三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科
平成 24 年度 修士論文
エラスチン結合タンパクの探索
三重大学大学院 工学研究科 博士前期課程 分子素材工学専攻
中村 雅広
I
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目次
1 緒言 1
1-1 組織再生と組織工学 1
1-2 細胞外マトリックスと細胞 2
1-3 弾性組織 2
1-4エラスチン 3
1-5 エラスチン結合タンパク(エラスチンレセプター) 5
1-5-1 組織再生に関わるエラスチン結合タンパクの種類 5
1-5-2 組織再生における機能と問題点 5
1-6 前実験までの成果 7
1-7 本実験の目的 7
2 実験方法 8
2-1 細胞の培養と継代 8
2-1-1 靭帯細胞の採取と継代培養 8
2-2 不溶性エラスチンの精製 9
2-2-1 組織抽出 9
2-2-2 不溶性エラスチンの洗浄 9
2-3 エラスチン結合タンパク抽出 9
2-3-1 細胞抽出液の作製 9
2-3-2 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ 10
2-3-3 タンパク質の定量(BicinChoninic Acid法:BCA法) 10
2-4 電気泳動法 10
2-4-1 SDS-PAGE (Sodium Dodecyl Sulfate- Poly Aclylamide Gel
Electrophoresis) 10
2-4-2 2D-PAGE (2-Dimensional Poly Acrylamide Gel Electrophoresis) 10
2-5 タンパク同定 11
2-5-1 Western blotting 11
2-5-2 MALDI-TOFMS(Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization Time Of
Flight Mass Spectrometry) 質量分析 11
2-6 統計分析 12
3 結果 13
3-1 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ 13
3-1-1 不溶性エラスチン中の非特異的タンパクの溶出確認 13
II
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3-1-2 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ 13
3-2 SDS-PAGE 17
3-3 EBP発現確認(SDS-PAGE ゲル) 19
3-3-1 細胞抽出液 19
3-3-2 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ(尿素溶出/NaOH 洗浄有・
無) 20
3-4 2D-PAGE 21
3-5 MALDI-TOFMS 23
3-5-1 BSAによるタンパク同定確認 23
3-5-2 エラスチン結合タンパクによるタンパク同定 24
3-6 EBP発現確認(2D-PAGE ゲル) 27
3-7 MS解析結果詳細 28
4 考察 34
4-1 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ 34
4-1-1 検出バンドの評価 34
4-1-2 NaOH洗浄による影響 35
4-1-3 尿素溶出による影響 37
4-2 EBP発現確認 38
4-2-1 EBPのエラスチン結合能 38
4-3 2D-PAGE/MALDI TOF-MS 40
4-3-1 2D-PAGEのスポットについて 40
4-3-2 2D-ゲルと1D-ゲルの比較 41
4-3-3 MALDI-TOFMS結果の妥当性 43
4-3-4 同定タンパクの新規性 46
4-4 組織再生を促す材料への検討 50
4-4-1 エラスチンA-Eの役割 50
4-4-2 エラスチンA-E, Vimentin, FKBP9, EBPを利用した複合化材料の検討 51
5 結論 53
6 展望 53
7 参考文献 54
III
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8 謝辞 57
9 Appendixes 59
9-1 不溶性エラスチンの調整 59 9-2 エラスチン結合タンパクの精製 60
9-2-1 タンパク抽出液の作製 60
9-3 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ 61
9-3-1 不溶性エラスチンの洗浄 62
9-3-2 アフィニティクロマトグラフィ 63
9-3-3 タンパク濃縮 65
9-3-4 タンパク質の定量(BCA法) 65
9-4 電気泳動法 67
9-4-1 SDS-PAGE(MS対応版) 67
9-4-2 ゲル染色(SDS-PAGE用) 72
9-4-3 2D-PAGE(アフィニティクロマトグラフィ用) 75
9-5 タンパク同定 105
9-5-1 Western blotting 105
9-5-2 TOFMS(Time of Flight Mass Spectrometry)(ゲル内消化) 111
9-5-3 TOFMS(MALDI-TOFMS機械操作方法) 117
9-6 水溶性エラスチンの分画(凝集温度測定) 138 9-7 水溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ 139
9-7-1 NHSエラスチン固定化カラム作製 139
9-7-2 タンパク抽出液から結合タンパクの溶出 140
1
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1 緒言
1-1 組織再生と組織工学
組織が障害されると、修復の為の反応が始まる。これらは出血、凝固の為の生活 反応期に始まり、炎症に代表される創内浄化時期や肉芽形成、血管新生、創収縮、
上皮形成を主とした修復期を経て、最後に細胞増殖、基質の合成、再構築の時期 により組織再生が行われる。これらの過程には様々な細胞や基質、サイトカインが 関わっている。(1
しかし、組織の損傷が大きい場合、自身の細胞による自己修復機能では修復出 来ない事がある。その際、注目されている治療が組織工学による組織再生である。
組織工学は大きく 3 つの要素に分けられる。組織再生のための“細胞”、細胞の増 殖・分化や形態形成を促進させる“足場材料”、細胞の機能を向上させる“サイトカ イン”に分けられる。(Fig.1-1)
これら3つを巧みに組み合わせ利用することによって自己組織誘導が可能となる という考え方から組織工学は成立している。足場材料は移植先に対して生体内と同 様な機能や力学的な適合性を有する事が必要とされている。これに加え、毒性が 無く生体適合性がある事が重要である。現在でも生体組織の機能・構造には不明 瞭な部分が数多く、課題が残されている。その1つに、細胞と足場材料間の相互作 用があり、生体材料内に包埋した細胞の制御が求められている。その為にも目的と する組織の機能・構造を把握し、それを模倣した材料を目指す事が重要な課題で あると考えられる。
Fig.1-1 組織工学の三要素(細胞・足場材料・サイトカイン)
2
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1-2 細胞外マトリックスと細胞
細胞外マトリックス(ECM:Extra Cellular Matrix)は生体組織内にある細胞間を満 たすコラーゲンやプロテオグリカンなどの総称を定義とする、様々な構造タンパク(コ ラーゲン、エラスチン、ラミニン、フィブロネクチンなど)からなる高分子複合体である。
ECMは細胞間を満たし、
細胞とはインテグリンな どの細胞表面レセプタ ーを介して結合してい る。この結合により細胞 内にシグナルが伝わり、
細胞がもつ機能(足場 形 態 ・ 増 殖 ・ 分 化 ・ 接 着・遊走など)の発現や 細 胞 間 の 情 報 伝 達 に 大きな役割を果たして いる。(Fig.1-2)(2
1-3 弾性組織
弾性線維は、形態学的観察からエラスチンとフィブリリン、フィブリンなどの疎水性 タンパク質から成る線維によって構成される。エラスチンと微細線維(マイクロフィブ リル)の構成比率より、エラスチンを全く含まない微細線維のみから構成されるオキ シタラン線維、少量のエラスチンの周囲と内部に多数の微細線維が存在するエラウ ニン線維と、多量のエラスチンと少数の微細線維を持つ弾性線維の 3 種類に分類 されている。(Fig.1-3)(3 この内、弾性組織にはエラウニン線維や弾性線維が存在し、
エラスチンの性質により伸縮能をもつ事が出来る。弾性組織は生体内で主に心臓 や肺、靭帯など伸縮能を必要とする部位に存在する。
オキシタラン線維 エラウニン線維 弾性線維
Fig.1-3 生体組織内に存在する線維(モデル)
Fig.1-2 ECMと細胞との関係(モデル)
3
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1-4 エラスチン
エラスチンは ECM を構成する分子の一つであり、弾性線維の主要成分である。
大動脈や靭帯では乾燥重量の約 50%、中小動脈では約 20%占め、皮膚のエラス チンは 2~4%程度存在する。弾性線維の伸縮能はエラスチンが担う重要な性質で ある。この伸縮能はエラスチン特有のアミノ酸配列や架橋構造により生み出されて いる。その為、この性質を利用する事で弾性収縮能を付加した生体材料の模倣が 可能となり、注目されている。しかし、エラスチンは生体内で複雑な架橋構造を有し ている為、不溶性であり扱いにくい点がある。そこで、本研究室では、組織から抽出 した不溶性エラスチンを熱シュウ酸処理により可溶化したエラスチンを精製し、生体 材料開発を目指している。
本研究室では組織から塩や加熱処理により余分な脂質やコラーゲンを除去した 後に残る、不溶性タンパク質を不溶性エラスチンとしている。(4 不溶性エラスチン は体内に存在するエラスチン本来の状態に近く、豊富な架橋構造を持つ巨大タン パク質である。アミノ酸組成では、グリシンが 30%を占め、プロリン、アラニンに富む。
他にエラスチン分子中には、バリン、グリシン、プロリンに富む疎水性ドメインと、2~ 3個のリシン残基を持つ架橋ドメインが交互に14~16回反復して出現する。これに よりらせん構造を形成し、伸び縮みが可能となる。
エラスチン分子内の架橋構造は、デスモシンやイソデスモシンと呼ばれ 4 つのリ シン側鎖からなり、エラスチンに特徴的なものである。(Fig.1-4)この豊富な架橋構造 により水に対して不溶性の性質を持つ。
また、エラスチンの産生過程は分子量約 65~70kDa のトロポエラスチンとして生 合成される。分泌後自発的にトロポエラスチン中のリシン残基が架橋される。この時、
リシルオキシダーゼにより触媒され、酸化脱アミノ反応を受け架橋領域にイソデスモ シンやデスモシンが形成される。これが会合して不溶性エラスチンとしての性質を 担う。
形成された不溶性エラスチンは、高い分解抵抗性を有し、健常時においては組 織内での分解は見られない。(5 しかし、生理的や癌の様な病的過程においてセリン プロテアーゼ(エラスターゼ)や MMP スーパーファミリー(MMP-2,-9,-12)などによっ てエラスチンは分解される。(Fig.1-4)(6,7 分解を行った酵素により分解産物の構造、
アミノ酸組成や配列は様々ではあるが、一般的にエラスチン分解によって産生され たエラスチン断片は、Table.1-1 の様に正常細胞や腫瘍細胞の様々な細胞応答を 調節する事が報告されている。(8-19
4
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Fig.1-4 不溶性エラスチン構造と断片化エラスチンの与える影響(モデル)
Table.1-1 エラスチン断片が細胞に与える影響(8-19
5
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1-5 エラスチン結合タンパク(エラスチンレセプター)
1-5-1 組織再生に関わるエラスチン結合タンパクの種類
エラスチン結合タンパクは現在12 種類報告されている。その内、4 種類がエラス チンレセプターとして報告されている。(Table.1-2) しかし、これら以外のタンパク質 でもエラスチンと相互作用を持つ事も報告されおり、更なる調査が必要である。
1-5-2 組織再生における機能と問題点
エラスチンを含む組織の損傷時における再生には、エラスチンレセプターを始め とするエラスチンと相互作用をもつタンパク質が関与する。組織再生過程において エラスチン結合タンパクは組織再生を促し、機能維持する為に以下の 3 つの段階 に関与している。
I. トロポエラスチンの産生段階 II. エラスチン線維の形成段階
III. 線維形成後段階(エラスチン保護段階)
第一段階であるトロポエラスチンの産生段階では、エラスチン産生細胞が損傷部 位に遊走し、基質産生が活性化される必要がある。この時、損傷時に発生したエラ スチン断片が細胞の遊走能を活性化させる報告がある。しかし、この活性化のシグ ナリングを仲介するエラスチンレセプターはERC(Elastin Receptor Complex)である と考えられているが、ERC以外によるシグナリングの報告もある(6。
ERCはEBP(Elastin binding protein, 67kDa)と細胞膜貫通型の
Neu-1(Neuraminidase-1, 55kDa)、PPCA(Protective protein Cathepsin-A, 61kDa)と Table.1-2 既知エラスチン結合タンパク(エラスチンレセプター)(3, 6, 20-25
6
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三量体を形成する。(Fig.1-5)三量体の内、EBPがエラスチンと結合能を持ち、
Neu-1とPPCAは酵素からのエラスチン分解を保護する役割を持つと考えられてい
る。EBPはエラスチン分子内のXGXXPG配列(X:任意アミノ酸)を認識し結合する。
エラスチンと結合したEBPはERCを形成した状態でシャペロンとして機能し、ラクト ース結合部位へのラクトース結合によってエ
ラスチンとの結合を解離していると考えられ ている。(Fig.1-6)(26また、細胞膜上ではレセ プターとし、細胞の走化性やMMP-1などの 活性化に関与すると考えられている。
断片化エラスチンにより活性化された細胞 はエラスチンを産生する。細胞内で産生され たトロポエラスチンは ERC により細胞表面ま で輸送される(Fig.1-6)。この時、ERC 以外に
FKBP10(FK506 binding protein 10)と呼ばれるタンパク質が細胞内シャペロンとして 機能する事が報告されている。(25 しかし、ERC と比較しエラスチンの結合部位やど の様なメカニズムでシャペロンとしての機能を持つかは不明である。また、遊走後の 基質産生の活性化シグナリングを仲介するレセプターの詳細も不明である。
第二段階であるエラスチン線維形成段階では、細胞表面まで輸送されたトロポエ ラスチンがERCやαvβ3integrinによりマイクロフィブリル上に転移される。(27 そして、
マイクロフィブリル内に存在するフィブリン-5やフィブリリン-1などと相互作用し、エラ スチン線維形成に関与する。しかし、エラスチンとの結合部位や結合能における点 は不明である。また、αvβ3integrin はヒトトロポエラスチンとのみ結合能をもち、異種 においてはERCのみが関与するとされ、未知なタンパク質の関与も示唆される。
Fig 1-6 ERCエラスチン産生段階~線維形成段階(26
Fig 1-5 ERC三量体構造
7
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最後の第三段階であるエラスチン保護段階では、健常状態においてエラスチン は複雑な架橋構造を有する事から高い分解抵抗性を持ち、分解されていない。(5 しかし、癌や動脈硬化の様な病変進行時において、1-4 で述べた様に、エラスチン 分解が起こり、そのエラスチン分解産物が更なるエラスチン分解や病的進行を誘発 すると考えられている。この時、エラスチン分解酵素の活性化シグナリングを制御す る際にもエラスチンレセプターが関与している。しかし、既知のレセプターの関与は 確認されず、未知のエラスチンレセプターの存在が報告されている。(6
この様に組織再生を制御する上で、再生過程だけでなく分解過程においてもエラ スチン結合タンパクが関与し、未知のエラスチン結合タンパクの存在も示唆されて いる。今後これらの存在と機能を明らかにする事で、組織再生および機能維持を制 御する技術に繋げる事が期待できる。その為に、未だ不明なエラスチン結合タンパ クの解明が求められている。
1-6 前実験までの成果
本研究室ではエラスチンを含む組織の再生を促す材料開発を目指している。本 実験以前の研究において、アイソタイプエラスチン(エラスチン A, E)コーティング上 での培養評価により血管平滑筋細胞においては、収縮型への分化誘導やエラスチ ン産生能増加、増殖制御が確認された。(28 また、線維芽細胞においては、エラス チン産生量の増加が確認されている。(29これらの細胞応答は ERC からシグナルが 伝達されると考えられているが、ERC 以外の細胞タンパク質が、関与している可能 性も十分に考えられる。
1-7 本実験の目的
エラスチンの影響による細胞応答は確認されているが、未だにシグナル伝達の 入口となる、エラスチンレセプターやエラスチン線維形成に関与するエラスチン結 合タンパクは不明な点が多く十分な解明がされていない。
そこで、本研究では、エラスチン結合タンパクを明らかにし、細胞‐生体材料間の メカニズム解明に寄与する事で、組織再生技術の開発に繋げる事を目的とした。
この目的達成へのアプローチとして、以下の点に着目した。
1. エラスチンと細胞の相互作用をより明確にする為、エラスチンの豊富な環境 下に存在する靭帯組織(乾燥重量約50%)に着目した。
2. エラスチンのネイティブ構造に近い状態下での性質と細胞間の情報を得る 為、不溶性エラスチンを使用した。
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2 実験方法
2-1 細胞の培養と継代
2-1-1 靭帯細胞の採取と継代培養
三重大学大学病院から提供を受けたヒト靭帯組織から細胞単離を移植片培養法 にて行なった。まず、提供を受けた組織に付着した他の組織を取り除き、2-3 mm程 度の大きさに切り分けた。切り分けた組織切片を細胞培養シャーレ上に静置し、37
ºC/ 5 % CO2インキュベータ(池本理化工業)内で1 hインキュベートした。その後、
組織が剥がれないよう慎重に 10 % FBS(Fetal Bovine Serum)含有 DMEM
(Dulbecco's Modified Eagle Medium)を添加し、培養を開始した。数日後、組織か ら細胞が十分に遊出したことが確認出来たら(passage 0 と定義)、トリプシン処理に て細胞を剥離させ、靭帯細胞の継代培養を行なった。3 日に 1 度培地交換を行な い、コンフルエント(80%~100%)まで細胞が増殖した時点で細胞抽出作製し、使 用した。
Fig.2-1 細胞形態(靭帯細胞)
(倍率×4) (倍率×10)
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2-2 不溶性エラスチンの精製
2-2-1 組織抽出
三重県松坂食肉流通センターから頂いたブタ大動脈血管から脂肪やコラーゲン、
血塊を除去し、10%NaClで洗浄した。その後、加熱処理し、細かく破砕した。そして、
粉砕物を洗浄し、再加熱処理後、エタノールで脱水を行い乾燥させ不溶性エラス チンを得た。乾燥後ふるいにかけ、粒子径106µm以下を除去した。
2-2-2 不溶性エラスチンの洗浄
不溶性エラスチンを1.5mlアシストチューブに入れ、0.05M Tris-HCl(pH7.4)で膨
潤後、280nm における吸光度測定により 5M NaCl、5M 尿素でバックグラウンドレ
ベルまで洗浄し、不溶性エラスチンの非特異的吸着タンパク質の除去を行った。更 に、10%NaOHでバックグラウンドレベルまで洗浄し、不溶性エラスチン中に存在す る酸・塩基の影響を受けやすい未架橋領域や断片化エラスチンの除去を行った。
密な架橋構造によるエラスチン結合能の変化を確認する為、この操作は行ったもの と行わなかったものの2種類を用意した。洗浄後の不溶性エラスチンは、アジ化ナト リウムを含む保存液に浸し4℃にて冷蔵保存した。
2-3 エラスチン結合タンパク抽出
2-3-1 細胞抽出液の作製
細胞培養用 35φシャーレまたは、75cm²フラスコにてコンフルエントにまで培養し た細胞に0.1%Triton-X100(Sigma)を含むHEPES buffer(同仁化学)及びアプロチニ ンやロイペプシンなどを含むProtease inhibitor cocktail(Sigma)を添加し、超音波破 砕にて抽出した。細胞抽出液は、約600µlずつ分注し、-80℃にて凍結保存した。
2-3-2 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ
洗浄後の不溶性エラスチンに細胞抽出液を添加し、4℃/1 時間ローテーターに て撹拌した。その後、遠心分離(10000×rpm, 1min)を行い、上澄み(エラスチン非 結合タンパク)を除去した。そして、Tris-HCl buffer にてバックグラウンドレベルまで 洗浄後、残った不溶性エラスチンとエラスチン結合タンパクにラクトースや NaCl、尿 素 を 含 む バ ッ フ ァ ー で そ れ ぞ れ 溶 出 し た 。 各 溶 出 後 は 限 外 濾 過 フ ィ ル タ ー (3-30kDa)(Millipore)で濃縮後、-80℃で凍結保存した。
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2-3-3 タンパク質の定量(BicinChoninic Acid法:BCA法)
BSA(Bovine Serum Albumin)をタンパク量0, 2, 4, 6, 8, 10µgになる様にスタンダ ードを作製した。37℃/30 分静置し、562nmにおける吸光度を測定した。スタンダー ドのタンパク質濃度を横軸、吸光度を縦軸にとり、検量線を作成した。その検量線 からタンパク量を決定した。
2-4 電気泳動法
2-4-1 SDS-PAGE (Sodium Dodecyl Sulfate- Poly Acrylamide Gel Electrophoresis)
不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィで回収した上澄みをサンプルとした。
10%アクリルアミドゲルに、サンプルとサンプルバッファーを1:1で混合したものを
15mA ・定電圧で電気泳動を行った。スタンダードにはHMW SDS Marker
Kit(Amersham)を使用した。電気泳動終了後、銀染色または、蛍光染色によりゲル
を染色した。染色後のゲルを撮影し、Gel-pro analyzer(Nippon roper)にてスタンダ ードからタンパクバンドの分子量測定を行った。
2-4-2 2D-PAGE (2-Dimensional Poly Acrylamide Gel Electrophoresis)
MS(Mass spectrometry)解析によりタンパク同定を行う事を目的に行った。不溶性
エラスチンアフィニティクロマトグラフィで回収した上澄みをサンプルとした。添加タ ンパク量は50µg以上とし、一次元目ゲルは
pH4-7、二次元目ゲルは10%ポリアクリルアミド
ゲルを使用した。スタンダードはHMW SDS Marker Kit(Amersham)または、Magic Maker (Invitrogen)を使用した。電気泳動後、蛍光染 色によりスポット確認を行い、目視によりはっき りとスポットと確認出来たスポットをTOFMSサ ンプルとしてピッキングを行った。
Fig.2-2 二次元電気泳動装置
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2-5 タンパク同定
2-5-1 Western blotting
SDS-PAGE 後のタンパク質に対しエラスチンレセプターの EBP(Elastin binding
protein)の存在確認を目的に行った SDS-PAGE 後ゲルに含まれるタンパク質を
PVDF (PolyVinylidene DiFluoride)膜に109mAで1時間転写した。転写後の膜は 固 定 、 洗 浄 を 行 い 、 一 次 抗 体 に anti-GLB1 antibody(Abcam)、 二 次 抗 体 に HRP-Goat anti-Rabbit IgG(H+L)(Invitrogen)を使用した。また、細胞抽出液使用時 の内部標準として anti β-actin antibody を使用した。抗体処理後、ECL(Enhanced Chemi Luminescence)(GE lifescience)を 添 加 し 、 ル ミ ノ イ メ ー ジ ア ナ ラ イ ザ ー (LAS-4000 mini EPUV, FUJIFILM)で撮影した。撮影後のイメージは Image Jで解 析した。
また、2D-PAGEのゲルを使用した際は、2D-PAGEのゲルをSDS-PAGEと同じ大
きさ(約 6cm×9cm)に切り取り、SDS を含むバッファーで再可溶化した後、上記と同 様の方法と抗体を使用して行った。
2-5-2 MALDI-TOFMS(Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization Time Of Flight Mass Spectrometry) 質量分析
2D-PAGEのゲルからくり抜いたスポットに含まれるタンパク質の同定を目的に行
った。始めにMS解析の手技確認の為、BSAを用いたタンパク同定確認を行った。
BSAはタンパク量0.25, 0.5, 0.1µg添加し、SDS-PAGEを使用した。BSAの同定確
認後、2D-PAGEで分析したエラスチン結合タンパクの同定を行った。それぞれのゲ
ルから回収したスポット及びバンドは東京都老人総合研究所産学公連携プロテオ ーム共同研究センターの標準操作法にしたがって、還元アルキル化とトリプシン
(Promega)によるゲル内消化をした。(30 得られた消化液を回収し、減圧乾燥機
(DNAmini)で濃縮した。濃縮後プレートにサンプル0.5µlとマトリックス(CHCA:
α-cyano-4-hydroxycinnamic acid)(Sigma)0.5µlを1:1の比率で添加し、overnightで 乾燥した。マトリックスとはサンプルを結晶化させイオン化させやすくする化合物で ある。
サンプル添加後プレートはMALDI TOF-MS(4800plus, Applied Biosystems)にて 質量分析を行った。質量分析はMS/MSを行い、測定後のMS/MSデータは Protein Pilot(Applied Biosystems)とMascot(Matrix Science)ソフトウェアにてデータ ベース検索を行った。データベースはNCBI(National Center for Biotechnology Information : http://www.ncbi.nlm.nih.gov/) を使用した。得られた検索結果をもと にタンパク質を同定した。
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2-6 統計分析
統計的な有意性はStatView®-J 5.0(SAS社)を使用した。データの比較の際には、
t検定(対応なし)で試験し確率値(P値)の算出を行った。P値<0.05を有意とした。
Fig.2-3 MALDI-TOFMS
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3 結果
3-1 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ
3-1-1 不溶性エラスチン中の非特異的タンパクの溶出確認
Fig.3-1 では細胞抽出タンパクの非存在下において不溶
性エラスチン中の非特異的タンパクの溶出確認を尿素溶出 により行った。この不溶性エラスチンはNaOH洗浄未処理で ある。
Fig.3-1 より、タンパクバンドが確認されなかった事から非
特異的タンパクの存在は無い事が確認された。また、バック グラウンドが高い事からNaOH洗浄未処理時には尿素溶出 において不溶性エラスチンが尿素により可溶化している可 能性が考えられた。
3-1-2 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ
Fig.3-2a、b は不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィによりエラスチン結合
タンパクの精製を行った結果である。Fig.3-2aは不溶性エラスチンのNaOH洗浄無、
Fig.3-2b は NaOH洗浄有の結果である。両条件ともエラスチン結合タンパクの溶出
方法は尿素溶出を行った。この結果よりエラスチン非結合タンパクをバックグラウン ドレベルまで洗浄したにも関わらず溶出タンパクが確認された。(④)
また、Fig.3-2cはNaOH洗浄有・無における溶出タンパクを比較した結果である。
各グラフは吸光度が濃度に比例する事と Fig.3-2a,b のエラスチン非結合タンパクと 溶出タンパクを合わせた量を細胞抽出液中の全タンパクとする事を前提とし、下記 の計算方法で全タンパク量における溶出タンパクの割合を表したグラフである。
その結果、NaOH 洗浄有に比べ、洗浄無の方で溶出量が高い事が確認された。有 意差(*:p<0.05)
次に、Fig.3-2d,eで尿素溶出(⑥)に加えラクトース(④)とNaCl溶出(⑤)を追加した。
これは尿素溶出したタンパク質内にそれぞれ、ラクトース結合性やイオン結合性タ Fig.3-1 尿素溶出(抽出タンパク無)
溶出タンパク含有率(%)=溶出タンパク量/細胞抽出液中の全タンパク量
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ンパクの存在を確認する為に実施した。その結果、全ての溶出液において溶出タ ンパクが確認された。この結果より、溶出タンパクに含有するタンパク質は疎水性相 互作用、イオン結合、ラクトース結合性の性質をもつタンパクが複数存在している可 能性が示唆された。更に、Fig.3-2fでFig.3-2cと同様、NaOH洗浄有・無における各 溶出量を比較した。この結果より、NaOH洗浄無の条件で溶出量が高い事が確認さ れた。
Fig.3-2b 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィNaOH洗浄有(n=3) Fig.3-2a 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィNaOH洗浄無(n=3)
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Fig.3-2c NaOH洗浄有・無時の尿素溶出による比較(n=3)
Fig.3-2dラクトース、NaCl、尿素溶出(NaOH洗浄無)(n=1)
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Fig.3-2eラクトース、NaCl、尿素溶出(NaOH洗浄有)(n=3)
Fig.3-2f NaOH洗浄有・無時のラクトース、NaCl、尿素溶出による比較
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3-2 SDS-PAGE
Fig.3-3a,b はそれぞれ不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィにより精製し
たタンパク質をSDS-PAGEにより分析した結果である。Fig.3-3aは不溶性エラスチン の NaOH 洗浄有・無と尿素溶出時の結果である。そして、Fig.3-3b は NaOH 洗浄 有・無に加えラクトース、NaCl、尿素溶出を追加した結果である。
Fig.3-3aのレーン1が分子量マーカー、レーン2が平衡時、レーン3が細胞抽出
液、レーン 4がエラスチン非結合タンパク、レーン5がエラスチン非結合タンパク洗 浄時、レーン6は尿素溶出時のエラスチン結合タンパクである。Fig.3-3bはレーン1 が分子量マーカー、レーン2,3,4がそれぞれラクトース、NaCl、尿素の順にエラスチ ン結合タンパクを溶出させた結果である。
Fig.3-3aより、NaOH洗浄有・無のレーン6でそれぞれ洗浄無時に9バンド、洗浄
有時に 7 バンド確認された。そして、Fig.3-3b で各溶出液においてバンドが確認さ れた。これらの事から、複数のタンパク質がエラスチンに結合し、その結合様式は複 数存在する可能性が示唆された。また、NaOH洗浄無の方にバンド数が多い事から、
洗浄成分中にエラスチン結合領域が存在する可能性が示唆された。
Fig.3-3a SDS-PGAE(不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィNaOH洗浄有・無)
NaOH洗浄有
NaOH洗浄無
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Fig.3-3b SDS-PGAE(ラクトース、NaCl、尿素溶出/NaOH洗浄有・無)
NaOH洗浄有
NaOH洗浄無
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3-3 EBP 発現確認(SDS-PAGE ゲル)
不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィとSDS-PAGE により複数のエラスチ ン結合タンパクの存在が示唆された。次に、これらタンパク質が非特異的ではなく エラスチンと相互作用をもった上で結合している事を明らかにする必要ある。そこで、
エラスチン結合タンパクとして最もよく知られたEBPが存在するかどうかの検証を行 った。
3-3-1 細胞抽出液
出発点となる細胞抽出液中の EBP の存在を調査した。Fig.3-4 は靭帯細胞の細 胞 抽 出 液 を Western blotting を 行 っ た 結 果 で あ る 。 一 次 抗 体 は 、anti-GLB1 antibodyおよびanti β-actin antibodyを使用した。β-actinは内部標準として使用し た。
結果より細胞抽出液から 2 つのバンドが検出された。矢印上から、EBP、β-actin である。この結果より、靭帯細胞において、EBP発現を確認出来た。
Fig.3-4 Western blotting 細胞抽出液
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3-3-2 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ(尿素溶出/NaOH洗浄有・無)
Fig.3-5 は靭帯細胞抽出液を不溶性アフィニティクロマトグラフィの尿素溶出で回
収したタンパク質をWestern blottingを行った結果である。レーン1,2はそれぞれ不 溶性エラスチンのNaOH洗浄有・無である。
結果より、NaOH洗浄有ではEBPの発現が確認されなかった。しかし、NaOH洗 浄無では EBP の発現が確認された。また、NaOH 洗浄有のみに β-actin の発現が 確認された。
以上より、不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィにより溶出されたタンパク 質はエラスチン結合タンパクである事が確認された。また、NaOH 洗浄の有無により EBPやβ-actinの発現に違いが見られた。
Fig.3-5不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ尿素溶出
(NaOH洗浄有・無)
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3-4 2D-PAGE
不溶性エラスチンのNaOH洗浄有・無によりEBPやβ-actinの発現に違いが現れ
た事をWestern blottingにより確認した。そこで、これらのタンパク質以外にエラスチ
ン結合タンパク質にどの様な変化が生じているかを確認する為、2D-PAGE を行っ た。
Fig.3-6a,bは、NaOH洗浄有・無条件下で不溶性エラスチンアフィニティクロマトグ
ラフィ(尿素溶出)により回収したエラスチン結合タンパクを 2D-PAGE にて発現分布 を分析した結果である。
Fig.3-6aはNaOH洗浄無、Fig.3-6bはNaOH洗浄有の結果である。Fig.3-6a,bよ りタンパクスポットがそれぞれ 20 個以上確認された。多くのスポットが NaOH 洗浄 有・無の両条件で確認された事から、多くのエラスチン結合タンパクはエラスチン断 片やエラスチン線維の未架橋領域に関係なく関与出来る事がわかった。また、
NaOH洗浄無の条件で特異的に発現したスポットが存在した。
そこで、Fig.3-6a,b のスポットから共通するスポットを発現が比較的高い 14 個(←
1-14)と、NaOH洗浄無条件のみに特に強く発現したスポットを3個(←15-17)選択し、
それぞれタンパク同定の為のサンプルとした。
Fig.3-6a 2D-PAGE(NaOH洗浄無)
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Fig.3-6b 2D-PAGE(NaOH洗浄有)
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3-5 MALDI-TOFMS
3-5-1 BSAによるタンパク同定確認
Fig.3-7とTable.3-1は MS解析の手技確認として、BSAにてSDS-PAGE後MS 解析を行った。Fig.3-7 は MS 解析に使用した BSA のバンドである。Table.3-1 は
Fig.3-7 の各 BSA バンドを MS 解析によってタンパク同定を行った結果である。
Sequence Coverage(%)は BSA 全アミノ酸配列に対して測定したサンプルが一致し
たアミノ酸配列の割合である。この結果より、全てのBSAにおいて検索結果がBSA と一致し、検索時のヒットタンパクは BSA 一種類のみであった。また、Sequence
Coverage(%)は3種類の濃度で測定した結果、それぞれ約20%程度を示した。
これらより、タンパク量が少量でもSequence Coverage(%)が約20%程度占めてい る検索結果はタンパク同定が可能である事がわかった。
Table.3-1 同定結果(BSAによるMS解析)
Fig.3-7 同定確認の為のBSA(タンパク量0.25, 0.5, 1μg)
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3-5-2 エラスチン結合タンパクによるタンパク同定
Fig.3-6a,bの2D-PAGEにより確認されたスポットに対し、MS解析(MS/MS)にてタ ンパク同定を行った。Fig.3-8aは Fig.3-6a で選択した 17 個のスポットを抜粋した拡 大図である。同様に、Fig.3-8bは Fig.3-6bで選択した 13個のスポットを抜粋した拡 大図である。また、Table.3-2a,b はそれぞれの抜粋領域のスポットを MS 解析により 同定した結果である。Fig.3-10a-f と Fig.3-11a-d は Protein pilot と Mascot による
MS/MSデータ検索時の結果詳細である。
Table.3-2aより、FKBP9,vimentin, stress 70 proteinなどの8種類のエラスチン結合 タンパクが同定された。そして、Table.3-1bより、FKBP9, vimentin, Tubulin, β-actin の4種類のエラスチン結合タンパクが同定された。
結果より、両条件で確認されたスポットの多くは一致した。一部のタンパク質は一 致しなかった。
また、SDS-PAGE後のWestern blottingにより確認されたEBPの存在は確認され なかった。
これらの結果から、両条件で一致した vimentinと FKBP9は不溶性エラスチンの NaOH洗浄有・無に関わらずエラスチンに結合する事がわかった。また、他のタンパ ク質は洗浄の有・無によって結合能に違いが現れる事がわかった。
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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 NaOH洗浄無
Sample Protein name Sequense
coverage(%) Hit peptide(本) Scoa Sequense
coverage(%) Hit peptide(本) No.1 No Hit
No.2 No Hit
No.3 Peptidyl-prolylcis-trans isomerase FKBP9
precursor 7.1 5 121 7 5
No.4 Reticulacalbin-2 20.6 3 60 3 1
No.5 Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein 2.6 1
No.6 Vimentin 39 10 379 23 7
No.7 Vimentin 41.6 4 75 6 3
No.8 Vimentin 27.7 7 199 10 4
No.9 Vimentin 32.8 9 149 7 3
No.10 Vimentin 34.6 10 60 6 2
No.11 Vimentin 24.7 4 92 9 3
No.12 Vimentin 31.6 7 92 9 3
No.13 No Hit
No.14 Actin cytoplasmic 2 14.4 2
No.15 Stress 70 protein(MTHSP75) 6.6 3 229 6 3
No.16 Protein disulfide isomerase 21.7 8 246 14 6
No.17 Actin related protein 3 17.2 6 138 9 4
Protein pilot Mascot
No Hit
No Hit
Table.3-2a TOF-MS解析結果(NaOH洗浄無) Fig.3-8a Fig3-6a拡大図
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三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 NaOH洗浄有
Sample Protein name Sequense
coverage(%) Hit peptide(本) Scoa Sequense
coverage(%) Hit peptide(本) No.1 No Hit
No.2 No Hit
No.3 Peptidyl-prolylcis-trans isomerase FKBP9
precursor 19.3 6 358 17 10
No.4 No Hit No.5 No Hit
No.6 Vimentin 17.4 2 123 13 4
No.7 Vimentin 33.9 35 252 25 7
No.8 tubulin beat chain 13.5 2 203 18 7
No.9 Vimentin 44 9 676 32 11
No.10 Vimentin 42.9 12 493 28 10
No.11 Vimentin 34.1 6 366 29 10
No.12 Vimentin 39.9 10 493 28 10
No.13 No Hit
No.14 β-actin 24 6 238 18 6
Protein pilot Mascot
Fig.3-8b Fig3-6b拡大図
Table.3-2b TOF-MS解析結果(NaOH洗浄有)
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3-6 EBP 発現確認(2D-PAGE ゲル)
MS解析によりEBPの存在が確認できなかった為、Western blottingにより存在確 認を行った。Fig.3-9aの点線はFig.3-6aのNaOH洗浄無条件の2D-PAGEゲルを 切り抜いた箇所である。そして、切り抜いた箇所に対して Western blottingを行った。
その結果がFig.3-9bである。
結果より、EBPのスポットの存在を確認出来、EBPのスポット位置が明らかになっ た。(Fig.3-9c赤丸部位)
Fig.3-9a 切り出し部位 (NaOH洗浄無、2D-PAGEゲル)
Fig.3-9b 切り出し部位 Western blotting
Fig.3-9c EBPのスポット発現部位
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3-7 MS 解析結果詳細
Fig.3-10a,b,c,d,e,f と Fig.3-11a,b,c,d に Table3-2a,b で同定されたタンパク質の
Mascot による検索結果の詳細を示す。各検索結果詳細の左端の番号についてそ
れぞれ下記に示す。
項目1:一致タンパク質のNCBIタンパクデータコード、合計スコア値、一致タンパ ク質名(種族)
項目2:一致タンパク質の分子量と等電点、全アミノ酸配列に対する配列一致率 項目3:全アミノ酸配列に対する配列一致率詳細
※一致タンパク質の全アミノ酸配列と赤文字表記で配列一致部位が示されている。
配列カバー率は、一致配列/全アミノ酸配列(%)で示されている。
項目4:項目3で配列一致部位のペプチド詳細
項目左から、配列一致部位、実測値、実測値から計算されるペプチド分子量、ヒット したアミノ酸配列から計算される理論分子量、実測値と理論値とのずれ(単位:ppm)、 酵素消化の切れ残りの数、実測値から計算された配列。
項目5:理論値からのずれ(項目4のppm値の分布図)
NaOH洗浄無
1. Peptidyl-prolyl cis-trans isomerase FKBP9 precursor
Fig.3-10a FKBP9
29
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2. Reticulacalbin-2
3. Vimentin
Fig.3-10b Reticulacalbin-2
Fig.3-10c Vimentin
30
三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 4. Stress 70 protein (MTHSP75)
5. Protein disulfide isomerase
Fig.3-10e Protein disulfide isomerase Fig.3-10d Stress 70 protein (MTHSP75)
31
三 重 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 6. Actin related protein 3
Fig.3-10f Actin related protein 3
32
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NaOH洗浄有
1. Peptidyl-prolyl cis-trans isomerase FKBP9 precursor
2. Vimentin
Fig.3-11a FKBP9
Fig.3-11b Vimentin
33
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3. Tubulin beta chain
4. β-actin
Fig.3-11c Tubulin beta chain
Fig.3-11d β-actin
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4 考察
4-1 不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィ
4-1-1 検出バンドの評価
本実験は細胞抽出液にアフィニティクロマトグラフィをかけエラスチン結合タンパ クを回収した。この時、細胞抽出液の洗浄不十分や非特異的吸着により偶然にタン パクバンドが検出される可能性があるが、この可能性は低いと考えられる。この理由 として、細胞抽出液中の界面活性剤成分が非特異的吸着を妨げ、かつ非特異的 吸着成分の溶出を吸光度測定にて確認した上で目的タンパクを溶出している為で ある。本実験で使用する細胞抽出液には 0.1% TritonX-100 が含有しており、
TritonX-100 の臨界ミセル濃度は 0.2-0.9mM(0.01-0.05%)である。界面活性剤はこ の細胞抽出液を不溶性エラスチンに添加しても、約 0.05mM(0.05%)であり臨界ミセ ル濃度以下には希釈されない為、界面活性剤の影響により非特
異的吸着は阻害されていると考えられる。この時、界面活性剤の 影響によりエラスチン結合タンパク自身も結合阻害を受けてしまう 可能性がある。これに対しては、結合を阻害されている可能性は 否定出来ないが、Fig.3-5 よりEBP の発現が確認されている事か ら完全には結合阻害を受けていないと考えられる。言い換えると、
界面活性剤状況下であるにも関わらず、アフィニティ後溶出され るタンパク質はより強固なアフィニティが期待出来ると考えられ る。
更に、Fig.4-1 では不溶性エラスチン中に非特異的吸着タンパ
クの存在が無い事が示された。これにより、検出されたタンパクバ ンドは全てエラスチン結合タンパクとして溶出していると考えられ る。
以上の事より、本実験で使用した不溶性エラス
チンアフィニティクロマトグラフィはエラスチン結合タンパクの単離を可能とし、得ら れたタンパクバンドはエラスチン結合能を有する事は妥当であると考えられる。
Fig.4-1 尿素溶出(抽出タンパク無)
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4-1-2 NaOH洗浄による影響
不溶性エラスチンの NaOH 洗浄による影響について考察する。不溶性エラスチ ンは豊富な架橋構造を有し、生体内に存在するネイティブ構造に最も近いエラスチ ンである。この架橋構造は、熱酸や塩基、酵素条件以外では分解を受けにくい性 質を生み出している。本研究で使用した不溶性エラスチンは生体組織から熱や塩 処理を経て精製している。この過程ではエラスチン分子の立体構造を変性させる条 件が存在せず、アミノ酸配列への影響も無いと考えられる為、よりネイティブ構造に 近いエラスチンの模倣を可能にしている。
この不溶性エラスチンは密な架橋を有したエラスチンだけでなく、エラスチン断片 の存在も考えられる。これについてエラスチン線維の形成過程から考える。(31 エラ スチン線維は細胞内で合成されたトロポエラスチンが細胞表面上で架橋構造を形 成し線維化となる。この線維化の際、細胞表面上ではコアセルベーションと呼ばれ る現象が起きている。コアセルベーションとは、エラスチン分子が温度依存により自 己凝集体を形成するエラスチン特有の性質である。 細胞表面上に輸送されたトロ ポエラスチンは生体熱(37℃条件下)でコアセルベーシ
ョンを起こし、凝集体を形成する。Fig.4-2 はその様子 を示している。(32このFig.4-2は37℃条件下でコアセル ベーションさせたトロポエラスチンを SEM(Scanning Electron Microscopy : SEM)により撮影した結果、直径
約2-6μmの粒子を形成する事が報告されている。
そして、この凝集体はリシルオキシダーゼの影響を 受け、凝集体同士が架橋構造を形成する事
で線維化となる。(Fig.4-3) この時、コアセル
ベーションによって形成した凝集体は互いのエラスチン分子同士の架橋構造は持 たず、疎水性相互作用によって存在する。
この時、もし全てのエラスチン分子が架橋構造を持たないとするならば、エラスチ ン線維内には架橋構造によって存在するエラスチンと架橋構造を形成せず疎水性 相互作用によって存在するエラスチンが考えられる。この架橋形成に関与していな いエラスチン分子は架橋構造を持つエラスチン分子と比較し、容易に結合を切除 する事が可能であると考えられる。(Fig.4-4) これは、架橋構造によって存在するエ ラスチンはデスモンシンやイソデスモシンの様な複雑な架橋構造を持つ一方で、架 橋形成に関与していないエラスチン分子は、立体障害が比較的少なく、酸や塩基 の影響を受けやすい状態にある為だと考えられる。その為、NaOH 洗浄よって不溶 性エラスチン中の架橋構造に関与していないエラスチン分子が溶出したと考えられ る。
Fig.4-2 トロポエラスチンの凝集体(32
36
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しかし、NaOH によってエラスチン分子を溶出させる為には、コアセルベーション によって形成された密な凝集体をほぐし内部にまで NaOH が作用する必要性があ る。これは、Fig.4-5より考える事が出来る。Fig.4-5は本研究室においてpH変化に おける凝集温度の推移を測定した結果である。(33 この結果より強酸または、強塩 基条件下になるほど凝集温度が増加し、
最終的には凝集しない事が観測された。
つまり、NaOH の強塩基条件下(pH12 以上)では凝集体の維持が出来ず、ほ どかれた状態になった為、不溶性エラ スチン中からエラスチンが溶出されたと 考えられる。
Fig.4-3 エラスチン線維形成過程(モデル)
Fig.4-4 エラスチン凝集体内のエラスチン分子
Fig.4-5 pH変化による凝集温度変化(33
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また、生体内でエラスチン線維として存在する際、エラスチン分解酵素(エラスタ ーゼや MMP)による分解を受けている可能性も考えられる。これは、生体内でエラ スチン線維の形成後、生理的過程や病変進行によってエラスチン産生細胞自身や マクロファージやがん細胞、白血球などによってエラスターゼや MMP の産生及び 活性が刺激され、エラスチン分解を受けている可能性が考えられる。これにより、下 記の可能性があり、架橋形成に関与していないエラスチン分子と同じ様な振る舞い を持つと考えられる。
① 分解を受けたエラスチンは断片化され、表面上で露出する可能性
② 密な架橋構造の為、エラスチン線維内に断片が取り込まれる可能性
したがって、NaOH 洗浄を行う事で、不溶性エラスチン中の架橋構造に関与して いないエラスチン分子や分解酵素の影響を受けたエラスチン断片が溶出したと考 えられる。(Fig.4-6)
4-1-3 尿素溶出による影響
Fig.3-1において不溶性エラスチンアフィニティクロマトグラフィの尿素溶出時に高
分子領域のバックグラウンドが高い事が確認された。これは、NaOH洗浄を実施して いない為、不溶性エラスチン中の可溶化しやすい領域が尿素により溶出している 事が原因であると考えられる。この現象はNaOH洗浄後の不溶性エラスチンでは見 られなかった。(no date) 尿素はタンパク質の高次構造の維持に関与する疎水性相 互作用を破壊し、タンパク変性を起こす作用がある。(34 また、4-1-2 項で前述した 様に不溶性エラスチン中のエラスチン凝集体は疎水性相互作用により互いに凝集 している。この為、尿素においても凝集体がほぐされた状態になり、架橋に関与して いないエラスチン分子が溶出したと考えられる。
Fig.4-6 NaOH洗浄後の不溶性エラスチンとNaOH洗浄有・無の不溶性エラスチン
による生体内模倣(モデル)
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4-2 EBP発現確認
4-2-1 EBPのエラスチン結合能
Fig.3-5 より、不溶性エラスチンのNaOH 洗浄未処理時に EBPが検出された。こ
の結果により、EBP は不溶性エラスチンの架橋形成に関与していないエラスチン分 子や断片化エラスチンとのみエラスチン結合能を有し、洗浄後に残った密な架橋 構造を持つエラスチン分子とは結合出来ない可能性が示唆された。これは、架橋 に関与していないエラスチン分子は空間的な拘束が比較的小さく、配列が露出し やすい為、結合出来たと考えられる。一方で、NaOH 洗浄後に残ったエラスチン分
子は 4-2-1 項で前述した様に、架橋に関与しているエラスチンである為、露出配列
の制限や立体障害を受けEBPが結合出来なかったと考えられる。(Fig.4-7)
また、EBP はエラスチン線維中にも存在する事が確認されている。Fig.4-8 はヒツ ジ胎仔大動脈の血管平滑筋細胞における細胞内と細胞外のEBPおよびトロポエラ スチンを免疫染色により確認した結果である。(35 この結果より、EBP がトロポエラス チンだけでなくエラスチン線維にも相互作用を持つ事が考えられる。しかし EBP は 架橋に関与していないエラスチン分子や酵素分解を受けたエラスチン断片にのみ 結合能をもつ場合、エラスチン分子の密な架橋領域には関与する事が出来ない。
これは、intactな状態にあるエラスチンには EBPが機能していない事になる。つまり、
EBP が機能する時は、損傷時やリモデリング時により断片化エラスチンが発生する 場合であり、これによりエラスチン産生や更なる分解を促進させると考えられる。
Fig.4-7 エラスチン構造の違いによるEBP結合能の変化(モデル)
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言い換えると、EBP には、密な架橋領域に関与する 事は出来ない為、エラスチン線維の機能維持の様な 役割をする新たなタンパク質の存在が必要になると考 えられる。(Fig4-9)
したがって、生体内のエラスチン線維中にEBPが存 在する事は可能であるが、相互作用出来る領域が制 限されており、架橋領域のエラスチンに作用する新た なエラスチン結合タンパクの存在の必要性があると考 えられる。
Fig.4-8 エラスチン線維中のEBP(35
Fig.4-9 エラスチンとEBPの相互作用と未知タンパクの関与(モデル)
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4-3 2D-PAGE/MALDI-TOFMS
4-3-1 2D-PAGEのスポットについて
本研究は、細胞から抽出したタンパク質を精製し、そこから得られたエラスチン結 合タンパクのみを研究対象としている。このエラスチン結合タンパクは Fig.3-6a,b の
2D-PAGE によって 20 個以上スポットが確認され、多くのタンパク質がエラスチンと
相互作用を持つ事が示唆された。このスポット数は、細胞を構成するタンパク質数 から考えると非常に少数であると考えられる。
細胞1つあたりの構成タンパク数の詳細は不明である。しかし、タンパクデータベ ース(UniProtKB/Swiss-Prot:Release 2013_01)(36に収録されているヒトの構成タンパ
ク質数は 2013 年 1月時点で 20232 種類であり、細胞種によって数が異なるが、こ
の種類数に匹敵する程のタンパク数が存在すると考えられる。
これらのタンパク質は2D-PAGEによってスポットとして確認され、翻訳語修飾によ り同じタンパク質が様々な分子量や等電点を取りうる為、理論的には 20232 個以上 なりうる。
しかし、実際はそのタンパク数は使用サンプルの種類や抽出方法、電気泳動の 方法(等電点、分画分子量)、泳動後の検出法によって大きく減少する。本実験で 使用した2D-PAGEはpI範囲が4~7、分画分子量が20~250kDaである。これらの 条件から観察できる総タンパク質数は計算上約8,000~8,800個であると考えられて いる。(Fig.4-10)(37 Fig.4-10 は縦軸に分子量、横軸に等電点をとり、発現したタン パク質が 100%観察出来た場合のスポットをプロットした仮想ゲル画像である。赤枠 に あ た る 部 位 が 本 実 験 で 使 用 し た
2D-PAGEの条件に相当する。この結果
より、泳動条件によって非常に多くのタ ンパク質の存在を見落としている事が 言える。
また、本実験では染色方法に蛍光染 色(flamingo)を使用している。感度はタ ンパク量が数十ng 程度であり、染色感 度に満たない程の超微量タンパク質は 観察できず、実際に観察出来るスポット 数は更に減少する。
このスポット数に対して、本実験から エラスチン結合タンパクは20 個以上の スポットが確認された。この結果は、細 胞抽出液から観察される計算上のスポ
ット数よりもはるかに少ない事がわかる。つまり、エラスチンに関与するエラスチン結 Fig.4-10 仮想2D-PAGEゲル(37
41
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合タンパクは細胞構成タンパク数に対して非常に少数であることがわかる。
しかし、本研究の泳動条件は全てのタンパク質を網羅している訳ではない。これ は Fig.4-10 や Fig.3-9c にて EBP が蛍光染色後ゲルでは確認されず、western
blotting で確認された事からわかる。この事から、EBP の様なエラスチンレセプター
として代表されるタンパク質が他にも存在する可能性が考えられる。
そこで、今後は泳動条件や細胞抽出方法、染色方法を検討する事で更なるエラ スチン結合タンパクの解明が実現出来ると考えられる。
4-3-2 2D-ゲルと1D-ゲルの比較
本実験では SDS-PAGE 後 2D-PAGE を実施している為、そのスポットとバンドの発 現部位の比較を行う。
Fig.4-11aはNaOH洗浄無時、Fig.4-11bはNaOH洗浄有時のSDS-PAGE ゲル (1D-ゲル)と 2D-PAGE ゲル(2D-ゲル)を比較した結果である。これより、両条件にお いて、1D-ゲルの分子量約40-80kDa間のバンドは 2D-ゲルのスポットと対応する部 分があるが、低分子量領域(分子量約 40kDa 以下)や高分子量領域(分子量約
80kDa 以上)のバ ンドの 部位 に 対応するスポットは 見ら れなか った 。 これは、
SDS-PAGEと2D-PAGEのタンパク質の分離方法が異なる為であると考えられる。
SDS-PAGEは分子量による分離のみであり、2D-PAGEは分子量に加え、等電点
による分離がある。これにより、2D-PAGE では、分子量が同じでも等電点が異なれ ば広範囲にスポットとして分布されるのに対し、SDS-PAGE では等電点が異なるタ ンパク質でも分子量が同じ場合、同一バンドとして検出される。これは、タンパク量 が微量である場合、SDS-PAGE では検出されるが、2D-PAGE では検出されない事 が起こると考えられる。その為、Fig.4-11a,b で高分子領域と低分子領域バンドが 2D-ゲルに見られなかったと考えられる。
また、分子量約40-80kDa付近ではスポットが連なって見られた部分が、バンドで は 1,2 本程度しか確認されていない。これは、SDS-PAGE と2D-PGAE のゲルサイ ズが原因であると考えられる。本実験で使用した 1D-ゲルサイズが約 6cm に対し、
2D-ゲルサイズは約 18cm と 3 倍の大きさがある。その為、分子量の分離能が 1D- ゲルの方が小さく複数のタンパク質がまとまり1,2本のバンドとして検出されたと考え られる。
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Fig.4-11a 1D-ゲルと2D-ゲル比較(NaOH洗浄無)
Fig.4-11b 1D-ゲルと2D-ゲル比較(NaOH洗浄有)
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4-3-3 MALDI-TOFMS結果の妥当性
本実験は細胞抽出液をアフィニティクロマトグラフィによって単離したタンパク質 を使用しておりタンパク量が非常に微量である為、2D-PAGE によるスポットの発現 量が小さく、 MS解析結果が誤検索やヒットタンパクが得られない可能性がある。そ こで、同定結果の妥当性を検証する。
Table.3-2a,bより、同定されたタンパク質はvimentinが多くを占めていた。これは、
翻訳後修飾によってリン酸化や糖鎖結合を受け等電点や分子量が変化した為であ ると考えられる。
この結果はFig.4-12からも見られている。(38 Fig.4-12は通常培養の血管平滑筋 細胞から抽出液を作製し、pH3-10、分画分子量 15-100kDaの条件で2D-PAGE を 行った結果である。また、この結果に相当する部位をFig.3-6a,bから抜粋した。それ ぞれの拡大図の比較より、同一のvimentinが示されており、スポットの発現パターン 及び、MS同定結果は妥当であると考えられる。
また、MS解析はMascotやProtein pilotと呼ばれる検索エンジンを利用した。そ
れぞれMS/MSデータを元にシーケンスタグ法を利用して検索している。シーケンス
タグ法とは、TOF-MS によりイオン化したペプチド断片から質量を測定し、得られた 複数のペプチド質量の差からペプチド中のアミノ酸配列を決定する。そして、このア ミノ酸配列を元にタンパクデータベースで検索する事で目的タンパク質を同定する 方法である。ここでは、MS/MSデータからMascotの検索結果を例に妥当性につい て検証していく。
Fig.4-12 2D-PAGE(血管平滑筋細胞抽出液)(38とFig.3-6a,b拡大図
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Fig.4-13 MascotによるMS/MSデータの検索結果
Mascot の検索結果から同定の妥当性を得る為には以下の項目を確認する必要
がある。(Table.4-1) ここで下記の項目に一致しない項目は偶然一致の可能性が考
えられる。
Fig.3-11bよりNaOH洗浄無条件時のvimentinの検索結果を例にして考える。
この結果より、桃色の点線で示した項目を見ていく。項目1でスコア値が40以上 であり、項目4で一致ペプチド数が 11本存在しMiss数が0または1である。そし て、項目4と5においてエラーppm値と分布図から右上がりの直線の相関が見られ る。しかし、エラーppm 値が異なる 2 つのペプチドに関しては直線相関に乗らない 為、偶然一致の可能性が示唆される。
Table.4-1 MS/MSデータの解析結果の妥当性評価項目(39