ヒューマ ン ・リソース会 計 にお け る 個人価値説 と人的組織価値説
照 屋 行 雄
1 問題の所在
企業は,各種の資源 を保有 し,それ らの有効適切 な利用 によって経済活動 を展 開 して い る。 企 業 が 保 有 す る資 源 の う ち で も人 的 資 源 (human resource)が最 も基本的で貴重 な資源であることについては,企業経営者 は
もとより企業 に一定の利害関係 を有す る人々が,観念的には比較的早 くか ら 1)
認識 していた。 しか しなが ら,人的資源 に関す る定量 的情報 を得 るために, これを会計の対象 として考 える とい うことは最近 までなか ったことである。
ヒューマ ン ・リソース会計が企業会計 の一領域 として研究の対象 とされ,本 格的に開拓 されるようになったのは,アメリカにおいては1960年代 の後半か らであ り, また,わが国においてはアメ リカにおける研究の動向に刺激 され
2) て,やっと1970年代 に入ってか らである。
ヒューマ ン ・リソース会計 は,企業 における人的資源 を会計 的手法 に従 っ て,貨幣金額 によって測定 し,定量的情報 として利用者 に伝達す ることによ って,その意思決定 に役立て ようとす る企業会計 システムである。 この よう なヒューマ ン ・リソース会計の基本的課題 は,第1には,伝統的な企業会計 37
論 お よび会計実践 にみ られる物的資源や財務的資源の会計 と同一 レベルにま で人的資源の会計 を引 き上げることである。従来,財貨資源への支出額 につ いては,その効果が将来に発現 される と予想 される部分 はこれを貸借対照表 上の資産 として計上 し,資産の種類 に応 じた費用計算方法 に従 って費用の合 理的な期 間配分 を厳密 に行 なっている。 しか しなが ら,人的資源への支出は 効果の発現の事実 に関係 な く,殆 ん ど全額 を支出のあった期 間の費用 として 処理 してお り,適正 な期間損益計算 を行 なう上か らは早急 に改め られる必要 がある。
また,第2の課題 は, ヒューマ ン ・リソース会計の実践お よび会計情報の 利用 を通 じて,一方,企業経営者 に対 して人的資源の企業経営 における重要 性 を正 しく認識せ しめるとともに,人的資源の適正配置や有効利用 を行 なわ しめ,他方,従業員等 にやる気 と生 きがいを起 こさせ,誇 りをもたせ ること である。 ヒューマ ン ・リソース会計 の究極 の 目的は後者 にあるのであって, この 目的 を実現で きる会計 システムの構築 こそ ヒューマ ン ・リソース会計の 中心的課題であ り,かつ,特徴 である といえる。
ところで,ヒューマ ン ・リソース会計 システムの形成 をはかるに当っては, まず第 1に,会計上の認識 ・測定の対象である人的資源の概念が明確 にされ なければな らない。 なぜ な らば,人的資源の概念 としていかなる内容あるい は考 え方 をとるかによって, ヒューマ ン ・リソース会計へのアプローチの仕 方や ヒューマ ン ・リソース会計 システム構造が異 なって くるか らである。
本稿では, ヒューマ ン ・リソース会計 の測定対象である人的資源の概念 に ついて幾つかの代表的な考 え方 を比較吟味す る とともに,上記の2つの課題 を有す るヒューマ ン ・リソース会計が採用すべ き人的資源概念 について,主 として個人 と組織 との関連お よび会計測定の側面か ら考察 したい と思 う。
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2
ヒューマ ン ・リソース会計の意義企業の経済活動 における人間要素 に関す る会計上 の取扱 いは,特殊 なケ‑
3)
スを除いて,殆 ん どが支 出のあ った期 間に全額費用 として処理 されてい る。
しか しなが ら,その ような支出の中には従業員等 の募集 ・採用 ・訓練 ・開発 や組織 の形成 ・開発 に対す る支出が含 まれてお り, これ らの支出の効果 はそ の殆 ん どの部分が将来の期 間に帰属すべ きであることが予想 される。伝統 的 会計 あるいは現行 の制度会計 では,適正 な期 間損益計算 を行 な う上か ら,棉 来の期 間に効果が発現す る と期待 され る支 出額 については,経過的 に貸借対 照表の資産の部 に計上 される。財貨的資源 の獲得 ・開発等 に要す る支出額 に ついてはこの ような合理的な処理 を施 しているの に対 して,人的資源 につい てはこれ と同様 な処理 は原則 的に行 なわれていない。明 らか に伝統 的会計 は それ 自体 に欠陥あるいは限界があるのであ って,人的資源 に対す る支 出が相 当額 にのぼるに至 った今 日, この ような企業会計 システムの改善が強 く求め
られる。
一般 に認 め られた会計原則 は, この ような人的資源投資 についての正 当な 取扱い を欠いた会計処理 によって形成 されているので,企業会計 の提供す る 会計情報が必ず しも利害関係者 の,企業 の実態 に関す る合理的 な判断 を保証 する結果 にはな らない。企業 における人的資源 の諸特性か らもた らされる人 的資源特有の経済的事実 について, これ を会計 の対象 として測定 し,情報化 しなければな らない。 この ように,社会の企業会計 に対す る情報要求が強 ま る環境 にあ って,企業 の経 済実態 を正 しく知 る上 で最 も重要 な人的資源 の
「活動」 (費用)お よび 「存在」 (資産) に関す る会計情報 を測定 ・伝達す る ための ヒューマ ン ・リソース会計 の必要性 は ます ます高 まっている とい えよ
う 。
アメリカ会計学会 (AmericanAccountingAsociation;jW )の 『ヒュ‑
ヒューマ ン ・リソース会計 における個 人価値説 と人的組織価値 説 39
マ ン ・リソース会計 委員会報告 』 に よれ ば, ヒューマ ン ・リソース会計 (HumanResourceAccunting;HRA)とは
,
「人的資源に関するデー タを識別 し,測定 して, この情報 を利害関係者 に伝達す るプロセス」 である, と定義4)
している。 この定義 によれば,現行の伝統的会計が行 なっている人的資源支 出額の費用化処理が単 なる便宜的な一つの方法であるにす ぎないことは明 ら かである。同時 にまた,そこには伝統的会計の拡張 によって容易 に実施が可 能 となる人的資源投資額の資産計上のみ をもって十分 と考 えることも妥当で ないことが含意 されているといわなければな らない。すなわち, ここでは人 的資源の企業 に対す る投資原価のみな らず,経済価値の測定 も考慮 に入れな ければな らない とい うことである。
同委員会報告 は, この定義 を踏 えて, ヒューマ ン ・リソース会計の 目的 を つ ぎの ように明 らかに している。
「ヒューマ ン ・リソース会計 の 目的は,企業 について内部的お よび外部的 に行 なわれ る財務上 の決定 の質 を改善す る こ とであ る」 (Thepurposeof HRA istoprovethequalityoffinancialdecisionsmadebothinternallyand
5)
externallyconcerningonorganization)0
ここでは, まず第 1に, ヒューマ ン ・リソース会計が単 に経営管理上の意 思決定のためにのみ利用 される ものではな く, ヒューマ ン ・リソース会計 に よ り測定 ・伝達 される会計情報 は広 く外部の利害関係者 に も役立つ ことを目
6)
的 としていることが表明 されている。 また第2に, これまでの伝統的会計情 報 にヒューマ ン ・リソース会計情報が加 えられることによって,それを重要 な判断基礎 とした利害関係者の意思決定の内容が よ り適切 な もの となること が期待 されている。 このjW によるHRA の構想の背景 には,次の ような 問題認識がある。す なわち,人的資源が企業の経済活動お よび財政状態 を構 成す る不可欠の貴重 な要素であるにもかかわ らず,現行の会計実務 において それについての適切 な会計処理が行 なわれていない。従 って,それを欠いた 会計情報 は企業の実態 を正 しく反映 した もの とはいえず,その ような会計情
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報 を判断基礎 として行 なった利害関係者の意思決定 は, ヒューマ ン ・リソー ス会計情報 を欠いた分 だけ合理性 を欠 くことになるのである。
さて, この ようにヒューマ ン ・リソース会計 は企業 における人的資源 に関 するデータを識別 し,測定 し,情報化することを一般的 目的 とするが,それ は一方では,企業の経営管理者の経営計画の設定や業績評価等 に役立た しめ るとともに,他方では,外部の利害関係者のための経営業績の評価や投資等 の意思決定 に役立た しめるように情報伝達 されることは もちろんである。 し か しなが ら, ヒューマ ン ・リソース会計の構想す るところはこれだけに とど まる ものではない。 ヒューマ ン ・リソース会計 は,単 に人的資源の会計的測 定 と伝達 による人的資源の合理的な利用 と保全 を行 なうことを終極の 目的 と する ものではない。 もし,人的資源会計が企業の経営効率の上昇のみ を意図 するものであるな らば,理論 としての研究は展 開 し得 て も,それの実践 は極 めて困難 となるであろう。そ うなれば,会計実践 に対す る指導性が発揮 され ては じめて意義 をもつ ヒューマ ン ・リソース会計の理論 その ものが社会的承 認 を獲得で きないことになるのは明 らかである。 ヒューマ ン ・リソース会計 を制度化す ることに よって人的資源の もつ原価 や価値 を貨幣金額的 に測定 し,情報化す るとい うことは,なにも人的資源 を物的資源や財務的資源 と同 質にみなす とい うことを意味す るわけではない。
わが国で ヒューマ ン ・リソース会計の研究 に最 も意欲 的に取 り組 んで こら れた若杉明教授 は, ヒューマ ン ・リソース会計 の真の 目的 を次の ように説い てお られる。
「人間資産会計 (ヒューマ ン ・リソース会計 の こと‑筆者注)の真 の 目的 は,人間資産会計情報 を通 じて,企業の経営者 に対 しては組織のあ り方や人 事政策の核心 にふれた重要性 を示 し, また利害関係者 に対 しては,人間資産 の情況や経営者の人間資産に対する取扱 い方 を正 しく評価せ しめることによ って社会的プ レッシャー として,経営者 に間接 的に人間資産 に対す る正 しい 取扱い方 を促す ことによ り,結果 において企業内の人々にやる気 をよび起 し,
ヒューマ ン ・リソース会計 における個 人価値説 と人的組織価値説 41
生 きがい をもたせ,その結果 として企業の経営効率の向上 を期待 しようとす
7 )
る点 にある」。
若杉教授 の構想す るヒューマ ン ・リソース会計 (人間資産会計)は,上の 文言 に明確 に示 されているように,企業内の人的資源の貨幣的測定 による経 営効率の増進が本来の目的ではな く,む しろ人的資源 に関す る正確 な経済的 情報 を伝達 ・利用す ることによって,企業内の従業員等 にやる気 と生 きがい を感 じさせ,結果的にそれが経営効率の上昇 につ なが ってい くことを意図 し ているのである。 これはまさに人間尊重の会計学 としての展開を意味 してい る。ただ,同教授 の見解 は, リカー トを中心 に した ミシガン大学の研究 グル ープが ヒューマ ン ・リソース会計 を,企業内の経営管理 目的のための ヒュー マ ン ・リソース会計情報の利用 を意図 した内容 よ りははるかに広 く, また, AAAの ヒューマ ン ・リソース会計委員会が報告 した ヒューマ ン ・リソース 会計 の 目的 よ りははるかに明確 に, ヒューマ ン ・リソース会計 についての独
自の構想 を展 開 しているといえよう。
わが国におけるヒューマ ン ・リソース会計の研究は,それほ ど多 くはない が,基本的にはこの若杉教授 の構想する見解が多 くの支持 を得ているように 思 われる。それは,第 1に, ヒューマ ン ・リソース会計 の構想 それ 自体が, かな り以前か ら研究が進め られて きた経済学 における人的資本の投資効果測 定の理論 に刺激 を受 けた とい うよ りも,む しろ直接的には,経営学 における リーダーシップ論 の展開に刺激 され, これに会計専 門家が企業会計 における 人間尊重の新 しい問題領域 として開発す るに至 ったこと,第2に, ヒューマ ン ・リソース会計 の問題領域 を,単 に人的資源 に対する支出額の うち,損益 計算上将来期 間に帰属すべ き部分 についての資産計上の伝統的手続 を厳格 に 適用 してい くことをもって ヒューマ ン ・リソース会計 の任務 とす るだけで は,伝統的な企業会計 に対す るヒューマ ン ・リソース会計の独 自の存在意義 が極めて弱い もの となること,第3に,人的資源 には物的資源や財務的資源 にない諸特質が認め られるため,それを正 しく反映せ しめるような会計処理
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をしなければな らない こと,お よび第4に,企業内の人間の尊重お よび生 き がいづ くりに会計学 と して貢献 し得 る ヒューマ ン ・リソース会計 は,人間尊 重の会計学 としての理論体系 を構築 していかなければな らない こと, な どに よる といえよう。本稿で定義づ ける ヒューマ ン ・リソース会計 の構想 もまた, 上記の理 由に よって若杉教授 の見解 に従 うところである。
ここに,かか る特色 を もつ ヒューマ ン ・リソース会計 の問題領域 について 改めて明 らか に してお きたい。 ヒューマ ン ・リソース会計 の問題領域 には, その 日的観か らすれば,大 き くわけて二つある と考 え られる。す なわち,第
1は,人的資源 に対す る投資額の計上 の問題 であ り,第2は,人的資源 に特 有の諸特性 をいか に会計 的に取 り扱 うか とい う問題 である。
第 1の問題点 は,現代 会計学が,今 日ではそれほ どの説得力 を もたな くな ったある種 の理 由によ り人的資源 についての適正 な会計処理 を怠 ってい る問 題 を是正す る作業である。例 えば現代会計 では,備 品や建物等 の物 的資源 に 対する支出については,その支 出の効果が将来の期 間に発現 し,従 って,将 来期 間の収益獲得活動 に貢献 す る部分 を今期 の費用 処理 の部分 か ら分離 し て,貸借対照表上資産 と して計上 し,次期以降 に繰延べ る会計手続 (費用 の 期間配分) を厳密 に行 なっている。 ところが,人的資源 に対す る支出 につい てはその全額 を支出のな された期 間の費用 と して処理す るが,建物等への支 出にみ られるような費用 (原価)の配分手続 は適用 されてい ない。この場合, 人的資源への支 出が全額 その期 間の人的資源の利用 (労働 用役 の消費のため の支出)のみ に対 して行 なわれるのであれば問題 はない。しか し,実際 には, 人的資源 に対す る支 出の うちには人的資源 の利用のためばか りでな く,他方 では,従業員の募集 ・採用 お よび教育訓練,管理者の開発 ,人的組織 の形成 および開発 な どの ように,人的資源の獲得 ・開発 についての支 出 も含 まれて いる。しか も,これ ら人的資源の獲得 ・開発 に対 してな された支 出の効果 は, む しろ将来の一定の期 間にわたって発現 される ものである。従 って,人的資 源の獲得 ・開発 に対 してなされた支出の殆 ん どの部分が,資本 的支 出である
ヒューマ ン ・リソース会計 における個 人価値説 と人的組織価値説 43
とい うことが認識 されなければな らない。問題 は,人的資源 についての資本 的支出が収益的支出 と誤 って処理 されているために,現行の期 間損益計算が 著 しくゆがめ られることにある。 これは,明 らかに現行 の企業会計の不備で あって, ヒューマ ン ・リソース会計の適用 によってすみやかに是正 されなけ ればならない点である。
次 に第 2の問題点は, ヒューマ ン ・リソース会計固有の領域 として認識 さ れる問題 についてである。 この問題点 は, ヒューマ ン ・リソース会計の真の 目的が,それの実践 を通 じて,企業内の人々にやる気 と生 きがいを惹起 させ るとい うことにあるところか ら当然 に導出 される課題である。 まず人的資源 に特有の諸特質 を認識 して,それの経済的側面 を測定 し,情報化す ることに よって,一方では経営者の経営管理上の諸決定及び外部関係者の意思決定の 質 を高める役割 を果た し,他方では従業員等 にやる気 を起 させ,生 きがい を 感 じさせ る上での有効 な会計 システムを構築す ることである。
第 1の問題 は,伝統的会計の基本原則である費用分配の原則の適用 による 人的資源投資額の資産化 と費用化の問題 であ り,理論的には比較的容易 に解 決することがで きる。 しか しなが ら,第2の問題 はかな り困難 な課題 といわ なければならない。人的資源は他の資源 と異 な り,人的資源のおかれた環境 条件 によ り,あるいはそれ 自体の 自由な意思 によって企業 に対 して発揮す る 8) サー ビス提供能力 (人的資源の公益 的価値)が変化す る特性 を有 している。
従 って, この ような固有の特性 を有する人的資源の会計 は, これ までの伝統 的会計手法のみな らず,経営学 における近代組織論 の概念や社会心理学的手 法の援用, さらには,統計学,数学,情報理論,測定理論, システム理論 な どを導入 した,いわゆるインターディシプ リナ リー ・アプローチが必要 とさ れる。
ヒューマ ン ・リソース会計の展 開にあたっては,極めて多 くの理論的 ・実 践的困難が横 たわっているとして も, ここに述べ た第 1お よび第2の課題 に ついて,理論的に整合性のある解決がはか られるような会計 システムが構築
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されなければならない。
3
効益力創出の主体 と客体企業が有する各種の資源の中で も,その性質あるいは機能 とい う点では人 的資源 とそれ以外の資源 とでは著 しく異 なることが知 られる。端的にいえば, 企業の有す る土地,建物,機械,原材料,商 (製)品な どの資産はすべてが 人的資源の統御 の もとに経営 目的活動 に参加す る関係 にある。 しか も社会的 には,これ らすべ て (但 し,土地 については自然の ままに存す る限 りにおい て除 く)が,本源的には人的資源の提供す る労働用役 によって生産 された も のである。 このことは,一面で人的資源の企業 における重要性 を認識 させ る とともに,他面ではそれ らの価値の会計的測定 ・表示 に次元 の異 なる会計原 則お よび手続 を必要 とす るのではないか との問題意識 を抱 かせ る ことにな る。後者は,当然 にヒューマ ン ・リソース会計 における人的資源の概念 を考 える際 に,有力 な一つの観点 を提起す ることになる。すなわち,人的資源の 会計的認識 ・測定 にあたっては,物的資源や財務 的資源 に対す る現行の会計 処理 とは異 なる次元で,新 たな固有の会計処理が必要 とされるべ きだ とす る 見解である。
この観点か ら人的資源の概念 を検討す るな らは, ヒューマ ン ・リソース会 計が基本的に問題 に しようとしている人的資源 の収益獲得能力 (潜在用役) は,他の物的資源や財務的資源の効益力 を生み出す本源的能力であって,そ の意味 においては物的資源や財務的資源の潜在用役 (価値) とは全 く異質の
9)
ものであるとい う主張が行 なわれる。人的資源の本質に関す ることような考 え方を,ここでは効益力創 出主体説 と呼ぶ こととす る。他方,人的資源 も物 的資源や財務的資源 と同 じく,企業 との関係 (経済的には所有関係 に準ずる 帰属関係 として理解す ることがで きる) とい う観点か らみて,前者の抽象的 な本源的能力 によって創出 された潜在用役 をもつ もの として把握す る考 え方
ヒューマ ン ・リソース会計 における個人価値説 と人的組織価値説 45
を, ここでは効益力創 出客体説 と呼ぶ こととす る。
効益力創 出主体説 によれば,人的資源 に資産性 を与 えようとすれば物 的資 源や財務 的資源 とは異 なる概念範時で なければな らない ことになる。 そ うな れば,一つの会計 システムの中に資産概念が2種類混在す るこ ととな り, ち はや伝統 的会計理論 における資産概念 の枠 を完全 に越 える もの となる。蔦村 剛雄教授 は, ヒューマ ン ・リソース会計 における人的資源 を,一般 に企業 目 的 に対 して組織化 された人的組織価値 とみ なす基本認識 を前提 に して
,
「人 的組織 にみ られる収益力要因 としての性質は,収益創 出主体 の意味 における ものであるの に対 して,財貨資源 にみ られる収益力要因 としての性質 は,収10)
益創 出客体つ ま り収益創 出手段 と しての要因であるにす ぎない」 と述べ,両 者 を同 じ資産概念 に含めるこ とは収益力要因 と しての異質性 のゆえに疑問で あ る と主張 されている。 ただ,同教授 は,他方では伝統 的会計理論 における 営業権 (のれん) に含 まれる人的組織価値 は
,
「生 きた実体 である人間組織11) が創 出 した結果 としての企業 に有利 な状況 ない しは企業信用 とみ るべ き」 で ある として,制度会計上認め られている買入営業権のみ な らず 自己創設営業 権 も他 の有形 ・無形の財貨資源 (収益力要因) と,会計上の取扱 い (資産計 上 な ど) において本質的に異 なる ところはない との考 えを述べ ている。
すで に述べ た ように,本稿 で意図 している ヒューマ ン ・リソース会計 の課 題 は,現行会計 か ら欠落 した人的資源 に関す る資産計上 を中心 とした会計 を 物的資源や財務 的資源の会計 の レベルにまで引 き上げる とともに, さらに人 的資源 に特有 の諸性質 を会計 システムの中に正 しく組み込 んで定量的情報体 系 (非貨幣的情報 も含 む) を構築 してい くことにある。後者の問題 について は,必ず しも伝統 的会計理論 の概念や処理 システムの枠 内ですべ て を解決 し ていける とは考 えていないが, しか し,前者 の問題の解決 に当 っては,当然 適用 される会計諸概念 は人的資源 もその他 の資源 も同一でなければな らない わけであ り, また,会計理論 の首尾一貫性 を確保す る上か ら,基本的 には両 者 を統合 して理解す ることがで きる会計理論 を追求 してい くべ きである と考
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える。 この ような目的観並 びにつ ぎの ような理 由を主 たる根拠 とすれば,人 的資源の本質 に関す る効益力創 出主体説の主張 には同調で きない といわなけ ればな らない。
まず第 1に,経営学での厳密 な理解 に従 えば,企業 における従業員等 は商 品 としての労働力 (人間の生 きた実体 の うちにのみ存す る) を企業 に売 って いるわけであ り,従 って,従業員等 の価値 とは,本質的 にはこの ような労働 力の企業の生産活動 のため に発揮 し得 る価値総体 とい うこ とになる。 もちろ ん,企業 とこれ ら従業員等 との関係 は完全 な所有 関係 にあ るわけで はな く, 一定の契約 に基づいて労働力が他 の生産要素 (経済資源) と協働 して,企業 の生産活動実現 のため に一時的 に消費 される とい う関係 として理解 されるわ けである。 ところが,企業 は契約 によって特定の経 済的関係 が成立 した労働 力 に対 して,一方で当面 の生産のため に消費す る とともに,他方で将来の生 産を確保す るため に開発 (経済的価値犠牲 を伴 って労働力 を獲得す ることも 含む) しなければな らない。企業 内の人的資源価値 を認識 して,会計上資産 として測定 ・表示 される ものは,消費 された労働 力部分 (労働力 の発現形態 としての労働 であって,会計上賃金や給与 として認識 され る)ではな く,棉 来において消費 されるべ き労働力それ 自体 である。
第2に,効益力創 出主体説では,労働用役 の創 出源泉であ る労働力が,本 源的には他 の物 的資源や財務的資源 を生産 したのであ るか ら,それ らとは異 質の ものである と主張す るわけであ る。 しか しなが ら,確 か にこの労働力 は 物的資源や財務的資源 を統御 して合 目的的 に企業の生産活動 を実現 してい く 重要な職能 を果 たす とはいえ,単独 で企業 目的 を達成す る能力 を持 たない こ とは自明であ る。従 って,企業 に とっては物 的 ・財務 的資源 と人的資源 が 各々の職能 を果 たす ことによって 自己の生産活動 が展 開 され るわけであ る。
企業 目的に対す る貢献 能力 とい う意味 で は同一範晴 で認識 す る こ とがで き, また,同質的基盤の上で測定す ることがで きる。
この場合,企業 との一定 の契約 関係 にある人的資源 は, もはや当該企業の
ヒューマ ン ・リソース会計 にお ける個 人価値説 と人的組織価値 説 47
生産 目的の達成が動機づ け られてお り, これ によって企業の 目的活動 に従 わ ざるを得 ない情況 におかれ,所有 に準 じた帰属 関係 が生 じるのである。そ う なれば, 自己の もつ労働力 は経済主体一般 に対す る生産能力一般か ら,当該 特定企業 に対す る潜在的貢献能力 に質的転換がはか られている もの と理解 し なければな らない。 この特定企業 とそれに帰属 関係 を有す る人的資源 との関 係 か ら考察すれば,企業内の人的資源の本質 を,効益力創 出主体 としての生 産能力一般 で はな く,企業 目的 に よって統合 された効益力創 出客体 として, 他 の物 的資源 や財務的資源 と同質的 に認識す るこ とが合理性 を もっ こ ととな
る。
4
個 人価値説前節で, ヒューマ ン ・リソース会計 における人的資源の概念 を,主 と して 人的資源の企業 に対す る帰属 関係 の認識の観点か ら,物 的資源や財貨的資源 と同質的 な効益力 として認識す ることがで きるこ とを考察 した。 この考 え方 を前提 として,つ ぎに人的資源の概念 を具体 的 に検討す ることとす る。
ヒューマ ン ・リソース会計 その もの に対 す る研 究が それほ ど多 くないた め,人的資源 の概念 についての論議 もそれほ ど多 くない。 これ まで明 らか に されている見解 は,基本 的には次の3つである。第 1は,個 人の有す る能力 や 技 術 を 人 的 資 源 の 価 値 とみ な す 個 人 的 価 値 説 で , フ ラ ム ホ ル ツ (Flamholtz,EricG.),へ キ ミア ン (Hekimian,JamesS.)お よびジ ョー ンズ (Jones,CurtisH.), レブ (Lev,Baruch)お よびシュパ ルツ (Shubartz,Aba) な どによって主唱 されている。第2は,個 人 を構成員 とす る人的組織 の有す る生 産 能 力 の価 値 を人 的資 源価 値 とみ なす 人 的組織 価 値 説 で , リカー ト (Likert,Rensis),ハ ーマ ンソ ン (Hermanson,RogerH.), ブ ラメ ッ ト (Brummet,LeeR.),パ イル (Pyle,William C.) な どによって主唱 されてい る。 また,第3は,第2の人的組織 の有す る生産能力の価値 と顧客信用 の佃
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値の複合値 を もって人的資源の価値 とみなす考 え方である。 この第3の概念 は,主 として リカー トによって主張 されている ところであるが,彼 は顧 客信 用の価値 を決定す る要因 として,① 監理者行動 ,②従業員の動機づ け と行動 , お よび③ 製品やサー ビスの価格 と品質の3つ をあげてお り, と くに③ の要因 は人的資源価値 を問題 とす る限 りにおいては概念的 には除外 されなければな
12)
らない性格の ものである とす る。それゆえ, この第3の考 え方 は, この うち に含めて概念化 されている顧客信用価値 を切 り離 して,第2の人的組織価値 説 に統合 して理解す ることがで きるであろ う。 ただ,第1と第2の見解の関 係 については,若杉教授 が述べ てお られるように,相互 に排他 的 な関係 では な く
,
「第一次 的 な認識 ・測定 の対象 を個 人価値 とす るか,それ とも人的組13)
織価値 とす るかの ちがい」 であって,必要 な ら測定 された個 人価値 を統合 し て人的組織価値 を計上 で きる し, また逆 に,人的組織価値 を構成員個 々人に 分配 して個 人価値 を計上す ることもで きるわけである。 この ような基本認識 を踏 まえて,各 々の見解 の内容 を吟味す る とともに,両説 の うち, ヒューマ ン ・リソース会計理論 の展 開に当 って よ り適切 と思 われる人的資源概念 とそ の論拠 を明 らか に したい。そ こで, まず個人価値説 について考察 しよう。
ヘキ ミア ンお よびジ ョー ンズは,個 々の経営管理者 の有す る経営管理能力 や従業員の業務執行 能力 は これ を会計上資産 とみ な して処理すべ きであ り, そうす ることに よって人的資源 に関す る合理的 な計画設定や人材配置が行 な
14)
えることになる と説 いている。彼 らは,具体 的 には,企業内 に幾つかの人的 資源獲得 のための投資意思決定部 門 (investcenter)を設置 して,企業内従 業員市場 における投資部 門相互のセ リによ り,他部 門従業員のスカウ トを行 なう方法 を基礎 として ヒューマ ン ・リソース会計 の展 開 を試 みてい る。そ こ ではセ リによってつ け られた最終値 を当該従業員の測定値 として用 いること になる。
次に,個 人価値説 に立つ有力 な論者 の一人であ るフラムホル ツに よれば, ヒューマ ン ・リソース会計研 究の基礎 的単位 (BasicUnit)は,企業 内の個
ヒューマ ン ・リソース会計 における個 人価値説 と人的組織価値説 49
人にお くべ きである とされる。その理 由 として, フラムホルツは次の 2つ を 示 している。すなわち,第 1に,企業の経営意思決定 (従業員の採用,訓練, 配置,作業計画,昇進,報酬等 に関す る決定)の殆 ん どが個人に焦点 をあて てお り,その意思決定の効率 を高める上で個人価値の測定値が有用であるこ と,お よび第2に,人的組織価値総体 をその構成要素である個人に分割 して, 個 人価値 を求 め る こ とは不 可 能 であ るの に対 して,個 人価値 の測定結果
(measures)は原則 として,部 門や事業部 さらには企業全体の ような一定の 人間集団 (人的組織)の価値 を測定す る際 に総計 され うること,の2点であ る。彼 は, この ような考 えに基づ き,個人価値 こそ最 も妥当な人的資源の基 本概念である として独 自の ヒューマ ン ・リソース会計モデルの構築 をはかっ ている。
以上,個人価値説 に属す る2つの見解 を述べ たが,要すれば,個人価値説 とは,企業 内の構成員個 人 を もって人的資源 の内容 とみ な し,従 って,刺 定 ・伝達の対象 を個人におこうとする考 え方 をい うのである。 もちろん,こ の主張の中にも,個人価値の測定結果 を総計す ることによって,必要に応 じ て人的組織価値 を算定表示 しうることが合意 されていることは前述の とお り である。個人価値説の特徴 は,先の フラムホルツの第 1の理 由に端的に示 さ れているように,人的資源 に関す る企業内の経営意思決定の中心的対象が人 的組織の構成員個 々人にあるところか ら,それに関す る合理的な意思決定が 行 えるためには個 々人についての定量的情報が作成 され うる会計 システムが 構築 されなければな らない。そ して, ヒューマ ン ・リソース会計の測定対象 は個人価値でなければな らない とい う点 に存す ると理解 される。 しか しなが ら, この ような個人価値説の論拠 には幾つかの点で問題がある といわなけれ ばならない。以下では, これ らの点 について考察 してみることにす る。
まず最初 に, ヒューマ ン ・リソース会計情報の利用 目的は, これ を企業内 部の経営管理 目的にとどめず,外部の利害関係者 による利用 にまで拡大する ことが基本的に要請 されている。そのためには企業全体, さらに必要があれ
50 国際経営論集 No.21 2001
ばプロフィッ ト・セ ンター別等の人的組織価値の測定表示が必要である。個 人価値説 によれば,個人価値の測定値 を集計することによって人的組織価値 を表示す ることになるが,個人の価値の総計が単純 には組織全体の価値 とは ならないのであって,個人価値説ではこの点の理解が欠落 している。
次 に,個人価値説 は経営学等 における企業組織 の本質に関する研究成果 に 注 目してお らず,従 って また,人的資源 に関す る真の経営管理 目的 を理解 し ていない といわ ざるを得 ない。そのために, ヒューマ ン ・リソース会計の機 能を,単 に人的資源たる個 々人の募集,採用,訓練,配置,昇進等の決定 に 関する情報提供 に狭 く解す る結果 となっている。経営学 における近代組織論 の創始者 であ るバ ーナー ド(Barnard,ChesterI.) は,組織 を定義 して,
「組織 とは,二人 またはそれ以上の人間の意識的 に調整 された行動 または諸 15)
力のシ女手ムである」 (頭点筆者) と述べ ている。バ ーナー ドは組織 をこの ように理解 した上で,組織 の生成 と存続のための基本 的要素の一つ に
,
「共16)
通の目的 (acommonpurpose)」 をあげている。そ して,各人が組織の共通 の目的を理解す るところか ら協同への意思 (動機づ け)が生起 し,高 まるの であ り,そこに経営者の重要 な職能が存する と主張 しているのである。 この ようなバーナー ドの理論 を援用すれば,人的資源の管理 についての究極の 目 的は,組織 目的活動 に対す る協 同の意欲 を高めることにあ り,そのためには 会計的測定 に基づ く人的組織価値情報の利用 による人的組織 (企業全体お よ び部門別)に対す る経営意思決定,お よび組織の相対的価値情報の当該組織 構成員への提供が最 も重要 となる。 この ような意味 において,人的資源の測 定対象を個人価値 にお く個人価値説 には問題があるといえるのである。
最後に, これは上の2つ とも密接 に関連す るが,個人は企業内の特定の人 的組織 に配置 され,そ こで特定の共通 目的 とそれを遂行するのに必要 な物的 手段が与 えられては じめて,企業組織 に対す る生産能力の発揮 (貢献)が可 能となるのである。従 って,当該組織内の客観 的な環境条件が当該個人の能 力発揮 (個人価値) にかな りの程度影響 を及ぼす ことになる。た とえば,管
ヒューマ ン ・リソ‑ス会計 における個 人価値説 と人的組織価値説 51
理者 の リーダー シ ップが秀 れ,組織 内の コ ミュニケー シ ョンが円滑 に機能 し ている ような組織 の生産能力 (人的組織価値) は,単 に構成員個 々人の価値 の総和 に とどま らず,それ をはるか に上 回った価値 を もつであ ろ う。 また, 逆 の場合 には総和が当該組織 の価値 を正確 に表す とはいい難 いであろう。 こ の ように考 えるな らば, フラムホルツのい う個 人価値 の第2の特徴点 は,逆 に人的組織価値 の個人‑ の分割 は合 目的的 に可能 となるの に対 して,個 人価 値 の総計 を もって人的組織価値 とみ なす ことがで きるのは例外 的事項 に属す る といわなければな らないのである。
5
人的組織価値説人的組織価値 説 は,企業 における人的資源 の価値測定 の第一次 的対象 を, 企業が全体組織 としての実質 を有す る ところか ら,構成員 たる個人の価値 に お くので はな く,人的組織 の価値 に求める考 え方である。かか る人的組織価 値説の主張 の基本 は,個 人の有す る能力 (knowledge)や技術 (skill)が企 業 目的のため に発揮 されるのは,当該個 人が企業内の特定 の組織 に配置 され る とい う事態 に至 ってか らであ り,従 って,個人の能力や技術 それ 自体が独 立 に価値 を もつ もの として認識 ・測定 されることは妥 当で ない とみ る ところ
にある。 この考 え方 を代表す る論者 は リカー トである。
リカー トの認識す る人的資源概念 には,人的組織 の有す る生産能力の価値 と顧客信用 の価値 の2つが含 まれているが, ここでは後者の顧 客信用価値 の 側面 は切 り離 して考 えることとす る。 リカー トは,企業 内の人的資源の価値 の大 きさは個 人の属す る特定組織 の状況 (特性)に大 きく左右 される として, 人的組織価値 の測定 に当 ってはまず この組織特性が調査 ・分析 されなければ な らない と主張す る。そ して,組織 の特性 を規定す る要因 (要因変数) とし
17)
て
,
「リー ダー シ ップの質」 ほか11個 の変数 をあげてい る。 もちろん, この 場合の測定の対象 は,人的組織‑ の投資額 (原価) も含 まれるが, さらに特52 国際経営論集 No.21 2001
定時点 における人的組織価値 (現在価値) に重点がある。
この ように, リカー トの主張 に代表 される人的組織価値説の特色 は,組織 との不可分 な関係 において個人の価値 を認識 し,かつ, これ らの個人価値が 企業の全体組織あるいは単位組織の組織活動の中で統合 されて生み出 される 人的組織の価値 を第一義的にとらえる点 にある といえよう。 これはまた, ヒ ュ‑マ ン ・リソース会計の本来の 目的が,企業組織の構成員たる個人 を して 所属する組織への帰属意識 を高め させ,結果 として経営効率の向上 を目指す とい うところにあることに照 して合 目的的な概念であるとい うことがで きる であろう。
他方,人的組織価値説 にはこの ようなメリッ トの存す る反面, フラムホル ツなど個 人価値説 に立つ論者が一様 に指摘す るように, とくに内部管理 目的 のために必要 とされる総体 としての人的組織価値の個 人への分割が極 めて困 難であるとい う問題がある。人的組織価値 を個人に配分す る合理的な基準が 容易にみつか らない とい うのである。 しか しなが ら, ヒューマ ン ・リソース 会計情報の作成 日的か らすれば,企業の全体組織 あるいは部 門組織の人的要 素の もつ組織価値が,他 の物的資源や財務的資源 も含めた企業全体の価値の 中で, どの ようなウエ イ トを占めているかについての定量的情報 を企業内外 の関係者 に伝達することが最 も重要であるため, ここでデメリッ トとして問 題 とされる個人情報 は第二次情報要求 に属す るといわなければならない。 し かも,第一次的に測定 された人的組織価値 を構成員個 々人 に配分す る基準の 開発は,個人価値の総計 によって欠落する協 同の価値 (特定の組織 に所属す る個々人が,相互 に相手の決定や行動 を意識 した上で行 なう諸活動 によって もたらされる企業への貢献)の測定 よ りは,はるかに容易であることが認識 されるのである。
さて, ヒューマ ン ・リソース会計の研究の焦点が,人的資源の歴史的原価 および現在価値の資産計上の問題 にあることは前述 した とお りであるが,人 的資源の概念 を検討す るに当って も,一般 にそれが現行会計上の資産要件 を
ヒューマ ン ・リソース会計 における個 人価値説 と人的組織価値説 53
18)
充た して得 るか どうかが一つの重要 な判断基準 とされている。一般 に会計上 の資産要件 としては所有概念‑の適合性 と貨幣的計測可能性があげ られてい る。 しか し, この点 については,必ず しも絶対的要件ではない。す なわち, 今 日の企業会計では,一方で繰延資産の計上 によって所有性要件が,他方で 引当金の計上 によって客観的な貨幣的計測可能性要件が,企業会計の 目的で ある期 間損益計算の適正化の前 に,それぞれ相対化 されているのである。従 って,人的資源の概念 に関す る諸見解 を比較検討す るに際 しては, この よう な資産計上‑の適否 をその論拠の一つにす ることはそれほ ど重要な意味 をも たない といえる。 む しろ,そ こでは, ヒューマ ン ・リソース会計の実施 目的 に従 って, よ り合 目的的な人的資源の概念規定 を行 なうことが必要であると いえる。
先 に,個人 と組織 との関係 を正 しく理解す る側面か ら,個人価値説の問題 点 を幾つか示 したが,それは同時 に,人的組織価値説の優位点 を説明す る根 拠 ともなるのである。企業外部の利害関係者 にとっては,企業の過去の業績 を知 ることに重大 な関心があることはい うまで もないが,それ と同時 に,企 業内の人的資源の貢献度, さらには人的資源たる従業員の企業 に対す る貢献 意欲の状態 に対 して も,それ らが将来の企業の業績 に決定的な影響 を及ぼす ものだけに重大 な関心 をは らわざるを得 ない といえよう。従 って,かかる人 的資源 に関す る定量的情報が ヒューマ ン ・リソース会計情報 に求め られてい ると理解 される。 また,企業内部の経営管理者 にとって も,企業内の各単位 組織の企業 目的への貢献意欲が どの程度高 まっているか とい うことを観察す ることが最 も重要な管理職能 となってお り,その点か らも人的組織価値の測 定 ・伝達が最優先の有用性 をもっ こととなるのである。
個 人の貢献能力が組織の状況 によって大 きく左右 され ることについては, すで に ミシガ ン大学の社会行動研究所 (InstituteofSocialResearch;ISR) の長年 にわたる膨大 な調査結果 によって実証 されている。 リカー ドの指導の
もとに行 われた同研究所の組織特性 に関す る調査結果 よ り導 き出 された結論 54 国際経営論 集 No.21 2001
として,彼 らは 「システム 4の原理」 として知 られる独特 の経営管理 システ ムを開発 し,提唱 している。 この中で彼 らは, まず組織特性 を規定す る諸変 数 を,原 因変数 (単独 変数),媒介変数 (中間変数) お よび結果変数 (従属 変数)の3つ に大別 している。そ して, これ らの変数 間の相互 関係 は, まず 組織構造お よび経営方針,経営管理者 による決定, リー ダー シ ップの方法 ・ 機能 ・行動 な どが独立 に当該組織 の業績 を左 右す る原 因変数 と して作用 し, それが従業員の企業組織 に対す る忠誠心や動機づ けな どの媒介変数 を通 じて 組織内環境条件 を規定す る。それによって最終的 に組織 の生産性 ,収益 な ど の組織業績 としての結果変数が示 されることになる。 これ ら3変数間の単純
19) 化 された相互関係 は,図表 1の ような図式 によって説明 されている。
この ように,個人 と組織 との関係 か らみ る限 り,人的資源概念 として人的 組織価値説の立場がす ぐれていることが理解 されるが,次 に,人的資源の測 定の側面 よ り人的組織価値説の特徴 を考察す ることによって,人的組織価値 説の もつ ヒューマ ン ・リソース会計 目的への適合性 を確認 し,人的資源概念
としての妥 当性 を明 らか に したい。
ヒューマ ン ・リソース会計 の課題 は,会計手続 的 には人的資源投資額 に対 する期間費用配分の手続 と,将来 における潜在 的効益力 (効益価値)の資産 化手続の2段階 に区別 して理解 されている。従 って, この ような課題 を もつ ヒューマ ン ・リソース会計 では,人的資源の内容 を個 人価値 に求め ようが, 測定 ・伝達 され る対象 は 「原価」 と 「価値」 の両方 におかれ るこ とになる。
この うち 「原価」 は,物 的資源や財務 的資源 と同 じく,人的資源の獲得 ・開 発 ・配置 に要 した支 出額 であ り,それ を基礎 と して人的資源 の評価 額が測 定 ・表示 されることになる。人的資源が物 的資源や財務 的資源 と同 じ性 質 を もつ ものであれば,物的資源や財務的資源の上 に行 なわれている支 出原価 に 基づ く測定 ・表示 をもって合 目的的 な会計 といえるであろ う。その限 りにお いては,伝統 的会計 の拡大 によって人的資源投資額 の資産化 と費 用化 の処理 を行えばよい ことになる。実際,人的資源 については,かか る支 出原価 を評
ヒューマ ン ・リソース会計 における個 人価値説 と人的組織価値説 55
システム4
56回覇市場雛淋No.2)2CX)) システム‑または2
これ らの変数 の存在が
■ Ⅶ
■原 因 変 数
)哩
原の
係
関
拷
支
多元的重複 集団構造にお け 団的意思決定
標目︼
揺
莱Ly
高
強 い圧 力 :厳格 な作 業基準 ,人 員制 限,厳格 な予算 (いず れ も課せ られ た もの)
ヽーノ)
<図表1システ ム4の原理 >
これ らの変数 を もた ら し
』 Ⅶ
■媒 介 変 数 上 司 に対 す る好 意 的態度 高 い信 用 と信頼 高 い相互影響
す ぐれ た コミュニケーシ ョン (上 ,下 ,左 右 ) 同僚 集 団 に対 す る高 い帰属意識
各階層 におけ る同僚 の高 い業績
目標 (生 産性 ,品質,スクラップに関 して)
恐怖 に もとづ く服従
非好意 的態度 (た とえば,信 用 や信頼 が ほ とん どない)
まず い コ ミュニケー シ ョン 低 い水準 の影響 力
低 い水準 の協働 的動機 づ け 同僚 の低 い業績 目標 生 産高 の制 限
これ らの変数 を導 く
■ 壇
i結 果 変 数
●1
低 い欠勤 お よび転職
1
高 い生 産性 少 ないス クラ ップ 低 い原価
高 い収益
短期 間での高 い生産性 長期 間での低 い生 産性 お よび収益
I
高い
欠勤 お よび転職(注 ) シス テム 1または2と, システム4にお け る変数 間関係 の単純化 された図式
価基礎 に した資産化 ・費用化 の処理が これ まで行 われて きていないために, この処理の レベルにまで人的資源の会計 をまず引 き上げることが先決である とする問題意識が, ヒューマ ン ・リソース会計展 開の出発点 となっている と いって間違いないのである。そ して, この問題 は, ヒューマ ン ・リソース会 計の実施 に際 して当然 に解決 されなければな らない し, また,比較的容易 に 解決 され うる性質の ものである。
しか しなが ら,人的資源たる従業員等 は,企業 に採用 された後,研修 を受 け,配属 され, さらに現場訓練 を受ける過程で,それの有す る能力 (経播価 値)が大 きく変化 してい くとい う特質 をもっている。 これは物的資源や財務 的資源 と根本的に異 なるところである。一般的 には,長期の一定時点 までは 企業への貢献能力が高 まる傾向にあるといえるが, しか し,それ を左右す る のは,外的要因 としては所属組織の状況 (すなわち,構成員 にやる気 と生 き がいを与 え,生産意欲 を高め るような組織 であるか どうかの程度)であ り, 他方,人的資源それ 自体の内的要因 としては,組織の状況 に大 きく影響 され
た動機づけの程度 とい うことになる。かかる人的資源の特質 を正 しく認識す るならば,人的資源の測定基礎 を支出原価 に求める会計か らもた らされるヒ ューマ ン ・リソース会計情報は,人的資源 に関す る部分的情報 にす ぎないこ とがよくわかるであろ う。
ヒューマ ン ・リソース会計が独 自の問題領域 を開拓 してい く上で よ り重要 な課題は,̲この ような人的資源の特質 を反映 した人的資源の価値 の測定 ・表 示にあるといわなければな らない。けだ し,人的資源への支出額 は単 なる経 済価値の犠牲部分 を示す にとどま り,いかなる時点,いかなる意味 において ち,人的資源の価値 を表すわす ものではないか らである。 なお, この場合の 価値ば,人的資源が有する潜在的用役であって,将来一定の期 間継続 して企 業業績に対 して貢献 し得 る経済的価値 を意味す る。い ま,一方,経済資源の 獲得等のために支出 された対価 を犠牲価値 と呼 び,他方,将来 における収益 獲得能力のことを効益価値 と呼ぶ とすれば,人的資源の原価 は犠牲価値 に属
ヒューマ ン ・リソース会計 における個 人価値説 と人的組織価値説 57
20) し, また,人的資源の価値 は効益価値 に属す ると言いかえることができる。
さて,人的資源 を犠牲価値 をもって測定す ることによって人的資源の企業 に対す る効益力 を十分 に表示す ることがで き,従 って, ヒューマ ン ・リソー ス会計 の真の 目的が十分 に達成で きるとい うことであれば,人的資源の概念 として個人価値 をとろうが,人的組織価値 をとろうが,それを前提 として構 築 されるヒューマ ン ・リソース会計 システムに本質的な相違 は生 じない。 む しろ,人的資源の概念 に関す る両者の立場 について議論すること自体が不要 であるといえよう。今 日, ヒューマ ン ・リソース会計 の理論的 フレームワー クを構築するための基礎的概念の一つ として,真 っ先 に人的資源の概念の問 題が と り上 げ られているの も, また本稿でか な り詳細 に論究 しているの も, 結局 は ヒューマ ン ・リソース会計 の中心課題が それの有す る個 人価値 を測 定 ・表示す るこ とでなければな らない との基本認識 に立 ってい るか らであ る。
そ こで, この ような人的資源価値の測定の面か ら考察すれば,人的資源 を 人的組織 の もつ生産能力の経済価値 とみなす人的組織価値説が,個人価値説 に比べ てはるかに適切 な概念であるといえよう。その主 たる論拠 をまとめる と,次の とお りである。
第 1に,個人の有する能力や技術 は,当該個 人が企業内の特定の組織の活 動 目的によって統合 されては じめて企業 に対す る効益力 として発揮 されるの である。その意味で,企業業績 に対 して果 た している個人の貢献 は,所属す る組織全体 としての貢献結果 として第一次的に認識 されなければな らない と い うことである。
第2に,効益価値の測定は,個人については,組織上あるいは業務上の立 場の相違 によ り,測定可能なグループと測定不可能なグループがある。た と えば,生産や販売の現業部門に配属 されている個人は,生産実績や販売実績 が直接的 に測定で きるため,将来 における収益獲得能力 を一応見積 ることが
21)
で きる。 しか し,スタッフ部門や経営管理者個人については,その ような測 58 国際経営論集 No.21 2∝)1
定の基準が得難 い こ とか ら,将来効益 力 を測定す る こ とは殆 ん ど不可能であ る。従 って,人的資源 の有す る将来効益 力 の測定の可 能性 か らみ て,人的組 織価値 に よ り高 い合理性 が認 め られ る と考 え られ る。
第3に,会計情報 の利用 目的 に照 らせ ば,人的資源 に関す る情報 は,物 的 資源や財務 的資源 と違 って,それの発揮 す る将来効益 力 を明 らか にす るので なければ意味が ない とい うこ とになる。人的資源 に対 す る支 出額 は,人的資 源の獲得 ・開発 に どれ だけの経 済価値 の犠牲 を伴 ったか とい うこ とを説 明す る意味 においてだけ有用 な情報 であ って,人的資源個 人が組織 の構成員 とな り,組織 目的活動 に参加す る過程 で形成 され る人的資源価値 は, む しろ支 出 された経済価値 を上 回 った り,逆 にそれ を下 回 って企業 に存在す る こ とが一 般的であ る。 しか も, この ような人的資源価値 の変化 の大 きさは所属 す る組 織の情況 に決定 的 に依拠 してい るこ とが認識 され る。 この点 か らも,人的資 源の測定基礎 を効益価値 にお き,従 って,測定対 象 を人的組織価値 に求 め る ことの妥 当性 が明 らか となるのであ る。
注
1)企業経営における人的資源の重要性 についての認識が とくに高 まって きた のは,テイラー (FrederikW.Taylor)の科学的管理法における機械主義的人 間観に対 して提起 された初期の人間関係論 (契機は,1927‑1932年に行われ たメイヨー (E.Mayo)や レイリスバーガー (F.J.Roethlisbergar)らによる ウエスタン ・エ レク トリック社のホーソン工場の実験)の拾頭によるもの と 理解 されている。
2)経済学における人的資本 についての研究 (マクロレベルでの教育投資や医 療投資の効果測定) はかな り以前か ら活発 に行 なわれていたが (GaryS.
Becker,HumanCapL'tal:A TheoTetJ'calandEmp)'n'CalAnalysL'S,wL'thSpecL'al RefeTenCeStOEducat)ron,SecondEdition,NationalBureauofEconomic Research,1975),今 日のヒューマ ン ・リソース会計の展開に直接的な刺激 と
なったのは経営学における リーダーシップ論あた りである (RensisLikert,
ヒューマ ン ・リソース会計 における個人価値説 と人的組織価値説 59
TheHumanOTganJ'zatjon:ItsManagementandValue,1967,pp.146‑155.三隅 二不二訳 F組織の行動科学 ‑ ヒューマ ン ・オーガニゼー シ ョンの管理 と価値』
ダイアモ ン ド杜,1968年,185‑195頁)0
3) 人的資源 に対す る支 出額 (投資額)の うち,収益獲得効果 の発 現が将来 の 期 間 に及ぶ部分 について,物 的資源 と同様 の処理 の原則 お よび手続 に よって 資産計上 され る特殊 なケース と しては,無形 固定資産の営業権 (のれん) と 繰延資産 たる創立費が あ る。 これ らの項 目の中に人的資源 に対 す る投 資 も し くは価値部分が含 まれてお り,一定の方法 で毎期規則 的 に費用化処理 されて い る。 しか しなが ら,人的資源投 資部分 が客観的 に分離計 上 で きない とか, それ以外 の内容 も含 め た全体 と して処理す るこ とが適 当であ る と して,人的 資源投資額 を直接 的 に測定す る項 目とはなっていないのである。
4) AAA,CommitteeonHumanResourceAccounting,̀Reportofthe Commi tteeonHumanResourceAccounting',Accountl'ngRevJ'ew, Supplement,1973,p.169.なお, ここでの測定 は,貨幣的測定 と非貨幣的測定 の両方 を包含す る ものであ る。
5) Ibid.,p.169.
6)リカー ト教授 を中心 と した ミシガ ン大学 の研究 グループは ヒューマ ン ・リ ソース会計 を
,
「企業 内 にお け る有効 な測定 を促進 す るため に,人的資 源 に 関す る情報 を識別 し,測定 し,伝達す るプロセス」 であ る と定義 して, もっ ぱ ら企業 内 における経営管理 目的のための ヒューマ ン ・リソース会計情報の 利用 を意図 している (R.LBrummet,E.G.FramholtzandW.C.Pyle,Human ResouTCeAccountJng:DevelopmentandImplementatl'onI‑nhdustzy,1969, chapiii.)。しか し, この ような定義 では ヒューマ ン ・リソース会計 の 目的 を狭 い範 囲 に限定 し,研 究 開発 の当初か らそれの適用可能性 を過小 に評価す るこ ととな るので,筆者 はAAAの委員会報告 の定義 お よび 目的 を妥 当 な もの と して支持 す る。
なお, プラムホル ツは,その後別著 において, ヒューマ ン ・リソース会計 の主 たる 目的 を,企業 内の経営管理者 による人力計 画 お よび管理統制 のため の ヒューマ ン ・リソース会計情 報の測定 ・伝達 に求め る従来の見解 を表 明 し なが らも,一定の ヒューマ ン ・リソース会計情報が投資家等企業外 部 の利害 関係者 に対 して も会計 報告書 を通 じて伝 達 され るべ きであ る と述べ , ヒュー マ ン ・リソース会計情報 の報告対象 を企業外部 にまで拡大 している (EricG.
60 国際経営論集 No.21 2∝)1
Flamholtz,HumanResourceAccount)'ng,DickensonPublishingCompany, 1974,p.3)。
cf.EricG.Flamhaltz,HumanResouI・CeAccountL'ng:AdvanceslenConcepts, MethodsandAppll‑catJ'ons,ThirdEdition,KluwerAcademicPub.,1999. 7)若杉 明著 F人間資産会計』 ビジネス教育 出版社,1979年,21頁。 なお,若
杉教授 は前 の著書 (F人的資源会計論』森 山書店,1973年) において人的資 源会計 とい う語 を用 いていたが, この著書 では人間資産会計 にか えてい る。
その理 由について,同教授 は序文で次 の ように述べ てお られ る。す なわ ち,
「人的資源 とい う語 が,固 く冷たいひび きを もってお り,著者 の構想す る も の と何 かそ ぐわない感 じをもつ ところか ら,人間性 にあふれた語感 の人間資 産 とい う語 に替 えることに した」 と。
しか しなが ら,企業 における ヒューマ ン ・ファクターに対す る会計 問題 は 多 くの内容 を含 む ところか ら,筆者 はこれ をヒューマ ン ・リソース会計 とし て呼称す ることとした。
cf.LeeD.Parker,KennethR.FerrisandDavidT.Otley,Accountl'ngLotthe HumanFactoz',PrenticeHall,1989,pp.132I167.
8)いわゆる人的資源の 自生価値 お よび 自失価値 の認識の問題 である。建物等 の固定資産 について も所有 による増価 及び減価 が認識 されるが, これは貨幣 価値の変動 や当該資産の需給 関係 の変化 に基づ く個別物価 の変動 による もの であ り, ここにい う人的資源の増価 (自生価値 )お よび減価 (自失価値) と は性質が異 なる。
9) この ような考 え方 の理論 的基礎 は,経済学 において商品価値 の本 質 を抽象 的人間労働 (abatraktmenschlicheArbeit)に求め るマル クスの労働価値説 に兄い出す ことがで きる (カール .マル クス著,向坂逸郎訳 F資本論 ・第‑
巻j岩波書店,1973年,45‑61頁参照)。
10)蔦村剛雄著 F資産会計の基礎理論』 中央経済社,1976年,195頁。
ll)蔦村剛雄著 前掲書 197頁。
なお,営業権 (のれん) は,一般 に超過収益力要 因 と しての組織価値 と理 解 され,その内容 は,主 と して人的資源の価値 と顧 客信用の価値 の複合値 と 考えられている。今 日の財務会計制度の もとでは,貸借対照表 に資産 と して 計上で きるのれんは,営業譲渡や合併 による買入営業権 に限 られている。 ヒ ューマ ン ・リソース会計 の開発 ・導入が行 われれば,少 な くとも人的資源の 価値 については区分 して処理 されることにな り,それに伴 って この ようなあ
ヒューマ ン ・リソース会計 における個 人価値説 と人的組織価値説 61
い まいな会計概念の解体が行 なわれることになろ う。
12) R.Likert,op.°it.,pp.146‑155(三隅二不二訳 前掲書,185‑198頁参照)。
13)若杉明著 F人的資源会計論』森 山書店,1973年,45頁。
14) JamesS.HekimianandCurtisH.Jones,̀putpeopleonyourBalanceSheet' Harvaz'dBusl'nessRevJ'ew,Jam.lFeb.1967,p.106.
15) ChesterI.Barnerd,TheFunctllonsoftheExecutl've,1956,p.67.
16) あ との2つは
,
「協 同‑の意思 (willingnesstocO‑operate)」 と 「コ ミュニ ケーシ ョン (communication)」である (ibid,p.82.)017) R.Likert,op.°it.,p.146.(三隅二不二訳 前掲書,186頁)。
18)若杉 明著 前掲書,51‑55頁。
なお,そ こでは,会計上の資産概念一般の属性 (要件) として,①所有性,
② 将来効益性,③対価支払性 お よび④ 貨幣的評価可能性 の4つ をあげ,人的 資源 を個 人価値 とみな した場合で も, また,人的組織価値 とみ な した場合 に
も, ともにこれ ら4要件 を充た し得 ると論述 されている。
19)R.Likert,op.°it.,p.137.(三隅二不二訳 『経営の行動科学』ダンヤモ ン ド社, 1962年) を参照の こと。
20)若杉明著 前掲書,121‑129頁参照。
21)現業部門については個 人の貢献度 を測定す ることがで きる とはいえ,正 し くは,特定の生産部 門あるいは販売部 門で産出 された結果 (生産量,販売量 な ど) は各個 人が単独で産出 した ものではな く,当該部 門での全体的 な物 的 組織 人的組織の中で,各人がその一部 となって自己に与 え られた職責 を果 た す こ とによって産出 された ものであ る。従 って,厳密 にいえば, た とえば,
1個 の完成品価値 の全部ではな く,その何分の 1かが当該個 人の産 出 した橿 済価値 とい うことになる と考 えるべ きである。
62 国際経営論集 No.21 2001