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マルチ型 ICP 発光分析装置の有効活用と注意

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Academic year: 2021

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Technical Sheet

No.14004

マルチ型 ICP 発光分析装置の有効活用と注意

キーワード:金属材料、ICP発光分析、ポリクロメータ型、マルチ型、JIS、定量分析、分光干渉

1.はじめに

ICP 発光分析装置は、JIS で数多くの定量分 析法が規定されており、金属材料の組成分析 において大変有用な装置です。

近年、ICP 発光分析装置において、パッシ ェン-ルンゲマウンティング方式の分光器を 内蔵するポリクロメータ搭載型に代わって、

エシェル分光器と半導体検出器を搭載したマ ルチ型による多元素同時分析が主流となって きています1)。ポリクロメータでは、分光器 内に、分析する元素毎に最適な分析波長位置 に光電子増倍管が配置されているため、1 元 素当たり 1 波長の分析となり、分析元素数は 限られます。これに対して、半導体検出器で は、広波長域をまとめて受光しており、多波 長・多元素を同時分析できる特長があります。

ここでは、マルチ型の特長を活かした ICP 分析事例と注意点を紹介します。

2.マルチ型 ICP による分析適用例

フェライト系ステンレス鋼の組成分析では 一般的に Ni や Cu は分析対象としませんが、

それらを含有した類似のステンレス鋼の材種 判別も求められることが多く、当所では Ni と Cu も併せて分析を行っています。特に近年 では、海外製を含めた材料の調達や材種の多 様化もあり、想定外の含有元素についても分 析する必要性が高まっています。

一例として、マルチ型の長所を活かし、ス テンレス鋼を判別できた事例を紹介します。

Ni の分析では一般的に高感度で分光干渉が 小さい Ni2316 領域(Ni の 231.6nm ピーク波 長での分析領域を表す、以下、同様に表記)

のみを利用しますが、マルチ型の多波長同時 分析を応用して想定外の含有元素を探るため、

分光干渉が大きい領域についても分析してみ ました。図 1 は、一般的なフェライト系ステ

ンレス鋼として持ち込まれた材料の Ni3619 領域の波長プロファイルです。同図に示すと おり、JIS に規定されるステンレス鋼(日本 鉄鋼標準物質 JSS650-9、Ni:0.39%)では、

Ni361.939nm にピークを示します。しかし、

当該材料では、全く異なるプロファイルを示 しました。この要因を解析してみると、この ピークは Nb361.951nm のものであり、通常の フェライト系ステンレス鋼には含有しない Nb を含んでいることがわかりました。さらに、

同様に多元素同時分析機能を活用することで、

Cu の含有も確認し、本材料はフェライト系ス テンレス鋼に Cu と Nb を添加した特殊鋼であ ることが判明しました。

一般的に材種の確認では、決められた元素 のみを対象として分析を行いますが、試料に 分析対象外の元素が含まれている場合、誤っ た材種と判定してしまう可能性が大きくなり ますので、注意が必要です。

図 1 Ni3619 領域での波長プロファイル Ni ピーク

361.939nm

Nb ピーク 361.951nm 分光干渉

(共通、

計測不能)

分光干渉

(共通)

持ち込まれた材料 JISフェライト系

ステンレス鋼

波長

強度

地方独立行政法人

大阪府立産業技術総合研究所 〒594-1157 和泉市あゆみ野 2 丁目 7 番 1 号

http://tri-osaka.jp/

Phone:0725-51-2525

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3.マルチ型 ICP に特有の注意点

マルチ型では広い波長を受光するため、分 光干渉以外に、半導体検出器内の検出素子配 列に起因する特有の妨害(ブルーミング)が 生じることがあります。その一例として、炭 素鋼や低合金鋼に含まれる微量 Cu の分析事 例を紹介します。

Cu は一般的に高感度の Cu3247 領域で分析 します。図 2 は、高純度 Fe に Cu の添加量を 変えた場合(0、0.004、0.01、0.02%)の Cu3247 領域での波長プロファイルです。Cu324.754nm のピーク位置の右近傍に他元素による妨害ピ ークが認められ、Cu のみのピーク強度が得ら れません。このプロファイルについて分光干 渉を調べたところ、鉄鋼材料に含有される元 素に由来するものは見当たりませんでした。

分光干渉以外の影響因子を調べるため、半 導体検出器のフルフレームイメージ(受光状 態)を解析しました。図 3 は、Cu3247 領域付 近の素子配列の拡大表示です。CID 素子が碁 盤目状に配列され、図の左から右に、また下 から上に向かって順に低波長から長波長に対 応した素子配列となっています。ここでは、

受光量の大きい波長領域は黒色で表示されて います。図 3 の青く囲んだ Cu3247 領域におい て、左端と中央下部で受光量が大きくなって おり、これらはそれぞれ図 2 のプロファイル の左端の分光干渉と Cu324.754nm ピーク位置 の右近傍の妨害として表れ、左端の分光干渉 は主成分元素に由来する Fe324.718nm の影響 であり、下方の妨害は干渉の抑制のために添 加した内標準元素に由来する Y321.6nm の影 響であることが判明しました。Cu3247 領域に 対する Y321.6nm の妨害は、ポリクロメータ型 にはない半導体検出器特有のブルーミングに よるものです。このような現象は金属分析に おいて分析溶液中の元素濃度が高く(すなわ ち含有量が多く)受光量が多くなる場合に生 じやすく、注意する必要があります。最終的 に本分析では、分光干渉が小さくブルーミン グによる妨害もない Cu2112 領域を選択する ことで明確に分析することができました。

4.おわりに

マルチ型 ICP 発光分析装置は、金属材料の 多元素同時分析ができる大変便利なツールで す。しかし、その利用にあたっては、分析の 原理と装置の特性を正しく理解することが重 要です。当所では多種多様な金属材料の分析 でのノウハウを有しており、それらを活用し て技術相談や依頼分析を行っています。皆様 からのお問い合わせ、ご利用をお待ちしてお ります。

参考文献

1)岡本 明:大阪府立産業技術総合研究所報 告、No.26(2012)33.

図 3 Cu3247 付近の半導体検出器の素子 配列と受光状態

図 2 Cu3247 領域の波長プロファイル Cu ピーク 324.754nm

(他元素のピークと重なり、Cu の みのピークが得られない。)

Cu:324.754nm

Fe:324.718nm Y:321.6nm Cu 含有量

0.02%

0.01%

0.004%

0%

波長

強度

妨害ピーク

(Cu が 0%に着目すれば、Cu ピークの 近傍に他元素のピークがある。)

分光干渉

(共通)

作成者 金属表面処理科 岡本 明 Phone:0725-51-2737 発行日 2014年10月31日

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