疵において,国家はいかなる責任を負 うのかの検討が残されている。

この点人工営造物・道路につき最1小判 1970 年8月 20 日民集第 24 巻9号 1268 頁

(高知落石事件)が国家賠償法二条一項に よる営造物の設置または管理のかしに基づく

(9)

国および公共団体の損害賠償責任について は,過失の存在を必要としないと判断した 例とは異なって,地震・津波等に際していか なる基準が求められるのかが問われる。

この点,阪神淡路大震災における阪神高速 道路の倒壊について判断した神戸地尼崎支判 2003 年1月 28 日判タ 1140 号 110 頁は,

都市圏の市街地における高速道路が,いかに 公共性を有し,社会経済における便益に資す べきものとされ,しかも,構造上橋脚が倒壊 し橋桁が落下すれば,高速道路上や道路下の みならず近隣住民等にも多大な被害を及ぼす ことが予想されるものであったとしても,極 めて強力かつ広範囲に及ぶ破壊力を持った自 然現象である地震に対して無制限の耐力を持 たせることは不可能であるといわざるを得な いから,地震に対するその備えるべき人工的 な安全性も無制限のものまで要求されるわけ ではなく,既往の地震等の知見を前提として 持つべき水準を画していくほかないとし,

同時にその根拠となる地震に対する構造物 の耐力に関する研究は,

新たな地震の経験

のみならず,地殻のプレートや地盤地質の問 題,地震動の性質やその把握,それらが構造 物に与える影響,さらには構造物の構造細目,

設計施工方法,補修方法,鉄筋やコンクリー ト等を始めとする材料に関する知見等々,地 球物理学や地震工学,建築学等の様々な分野 の研究成果を総合して日々進化していくもの であることから,基準も,

それに応じて実

際の施工の現場でも実用化可能なものから順 次取入れられ,基準自体も次々に改定されて いくことが不可避であることも前提とされな ければならないが,

新設構造物については

その段階で新しい基準を適用していくことが

可能で,当然それに従って設計施工されるべ きであるが,既設の高速道路の橋脚について は,新たな知見や基準が明らかとなったから といって,その都度,これと従前の知見や基 準を比較し,それまで適正に施工管理されて きたものを即座に瑕疵物と評価し,新たな知 見や基準に即応できなければ,瑕疵の存在を 理由に供用を中止すべきというのは,人間の 時間感覚からすれば非常に長いスパンで考え ざるを得ないほど発生時期の予測が困難な地 震と,これら営造物の果たす社会経済的機能 を比較考量すれば,相当とは解し難いし,現 実的でもないことから,

高速道路の供用を

続けたまま,新たな知見や基準に対応し,そ の内容と橋脚の状況とを照らし合わせて,必 要に応じて可能な限り補強していく方法を採 らざるを得ないと考えられるとした。

そのうえで,

その場合には補強がなされ

ていなかったから直ちに通常有すべき安全性 を欠いていたと評価するのは妥当ではなく,

新たに得られた知見の内容,知見に対する評 価,知見に基づく補修等の技術的可能性,基 準の改定の有無,基準の改定の趣旨,それら を総合した当該構造物に対する補修の必要 性,緊急性等を考慮して,合理的期間内にな すべき補修がなされていたか(その過程に あったか)という観点から通常有すべき安全 性を欠くかを判断するのが相当であるとし,

さらに,

これを本件橋脚について見ると,知

見及び基準としては昭和 55 年示方書や昭和 63年道路震災対策便覧等もあり,昭和 63年 の時点で鋼板巻き立て工法を実施すること自 体はほぼ可能であったと見られるが,本件橋 脚は昭和 55 年示方書により照査しても,せ ん断強度の許容応力度を充たしていたこと,

(10)

いずれにせよ本件橋脚自体は関東地震級のも のは想定されて設計施工されており,地震の 発生頻度や規模を考えれば当時の状況から必 要性・緊急性が高かったともいい難いこと,

被告において,既設橋梁の対策委員会を設け,

海外の知見等にも配慮して研究検討を続けて いたこと,通達に従って震災点検を実施して おり,その時点での補修の必要性の高い橋脚 を選抜していく方法も不適切ではないこと,

多数ある橋脚を効率よく管理・保守するため にシステム化するという手法も是認できるこ と,地震を対象とした補修の計画について,

他の同種公団同様に5年間を区切りとしてい るのも耐震対策の不合理な遅延とまではいえ ないこと,本件橋脚は,本件地震時には間に 合わなかったものの平成9年までには補強さ れていた蓋然性があることなどの事情を考慮 すると,被告においては,3号神戸線の耐震 補強について,供用開始後の知見や基準の内 容を十分に考慮しながら,必要性・緊急性の 高いものから順番に補強を実施していたその 過程において,本件地震が発生したものと見 ることができ,鋼板巻き立て工法が実施され ていなかった本件橋脚についても通常有すべ き安全性を欠いているとはいえないと判断 した。

この点につき下山憲治は,

地震の発生時

期について精度の高い予測は可能であるが,

具体的予測が必要か,通行量と通行する車両/

積載物の特徴などの諸要素や,異なる時間帯 であれば更に大きな被害が容易に想定できる 高速道路であり,この工法による補強工事の 有効性もかなり前から確認されていることの 等の事情を総合評価し,当時の技術水準から 設置でき,それが社会通念上,合理的かつ妥

当な構造であったかが判断基準となるとす (72)

このように考えていくと,防災計画等にお ける被害想定においても,その補強等の対象 が人工公物か自然公物かによって異なってく ると思われる。同時に,上記尼崎支部判決が 示すように,工学的知見および基準の学問的 な発展の程度と,その際に想定されていた直 下型地震等の自然災害の性質・規模等を考慮 して判断しているように思われる。

しかしながら,学説は,上記人工公物自然 公物二分論に批判的である。この点,

河川

管理責任が道路の場合と異なるとすれば,そ れは,河川と道路の属性したがって管理のし 方の相違に由来し,自然公物と人工公物の差 で説明さるべきではなく,

もし差があると

すれば,個別的・具体的判断において,回避 可能性の幅に違いがあるにとどまること,

計画高水流量のみによって責任の有無を決

する方途についても合理的なく,河川管理者 において実施可能活有効な防止措置が想定さ れるにもかかわらず,水害の結果を見たとす れば,管理の瑕疵があるといわなければなら ないことなどから,

河川も原理的には道路

と選ぶところがない(73) とする指摘がある。

② リスク・アセスメントが問題となる行政 決定のあり方

それでは,実際の市町村の被害想定はどの ようにして決められているのであろうか。

この点,2012 年3月 31 日には,南海トラ フ連動型大規模地震によって,最大高さ 20 メートルを超える津波が予測されるとする想 定が出された。これに対し,

従来の防災計

画における地震の被害想定は,一般に関東大

(11)

震災の震度六程度の地震を前提条件にして,

被害を想定したものが多く,地震記録の少な いところでは,震度五を前提にして防災計画 を作成していたところもあるのであり,こ の点,

今後は大学,研究期間,防災期間が協

力して,全国的に通用する作成方法を確立す ることであるが,そのためには,今回の地震 の被害の実態を分析し,検証することが重要 である(74)

被害想定が,平時の際に住民に対する財産 権侵害などを正当化する根拠として用いられ ることを考えると,その決定に際しては,自 然科学的な合理性とともに,慎重な住民参加 手続が要請されるものと思われる。

この点,リスク・アセスメントに際して

定内と想定外を分ける基準につき,そ の着目点として,①自然公物と人工公物の違 い,②リスク・アセスメントの合理性,すな わち政策的配慮を根拠付ける自然科学的判断 の合理性をいかにして担保するのか,および

③客観性,すなわち策定手続における住民か らの疑問を徴収する機会とそれに対する回答 がなされるかどうかという地域防災計画の策 定手続の妥当性が問題となる。そこでは,

域防災計画の作成過程での住民参加,防災都 市建設の都市計画等の作成への住民参加等の 道を開く努力が重要(75) とする指摘もある。

この点,水害訴訟の瑕疵認定を論じるなか で民法学者の平野克明は,水害訴訟における 瑕疵の認定に際して,①通常,結果発生の予 測される現象,②通常,結果発生を予測でき る異常な現象,および③予測を全く越えると ころの異常な自然現象に3分類し,

主要判

例における営造物の設置・管理の瑕疵の認定 基準で特徴的なのは,裁判例のほとんどが,

当該事例の自然現象を,通常発生の予測され る現象として認定していることである(第一 類型)

とし,さらに

多くの裁判例が第一類

型にみられるのは,営造物の設置・管理の瑕 疵を相当因果関係にある結果(損害=災害)

を要するという立場に立っているからであ とし,

したがって,通常予測される自然

現象の是非を基準として,営造物の設置・管 理の瑕疵による国または公共団体の責任の成 否を定めるのが妥当性をもつ,という判断に よっているとみることができようとし,上 記第三類型については,

法律問題としては,

異常な自然現象が,営造物の通常有すべき安 全性を越えて結果を惹起させた場合には,不 可抗力による災害として違法性を阻却する事 例にあげられ,当該営造物に瑕疵がないこと になり,そこで問題は,不可抗力の要因 の存在の有無の判断基準をいかなる要素に求 め,その範囲をいかに明らかにするか,にあ るとする(76)

なお,これらの想定基準の法的性格につき,

室井力は,

この想定基準が法的に拘束的な

ものかはともかく,かりにそれが努力目標に すぎないとしたところで,災害による損害が 発生したときには,当該基準に適合する防災 措置が講じられていたかどうかが争点の一つ となることは否定できないところであるも のの,

いわゆる不可抗力論に基づく一切の

責任回避は,もはや認められるところではな いというべきであろうとする(77)

③ 避難

避難については,避難経路の合理的なあり 方についての防災マップ等の策定手続への,

地域住民の関与が問題となる(78)。たとえば三

(12)

陸の各自治体では,東日本大震災前において も,自治体で作成した防災マップの案を町内 会等へまわして,そこで個人宅名なども記入 して具体的に避難場所・避難経路を示すなど のとりくみがされている。

この場合,リスク・アセスメントの性格を 有するハザードマップを受けて,自治体レベ ルおよび地域社会レベルにおいて,いかにし てそのリスク・マネジメント,たとえば防災 マップ策定を合理的なものとするのかが問題 となろう。

④ 災害救助リソースの確保①支援物資 支援物資については,あらかじめ地域防災 計画等で調達経路などを記載するところがあ る。たとえば三重県津市をはじめ,市内の大 手スーパーとあらかじめ協定等を締結して,

物資を確保する例もある。

さらには,災害対策基本法 64 条所定の物 的公用負担のあり方が問題となろう。しかし ながらこの論点について,まとまった研究は 存在しないようである。

⑤ 災害救助リソースの確保②福祉避難所 高齢者等のいわゆる災害時要援護者をどの ようにしてどこに避難されるのかも大きな課 題である。この点,多くの自治体ではすでに,

自治体が設置・運営する施設だけでなく,民 間の社会福祉施設と協定を締結して,避難場 所を確保する例がある。しかしながら,自治 体によってはその施設が津波等で被災する可 能性のある場所にあるなど,再検討を要する 自治体もある。

この点,後述する災害時要援護者対策とも 関連するが,実際の災害時の具体的状況を受

けて,市町村があらためて係る施設を確保す る必要性に迫られた場合の対応が課題とな る。

⑥ 災害リソースの確保③実働部隊

災害救助に際してその実行部隊となるの は,消防職員,消防団員および災害救助法 24 条および 25 条にもとづいて救助業務に従事 した者である。

この点,災害対策基本法6条に基づき消 防はあらゆる災害に対する応急対策組織であ り,この消防の責任を負うのは市町村である

(自治体消防)。そして同法 19 条に基づき,

国や都道府県は,市町村が円滑に消防責任

を推敲しうるよう支援する組織であること が,原則であると考えられる(79)

このように災害応急対策にあたる組織につ いては市町村中心主義がとられてはいるもの の,しかしながら,

阪神・淡路大震災のよう

な大規模な災害が発生した場合には,被災地 の市町村の消防力をもってしてはこれに対応 できない事態も想定されるため,

消防組織

法は消防の応援の仕組みを設けている(80) かかる消防組織法 21 条および 24 条の3等に 規定される緊急消防援助隊は,

阪神・淡路大

震災でも最も大きな教訓ともなった課題に 対する回答(81) でもある。この場合,前記の 実働組織の市町村中心主義との関係が論点と なる。

同様に救助組織のあり方についても,市町 村消防につき,

日常的に住民と密着して消

火,救助,救急の活動を行っている消防が第 一次的な部隊と考えられるべきであり,警 察や自衛隊との関係についても,

救助にあ

たる組織においては,それぞれの組織が並列

(13)

的に相互協力する関係としてではなく,他の 自治体からの応援部隊を含む消防と警察を主 軸として,自衛隊はそれらの部隊に対して補 完的なものとして位置づけられるべきであ としたうえで,

市町村または都道府県の

災害対策本部が救助組織全体を指揮する体制 の整備は地域防災計画における組織体制の整 備だけでは不可能であり,一定の法的な整備 が必要(82) とする。

この点,同様に,

重要なことは,指揮命令,

責任および経費負担を予め明確に定めてい べき(83) とする見解がある。この点,古川 純が山下健次

自衛他の災害派遣とその意味

法律時報 1966 年1月臨時増刊号に依拠しつ つ,

戦力を放棄したはずのわが国において,

災害救援,公共事業への協力等民生協力的な 施策が,何故に,戦闘を本務とする自衛隊に よって支えられざるをえないのかとした古 川純の問いかけ(84) にこたえる必要性は,い まだに消滅していない。

なお,ここで実働部隊とは,必ずしも 常勤の公務員であるとは限らない点に注意さ れなければならない。たとえばそこでは,公 務災害等においてみなし公務員とされる消防 団員や,災害対策基本法 65 条に基づいて市 町村長が当該市町村の区域内の住民又は当 該応急措置を実施すべき現場にある者に対 して発した業務従事を命じられた住民,場合 によってはボランティアとの関係が問題とな る。

この点,かかる災害時の実働部隊のあり方 ならびに,そこで負傷または死亡した者に対 する補償が問題とされてきた。

前者については,1978 年の段階で神林章元 が消防機関は安全サイドに立って市街地開

発や都市改造について積極的に関与すべき としつつ,

都市改造をいたずらに待っても

震災対策は進まないので,消防機関としては,

地震を震災としないため出火防止と初期消火 の徹底を図り,そのため必要な人員施設資機 材の整備充実や住民の組織化,防災教育訓練 の充実を図る必要があると指摘している(85) なお,比較的最近の議論では,消防の広域化 についての論稿が散見される(86)

後者については,従来から災害補償のあり 方が論じられてきた。この点,消防団員につ いてはみなし公務員としての補償制度が存在 する。同様に上記災害救助法に基づく救助業 務等に従事した場合の補償のあり方である。

この点,広岡隆は,フランスの公役務の一 次協力者の理論について,

実定法律がカ

ヴァーしていないような場合までをカヴァー できる広いディメンジョンをもち,新しい事 件にあわせて柔軟に変化しうる体質をもつ フランスの判例を分析・検討している(87)

大田直史は,すでに 1998 年の段階で,阪神 案淡路大震災において発生したような同時 多発の火災に充分に対応可能なハードの整備 は現実的ではないこともあり,発災直後には 住民等が自らの力で被害の拡大を防止する措 置をとることが不可欠であると指摘したう えで,住民等による自主的な応急対策活動に 対して結果的に公務性を承認すること が必要な場合があるとする(88)

災害救助

① 広域災害における市町村と都道府県との 役割分担

災害救助法の適用については,災害対策基 本法に基づく市町村中心主義にのっとったシ

(14)

ステムが,第1号法定受託事務としての都道 府県を窓口とした制度へとシフトすることか ら発生する諸問題を,解決しなければならな (89)。この点は,災害救助法に基づく厚生労 働省のさまざまな基準が都道府県を通じて事 実上影響することになる。しかしながらその 内容につき詳細に通達等で基準化され,現場 の最前線に立つ市町村の裁量性が制限される こととなる。この点をどうするのかが,法制 度上の最大の問題であろう(90)

なお,その基準設定につき下山憲治は,

災法制は,災害救助を中心として権利保障・

法的保障の制度としてその性質が転換してい るといえるものの,権利救済の視点から見る と不備が多いとし,とりわけ地域防災計画 に基づく災害救助につき,

災対法及び各地

方公共団体における条例の不備もあって,災 害救助の実施時期や内容について明確な法的 根拠がない場合がほとんどであることなど から,

今後,たとえば感染症予防法にみられ

る短期的な不服申立制度などを検討し,関連 法ないし条例の整備が必要となろう(91) とす る。同様に山崎栄一は,災害弔慰金制度につ き,

権利救済や救済手続の設定が不安定な

ままなされているのが実態であるとする(92)

東日本大震災の後,災害救助段階について は,大規模化するにしたがって要請される自 治体相互間の協力体制を平時においてどのよ うに構築していくのかという課題と,平時か らの避難所の整備が課題となる。

この場合,

我が国における緊急事態対処

法制の不備を露呈させた東日本大震災にお いて,

国家には,こうした民主的国家の根幹

を揺るがすような例外的ともいえる異常事態 がいかなる理由により引き起こされようと,

人々が人権を効果的に享受できるよう国内の 安全を確保する積極的義務が存在し,そこ では,

人権の最も強力な擁護者である国家

自体の存亡の危機に際しては,民主的社会の 破壊を防ぐ目的で,一時的とはいえ国家が行 政権に権限を集中させ個人の権利や自由を犠 牲にする人権の保護義務の停止(いわゆる権 利の停止)を含むあらゆる手法により危機に 立ち向かい,ふたたび人権を尊重する民主的 社会を取りもどすことは,まさに国際社会が 許すところでありまた望むものでもある しかしながら,そこにおいても,第1に生命 への権利,拷問等からの自由,奴隷の禁止な どの停止を許さない権利が,第2にあら かじめ定めた制限の範囲により権利自体の限 界を定める政治に参与する権利のような ものが,そして第3に移動の自由や表現の自 由,集会・結社の自由のような緊急事態に おいて権利を停止され得るのみならず,外部 の制限手段によっても制限されうる権利が,

それぞれ存在するとされる(93)

② 優先順位の設定

どこから手をつけるべきか。この点につ き,阿部泰隆は,

困っている順に弔慰金,

災害復興基金などを配分すべきとする(94)。そ こでは,災害弔慰金につき一人でも,災害 にあった者には同じく救済するような制度を つくることを市町村に求めること,重度障 害者に対する弔慰金を死者並みにすること,

無年金障害者については国民年金法を改正し て,保険料を納めずに障害にあった者にも,

遡及して,障害基礎年金だけを支給するよう に制度改正すること,弔慰金につき孤児特例 を設定すること,その他提案する。さらに,

参照

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