切削表面性状に及ぼすすくい角の影響
春山繁之*1 松山拓郎*1
Improvement of Cutting Surface of Wood by Rake Angle of Router Bit
Shigeyuki HARUYAMA,Takurou MATUYAMA
本研究では,木質材料の特徴である異方性や材質のばらつき等を考慮せずに良好な切削加工面性状を得るため,研 削加工に用いられる研削砥粒形状のように負の刃先すくい角を有するルータービットを用い,被削面を摩擦し切り取 る従来と異なる切削加工法を適用した。その結果,切削あらさと表面光沢度の向上がみられ良好な切削面を得ること ができた。
1 はじめに
家具などに使用される木材や木質材料の切削加工で は,木質材料の特徴である異方性や材質のばらつきな どが,加工面性状に大きく影響を与えている。同一条 件で切削加工を行っても,各々の被削材で加工面性状 が異なる状況がある。そのため,切削加工を行う場合, それぞれの繊維方向に対する切削条件等を変化させ加 工を行うことが必要となり,これらに関する研究もこ れまでに多くみられる1-4)。
通常の切削では,切削面に繊維のささくれや微少な 凹凸などの発生がある。このため,滑らかな表面品質 が得られにくくなり,後工程の研磨作業が必要となっ ている。また研磨作業は,自動化が遅れ人手による作 業がほとんどのため作業者の熟練度により仕上がり状 況が変化し品質のばらつきの問題が発生している。
そこで,切削加工後の被削面性状を良好にするため,
従来から,工具のすくい角を大きくし(被削面に対し て刃面が水平に近い状態),刃先形状を薄く鋭角にして 鋭く切る方法や切削刃数を増やすなどの方法が取られ てきた。しかし,刃先を鋭くしても切削時の刃先によ る先割れ等の発生があり十分な表面性状を得ることが できないことや刃先の欠け,刃先研磨回数の増加など の問題がある。
これらの問題を解決するため,研削加工に用いられ る研削砥粒形状のように負の刃先すくい角を有したル ータービットにより,被削面を摩擦し切り取る状態で 切削加工を行い,良好な切削面の可能性を検討した。
2 実験
2-1 供試工具と被削材
供試工具には,切削円直径21mmの市販三面ルータ ービット(通常の加工方法)と特殊ルータービットを用 いた。図-1に特殊ルータービット形状,表-1に供試工 具の寸法を示す。
図-1 特殊ルータビット形状 刃先角 35゜~ 90゜
右回転
逃げ角 10°
すくい角 すくい角
-15゜~-65°
逃げ角10゜
A部
刃先角 35゜~ 90゜
右回転
逃げ角 10°
すくい角 すくい角
-15゜~-65°
逃げ角10゜
A部 右回転
逃げ角 10°
すくい角 すくい角
-15゜~-65°
逃げ角10゜
A部
刃先送り 0゜
被削材送り
(-0゜~-65゜)
すくい角
A部拡大図
刃先送り 0゜
被削材送り
(-0゜~-65゜)
すくい角 刃先送り
0゜
被削材送り
(-0゜~-65゜)
すくい角
0゜
被削材送り
(-0゜~-65゜)
すくい角
A部拡大図
*1インテリア研究所
表-1 供試工具寸法
被 削 材 に は , 比 重 0.79g/cm3の M D F (medium density fiberboard)及び平均年輪幅 1.77mm,比重 0.49g/cm3のカツラ(Cercidiphyllum Japonium)の乾燥 材を用いた。なお,カツラは供試材の違いによる影響 を少なくする ため,厚さ 80mm×幅 150mm×長 さ
350mmの柾目取りしたブロック材を厚さ 15mmの平
板へ切り出して使用した(図-2)。
図-2 カツラ供試材
2-2 切削試験
切削試験装置には,平安コーポレーション社製5軸 制御工作機械 NCFF-151MC-1508用いた。切削条件 は,主軸回転数15000rpm,送り速度300mm/min,1 刃当たりの切削量を0.01mm,切り込み深さ0.2mmと し,カツラのみ各繊維方向に対する表面あらさを評価 するため,繊維と平行な方向を基準とし 0゜,30゜,
60゜,90゜,120゜,150゜,180゜の7方向について 切削試験を行った。
2-3 測定方法 2-3-1 切削表面あらさ
表面あらさ測定には,東京精密社製サーフコム1400 A−3DF−12触針式測定器(図−3)を用い,工具の 進行方向とあらさの測定方向を同一にし,加工溝の端
面より1.0mmの部分を測定位置とし,算術平均あらさ
Ra5)で評価した(図−4)。
図−3 表面あらさ測定装置
図−4 表面あらさ測定方法
2-3-2 切削面光沢度
光沢度測定には,堀場製作所製グロスチェッカ IG- 320を用いた。MDFについては,工具送り方向と測定 方向を同一にした。カツラについては,繊維と平行な 方向で切削試験を行い,工具進行方向及び垂直方向に NO すくい角 逃げ角 リード角 刃数 工具長 備 考
1 0° 23° 3° 2 90 市販ルータ 2 -15° 10° 0° 2 75 特殊ルータ 3 -30° 10° 0° 2 75 特殊ルータ 4 -45° 10° 0° 2 75 特殊ルータ 5 -65° 10° 0° 2 75 特殊ルータ
年輪
切断
350 150
15
カツラ柾目ブロック
(単位 mm)
工具送方向 工具回転:右
材料送り方向 1.0
1.0 21.0
あらさ測定位置(down-cut)
あらさ測定位置(up-cut)
あらさ測定方向 工具送方向
供試材 工具
ついてそれぞれ測定を行った。
2-3-3 切削抵抗
カツラを用いて,2次元切削実験を行い切削抵抗 の測定を行った。実験では,切り込み量を 0.2mm とし 工具を固定した状態で被削材を送り込み,切削した。
3 結果および考察 3-1 すくい角と表面あらさ
各すくい角における表面あらさの変化を図−5,繊維 方向の違いによる変化を図−6に示す。すくい角0゜を 基準とすると,-15゜,-30°の範囲では表面あらさが小 さくなる傾向が認められた。一方,-45°以下では徐々 に表面あらさが大きくなった。なお,表面粗さは
図−5 すくい角と表面あらさの関係(MDF)
up-cut,down-cutで大きな差異は認められなかった。
各繊維方向に対する表面あらさの変化については,す
くい角 0゜,-45°では,繊維方向の変化による影響が
大きくみられたが,-15゜,-30°では影響が小さくなっ ていた。以上のことから,負すくい角に表面あらさを 小さくする範囲があると推定される。
3-2 すくい角と表面光沢度
MDFによる,各すくい角の表面光沢度の変化を図
−7に示す。MDFにおける表面光沢の変化は,すく
い角0゜,-30゜,-45゜では,ほとんどみられなかった
が,-15゜のみ高くなっていた。また,up-cut,down- cutによる明確な差は認められなかった。
カツラによる,各すくい角の表面光沢度の変化を図
−8,9に示す。
カツラにおいては,繊維と直角方向,繊維と平行方 向ともにすくい角 0゜より全て光沢度が高くなってい た。これは,切削時に刃先表面が切削面を押しつけな がら切削する状態になっていることに起因すると推測 される。
0.0
1.02.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0
Rake angle
(degrees)
Surface Roughness(Ra)
down cut
up cut
-15 -30 -45 -65
(μm)
0
図−6 すくい角と表面あらさの関係(カツラ)
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 1 0.0
0 30 60 90 1 20 1 50 1 80
C utting direction(degrees)
S u rfa c e R o ug hnes s( R a)
0 ゜3 0 ゜ 6 0 ゜ 1 2 0 ゜
9 0 ゜
1 5 0 ゜ 1 8 0 ゜
年 輪 工 具 送 方 向
0 ゜
- 1 5 ゜
- 3 0 ゜
- 4 5 ゜ rake angle (μ m )
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 1 0.0
0 30 60 90 1 20 1 50 1 80
C utting direction(degrees)
S u rfa c e R o ug hnes s( R a)
0 ゜3 0 ゜ 6 0 ゜ 1 2 0 ゜
9 0 ゜
1 5 0 ゜ 1 8 0 ゜
年 輪 工 具 送 方 向
0 ゜ 3 0 ゜ 6 0 ゜ 1 2 0 ゜
9 0 ゜
1 5 0 ゜ 1 8 0 ゜
年 輪 工 具 送 方 向
0 ゜
- 1 5 ゜
- 3 0 ゜
- 4 5 ゜
rake angle
(μ m )
図−7 すくい角と表面光沢度の関係(MDF)
図−8すくい角と表面光沢の関係1(カツラ)
図−9すくい角と表面光沢の関係2(カツラ)
3-3 すくい角と切削抵抗
各すくい角における切削抵抗の変化を図―10,図−
11 に示す。主分力は,-15゜と-30゜を境に切削抵抗が 増加した。一方,背分力は,0゜と-15゜を境にマイナ スからプラスへ力の変化が起こった。これは,すくい 角の変化に伴い被削面を圧縮する方向へ切削力が発生 しているためである。この切削力の違いが,表面あら さや光沢度に影響を与えている一因と推測される。
図−10 すくい角と切削抵抗の関係(主分力)
図−11 すくい角と切削抵抗の関係(背分力)
0 -15 -30 -45
rake angle(degrees) 0.0
2.0 4.0 6.0
光沢度
down cut up cut
工具送方向
右回転 測定方向
繊維方向
工具送方向
測定方向 右回転
繊維方向
0 -15 -30 -45
rake angle(degrees) 0.0
2.0 4.0 6.0
光沢度 切削抵抗(N/cm)
0 -15 -30 -45
rake angle(degrees) 0.0
50.0 100.0 150.0 200.0 250.0
切削抵抗(N/cm)
0 -15 -30 -45
rake angle(degrees) 0.0
50.0 100.0 150.0 200.0 250.0
切削抵抗(N/cm)
0 -15 -30 -45
rake angle(degrees) 0.0
50.0 100.0 150.0 200.0 250.0
切削抵抗(N/cm)
0 -15 -30 -45
rake angle(degrees) 0.0
50.0 100.0 150.0 200.0 250.0
down cut up cut 0.0
2.0 4.0 6.0
光沢度
0 -15 -30 -45
rake angle
(degrees)
down cut up cut
0.0 2.0 4.0 6.0
光沢度
0 -15 -30 -45
rake angle
(degrees)
down cut
up cut
4 結言
本研究では,負の刃先すくい角を有したルータービ ットによる被削面性状を調べることを目的に,各すく い角による表面あらさなどの項目について検討し,以 下の結論を得た。
1) 表面あらさは,すくい角0゜を基準とすると,
-15゜,-30°の範囲では表面あらさが小さくなる 傾向がある。一方,-45°以下では徐々に表面あ らさが大きくなる。なお,up-cut,down-cut で 大きな差異は認められない。
2) 各繊維方向に対する表面あらさの変化は,すく
い角0゜,-45°では,繊維方向の変化による影響
が大きくなるが,-15゜,-30°では,繊維方向の 変化による表面あらさの差が小さくなる。
3) MDFにおける表面光沢の変化はあまりみら れないが,カツラにおいては,繊維と直角方向,
平行方向ともにすくい角0゜より光沢度が高くな る。
4) 各すくい角における切削抵抗の変化は,-15゜
と-30゜を境に主分力の切削抵抗が増加する。背
分力は,0゜と-15゜を境にマイナス方向であった
抵抗がプラス方向へ変化していることから,切削 面に対して刃先を引っ張る方向から押す方向へ 切削抵抗の変化が起こる。
以上のように,負の刃先すくい角を有したルーター ビットでは,良好な被削面性状を得ることができるす くい角の範囲が存在することが分かった。
5 参考文献
1)吉松孝夫,木下直治:木材のNCルータ切削に関 する研究(第1報) 加工条件の設定方法の相違によ る加工的欠陥,木材学会誌,27(7),572-578(1981)。
2)小松正行:ルータービットにおける外周切刃の刃 角条件と切削性能(第1報) 切削力と加工面粗さに 及ぼす半径方向すくい角の影響,木材学会誌,39(6),
628-635(1993)。
3)小松正行:ルータービットにおける外周切刃の刃 角条件と切削性能(第2報) 切削力と加工面粗さに 及 ぼ す ね じ れ 角 の 影 響 , 木 材 学 会 誌 ,40(2),134- 141(1994)。
4)清水:家具の3次元設計/加工システムの開発−
木材加工面粗さに及ぼす切削方向と速度の影響−,平 成8年度福岡県工業技術センター研究報告,pp.117- 121(1997)。
5)日本規格協会:JIS B0601(1994改正)